海洋情報旬報 2014年4月21日~30日

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4月21日「ロシア最大手船社、砕氷補給船建造、サハリンに配備」(MarineLog.com, April 21, 2014)

フィンランドのArctech Helsinki造船所は4月21日、ロシア最大手船社、Sovcomflotから砕氷補給船の建造を受注した。総額は約1億ユーロである。新造補給船は、極東サハリン沖合にあるSakhalin Energy Investment Company Ltd. (SEIC)の石油・天然ガス掘削リグへのプラットホーム補給船として使用される。契約によれば、直ちに建造が開始され、2016年6月に引き渡される。新造船は、Arctech Helsinki造船所が2012年と2013年にSovcomflotに引き渡した、2隻の他多目的砕氷補給船、MV Vitus BeringとMV Aleksey Chirikovの改良型となる。新造船は、全長100メートル、全幅21メートル、最大摂氏零下35度までの環境下で活動が可能で、砕氷能力は1.5メートルである。更に、緊急救難設備、消火装備、石油漏洩対処装備を備え、ヘリの離発着も可能である。新造船の主任務は、陸上基地から沖合の掘削リグまでの補給任務で、年間を通じて補給品を安全に輸送できる。

記事参照:
Arctech Helsinki books support vessel order from Sovcomflot
Image: http://www.marinelog.com/index.php?option=com_k2&view=item&id=6589:arctech-helsinki-books-support-vessel-order-from-sovcomflot&Itemid=222

4月22日「ロシア、北極圏に海軍基地網整備」(RIA Novosti, April 22, 2014)

ロシアのプーチン大統領は4月22日、ロシア安全保障会議の会合で、北極圏における権益保護と国境防衛強化計画の一環として、北極圏に最新の戦闘艦艇と潜水艦を受け入れられる海軍基地網を建設する方針を明らかにした。プーチン大統領は、「我々は、軍事インフラの強化を必要としている。特に、北極圏に、新世代の戦闘艦艇と潜水艦を受け入れられる海軍基地網の建設を必要としている。我々は、北極圏における国境防衛を強化しなければならない」と強調した。プーチン大統領は既に2013年12月に、北極圏におけるプレゼンスを強化するとともに、2014年中に軍事インフラの建設を完了するよう指示していた。大統領は会合で、ロシアはこの有望な地域を積極的に開発するとともに、この地域におけるロシアの安全保障と経済権益を護るために、あらゆる手段を尽くさなければならない、と述べた。更に、大統領は、オホーツク海におけるロシアの大陸棚延伸申請が認められたように、北極海における大陸棚延伸に関するロシアの主張が認められるよう、専門家による努力に期待し、「ロシアの専門家は、北極海沿岸諸国政府との2国間、多国間協議に努め、北極海における大陸棚に関するロシアの主張を擁護しなければならない」と述べた。

記事参照:
Russia to Build Network of Modern Naval Bases in Arctic – Putin

4月22日「インドネシア、新型フリゲート建造開始」(Naval-Technology.com, April 22, 2014)

オランダのDamen Schelde Naval Shipbuilding (DSNS) は4月22日、インドネシアのスラバヤのPT PAL造船所で、海軍初のフリゲート、SIGMA 10514の起工式を行った。最初の2隻の内、1番艦は2016年12月に完成予定である。6隻の建造が計画されているが、4隻はPT PAL造船所で建造されるが、残りの2隻はオランダのフリシンゲンのDSNSで建造され、最終工程はPT PAL造船所で行われる。SIGMA 10514は、全長105メートル、全幅14メートル、排水量2,400トンで、乗組員は最大120人である。2番艦は、今後3カ月以内に起工され、2017年10月完成予定である。

記事参照:
Construction begins on Indonesia’s first SIGMA 10514 PKR naval frigate
Image: The Indonesian Navy’s SIGMA 10514 PKR frigate

4月22日「タンカー積荷抜き取り事案―マラッカ海峡」(ReCAAP Incident Alert, April 22, and The Star, April 24, 2014)

ReCAAP Incident Alertによれば、4月22日、マラッカ海峡でタンカーの積荷が抜き取られる事案があった。それによれば、4月22日早朝、シンガポール港を出港し、ミャンマーのヤンゴン港に向けて航行中のセントキッツ・ネビス籍船で、シンガポールの船社、PANTEC CHARTERING PTE LTD運航の石油精製品タンカー、MT Naniwa Maru No. 1 (4,999DWT) は、22日深夜、マレーシアのポートクラン沖合を航行中、2隻の船に接近された。該船の乗組員は、インドネシア人10人、インド人1人及びタイ人7人の計18人であった。運航船社からReCAAP ISCへの連絡によれば、5人の武装強盗がブリッジに乗り込み、乗組員を拘束した。横付けされた2隻の内、1隻はモンゴル船籍であった。強盗は、積荷の舶用ディーゼル油約2,500トンを抜き取るとともに、船長、一等航海士及び機関長の3人を彼らの持ち物やパスポートとともに拉致して、逃亡した。残りの乗組員は無事であった。

4月24日付けのマレーシア紙、The Starによれば、拉致された3人はいずれもインドネシア人で、武装強盗と共謀していた疑いがあるという。彼らの船室から持ち物、パスポートそして衣服がなくなっており、その後、身代金の要求もない。全部で8人の大型ナイフと拳銃で武装した強盗もいずれもインドネシア人で、ディーゼル油抜き取りの間、18人の乗組員を拘束していた。マレーシア海洋警察のアブドラ・ラヒム副司令は、彼ら3人は8人の強盗と共謀していた疑いが極めて強い、と語った。同副司令は、「横付けした2隻の船に抜き取られたディーゼル油は320万リットルで、時価総額約800万リンギットになる。これだけの量を抜き取るには、少なくとも8時間はかかる。この間、救難信号が全く発進されていないことも、幹部3人の共謀の疑いを一層強める要因である」と指摘した。更に、同副司令によれば、盗まれた物品には現金や携帯電話も含まれ、これらの被害総額は5万5,572リンギットにのぼるという。

記事参照:
ReCAAP Incident Alert
Cops suspect captain and chiefs in RM8mil high-sea diesel theft
Map & Photo: http://www.odin.tc/pics/naniwamaru1.jpg

4月23日「訪中のインド海軍戦闘艦、帰国へ」(The Hindu, April 26, 2014)

中国海軍創設65周年を祝って中国の青島を訪問していた、インド海軍誘導ミサイルフリゲート、INS Shivalikは4月23日、6日間にわたる訪問を終えて帰国の途についた。出航に先立って、両国海軍関係者は、今回のINS Shivalikの訪問は両国海軍の戦略的信頼関係を深める上で大いに貢献した、と述べた。INS Shivalikは4月21日に、インドネシア海軍なども参加して、7カ国によるハイジャック対処などの演習を実施した。インド海軍の士官は、この演習は米海軍との演習ほどではないが、中国海軍とのこれまでの演習では最もハイレベルであった、と語った。中国海軍当局者は、INS Shivalikがアンダマン諸島のポートブレアから青島まで4,500カイリを、随伴艦もなく、また上級司令部も座乗せず、大佐艦長のみで航行してきたことに、中国海軍ではあり得ないとして、驚いたという。

4月20日には、呉勝利中国海軍司令員が15人の提督を従えて同艦を訪問し、CIC (The Combat Information Centre) 視察を希望し、随員は党中央軍事委員会員でもある呉司令員が熱心に希望しているとして視察許可を求めたが、インド側は、艦が入港中であり、CICは施錠されており、また部外者には非公開であるとして、この前例のない申し出を認めなかった。呉司令員と随員はまもなく退艦するという出来事があった。(The Hindu, May 24, 2014)

記事参照:
India, China agree to deepen naval ties after landmark exercise

4月24日「西太平洋海軍シンポジウム、CUESに合意」(The Wall Street Journal, April 24, 2014)

(1) 中国の青島で4月22日、23日両日開催された、「西太平洋海軍シンポジウム (The Western Pacific Naval Symposium: WPNS) 」は、22日に「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) 」を全会一致で承認した。本紙、The Wall Street Journalが入手した草案によれば、CUESは、軍艦と航空機が「偶然あるいは不意」に遭遇した場合、取るべき戦術的な行動と意思疎通の方法を規定している。CUESは、法的拘束力を持つものではなく、締約国の領海内での遭遇事案には適用されない。米太平洋艦隊ハリス司令官は、会議でのスピーチで、北京が隣国と領有権を争っている南シナ海と東シナ海を含む全ての海域でWPNS参加国がCUESに拘束されることを期待し、「これはこの地域の海洋における緊張緩和のための重要な前進である」と述べた。一方、中国海軍の呉勝利司令員は、CUESを、「意思疎通を促進すするとともに、誤断や誤解を減らす上で、この地域の海軍にとって極めて重要な」画期的文書と評し、「我々は、この機会に、海空における第1線部隊に対し、善意と素晴らしいシーマンシップを示すために、意思疎通を促進するよう慫慂する必要がある」と述べた。

(2) 中国国防部は、南シナ海や東シナ海でCUESを遵守するかどうかを尋ねられて、すぐには返答しなかった。2012年以降、尖閣諸島周辺で日中両国の軍艦と航空機による遭遇事案がしばしば発生している。南シナ海では、中国海軍や海警局の艦船と航空機が、北京と領有権を争う他の当事国の艦船と航空機と遭遇している。こうした遭遇事案は、2013年12月の南シナ海における中国海軍戦闘艦による米海軍誘導ミサイル巡洋艦、USS Cowpensの進路妨害事案を含め、米中間でも発生している。アメリカと一部のアジア諸国の関係当局はこれまで、こうした遭遇事案において海軍艦艇と航空機が相互に意思疎通し、あるいは回避行動を取ることについて、合意された取決めが存在していないことに懸念を表明してきた。中国とASEANは、長年、南シナ海における行動規範 (COC) を協議してきたが、未だ運用上の詳細について合意に達していない。

(3) アメリカとその同盟国は、十年以上前からWPNSでこの問題を提起し、論議してきた。WPNSは全会一致を原則としており、2年前の会議ではCUESを正式に取り上げたが、中国の棄権によって承認されなかった。米太平洋艦隊当局者は、CUESにはアメリカとその同盟国の多くによって既に使用されている手順が反映されており、「CUESは、洋上の海軍部隊に、不測の事態を避けるために、他国の艦艇に自らの意思を伝える新たな手段を与えるものである。各国海軍は意思疎通を図るために、CUESを活用すると見られる」と述べた。更に、この当局者は、CUESを南シナ海や東シナ海の全域において適用するかどうかについて、米中両国は個別に議論をしなかったが、米海軍は今後、中国海軍艦艇との不測の遭遇事案に当たってCUESを適用することになろう、と語った。

(4) CUESの草案によれば、CUESは意思疎通手段の標準言語として英語を使用し、海軍艦艇と航空機の間で使われる無線周波数を指定している。また、無線による英語での意思疎通に熟達していない場合に備えて、無線機によって意図を伝える場合に使用できる、アルファ、ブラボー、チャリーで始まる音標文字に基づく用語を指定している。例えば、「ブラボー」は、艦艇が射撃訓練を行っていることを示す。更に、CUESは、照明弾とその他の視覚的方法で示すことができる信号も指定している。黄色か白の発煙筒または照明弾は、潜水艦が水上航走中であるか、あるいは潜望鏡深度にあることを意味する。加えて、CUESは、海軍部隊指揮官に対して、例えば艦艇の艦橋や航空機のコックピットに対する探照灯の照射、砲またはミサイルの照準による疑似攻撃、あるいは他国の艦艇に対する射撃管制用レーダーの照射といった行動を避けるよう、勧告している。

記事参照:
Pacific Navies Agree on Code of Conduct for Unplanned Encounters

【関連記事1「西太平洋海軍シンポジウム、CUESに合意―米人専門家論評」(The Diplomat, April 24, 2014)

Web誌、The DiplomatのShannon Tiezzi副編集長は、4月24日付のThe Diplomatに、“Small But Positive Signs at Western Pacific Naval Symposium”と題する論説を掲載し、「西太平洋海軍シンポジウム」で合意された、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) 」について、要旨以下のように述べている。

(1) 西太平洋の海軍関係者が2年毎に集まる会議、「西太平洋海軍シンポジウム (The Western Pacific Naval Symposium: WPNS) 」は青島で4月22日、23日両日開催され、初日の22日、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) 」を全会一致で承認した。このような意思疎通の方式は10年以上前から提案されていた。クアラルンプールで開催された2012年のWPNSでは、中国だけが、(法的拘束力を含意する)“code”という用語を嫌って、CUESに反対した。今回合意されたCUESは、海上またはその上空において他国の軍隊に不慮の遭遇した場合に意思疎通を行うための一定の手続きを定めた、法的拘束力のない任意の合意である。CUESの草案を入手したロイター通信は、CUESを、「軍艦あるいは軍用機同士が不慮の遭遇をした場合の行動を規定したハンドブック」としている。意思疎通の通信手段として、英語による定められた用語の使用とカラーフレアの発射などが含まれている。IHS MaritimeのGary Li は、CUESは西太平洋における領有権紛争に何ら影響を及ぼすものではなく、「むしろ、より必要とされている事態を拡大させないためのメカニズム」であると指摘している。中国の分析者も、その効果を緊張緩和に見出している。海軍軍事学術研究所の張軍社副所長は、CUESは「海洋における危機を効果的にコントロールし、国際海域における干渉や衝突のような事故を回避する上で役立つ」と述べている。

(2) CUESは、意思疎通の不備や誤解を減らすことには役立つが、緊張の根本的原因、即ち領有権紛争とそれを巡る紛争海域への関係各国海軍艦艇の集結に対応するものではない。要するに、CUESは、海洋における対峙を阻止するものではなく、対峙が紛争にエスカレートするのを阻止するための包括的なルールを設定しようとするものである。米太平洋艦隊の当局者は、CUESは洋上における実際の衝突の危険を局限するものではないと指摘している。中国も、CUESに対する中国の支持は領有権主張についての中国の立場におけるいかなる変更も示唆するものではないことを明らかにしている。中国の党中央軍事委員会副主席、范長龍は、「如何なる国も、中国の領土主権、国家安全保障及び開発利権に関して中国の譲歩を期待してはならない」と主張している。

(3) 全体としてWNPSおいて歴史的な進展があったわけではないし、誰もそれを期待していなかった。しかし、CUESの合意、河野海幕長と中国海軍の呉勝利司令員の短時間の対話など、小さな進展はあった。現在の領有権を巡る対立が高まっているデリケートな状況下では、少しずつ進展するしかない。

記事参照:
Small But Positive Signs at Western Pacific Naval Symposium

【関連記事2「中国、必ずしもCUESを遵守せず―米紙報道」(The Wall Street Journal, April 23, 2014)

(1) 中国の青島で開催された、「西太平洋海軍シンポジウム (The Western Pacific Naval Symposium: WPNS) 」で、4月22日に全会一致で採択された、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) 」の議論に関与した中国海軍上級幹部は、中国の艦艇が東シナ海や南シナ海の係争海域で他国の艦艇に遭遇した場合、北京は必ずCUESを遵守するということはないであろう、と語った。米海軍当局者は、参加国は中国との領有権を巡る係争海域を含む全ての海域でCUESを遵守することを期待する、と語った。しかしながら、CUESは法的拘束力がなく、従って、アメリカが国際水域と見なし、一方で中国が領海の一部と見なす海域で、中国がCUESを遵守するかどうかは不透明である。中国海軍の海上安全保障・安全政策研究室長の任筱峰 (Ren Xiaofeng) 上級大佐は、WPNSの会場で本紙に対して、CUESが何時、何処で履行されるかについては、中国とアメリカを含む他国との2国間で議論されなければならないとし、「CUESは勧告であり、法的拘束力がない」と指摘した。任上級大佐は更に、「我々が話し合ったのはルールであって、それを何時、何処で、どのように運用し、適用するかについては、今後2国間の協議に委ねられるべきである」と述べた。

(2) CUESは、任意規定であり、海軍艦艇と航空機が「偶然あるいは不意」に遭遇した時だけに適用され、しかも各国の領海では適用されない。この2年間、中国は、領有権を主張する海域において海軍活動を活発化しており、他国政府の間に、不測の衝突事故が軍事紛争に発展しかねないとの懸念を高めている。米海軍のグリナート作戦部長は4月23日、米中両国海軍艦艇が遭遇した場合、どのような行動を取るべきかについて、個別に2国間で話し合ってきた、と語った。グリナート作戦部長によれば、既に中国海軍の呉勝利司令員との間で、両国の艦艇同士が遭遇した場合、英語で相互に挨拶を交わすことで合意している。グリナート作戦部長は、「誰からきいても、彼らは期待に応え来た。そして、彼らは以前より打ち解けてきている。対話は礼儀正しく広範囲である」と語った。グリナート作戦部長によれば、2013年12月の南シナ海における米海軍誘導ミサイル巡洋艦、USS Cowpensに対する進路妨害事案でも、この海域で訓練していた中国の新しい空母の艦長が無線を通じて流暢な英語で話しかけてきて、緊張が解消された。グリナート作戦部長は、中国と他のWPNS参加国が今後1年以内にCUESを履行するようになることを期待している、と述べた。

(3) どの国が何時、CUESを履行するかという問題について、フランス海軍太平洋艦隊司令官は4月23日の会議で、「私は、我々全てが直ちにCUESを履行することを願っているが、一方で、一部の国の海軍がCUESの手順に慣れるためにより多くの時間を必要とするかもしれないことも認識している。長い目で見れば、どの国の海軍がCUESを履行しているか、していないかを認識しておくことは有益であろう」と述べ、CUESのコピーが近く太平洋に展開する全てのフランス海軍艦艇の艦橋に用意されるであろうと付言した。更に同司令官は、WPNSがオンラインのワーキンググループを設置し、それを通じてどの国が何時からCUESを履行できるかを公表し、またCUESの修正を提言することを提案した。アメリカとオーストラリアはこの提案を支持した。中国海軍の丁一平副司令員は、中国がCUESの履行に向けて努力しており、フランスの提案は次回会合で議論されるべきだ、と述べた。

記事参照:
China Won’t Necessarily Observe New Conduct Code for Navies

4月24日「オバマ政権は同盟国を守る姿勢を示せ-ヘリテージ財団研究員」(The Foundry, The Heritage Foundation, April 24, 2014)

米中央情報局 (CIA) や国防情報局 (DIA) における通算20年以上の勤務経験を有するBruce Klingner、ヘリテージ財団アジア研究センター主任研究員は、4月24日付けの同財団のWeb上において、4月24日の日米首脳会談におけるオバマ米大統領の発言などを好意的に受け止めた上で、中国の領有権主張に対抗するためにも、オバマ政権はアジアにおける軍事的なプレゼンスを維持し同盟国を守るという姿勢を明示すべきであると指摘して、要旨以下のように論じている。

(1) 日本訪問中のオバマ大統領は、日本の実効支配する尖閣諸島が、日米安保条約の適用範囲内であることを公的に確認した。中国は、同諸島の領有権を主張し、南シナ海での領有権問題でフィリピンに対して行ったように、最近では、日本に対する直接的な威嚇行為を行っているが、安倍首相との共同記者会見においてオバマ大統領は、「日本の安全保障に対する認識が揺らぎないものであり、日米安保条約第5条は尖閣諸島を含めた日本の施政下にあるあらゆる領域に適用される」ことを強調したのである。

(2) このオバマ大統領の発言は、日本の安全保障に関する彼にとって初めての公的な意思表示となったが、これは歴代大統領によって受け継がれてきた長年の方針を踏襲したものである。オバマ大統領は、この問題に関してはいわゆる「レッドライン」を引かずに対応することのみを表明し、具体的な対応方針などについては明言を避けたが、2004年に当時のアミテージ国務副長官は、「日米安保条約に従い、日本本土や日本の施政下にある領域へのあらゆる攻撃は、アメリカへの攻撃とみなす」旨を述べている。また、日中両国間で尖閣諸島の領有権が大きな外交問題として浮上していた2010年には、当時のクリントン国務長官が、「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内であることは明確であり、アメリカは日本を守る義務がある」旨を述べている。

(3) これら米政権高官による日本の安全保障に関する公式見解の表明は、近年の中国による東シナ海や南シナ海における軍事的・経済的な強迫行為、挑発的な発言、そして国際法上認められた以上の領有権主張、といった極めて高圧的な言動に起因している。また、2013年11月に中国は、尖閣諸島を含む東シナ海に対して防空識別圏 (ADIZ) の設定を宣言し、同空域の維持のために軍事力の行使をも示唆したが、これに対してアメリカは、軍事衝突の可能性を高める挑発的行為だとして強く非難した。

(4) 中国は、日本を東アジア地域の安全保障に関する脅威だと印象付けることで、自身の高圧的な振る舞いから目を逸らさせようとしている。中国の好戦的な行動は日本の防衛力強化の動きを招いたが、これは自国領土を守るという意識の表れにすぎないにも関わらず、中国は1930年代の日本帝国主義の復活だと、誤った印象を喧伝している。従ってアメリカは、安倍首相の防衛政策の見直しへの支持を継続すべきであろう。オバマ政権は、今後も継続されると考えられる中国の領有権主張に対して強硬な姿勢を保持すべきである。しかし、こうした政策を有効にするためにも、国際法を支持するとともに、同盟国を護るというアメリカの原則的なメッセージは、軍事予算の削減という危険な流れを止め、米軍の強力な前方展開プレゼンスを維持し、同盟の強化や近代化を図り、そして中国による武力行使の威嚇に対抗するといった、アメリカの確固たる行動に裏付けられていなければならない。

記事参照:
Amid Chinese Aggression, Obama Affirms U.S. Defense of Japan’s Senkaku Islands

【関連記事】「日本が米国に対して不信感を抱く4つの理由-マカオ大学准教授」(The Diplomat, April 29, 2014)

中国の外交問題やアジアの安全保障問題を専門とするマカオ大学のDingding Chen准教授は、4月29日付のWeb誌、The Diplomatに、“4 Reasons Why Japan (Still) Doubts US Security Assurances”と題する論説を掲載し、4月24日の日米共同声明で、尖閣諸島が日米安全保障条約の適用範囲内である旨、明言されたにもかかわらず、依然として日本は、アメリカが本当に日本のために安全保障上の行動をしてくれるのかについて不信感を抱いており、それには4つの理由があると指摘して、要旨以下のように論じている。

(1) 日本は、自国の安全保障にどれだけアメリカが関与してくれるかについて懐疑的な面がある。日米首脳会談で発表された日米共同声明では、米政府として初めて、「日米安全保障条約の下でのコミットメントは、尖閣諸島を含む日本の施政下にあるすべての領域に適用される」と明言した。これは今回の首脳会談の唯一の成果といえよう。

(2) アメリカが、尖閣諸島を護る日本の立場や行動を支援すると書面で明確に保証したのだから、日本は安心感を得たのではないか。しかし日本側からすると、今回のオバマ大統領の訪日でも、日本の安全保障へのアメリカのコミットメントに対する信頼は、まだ十分にはなっていないようである。一部の学者は、日本が抱く不安感は根拠もなく非合理的だというが、それは誤りである。なぜ日本はまだ不安を抱くのかについては、次の4つの理由が指摘できる。

(3) 1つ目の理由は、あらゆる国家間同盟に内在する問題であるが、同盟のもたらす信頼関係は完全ではあり得ないということである。基本的に、被同盟国 (a client state) は、同盟国 (a patron state) が無条件に支援してくれるものと考えて、無謀な行動に走る傾向がある。その結果、同盟国は、不必要な対立や戦争に巻き込まれることになりかねない。この危険な陥穽の故に、同盟国は、被同盟国の安全保障を再保証するに当たっては、常に「空手形(blank check)」を与えないよう注意している。その結果、被同盟国は、同盟国による自国の安全保障に対するコミットメントを常に疑問視することになる。従って、同盟関係を維持するために、同盟国は、行動や言葉で被同盟国に対する安全保障コミットメントを再確認する必要がある。これが、これまでアメリカが、尖閣諸島の領有権問題に関して常に中立を強調し、日本を失望させてきた理由である。

(4) 2つ目の理由は、日米両国間の国益の相違である。日本は、歴史的や経済的そして戦略的な理由から、尖閣諸島を重視しているかもしれないが、一方、大半のアメリカ人は、この地域に対するアメリカの国益から見て、尖閣諸島を岩礁の集まりとしか見ていない。また、尖閣諸島には米軍の基地も軍事的プレゼンスもなく、従ってもし中国が尖閣諸島を攻撃しても、アメリカ人に死傷者が出ることはないであろう。更にアメリカは、多くの分野で共通の利害を共有する中国との間に、平和的で安定した関係を構築することに高い価値を見出している。このような状況の下では、オバマ大統領が日米安全保障条約の同諸島への適用を確認しても、アメリカが実際に日本に対して軍事的に援助することは難しいであろう。また、日米両国もそのことを十分に理解している。同盟関係において2つの当事国の国益が大きく相違するとき、被同盟国が同盟国による安全保障コミットメントに疑念を抱いたとしても不思議ではない。

(5) 3つ目の理由は、アジアにおけるパワーシフトである。アメリカが現在でも、そして今後20年以上においても世界唯一の超大国であることについては疑う余地はないが、多くのアジア諸国は、アメリカと中国との間の将来的なパワーバランスについて懸念を抱いている。今後、十分な軍事費を確保できなくなった場合に、アメリカの「アジアへの軸足移動」政策が頓挫してしまうおそれがあるからだ。

(6) 4つ目の理由は、最近のシリア問題、クリミア問題、そして東シナ海問題といった諸問題に対するアメリカの不作為が、日本の安全保障に対するアメリカのコミットメントへの不信感を招いていることが挙げられる。すでに多くのアメリカの研究者が、シリアやクリミアとは異なり、日本はアメリカの同盟国であって状況は異なると強調しているが、彼らが見落としているのは、日本にとって重要なのはアメリカに対する信頼感だということである。日本人は、もし安全保障上の問題が生じた時に、オバマ大統領が弱い大統領であり、日本のために何も動いてくれないのではないかと心配している。このアメリカに対する信頼感の低下は、一時的な出来事ではなく、シリア問題の発生、東シナ海問題の発生(中国の東シナ海への防空識別圏の設定に対して、アメリカは言葉で抗議しただけだった)、そしてクリミア問題の発生といった一連の出来事を通じて生じている。

(7) 要するに、日本がアメリカに不信感を抱いていることは、別に不当でも誇大妄想的なことでもない。しかも、これら4つの理由の内、3つは構造的な要因であり、早急な改善は望めないことから、日本のアメリカへの不信感は今後も続くであろう。恐らく、次にアジア地域で何らかの危機が生じた際に、アメリカが強い行動を取ることができれば、アメリカに対する信頼を回復させることができるはずだ。それまでは、首脳会談でのオバマ大統領の言動に対して、日本が不信感や疑念を持ち続けたとしても、何ら不思議はない。

記事参照:
4 Reasons Why Japan (Still) Doubts US Security Assurances

4月26日「EU艦隊、ソマリアの海賊にハイジャックされたダウ船救出」(The Maritime Executive, April 28, 2014)

EU艦隊所属のスペイン海軍海上哨戒機がソマリアの海賊にハイジャックされたダウ船を視認し、その後現場海域に急行したEU艦隊旗艦、ドイツ海軍フリゲート、FGS Brandenburgの乗り込みチームが4月26日、ダウ船の乗組員を救出した。ダウ船の船長の話によれば、ダウ船は14日前にソマリアの6人の武装海賊にハイジャックされ、アデン湾に向かうよう強要された。海賊は、ダウ船を「母船」として利用する計画であったという。船長によれば、海賊は、スペイン海軍の哨戒機に視認された後、船の電子装備や乗組員の持ち物を盗んで、逃亡した。EU艦隊司令官は、「この事案は、海賊の脅威が依然、現実のものであることを物語っている。EU艦隊による抑止と迅速な対応によって、海賊の活動の自由を奪うことができた」と語った。

記事参照:
Somali Pirates Flee Captured Dhow
Photo: Brandenburg’s Boarding Team approaches the dhow which was held captive for 14 days

4月28日「米軍、フィリピン再駐留へ―米比協定調印」(INQUIRER.net, AFP, April 28, 2014)

米比両国は4月28日、オバマ米大統領の訪比に先立って、フィリピンにおける米軍のプレゼンス拡大を可能にする新たな協定に調印した。フィリピンのカズミン国防相とゴールドバーグ駐比米大使との間で調印された、期間10年の、The Enhanced Defense Cooperation Agreement (EDCA) によって、米軍は、フィリピン軍の基地内にフィリピンの管轄下で独自の施設を建設でき、航空機や艦船のローテーション展開を拡大できる。フィリピンの憲法は外国軍の駐留を禁じているため、米軍は恒久的施設を建設しない。米軍の規模や駐留期間については、両国間で今後協議される。

オバマ大統領は28日、アキノ比大統領との首脳会談後の共同会見で、「フィリピン防衛に対する我々のコミットメントは鉄のように堅い。アメリカは、このコミットメントを堅持し、同盟国を決して見放さない。新たに調印されたEDCAによって、より多くの合同訓練や演習が可能になり、フィリピン軍の強化に対するアメリカの支援に役立つであろう。米軍は、フィリピン軍の航空基地や港湾へのローテーション展開を始めることができる」と語った。

記事参照:
Philippines, US sign defense pact
Obama says Philippine pact promotes Asia security

4月28日「台湾、太平島での演習実施を公表」(The China Post, April 29, 2014)

台湾立法院の林郁方議員(国民党)は4月28日、立法院外交国防委員会で、海軍が4月10日に台湾が占拠する南沙諸島の最大の太平島で海兵隊による上陸演習を実施したことを明らかにした。林議員は、海軍から演習視察に招待された議員団の一員で、公表に当たっては国防部の許可を得たと語った。それによれば、演習には康定級と成功級フリゲート、及び戦車揚陸艦からなる7隻の戦闘艦が動員され、迫撃砲と対戦車ロケットを装備した2個海兵隊中隊からなる任務部隊が20隻の強襲揚陸艇に分乗して、敵に占拠された島を奪還する上陸演習を実施した。この演習は2000年以来、最大規模であった。国防部報道官は、演習実施を確認したが、詳細には触れなかった。現在、太平島には、130人強の海岸巡防署の隊員が駐留している。

記事参照:
Marines conduct a drill on Spratly Islands: lawmaker

4月29日「中国、西太平洋の海底鉱物資源探査へ」(China Daily, April 30, 2014)

中国は4月29日に北京で、国際海底機構 (The International Seabed Authority: ISA) との間で、新たな海底鉱物資源探査契約を締結した。ISAと中国海洋鉱物資源開発協会 (The China Ocean Mineral Resources Research and Development Association: COMRA) との間で締結された15年契約によって、中国は、西太平洋における3,000平方キロの海底で「富コバルト鉄マンガンクラスト (cobalt-rich ferromanganese crust)」の排他的探査権を取得した。契約によれば、中国は最初の10年間、この内、2,000平方キロについて権利を行使しない。ISAはこれまで26の探査申請を受理しており、この内、19の申請が承認されている。中国は今回の契約によって、3種の海底鉱物資源、「マンガン団塊 (polymetallic nodule)」、「多金属硫化物 (polymetallic sulfide)」及び「富コバルト鉄マンガンクラスト」の全ての探査権を取得した、初めての国となった。中国は深海底探査では後発国だが、2001年には北東太平洋における「マンガン団塊」の探査権を、2011年には南西インド洋における「多金属硫化物」の探査権を、そして今回、西太平洋における「富コバルト鉄マンガンクラスト」の探査権を取得した。2001年の契約は、2016年に期限切れとなるが、中国は依然、深海底鉱物資源の開発に当たって技術的困難に直面している。

記事参照:
Country gets OK to mine ocean floor

4月30日「セカンド・トーマス礁、南シナ海の新たな発火点―インド専門家論評」(The Diplomat, April 30, 2014)

インドのシンクタンク、Observer Research Foundation (ORF) の研究員で、The ORF South China Sea Monitor の副編集長、Darshana M. Baruahは、4月30日付のWeb誌、The Diplomat に、“Second Thomas Shoal: The New Battleground”と題する論説を掲載し、セカンド・トーマス礁(Second Thomas Shoal、中国名:仁愛礁、フィリピン名:アユンギン礁)を巡る紛争が南シナ海の新たな発火点となっており、その解決がこの地域にとっても、また世界にとっても極めて重要であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) 中国は3月に、2隻のフィリピン船がセカンド・トーマス礁に近づくのを阻止し、フィリピン政府が同礁に建築物を建設しようとしていた、と主張した。フィリピン海軍は1999年に、同礁の浅瀬に海軍戦闘艦、BRP Sierra Madre(以前の米海軍戦車揚陸艦)を座礁させ、同礁に対するフィリピンの領有権を主張するために、同艦に少数の海兵隊員を駐在させている。同礁は、フィリピンのEEZ内にあり、北京も領有権を主張している。BRP Sierra Madreと海兵隊員のプレゼンスは、南シナ海における自国の領土と領海を護るマニラの大戦略の一環である。2012年にスカボロー礁(Scarborough Shoal、中国名:黄岩島)の領有権問題が国際的な注目を集めたが、セカンド・トーマス礁の領有権問題は、南シナ海における新たな火種になりつつある。

(2) 中国は、領有権問題を巡って益々高圧的になってきており、セカンド・トーマス礁に物資を輸送していたフィリピン船の航行を阻止するという中国の行動は、この傾向を如実に示している。ワシントンは、阻止行動を、「地域の緊張感を高める挑発的行為」と決め付け、全ての関係当事国に現状維持を呼びかけた。南シナ海とアメリカの再均衡化戦略に対する国際的な関心の高まりとともに、フィリピンは、中国との領有権紛争について声高に主張するようになってきた。その間、南シナ海や東シナ海における中国の高圧的で侵略的な行動は、北京の近隣諸国との関係を損ねている。南シナ海における中国の高圧的姿勢は今に始まったものではないが、もし何時の日か中国がセカンド・トーマス礁を強引に占拠するようなことをすれば、アジアにとって極めて深刻な結果を招くことになろう。ワシントンはこの地域における中国の行動に反対を表明するようになってきており、セカンド・トーマス礁を占拠しようとする中国の動きに対抗するため、フィリピンへの支援や影響力を強めていく可能性が高い。中国の行為はまた、南シナ海における他の当事国の間に動揺や緊張をもたらし、関係当事国間の不信感を高め、南シナ海海域における紛争生起の危険性を高めることになろう。

(3) マニラは、中国が再び同じ行動を取れば、スカボロー礁での大失敗を繰り返してしまうのではないかと懸念している。スカボロー礁では、中国が周辺に艦船を維持している最中に、フィリピンは緊張緩和のために艦船を撤退させ、中国に実効支配されてしまった。しかし、セカンド・トーマス礁のBRP Sierra Madre には、フィリピンの海兵隊員が駐留しており、中国が同礁を占拠しようとすれば、海兵隊員を排除しなければならないことから、スカボロー礁とは大幅に状況が異なることになろう。もしマニラが海兵隊員の「最後の1人まで」戦うことを決意すれば、北京は、フィリピン海兵隊員を武力行使によって、あるいは武力による威嚇によって排除しなければならなくなろう。

(4) 更に事態を複雑にしているのは、中国が南シナ海の他の係争当事国と国際的あるいは多国間枠組みでの話し合いを拒否していることである。フィリピンは2013年1月、領有権問題で中国を対話に引き込むため、国連海洋法条約 (UNCLOS) に基づき、仲裁裁判所に仲裁を求めた。北京は裁判への参加を拒否したが、フィリピンは手続きを継続しており、最近、覚書を仲裁裁判所に提出した。しかし、中国は、そもそも南シナ海には領土問題は存在せず、自国の領有権主張は法に則ったもので正当であると主張して、国際的な話し合いには参加しないとしている。中国は強まる国力を背景に個々の紛争当事国と2国間による討議を望んでいるが、フィリピンは、強力な隣国との単独での対話を望んでおらず、この問題を国際的な場で討議することを望んでいる。仲裁裁判の判決がマニラに有利なものになっても、判決は中国に対する法的拘束力を持たない。しかしながら、有利な判決は、国際法を論拠とすることでフィリピンの立場を強めることになり、一方、中国のイメージは悪くなろう。また、有利な判決は、中国と争っている他の紛争当事国に対して、この問題を国際的な仲裁に持ち込むインセンティブを与える先例をなろう。

(5) この間、中国は、セカンド・トーマス礁の周辺海域における哨戒活動を止める気配がない。フィリピンは、最初は空中投下で、そして2度目は中国船の間隙を突いて補給物資を届けたが、何時までも北京の哨戒網を掻い潜ることは不可能である。マニラは、自国の前線拠点を維持するために、船舶による補給を続けなければならないであろう。今や、フィリピンが補給を強行する度に、両国間の紛争に発展しかねない偶発的な衝突の危険が伴う。しかしながら、問題は、両国間の紛争が両国の軍隊間や、あるいは南シナ海全域に止まらないことである。南シナ海は国際的に極めて重要な海上交通路であり、従ってここにおける紛争は数え切れない国々に影響を及ぼすことになろう。多くの国々が南シナ海における航行の自由に懸念を持つ中で、中国は素早く、同海域の無害通航に対しては影響を与えないと表明した。しかしながら、その方針が商業船舶の航行のみに限らないとしても、ここでの問題は、南シナ海という重要な海域をコントロールしているのが、この海域での如何なる軍事偵察活動も認めない、中国というただ1つの国であるということである。この海域から紛争の可能性を排除することは、グローバルな利益である。フィリピンの強い抵抗と中国の高圧的な姿勢に鑑みて、ASEANは、問題の解決を促すために、一致団結して発言しなければならない。ASEAN加盟4カ国は南シナ海で中国と領有権を争っているが、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範 (COC) 」の実現が益々重要になってきている。ASEANは、様々な領土紛争を解決する特効薬を持っているわけではないが、中国との対話を促す力を持っていることは間違いない。ASEANが、中国との対話の機会を捉えることができるか、あるいはそれに失敗して危機と隣り合わせに生きるか、その結果は世界を揺るがすことになろう。

記事参照:
Second Thomas Shoal: The New Battleground
備考:セカンド・トーマス礁(アユンギン礁)とBRP Sierra Madreの海兵隊員の状況については、The New York Times Magazine, October 27, 2013、の以下のルポ記事が興味深い;
A Game of Shark and Minnow by Jeff Himmelman

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子