海洋情報旬報 2014年2月21日~28日-3月1日~10日

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2月24日「米海軍、『北極ロードマップ』公表」(Navy News Service, February 24, 2014 and U.S. Navy Arctic Roadmap 2014-2030)

米海軍気候変動任務部隊 (U.S. Navy Climate Change Task Force) は2月24日、「北極ロードマップ (U.S. Navy Arctic Roadmap 2014-2030)」を公表した。これは、2009年版の改訂版である。

ロードマップは、2014年から20130年までとそれ以降を3期、即ち、現在から2020年までの短期、2020年から2030年までの中期、そして2030年以降の長期に分けて、それぞれの期間における気象環境の予測と米海軍の行動目標を示している。以下はその概要である(括弧内の数字は報告書の該当頁を示す)。

(1) 現在から2020年までの短期

a.北極海の海氷の溶解が進み、主要航路の利用可能期間が長くなる。2020年までに、ベーリング海峡は年間最大160日間がopen water(砕氷船の先導を必要としない、海氷面積が最大10%の状態)となり、35~45日間がshoulder season(海氷面積が40%以下)となる。北方航路はopen waterが最大30日間、shoulder seasonが最大45日間となる。極点ルートや北西航路はこれらの期間が限定される。(11)

b.海軍は、主として水中戦力と航空戦力によって軍事能力とプレゼンスを維持するが、水上艦艇による活動はopen water期に限定される。海軍は2020年までに、北極での活動訓練済みの要員を増強する。また、必要な戦略、政策、計画及び北極地域における所要を策定する。(18)

(2) 2020年から2030年までの中期

a.2025年までに、ベーリング海峡は年間最大175日間がopen water、50~60日間がshoulder seasonとなる。2030年までには、open waterが190日間に、shoulder seasonが最大70日間に増える。2025年までに、北方航路はopen waterが最大45日間、shoulder seasonが50~60日間となり、2030年までには、open waterが50~60日間に、shoulder seasonが最大35日間となる。この間、極点ルートはアクセス可能日数が増え、open waterが最大45日、shoulder seasonが60~70日間と予測される。北西航路の航行の可能性については、依然限定的と見られる。(12)

b.海軍は2030年までに、国家安全保障に影響する緊急事態に対応するための要員訓練や必要人員を確保する。また、水上艦艇の活動期間が増えることになろう。この期間における主たるリスクは捜索救難や自然災害対処になると見られるが、海軍は、北極海域における航行の自由を保障する任務を要請されることになるかもしれない。海軍は、北極海域での活動を定期的なプレゼンス維持から、必要な場合、持続的な活動を遂行できる能力を確保する。(18-19)

(3) 2030年以降の長期

a.長期的な環境変化によって、主要航路は通航可能期間が増え、夏季の数カ月間における船舶の通航は大幅に増えるであろう。北方航路も極点航路も、open waterが最大75日間となり、年間130日は航行可能であろう。北西航路は、夏季の後半から秋の初めにかけて、open waterの期間が増えるであろう。(12)

b.海軍は長期的には、北極地域において国家安全保障政策を遂行するに十分な持続的な作戦能力を保有することになろう。年間の多くの期間、船舶通航が可能になることから、海軍も、国家安全保障に対する潜在的な脅威への対処、あるいは緊急事態への対応に即応できる、前方展開部隊を維持できる。海軍は、北極海域における海洋安全保障や航行の自由を確保することを重視した戦力を必要とされるであろう。(19)

記事参照:
Navy Releases Updated Plan for Future Arctic Readiness
See: U.S. Navy Arctic Roadmap 2014-2030
備考:各期間の各航路の状況と航行可能日数については、The Arctic Roadmapの以下の図参照;Figure 4: Arctic transit routes availability. Vessel projections courtesy of the Office of Naval Intelligence (United States Navy graphic), The Arctic Roadmap, p.11
Figure 5: Anticipated future Arctic transit routes superimposed over Navy consensus assessment of sea ice extent minima (United States Navy graphic), The Arctic Roadmap, p.14
See also: Graphic: The U.S. Navy’s Chief of Naval Operations shows the different routes and its corresponding presence in the arctic region.

【関連記事1「米海軍、2025年から北極海のプレゼンスを拡大」(Global Post, Reuters, February 27, 2014)

米海軍は、北極海の海氷の融解による航行船舶、漁業や資源探査の増加に備えて、2020年頃から北極海におけるプレゼンスを強化する方策を検討している。海軍気候変動任務部隊 (U.S. Navy Climate Change Task Force) 司令官で、海洋学者でもある、ホワイト (Jonathan White) 少将は、北極海において戦闘作戦を遂行しなければならないとは思えないが、そのような事態への備えは必要だと強調している。海軍が公表した、「北極ロードマップ (U.S. Navy Arctic Roadmap 2014-2030)」は2009年版の改訂版だが、夏季における海氷の融解が3年前の予測よりも早く進行していることを示す多様なデータの分析に基づいている。

「北極ロードマップ」では、海面上昇に関する研究の進展と、海氷の厚さや人工衛星の通信・偵察機能の必要性の評価、そして既存の港湾、飛行場、格納庫の評価を予測する能力の改善を含め、海軍の詳細な任務所要とそのデッドラインが示されている。また、他の北極海沿岸諸国との協力や、10億ドルの砕氷船建造問題を抱えている沿岸警備隊との協力にも大きな関心を示している。海軍は、3月に北極海で潜水艦訓練を実施し、また2014年夏期にはノルウェー軍とロシア軍との合同演習を計画している。海軍は現在、厳しい気象条件下での運用可能な艦艇とその他の装備や陸上インフラに必要な仕様の研究、そして衛星や沿岸通信機能のためのより広い帯域幅の確保に努めている。

更に、ホワイト司令官によれば、既に海軍調査局と国防省の国防高等研究計画局は、産業界と共同で北極関連プロジェクトに対する資金提供を行っており、このような官民合同プロジェクトが年々増加するであろう。ホワイト司令官は、国防予算が厳しい制約下にあるが、海軍が「北極ロードマップ」で慎重に検討し評価した結果を議会に示すことで、今後数年間の北極関連予算の増額を期待し、「海軍と沿岸警備隊の責任領域が拡大してきている。我々は、新たな海洋に乗り出す。従って、それに伴って予算も増加されるべきである」と述べた。海軍は、北極海域において長い間、潜水艦を運用し、必要に応じて偵察機や無人飛行機を飛ばしてきたが、2020年までに北極地域での作戦遂行訓練を受けた人的資源の拡充を図る計画である。北極海のアイスフリー期間が長くなる2030年までに、海軍は、不測の事態や国家安全保障危機に対応するための態勢を整える見込みである。 

海軍の新しい「北極ロードマップ」は、北極海に埋蔵された豊富な海底資源にも注目している。それによれば、北極海には現在中国が主要な供給先となっている希土類を含め、石油、天然ガス、鉱物資源が埋蔵されており、就中、炭化水素資源は1兆ドル以上の埋蔵が推定される。これらの資源は、多国間協力の誘因となりつつも、北極海の厳しい環境や予測不可能な天気がもたらす財政、技術そして環境面でのリスクも存在する。ホワイト司令官は、「もし我々がこれを(資源)ラッシュと見て、あまりに急激に北極海資源を獲得しようとした場合、大災害を招く危険がある。氷に覆われた北極海での捜索救難活動には、あまり行きたくない」と警告し、民間セクターによる漸進的で計算された北極海開発を主張した。

記事参照:
U.S. Navy eyes greater presence in Arctic from 2025

【関連記事2「北極海の海氷溶解、米海軍に新たな任務」(National Defense Magazine, February 2014)

米誌、National Defense Magazine 2月号は、“Military Challenged by Changing Arctic Landscape” と題する論説を掲載し、長年、米沿岸警備隊が北極海の哨戒任務に責任を負ってきたが、北極海の海氷の溶解が進み、船舶の通行量が増えつつあることから、北極海における米海軍の役割も増大しつつあるとして、要旨以下のように論じている。(注:この記事は2月24日の「北極ロードマップ (U.S. Navy Arctic Roadmap 2014-2030)」の公表前の記事である。)

(1) 国防総省の2013年北極政策によると、海軍と沿岸警備隊は追加の情報監視、偵察能力の確保が求められている。マバス米海軍長官は2013年12月、北極海のプレゼンス確保のためにどの程度の投資が可能なのかを研究することは海軍にとって難しいとし、北極海沿岸諸国がすでに自国の影響力と領有権の拡大を図っている中、アメリカのプレゼンス拡大に伴う責任の増大を考慮しなければならないと説明した。また、マバス長官は、新しいプラットフォームや技術の拡充だけでは北極海におけるアメリカの国益を確保することはできないと指摘した。議会上院が国連海洋法条約への加盟を承認しない限り、北極海におけるアメリカの領有権主張は凍結されることになろう。同条約に加盟すれば、アメリカは、アラスカ州北部沿岸から現在の200カイリを超えて、最大350カイリまでの管轄権の延長が可能になる。マバス長官は、天然資源の確保や航行の自由を保障するためにも、同条約への加盟が緊要であると主張した。

(2) 国防省は、省庁間北極圏研究政策委員会 (The Interagency Arctic Research Policy Committee) による科学技術協力や研究連携により、多方面から北極地域における安全保障の強化を図っている。また海軍は、海洋調査や海図の改善などにおいて他の政府機関との協力を推進している。海軍は既に、北極海で通年航行が可能な駆逐艦や他の艦船を建造するための研究に投資している。例えば、海軍調査局は、水上艦艇の上部機構を保護するための耐氷塗料を開発している。しかしながら、現在の予算削減状況では、北極海での任務に特化した研究開発の継続は困難になると見られている。海軍は、定期的に潜水艦を北極海に派遣しているが、1997年にアダック海軍航空施設が封鎖されて以降、アラスカ州に基地を持っていない。沿岸警備隊はアラスカ州に施設を維持しているが、これらは改修が必要となっている。安全保障上の脅威が急激に高まらない限り、海軍が定期的に北極海での作戦運用を行う可能性は低いと予想される。海運業界は海軍の北極海における戦力整備を望んでいるが、少なくとも近い将来において、北極海の安全保障は沿岸警備隊の責任に留まるであろう。 しかし北極海域の沖合を中心とする石油や天然ガス産業の重要性が増大するにつれ、掘削プラットフォームや関係船舶がテロリストのターゲットとなり得ることも予想される。更に、北極海の自然が突発的な事故により汚染される危険も軽視できない。従って、沿岸警備隊が北極海における広範な任務を遂行するためには、太平洋やカリブ海での薬物取締などの他の任務に支障を招くことにならざるを得ないであろう。しかし、海軍の沿岸戦闘艦と統合任務高速艦が沿岸警備隊の任務の一部を引き継ぐことで、沿岸警備隊の責任を分担することができる、と専門家は指摘する。

(3) 沿岸警備隊はまた、北極海での継続的な運用のために、新しい砕氷船や耐氷型船舶を整備する必要がある。沿岸警備隊の予算は海軍よりもはるかに少なく、厳しい予算状況の中でこれらの新規建造計画を遂行しなければならない。とりわけ沿岸警備隊は、大型砕氷船の調達に苦労してきた。現在、大型砕氷船3隻と中型砕氷船3隻を保有しているが、実際に運用できるのは中型砕氷船1隻、USCGC Healy (排水量1万6,000トン)と大型砕氷船1隻、USCGC Polar Star(排水量1万3,194トン)のみである。このような状況を踏まえて、議会では、退役してシアトルで防錆保管されている大型砕氷船、USCGC Polar Sea (排水量1万3,194トン)の再就役を主張する声もある。ロシアは世界最大の22隻の砕氷船隊を保有し、中国も2隻目の砕氷船を建造している。砕氷船隊の整備ができなければ、アメリカは、北極海における権益擁護において他国の後塵を拝することになりかねない。

記事参照:
Military Challenged by Changing Arctic Landscape

2月24日「米国防予算、11個空母戦闘群維持とLCSの建造にしわ寄せ―ヘーゲル米国防長官」(MarinLog.com, February 25, 2014)

ヘーゲル米国防長官は、2月25日の2015年度国防予算に関する記者会見で、「大統領の予算計画の下では、海軍は艦艇の建造コストを下げ、投入資源の最大効率化を目指して、積極的で大がかりな努力を始める」とし、特に沿岸戦闘艦 (Littoral Combat Ship: LCS) の建造と11個空母戦闘群の維持について、要旨以下のように述べた。

(1) 沿海戦闘艦 (LCS) は、あまり厳しくない戦闘環境下で、掃海及び対潜作戦といった、一定の任務遂行を目的として設計された。LCSについては、特にアジア太平洋地域において、より先進的な軍事能力を持った敵と遭遇した場合、また新たな技術が出現しした場合、それらに対抗して運用し、生き残るための固有の防御能力と火力を有しているかどうかについては懸念がある。もし当初計画通り52隻のLCSを建造すれば、将来的には、300隻海軍において、LCSが保有艦艇の6分の1を占めることになろう。財政的制約を考えれば、将来的には、あらゆる地域で、あらゆる戦闘様相に対応できるプラットフォームの建造に資源を振り向けなければならない。全体としてフリゲートと同等の能力を持つ小型水上戦闘艦を調達するための代替案を提出するよう海軍に指示した。海軍は、全く新しい設計、現有艦の設計継続、そしてLCSの改良について検討することになろう。これらは、2016年度予算要求の提出に反映させるため、2014年後半に答申されることになっている。従って、LCSについては、現在の32隻以上の新たな建造契約を進めない。

(2) 大統領の予算計画の下で提案された歳出レベルでは、海軍は、11個空母戦闘群のオーバーホールと運用が可能であろう。しかしながら、2016年度の予算提出に当たっては、USS George Washington (CVN-73) の将来について最終判断をしなければならない。もし2016年度でも歳出レベルの削減が続けば、USS George Washingtonは、予定されている核燃料の交換とオーバーホールを実施する前に退役させる必要があり、その結果、空母戦闘群は10個となろう。一方、USS George Washingtonを現役に留めておくためには、60億ドルが必要となろう。従って、歳出レベルの削減が続けば、USS George Washingtonを退役させる以外に選択肢はないであろう。大統領の予算計画の下で、11隻の空母のオーバーホールと整備を行うことになろう。

(3) 大統領の予算計画の下で保有艦艇の即応態勢を維持するとともに、近代化を進めるために、現有巡洋艦の半分、11隻は、近代化され、最終的により大きな能力を備え、延命化されて任務に復帰するが、運用頻度を減らした状態に置かれることになろう。このアプローチによって、空母戦闘群の防空を担う最も有能な艦である巡洋艦戦力を長期間維持し近代化することができる。全体として、海軍の艦隊は現行計画の下で大幅に近代化され、毎年2隻の駆逐艦と2隻のSSNの調達を継続し、更に1隻の洋上発進基地艦 (Afloat Staging Base) を調達する。艦隊の近代化計画を維持し、次の5年にわたって艦艇隻数の増加を実現するであろう。

(4) もし歳出レベルが2016年度、更にはそれ以降も続くなら、海軍の水上艦隊に関する一層困難な決断をせまられるであろう。更に6隻の巡洋艦の運用頻度を減らさなければならず、また駆逐艦の調達レートも遅らせなければならないであろう。歳出レベル削減の実質的な影響は、2023年までに計画されている海軍の運用可能艦艇数から、大型艦が10隻少なくなり、更に海軍は、空母艦載用の統合攻撃戦闘機の調達を2年間停止することになろう。

記事参照:
Navy budget stresses new ships, but LCS numbers in doubt
See also: FY15 Budget Preview, As Delivered by Secretary of Defense Chuck Hagel, Pentagon Press Briefing Room, February 24, 2014

2月26日「ロシア、海外軍事基地開設検討」(RIA Novosti, February 26, 2014)

ロシアのショイグ国防相は2月26日、ロシアが海外の数カ国に軍事基地を開設し、国境外における恒久的な軍事プレゼンスの拡大を検討していることを明らかにした。国防相によれば、基地開設の候補国には、ベトナム、キューバ、ニカラグア、セイシェル、シンガポール及びその他の数カ国が含まれており、現在これらの国と話し合いが進んでおり、関連文書調印が間近の国もあるという。基地開設交渉では、軍事基地だけでなく、当該国港湾への艦艇の訪問や哨戒中のロシア戦略爆撃機に対する燃料補給サイトの開設なども話し合われている。ロシアは現在、シリアのタルトゥースに唯一の海外基地を有しているが、この旧ソ連時代からの海軍基地はシリア内戦によって先行き不透明な状況にある。ロシアは2002年に、財政難からベトナムの海軍基地とキューバのレーダーサイトを閉鎖した。しかしながら、ロシアは近年、ロシアのイメージを海外に投射するとともに、海外における国益を護るための手段として、海軍活動と戦略爆撃機の哨戒飛行を復活させており、このため、世界の戦略的に重要な地域に軍事施設を必要としている。

記事参照:
Russia Seeks Several Military Bases Abroad – Defense Minister

2月26日「北極海沿岸5カ国、北極海中央部における漁業規制の必要性について合意」(CBC News, The Canadian Press, February 27, 2014)

カナダ、アメリカ、ロシア、デンマーク及びノルウェーの北極海沿岸5カ国は2月26日、グリーンランドのヌークでの3日間にわたる話し合いの末、漁業資源の状況がある程度判明するまで、北極海中央部での商業漁業を禁止する必要性について合意に達した。共同声明は、「参加国は、適切な規制メカニズムが確立されるまで、商業漁業を禁止する暫定的な措置をとる必要性を認識した」としている。沿岸各国は、200カイリEEZについては国内法で規制しているが、北極海中央部は空白海域となっている。北極海の海氷の融解が毎年進捗する状況下で、2012年には、67カ国の2,000人を超える科学者が、科学調査が完了するまで、北極海における商業漁業のモラトリアムを求めていた。

記事参照:
Canada agrees to work to prevent fishing in High Arctic

2月28日「米海兵隊のグアム移駐、正しい選択か―米専門家論評」(The Diplomat, February 28, 2014)

米RAND CorporationのMichael J. Lostumboアジア太平洋政策研究センター長は、2月28日付けのWeb誌、The Diplomatに、“Should the U.S. Move the Marines to Guam?” と題する論説を寄稿し、米海兵隊のグアム移駐に疑念を呈し、要旨以下のように述べている。

(1) アメリカは、そのアジアにおける「再均衡化戦略」における海兵隊の貢献のあり方を再考しなければならない。海兵隊を何処に配置するか、実際には海外の恒久的な基地を何処に置くかを決定するに当たっては、作戦運用上の考慮に重点が置かれなければならない。特に、こうした考慮には、不測の事態の発生場所に迅速な展開が可能か、適切な訓練場所があるかといったことが含まれなければならない。アジアにおける不測の事態に際して、太平洋に配置された海兵隊がカリフォルニア州ペンドルトン基地の海兵隊よりも迅速に対応できるとしても、専用の海上輸送力を有する前方展開部隊のみが本国基地の部隊よりも展開において優位なのである。専用の海上輸送力がなければ、アジアにおける不測の事態に対応するに当たっては、本国の西海岸から展開するのも、グアムから展開するのも似たようなものである。考慮すべき他の要素もある。それは、前方展開部隊が持つ潜在的な抑止効果であり、そしてアメリカの安全保障コミットメントの明確な根拠としての価値であり、この場合、それに伴う経費を同盟国が肩代わりしてくれることを期待できる。

(2) 不幸にも、グアム移駐については、海兵隊は、戦闘力、対応時間そして経費ではなく、政治的な制約により良く適合するという観点から移駐計画を策定した。アメリカとその友好国や同盟国は、アジアへの「軸足移動」について、シンボルとしてではなく、よく説明できる能力を重視したより合理的な見方をしなければならない。より少ない経費で同等の戦闘力を確保できるグアムへの移駐に代わる対案がある。日本政府が約束した支援を含めて、グアムに海兵隊5,000人のための施設を建設する一時費用として約34億ドルが必要となろう。これは、グアムと米本土の建設費の比較、そして広大な米本土の既存のインフラを活用できる可能性を考慮すると、米本土に必要な施設を建設するよりも高額である。更に、この部隊を維持するために毎年発生する経費は8,000万ドルから1億2,000万ドルと見積もられ、この面でも米本土において同規模の部隊を維持する経費を上回る。日本政府の負担を考慮しても、グアムは、投資に見合う効果を期待できない高価な選択肢である。また、海兵隊は、不測の事態に備えるために訓練施設が必要である。軍事作戦に派遣するためにグアム駐留の海兵隊の即応態勢を維持するためには、その近傍に訓練施設を建設する必要があり、そのためテニアン島や北マリアナのパガン島に投資しなければならず、これもグアム移駐の経費に加えられる。更に、グアムに配備される海兵隊が展開に利用する専門の艦船を海軍がグアムあるいはその近傍に保有していない場合、グアムは即応部隊の発進基地としてよりは駐屯地になってしまう。海兵隊戦闘部隊の常駐が合意されたオーストラリアへのアクセスの面でも、グアムに恒久的な基地を建設するメリットは、少ないように思われる。

(3) 近年、アメリカは、東南アジアにおける同盟国の能力改善に努めており、この地域における海兵隊のプレゼンスはこの目的に密接に関係している。アメリカは、最大2,500人の海兵隊を6カ月間オーストラリアへのローテーション配備を始めた。これによって、オーストラリア軍との訓練機会が大幅に増えるとともに、訓練と安全保障協力のために東南アジア各地に展開する機会も増える。また、これによって、沖縄の第31海兵隊遠征部隊 (MEU) に加えて、1年の大部分の期間、2個MEU規模の海兵隊戦力が太平洋に展開することになる。

(4) 太平洋地域における海兵隊の配備態勢に関する決定は、完全に訓練された戦闘戦力を、提案されている基地から迅速に展開できるかどうかという部隊の能力を基準に考えるべきである。沖縄に輸送力を伴った即応部隊を維持する計画は、北東アジアへの迅速なアクセスを可能にする。更に、オーストラリアへのMEU規模の戦力の展開は、同盟国や友好国の部隊との訓練機会を増やすとともに、東南アジアへのアクセスを可能にする。こうしたことを考慮すると、年間8,000万ドルから1億2,000万ドルの維持費をかけて、グアムに5,000人の海兵隊を配備する選択肢は、魅力的でない。展開時間を多少犠牲にしても、米本土の基地に維持することによって、これらの経費は節約可能である。いずれにしても、アメリカは、そのアジアにおける「再均衡化戦略」における海兵隊の貢献のあり方について、海兵隊のこの地域における所要能力の視点から再考しなければならない。

記事参照:
Should the U.S. Move the Marines to Guam?

2月28日「インド海軍、ベンガル湾での衛星利用の大規模演習終了」(The Times of India, March 1, 2014)

インド海軍は2月28日、艦艇約60隻、航空機約75機が参加し、インド初の軍事衛星を利用し、1カ月間に亘ってベンガル湾で実施した演習、Tropexを終了した。演習海域となったベンガル湾では、インド洋海域における中国の動向に対抗するため、インドは、東岸とアンダマン・ニコバル諸島周辺海域における戦力を徐々に強化しつつある。Tropex演習は、ベンガル湾全域で水上、空及び水中の3次元で実施され、インドが2013年に打ち上げた海洋通信監視衛星、GSAT-7を利用して、海軍のnetwork-centric warfare能力を実証する機会となった。この演習では、海軍戦闘艦艇の即応態勢が評価され、海軍の戦闘ドクトリンが実証され、そして新たに取得した兵器が作戦運用構想に組み入れられた。GSAT-7以外に、新たに取得した兵器として、SSN、INS Chakraが初めて参加した。INS Chakraは、ロシアから10億ドルで10年間リースしているSSNである。また、新たに取得した、長距離海洋哨戒機、P-8Iも参加した。P-8Iは、アメリから8機購入予定で、現在、3機が配備されている。

記事参照:
Navy validates massive exercise under country’s first military satellite’s gaze

3月3日「NORAD、北極監視を強化」(The Ottawa Citizen, March 3, 2014)

カナダ紙、The Ottawa Citizenは、3月3日付けで、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が増大しつつある北極海での活動に対応するために監視システムの改善を図っているとして、要旨以下のように報じている。

(1) The Ottawa Citizenが入手した文書、The “Norad Next” によれば、2025年頃まではNORADへの新システムの導入が行われないことになっているが、NORADの新たな所要を示した報告書が今春、米加両国の軍首脳に提出されることになっている。The “Norad Next” 構想は、今後の数十年間の米加同盟の在り方を示すとともに、北米が直面する可能性のある脅威を予測することを狙いとしている。これは、特に北極海を含む、多正面領域を覆域とする、NORADの監視ネットワークの将来的な近代化を見越している。この文書は、NORADの老朽化しつつある監視装備を更新する必要性を指摘している。米国防省によれば、現在のレーダーの多くは2020年から2025年の間に寿命を迎える。NORADの広報官は本紙とのメイルを通じて、米加同盟は長年にわたって極北地域で前方展開施設を維持してきたが、近年における北極海を航海する船舶の急増によって、NORADによる北極海域における活動に対する監視と情報の共有、そして対応の必要性が高まっており、この点についてはThe “Norad Next” で検討されるであろう、と述べた。米加両国の代表から構成される常設防衛合同理事会は、2013年12月の会議で、The “Norad Next” 構想について討議した。この構想は勧告事項を提示するのみで、実施の決定は、両国の指導部に委ねられる。

(2) NORADは1958年に設立され、多様な安全保障の脅威に対応するために、変遷を重ねてきた。1991年には、その任務が麻薬対策のための航空監視にまで拡張された。NORADは 9.11以降、国内空域の安全監視任務が追加された。2006年には、海上警報機能が追加され、北米沿海に接近する船舶と両国の内水における船舶の航行に関する情報が、米加両国間で共有されるようになった。北極海の海氷が減少につれて北極地域への関心が高まっており、NORADの運用の在り方を検討する時期が来ている。

記事参照:
NORAD to increase focus on Arctic surveillance

3月5日「中国の巡視船隊、アジアの係争海域における強力な武器に」(The Maritime Executive, Reuters, March 5, 2014)

ロイター通信は、3月5日付けで、中国の巡視船隊がアジアの係争海域において強力な武器になっているとして、その現状を要旨以下のように報じている。

(1) 最近統合された中国海警局の巡視船隊は、南シナ海と東シナ海の係争中の島嶼や環礁の周辺海域に配備されている。これら巡視船は、軍艦のような武装をしておらず、そのためコントロール不能にまで紛争がエスカレートするリスクは相対的に低いが、中国の主権の誇示する強力な武器になっている。これら海警局の巡視船隊は、中国の非軍事組織である国家海洋庁の予算で運営されているが、米海軍関係者や安全保障の専門家は、運用に当たっては軍と連携していると見ている。また、巡視船隊は200隻強の巡視船からなり、中国の国防関連支出の実態把握を難しくしている好例の1つである。中国は3月初めに、2014年度軍事支出が昨年度比12.2% 増の1,315億ドルになることを明らかにした。しかし、多くの専門家は、国防予算の枠外で多額の支出が行われており、実際の支出額がアメリカに次いで2,000億ドル近くになっていると推測している。退役した軍艦の転用を含む巡視船隊の予算も、また海警局全体の予算も明らかにされていない。

(2) 中国が係争海域でますます高圧的な主張を強めており、アジア全体の緊張が高まっている。東シナ海では、尖閣諸島を巡って、中国と日本は対立している。中国は、南シナ海では、約90% の海域に領有権を主張している。中国の巡視船隊は現在、南シナ海を定期的に哨戒している。これらの巡視船隊は、折に触れフィリピンと係争中のスカボロー礁やセカンド・トーマス礁(仁愛礁)を取り囲み、また、ハノイによって設定された石油探索ブロックに隣接しているベトナム南部の係争海域を哨戒している。中国海軍もこれらの海域で活動しており、2013年12月には空母「遼寧」を、最初の訓練任務として南シナ海へ派遣した。アジアの海軍関係者は、「我々が今見ているのは、中国海軍がより広い大洋に移って戦闘訓練を含む実戦的な訓練を行っており、一方で、最もセンシティブな係争海域には巡視船隊を留めているということである。係争海域で中国の主権を毎日のように主張しているのは、これら巡視船隊である」と述べている。

(3) 中国は2013年7月に、4つの海洋法令執行機関を統合して、国家海洋庁の下に沿岸警備隊(海警局)を発足させた。日本の防衛省防衛研究所は最近の研究で、国家海洋庁の権限および構成について、また中国軍との関係についてほとんど明らかにされていないことに注目している。ロンドンの国際戦略研究所 (IISS) が2月に発表したデータによれば、沿岸警備隊は370隻の巡視船を保有している。中国のメディアによれば、交通運輸部の海巡だけで200隻を超える巡視船、9機の海洋監視機及び8,400人の人員を有している。国営新華社通信によれば、海巡は2014年夏までに36隻の新たな巡視船を就役させる予定である。巡視船の多くは、海軍から除籍された古いフリゲートである。中国メディアによれば、海軍は2012年に2隻の駆逐艦を巡視船に転用した。通常除籍する場合は、艦の兵装が取り外される。更に、中国は世界最大の1万トン級の巡視船を建造中であると報じられているが、この巡視船が何時配備されるかについては、報じられていない。国家海洋庁は2月に、ベトナムと台湾も領有権を主張している、南シナ海の西沙諸島を管轄するため、主な島の内の1つを5,000トン級巡視船の根拠地にすることを明らかにした。

記事参照:
China’s Civilian Fleet – A Potent Force in Asia’s Disputed Seas

3月5日「小国であっても中国の拡張主義的行動に屈するな―RSIS研究員論評」 (The Diplomat, March 5, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のNah Liang Tuang 准研究員は、3月5日付けのRSIS Commentariesに、“China’s Maritime Expansion: Exploiting Regional Weakness?” と題する論説を寄稿し、ベトナムやマレーシアのような小国であっても、中国の南シナ海における拡張主義的行動に、膝を屈するべきでないとして、要旨以下のように論じている。

(1) 最近の中国海軍の周辺海域への行動は、この地域の海洋の支配を既成事実化する試みであった。2014年1月、駆逐艦2隻、ドック型揚陸艦1隻そしておそらく潜水艦からなる中国の艦隊は、海南島の基地を出航し、ベトナムが領有権を主張する西沙諸島周辺海域を哨戒し、マレーシアが領有権を主張するジェームズ礁(曾母暗礁)沖で1月26日に艦上で北京の領有権を確認する式典を催し、その後2月3日には西太平洋で実弾射撃演習を行い、2月11日に中国に帰港した。この3週間に亘る航海の意義は、中国海軍が外洋海軍としての作戦能力を示し、ベトナムやマレーシアのような沿海諸国に対して、係争中の南沙諸島や西沙諸島における中国の領有権を確実にする実力と政治的意志があるというメッセージを送ったことである。ベトナムとマレーシアが領有権を海域への中国海軍のこうした戦略投射能力の誇示に対して、ハノイの沈黙とクアラルンプールの黙認は、南シナ海の大部分をカバーする北京の「9段線」を実証する、中国の漸進的な領域侵犯を暗黙裏に受け入れることを意味する。マレーシアの国防相は、「大国のこのような行動に直面した時、我々は、自らの能力について現実的でなければならない」と語った。しかし、ベトナムやマレーシアのような領有権主張国が敗北主義的態度をとらなければならない程、実際の海軍力バランスが北京有利に傾いているのか。南シナ海沿岸国の海軍力強化計画を子細に眺めれば、そこには見た目以上の開きがある。

(2) ベトナムに関しては、200カイリEEZを哨戒し、南沙諸島の占拠島嶼を護るに十分な能力を持つ、比較的新しい26隻の艦艇を保有している。しかし、修理、訓練そして展開というサイクルを考えれば、外国の侵入に対処するために同時に哨戒任務に展開できる艦艇は8ないし9隻に過ぎない。これではベトナムの長い海岸線とEEZの哨戒には不十分だが、2016年までに4隻の潜水艦(既に2隻は就役)、近い将来、更に2隻のフリゲート(現在2隻が就役)、就役中の9隻に加えて更に6隻のコルベットを受領することになっており、そして現在1隻の哨戒艇が建造中である。これらが数年の内に就役すれば、ハノイは海軍部隊を13隻増強し、合計39隻とすることができる。これにより、年間を通じ13隻の艦艇や潜水艦をもって効果的な海上における抑止戦力を維持でき、ベトナム海軍の戦力は約50%増強されることになる。マレーシアにも似たような限界がある。EEZと係争中の海域を哨戒する能力のある近代的な艦艇と潜水艦をわずか30隻しか保有していない。修理、訓練そして展開のサイクルを適用すると、クアランルンプールは現状では10隻による常続的な哨戒活動を維持できるだけである。マレーシアは、フランスから6隻の沿岸戦闘艦取得する計画で、1番艦は2018年に配備される予定である。クアラルンプールは近い将来、実質20%の戦力強化によって、常続的な海上における抑止戦力を10隻から12隻に増やすことができよう。

(3) ベトナム、マレーシアの近い将来における艦艇や潜水艦の取得計画に基づく勢力増強を考えると、最近の中国海軍の周辺海域への行動は、実際にベトナムあるいはマレーシアの海洋安全保障能力の脆弱な隙間を突いたものであった。ベトナムとマレーシアの海軍力が向上し、中国の海上における拡張主義に効果的に対応できるようになる前の2年あるいは4年の間に、中国海軍が、南沙諸島の未占拠島嶼に新たに建造物を作ったり、係争海域において軍事プレゼンスを強化したり、あるいは南沙諸島の島嶼、岩礁、環礁などの周辺に主権を誇示する標識を設置したりすることは、十分あり得る。従って、南沙諸島海域における北京が事実上の覇権は、ハノイやクアラルンプールの海洋安全保障を浸食し、両国の正当なEEZの大部分は失われることになろう。ベトナムやマレーシアは、計画中の海軍建設計画が完成するまでに、中国海軍の地域の支配に屈する必要はない。ハノイとクアラルンプールは、いかなる冒険主義に対してもこれをチェックする暫定的な方策がある。例えば、両国海軍は、修理、訓練そして展開というサイクルを短縮して、哨戒活動期間を増やしたり、EEZの哨戒に沿岸警備隊の巡視船を利用したりすることができよう。更に、航空機による海洋監視活動を強化することもできよう。小国でも、中国に屈服してはならない。「護ることができなければ、保有していることにならない」というリアリズムの含意からすれば、必要な手段によって裏付けられた領域防衛の意思があれば、海軍力のバランスが安定するまでの間でも、北京を思い止まらせることになるかもしれない。

記事参照:
China’s Maritime Expansion: Exploiting Regional Weakness?

3月6日「米港湾、船舶の大型化に対応して拡充」(The Maritime Executive, March 6, 2014)

船舶が日々大型化している。Maerskの新型コンテナ船、Triple-E級は1万8,000TEUで、現在世界最大だが、南北アメリカには今サイズの船舶を受け入れられる港湾がない。世界最大の客船はRoyal CaribbeanのOasis級、MS Allure of the Seaで、いずれ船も拡張後のパナマ運河を通航できない。中国の中海集装箱運輸 (CSCL) は現在、1万9,000TEUのコンテナ船5隻を発注しており、2014年に1番船が就役し、残りの4隻は2015年第1四半期までに就役する予定である。この船は、全長400メートル、高さ30.5メートル、全幅58.6メートルである。米紙、The Wall Street Journalの報道によれば、現在、世界の船社が214隻のポスト・パナマックス級(1万3,200TEU)コンテナ船を発注しており、そのため、より小型の船舶が配船されつつあり、2013年に19隻が解撤され、2014年には40隻が解撤されることになっている。

このため、アメリカの多くの港湾が拡張を計画、実施しており、アメリカの港湾拡張費用は101億ドル以上に達する。東岸では、チャールストン、マイアミ、ノーフォーク、ボルチモア、ニューヨーク及びニュージャージー、サバンナそしてアトランタが各種の拡張工事を実施している。西岸では、ロサンゼルス、ロングビーチそしてオークランドが運用能力の拡充に多大の投資をしている。

記事参照:
How Ports are Dealing with Larger Ships

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子