海洋情報旬報 2014年5月11日~20日
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5月12日「中国の石油掘削リグ設置の狙い―セイヤー論評」(The Diplomat, May 12, 2014)
オーストラリアのThe University of New South Walesのセイヤー (Carl Thayer) 名誉教授は、5月12日付のWeb誌、The Diplomat に、“China’s Oil Rig Gambit: South China Sea Game-Changer?” と題する論説を寄稿し、中国が5月2日、ベトナムのEEZ内の143開発鉱区に石油掘削リグ、HD-981を設置したことは、中国が他国のEEZ内に当該国の事前許可なく掘削リグを設置する初めてのケースで、予期せぬ出来事であり、挑発的で違法であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中越関係は、2013年10月に李克強首相がハノイを訪問して以来、良好な方向に向かっていた。李首相のハノイ訪問時、両国は、海洋における問題について前向きな討議を行うことで合意に達した、と発表していた。更に、ベトナムが中国の前例のない措置を正当化するような明白な挑発行為をとっていないことからも、今回の中国の行動は予期せぬ出来事であった。中国の掘削リグの設置が挑発的であるのは、7隻の中国海軍戦闘艦を含む、80隻に及ぶ艦船がこの掘削リグに随伴しているからである。しかも、中国の行動は、国際法に照らして違法である。中国外交部報道官は、掘削リグの設置は中国の領海内で行われており、ベトナムと協議することはない、と強調した。言い換えれば、北京は、ベトナムとの領土問題が存在しないと主張することで、尖閣諸島に対する日本と同じ立場をとったということになる。
(2) 中国は掘削リグの設置海域を領海内と主張するが、143鉱区の12カイリ以内にこの主張の根拠となる中国の陸地は存在しない。中国の声明は、その主張の根拠として、海南島ではなく、西沙諸島に言及している。一部の専門家は、中国の主張の根拠として、中国が 1996年に、Triton 島を含む西沙諸島周辺に領海基線を設定したことを挙げている。彼らは、中国の主張がTriton 島(中国名:中建島)とその周辺海域、即ちその大陸棚とEEZを論拠となし得る、と見なしている。他の専門家は、1996年の領海基線は国連海洋法条約 (UNCLOS) 第8条*の規定に準拠しておらず、従って、143鉱区に対する合法的な主張の根拠とはならない、と指摘する。前者の主張を受け入れるとすれば、中国の想定EEZはベトナムが公布したEEZと重複することになる。このことは法的対立を招くことになる。国際法は、両当事国に対して、武力の行使あるいは武力による威嚇を自制するとともに、現状の変更を招くような如何なる行動もとらない、暫定的な合意を目指すことを慫慂している。143鉱区における中国の掘削リグの設置と80隻に及ぶ護衛艦船は、明らかに国際法に違反している。
(3) 中国の高圧的な行動の動機と目的について、専門家の意見が分かれている。主に3つ解釈がある。
a.第1の解釈は、143鉱区へのHD-981の設置を、2012年半ばにベトナムが海洋法を公布したことに対する、中国の必然的な対応と見るものである。採択直後に、中国海洋石油総公司 (CNOOC) は、南シナ海のベトナムのEEZ内にベトナムが設定した開発鉱区と重複する開発鉱区を設定した。この解釈によれば、現在の対立は、CNOOCがこれらの鉱区を設定し、そこでの開発を始めたためということになる。CNOOCの見解によれば、143鉱区は中国の管轄海域にある。中国の立場から見れば、143鉱区での商業開発行動は、主権的管轄権に対するベトナムの主張を切り崩すことになろう。掘削リグ護衛に展開した80隻に及ぶ艦船の隻数と組成を考えれば、この解釈は疑問である。これは明らかに、通常の商業的行為というよりは、ベトナムによる自国のEEZ防衛を妨害する予防行動である。また、北京の外交筋は、CNOOCが商業的には確信が持てない場所にもかかわらず、143鉱区に掘削リグの設置を命じられたと漏らしている、と語っている。別の専門家は、掘削リグ設置場所で石油、天然ガスが発見される可能性は極めて低い、と指摘している。
b.第2の解釈は、中国の行動を、近傍鉱区における米石油会社、Exxon Mobil Corp. (XOM)による開発への対応と見るものである。この解釈はあり得ないように思われる。MOXは、2011年から119鉱区において掘削している。また、143鉱区への掘削リグの設置がMOXの開発を牽制することになるのか不明である。中国の行動は、不適切で逆効果であるように思われる。143鉱区は、アメリカの国益に直接影響しない。中国のMOXの開発に対する干渉は、アメリカの国益には「妨害されない合法的な商業活動」が含まれるとのオバマ政権の声明に対する、直接的な挑戦となろう。
c.第3の解釈は、中国の行動を、最近のオバマ大統領の日本、韓国、マレーシア及びフィリピン訪問に対する、予め計画された対応と見るものである。オバマ政権は、大統領の歴訪に先立って、中国の「9段線」を批判した。そしてオバマ大統領はこのアジア歴訪中、威嚇や強制によって領有権紛争を解決することに反対を表明するとともに、尖閣諸島問題に対する日本への支持やフィリピンに対する同盟のコミットメントを確認した。第3の解釈によれば、中国は、オバマ政権のアジアへの再均衡化戦略の主たる前提に直接対抗することを選択したということになる。中国は、オバマ大統領の言明と中国の領有権主張に対抗するアメリカの能力とのギャップを突くことを選んだ。この解釈を支持する一部の専門家は、中国はシリアとウクライナの危機におけるオバマ大統領の不作為に勇気づけられた、と見ている。従って、中国は、域内諸国にアメリカが「張り子のトラ」であることを見せつけるために、掘削リグ設置を巡る危機を演出した、というのである。この解釈は説得力があるが、 この危機の焦点が何故ベトナムかという疑問には答えていない。
(4) ASEAN外相会議は5月10日の声明で、「地域の緊張を高める南シナ海での開発に対して深刻な憂慮」を表明した。この声明は、南シナ海に関する個別声明という点で重要である。この声明は、ベトナムを暗に支持しており、一方で中国を名指ししてはいないが、関係国に対してUNCLOSを含む国際法に準拠した行動を求めるとともに、武力の行使や威嚇によらない平和的手段による紛争の解決を求めるなど、ASEANの基本的政策を強調している。この声明はまた、西沙諸島とその周辺海域を含む領有権紛争を、中国とベトナムの2国間問題と見なしてきた、ASEAN各国の立場の変化と見ることもできるかもしれない。
(5) ベトナムは、船舶に衝突するという中国の戦術に、繰り返し対抗してきた。CNOOCの掘削リグ周辺海域における中越間の最近の膠着状態は、事故、誤算、あるいは最悪の場合、武力行使に至る可能性がある。中越両国は恐らく、今回の事態が武力行使に拡大しないように、事態を管制することになろう。既に、中越両国間では話し合いが行われており、またベトナムはハイレベルの特使受け入れを中国に要請した。中国は掘削リグの設置を発表した時、この作業は8月15日に終了すると述べた。このことは、中越両国に対して、143鉱区を巡る対立を調整し、管制するとともに、事態終焉に向けての双方のメンツを保つ手段を見出す、十分な時間を与えることになろう。
記事参照:
China’s Oil Rig Gambit: South China Sea Game-Changer?
備考*:国連海洋法条約8条の1項は、第4部(群島国)に定める場合を除くほか、領海の基線の陸地側の水域は、沿岸国の内水の一部を構成する、と規定している。
5月13日「中国の石油掘削リグ設置、ベトナム国内で起訴すべき―カナダ専門家提唱」(PacNet, Pacific Forum CSIS, May 13, 2014)
カナダのシンクタンク、The Centre for International Governance InnovationのJames Manicom研究員は、米ハワイのPacific Forumの5月13日付けのPacNetに、“China and Vietnam Clash in the South China Sea”と題する論説を発表し、ベトナムは中国の石油掘削リグの設置に対して、掘削リグを設置した中国海洋石油総公司をベトナム国内で起訴すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) ベトナムは、今回の中国海洋石油総公司 (CNOOC) の石油掘削リグの設置に対して、軍事同盟国がないこと、ASEANの不統一、そして中国に比べて脆弱な海軍力などの理由から、行使できる選択肢が限られている。ベトナムは、ロシアからKilo級の潜水艦を購入するなど、この数年間軍事力増強のための投資を続けてきたが、中国の軍事力に対抗するにはまだ不十分である。ベトナムが中国に掘削リグの撤去を強要する軍事力や政治的意思を持つようになるとは考えにくい。更に、両国の軍事的衝突がもたらす経済的損失は、両国間の多様な経済的結び付きなどを考えれば、壊滅的なものとなろう。他方、ベトナムは、中国の動きを容認するとともに、日本が2008年に東シナ海での中国との共同開発を目指したように、CNOOCの掘削作業に協力することも可能である。 CNOOCは、掘削海域がベトナム以外の市場から距離があるために、ベトナム国営のPetroVietamとパートナーシップを組む可能性もある。しかしながら、このような方策をとれば、将来的には、日本が経験したように、中国が同様の動きを繰り返す可能性もある。
(2) 第3の選択肢は、税金・関税の未払い、ベトナム政府の法的許可を得ていないこと、その他のベトナムの法令に違反していることを理由に、CNOOCをベトナム国内の裁判所に起訴することである。この選択肢は、3つの理由から理想的である。第1に、CNOOC に財政負担を課すことで、ベトナムにおける将来のCNOOCのビジネス活動を制限することができ、ベトナムの外交攻勢に牙を与えることになる。更に、CNOOC が有罪となれば、ベトナムが掘削リグを担保として差し押さえる法律的根拠にもなり得る。もっとも、実際の差し押さえは、中国との武力衝突を招くことになろう。第2に、ベトナムは、道義的に優位な立場に立てる。ベトナムは、権威主義的な非西欧型国家ではあるが、CNOOCを起訴することで、法の支配と紛争の平和的解決にコミットする国家であることを誇示することができる。最後に最も重要なことは、このような解決策こそ、中国の行動に懸念を抱くアメリカや多くの域内諸国の意向と完全に一致していることである。オバマ大統領は4月末のアジア歴訪で、日本、フィリピン、マレーシアの各国から、同地域での海洋紛争は国際法や仲裁により平和的に解決するとのコミットメントを得た。特に、日本の安倍首相は、地域の海洋秩序は法の支配を基礎とすべきであると訴えた。ベトナムの動きはこれらの宣言に見られる地域の思いにかなうものであり、この地域で中国を一層孤立させることができる。
(3) 要するに、中国を孤立させるためにベトナムが国内法のプロセスを活用することは、中国に更なるエスカレーションの口実を与えることなく、中国の行為を容認しないことが可能になるのである。そして、この方法は、今夏のASEAN首脳会談など、中国も参加する会議において、ベトナムがイニシアチブをとるための先行的な布石となろう。そして、ベトナムはいずれ、考えを共有する地域諸国と協力して、中国を一層孤立させるために国際的な法的プロセスを導入するとか、あるいは中国を提訴したフィリピンと連携することが期待できよう。
記事参照:
China and Vietnam Clash in the South China Sea
5月13日「何故、中国はベトナムの管轄海域に石油掘削リグを設置したのか」(The Diplomat, May 13, 2014)
Web誌、The Diplomatの副編集長、Ankit Pandaは、5月13日付けの同誌に、“Why Did China Set Up an Oil Rig Within Vietnamese Waters?”と題する論説を発表し、中国がベトナムの管轄海域に石油掘削リグを設置した理由について、要旨以下のように述べている。
(1) 誰が、何時、どのようにベトナムの管轄海域に中国のHD-981石油掘削リグを設置したかを、包括的に説明するコメンテーターは多い。しかし、何故中国がアジア太平洋地域で挑発的行動を繰り返すのか、その理由に関しては依然、疑問である。中国内部の意思決定プロセスの不透明性の故に、この疑問に答えることは極めて難しい。しかし、多くの兆候は、掘削リグを巡るベトナムとの危機がASEAN諸国とアメリカの決意を試すために作為されたことを示唆している。この危機はまた、北京にとって、中国の海洋における領有権主張に対する国際的な反応を評価する機会ともなっている。
(2) 一部の専門家は、中国海洋石油総公司 (CNOOC) が石油掘削リグ、HD-981の設置を決定したのは、領有権主張の計画的な動きだと分析する。CNOOCは国営企業であるが、炭化水素埋蔵量が疑問視されるこの海域に10億ドルの資産を移動させる決定がもたらす外交的な危機を考えれば、この移動には計画的で政治的な側面が読み取れる。掘削リグの移動に伴い、およそ80隻の中国海軍と沿岸警備隊の艦船が出動したという事実は、中国がこの海域における領有権主張を推し進めるための戦略的圧力を作為しているという見方を裏付けるものである。
(3) 中国が何故ベトナムとの対決を選んだかという疑問に答えることは、もう少し簡単である。既に、何人かの専門家は、2013年秋以降の両国間の関係改善を考えれば、中国がベトナムとの領有権紛争をエスカレートさせることで、国際社会の虚を突いたことに注目していた。その上、 ベトナム共産党と中国共産党の間には、ある程度の仲間意識も存在する。中国が突然、潜在的な抗争関係を表面化させて、比較的安定していた両国関係を危機に晒したことは、厚顔かつ無責任に見えた。また、もし中国がアメリカとASEANの決意を試すために南シナ海における領有権紛争をエスカレートさせるとしても、恐らくベトナムは最も適切な相手であった。ベトナム国内には、中国との緊密な関係を維持すべきか、あるいは西側諸国との緊密な関係を目指すべきかについて、論議があり、その中で、中国寄りの主張がより影響力を持ちつつあった。このような状況を見て、中国は、掘削リグ設置という挑発を行っても、ベトナムは力ではなく言葉による抗議と自制的な対応に止めるであろうとの確信を持って、この賭けに出た。
(4) 中国がフィリピンなどの、この地域におけるアメリカの同盟国との賭けに出るためには、アメリカがこの地域における自らの国益を護る決意があるかどうかを、まず見極めておかなければならない。アメリカは、フィリピン、韓国及び日本に対して条約上の義務を負っている。特に西沙諸島を巡るベトナムと中国との紛争のように、南シナ海におけるこれら諸国以外の紛争に対しては、アメリカが取るべき行動は、アメリカがこれまで自ら規定してきた、航行の自由、全ての紛争の平和的解決、そして紛争解決のための武力行使や威嚇に反対という、この地域における国益を護り通す決意を誇示することである。中国は、HD-981の設置によって、これら3つの国益に挑戦している。更に、当該海域における米企業、ExxonMobilの存在を考えれば、HD-981は、この地域におけるアメリカの商業的利益も侵害している。これまでのところ、中国の行動を「挑発」と決め付ける声明を発しただけのアメリカの対応では、将来中国が同様の行動を取ることを抑止するには不十分である。
(5) 中国は、オバマ米大統領のアジア歴訪直後、そしてミャンマーで開催予定のASEAN首脳会談直前というタイミングで、この強圧的な行動に出た。そうすることで、中国は、国際的に大きな関心と批難を受けるというリスクを犯した。しかしながら、ASEAN首脳会議の声明に見られるように、中国は、南シナ海における中国の高圧的姿勢に対抗するために、域内の指導者が共同戦線を構築するところまでには至っていないとの確証を得た。同様に、世界の警察官としての疲弊と財源不足に苦慮するアメリカの掘削リグ設置に対する無作為は、シリアやウクライナなどのグローバルな危機と同じように、政治的緊急性のないものと見なしていることを示している。中国は、アメリカの同盟国や主要なパートナーを目標としないことで、この地域における国益を主張できないアメリカを印象付けようとしている。しかし、このことがもたらす否定的な影響は、中国との領有権紛争に関わる域内の他の諸国がアメリカによる安全の保証への依存を軽減するために一方的に軍事力強化を進め、それが結果的に中国の将来の頭痛の種になりかねないということである。掘削リグ、HD-981の設置は、一方的な領有権主張のごり押しという点で東シナ海における防空識別圏(ADIZ)の設定と軌を一にする。中国は、掘削リグを8月まで当該海域に留めることを明らかにしている。いずれにせよ、今回の掘削リグの設置は、中国が他国のEEZ内に設置した初めての事例となった。一方、ベトナムは、中国との武力衝突も懸念される、かなりの海洋能力を持っており、決して与しやすい国ではない。この6カ月間、中国は、領有権主張においてこれまで以上に高圧的になってきたが、今のところは、功を奏しつつある。
記事参照:
Why Did China Set Up an Oil Rig Within Vietnamese Waters?
5月13日「米海軍、1ペニーで退役空母解撤へ」(Marine Log, May 13, 2014)
米海軍は、1994年9月30日に退役した空母、USS Saratoga (CV 60)を解撤し、リサイクルする経費として、メキシコ湾に面したテキサス州ブラウンズヴィルのESCO Marineに1ペニーを支払う。この契約はESCO Marineの提案によるもので、同社は解撤によって出るスクラップ金属の売却によってペイすると見積もっている。海軍によれば、これは売却契約ではなく、これまでの最低価格の調達契約で、USS Saratogaの(ロードアイランド州ニューポートからの)曳航、解撤経費としてESCO Marineに支払うが、解撤中の所有権は海軍に属する。一方、同社は、スクラップ金属の所有権を有し、これを売却することで経費を賄う。3隻の退役空母の解撤に関する契約はこれが2つ目で、最初の契約はブラウンズヴィルのAll Star Metalsとの間で、USS Forrestal (AVT 59) の曳航、解撤契約が2013年10月22日に締結された。3つ目の契約は、USS Constellation (CV 64) の曳航、解撤について、ブラウンズヴィルのInternational Shipbreaking Ltd.との間で交わされることになっているが、同社施設のセキュリティー・クリアランスが得られるまでペンディングになっている。
記事参照:
ESCO Marine to recycle former USS Saratoga
5月14日「中国、南沙諸島環礁で埋め立て工事―フィリピン外務省確認、画像公表」(GMA News.com, May 14, and May 15, 2014)
フィリピンのデルロサリオ外相は5月14日、中国が実効支配する南シナ海のJohnson South Reef(フィリピン名:Mabini Reef、中国名:赤瓜礁)で始めた埋め立て工事に対して、フィリピンは4月4日に抗議の口上書を北京に手交したが、中国側はこれを拒否したことを明らかにした。外相は、中国はJohnson South Reefに滑走路を建設しているのかとの記者の質問に、「それも1つの可能性だ。我々は、中国の意図を正確には判断できない」と答えた。外務省報道官は、「中国の行為は、行動宣言 (DOC) の精神に反する。直ちに中止すべきだ」と批判した。外務省によれば、中国船が埋め立てているJohnson South Reefの面積は最大31ヘクタールに及ぶと見られる。
フィリピン外務省は5月15日、Johnson South Reefで中国が始めた埋め立て工事について、2012年3月13日から2014年3月11日までの画像を公表した。外務省によれば、フィリピンの哨戒機が6カ月前に埋め立て工事を確認した。フィリピンは、Mabini Reef(赤瓜礁)はパラワン島から300キロの位置にあり、国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定に基づいてフィリピンのEEZと大陸棚にあると主張している。一方、ベトナムも領有権を主張し、軍隊を駐留させていたが、1988年に中国軍との戦闘でベトナム側に64人の戦死者が出、以後、中国の実効支配下にある。フィリピン外務省報道官は5月15日、Mabini Reef(赤瓜礁)を環礁から島に変えようとする、中国の南シナ海における露骨な現状変更行為に懸念を表明した。報道官は、「中国に対する抗議の口上書で、この埋め立て工事は(フィリピンが提訴している)常設仲裁裁判所での審議に影響するであろうと指摘した。この工事は、常設仲裁裁判所の判事を困惑させることになろう」と語った。フィリピンは、3月末にハーグの常設仲裁裁判所に提出した覚書に、Mabini Reef(赤瓜礁)の状況について言及している。
記事参照:
PHL protests Chinese construction on Mabini Reef
China violated sea code with construction activity, DFA says
Photo: One of several photographs gathered by PHL intelligence sources and released by the Department of Foreign Affairs on Thursday, May 15, shows a concrete structure with a helipad constructed by China on Mabini Reef (Johnson South Reef).
One of several photographs gathered by Philippine intelligence sources and released by the Department of Foreign Affairs on Thursday, May 15, shows the extensive reclamation being done by China on Mabini Reef (Johnson South Reef). A building and a runway are also seen on the reef.
And see also video: DFA, naglabas ng mga litratong nagpapakita ng reclamation ng China sa Mabini Reef
5月14日「フィリピン、米軍にパラワン島の基地提供へ」(GMA News.com, Reuters, May 15, 2014)
フィリピン国軍のバウチスタ参謀総長は5月14日、フィリピンはパラワン島の未完成の海軍基地を米軍に提供することで、南シナ海に近接した基地に米軍のプレゼンスを期待している、と語った。フィリピンは4月末に、アメリカとの間で軍事協定、Enhanced Defense Cooperation Agreement (EDCA) に調印し、米軍にフィリピン国内の基地施設に対する幅広いアクセスを認めた。バウチスタ参謀総長は、EDCAによって、(南シナ海に面した)パラワン島中部のOyster Bayの未完成の基地施設の整備がアメリカの資金援助によって促進され、同基地が両国海軍の主要作戦基地になることを期待している、と語った。Oyster Bayから南沙諸島までの距離はわずか160キロである。パラワン島のフィリピン海軍部隊司令官は2013年10月に、Oyster Bayを「ミニ・スービック (“mini-Subic”) 」にする計画を明らかにしている。一方、スービック湾のかつての米海軍基地は現在では自由貿易港だが、海空軍基地として整備される計画である。バウチスタ参謀総長はまた、マニラ北方の(南シナ海に面した)ザンバレス州の基地、マニラ北方の(フィリピン海に面した)ヌエヴァ・エシハ州のFort Magsaysayにある陸軍ジャングル戦訓練基地の使用についても、アメリカに提案している、と語った。
記事参照:
PHL may offer US naval base on western Palawan island
Map: Oyster Bay
5月14日「中国の石油掘削リグの南シナ海係争海域への設置、善隣友好外交に疑念―ベトナム人専門家論評」(RSIS Commentaries, May 14, 2014)
ベトナム外交学院南シナ海・東海研究所のNguyen Hung Son副所長は、シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の5月14日付けRSIS Commentariesに、“China’s Oil Rig Move: Casting Doubt on Neighbourliness”と題する論説を発表し、中国が南シナ海の係争地域に石油掘削リグを設置したことは北京の善隣友好外交に対する疑念を高め、中国に対するASEANの期待を裏切ったとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、ミャンマーでのASEAN首脳会談の直前に、ベトナムのEEZに深く入り込んだ海域に石油掘削リグを設置した。この中国の行動は、ASEANと中国の関係を改善し、自制と相互利益の協力を近隣諸国と約束することで域内における信頼を回復するために、中国が2013年以来進めてきた外交措置とは完全に矛盾している。
(2) 中国の王毅外相は2013年5月に外相としての最初の訪問先としてASEAN諸国を訪れ、ASEANに期待感を持たせた。中国は、域内外交を最優先し、ASEANを有望な戦略的なパートナーと見ていた。ASEANは、2013年10月の習近平国家主席と李克強首相の東南アジア訪問を心から歓迎した。ASEANは、この地域の将来に関する中国の構想と提案に期待した。ASEANは、ASEANと中国が信頼関係を醸成し、善隣友好を促進し、試練を共にしようと呼びかけた、習近平主席のインドネシア国会での歴史的演説を歓迎した。更に、ASEAN・中国戦略的パートナーシップ10周年記念に際して、李克強首相が、共通の協力的安全保障を促進する善隣友好協力条約の締結によって、ASEAN・中国関係を黄金の10年からダイヤモンドの10年にしようと提案したことで、ASEANは一層力づけられた。中国はまた、15世紀の鄭和提督による東南アジアへの平和な航海に触発された、21世紀の海洋シルクロード構想について、新しい領土の獲得を目指したものではなく、通商と中国文明の伝搬を目指したものであることを明らかにした。
(3) こうした中国の指導者による外交ステートメントを前にして、ASEANは、中国が近隣諸国との海洋における領有権紛争に対する方針を変えつつある、との期待感を抱いた。ASEAN諸国の指導者は次第に、中国の夢が東南アジアの夢ともなり得るとの確信を抱き始めた。ASEANは、中国の新指導部との信頼関係を醸成し、友好関係を固めるために、あらゆる機会を捉えて、中国のステートメントに応えてきた。ASEANは、中国の新しい友好条約提案を評価し、ASEAN・中国海洋協力パートナーシップ構想を支持した。また、ASEANは、南シナ海におけるASEAN・中国の行動宣言 (DOC) の全面的かつ効果的な履行に合意するとともに、積極的に信頼醸成措置を提案した。更に、ASEANと中国は、待望久しい南シナ海における法的拘束力のある行動規範 (COC) の協議を開始した。
(4) こうした状況下で、南シナ海における全般的な情勢は、双方が自制して、ここ数年間で初めて波静かであった。中国が海南省の新たな漁業規制を公布したり、中国当局者が南シナ海に防空識別圏 (ADIZ) 導入の可能性に言及したりしたが、ほとんど波立つような出来事はなかった。2013年以来の好ましい外交的展開を考えれば、中国が自らの管轄海域と主張して、隣国の裏庭に石油掘削リグを持ち込んだことは、ASEANと国際社会にとって大きな衝撃であった。中国は、掘削リグ周辺海域に圧倒的多数の海軍艦艇と政府公船からなる艦船を展開して、ベトナムを威嚇しようとした。同時に、このことは、対話やその他の平和的手段を通じた領有権紛争解決の求めを拒否することでもあった。南シナ海で中国の高圧的姿勢が一層強くなってきている背景には、中国の多くの機関や地方政府からの艦船の展開があり、このことは、今回の行動が北京から十分慎重に計画され、調整されていたことを示唆している。
(5) こうした中国の一連の行動は、地域の平和と安定を脅かしている。こうした行動は、国際法に違反しているばかりでなく、DOCを全面的かつ効果的に履行するという中国自身の誓約を無視するものである。更に、こうした行動は、2013年以来中国の指導者によってASEANに示された友好的な姿勢とは、全く相反している。中国による南シナ海における極めて挑発的な行為は、中国がもはや現状維持国ではなく、東南アジアを中国支配の地域秩序に積極的に再編しようとしていることを示している。中国の指導者は、中国をどのような大国にしようとしているのか、自問してみるべきである。この地域と世界に対する自身の誓約に全く反する行動をとることで自らの信用とイメージを損なうことが、中国にとって真に長期的な利益となるであろうか。地域の緊張を高め、2013年以来醸成されてきた平和的、協調的環境を危機に晒すことが、中国の利益となるであろうか。中国は、ASEANが中国との間で善隣友好協力関係を構築することに真剣であったことを考慮すべきである。もし中国がASEANの信頼と友好を失えば、中国は、近隣諸国との真の友好関係を構築しないで、大国の地位を求めようとする、歴史上初めての国となるであろう。
記事参照:
China’s Oil Rig Move: Casting Doubt on Neighbourliness
5月14日、「南シナ海の新たな緊張、西沙諸島の主権はどの国に―ベートマン論評」(RSIS Commentaries, May 14, 2014)
シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) 海洋安全保障問題プログラムのベートマン (Sam Bateman) 上席研究員は、5月14日付けの RSIS Commentariesに、“New Tensions in the South China Sea: Whose Sovereignty over Paracels ?”と題する論説を発表し、中国が西沙諸島(ベトナム名:Hoang Sa)に設置した石油掘削リグは南シナ海に新たな緊張関係をもたらしているが、南シナ海の領有権問題の解決は当事国の共同管理による以外にないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国が5月2日に西沙諸島の係争海域に石油掘削リグを設置したことで、南シナ海における中越間の緊張関係が再燃した。ベトナムは、これに抗議し、作業を阻止すべく艦船を現場海域に派遣した。これに対して中国は、掘削リグを護るべく、より多くの艦船を派遣した。中越両国の多数の艦船が現場海域に集結したことによって、5月7日には両国艦船が衝突し、ベトナム側に負傷者や艦船損傷という被害が出る暴力的事態が発生した。ベトナムは、自らの立場の正当性を主張するため、積極的な外交活動や世論戦に打って出た。その結果、国際社会の論調は概ねベトナムの主張に好意的で、中国の掘削リグ設置は違法であり、これを中国の高圧的姿勢の新たな事例と見ているようである。しかしながら、状況をより子細に検証してみると、中国の掘削リグ設置は、中国の主権的管轄海域の範囲内であるといえるかもしれない。
(2) 中国の掘削リグの設置場所は、ベトナム沿岸から東方約120カイリ、中国の海南島の南方約180カイリに位置している。この位置は、中越両国の最寄りの陸地由来のEEZと大陸棚にあると見て、間違いないかもしれない。同様に重要なことは、この場所が、中国が領有権を主張する西沙諸島の小島(注:Triton島、中国名:中建島)から約14カイリ、そして中国が実効支配を続ける、面積500ヘクタールのWoody Island(中国名:永興島、三沙市役所所在)から80カイリしか離れていないということである。Woody Islandは、国連海洋法条約(UNCLOS)が規定する島の条件を問題なく満たしており、EEZと大陸棚の基線となり得る。従って、大方の国際社会の論調とは異なり、中国が領有権を主張する小島(中建島)の存在を重視しなくても、この海域に関する海洋境界の画定交渉では、恐らく掘削リグの設置場所は中国のEEZの範囲内に含まれることになろう。これに対して、ベトナムは、掘削リグの設置場所が中国海南島沿岸からよりもベトナム沿岸からの方が近いことに加えて、ベトナム沿岸から200カイリ以内にあることを理由に、この掘削リグの設備場所はベトナムのEEZと大陸棚の範囲にあると主張している。一見、この主張は魅力的かもしれないが、物理的な近接性だけでは、主権や主権的管轄権を主張するための十分な根拠にはならない。他国のEEZ内に、あるいは画定交渉中のEEZ境界にある島嶼が他国より遙かに自国に近いという理由で、これら島嶼に対する主権を主張する事例は世界には多くある。
(3) 西沙諸島の主権はどの国にあるのか、これが現在の問題の核心である。もしベトナムが西沙諸島に対する主権を有しているのであれば、領有権紛争は生じないであろう。しかしながら、国際社会の論調が概ねベトナムの主権主張を支持しているが、領有権紛争の歴史を子細に分析すれば、別の見方もできる。即ち、1958年に北ベトナムが西沙諸島に対する中国の主権を承認していること、そして1958年から1975年までの間、ベトナムが本件について全く抗議していないこと、この2つの事実によって、ベトナムの現在の主権主張は大きく弱められている。加えて、アメリカを含む、多くの国家が、明示的にしろ、暗示的にしろ、西沙諸島の一部または全部に対する中国の主権を認めていたのである。中国は、Woody Islandを第2次世界大戦終了後から実効支配している。もし北ベトナムがこの島を実効支配していたとすれば、ベトナム戦争中のアメリカの対北ベトナム作戦に大きな影響を及ぼしたであろう。アメリカは、領有権紛争の当事国に対して、自制を求めてきた。Woody Islandに対する中国の主権をアメリカが容認していたという歴史的背景を無視して、今更、ワシントンがベトナムを支援するような力強い声明を出したとしても、それは偽善に過ぎない。
(4) 西沙諸島を巡るこれまでの紛争事案は、主に漁業管理に関する問題で、中国が西沙諸島周辺海域で操業中のベトナム漁船を拿捕するという事例であった。中国は南シナ海のどの海域でも自国漁民が伝統的に操業してきたと主張しているが、ベトナムも同じ理屈で、自国漁民が西沙諸島周辺海域で伝統的に操業してきたと強く主張することができる。ベトナムは、西沙諸島に対する中国の主権に同意する見返りに、中国から周辺海域におけるベトナム漁民の伝統的な漁業権を容認してもらうか、あるいは西沙諸島とベトナム沿岸との間の海域における海洋資源の共同開発に同意した方が良かったかもしれない。しかしながら残念なことに、中越両国は、このような交渉による解決を実現するには、恐らく引き返し不能点を越えてしまった。ベトナムは、域内や国際社会の支援を集めるという高い賭けに出ているが、結局は何も得られないかもしれない。
(5) 南シナ海の領有権紛争の全ての当事国による強硬な主張は、近視眼的であり、必然的に緊張感を高め、地域の不安定さを増している。全ての当事国が南シナ海の海域や資源を共同管理する必要性を受け入れれば、全ての当事国に益することになろう。南シナ海の地理環境から見て、その一部に直線的な海洋境界線を引くことなど不可能であり、従って一国による海洋資源の独占も不可能である。南シナ海のような半閉鎖海について規定した、UNCLOS第9部は、沿岸国の相互協力を義務づけているのである。当事国が一方的な主権主張に固執し、勝者・敗者の結果を追求することで、UNCLOSの義務が忘れ去られてしまっている。
記事参照:
New Tensions in the South China Sea: Whose Sovereignty over Paracels?
5月14日「石油掘削リグの設置、中国の4つの戦略的ミス―ベトナム人研究者論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, May 14, 2014)
米ハワイのPacific Forumのヤングリーダーで、豪University of New South Walesの博士課程在籍のHa Anh Tuanは、5月14日付けのPacNetに、“China sending giant oil rig to Vietnam’s EEZ: Four strategic mistakes”と題する論説を発表し、中国がベトナムのEEZ内に石油掘削リグを設置し、現場海域に海軍艦艇を含む80隻を越える艦船を派遣したことについて、ベトナム人研究者の視点から、中国は4つの戦略的ミスを犯したとして、要旨次のように述べている。
(1) 第1の戦略的ミスは、石油掘削リグの設置という新たな行為が、ベトナムに、大胆で断固たる対応を決意させただけということである。国連海洋法条約(UNCLOS)第56条によれば、沿岸国は、自国のEEZに対する経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動に関する主権的権利を有するとされている。従って、ベトナムのEEZ内における中国の掘削作業は、UNCLOSでは認められない。ベトナムは、他国と同様に、南シナ海における領有権紛争に関する自国の立場を明快に説明していない。この戦略的な曖昧さは、交渉の余地を残すためである。しかしながら、中国の新たな行為はベトナムの最高指導部の想定外であったため、ハノイは強固な対応をとった。両国の艦船が現場海域に蝟集し、両国の政府公船の間で衝突が発生しているが、今後、より多くの重大事故が発生することも予想される。一方で、この中国の行為は、ベトナムに、アメリカなどの他国との安全保障協力関係の進展を促すことになった。もしハノイがカムラン湾を米海軍の運用に供することになれば、ワシントンは、この機会を見送ることはないであろう。実際、ワシントンは5月8日の国務省報道官声明で、今回の中国の行為を、挑発的であり緊張を高めるもの、と非難した。
(2) 2つ目のミスは、中国の今回の行為が、南シナ海における行動宣言 (DOC) に違反しており、域内諸国の間に中国の真意に対する疑念を高めたことである。ベトナムやフィリピンに加え、シンガポールやマレーシアも、域内における中国の行動に懸念を強めている。インドネシアは、これまで南シナ海の領有権紛争に対しては中立の立場を厳守していたが、現在では方針を転換し、インドネシアが支配するナトゥナ諸島海域に対する中国の主権主張に反対を表明している。ASEANにおけるインドネシアの役割を考えると、ジャカルタの方針転換は、中国にとって不利である。中国が南シナ海における領有権紛争で高圧的な行動をとればとるほど、中国の国際的な威信が損なわれる。1990年代の東南アジア諸国に対する微笑外交の成果は、東南アジア諸国における反中感情の高まりによって台無しになりかねない。ミャンマーで5月10日に開催されたASEAN外相会議は、今回の中国の掘削作業に重大な懸念を表明し、域内の平和と安定、そして南シナ海における航行の自由の重要性を再確認する共同声明を発表した。これは、東南アジア諸国による中国の外交姿勢への反発の表れでもある。
(3) 3つ目のミスは、中国が自国の軍事力近代化の口実を失ったということである。北京は、軍事力近代化の本質は防衛的なものであり、地域の安全保障を損なうもののではない、と主張してきた。2007年から2013年にかけて南シナ海での緊張が高まった時期にも、中国は、海軍力の投入を抑制し、中国海警局のような高度な能力を有する準軍事機関を活用してきた。実際、2012年のフィリピンとのスカボロー礁を巡る紛争では、中国海軍艦艇は派遣されず、中国の準軍事機関の公船や漁船が、フィリピン側を同海域から追い出した。中国が今回、掘削リグ周辺海域に派遣した艦船には、7隻の海軍艦艇が含まれていた。ここ数年間で初めて、中国海軍艦艇が南シナ海における領有権紛争に直接関与したことになる。域内の関係各国が中国の軍事力近代化計画の真意に懸念を抱き始めた所以である。
(4) 4つ目のミスは、今回の中国の行為が、経済の再建と安定的な成長を目指す北京の努力にとって障害となり、地域の安全保障を不安定化させかねないということである。北京は深刻な内政課題に直面しており、中国指導部者は、内政課題の取り組みに力を注ぐために安定した国際関係を必要としている。しかしながら、今回の行為は、地域の安全保障を不安定化し、結果的に経済成長を維持する中国の努力を害することになろう。
(5) 中国が掘削リグをベトナムのEEZ内に設置したことは、中国にとって戦略的誤算であった。北京は、ここ数年の南シナ海における領有権紛争において初めて7隻の海軍艦艇を投入した。このことは、ハノイに、国際法によって認められた権利を護るために、「必要なあらゆる手段」を以て対抗せざるを得ない選択を迫ることになった。最近の南シナ海における中国の高圧的で強硬な言動を考えれば、他の東南アジア沿岸国も中国の今回の行為に警戒心を高めている。冷戦後、東南アジア諸国の心情を良くしようとしてきた北京の努力は台無しになり、その軍事力近代化計画に改めて疑惑の目が向けられている。中国の言動に対抗して、東南アジア諸国は明らかに、アメリカや日本、インドといった域外大国の関与を歓迎している。換言すれば、中国の高圧的な言動が、中国指導部が本来望んでいない、アメリカの東アジアへの軸足移動を促進させているのである。中国の高圧的な言動やそれによる地域の不安定化は、経済成長と社会発展という中国の目標実現に役立たない。中国が大国として台頭する最善の方法は、互恵的協力、他国の正当な権利尊重そして紛争の平和的解決、といった外交関係の基本原則に従うことである。拙速は目標実現を保証しない。
記事参照:
China sending giant oil rig to Vietnam’s EEZ: Four strategic mistakes
5月15日「中国と『軽蔑の時代』―AEI専門家論評」(Foreign Policy, May 15, 2014)
米シンクタンク、AEIのDan Blumenthal アジア研究部長とMichael Mazza同研究員は、5月15日付けのForeign Policyに、“China and the Age of Contempt”と題する論説を寄稿し、中国はアメリカを軽蔑しており、アメリカは中国の行動に強く対応すべしとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、オバマ大統領のアジア歴訪の4日後に、アジアにおけるアメリカの信頼性に挑戦した。中国は過去3年間、東シナ海と南シナ海において益々高圧的になっているが、石油掘削リグの設置は、中国の行動における厄介な変化を示すものである。第1 に、掘削リグの設置は、係争海域における石油開発を継続することで、海洋境界を一方的に定義しようとする中国のあからさまな試みである。第2 に、オバマ大統領のアジア歴訪直後であったことは、中国がアメリカを怒りや恐れで見ず、軽蔑して (with contempt) 見ているといえることである。アメリカのアジアの同盟国は、ワシントンからの再保証を必要としていた。しかし、同盟国に対する再保証には、アメリカが中国の修正主義に立ち向かう意図と能力を示す必要があった。
(2) 不幸なことに、中国は、アメリカのグローバルな信頼性に揺らいでいると見ている。例えば、オバマ大統領はシリアで「レッドライン」を守らなかった。一方、ロシアのプーチン大統領は、欧州情勢を過去に巻き戻している。ある地域でのアメリカの行動が他の地域でアメリカがどう見られるかに関係がないとはいえない。力を何よりも信奉する中国共産党は、ワシントンはその力を北京に対抗するために使わない、と見極めている。北京は、アメリカを恐れておらず、軽蔑している。軽蔑される関係は、修復が困難である。アメリカは、中国の強引な行動を阻止するために何もしていない。中国の動きを「挑発的」と口で言っても、それを変えさせることにはならない。ベトナムに対する武器禁輸の解除や海軍基地交渉は真剣な対応になるが、そういう動きはない。ワシントンは、北京を恐れさせ、尊敬させるような行動をとる必要がある。
(3) オバマ政権高官は、プーチン大統領や習近平主席が国際秩序を20 世紀初めに巻き戻そうとしていると不満を言っている。この時代に新たなラベルが必要だとすれば、「軽蔑の時代 (The “Age of Contempt”) 」と呼ぶのが適切である。アメリカの大統領の言葉は尊重されず、アメリカの新たな政策は実施されず、アメリカの安全保障の傘がない中で、混沌が支配的になっている。そして修正主義者は、多くの国にとって有用だったリベラルな国際秩序を変えている。
記事参照:
China and the Age of Contempt
5月16日「アメリカは南シナ海での中国の行動に対応すべし―米専門家論評」(The Washington Post, May 16, 2014)
米外交問題評議会のElizabeth Economy上席研究員とMichael Levi上席研究員は、5月16日付けの米紙、The Washington Postに、“Rein in China in its dispute with Vietnam over energy resources”と題する論説を寄稿し、最近の南シナ海での中国の行動に対して、言葉だけでなく実際の行動が伴わなければ、アメリカに対する信頼感が失われようとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国国営中国海洋石油総公司 (CNOOC) は5月初め、軍艦を含む70隻を超える艦艇を伴って、ベトナムが領有権を主張している海域で掘削を開始した。一見したところ、これは、世界各地で行なわれている中国の天然資源獲得の動きに、新たに1つ加わったに過ぎないように見えるかもしれない。しかし実際には、南シナ海で起こっていることは、これまでの動きよりもはるかに危険であり、その原動力は、エネルギー資源の獲得という動機を大きく越えるものである。アメリカは、この事態に首尾良く対応するためには、中国の挑戦を完全に直視する必要がある。このことは、強い言葉だけでなく、困難な行動もとる用意がなければならないことを意味する。
(2) 長年、南シナ海には豊富な石油と天然ガス資源が埋蔵されていると推測されてきた。中国の国土資源部によれば、その資源は4000億バレルとされ、中東を凌ぐという。しかしながら、米地質調査所は2010年に、この海域の未発見の石油資源をはるかに少ない110億バレルと見積もり、その多くは財政的に生産が見合わないとしている。中国がこのようなささやかな利益のために、武力紛争のリスクを冒すとは考え難い。現在起こっていることを理解するには、他の2つの力学が重要である。1つは、ナショナリズムである。掘削は、ベトナム沿岸から120カイリ、ベトナムのEEZ 内にある、西沙諸島海域で行われている。中国は1974年以来、西沙諸島を占拠し、歴史的な利用実績と実効的な主権の行使に基づいて、領有権を主張している。西沙諸島から後退することは中国の威信を損なうことになろう。一方で、支配の強化は国内における指導部の正当性を強めることになろう。もう1つは、中国の指導部が南シナ海のシーレーンを支配したいとの願望によって動機付けられていることである。南シナ海のシーレーンは5兆ドル以上の貿易通航量があり、年々混み合った海域になっている。それには、世界の石油海上輸送の3分の1と、中国の石油輸入の4分の3以上が含まれる。中国海軍は、中東の重要なシーレーンにおけるアメリカの優位に挑戦するどころか、マラッカ海峡を支配する力さえもないが、南シナ海全域で海軍力を運用することによって、中国は、アメリカが中国向けの石油供給を阻止できないであろう、と確信することができる。
(3) これらの2つの動機とは別に、中国の石油開発会社がこの海域での操業に熱心であることは問題ではない。北京は、軍の行動を原油開発という商業的動機で覆い隠すことで、避けられない反発を緩和しようとしたのかもしれない。もしそうであるならば、この策略は功を奏していない。中国の最近の動きは、ベトナムや他の諸国を驚かせ、地域内での強い信頼関係が外交の最優先課題であるとする、北京の主張を損ねている。それはまた、南シナ海における資源の共同開発に関するベトナムとのワーキンググループ討議に対する、中国のコミットメントにも疑義を呈するものである。
(4) アメリカは、領有権紛争では特定の立場に与せず、関係当事国に紛争の平和的解決を求めてきた。しかし、これでは十分ではない。アメリカは、中国の脅しに挑戦し、真の利害関係を明確にすべきである。アメリカとASEANは、係争海域における中国の一方的な主権主張を拒絶することで、統一戦線を組むべきである。さらに重要なことは、アメリカはそのレトリックに生命を吹き込む用意がなければならないということである。アメリカはベトナムを防衛する条約上の義務を負っていないが、アジアにおける再均衡化は、太平洋における安定の主たる保証者としての役割を果たすことが前提である。中国の行動は、それに挑戦しているのである。ベトナムは、平和的解決を繰り返し求めている。中国が応じなければ、アメリカは、海軍力のプレゼンスを強化することで、ベトナムを支援する用意がなければならない。これによって、ワシントンは、中国の能力を見極め、事態の沈静化を図る力を得られよう。他の選択肢として、例えば、CNOOCのアメリカでの活動に対する規制も検討することができるかもしれない。もしアメリカが行動でその言葉を裏づけることができなければ、地域の平和と安定を支持するというアメリカのコミットメントに対する信頼感が損なわれるであろう。
記事参照:
Rein in China in its dispute with Vietnam over energy resources
5月17日「サイゴン港、5万トン級船舶接岸可能に」(VietNamNet Bridge, May 18, 2014)
ベトナムのホーチミンシティーは5月17日、Soai Rap 河口を浚渫する、Soai Rap Estuary Dredging Project の進展によって、これまで最大の5万4,000トン級の船舶がサイゴン中央ターミナル港に接岸可能になったことを歓迎した。プロジェクトの責任者、リー・ホアン・ミンによれば、河口の浚渫は現在まで、深さが9.5メートルに達し、航行可能帯の幅が120メートルから160メートルに広がった。また、航行支援装備やブイの設置なども完了し、最大5万4,020トンまでの船舶がサイゴン中央ターミナル港に安全に接岸できるようになった。これによって、船舶は、河口から2時間半で接岸が可能となり、従来のLong Tau河口経由に比較して、5万トン級の船舶で年間50万米ドルの経費節減になると見積もられている。更に、Soai Rap 河口経由では、夜間における船舶の長さ規制がなくなる。この浚渫プロジェクトは、Soai Rap 河口を長さ54キロ、面積1,308ヘクタールにわたって浚渫することを目的に、2012年後半に着手された。
記事参照:
Saigon Port welcomes largest-ever cargo ship
5月18日「フィリピン・インドネシア、海洋境界画定に合意」(Department of Foreign Affairs, Philippines, May 19, 2014)
フィリピンとインドネシアは5月18日、20年に及ぶ交渉の末、ミンダナオ・セレベス海において重複するEEZの境界画定について合意した。両国の代表は18日、ジャカルタで海洋問題に関する第8回常設作業部会 (The Joint Permanent Working Group on Maritime and Ocean Concerns: JPWG-MOC) を開催し、協定案文と付属EEZ境界地図について合意に達した。フィリピンのガルシア外務省政策担当次官とインドネシアのフィルマン外務省条約局次長は両国を代表して、The Agreement between the Republic of the Philippines and the Republic of Indonesia Concerning the Delimitation of the Exclusive Economic Zone Boundaryと付属地図を含む、第8回JPWG-MOC議事録に署名し、交換した。協定は、フィリピンのデルロサリオ外相とインドネシアのマルティ外相との間で、正式に調印されることになっている。
フィリピンのガルシア外務次官は、「交渉の妥結は、両国の友好、忍耐そして海洋紛争を平和裏に解決しようとする両国代表の熱意の賜物である。これによって、EEZ内の資源の管理、維持という両国の共通の利益を促進するために、EEZ内でおける一層の協力を推進することが可能になる」と、その意義を強調した。ガルシア次官はまた、20年に及ぶEEZ画定交渉で、特に境界画定の合意を導いた諸原則と手法について、多くの教訓を得た、と語った。
記事参照:
Philippines, Indonesia finalize text of agreement on Exclusive Economic Zone boundary
Chart: The Celebes Sea and Mindanao Sea
5月19日「米のアジアへの「軸足移動」、2つの軍事的要素―RSIS研究員論評」(RSIS Commentaries, May 19, 2014)
シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のHarshita Kohli研究員は、5月19日付けの RSIS Commentariesに、“Securing US Influence in Asia Pacific: The Military Angle”と題する論説を発表し、アメリカのアジアにおける「軸足移動」の軍事的要素として、Air Sea Battleとアジア太平洋地域の同盟国との緊密な軍事関係の構築を挙げ、要旨以下のように論じている。
(1) オバマ米大統領の最近のアジア歴訪は、「再均衡化」戦略が依然、政権の優先課題であることを、アジア太平洋地域の国々に再保証する試みであった。アメリカのアジアへの「軸足移動」については、経済的、外交的側面からの議論が盛んだが、軍事的側面を無視することはできない。軍事的側面には、相互に関連する2つの柱がある。1つは中国の接近阻止・領域拒否 (A2/AD) の脅威を相殺するAir Sea Battle (ASB) 能力であり、もう1つはアジア太平洋地域の同盟国とのより緊密な同盟関係の構築である。
(2) 遠隔の戦域に戦力を投射し、戦闘が継続している間、それを維持するアメリカの能力は、軍事史に比類のないものである。アメリカは現在、この能力がアジア太平洋において増大する脅威に晒される可能性を懸念している。中国の増大する軍事支出は、敵のプラットホームや基地を攻撃できる射程と命中精度を持った、巡航ミサイル、弾道ミサイル、空対空ミサイル、空対地ミサイル戦力の強化を重点としている。中国のA2/AD能力は、敵の兵力投射を妨害し、敵の持続的攻撃から自国の重要な目標を護ることを狙いとしている。他方、ASB構想は、空、陸、海、宇宙及びサイバースペースにおける能力を統合することで、米軍の指揮官に対して、戦時に戦力を投射し、作戦を持続し、そして敵のA2/AD能力を破壊するためのより良い能力を提供することを目的としている。米軍は、アジア太平洋地域におけるこうした戦力を整備中である。米空軍は、F-22 Raptor戦闘機のほぼ60%をアジア太平洋地域とその周辺に配備しており、F-35戦闘機の最初の基地も太平洋地域に置くと発表している。ASB構想の下、海軍は、2020年までに60%の戦力を太平洋に配備する計画である。海軍はまた、現有のOhio級SSBNに替わる新型のSSBNを配備する計画である。
(3) 加えて、アメリカは、アジア太平洋戦域で遂行するASB作戦を支援する域内の同盟国のネットワークを再構築し、強化しようとしている。東シナ海、南シナ海における中国の高圧的な姿勢は、域内のアメリカの同盟国の多くがワシントンとの防衛、安全保障の結び付きを深化させる動因となった。フィリピンは、中国との領有権紛争に対応するため、軍事力を強化しつつある。4月末には、米比防衛協力に関する協定が調印され、この協定に基づいて、4,500人の米軍人、海軍艦艇及び航空機がローテーション展開することになろう。また、この協定によって、フィリピン軍基地への米軍のアクセスが可能になり、合同訓練によってフィリピン軍の即応態勢が強化されることになろう。
(4) 尖閣諸島をめぐる中国との対立によって、日本の安倍首相は、防衛力を増強しようとしている。米海軍はP-8海上哨戒機の日本配備を計画しており、これは同機の最初の海外展開となる。米空軍はGlobal Hawk無人偵察機のローテーション配備を計画しており、更に、2017年までにF-35B統合戦闘攻撃機飛行隊の配備も計画している。一方、日本が新たに取得を計画している装備は空、海装備が主体で、安倍政権が日本の海洋権益防衛を重視していることを明らかに反映している。アメリカは、安倍政権の計画を歓迎している。
(5) 米韓同盟の主眼は、北朝鮮の脅威対処である。米韓両国は、朝鮮半島において想定される戦争シナリオに基づいて、多くの合同軍事演習を実施してきた。アメリカはまた、アジアで最も重要な2つの同盟国、日本と韓国との間の3カ国対話を立ち上げた。
(6) オーストラリアは、アメリカのアジアへの「軸足移動」において極めて重要な役割を果たす。ダーウインへの2,500人の海兵隊のローテーション配備に加えて、ココス諸島に米軍の無人偵察機の基地が置かれている。アリススプリング近郊のパインギャップにある衛星追跡ステーションは、CIAと米軍が協同運用する3カ所ある主要な衛星追跡ステーションの1つで、東南アジアを含むその他の地域を偵察する軍事衛星から転送されるデータを分析する重要な施設である。米中紛争の場合には、オーストラリアは、その地理的位置から米軍部隊に対する重要な後方支援と情報支援を行うことが可能である。西太平洋の米軍基地はより大きな脅威に直面しつつあり、同盟国としてのオーストラリアの支援は、米中紛争における作戦遂行に当たってワシントンにとって重要になるであろう。オーストラリアは、中国の通常弾頭ミサイルの覆域からは安全な距離にあるからである。
(7) アメリカの再均衡化戦略は、中国封じ込めを狙いとしたものであるかもしれないし、あるいはそうではないかもしれない。しかし、ワシントンがアジアにおいて再構築しつつある同盟のネットワークは、アメリカが域内の同盟国を護るASB遂行態勢を万全にするための、将来を見据えた計画であることは明らかである。
記事参照:
Securing US Influence in Asia Pacific: The Military Angle
編集責任者:秋元一峰 編集・抄訳:上野英詞 抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子 |
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