海洋情報旬報 2014年8月1日~10日

Contents

81日「中国、海洋掘削リグ増強」(The Wall Street Journal, August 1, 2014)

米紙、The Wall Street Journalは8月1日付けで、中国が海洋掘削リグを増強しているとして、要旨以下のように報じている。

IHS Maritimeのデータによれば、中国の国営大手、中国海洋石油総公司 (CNOOC) を含む海洋石油・天然ガス開発企業は、2014年上半期だけで、2010年以来のどの年の1年間をも上回る基(隻)数の海洋掘削リグや関連船舶を発注した。リグ支援船などを含め、発注総トン数は12万6,300トンになる。中国は2013年に、南シナ海での掘削探査のために3万トン級の掘削リグを発注しており、更に2基の建造を計画している。この新型掘削リグは、ベトナムとの係争海域に設置された中国最大のHYSY 981 と同じ大きさである。この掘削リグ、HYSY 982は、2016年の完成が見込まれている。

記事参照:
China Expands Offshore Oil Fleet for Contested Waters
Graphics: Chinese offshore vessel orders by gross tonnage and CNOOC total domestic production in millions of barrels of oil equivalent

81日「アメリカは北極海にもっと関心を―米下院議員」(The Washington Post, August 1, 2014)

米議会下院のDon Young(共和、アラスカ州選出)とRick Larsen(民主、ワシントン州選出)両議員は、8月1日付けの米紙、The Washington Postに、“The United States needs to turn its attention to the Arctic Ocean”と題する論説を連名で寄稿し、アメリカは北極海にもっと関心を向けるべきとして、要旨以下のように主張している。

(1) この夏、日本、中国、ロシア、カナダ及びスウェーデンは、砕氷調査船を北極海のアメリカの管轄海域に派遣し、航路関連情報を収集し、気候変動がもたらす野生動物への影響を研究し、更に北極海のユニークな気象パターンと地理的な特徴に対する理解の促進を図るべく計画している。北極海に対する周辺諸国のこうした関心とは対照的に、ワシントンは、北極海において高まりつつあるアメリカの責任に対して限られた関心しか払っていない。このような姿勢を変えるには時間が掛かるであろう。

(2) 我々は、北極海沿岸国としてのアメリカが直面する機会と課題についての議会同僚と国民の理解を促進するために、新たに米議会北極海作業グループを結成しようとしている。このグループは、北極圏の先住民社会や、環境、石油・天然ガス、鉱業、国家安全保障及び海運の各業界からの代表と共に、今後の北極海政策について議会に助言することを狙いとしている。アメリカは、月面到達競争ではロシア人に勝ったが、北極圏では、残念ながら利益確保の国際競争に参加したばかりである。アメリカは、2015年には北極評議会の議長国になる。しかしながら、アメリカは、議長国の役割を遂行できる用意があるかどうかは、未だに不確実である。アメリカを除く全ての加盟国は、評議会に大使級代表部を設置しているが、米国務省内で北極評議会を担当する専任担当官は2人しかいない。連邦政府レベルで北極評議会に関わる機関は少なくとも20もあるが、アメリカは、未だに北極海における目標の優先順位を定めることができず、またそれらを達成するための効果的な方法を計画していない。我々は、北極評議会に大使級代表部を設置することで、各機関の北極海への取り組みを調整し、大統領に直接報告することでアメリカの北極海政策の効率と透明性が強化できる、と考えている。政府は最近、北極圏に関する特別代表として、元沿岸警備隊司令官、ADM. Robert J. Papp Jrを任命したが、これは北極海政策にとって好ましい進展であった。しかし、北極海に対する適正な関心を高めて行くためには、議会の承認を必要とする大使を北極評議会に派遣する必要がある。

(3) 他の沿岸諸国が調査研究や商業的な活動を通じて北極海における彼らのプレゼンスを強化していることから、アメリカも、北極海の氷海を航行できる船舶の確保が必要になってきている。そのためには、特に砕氷能力を持った船舶と航路の安全確保が必要である。 沿岸警備隊は、北極海での任務を遂行するためには、大型砕氷船3隻と中型砕氷船3隻が必要と主張している。沿岸警備隊の現有砕氷船は、それぞれ各1隻ずつしかない。大型砕氷船、USCGC Polar Starは30年の運用耐用年数を7年も超えている。アメリカが必要な投資を行うまで、他の国は待ってくれない。ロシアは22隻の砕氷船を公有しており、その上、新たに世界最大の砕氷船の建造に着手したばかりである。中国は、北極海沿岸国でないが、2隻目の砕氷船を建造している。フィンランドとスウェーデンは、それぞれ4隻の砕氷船を保有している。アメリカは、既にこうした能力欠如による被害を受けている。アメリカの北極海用アセットが老朽化している間に、他国が北極海の航海、輸送や資源開発に関連する調査活動をアメリカのEEZで行っているのである。他国がアメリカの管轄海域内で新たな機会を活用することに対して、アメリカは座視しているわけにはいかない。北極作業グループは、議会に対して、北極海への強力なプレゼンスを確立するための行動を促す上で役立つであろう。しかしながら、アメリカが北極海国家としての地位を活かすためには、議会と政府の両方の継続的な取り組みが必要である。

記事参照:
The United States needs to turn its attention to the Arctic Ocean

81日「ケニア、中国支援でラム港建設開始」(Yahoo News, AFP, August 1, 2014)

ケニアのケニヤッタ大統領は8月1日、ラム (Lamu) 港建設プロジェクトの第1期工事の建設開始を承認した。ラム港建設プロジェクト、The Lamu Port South Sudan-Ethiopia Transport Corridor the Lamu Port South Sudan-Ethiopia Transport Corridor (LAPSSET) は、総額240億米ドルで、2030年に完工予定で、インド洋沿岸から石油パイプラインで南スーダンと、そして鉄道でエチオピアとウガンダを結ぶ、東アフリカの多くの地域への拠点を目指すプロジェクトである。ケニヤッタ大統領はこの日、計画されている32のバース(係留施設)の内、第1期工事として3つのバースを建設するために、中国国営、中国交通建設との間で、4億8,000万米ドルの契約を承認した。大統領は、「この契約は、ケニアをこの地域の魅力的な輸送補給ハブとする、画期的なものである」と語った。建設開始は、9月頃からと見込まれている。ラム港は、モンバサ港を補完するもので、鉄道、空港及び製油施設の建設も計画されている。最終的には、ラム港は大型コンテナ船のコンテナ貨物を年間約2,400万トン処理することができる。

記事参照:
Kenya launches giant port construction with $480m deal

8月2日「ロシアのエネルギー産業に及ぼす対ロ制裁の効果―英誌論評」(The Economist, August 2, 2014)

英誌、The Economistは、8月2日付の記事で、西側の対ロ制裁がロシアのエネルギー産業に及ぼす影響について、要旨以下のように論じている。

(1) 西側の対ロ制裁は、世界的な石油大手への仲間入りを目指す、ロスネフチの野望にとって障害となるであろう。新たな対ロ追加制裁によって、ロスネフチのイーゴリ・セチン会長はアメリカの制裁対象となり、ロスネフチはアメリカの銀行からの長期的融資が禁止された。この追加制裁は、ロシアの石油産業が制裁対象の1つとなっており、ロシア国内におけるエネルギー支配を目指すロスネフチの野望と、エネルギー資源を梃子に世界におけるロシアの影響力の強化を目指すプーチン大統領の目論見に、更なるダメージを与えることになろう。

(2) ロスネフチは、短期間で飛躍的な発展を遂げた。1990年代末頃のロスネチフは、ロシアの石油生産のわずか4%を占めていたに過ぎなかった。2012年には、英系メジャー、BPがロシア系投資家グループとロシアで運営していた、TNK-BPを買収した。これによって、ロスネフチの石油・天然ガス生産量は日産490万バレルとなり、生産量で世界最大の石油会社、エクソン・モービルを上回ったが、資本、株式市場価値そして技術的能力の面では、ロスネフチは依然、遅れた状況にある。しかしながら、TNK-BPの買収は、買収契約に基づいてBPがロスネフチの株式の20%を保有することになり、ロスネフチが世界レベルの経営手法や技術、技能を手に入れる手段となった。ロスネフチの古い油田での生産は既にピークに達しており、今後数年で減少し始めるであろう。石油生産量を維持するためには、これまでより環境面ではるかに厳しい難しい地域にある油田開発が必要となる。

(3) 今回の追加制裁は、新たな油田開発を阻止することを意図している。BPとの合弁事業とは別に、ロスネフチは、北極海や他の沖合における掘削探査を実施するとともに、ロシアのシェール・オイル開発を進めるために、エクソン、ノルウェーのスタトイル及びイタリアのENIとの協力を計画している。ロスネフチは、北極海や他の過酷な環境にある地域での開発生産の経験とノウハウを持っていない。メジャーの石油企業は、石油・天然ガスの開発生産設備だけでなく、巨大なプロジェクトを立ち上げ、管理運営する専門知識を持っている。巨大な石油・天然ガス資源の開発には5年以上の時間が掛かるため、ロスネフチは今から作業を始めなければならない。今回の追加制裁によって、これが不可能になった。今後はエクソンの動向に注目が集まるであろう。エクソンの掘削リグがカラ海に向けてノルウェーを離れたのは、マレーシア機、MH17便がウクライナで撃墜された2日後であり、8月中には試掘を開始することになっていた。今回の追加制裁により、このプロジェクトの今後についても懐疑的な見方が強まっている。

(4) プーチン大統領は、商業的よりも戦略的な理由から、ガスプロムによるロシアの独占的な天然ガス輸出を終わらせようとしている。外交政策のツールとしてのガスフロムの影響力が衰えてきたからである。主要な輸出市場であるEUでは、市場自由化と法廷闘争を通じて、ガスプロムの価格統制力の弱体化が図られてきた。代わって、ロスネフチが、より強力で長期的な武器となる可能性がある。石油は、天然ガスより収益性が高く、世界的に取引されている。また、ガスプロムよりは弾力的なロスネフチの経営管理も利点となり得る。ロスネフチは、中国石油天然気集団公司 (CNPC) との電撃的な取引契約の締結など、アジア市場への積極的な進出を果たしている。ガスプロムの場合は、中国との輸出契約に10年を要したし、契約条件も中国に有利であった。しかし、対ロ制裁は、ロスネフチを苦境に立たせ、一時的にガスプロムにとって追い風になるかもしれない。ロシア産天然ガスに対する欧州の依存によって、ガスプロムは直接の制裁対象になっていない。ウクライナ危機を引き摺ったまま冬が近づけば、ロシアは、欧州への天然ガス供給の中断をちらつかせて、西側の圧力に対抗しようとするかもしれない。従って、少なくとも一時的には、ガスプロムがロシアのエネルギー「外交」の最前線に立ち返ってくることになろう。

記事参照:
Arctic chill

83日「インド、北極圏に観測装置設置」(The New Indian Express, August 3, 2014)

インドの地球科学省が8月1日に公表したところによれば、The National Centre for Antarctic and Ocean Research (NCAOR) とNational Institute of Ocean Technology (NIOT) の科学者チームは7月24 日、ノルウェーのスピッツベルゲン島北西のKongsfjordenに、チームが設計開発した観測装置、IndARCを設置した。観測装置は、ノルウェーのThe Norwegian Polar Instituteの調査船、RV Lanceによって水深192メートルの海中に錨で係留された。この場所は、北極点から約1,100キロの位置にある。この装置は、10個の最新の海洋調査センサーがそれぞれ異なった水深に配置されている。センサーは、フィヨルド内の海水温温度、塩分濃度、潮流及びその他の重要なデータをリアルタイムで収集する。地球科学省によれば、収集されたデータはインドの気象学者にとって重要な資料となり、北極圏における気候変動に関する理解を促進することで、インド洋のモンスーン研究を促進する手がかりを得ることになろう。Kongsfjordenは、北極圏における海洋研究の拠点で、北極圏の気候変動を研究するための天然の実験室と見なされてきた。

記事参照:
India Deploys First Ocean Moored Observatory in Arctic
Photo: IndArc will allow scientists to collect data year-round
Map: Kongsfjorden

8月4日「中国、将来的に北極海の資源争奪戦に参戦へ―米専門家論評」(The National Interest, August 4, 2014)

米誌、The National Interestのeditorial assistant、Peter Giraudoは、“Forget the South China Sea: China’s Great Game in the Arctic Draws Near”と題する、8月4日付けの同誌ブログで、20年後、経済成長の糧を求める中国の視線は、南シナ海でも中央アジアの大草原でもなく、遥か北方の北極圏に向いているであろうとして、要旨以下のように述べている。

(1) 北極海には、全世界の未発見の石油資源の13%、天然ガス資源の30%が埋蔵されていると推測され、また、グリーンランドは世界でも有数のレアアース埋蔵量を誇っている。多くの科学者が北極点周辺の海氷が溶解すると推測する2030年9月までには、北極海は天然資源の宝庫になると見られる。その時期までには、既に新たな「グレート・ゲーム」が地球の最北端で繰り広げられていることであろう。そして中国がこのゲームに参戦していることは確実であろう。

(2) 世界第2の経済大国、中国は、その経済成長を支えるために必要な資源の多くを輸入に頼っている。今後数十年間に亘って現在の経済成長のペースを維持するためには、中国は、必要な資源を中国本土から遠く離れた地域から調達せざるを得ない。このことは、最近の中国が南シナ海に進出し、更に天然資源が豊富なアフリカに関心を高めている所以である。しかし、もし南シナ海で紛争が生起すれば、中国向け貨物の大半がマラッカ海峡を通峡していることから、中国は通商ルートに深刻な打撃を受けることになろう。一方、北極海を通航する北方航路は、中国にとって、通商ルートを多様化するとともに、未開発の天然資源を手に入れる絶好の機会となろう。更に、北方航路経由の中国と欧州間の貿易は、現在よりも迅速かつ安価なものとなろう。北方航路は、オランダのロッテルダムと上海との間の距離が(スエズ運河経由より)約3,000カイリ短く、何千ドルもの燃料費を節約することになるからである。幾つかの見積では、2020年までに中国の貿易量の5~15%が北方航路経由になると予測されている。

(3) 中国が北極海沿岸諸国との関係強化に努力しているのは、以上の状況から見て不思議ではない。中国は、北極圏への進出を図っているが、北極海の沿岸国ではなく、沿岸国のみで構成される北極評議会の正式メンバーでもない。そのため、中国は、中立的立場から、北極圏における科学的、環境プロジェクトに取り組み、信頼感を高めてきた。実際、中国は、上海に新設(2013年12月)された極地研究所、「中国・北欧北極研究中心 (The China-Nordic Arctic Research Center) 」に年間6,000万ドルの予算を投入している。また、北極海での救難活動への参加を表明していることも、中国のイメージを向上させること役立っている。こうした中国の北極圏への関心が、そこにおける天然資源と通商ルートに動機付けられていることは明らかである。従って、北極評議会のメンバー国との関係を強化することは、北京に取って最大級の重要性を有している。その上、中国がメンバー国との関係強化に熱心なのは、経済規模の小さな国家に対して自国の経済力を使って個別に影響力を及ぼすことが可能だからである。アイスランドとの新たな自由貿易の取り決めと、アイスランド銀行との総額5億米ドルの通貨交換計画は、こうした中国の影響力行使戦略の嚆矢である。経済規模の小さな国が経済的に中国に依存すればするほど、例え中国が北極海沿岸国でないとしても、これら諸国が北極評議会のメンバー国としての地位を北京に与えようとする可能性が高まろう。

(4) 北極圏における「グレート・ゲーム」が現実性を帯びている状況下で、世界で発生している最近の出来事は、中国にとって有利な環境をもたらしている。例えばロシアは、ウクライナ危機の結果、ヨーロッパから孤立しているが、このことは北極圏におけるロシアの立場に大きな影響を及ぼすことになろう。新たに締結された中ロ間の天然ガス供給協定が示すように、エネルギーや大規模貿易に関しては、ロシアにとって中国はアジア最大のパートナーである。ロシア企業は、西側諸国の取引企業から(制裁によって)引き離されたため、北極海における開発資金と支援を北京に頼らざるを得ない状況になっている。既に中国石油天然気集団公司 (China National Petroleum Corporation: CNPC) は、ロシアの巨大エネルギー企業、Rosneftとの間で、北極海での共同石油探査開発契約を締結している。中国が北極海の未開発の石油資源にアクセスしようとするなら、この種の共同事業が必要不可欠となろう。何故なら、こうした未開発資源の大半が、ロシアのEEZ内にある北方航路沿いに埋蔵されているからである。中国のエネルギー需要が増大して行くにつれ、こうした共同事業が増えるであろう。北極圏における「グレート・ゲーム」は始まったばかりである。西側諸国は、中国の北極圏に対する野心を認識しておくべきである。

記事参照:
Forget the South China Sea: China’s Great Game in the Arctic Draws Near

8月4日「オーストラリアはASEAN支援を―豪専門家論評」(The Guardian, August 4, 2014)

オーストラリア国立大学戦略防衛研究所 (Strategic and Defence Studies Centre) のJohn Blaxland上席研究員は、8月4日付けの英紙、The Guardianに、“If Australia wants to avoid regional turmoil, it needs to turn to Asean”と題する論説を寄稿し、オーストラリアは自らの安全保障のためにASEANに軸足を移すべきとして、要旨以下のように述べている。

(1) オーストラリアは長年に亘って、東南アジアの南東端という安全な位置にあって、域外から自国だけの安全保障を求めてきた。しかし、オーストラリアは今や、域内にあって安全保障を求める必要がある。南シナ海における領有権紛争のような、伝統的な安全保障上の脅威は、アジア太平洋地域を混乱させている。安全保障を維持する鍵はASEANにある。南シナ海における領有権紛争はASEANの多くの加盟国、ベトナム、マレーシア、ブルネイ及びフィリピンに直接的な影響を及ぼすだけでなく、台頭する中国との関係を非常に困難なものにしている。北京の領有権の主張の論拠、「9段線」は、海洋資源が豊富な南シナ海を取り込むために活用されてきた。「9段線」は、インドネシアの利益に抵触する可能性がアリ、従ってオーストラリアにも影響するかもしれない。南シナ海における領有権紛争は新しいことではない。しかしながら、中国がより強大に、そしてより高圧的になり、それに対して特にフィリピンとベトナムが(アメリカと日本の支援を得て)巻き返しを図るようになって、紛争を取り巻く力学は大きく変わった。

(2) オーストラリアの専門家はASEANが1つの声で発言することにメリットを見出しており、オーストラリアは一貫して、団結し首尾一貫した行動をとるASEANの能力と決意を強めるよう努力してきた。中国の高まる圧力に対抗するために、アメリカとフィリピンは相互防衛条約を再活性化し、日本はフィリピン、ベトナム及び域内の他の国に具体的な援助を申し出た。しかし、日本やアメリカ、あるいはオーストラリアができることは限られている。中国はそのことをよく理解していて、一貫してASEANの領有権主張国の側に立った外部からの介入の誘因になる一線を越えないよう行動している。また、領有権紛争を多国間ではなく、2国間の枠組みで解決するという中国の主張も、ASEANを脇に追いやる結果となっている。ASEANの利益に適う紛争解決のためには、領有権紛争の当事国でないASEAN加盟国は、紛争当事国を支援する用意がなければならない。そうすることで、中国のような非加盟国との討議において統一戦線を構築できるのである。ASEANが紛争解決に当たって団結すれば、中国はASEANとの妥協を諮る可能性が高まりそうである。

(3) オーストラリアは、ASEANが加盟国全体の利益のために効果的に協同できる強力な機構となることに利益を有している。何故なら、オーストラリアは、その繁栄を海上貿易に依存している島国だからである。オーストラリアの海上貿易路はその生命線であり、その大部分は南シナ海を経由する。従って、オーストラリアは、南シナ海の領有権紛争の平和的解決に利害を有している。オーストラリアでは最近、「インド・太平洋」という用語が使われるようになってきた。その理由は、1つにはオーストラリアとこの地域の安全保障と繁栄にとって、インドとインド洋の重要性が増してきているとの認識の現れである。欧州、アジア、アフリカ及び南北アメリカを結ぶ海洋シルクロードとして、膨大な貿易量がこの地域を経由している。また、この用語は、この地域の全ての国にとって、中国とインドが共に平和的に発展していくことが益々重要になっているということを含意している。

(4) 「インド・太平洋」という概念でこの地域を再認識する上で重要なことは、東南アジアがその中心に位置するということである。東南アジアは既に、東西間そして南北間貿易のチョーク・ポイントである。オーストラリアから見れば、東南アジアは、東アジアと南アジアの十字路にあり、オーストラリアのすぐ北に位置する、「インド・太平洋」地域の中心部である。オーストラリアは、領有権紛争の平和的解決、そして経済的に統合されたこの地域とより緊密な貿易、経済関係を構築することに、永続的な利益を有している。そこにおいて、オーストラリアは、ASEAN諸国や域内の他の国と共に、地域の安全と安定に貢献する役割を果たしていく。選択の時はきている。ASEANは加盟国が団結する必要がある。一方、オーストラリアは、ASEANを支援する必要がある。

記事参照:
If Australia wants to avoid regional turmoil, it needs to turn to Asean

86日「中国、南シナ海で台湾侵攻想定の機雷対処演習実施」(Taipei Times, August 6, 2014)

台湾紙、Taipei Times(電子版)が8月6日付けで報じるところによれば、中国海軍はこのほど、台湾侵攻時に台湾の機雷防衛網突破を意図した、機雷対処演習を南シナ海で実施した。それによれば、演習は、台湾がこの1年開発してきた対艦「スマート機雷」タイプの機雷を無力化することを狙いとしたものであった。中国海軍報道官によれば、南海艦隊の演習艦隊は「数百メートル離れた」位置から機雷を探知し、爆発させた。米軍事筋は、こうした演習は台湾にとって「懸念すべき」出来事であると語った。本紙、Taipei Timesは2012年12月に、台湾が沿岸の浅海域に敷設し、敵の揚陸艦艇に効果的な新世代の「スマート機雷」を開発している、と報じた。台湾の西岸域には多数の三角江があり、攻撃側が海岸に達着しなくても、河川の上流に移動し、揚陸が可能で、台湾の弱点となっている。「スマート機雷」は依然機密だが、2013年に開発予算が承認されたといわれる。

記事参照:
China completes naval counter-mine exercise: US

86日「米海軍沿岸戦闘艦、進水」(MarineLog.com, August 7, 2014)

米アラバマ州モービルのAustal USAは8月6日、10隻建造予定のIndependence級沿岸戦闘艦 (LCS) 2番艦、USS Montgomery (LCS 8)を進水させた。Austal USAはIndependence級LCSの主契約企業で、現在5隻のLCSを建造中で、USS Jackson (LCS 6) は2014年後半の海上公試に向け準備中で、USS Gabrielle Giffords (LCS 10) は2014年後半の進水が予定され、 USS Omaha (LCS 12)、USS Manchester (LCS 14)及びUSS Tulsa (LCS 16) は建造中である。同社はまた、統合高速輸送艦 (JHSV) 10隻の建造を受注しており、既に3隻を海軍に引き渡している。現在、USNS Fall River (JHSV 4) が2014年秋の海軍への引き渡しに備えた、最終の海上公試を完了した。USS Trenton (JHSV 5) は9月に進水予定で、USS Brunswick (JHSV 6) は建造中である。

記事参照:
Austal USA launches LCS 8

8月7日「バングラデシュ・インド海洋境界画定判決、南シナ海紛争解決のモデルとなるか―ベートマン論評」(RSIS Commentaries, August 7, 2014)

オランダのハーグにある常設仲裁裁判所 (The Permanent Court of Arbitration: The Tribunal) は7月7日、ベンガル湾のインドとバングラデシュの海洋境界画定問題に対する判決を下した。シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のベートマン (Sam Bateman) 上席研究員は、8月7 日付けの RSIS Commentaries に、“Resolution of Bangladesh-India Maritime Boundary: Model for South China Sea Disputes?”と題する論説を発表し、この判決が長年にわたるインドとバングラデシュとの海洋境界線問題を平和裏に解決することになったが、中国も大国としてインドに倣い仲裁裁判を受け入れるべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 7月7日の常設仲裁裁判所の判決は、ベンガル湾におけるバングラデシュとインドの長年にわたる海洋境界紛争を終結させ、ベンガル湾とその海洋資源に対する両国間の協調的管理の確固たる基盤となろう。ベンガル湾には、豊かな漁業資源があり、また豊富な石油や天然ガスが埋蔵されていると推測されている。

(2) 常設仲裁裁判所は、多くの歴史的証拠や各種の地図を基に審議を重ねた結果、まず両国の陸上国境の末端位置を画定した。その上で、領海、200カイリのEEZ、及びEEZ内の大陸棚とそれを超えて延伸している大陸棚を画定した。その結果、インドはベンガル湾の南方海域に広大な大陸棚を認められたが、バングラデシュは、係争海域、2万5,602平方キロの内、1万9,467平方キロの管轄海域として認められた。この判決は、両国にとって“win-win”か、あるいは“lose-lose”か、ということで両国内でも見解が分かれている。バングラデシュが係争海域の約5分の4を認められたことから、バングラデシュが“winner”とするメディアもあるが、両国政府は公式には、“win-win”の判決であったと表明している。

(3) 仲裁裁判所への提出文書で、インドは、等距離原則 (equidistance principles) に基づく海洋境界の画定を主張した。一方、バングラデシュは、衡平原則 (equitable principles) に基づく画定を主張した。それは、両国の主張が重複する係争海域の大部分を等分することを意味した。バングラデシュの主張は理解できる。何故なら、バングラデシュは“zone-locked”国家で、ベンガル湾の頂点部分に位置しており、インドとミャンマーの管轄海域に閉じ込められている状態にあるからである。要するに、衡平原則に従わなければ、バングラデシュは、僅かなEEZと大陸棚しか持たないことになろう。従って、仲裁裁判所は、ベンガル湾の窪んだ形状はバングラデシュにとって不公平な状況を生み出していると認定し、バングラデシュが主張する境界線を基本的に受け入れた。その結果、衡平の原則を適用してバングラデシュにより大きな海域を認めるために、(地理上の等距離線とは異なる)概念上の等距離線がベンガル湾の西側に引かれた。

(4) 仲裁裁判所による大陸棚の境界画定によって、境界線の東側に、バングラデシュ沿岸からは200カイリを超えるが、インド沿岸からは200カイリ以内にある、「グレーゾーン」が生まれた。この「グレーゾーン」に対しては、バングラデシュが自国の大陸棚に対する主権的管轄権を有するが、一方でインドも、EEZとその海洋資源に対する主権的管轄権を有することになる。しかも、この「グレーゾーン」は、国際海洋法裁判所 (ITTLOS) がバングラデシュとミャンマーとの海洋境界を画定させた時に生じた海域と重複している。この海域の海底や下層土はバングラデシュに帰属する一方で、境界線は今なおインドとミャンマーとの間で問題となっているのである。大陸棚とEEZの境界線が一致していないことは決して珍しいことではないが、関係国がこの判決をこの海域にどのように適用するかという問題は、今後も注視していく必要がある。いずれにせよ、関係国の間で補足的な協定を結ぶことが求められるであろう。

(5) この「グレーゾーン」問題に加え、ベンガル湾の海洋境界については、未解決の問題が残されている。バングラデシュ、インド、ミャンマーそしてスリランカの4カ国は、国連大陸棚限界委員会 (Commission on the Limits of the Continental Shelf: CLCS) に対して、他国が主張する管轄海域と重複する海域にまで、自国の大陸棚外縁限界の延伸申請を行っている。インドの申請は2件で、1つはインド本土沿岸から東側に伸びている部分で、もう1つはアンダマン・ニコバル諸島から西側に向かって伸びている大陸棚である。仲裁裁判所は、バングラデシュとインド間の大陸棚境界線を、バングラデシュとミャンマー間で画定された大陸棚境界線と交錯する位置まで延伸したことで、結果的に3国間の境界交差点を設定したことになった。これによって、インドとミャンマー間に小規模な大陸棚境界線未画定海域を残すことになった。同様に、インドとスリランカの間でも、スリランカが延伸を申請した海域とインド本土とアンダマン・ニコバル諸島からの延伸海域との境界線は未確定となっている。

(6) いずれにしても、今回の判決は、この地域の海洋安全保障にとって好ましい進展と言える。この判決は、ベンガル湾における最大の緊張要因を取り除き、ベンガル湾とその海洋資源をより効果的に管理するための道を拓いたことで、関係国にとって“win-win”の成果となった。海洋境界画定問題を平和的に解決しようとする意思と、仲裁裁判所の判決を受け入れるという姿勢は、南アジアの大国としてのインドの道義的威信を高めた。これは、東アジアにおいて中国が見習うべき態度である。領有権問題の存在を否定するよりも、不利な結果が出るか知れないというリスクを承知の上で、中国は仲裁に応じたほうが良いし、もしかしたら勝てるかもしれない。この判決は、政治的な意思があれば、海洋紛争は平和的に解決できるということを証明する、価値ある先例となった。しかしながら、この判決は、東シナ海や南シナ海における海洋境界を巡る紛争解決の先例にはならないかもしれない。何故なら、これら海域における領有権を巡る係争島嶼の存在が、海洋境界画定を極めて複雑なものにしているからである。従って、係争島嶼の主権問題の解決が海洋境界を巡る交渉の前提となる。現段階では、東アジアの紛争当事国が、係争中の海洋境界画定問題を国際的な司法の場に付託するという動きはほとんど見られない。

記事参照:
Resolution of Bangladesh-India Maritime Boundary: Model for South China Sea Disputes?
RSIS Commentaries, August 7, 2014

87日「黒色炭素排出削減が喫緊の課題、北極圏の環境汚染防止―米シンクタンク報告書」(The Center for American Progress, August 7, 2014)

米シンクタンク、The Center for American Progressは8月7日、Saving the Arctic: The Urgent Need to Cut Black Carbon Emissions and Slow Climate Changeと題する報告書を公表した。報告書の筆者、Rebecca Lefton上席政策アナリストとCathleen Kelly上席研究員は、報告書の概要について、要旨以下のように述べている。

(1) 北極圏は、世界の他の地域より2倍のスピードで温暖化している。その理由は、1つには、大部分が雪と海氷からなる北極圏における黒色炭素 (black carbon) 排出による深刻な影響のためである。黒色炭素は煤が主成分だが、広範な空気汚染と気候変動の潜在的な要因となっている。北極圏のような極寒の氷に覆われた地域では、黒色炭素の熱吸収効率が高い黒い粒子で覆われると、海氷の熱吸収率が高まり、温暖化を加速する。温暖化の加速によって、黒い地面が露出したり、海氷が融解したりする。

(2) 気候変動に対処するためには、世界中でカーボン汚染、即ち二酸化炭素 (CO2) の即時かつ長期的な削減が必要である。しかしながら、北極圏における急速な温暖化を避けるためには、カーボン汚染の削減だけでは十分でない。北極圏や世界の他の地域における黒色炭素の排出削減も行われなければならない。1世紀あるいはそれ以上の長期にわたって大気中に留まるカーボン汚染とは違って、排出される黒色炭素は数日あるいは数週間で消滅するが、カーボン汚染より何千倍も強力である。このため、CO2の削減と併せて黒色炭素の排出を削減することは、近い将来の温暖化を回避し、北極海における海氷の溶解と消失を遅らせる上で、大きな効果をもたらすことになろう。

(3) この報告書は、黒色炭素汚染の原因、排出削減による様々な効果、そして野心的な黒色炭素排出削減目標の実現可能性を論じたものである。その上で、報告書は、ケリー米国務長官が2015年に北極評議会の議長に就任した時、アメリカは、北極海とその他の極寒地域における急速な温暖化に対処するために、各国、地域そして世界全体による野心的な努力を先導すべきとして、以下のような目標を達成することを提言している。

a.気候変動を2015~2017年の北極評議会の全体テーマとして設定すること。

b.黒色炭素汚染削減を各国の国家目標及び地域目標として設定することについて、2015年に全ての北極評議会加盟国から確約を得ること。更に、ケリー国務長官と北極評議会加盟国は、オブザーバー国による行動を加速するよう慫慂するとともに、以下のイニシアチブを通じて、世界的規模で黒色炭素排出削減のための行動を進めること。① 任意の野心的な国家目標を設定し、黒色炭素の排出を削減する新たなイニシアチブを取ることについて、全ての北極評議会オブザーバー国から確約を得ること。② 北極圏とその他の凍土地帯における温暖化が危険なレベルに達するのを遅らせるために、Global Ice Preservation and Security Initiativeを開始すること。

(4) アメリカは、北極圏とその他の凍土地帯における急速な温暖化に対処するために、野心的な国家的、地域的そして世界的な努力を主導するに相応しい立場にある。既に、北極沿岸国の多くは、黒色炭素の排出削減に向けての努力を始めている。北極評議会の加盟国とオブザーバー国は、評議会を通じて協同することで、黒色炭素の排出を一層削減するとともに、北極圏での温暖化を遅らせるために、各国間のより大きな努力を動員することができる。

記事参照:
Saving the Arctic: The Urgent Need to Cut Black Carbon Emissions and Slow Climate Change
Full report is available at following URL;
http://cdn.americanprogress.org/wp-content/uploads/2014/08/BlackCarbonArctic-report.pdf

88日「カナダ、北極海海底調査に砕氷巡視船派遣」(The Globe and Mail, The Canadian Press, August 8, 2014)

カナダは8月8日、北極点周辺の海底の科学的データ収集のために、沿岸警備隊の巡視船2隻を高緯度海域に派遣した。沿岸警備隊砕氷巡視船、CCGS Terry FoxとCCGS Louis St. Laurentは、6週間に亘る航海で、ロシア側から北極点を越えてカナダのエルズミーア島近くまで延びるロモノソフ海嶺の東側を調査する。カナダ政府によれば、北極海の海氷の状況が許せば、北極点周辺海域も調査する。カナダは2013年12月6日、国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に北極海の大陸棚外縁延伸について予備的申請を行った。この時点での申請海域は120万平方キロであったが、ハーパー首相が延伸海域を更に拡大することを決定した。カナダの科学者によれば、ロモノソフ海嶺がカナダ側の大陸と繋がっているように見えるが、カナダはこれまで空中調査しか実施していない。ロシアとデンマークも、ロモノソフ海嶺が自国領沿岸に繋がっていると主張している。実際、北極点は、ロモノソフ海嶺のデンマーク(グリーンランド)側に位置しており、またカナダのエルズミーア島とグリーンランドの間の中間線のデンマーク側にある。このため、ハーパー首相の決定を、国内向けと指摘する専門家もいる。カルガリー大学のHuebert教授は、管轄権主張の重複は交渉によって解決すべきとしながらも、カナダは可能な限りより広い海域の管轄権を取得すべきである、と語った。一方で、同教授は、ロシアのプーチン大統領がカナダの海底調査を西側の対ロ制裁の一環として挑発行為と見なすかもしれない、と指摘した。第2回の海底調査は、2015年に計画されている。

記事参照:
Canadian icebreakers head out to map Arctic sea floor
See also: Preliminary Information concerning the outer limits of the continental shelf of Canada in the Arctic Ocean
Map: The Lomonosov Ridge

8月8日「米中関係の通奏低音、アジア太平洋地域の安全保障構造を巡る対立―CNAS専門家論評(CNAS Blog, The Agenda, August 8, 2014)

米シンクタンク、The Center for a New American Security (CNAS) の上席顧問、Dr. Patrick M. Croninは、8月8日付けのCNASブログに、“Dueling Narratives, Dueling Visions of ASEAN”と題する論説を、CNAS National Security InternのCecilia Zhouとの連名で発表し、ASEANを中心とするアジア太平洋地域の安全保障構想に対する米中間の思惑の相違について、要旨以下のように述べている。

(1) 米中関係は、高度な安定を維持しているが、将来のアジア太平洋地域の安全保障構造を巡る対立が通奏低音となっている。ミャンマーの首都ネピドーで開催された、ASEAN地域フォーラム (ARF) でテイン・セイン大統領は開会の辞で、「究極の目的」は繁栄と平和であり、そして「人間としての尊厳の促進」でなければならないと強調した。アメリカと中国、そして域内においても、これらの目的の優先度ばかりでなく、それらを実現する手段についても意見が分かれている。

(2) 中国は現在ASEAN諸国の最大の貿易パートナーであり、2013年の中国ASEAN間の貿易額は5,000億ドル近い。ARFの前に、中国は、タイ軍事政権に対する230億ドルの高速鉄道建設プロジェクト支援を承認するとともに、ミャンマーにおける2本目の共同ガスパイプラインに天然ガス供給を開始した、と発表した。緊張激化の源泉となっている南シナ海では、中国は、航行の安全という公益を口実に5つの島嶼や岩礁に灯台を建設しようとしている。中国の多面的戦略は、ASEAN加盟国が中国の利益に反して団結しないように、ASEAN内での影響力を強化しようとする狙いを秘めている。北京は、ASEANが一致団結して、領有権紛争の仲裁、法的拘束力を持つ行動規範、あるいは南シナ海におけるインフラ建設の凍結を呼びかけたりすることを望んでいない。中国の多面的戦略は、ASEAN加盟国に対する個別の影響力拡大と連動している。ASEAN加盟国に対するインフラ整備支援は、中国の経済成長のための資源へのアクセスの見返りなのである。そして、南シナ海の島嶼や岩礁における灯台の建設は、南シナ海の係争海域におけるインフラ建設の凍結を求めるアメリカの呼び掛けに対する穏やかな拒絶なのである。

(3) 中国の行動の重点は、アメリカの力とコミットメントが永続的な安全保障を提供できないと東南アジア諸国に信じ込ませようとする一方で、中国が米軍事力を近海からより遠方に押し返すことを望んでいることを示唆している。中国政府は既に、海軍に対して海洋の支配と管理を積極的に推進することを指示しており、石油採掘リグ、Haiyang Shiyou 981の撤収後も、海洋における様々な挑発的行動を通じて、海洋の支配と管理を推し進めている。 同時に、中国は、「アジアの国」がアジアの安全保障を決定しなければならないと強調してきた。中国は、アメリカの同盟体制を益々声高に非難し、それに代えて、漠然としてはいるが、排他的な新秩序を提唱してきた。中国のシナリオでは、この新秩序にあっては、アメリカは排除されるか、あるいは国内や他の国際的な危機に対応を余儀なくされ、従って、東南アジア諸国は、長い目で見れば中国に頼る (bandwagon) しか選択肢がないであろうというものである。一方、アメリカは、オープンで法の支配に基づくASEANを望んでおり、ASEANが経済重視だけでなく、中国の行動を含む、あらゆる違法な行動に対抗するために安全保障協力を強化することを望んでいる。

(4) こうした米中の考え方の相違は、域内各国間に不快感をもたらしていることは間違いないであろう。ASEAN加盟国と域内各国は、中国との貿易かアメリカの保護か、という二者択一を強いられたくない。域内のほとんどの国は、2つとも望んでいるのである。従って、アメリカは、目先の中国の行動に目先の代価を強いるという単なる小手先戦術ではない、戦略を必要としている。アメリカの戦略には、① 望ましくない抗争を管理するために中国に戦略的に関与し、② 効果的で永続性のあるプレゼンスを維持し、③ 経済と政治の意図的な過小評価を避け、④ アメリカの力を単一の政策遂行手段に統合し、⑤ ASEANと国際法を中核とした地域機構を構築し、⑤ 南シナ海における領有権主張国だけでなく、インドネシアやシンガポールなどの他のASEAN主要加盟国も含めた、アジア諸国間の、そしてASEAN加盟国間の協力を慫慂する、ことが求められるよう。

記事参照:
Dueling Narratives, Dueling Visions of ASEAN

810日「中国外交部、西沙諸島島嶼での灯台建設を弁護」(Taipei Times, Reuters, August 10, 2014)

中国外交部報道官は8月10日、中国メディアが7日付けで報じた、西沙諸島島嶼における灯台建設を、航行の安全に役立つ施設であると弁護した。中国メディアの報道によれば、中国は、西沙諸島の5つの島嶼と岩礁、North Reef(北礁)、Antelope Reef(Lingyang Reef、 羚羊礁)、Drummond Island(Jincing Island、晉卿島)、South Sand(南沙洲)及びPyramid Rock(Gao Jianshih、高尖石)に灯台建設を計画している。台湾はこれら島嶼や岩礁の全てに、ベトナムはその内の2つに領有権を主張している。

記事参照:
Chinese foreign ministry defends lighthouse decision

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子