海洋情報旬報 2014年4月1日~10日

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4月1日「フィリピンによる仲裁裁判所への提訴、中国に対する世論戦」(The Diplomat, April 1, 2014)

Web誌、The Diplomatの副編集長、Shannon Tiezziは、4月1日付けの同誌に、“The Philippines’ UNCLOS Claim and the PR Battle Against China”と題する論評を発表し、フィリピンによる南シナ海の領有権問題に関する常設仲裁裁判所への提訴は、中国との領有権を巡る抗争を世界に知らしめる世論戦の一部であるが、この裁判結果は南シナ海の領有権争いに法的な影響力を及ぼすであろうと指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピンが南シナ海の領有権問題に関して、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき中国との仲裁を求めて常設仲裁裁判所に提訴したが、これは大きな国際世論戦の一部である。フィリピンのデルロサリオ外相は3月30日、中国の「9段線」と南シナ海における領有権主張に反駁する、10巻、4,000頁超の覚書を、ハーグの常設仲裁裁判所に提出した。フィリピンは、中国によるフィリピンのEEZを含む南シナ海の広範囲に及ぶ領有権主張はUNCLOSに照らして無効である、と主張している。この提訴は、国際法の専門家が中国の南シナ海における領有権主張の是非を公式に判断する初めての機会となる。フィリピンのデルロサリオ外相は覚書に関する声明で、「この提訴の究極の目的は、我々の国益の保護である。それは、我々の合法的な領海を護ることであり、フィリピンの子供達の未来を護ることでもある。それはまた、南シナ海における全ての国にとっての航行の自由を保障することであり、地域の安全、平和及び安定の維持に資することであり、そして国際法に基づく正当で持続的な解決を求めることである」と述べている。

(2) 中国の日本に対する世論戦は取り上げられる機会が多いが、フィリピンが中国との領有権紛争について世論戦を仕掛けていることはあまり知られていない。フィリピンによる常設仲裁裁判所への提訴は、国際社会での世論戦の一環である。マニラは、この提訴によって有利な判決を引きだそうとしているばかりでなく、地域において自らを「物言う存在」として印象づけることを望んでいる。フィリピンの指導者たちは、中国が反証を提出することで仲裁裁判に参加することはないであろうと見ている。何故なら、反証はかえってフィリピンの勝利をより確実にするからである。法的決着は南シナ海における現状を物理的に変更するものではないが、マニラの主張が国際的に認知されることになり、フィリピンの世論戦の勝利といえる。

(3) しかし、仲裁裁判はフィリピンの戦略の一部に過ぎない。国際的なジャーナリストの関心を集める試みも行っている。フィリピンのアキノ大統領は2014年初め、大統領府で90分間も外国取材陣のインタビューに応じている。この中で大統領は、中国をナチス・ドイツに、そしてフィリピンをチェコスロバキアに例え、中国の領有権主張が反宥和的であり、「世界は、中国に対して『もうたくさんだ』と言うべきではないか?第2次大戦を防ぐために、ヒトラーを宥める狙いでチェコスロバキアのズデーテン地方を割譲したのを思い起こすべきだ」と強調した。フィリピンは、中国との紛争現場にも外国人ジャーナリストを連れて行っている。ロイターによれば、フィリピンは、中国と領有権争いをしている、Second Thomas Shoal(フィリピン名:Ayungin Shoal、中国名:仁愛礁)の拠点(座礁させた揚陸輸送艦)に物資を運ぶ船舶に取材陣を同乗させた。同礁を取り囲む中国船との衝突を回避するために補給船は、方向を変えざるを得なかった。この間、アメリカ、フィリピン及び中国の航空機は補給船上空を飛行した。確かに、この外国の取材陣を巻き込むというフィリピンの作戦は、国際社会に対して問題の所在を強く訴えるだけでなく、フィリピンの補給船に対する中国の強硬な対応を阻止することになるかもしれない。

(4) 一方の中国は、こうしたフィリピンの手法に怒りをもって対応した。中国外交部の報道官は最近の記者会見で、「物資輸送船に取材陣を同乗させるという今回のフィリピンの行為は、仁愛礁の領有権を不当に奪うために企画された策略である」と強く非難した。更に報道官は、「中国は、フィリピンが仁愛礁を奪うことを決して許さないし、ASEAN と中国が南シナ海での紛争を平和的に解決することを目指して 2002 年に合意した『行動宣言 (DOC) 』を無視して、フィリピンが同礁に建造物を建築することを許さない。フィリピンは、その挑発的な行動によってもたらされる全ての結果について責任を負わなければならない」と強調した。また、外交部洪報道官は3月30日、フィリピンによる仲裁裁判所への覚書提出に関して特別声明を発表した。この中で、報道官は、① 中国は南沙諸島と周辺海域に議論の余地のない領有権を有している、② 中国は国際的な司法の場による解決ではなく、関係当事国同士による直接解決を望んでおり、フィリピンの今回の覚書提出は、問題の当事国間での解決を規定したDOCの合意に違反している、と指摘した。

(5) 中国側の反対にもかかわらず、UNCLOSに基づく仲裁裁判は進行し、他の南シナ海の領有権問題にも影響を与える可能性がある。例えば、フィリピンは、スカボロー礁のような部分的に水没してしまう岩礁が200カイリのEEZや12カイリの領海の基点となり得るかどうかについて、明確化することを求めている。これに対する法的判断は、フィリピンと中国との領有権紛争だけでなく、南シナ海における各国の領有権主張において重要な法的意味を持つことになろう。デルロサリオ外相は、「2015年末以前に判決が出るとは予想しておらず、従って、世論戦を続ける時間はまだ十分に残されている」と語っている。

記事参照:
The Philippines’ UNCLOS Claim and the PR Battle Against China

4月4日「北極海の大陸棚延長申請、2015年春にもロシア」(РИА Новости, April 4, 2014)

このほど、ロシア天然資源環境相は、プーチン大統領との会談で、2014年秋にも北極海の大陸棚限界延長に関する申請の最終準備が整い、おそらく2015年春の国連大陸棚限界委員会で提出となる旨伝えた。

ロシアは2001年から、ロモノーソフ海嶺やメンデレーエフ海嶺を含む、化石燃料の豊富な大陸棚に対する(権利を)主張しているが、提出したデータが不十分であるとして、申請は一旦退けられている。研究者らによって、これらの海嶺がロシアの大陸棚の延長であることが立証できれば、燃料にして50億トンにおよぶ(天然資源環境省の資料による)、資源開発の優先権がロシアにもたらされることになる。

天然資源環境相によれば、「2014年夏に、あと1つ調査が予定されている。秋には申請の最終作業を行う計画で、これを終えれば提出の準備が整う」のだという。正式な申請時期については、「2015年春の提出が望ましい」としている。

記事参照:
Заявка на расширение границ шельфа РФ в Арктике будет готова осенью

4月6日「フィンランド、北方航路への連接に期待」(The Maritime Executive, April 6, 2014)

米カリフォルニア大学地理学博士課程のMia Bennettは、フィンランドに拠点を置く、The Arctic Corridorプロジェクトを率いる、Timo Lohiにインタビューを行い、それを踏まえて、フィンランドの北極圏への期待について、要旨以下のように述べている。

(1) The Arctic Corridorは、輸送路と資源開発地域であるとともに、国境を超えた新たな経済圏と見なされている。The Arctic Corridorプロジェクトは、北ラップランドのRovaniemi市とThe Regional Council of Laplandが出資して、5年程前に始まった。このプロジェクトは、北極海域の資源開発と北方航路 (NSR) の発展可能性を見込んで発足した。Lohiは、「新しい輸送ルートによりフィンランド、ノルウェーそしてヨーロッパが繋がることを期待している。輸送距離の短縮は、企業としてビジネスチャンスである」と語った。フィンランドの企業をNSRに連接させるために、フィンランドのRovaniemiとノルウェーのKirkenesの間を結ぶ鉄道建設構想が、このプロジェクトの重要部分となっている。このプロジェクトは、特に北部フィンランドでの鉱産企業の発展を視野に入れている。

(2) The Arctic Corridorはまた、ヨーロッパ市場を北極圏に連接するためのプロジェクトでもある。Kirkenes からRovaniemiまでの鉄道は、フィンランドの全鉄道網に繋がり、そしてバルト海域とその先の地域までの連接が可能になる。それ以上に重要なことは、The Arctic Corridorがノルウェー沿岸域を経由して、フィンランドを北極海に結びつけるキーウェーとなることである。もしフィンランドが鉄道によって北極海に繋がれば、北部フィンランドの資源輸出の可能性が大きく開かれるであろう。北フィンランドの地方自治体がThe Arctic Corridorプロジェクトに出資している所以である。

(3) The Arctic Corridorプロジェクトは、まだ予備的段階だが、北極海の輸送路としての可能性を活用しようとする、北極海に直接接していない国々の存在をも視野に入れている。このプロジェクトは、北極経済圏を、中国、韓国及び日本のような、“near-Arctic” 地域、そして “Nordic near-abroad” 地域といわれるエストニア、ラトビア及びリトアニアのバルト諸国にまで拡大していく可能性を開くものである。2014年後半に予定されている、リトアニアのKlaipedaの新しいLNGターミナルの開業と相まって、The Arctic Corridorプロジェクトはまた、バルト海諸国の天然資源の供給源を、ロシア以外に多様化することにもなろう。

(4) The Arctic Corridorプロジェクトの今後の目標の1つは、ノルウェーとの緊密な協力関係を築き、このプロジェクトにノルウェーを深く参画させることである。そのため、プロジェクトチームが北部ノルウェーの主要都市を訪問する予定である。アジア諸国では、韓国と中国が大きな関心を示している。一方、ロシアとは多くの協力を行っていないが、将来的には、シベリア横断鉄道との連接の可能性に関心を持っている。鉄道建設のための現地での準備作業は2016年から始まり、3年から4年の期間を見込んでいる。

記事参照:
Finland Wants More Arctic Action
Map: The Arctic Corridor project

4月7日「南シナ海の領有権主張国、中国の高圧的政策に対抗―セイヤー論評」(The Diplomat, April 7, 2014)

オーストラリアのThe University of New South Walesのセイヤー (Carl Thayer) 名誉教授は、4月7日付のWeb誌、The Diplomat に、“South China Sea: Regional States Push Back Against China” と題する論説を寄稿し、南シナ海における領有権主張国は中国の高圧的政策に対抗し始めたとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国とASEAN加盟国の当局者は3月18日、2013年9月に始まった南シナ海での行動規範 (COC) に関する協議を再開するために、シンガポールで会合した。この会議の9日前に、Second Thomas Shoal(フィリピン名:Ayungin Shoal、中国名:仁愛礁)周辺に展開する中国の公船が、同礁のフィリピン海兵隊の拠点への定期的な補給を妨害するという先例のない措置に出た。3月9日、Second Thomas Shoalのフィリピン海兵隊の拠点への定期的な補給のためSecond Thomas Shoalに向って航行していた2隻のフィリピンの国旗を掲げた民間船が、中国の2隻の沿岸警備隊(海警)の巡視船に阻止され、出港した港に戻るよう命令された。補給船は、Second Thomas Shoalの拠点、座礁させた揚陸輸送艦、BRP Sierra Madre(フィリピン海軍の現役艦)のフィリピン海兵隊への補給品を輸送していた。この事案は、中国の公船が物理的な妨害をした最初の事例であった。フィリピンは、駐比中国大使館幹部を外務省に呼び出し、抗議覚書を手交した。この中で、フィリピンは、中国公船の行動が「フィリピンの権益に対する明確で、緊急の脅威」であると非難した。米国務省報道官は、「これは、緊張を増大させる挑発的な行為である。南シナ海における領有権問題が解決されるまで、現状を維持しようとする関係当事国の努力に対する干渉があってはならない」と述べた。中国外交部は、フィリピンが2002年の南シナ海に関する行動宣言 (DOC) に違反してSecond Thomas Shoalに構造物を構築しようとしたと非難した。この発言は、DOCが出される3年前に、フィリピンがSecond Thomas Shoalを占有したという事実を無視している。その後、フィリピンは、空中投下による再補給を行い、3月29日には、再び船による補給を開始した。フィリピンの補給船は、中国の公船が追跡するには浅すぎる海域を通り抜けることによって補給した。この予想外の出来事に、中国外交部報道官は、フィリピンが中国の領域を不法に占有したとして非難した。4月初め現在も睨み合いが続いている。

(2) フィリピンは3月30日、10巻、4,000頁超の覚書を、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき海洋紛争を調停する常設仲裁裁判所に提出した。この覚書は当初1月に作成されたが、Second Thomas Shoal事案が書き加えられた。フィリピンは、提訴を取り下げ、2国間の直接交渉を再開するよう要求する、中国の激しい圧力にもかかわらず、覚書を提出した。中国外交部は3月30日、フィリピンに対して、DOCを遵守するよう求めるとともに、「紛争を解決するために、2国間での交渉という正しい道に戻るべきだ」と要求した。翌日、中国駐在のフィリピン大使が外交部に呼ばれ、仲裁裁判に対する「強い不満と絶対反対」を通告された。

(3) 一方、インドネシアの国防当局者は、南シナ海における中国の高圧的政策にとこれがインドネシアに及ぼす影響について懸念を強めている。インドネシア国軍司令官、モエルドコ大将は2月27日、インドネシアはナトゥーナ諸島周辺での軍事プレゼンスを増強すると発表した。同司令官によれば、ナトゥーナ諸島が戦略的に重要な位置にあることから、海上、陸上及び航空戦力の増強は、南シナ海において予想される不安定に対応するために必要であり、インドネシアとインドネシア国軍のための早期警戒システムとして役立つ。この発表は、同司令官が中国を訪問し、南シナ海の領有権紛争におけるインドネシアの中立を再確認して帰国した直後に行われたもので、特別な重みを持つものであった。インドネシアは、リアウ諸島のラナイ空軍基地への統合レーダーの設置に加えて、滑走路と誘導燈などの基地施設の大幅な改修工事を完了している。この基地には現在、Hawk 109/209型軽戦闘機が展開している。更に、インドネシアは、滑走路を延伸して、より高性能のF-16制空戦闘機とともに、Su-27とSu-30ジェット戦闘機を配備するためにハンガーを新設する計画である。インドネシアは、韓国から3隻のType-209在来型潜水艦とオランダから2隻のSigma級フリゲートを取得することになっている。

(4) インドネシアの政治・法務・治安担当調整相の防衛戦略を担当するザイーニ空軍准将は3月12日、中国がナトゥーナ諸島の一部を南シナ海における「9段線」の中に含めていることが「インドネシアの統一」に影響を及ぼす、と述べた。インドネシアは3月下旬、ASEAN加盟国と対話パートナーを含む17カ国が参加する多国間海軍演習、Komodoの開会式を開催した。この演習は、ナトゥーナ諸島を含むリアウ省周辺海域で行われる。統合海上演習の統括官、アマルラ准将は、Komodo 演習の背景にあるインドネシアの政治的狙いについて、単刀直入に語っている。インドネシアのメディアが 3月28日に報じたところによれば、アマルラ准将は、この演習の重点は災害救助活動における海軍能力にあるが、インドネシアはナトゥーナ諸島海域に侵出する中国政府の高圧的姿勢を警戒しており、インドネシアの国内法によってナトゥーナ諸島がインドネシアの一部であることを明確にする、と強調している。またアマルラ准将は、ナトゥーナ諸島がインドネシアの領海に含まれることを明示した演習海図を海軍が配布することになっており、「従って、全ての演習参加国は外交的にインドネシアの海洋境界を認識できるだろう」と語った。

(5) 一方、フィリピンのアキノ大統領は3月16日、フィリピン陸軍士官学校の卒業式のスピーチで、合計6億7,000万ドルに上る新たな武器調達契約を発表した。この予算は、12機の韓国のFA-50多用途戦闘訓練機(4億2,000万ドル)、8機のカナダのBell 412汎用戦闘ヘリコプター(1億ドル)、及び2機の対潜ヘリコプターの購入に当てられる。FA-50は2015年に導入され、数年前に解隊された戦闘航空団が復活、編成される。フィリピンは既に2017年までに400億ペソ(8億9,000万ドル)の支出を計画しており、2隻のフリゲート購入の入札は終わっている。また、5隻の巡視艇の取得のためにフランスと、数隻の多用途戦略輸送艦の取得について韓国と、それぞれ交渉中である。

(6) ベトナム紙、Thanh Nienの3月24日付けの報道によれば、ベトナムは、西沙諸島周辺海域における中国公船によるベトナム人漁師に対する暴行事案について、中国政府に調査を要求した。また、ベトナムは、漁具を漁獲の損失に対する賠償も要求した。その一方で、ベトナムは、Kilo級改良型(Varshavyanka級)潜水艦6隻の取得ペースを速めた。ロシアは3月2日、サンクトペテルスブルグの造船所で、3隻目の潜水艦、HQ184 Hai Phongを引き渡し、同艦は現在、海上公試中である。3月末には、2隻目の潜水艦、HQ183 Ho Chi Minh Cityがカムラン湾に配備され、4隻目の潜水艦、HQ185 Khanh Hoaがロシアのサンクトペテルスブルグの造船所で進水した。ベトナムは4月4日、カムラン湾で最初の2隻の潜水艦の艦旗掲揚式典を実施した。

(7) インドネシアは、マレーシアと同じように、自国管轄海域における中国の挑戦への対応に当たって、慎重であった。「穏便に、穏便に」というジャカルタのアプローチは、中国主導型の対決事案の減少には繋がっていないようである。中国は2014年になって、益々高圧的になっている。南シナ海上空へのADIZの設定権利の主張、南シナ海のほぼ60% 近い海域における漁業の禁止、マレーシア沖のJames Shoal海域における艦上での主権防衛宣言、Second Thomas Shoalの海兵隊へのフィリピンの補給に対する阻止行動、フィリピンの国連仲裁裁判への覚書提出に対する外交上の高圧的姿勢など、中国の公船と領有権当事国の艦船とのあまり公にならない遭遇事案と相まって、フィリピン、ベトナムそして注目すべきはインドネシアまでも対抗手段を推し進めている理由が、十分理解できる。

記事参照:
South China Sea: Regional States Push Back Against China

4月7日「ロシア、中国を視野にベトナムと連携強化―米専門家論評」(The National Interest, April 7, 2014)

米シンクタンク、The American Foreign Policy CouncilのStephen Blank上席研究員は、4月7日付けのThe National Interestに、“Russia and Vietnam Team Up to Balance China” と題する論説を寄稿し、ロシアは、中国を視野にベトナムとの連携と強化しているとして、要旨以下のように論じている。

(1) ロシアの東南アジア政策は、中国の台頭とアジアにおける安全保障の趨勢に対する対応を示している。その政策は、モスクワが全体として独自性と戦術的な柔軟性を追求するとともに、地域的安全保障課題に対する発言力確保の手段としてエネルギーと武器輸出に習慣的に依存していることを示している。更に、その政策は、他の大国と同じように、ロシアもアジアにおいて中国に対するヘッジ戦略と呼ばれるものを追求していること示している。即ち、一方では、それは、アメリカとの関係においては中国を支持しながら、他方ではアジアにおける中国の力を抑制しようとしているのである。ロシアがアジアに軸足を移動していることから、東南アジアの重要性が増している。その一環として、モスクワは最近、ベトナムのカムラン湾基地に加えて、セイシェルとシンガポールとの間で海軍基地について交渉する意向を明らかにした。当然のことだが、中国はこうした動きを歓迎していない。中国はアジア太平洋地域における安全と安定にロシアの協力を求めたが、ロシアは、アジアで中国の「弟分 (“junior brother”) 」になることを嫌っている。

(2) ベトナムは、中国を抑制するために提携相手を求めるロシアの努力を全面的に歓迎している。ベトナムのモスクワとワシントンとパートナーシップは、北京に対する牽制力を強めている。従って、(少なくとも米国に対して)中ロ友好関係が深化しているといわれるが、実際には、ロシアは、東南アジアにおける中国の侵出に公然と対抗して、ベトナムとのより深い政治軍事関係を促進している。北京は、南シナ海におけるエネルギー開発を中止するよう、モスクワに繰り返し要求してきた。しかし、モスクワは、南シナ海におけるエネルギー開発に関してベトナムに対する支援を強化するとともに、恐らく中国にとって不気味なことに、武器輸出と防衛協力を増大させてきた。ベトナムは、明らかに中国の脅威を抑止することを狙いとして、ロシア製兵器、特に潜水艦と飛行機の主要な顧客となった。ロシアとベトナムは、2001年以降「戦略的パートナー」であり、そして2012年には両国関係が包括的戦略的パートナーに格上げされた。両国の協力関係における最重要分野は、軍事部門である。ベトナムの国防相は、ロシアを、「軍事及び技術協力分野におけるベトナムの最も重要な戦略的軍事パートナー」と位置付けている。ロシアは、ベトナムの潜水艦基地と海軍艦艇の補修施設の建設を支援している。潜水艦基地は、ベトナムが南シナ海における権益保護のためにロシアから購入した、Kilo級潜水艦の基地となる。カムラン湾はロシアの海軍基地にはならないとしても、両国は最近、修理と乗組員の休養のためにベトナムの港湾にロシア艦艇が定期的に寄港する取りきめについて協議を始めた。ベトナムは、ロシアから、12機の新型SU-30MK2戦闘機を購入し、Kilo級改良型のVarshavyanka級潜水艦6隻も導入する。これらは、沖合油田開発に対する脅威に対処し、南シナ海におけるベトナムの海洋権益を擁護し、そして中国の高圧的攻勢を抑止するための、ベトナムの戦力近代化計画の一環である。こうしたベトナムのロシアとの軍事関係の強化は明らかに、南シナ海における中国の高圧的な意図と行動に対抗することが狙いである。ベトナムは、アメリカ、ロシア及びインドから外交的、軍事的支援を受けているだけでなく、ロシア、スウェーデン、イスラエル及びその他の国から武器を購入している。中国パワーに対抗するために、多くの国とのパートナー関係を構築しようとするベトナムの努力は、驚くには当たらない。

(3) しかし、ロシアの行動は、明らかに中国を驚かせ、うろたえさせた。ロシアの政策は全般的なモスクワのアジアへの「軸足移動」の一環であることが明白であり、恐らく中国は驚くべきではなかったであろう。太平洋におけるモスクワの行動は、中国の益々高圧的な政策が、その隣国とロシアを含む他のアジア諸国による、北京の政策を牽制するために協働する新たな方策を呼び起こさせるという、戦略的論理を裏付けるものであった。従って、中ロ友好関係は、少なくともアジアの地域的安全保障課題に関して、ある種の見せかけに過ぎないのではないか。そうだとすれば、中ロ両国の結び付きは、アメリカにとってそれほど危険でないかもしれない。しかし、アジアでは、ロシアや中国のような大国によって、更にはベトナムのような益々力を付けてきている中級パワーによって、既に複雑化しているアジアの安全保障課題に対する支援と影響力を巡る抗争に、一層拍車がかかることになるかもしれない。

記事参照:
Russia and Vietnam Team Up to Balance China

4月7日「時間と距離が課題―北極海の捜索救難活動」(Alaska Dispatch, April 7, 2014)

北極海では、各国の捜索救難 (SAR) 活動はどうのように調整され、遂行されるのか。4月7日付けの米紙、Alaska Dispatchは、“The tyranny of time and distance in Arctic SAR” と題する記事で、要旨以下のように報じている。

(1) 北極評議会で採択されたSAR条約*に列挙された、北極海域の主な合同救難調整センター (joint rescue coordination center)、海上救難調整センター (maritime rescue coordination center)、そして航空救難調整センター (aeronautical rescue coordination center) は、沿岸諸国の以下の各地に設置されている。

a.カナダ:JRCC Trenton

b.デンマーク:MRCC Grønnedal、RCC Søndrestrøm/Kangerlussuaq(以上、グリーンランド)、MRCC Torshavn(フェロー諸島)、MRCC Nuuk(グリーンランド、SAR条約には記載されてない)

c.フィンランド:MRCC Turku、ARCC Finland

d.アイスランド:JRCC Reykjavik

e.ノルウェー:Joint Rescue Coordination Center Bodø

f.ロシア:State Maritime Rescue Coordination Center、The Main Aviation Coordination Center for Search and Rescue、他にSAR条約には記載されていないが、北極海域に特化した特殊センターがMurmansk、Tiksi、Pevek及びDiksonにある

g.スウェーデン: JRCC Gothenburg

h.アメリカ:JRCC Juneau、ARCC Elmendorf(以上アラスカ)

(2) これらの救難調整センターは、実際の救難活動よりも、むしろ相互連絡と調整機能を果たしている。マレーシア航空機、MH370のケースのように、一時的なRCCは、事故現場の近くに設置される。オーストラリアの主要救難調整センターは首都キャンベラに位置しており、そのため飛行機が墜落したと見られる海域に近いパースに調整センターが開設された。パースは、地球上で最も孤立した大都市の1つだが、多くのインフラが整備された都市である。厳しい気象条件と孤立した地理環境下の北極海域で、同様の救難調整センターを想定することは難しい。

(3) 北極海域ではSARは、SARアセットをどれだけ投入できるかにかかっている。これらのアセットが事故現場の近くにあればある程、良い。アジアと北米間の北極海横断飛行ルートは、ルートの大部分が北極海沿岸のアメリカ、カナダ及びロシアの領空を通過する。しかしながら、この地域で展開できるSARアセットの大部分は、北部ノルウェー、スウェーデン、フィンランド及びロシアのコラ半島にある。これらの地域は、北極圏において最も人口密度の高い地域であり、飛行場、港湾及び道路などのインフラが整備されている。最も懸念される問題は、カナダ空軍が北極海域での災害に対応するためには、北極海域まで航空機で数時間を要する、ブリティッシュコロンビア州のTrenton基地やComox基地から発進しなければならないことである。カナダのNational Defense Centre for Operational Research and Analysisの研究によれば、極北地域での航空災害に対応するためのハブとして最適の場所は、YellowknifeとIqaluit(バフィン島)という。これらの場所には既に飛行場があり、カナダの主要RCCが設置されているTrenton基地より遥かに北極海域に近い。この研究によれば、Yellowknifeは対応時間の面で効果的であり、Iqaluitは費用対効果の面で適した場所である。人口稀少で広大なカナダの北極圏には整備された主要なインフラがないことから、新しい航空災害救難用のSAR施設の開設は当面期待できない。一方、ロシアは最近、ロシア極東地域のMagadanに6個目の航空SARセンターを開設した。

(4) アラスカRCC所長のウェスターランド中佐は、北極海域におけるSARでは時間と距離を克服することが課題である、と指摘している。数百マイル離れた地域のアセットより、北極海域における極地SAR能力への投資がこうした課題を軽減させることになるが、膨大な費用がかかる。この際、留意すべきは、対応時間が核心的問題であるとしても、SARアセットは必ずしも現場近くになくても良いということである。例えば、韓国と日本は、マレーシア航空機、MH370 の事故と何の関係もなく、しかも捜索拠点となったパースとは5000マイルも離れており、実際、マダガスカルの方が両国より現場に近い。しかし、日韓両国は、航空機捜索のための長距離の検索、レーダー及び通信能力を備えた航空機を派遣できる能力を持っている。マダガスカルやアフリカ東岸の諸国は、このような能力を持っていない。北極海域でも特にベーリング海で事故が発生した場合、砕氷船を保有する日本、韓国あるいは中国は、SAR作業への支援を提供することができるであろう。SARは、各国が自国のパワーの投射能力や軍事能力を寛大な方法で発揮することを可能にする。このような人道的な支援により、各国はソフトパワーの強化を図ることもできる。従って、SARは費用がかかるが、各国は、自国から遠く離れた遠隔地における災害に対しても人道的支援を行おうとするのである。

記事参照:
The tyranny of time and distance in Arctic SAR
Note*: The Arctic Council’s SAR Treaty

4月10日「北方航路、スエズ運河代替ルートではない―ロシア人専門家論評」(Bellona, April 10, 2014)

オスロに本拠を置き、環境問題に取り組む、Bellona Foundationは、4月10日付けのHPにロシア人専門家、Anna Kireevaによる、“Northern Sea Route ‘no Suez canal,’ but imperils the Arctic more and more”と題する論説を掲載し、北方航路は砕氷船が先導し、氷が溶けて安全な航行が可能になる季節に限って、十分利用可能な海上交通路となる可能性があるが、スエズ運河の代替ルートにはなり得ないとして、要旨以下のように述べている。

(1) ロシア政府が4月8日にムルマンスクで“Arctic Logistics”と呼ばれる会議を開催したが、会議参加者によれば、北方航路を西から東への持続的な航路とするための最も重要な措置の1つとして、この航路に進入できる船舶を認可する法的基準が設定された。この規制は、あらゆる船籍の船舶に北方航路への進入を等しく認めているが、進入船舶の耐氷能力についての規定はない。従って、耐氷能力を持つ船体構造であるか否かにかかわらず、あらゆる船舶が、6月から11月までの間、北方航路を自由に航行できることになる。しかしながら、耐氷基準の規制がないということは、重大な問題になりかねない。実際、2013年9月に、耐氷構造でないクルーザー、Nordvik号が船体を損傷し、数日間の漂流した事案が発生した。この事故によって、Nordvik号が耐氷能力を備えていないにもかかわらず、砕氷船の先導なしで北方航路の航行が許可されたという問題が浮き彫りになった。ロシアの船員労働組合は、こうした船舶の北極海域での航行を許すべきではないと非難している。現状では、どの船舶が北方航路を航行できるかは、ロシア政府の判断に委ねられているものの、Nordvik号の事故を見る限り、船舶の航行許可が従来通りの手続きで適切なのかどうかは不透明なままである

(2) 前出の会議でロシア当局者が明らかにしたところによれば、2012年の北方航路通航貨物量は389万5,9000トンで、2013年には391万4.001トンで、やや増加した。しかしながら、この数字はミスリーディングである。この数字は、約5,600キロに及ぶ北方航路全行程を通航した貨物量ではなく、航路内の各港湾間の輸送貨物量である。北極評議会によれば、全行程の通航貨物量は、2012年は126万トンで、2013年は7.5%増の136万トンであった。スエズ運河を通航した貨物量は2013年では7億5,340万トンで、北方航路とは比較にならない。

(3) 北方航路の通航船舶は、ロシア連邦政府の北方航路管理局が統制している。通行許可は、船主が提出した申請に基づいて許可されるが、申請に当たっては、北方航路の諸規則の遵守を誓約しなければならない。北方航路管理局は、2013年には718件の申請を受け付け、当初83隻の船舶の通航が拒否された。これら船舶の申請については、そのほとんどが追加書類の提出を求められ、最終的にはわずか18隻、全体の3.5%が不許可になった。北方航路内の各港湾間を運航するだけの船舶に同様の申請手続きと耐氷性能を求められるかどうかは明確ではない。

(4) 北方航路は実際に欧州からアジアへの最短ルートなのか。デンマークの国際問題研究所 (Danish Institute for International Studies: DIIS) は2009年に、“Are the Northern Sea Routes Really the Shortest?” と題するレポート*を公表している。このレポートは、世界で最も航行量の多い、欧州・アジア間、北米・アジア間、及び欧州・北米間の14の航路を取り上げ、パナマ運河経由、北西航路、北方航路、及びスエズ運河・マラッカ海峡経由の場合の航行距離を比較している。それによれば、北西航路を選択した場合に他の3つの航路と比較して最短の航行距離となるのは、全14航路の内、わずか4航路に過ぎない。(備考参照)

記事参照:
Northern Sea Route ‘no Suez canal,’ but imperils the Arctic more and more

備考:北方航路は最短航路か(単位:キロ)
a140401
Source: DIIS Brief, Are the northern sea routes really the shortest?, March 2009, p.2より作成。
Note*: The report is available at following URL;
http://subweb.diis.dk/graphics/Publications/Briefs2009/sac_northern_searoutes.pdf

4月8日「ロシア海軍、30年ぶりの世界一周航海を実施」(ИТАРТАСС, April 8, 2014)

ロシア・バルチック艦隊の海洋調査船“アドミラル・ウラジミルスキー”は、2014年8月から12月まで、世界一周航海を実施する。ロシア海軍上級大佐によれば、このような任務は1983年を最後に30年ぶりだという。

調査船は、サンクトペテルブルクを出港した後、北方航路を通航、太平洋、大西洋を横断し、ペテルブルクに帰港する。4ヶ月以上におよぶ世界一周航海で最も重要な任務は、北方航路での調査となる。艦上では専門家が、水文、気象、海図などの調査や、海流の観測、海洋生物の観察などを実施する。船は現在、世界一周航海に向けて、サンクトペテルブルクで修理を受けており、安全確保に関わるシステムの刷新や、あらゆる緯度での作業に対応できるよう、設備のアップグレードなどを行っている。

記事参照:
Российские военные моряки впервые за 30 лет совершат кругосветное плавание

410日「クリミアの造船業、造船企業発展計画に-専門家」(ИТАР-ТАСС, April 10, 2014)

4月10日、サンクトペテルブルクで開催された「ロシア造船フォーラム」で、造船・船舶修理技術センター(Центр технологии судостроения и судоремонта)のチーフエンジニアは、「クリミアの主な造船所は高い生産能力を有しており、再建後は、アゾフ海・黒海エリアの造船企業発展計画で有効に活用される可能性がある」との見解を述べた。また、「わが社はかつて、クリミアの工場再建に加わっており、その再建事業の資料所有者である。そのため、クリミアの造船所に関して必要な調査を行う際は、それらが再建プロジェクト設計資料となり得る」と指摘した。チーフエンジニアは、セバストーポリ造船所(Севастопольский морской завод)は今後、船舶修理に特化すべきで、さらにその後、地域の船舶修理発展枠組みのネットワークに加わるべきとの考えを述べ、また、フェオドーシヤの造船会社、海(Море)についても言及し、水中翼客船の建造に豊富な経験を蓄積しており、高速船の建造に関しては、将来性のある産業計画の優先分野となる可能性があるとの見通しを示した。

セバストーポリ造船工場は、2013年に創立230周年を迎えた。工場は、大型フローティングクレーンの製造と修理を専門としていた。海社においては、巡視船や、Pomornik型エアクッション揚陸艦の建造を行っていた。

記事参照:
Эксперт: судостроение Крыма войдет в программу развития предприятий отрасли

4月10日「米海軍、最新揚陸強襲艦受領」(World Maritime News, April 11, 2014)

米ミシシッピー州パスカグーラのIngalls Shipbuildingは4月10日、新型強襲揚陸艦、USS America (LHA 6)を米海軍に引き渡した。同艦は2014年2月に海上公試を成功裏に終えており、今度、乗組員が艦上で各種の訓練を行い、2014年後半にサンフランシスコで就役する。同艦は就役後、海兵遠征攻撃軍の旗艦となり、人道的支援、災害救助から陸上部隊に対する航空支援やその他の戦闘任務において、海兵隊遠征部隊を戦略拠点に揚陸させる。America級は、全長844フィート、全幅106フィート、排水量4万4,971トンである。同艦はガスタービン・エンジンを搭載し、最大速度は20ノットを超える。乗組員は1,059人で、搭載兵力は1,687人である。同艦は、海兵隊ヘリ、MV-22 Osprey及びF-35B統合攻撃戦闘機を装備する海兵隊遠征部隊を乗艦させることができる。

記事参照:
U.S. Navy Takes Delivery of Newest Ship
Photo: USS America (LHA 6) at builder’s trials in the Gulf of Mexico

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子