海洋情報旬報 2014年3月11日~20日-3月21日~30日

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3月13日「Air-Sea Battle構想とは―米国防省担当官とのQ&A」(The National Interest, March 13, 2014)

米誌、The National Interest(電子版)が米国防省のThe Air-Sea Battle Senior Steering Groupのフォッゴ III議長 (RADM James G. Foggo,Ⅲ) に、Air-Sea Battle構想についてインタビューしている。以下はQ&Aの概要である。(なお、同少将は、海軍作戦部の計画・戦略担当副部長でもある)

Q:過去数年間、Air-Sea Battle構想(以下、ASB構想)として知られている運用上の概念について活発な論議が行われ、依然続いている。ASB構想とは何か、将来の米軍におけるASBの位置づけ、何故、ASB構想についての明快な理解が必要なのか。

A:ASB構想は、端的に言えば、接近拒否・領域拒否 (A2/AD) の脅威の出現に直面して、グローバルコモンズに対するアクセスの自由を維持する一連の構想である。それは、各軍種と統合軍のドクトリン、組織、訓練、資材、統率および装備の改革などを含むものである。運用概念とは、作戦レベルでの特定の目的を達成するために軍事力を使用する方法と注意深く作成された計画である。ASB構想の包括的な目的は、「グローバルコモンズにおける行動の自由を獲得し維持する」ことである。ASB構想は戦略ではない。ASB構想は、技術的な進歩に伴う戦闘力の発展に深く関係している。我々は、各軍種レベルで、「予め統合された」戦闘部隊―同盟国やパートナー諸国と共に闘うアメリカの戦闘指揮官にとって、陸上、洋上、航空、宇宙そしてサイバー領域全体を通じて共同運用とネットワークで接続された部隊運用を可能にする、総合的な戦闘能力が強化された部隊―の構築を求めている。ASB構想は、特別の敵や領域に焦点を当てたものではなく、我々が挑戦に直面した場合、何処でも、何時でも、そして如何なる手段でもアクセスを可能にすることで、地理上の全ての場所での対応を可能にすることである。

Q:ASB構想に関する多くの記事が、これに必要なコストに推測している。コストについては、どう考えているか。

A:ある報告書では、国防省が2023年までASB構想に5,245億ドルの予算を計画していると述べている。そのコストの半分以上の53%は、統合戦闘機 (JSF) プログラムのコストである。JSFは確かにA2/ADに対抗する能力を増強させるが、これはASB構想よりずっと先行しているプログラムで、ASB構想のコストが突出しているという認識は間違いだ。統合運用に関連した国防支出の特定項目はない。そのような支出項目の新設は無用の混乱を起こすであろう。十分に定義された予算の支出項目には、事業化の範囲を決める特定の想定シナリオが必ず存在している。ASB構想は、潜在的な状況への対応を可能とする数多くの無数の概念の集合である。ASB担当部局に課された任務は、A2/AD環境の中で作戦をする場合に生起する問題に対応する運用構想の作成である。これは、新たな技術を必要とするだけでなく、既存の軍事能力とプログラムを一層有効に活用する解決策も含んでいる。幾つかの新たな能力や技術を必要とするかもしれないが、ASB構想は、それらの基礎を形成する現在の軍事プログラムに依存している。既存の装備は異なる方法で使用されてもよいが、一方で他のシステムは修正されるか改良される必要があるかもしれない。努力の大部分は、訓練やドクトリンの開発などに焦点が当てられるであろう。ASB構想は、A2/AD環境が存続する限り、アメリカと同盟国やパートナー諸国の国益を護るための作戦上のアクセスと決定的な力の投射に必要な能力を、米軍に確実に付与することになろう。

Q:A2/ADは様々な兵器で構成されており、「ゲームチェンジャー」になると期待されている。特に、「空母キラー」といわれる、中国のDF-21D対艦弾道ミサイルやその他の多様なミサイルが含まれており、公海上でアメリカの戦力投射能力に挑戦しようとしている。特にアジア太平洋及びインド太平洋正面におけるこうした挑戦に対しても、どのように対応していくのか。

A:ASB構想は成熟するにつれ、我々は、総合化され効果的な連合部隊を構築する努力を一層加速するために、同盟国やパートナー諸国と適用可能な各種の要素を共有しつつある。戦闘環境での重要な要素はインターオペラビリティであり、我々は、同盟国やパートナー諸国とのインターオペラビリティを重視していく。我々は、A2/ADの脅威を抑止するか、撃退するための実戦能力において、同盟国の支援を期待している。我々は、A2/ADの脅威に直面して、グローバルコモンズに対する自由なアクセスを確保するために、同盟国と我々の努力を総合化する機会を探し求めていくであろう。

Q:最新の空母搭載型監視攻撃無人機 (Unmanned Carrier Launched Airborne Surveillance and Strike: UCLASS) プロジェクトについて、空母に搭載されたUCLASSは驚くべき能力を持つが、運用段階においてUCLASSはどのような役割と任務が可能か。精密誘導兵器やその他の兵器を搭載したステルス能力を持つUCLASSは、A2/ADバトルネットワークに侵入することができる有力なA2/ADキラーになり得るか。

A:UCLASSがASB構想にもたらす最も重要な機能は、A2/AD環境に耐えることができ、有機的で残存性の高いISRプラットホームとして空母攻撃部隊及び航空部隊を補完する機能であると考えている。

記事参照:
Air-Sea Battle Defined

3月16日「ロシア、北極地域で上陸演習実施」(The Voice of Russia, March 16, 2014)

ロシア軍はこのほど、北極地域で大規模な上陸演習を実施した。この演習では、350人の空挺部隊と数両の戦闘車両が、北極地域のノボシビルスク諸島のコチェリヌイ島に空挺降下を行った。空挺部隊は、北極海沿岸のチクシから空輸され、寒風が吹く、零下30度の中を降下した。降下後、部隊はシナリオに従って、機動演習を実施し、飛行場の敵部隊を攻撃した。軍高官がこの演習を視察した。コチェリヌイ島の飛行場と軍事基地は20年以上にわたって放棄されていたが、ロシア軍は2013年秋に再開工事を始めた。この島の軍事基地は、北方航路に近接しているために戦略的に重要で、軍は北極地域全域を監視するために、レーダー部隊を配備する計画である。

記事参照:
Russian maneuvers in the Arctic are ‘symbolic’, experts say

3月17日「大宇造船海洋、ロシアから砕氷型LNGタンカー受注」(gCaptain, March 17, 2014)

韓国の大宇造船海洋 (DSME) は3月17日、ロシアの船社、Sovcomflotから16隻の砕氷型LNGタンカー(積載能力17万立米)の建造を受注した。完成すれば、ヤマル半島からのLNGの輸送に使用される。1番船の引き渡しは、2016年半ばに予定されている。

記事参照:
Sovcomflot Orders First of Many New Ice-Breaking LNG Carriers
Image: 170,000 m3 icebreaking LNG carrier

3月18日「ASEANは南シナ海問題で中国に対抗できるか―セイヤー論評」(Yale Global, March 18, 2014)

オーストラリアのThe University of New South Walesのセイヤー (Carlyle A. Thayer) 名誉教授は、3月18日付けのWeb誌、Yale Globalに、“Can ASEAN Respond to the Chinese Challenge?” と題する論説を掲載し、ASEANが南シナ海問題で中国に対抗できるかということについて、要旨以下のように述べている。

(1) 南シナ海における「行動宣言 (DOC)」の履行に関する作業部会の会合が2013年9月に中国で開催され、「行動規範 (COC)」に関する予備的協議が初めて行われた。DOCの履行とCOCに関する協議が平行に進行しているが、中国は、DOCの履行を優先するよう主張している。一方、ASEANは、COCに関する協議を作業部会から高官レベルに引き上げて、DOCの履行とCOCに関する協議を別々に進めることを望んでおり、COCに関する早期の成果を求めている。ASEANは、COCに法的拘束力を持たせようとしている。

(2) ASEANは、中国とのCOCに関する協議において、少なくとも2つの問題に直面している。1つは、DOCが、紛争を拗らせたり、エスカレートさせたり、そして域内の平和と安定に影響を及ぼしたりするような行動を自制するよう、関係当事国に求めているにも関わらず、例えば、ADIZの設定、海南省政府の外国漁船に対する操業規制など、中国は、一方的な行動によって自国に有利なように現状を変更し続けていることである。2つ目の問題は、法的拘束力を持つCOCに関する合意を実現するに当たって、ASEANは、中国との交渉で、結束を維持しなければならないことである。南シナ海問題を巡るASEANの上辺だけの外交的結束の下で、COCをどのように実現するかについては、ASEAN各国は分裂したままである。

(3) 南シナ海に領有権を主張するASEANの4カ国は、それぞれ見解を異にしている。例えば、フィリピンは、他の加盟国に事前協議することなく、単独で法的権利を確定するよう仲裁裁判所に提訴した。中国は、他のASEAN加盟国にフィリピンに同調しないよう積極的に働きかけている。ベトナムとマレーシアは、静観の態度をとっているように見えるが、フィリピンに同調するかどうかについて賛否が分かれている。ベトナムは、西沙諸島に主権を主張しており、これをCOC適用の地理的範囲に含めることを望んでいる。ASEANの他のメンバーは、西沙諸島については北京とハノイの2国間問題と見ている。フィリピンとは対照的に、ベトナムは、南シナ海問題が中国との全般的な関係に影響を及ぼさないよう努力してきた。マレーシアとブルネイは、南シナ海問題については、慎重に低姿勢を続けている。フィリピンは、南シナ海問題に最も深い関係を持つ国の間でコンセンサスを構築するため、2月18日に最初のASEAN領有主張国作業部会を主催した。ブルネイは参加せず、ASEANコンセンサス構築に打撃となった。1つの前向きな側面は、マレーシアが以前より積極的な役割を演じ始めたということである。

(4) ASEANと中国の協議再開に対して、アメリカは、中国に対して、国際法規に基づいて海洋における領有権を主張するよう強く求めることで、より積極的な役割を演じた。中国に対して、地域安全保障を漸進的に浸食する一方的な行動を中止するよう要求することについては、ASEANの中心的なメンバーは、以前より結束しているようである。一方、中国は既に早期の解決を期待してはならないと警告している。全人代において王毅外相は南シナ海の対立に関して「中国は対等の立場に立った協議と交渉と歴史的事実と国際法を重視した平和的手段による適切な取り扱いを望んでいる。この中国の立場は変わることはない」と発言した。これに加えて「中国は小さな国々を決して恫喝することはないが、その一方で小さな国々から出される理不尽な要求を受け入れることもない」と発言した。

記事参照:
Can ASEAN Respond to the Chinese Challenge?

320日「北極海航行に伴うリスクと補償、カナダ紙報道」(The Globe and Mail, March 20, 2014)

カナダ紙、The Globe and Mailは3月20日付けで、「北極海とカナダ北部の沿岸を通過する大型船舶を対象とする保険業は成長が期待される事業であると同時に、大きな不確実性を伴う事業でもある」として、北極海航行に伴うリスクと補償について、要旨以下のように報じている。

(1) 地球温暖化により北極海の航路が開放されつつあるが、北極海に存在するカナダの領海の多くは未知の領域であり、事故が起きた場合は救難作業に困難が伴う。北極海沿岸諸国はまた、燃料や貨物の流出による海洋汚染を懸念している。そして、なによりも保険会社は、保険の引受を決定する際の基礎データとなる請求データに大きな制約を抱えている。このような問題にもかかわらず、世界のメジャーの保険会社は、海氷の融解につれ、カナダの北西航路を通ってヨーロッパや北アメリカからアジアへ向かう輸送ルートが現実的になる潜在的な可能性に注目している。加えて、北極海の沖合における石油、天然ガスの探査および採掘活動の増加が期待されている。2013年9月に、デンマークの船社所有のばら積み船、MV Nordic Orion がバンクーバーからフィンランドまで石炭を運び、北西航路を横断した初の商用ばら積み船となった。パナマ運河を利用する航海よりはるかに短距離である北西航路は、コスト削減と環境被害を最小限に抑えることができ、より燃料効率の良いルートを求める海運業界としては魅力的に見える。

(2) 北西航路の開放は大きなチャンスであるが、同時に責任ある補償体制を整うことが大きな課題であると、世界の主要海運保険会社であるRSA Insurance Groupのトンプソン 副会長は指摘している。変化する海氷の状態は、北極海の航行を危険にしている。船舶事故による死傷者数の平均は、2002年から2007年の期間には年間7人だったが、2009年から2013年の期間には年間45人まで上昇した。カナダの場合、インフラ整備が不足しているため、他の国よりも捜索救難活動が困難であると、保険業界の専門家は指摘する。しかし、カナダ政府は、外洋型哨戒艦を増やすなど、主権強化のための政策を遂行しており、今後の北極海地域の発展につれてこうした状況は変化すると見られる。

(3) 海運会社の船団は、毎年、船体や舶用機器などに保険をかけると同時に、汚染などのリスクに対する賠償責任の保険にも加入している。グローバルな海運会社の多くにとって、北極海は、このような保険政策が適用される標準的な航行海域から除外されている。海運会社は保険会社に対して、北極海に適用する特別な保険契約を求める。その場合、保険会社は、保険契約に必要なリスク評価を行う。リスク評価は1週間程度の最短で行うこともあるが、多く場合は数カ月かかることもあり得る。最も重要な検討課題は、船体が凍った海を航行できる準備ができているか、そして乗務員が北極海で発生し得る緊急事態に対応する準備ができているかである。海氷状況の変化が激しいカナダ北部海域においては、救難作業を行う時間的余裕があまりない。北極海の航行には、環境への影響など、他のリスクも存在する。 RSA Insurance Groupは、世界自然保護基金( WWF )と協力して、海氷や航路の景観などのイラストマップを作成した。MV Nordic Orionの北西航路の航行では、保険契約の際にこれらの情報を利用した。RSAとWWFはまた、海氷が今後の北西航路の輸送に与える影響を研究するために提携している。保険会社は、今後の見通しについてはコメントを控えているが、前出のトンプソン副会長は、北西航路を利用する商業運航は今後20年間で徐々に成長すると見込んでいる。保険会社のAllianzは、新規顧客を積極的に確保するよりも、北西航路の利用を拡大しつつある既存の顧客に対応する方針である。彼らは、増加するニーズを把握し、世界貿易のパターンに従いながら、リスクに如何に対応できるかを模索している。

記事参照:
Arctic shipping a balance of risk and reward

3月21日「南シナ海の緊張激化、中国の『小刻みな』島嶼浸食戦略―インド人専門家論評」(RSIS Commentaries, March 21, 2014)

インドのThe Observer Research Foundation (ORF) のDarshana M. Baruah研究員は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のKoh Swee Lean Collin 客員研究員は、3月21日付けRSIS Commentariesに、“South China Sea: Beijing’s ‘Salami Slicing’ Strategy” と題する論説を寄稿し、南シナ海では領有権紛争当事国間での緊張が高まっており、その主たる要因は中国の「小刻みな (‘Salami Slicing’)」島嶼占拠戦略にあるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 南シナ海における最近のSecond Thomas Shoal(中国名:仁愛礁、フィリピン名:アユンギン礁)での出来事は、係争中の島嶼や環礁を小刻みに浸食していく、北京の「サラミ・スライス (‘Salami Slicing’)」戦略の新しい事例である。中国海警局の巡視船は3月9日、Second Thomas Shoalに着底したフィリピン海軍のBRP Sierra Madre(以前の米海軍戦車揚陸艦で、15年前から着底させて少数の海兵隊員を乗せた警備拠点として利用)に補給品を届けようとした2隻のフィリピン軍船舶を阻止した。フィピン名、アユンギン礁 (Ayungin Shoal) はマニラのEEZ内にあるが、中国は領有権を主張している。中国は、「9段線」によって南シナ海の大部分に領有権を主張している。この行動に対して、フィリピン外務省は、「アユンギン礁は、フィリピンの大陸棚の一部であり、従って、フィリピンは他国の許可なしにこの海域で主権的権利と管轄権を行使する権利を有する」と抗議した。また、ワシントンも中国の行動を非難した。中国外交部広報官は、仁愛礁(中国名)を含む南沙諸島とその周辺海域に対する中国の主権を改めて強調した。

(2) 北京の挑発的な行動は、南シナ海におけるより大きな戦略、即ち、領有権を争う小国を脅して服従をさせるのに十分だが、重大な結果を招来しかねない実際の武力の行使には及ばないという戦略の一環をなすように思われる。Robert Haddickの用語*を借りれば、「小刻みな (‘Salami Slicing’)」島嶼占拠戦略であり、この戦略は、「漸進的な小さな行動の積み重ね(そのいずれも武力紛争の原因にはならないが、時間の経過とともに大きな戦略的な現状変更をもたらす)」であり、北京は、これを追求しているようである。中国は、南シナ海の島嶼や環礁を漸進的に支配することで、南シナ海におけるプレゼンスとその領有権を強化しつつある。北京は、国連海洋法条約 (UNCLOS) を遵守せず、マニラの仲裁裁判所への提訴を拒否した。例えワシントンがこの地域の出来事に懸念を高めても、アメリカ自らがUNCLOSに未加盟であり、自国の国益に関わることではしばしば国際法規やルールに従わないと見られており、従って北京の国際法規の拒否に対して大きなことが言えない。それ故に、中国とワシントンの同盟国の1つが実際に軍事衝突を起こすまで、どの国も、北京の「小刻みな」島嶼占拠戦略を制することができない。実際、中国は、強大国のように振る舞い始めた。

(3) 南シナ海の領有権紛争の当事国の多くは中国の行動を懸念しているが、ASEAN加盟国は、北京との経済的結び付きが強く、領有権紛争については見解が分かれている。中国は、ベトナムやマレーシアなどとの関係修復を試みているが、ワシントンの同盟国である、フィリピンや日本には攻勢を強めている。北京の「小刻みな」島嶼占拠戦略が加速されるにつれ、ASEANが団結して、強大な隣国に立ち向かうことが一層重要になる。領有権紛争が近い将来、解決される見込みはないが、全ての当事国は、誤算と軍事衝突を避けるため、法的拘束力を持つ、「行動規範 (COC)」の実現を目指していかなければならない。

記事参照:
South China Sea: Beijing’s ‘Salami Slicing’ Strategy
Note*: Robert Haddick, “Salami Slicing in South China Sea,” Foreign Policy, August 3, 2012

3月24日「米海軍、北極海用の艦艇整備に苦慮」(Stars and Stripes, March 24, 2014)

3月24日付けの、Stars and Stripes は、「北極ロードマップ」の次のステップは北極海用の艦艇の調達であろうとして、要旨以下のように報じている。

(1) 縮小する国防予算と特に太平洋において高まる任務要求などの理由から、軍の新しい任務に対する意欲は旺盛とは言えない。特に数十年後に脅威がどのような形でどこに存在しているのか不確実であることもその要因である。「北極ロードマップ」を発表した、米海軍気候変動任務部隊の広報官は、「海軍は北極圏に脅威があるとしても、差し迫った脅威ではないことを承知している」とし、今後数十年の間に北極海の海氷が縮小するにつれ国際的な航路が開かれ、未開発の石油埋蔵量の探索が行われ、より多くの船舶航行が可能となるが、一方で潜在的な領有権紛争が顕在化する可能性を指摘した。

(2) 専門家は、国際航路の拡大に伴い、ロシアを含めノルウェー、カナダと同様に、米海軍が北極海での部隊運用を実施するか、軍艦を派遣し北極海で訓練を行う等の事前の準備が不十分だ、と指摘している。海軍のSSNは数十年間、北極海の氷の下で運用されてきたが、北極海でアメリカの国益を護るための水上艦の運用はほとんど行われてこなかった。アメリカは、2013年に計画の遅れを埋めるために動き始めた。オバマ政権は2013年5月に北極地域に対する国家安全保障戦略を公表し、国防省はそれを具体化する戦略を発表した。アメリカは2014年初め、他の北極圏諸国と連携して業務を行うために、北極大使のポストを新設した。海軍は2020年までに、より多くの乗組員に対して北極海での運用訓練を実施する計画で、2030年までに北極圏の国家安全保障上の脅威に対応することを目指している。しかし、現場に展開する海軍部隊は、北極海以外に眼を奪われているのが実情である。海軍は、これまでよりも少ない乗組員で艦艇を運用している。また世界に展開している戦闘部隊指揮官からは更なる艦艇増強の要求があるが、現状では海軍はそれに応えていないと、グリナート海軍作戦部長が下院軍事委員会で証言している。北極海に関する計画の遅れの本質的な要因は、北極海に必要とされる技能、インフラ開発及び訓練には時間がかかるということである。北極海は地域として広大で荒涼としている。 北極海は540万平方マイルもあり、米国の約1.5倍の大きさで、そこでは艦船が給油と補給のために依存できる支援用インフラがほとんどない。気象関係者は、北極海で天候を予測する方法がわからない。広帯域通信は事実上できない。実際にある戦闘艦は北極海での長期にわたる運用ができなかった。北方軍と欧州軍の2つの統合軍がこの地域を担当しているが、まだ北極海運用計画の概要が作成されていない。また、米海軍のどの艦隊が北極を担当するかについても決まっていない。

(3) 高いレベルの問題として、アメリカは未だ国連海洋法条約 (UNCLOS) に加盟していない。UNCLOSは、関係諸国にとって海中の大陸棚についての調査とそれに対する主権主張の枠組みを決める重要な取極めで、領有権紛争を回避するために重要である。ロシアは2007年に、北極点の直下の海底に国旗を設置して、北極海における国際的関心を惹起した。北極海沿岸域のほぼ半分がロシア領で、ロシアは、ロシア領土は広い帯状の大陸棚に及んでいると主張している。ノルウェーは2009年に、北極圏に作戦部隊を派遣した。カナダは次の30年間で、北極海で運用する28隻の艦船を建造するために330億ドルを投資する予定である。一方グリーンランドを通じて北極圏へアクセスする権利を持っているデンマークは、北極司令部を設立している。海軍の研究はまだ途上で、ほとんどの専門家は北極での紛争が始まりそうもないことに同意している。そのため可能性の高いシナリオは、捜索救難から油の流出事故による油の回収や遭難もしくは故障した航空機の回収等の緊急対応となる。アメリカは2011年に、他の北極圏諸国と捜索救難協定を締結している。

(4) 一部の人々は、北極海で海軍や沿岸警備隊のプレゼンスを強化することで、北極地域に投資するアメリカのエネルギー産業の活性化を期待している。アメリカはUNCLOSに加盟していないが、北極海の大陸棚を測量している。沿岸警備隊は、北極海用装備について独自の努力を実施している。現有の3隻の内、2隻の砕氷船は現役で、残りの1隻は船齢が30年以上である。沿岸警備隊による2010年の研究では、北極海での所要を満たすためには砕氷船の拡充が必要で、大型船3隻と中型船3隻の砕氷船が必要であると結論づけている。

記事参照:
Navy spots an Arctic future, but struggles to plot a course

3月25日「北極海域、冷戦の兆候」(The Wall Street Journal, March 25, and others, 2014)

米紙、The Wall Street Journalは、3月25日付けで、北極海に冷戦の兆候が見えるとして、要旨以下のように報じている。

(1) 米海軍が3月19日から末まで北極海で実施している軍事演習は、ロシアのクリミア併合前から計画されていたが、この演習は、東西間の緊張の火種として、北極海が新たな地政学的重要性を持ってきたことを表象するものであった。この演習、Ice Exercise 2014 (ICEX 2014) には、2隻のSSN、Virginia級SSN、USS New MexicoとLos Angeles級SSN、USS Hamptonが参加し、USS New MexicoがロシアのAkula級SSNに見立てた、USS Hamptonを魚雷攻撃する想定演習が実施された。演習の一部は、アラスカ沿岸から150カイリ離れた海域で行われた。2隻のSSNは、北極海での運用能力と砕氷能力、潜水艦探知能力そして魚雷発射能力などをテストした。演習を視察したグリナート海軍作戦部長は、アメリカの潜水艦はロシアの約60隻に対して72隻で、アメリカの潜水艦が世界の海域で探知されずに作戦と情報収集を行うことはアメリカの安全保障において緊要である、と強調した。

(2) 演習で想定された攻撃は、米ロ関係が悪化しつつある新しい時代背景の中で行われた。北極海をめぐる米ロ両国の協力は、アメリカが最近、北太平洋での合同海軍演習と沿岸警備隊の北極海での哨戒活動に関する両国間会議を取り消してから中断している。アメリカはまた、北極海での潜水艦救難協力に関する話し合いも保留している。北極海は、米ロ両国が対峙する唯一の海である。アメリカの防衛当局者は、北極海で潜水艦を運用する唯一の国がロシアであるため、この演習ではロシアの潜水艦をターゲットに仮想したと説明し、この軍事演習はアメリカが北極海での軍事衝突を想定していることを示すものではない、と指摘している。ロシア当局はこの演習に対してコメントしていない。アメリカは1947年以降、北極海における潜水艦演習を実施してきた。1980年代を通じて、米海軍は毎年、3回の演習を行ってきたが、冷戦の終焉とともに、その頻度は急激に減少した。北極海の海氷の減少によって新しいシーレーンが実現し、石油探査がより現実的になるにつれ、米海軍は、北極海における新たなコミットメントを検討している。

(3) この演習と同時期に、440人の米海兵隊員は、ロシアの国境に近い北ノルウェー沿岸において別の合同演習を実施した。ノルウェーのソレイデ国防相は、ノルウェーはロシアと北極海における捜索救難活動協力を継続する計画であるが、ロシアとの軍事協力については再検討している、と語った。米国防当局者によれば、ノルウェーは、アメリカとNATOの軍事資材の移動を容易にするため、1億2,500万ドルを投じて埠頭を建設している。ソレイデ国防相は、ノルウェーは自国国境の軍備強化を望んでいるのではなく、自国と同盟のために状況認識能力を強化することを願っている、と述べた。 今年度の軍事演習の基地であるIce Camp Nautilusは、1958年に初めて北極海を航行した潜水艦から名付けられた。1カ所のテントと一時的な何棟かの木製小屋で構成されたキャンプでは、各種の北極海慣熟訓練とテストが実施した。新しい海軍の衛星システムの能力実験も行われた。新しい衛星は、高緯度地域において既存のものより信頼できるデータの収集と送信ができる。

記事参照:
Cold War Echoes Under the Arctic Ice
See Video: With tensions rising between Russia and Western powers, the U.S. held submarine exercises in the Arctic Ocean – the body of water where the Russian and U.S. subs are likeliest to encounter each other.
Map: The Cold Front

3月26日「アジアは自らのクリミア化を防げるか?-CSIS専門家論評」(CSIS HP, March 26, 2014)

アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)のBonnie S. Glaser上席アドバーザーとEly Ratner上席研究員は、CSISのHPに、“Can Asia prevent its own Crimea?”と題する論説を掲載し、アジア諸国が中国の南シナ海における領有権主張に明確な強い反論をしないことに警鐘を鳴らし、ルールに則るという基本的な統治システムをアジアにおいて構築する必要があるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 世界がウクライナ情勢に懸念を持っているが、ユーラシアのもう1つの大国が現在のような政策を継続するのであれば、アジアも同じような状況に陥る危険性があると、ロックリア米太平洋軍司令官は警鐘を鳴らしている。2009年以降、中国は南シナ海において、フィリピン政府当局が「じわじわと忍び寄る侵出 (a “creeping invasion”)」と名付けたような行為をとってきた。ロシアのクリミア併合ほど劇的ではないが、北京は、ベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイそしてフィリピンの沿岸域にまで及ぶ「9段線」で囲まれた広範囲な海域の領有権の主張を、これら近隣諸国に対して高圧的に押し進め、その過程で島嶼や岩礁、海底資源などを奪い取ってきた。北京は、海上と海中における主権の既成事実化を進めるために、海洋法令執行機関の海洋監視船や海軍の艦艇を派遣し、南シナ海における中国以外の外国漁船やエネルギー開発会社に対して継続的な嫌がらせや脅迫めいた行動をとってきた。3月初め、中国海警の監視船が、現在フィリピンが実効支配するSecond Thomas Shoal(仁愛礁)に駐在する同国海兵隊への物資輸送に対する妨害行為を行ったが、このような事態が続けば、武力衝突の危険性が現実味を帯びるであろう。しかし、アジア太平洋における主権争いと、5,000マイル以上も離れた東欧の出来事との違いを見れば、アジアでは、武力行使や威嚇によらない、国際法規に従い、外交によって平和裏に問題解決を図るという希望が残っている。

(2) 他国を凌ぐ中国の急激な軍拡ペースによって、また17年間に及ぶ中国との2国間外交の失敗によって、中国による違法な占領行為の続くスカボロー礁に対するフィリピンに残された手段は、2013年1月に中国を国連海洋法条約に基づき仲裁裁判所に提訴することであった。この提訴においてフィリピン当局は、悪名高き「9段線」を含めた中国のあらゆる主張が国際法的にも、また慣例によっても何ら意味を成さないことを詳述している。専門家によれば、この仲裁裁判の結果は2015年の半ばから終わりまでに出るであろう。いずれにせよ、この裁判は、アジア太平洋諸国にとって、そして国際社会にとっても、法や規則に則った世界に生きるのか、あるいは暴力が勝る世界に生きるのかを決める機会となるものである。

(3) しかし、ここで問題なのは、多くの国々が、中国の非遵法姿勢を表立って非難することに消極的だということである。それだけでなく、中国は、仲裁裁判には手続き上の瑕疵があるなどと主張することで、裁判そのものの妥当性をも損なおうとしている。しかしながら、中国の仲裁拒否の姿勢は同裁判の進行を妨げるものではなく、中国は仲裁裁判所の決定には従わなければならず、従わないことは明確な国際法違反となる。もしフィリピンと同様に中国と海洋主権を争う他の国々が仲裁裁判所に提訴するのであれば、中国にとってその代価は高くつき、北京は現在のような仲裁裁判所に対する拒絶姿勢を改めざるを得なくなるかもしれない。場合によっては、裁判に参加して「9段線」の正当性を主張するといった作戦に打って出るかもしれない。

(4) とは言うものの、中国への経済依存度が年々増している周辺諸国が、中国に表立って対抗できないのも理解できる。フィリピンのケースのように、中国相手に提訴して同国の怒りを買うことに一体何の得があるのか、という問題があるからだ。しかし、中国の高圧的な姿勢を黙認するという選択も、中国相手には負けの戦略となる。何故なら、中国は、強制権や罰則のない自己に不利な決定には絶対に従わないからだ。そして、中国のそのような態度は、さらに地域の不安定を招き、平和的な問題解決の道を遠ざけてしまうであろう。国際社会において建設的で積極的な役割を演じたいという中国の意思が疑問視されるようになれば、その悪影響は他の地域へも飛び火するであろう。もしアジアが、今日ウクライナが直面しているような隣国との軋轢を防ぎたいのであれば、アジアにおいてルールに則ったシステムの構築を促すために、この好機を逃すべきではない。フィリピンの提訴に沈黙を守ることは、こうした好機に背を向ける行為である。

記事参照:
Can Asia prevent its own Crimea?

3月28日「中国の南シナ海戦略:固定化と挑発の併用―CSIS専門家論評」(East Asia Forum, 28 March 2014

アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)のGregory Poling研究員は、3月28日付のweb誌East Asia Forumに“Beijing’s South China Sea strategies: consolidation and provocation”と題する論説を寄稿し、ここ最近の中国の南シナ海戦略を考察した結果として、その長期戦略は、現状を徐々に変化させて既成事実化を図る「固定化」と、相手国の失策を招くためにわざと無用な刺激策を選択する「挑発」という2つの枠組みによって構成されている旨を指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は、南シナ海における海洋監視能力の向上に努め、同海域におけるより効果的な統制力の強化を図っている。それと同時に、中国は、海洋監視船を従来よりも遠方へとしばしば派遣して、「9段線(nine-dash line)」で囲まれた海域全体の領有を主張し、また、係争国の失策を招くべく、様々な「挑発」行為を行っている。

(2) 2013年11月、海南省当局は、2004年に制定された「中華人民共和国漁業法」を同海域においても施行するための新たな規則を制定し、同海域を取り巻く諸外国との関係に波風を立てた。同新規則では、中国が南シナ海で領有権を主張するすべての海域を含めた海南省が管轄する海域に進入する外国漁船は、あらかじめ海南省当局の事前許可を得ることが要求されている。この措置は、東南アジア諸国、ならびにその周辺地域における緊張感を高めることとなった。確かに新規則の制定は、中国の係争海域に対する高圧的な統制政策の強化につながる懸念すべき行為であるが、何もこれは中国の新たな戦略を示すものではないことに注意が必要である。

(3) この問題の本質は、「中華人民共和国漁業法」や海南省当局が定めた新規則の文言にあるのではなく、この制定のタイミングが、中国が東シナ海への防空識別圏(ADIZ)の設定を公表した直後だという点にある。これらの動向は、中国が、同海域における領有権紛争に対するより強硬な路線を選択したとの懸念が持たれることになったが、実際には、これは中国の南シナ海政策の新たな方向性を指し示すのではなく、紛争海域における効果的な支配力の強化に向けた長期計画の新たな段階を表している。

(4) 中国は、南シナ海を担当する海洋監視船の大型化を進めただけでなく、2012年のパラセル諸島への三沙市の設置や、2013年に行われた中国海警に対する他の海洋権益機関の統合措置によって、中国の海洋監視船は、以前よりも調整された行動がとれるようになっている。3月6日に海南省党委書記である羅保銘は、海南省管轄下にあるパラセル諸島周辺海域に進入するベトナム漁船に対して前例にない頻度で取り締まりを実施している旨を明らかにし、「毎日とは言わないまでも、少なくとも1週間に1度はこのようなことがある」と述べている。スカボロー礁が領有権紛争の象徴として世界の注目を集めている一方で、実際の中国の支配力強化の対象は依然として南沙諸島であった。フィリピンのカズミン国防相は、フィリピン漁船が中国海洋監視船に邪魔されることなく、スカボロー礁近海で操業していると述べていたが、その1週間後に中国側は、同漁船に放水を浴びせて追い払っている。

(5) 南沙諸島周辺海域や南シナ海のその他の海域は、海南省が定めた新規則や中国の実効支配海域の範疇内にない。中国は、そのような広大な係争海域をパトロールし有効的に支配する能力に欠けているので、象徴的な領有権主張を行っているのだ。1月には、人民解放軍海軍南海艦隊の艦艇3隻(揚陸艦1隻と駆逐艦2隻)が、「9段線」の南端に位置するJames Shoal(中国名:曾母暗礁)に集結し、「主権宣誓活動」を行った。James Shoalは、マレーシアからわずか80キロの距離にある「暗礁」であり、中国海軍艦艇の行動は茶番にすぎないが、領有権主張の象徴としての意味合いはある。中国のこうした行動は、南シナ海沿岸国に領有権主張のメッセージを発出するという意味に加え、領有権主張で競合しあう他国にわざとちょっかいを出して「挑発」をし、中国にとって有利となるような失策を引き出させようという意図がある。同様の例は、2012年9月にスカボロー礁での中国とフィリピンとの対峙や、2012年9月の日本政府による尖閣諸島国有化の際にも見られた。

(6) 多くの海外メディアは、上述したような海南省の新規則やADIZの設定、海洋監視船によるパトロールの増加といった中国の表面的な動向のみを捉えて、これは中国の領有権紛争海域における法的支配力の強化措置だと騒ぎ立てている。しかし、中国によるこの様な措置は、国際法の下では意味がなく、同海域における中国の法的管轄権、実効支配、領海管理といったものには正当性はない。その代わり、中国は、領有権紛争海域における実行支配度を増すことで、徐々に現状を変化させ、最終的には各国が現状を受け入れざるをえない「固定化」の状況に持っていくことで、国際法を実質的に無視することを企図している。あからさまな侵略行為は控えつつも国際的な司法の場での決着を拒否し、長期的な展望に立つことで現状を変革して既成事実化することで最終的な勝利を狙っているのである。しかし、南シナ海沿岸国はこの危機に対抗し始めている。マレーシアやベトナムが中国による挑発的行為に反対の意思を表明している。そしてもっとも重要なのは、フィリピンによる国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所への提訴をしたことであり、これは周辺国を勇気づけるだろうし、中国の海洋政策を国際法規に基づくものへと引き戻すことに繋がるであろう。

記事参照:
Beijing’s South China Sea strategies: consolidation and provocation

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子