海洋情報旬報 2014年9月1日~10日

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9 月2 日「中国、南シナ海に新客船航路を開拓」(CRI English.com, Xinhua, September 2, 2014)

中国の新華社通信は9 月2 日、中国が新たに南シナ海に開設した航路に関し、要旨以下のように報じている。

(1) 9月2日午後、南シナ海の西沙諸島と中国最南端の都市、海南省三亜市を結ぶ新たな航路が開かれた。運航船社の南海海峡航運服務有限公司 (Hainan Strait Shipping Co.) によれば、約200人の観光客が貨客船、「椰香公主」(9,683トン)に乗船し、西沙諸島に向けて12時間の処女航海に出た。同社によれば、乗客は船内に寝泊まりし、永楽群島 (The Crescent Group of the Paracel Islands) の銀嶼 (Yin Yu)、全富島 (Quanfu Dao)、鴨公島 (Yagong Dao) を訪れ、ビーチバレーや釣り、記念撮影などを行う予定である。このクルーズは3泊4日で、1室当たり4,000元(650米ドル)から1万元以上する。西沙諸島までは最寄りの港から180カイリほどあるが、2013年4月に行なわれた海南省省都の海口市からの試験航行以来、約3,500人の旅行者が同諸島を訪れている。9月2日から始まった新たな「三亜~西沙」航路は、これまでの「海口~西沙」航路より航行時間が8時間も短くなっている。

(2) 海南島の南東に位置する西沙諸島は、その素晴らしい景観や生態系で有名な島嶼やサンゴ礁の集合体である。ただ、この楽園のような西沙諸島の魅力に引かれて、無認可の渡航が後を絶たず、2013年1月には、24人の旅行者が悪天候のため4日間も足止めを食らっている。西沙諸島への観光の促進は、ここ数年間、中国政府にとっての検討課題だった。2009年末に中国国務院は、西沙諸島を含む海南省を海外からの観光客誘致を目指すために開発することを発表している。

記事参照:
China Opens South China Sea Cruise Route
Map: The Crescent Group of the Paracel Islands.(永楽群島)
Photo:貨客船「椰香公主」

【関連記事1「中国の南シナ海クルーズ開始、その狙い-米専門家論評」(The Diplomat, September 2, 2014)

Web 誌、The Diplomatの共同編集長、Shannon Tiezziは、9 月 2日付の同誌に、“China Revamps South China Sea Cruise Line”と題する論説を寄稿し、中国が開設した南シナ海クルーズ航路の狙いについて、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は1年以上前から、西沙諸島を目的地としたクルーズサービスを強化してきた。新華社通信は9月2日、係争海域である南シナ海へのクルーズ航路を運航する船社が、新たな航路を開設したと報じた。新華社通信によれば、2013年4月に西沙諸島へのクルーズ航路が開設されて以来、運航船社である、南海海峡航運服務有限公司 (Hainan Strait Shipping Co.) は、海南島から南シナ海の西沙諸島に向け延べ3,000人以上の観光客を乗船させている。この航路には、貨客船「椰香公主」(9,683トン)1隻が運航されており、毎月もしくは隔月でツアーを開催し、その都度200人程度の観光客を乗せている。当初の航路は、海南省の省都、海口市を出航し西沙諸島まで、その所要時間は20時間であった。しかし、今回、運航船社が出航地を海南省南海岸の三亜市に変更したことで、西沙諸島までの航海は12時間に短縮された。乗客は、同諸島の永楽群島(英語名:Crescent Group of the Paracels)の銀嶼(英語名:Observation Bank)、全富島、鴨公島を訪れる。

(2) クルーズに関する報道は観光目線で報じられているが、その背後には紛れもなく政治的な狙いもある。西沙諸島に定期便を運航させることで、中国は、西沙諸島全域に対する絶対的な管轄権を主張する姿勢を強化しようとしている。クルーズ船は乗客に食料と居住区を提供するが、それにより中国は、乗客が島嶼に上陸して過ごすために必要な大規模なインフラを構築しなくても、多くの人員をこの海域に訪問させることができる。しかも、中国はこれまで係争海域を哨戒するために非軍事船舶を活用してきたが、クルーズ船の運航による係争海域におけるプレゼンスは、こうした方針における新趣向と言える。北京は一般的に、海警局巡視船や名目上民間の釣船を使用して、係争海域における管轄権を主張する戦術を多用してきた。クルーズ船、非武装船舶そして完全な民間船舶は、他の領有権主張国からの積極的な妨害行為を免れやすい。

(3) 2013年に西沙諸島へのクルーズが開始された際、ベトナムは激しく抗議した。国営メディアのThanh Nien Newsはクルーズを「係争海域における度重なる一方的な挑発行為の最新のもの」と報じたが、北京はハノイからの正式抗議を無視した。中国は、西沙諸島に対するベトナムの領有権主張を認めておらず、この海域での観光事業は他国が懸念するようなものではない、と主張している。しかしながら、クルーズの最初の乗客は中国本土の市民であることが要件とされたことから、中国がこのクルーズの政治的効果を予期していたことは明らかである。外国のパスポート保持者、香港やマカオから来た中国市民でさえも、説明もなく参加を拒否されと報じられた。更に、報道によれば、この初めてのクルーズに参加した約200人の乗客は、本来の意味での旅行者ではなく、政府職員であったという。

(4) 政府による認可がなくても、中国の一握りの熱狂的な国家主義者の中には、自らの生命の危険も顧みず、他国との係争地に行こうとする者もいる(記憶に新しい事案としては、2014年に中国の料理人がバルーンで尖閣諸島に上陸を試みたが、失敗した事案がある)。新華通信社は、公式に認可されたクルーズが開始されても、西沙諸島における同種の行動が皆無とはならないと示唆している。フィリピンも、係争海域を合法的に管轄する手段として、この種の公式に認可されたクルーズを検討している。フィリピン軍総参謀長は報道陣に、係争海域の南沙諸島を訪れるクルーズを開始したいと語っており、中国のクルーズを前例として挙げている。これまでの漁業や石油掘削事業に加えて、今や観光産業が、係争海域における管轄権を強めるとともに、当該国に経済的利益をもたらす商業的手段として新たに加わったことになる。

記事参照:
China Revamps South China Sea Cruise Line

【関連記事2「ベトナム、中国の西沙諸島へのクルーズを非難」(Thanh Nien News, September 4, 2014)

ベトナムのThanh Nien Newsは9月4日付で、中国の西沙諸島へのクルーズ開始を非難し、要旨以下のように報じている。

(1) ベトナム外務省報道官は9月4日、「ベトナムはパラセル諸島に対する主権を有しており、これには議論の余地はない」として、「(中国による)新たなる航路の開設は、2011年10月に締結された、『海洋問題に関する中越決議 (The resolution on China-Vietnam maritime issues China-Vietnam maritime issues)』に反しているばかりか、2002年の『南シナ海に関する行動宣言 (DOC)』にも違反している」と非難した。中国の航路開設は、ベトナム共産党幹部が北京に招かれた1週間後のことであった。その上で、同報道官は、ベトナムは中国による新航路の開設が東シナ海の現状や南シナ海におけるベトナムの立場そして地域の状況までも不安定にさせるとして、「ベトナムは、中国が直ちにそのような誤った行動を中止することを要求する」と主張した。

(2) 中国は、新しい航路を、2014年5月初旬に中国がベトナムのEEZ及び大陸棚の内側に石油掘削リグを設置したことを受け、中越両国の緊張緩和のためにベトナムの特使が北京を訪れた1週間後に開設した。特使との会議の席上、習近平国家主席は、ベトナム共産党政治局員であるLe Hong Anh特使に対して、「両国とも互いに親密であるべきであり、それが両国関係の修復に資するであろう」と述べている。しかし、専門家らは、この会談が中越両国関係の突破口になるかという点については懐疑的である。米戦略国際問題研究所 (CSIS) のGregory Polingは、「この会談は、確かに最近の中越両国の緊張関係を緩和させるシグナルとなった。しかし、これは長期的な雪解けとは言えないであろう」と見ている。そしてPolingは、「ベトナム国内には、依然として中国に対する怒りと懸念が存在しており、5月の石油掘削リグの騒動よりも前の状態に両国が戻ることはできないであろう」、「ベトナム指導部は、例え緊張状態が緩和されたとしても、それは中国による次の挑発が来るまでの間だけだと認識している」と指摘した。ここ数カ月、中国は、スプラトリー諸島の小島嶼で数多くの埋め立てプロジェクトを実施している。更に北京は8月に5つの島嶼に灯台を設置する計画を発表したが、その内の2つの島嶼はパラセル諸島に位置している。Polingは、中国は係争海域における不動の支配権を追求し続けるであろうと予測し、「北京は暫くの間、緊張関係を緩和させておきたいようである」と見、「現時点では、中国の長期的な目標に何か変化が生じているような兆しは見られない」と指摘している。

記事参照:
Vietnam condemns China’s new cruise to contested islands

9月2日「中国の真の狙い、アジアにおけるモンロー・ドクトリン―米専門家論評」(The National Interest, September 2, 2014)

米カリフォルニア大バイン校のPeter Navarro教授は、米誌、The National Interest(電子版)の9月2日付ブログに、“China’s Real Goal: A Monroe Doctrine in Asia?”と題する論説を寄稿し、最近の米海軍P-8哨戒機に対する妨害事案などの背景にある中国の真の狙いについて、要旨以下のように述べている。

(1) 最近、中国の戦闘機パロットが南シナ海上空で米海軍のP-8哨戒機を妨害したが、このパイロットの行動は、単に中国の拡大する軍事力を誇示しただけではない。パイロットの行動は、航行の自由と上空飛行の自由という、最も神聖な国際秩序における原則に挑戦していたのである。今回のP-8哨戒機に対する妨害飛行と2001年のEP-3偵察機と中国戦闘機の衝突事案に共通する特徴は海南島である。何故か。海南島の楡林海軍基地の巨大な地下洞窟には、アメリカ本土に到達が可能な弾道ミサイルを搭載した、増強されつつある「晋」級弾道ミサイル搭載原潜部隊が配備されている。米軍が海南島に注目し続ける理由はそれ以外にはない。中国側からすれば、如何なる方法ででもアメリカの監視活動を好ましく思ってはいない。しかし実際には、EP-3とP-8の事案は、航海の自由と上空飛行の自由に関係する事案である。この種のその他の事案としては、2009年の米海軍音響測定艦、USNS Impeccableに対する妨害事案、2013年11月の尖閣諸島を含む防空識別圏 (ADIZ) の設定、そして2013年11月の中国艦の米海軍ミサイル巡洋艦、USS Cowpensとの衝突寸前事案がある。米国防省によれば、最近、P-8事案に類似した事案が多いという。

(2) この種の事案は、2大軍事大国による単なる抗争以上の問題を内包している。即ち、これらの事案は、中国が航行の自由と上空飛行の自由を再定義しようとして法律戦を仕掛けているということの証左なのである。この法律戦は、1986年に国連海洋法条約 (UNCLOS) が成立した時に遡る。UNCLOSは、沿岸から200カイリまでのEEZを設定し、EEZ内の漁業資源や天然資源に対する排他的権利を当該沿岸国に付与した。UNCLOS成立以降、中国は、航海の自由と上空飛行の自由について、当該沿岸国のEEZ内では制約されるとの特異な立場を取ってきた。中国は現在、中国のEEZを通過しようとする如何なる国の軍用機も艦艇も中国の許可を求めなければならないと主張している。そして、中国は、この法的立場に立って、中国のEEZ内における外国軍用機や艦艇の飛行や航行に対する妨害行動を正当化している。

(3) ここで明確にしておきたいことは、現実の条約には中国の立場を支持する規定は全くないということである。しかしながら、例え東シナ海や南シナ海といった限られた範囲内とはいえ、航海の自由や上空飛行の自由に関する中国の新しい定義が受け入れられるようなことになれば、この新たな規則は、アジアにおける中国の新たなモンロー・ドクトリンということになろう。実際、この新たな規則の下で、中国は、経済の大動脈である、この地域の最も重要で繁栄する海上交通路における、航海の自由と上空飛行の自由の2つを効果的に規制できるようになろう。経済的及び安全保障上の大きな利害を考えれば、中国は、今後も航海の自由と上空飛行の自由に対する挑戦を続けていくと見られる。

(4) では、アメリカは如何に対応すべきか。これについては、まず、以下の5つの措置がとられなければならない。

a.ホワイトハウスは、経済的関与が最終的に中国を平和愛好的な民主国家に向かわせるという考えを改め、中国を深刻な脅威として対応し始めなければならない。

b.国防省は、中国に有無を言わせないために、中国の攻撃的な行動を記録するビデオカメラを域内で行動する全ての米軍機に装備すべきである。

c.米企業は、米中間で軍事的軋轢が生じた時に、中国内の工場施設が危険に晒されることを回避するため、その生産拠点を本国に戻すようにしなければならない。

d.アメリカのメディアは、P-8事案のような事案が生起した場合、2面や3面で取り上げるのではなく、より大きな問題として印象づける紙面構成を考えなければならない。

e.最後に、アメリカの消費者は、「メイド・イン・チャイナ」商品を購入すれば、自国の経済と安全保障に益々脅威となる中国の軍事力建設を手助けしているということを認識しなければならない。

記事参照:
China’s Real Goal: A Monroe Doctrine in Asia?

9月3日「中国ASEAN関係の暗雲、南シナ海問題を他の関係から切り離すべき―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, September 3, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のLim Kheng Swe研究員は、9月3日付の RSIS Commentariesに、“China-ASEAN Relations: Hamstrung Soft Power in South China Sea?”と題する論説を寄稿し、中国と東南アジア諸国の多角的な関係は南シナ海における北京の強固な領有権主張によってしばしば足を引っ張られているが、果たして海洋における領有権問題を他の諸問題と切り離すことができるかとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国と東南アジア諸国はこれまで以上に深く絡み合っている。相互の貿易は活況であり、中国の投資家は東南アジアに注目している。中国は、ASEAN主催のほとんど全ての地域安全保障会議に参加している。中国と東南アジア諸国の関係は、相互に平和と繁栄をもたらす黄金時代に向かっているかに見える。しかしながら、南シナ海における紛争は、こうした見通しに影を落としている。ベトナムとフィリピンは、中国との間で幾つかの外交的、軍事的火種を抱えている。最近では、ベトナムと中国の船舶が係争海域に設置された中国の石油掘削リグを巡って対峙した。中国と東南アジア関係のウオッチャーにとって、南シナ海問題は不吉な影である。

(2) しかし俯瞰してみれば、中国と東南アジア諸国との経済関係は拡大しつつあり、 2013年の貿易総額は過去最高の4,436億ドルに達した。外交的緊張にも関わらず、ベトナムとフィリピンの対中2国間貿易も増加している。中国の東南アジアへの投資やインフラ建設プロジェクトは、特にCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー及びベトナム)諸国を中心に年々増えている。 バンコクは最近、昆明~シンガポール間の鉄道のビエンチャン~バンコク区間の建設を承認した。これは、中国南西部と東南アジア大陸部との連結を強化するものである。中国はまた、ミャンマー東海岸のチャウッピューから中国雲南省を結ぶ天然ガスパイプラインを完成した。そして中国の国有企業は、ラオスの山岳地帯にダムや水力発電所を建設している。中国と東南アジア近隣諸国は、軍事関係の強化も進めている。中国の公式メディアの報道を子細に見れば、中国と東南アジア近隣諸国との間の相互軍事交流が2009年から2013年の間、急増しており、この間、年間軍事交流回数が18〜36回もあり、2003年から2008年までの期間が年間0〜9回に止まったのとは対照的である。中国はまた、拡大ASEAN国防相会議 (ADMM Plus) のHA/DR(人道支援・災害救助)演習にも参加している。中国の外交政策は、「善隣友好政策」の一環として、近隣諸国との安定した外交、経済関係を維持することを究極の狙いとしている。

(3) それでは、域内各国に対する中国の「微笑外交」を損ないかねない、南シナ海の領有権問題に対する高圧的姿勢をどのように説明するのか。中国政府は結局のところ、中国の領土保全問題において妥協するつもりは一切ない。北京は、国民国家の領土保全を神聖視するウェストファリア体制を信奉しているようであり、自国の領土が脅かされている時は何時でも本能的に反応する。北京の観点からすれば、フィリピンとベトナムは、中国が領有権を主張する領域に対して領有権を主張していることになる。中国とこれら2国間の紛争の歴史を見れば、中国が態度を硬化させ、紛争をエスカレートさせるにつれ、両国は、中国の動機に対して不信感を募らせてきた。静かな外交を通じて紛争のエスカレートを防ぐことも可能だが、フィリピンやベトナムにとって、また中国にとっても、国内の国民感情に迎合するために領有権紛争に対して強硬な態度を取らざるを得ず、静かな外交は不可能になっている。従って、東南アジア諸国に対する中国のソフトパワー・アプローチは、南シナ海問題に対するその強硬な態度によって台なしになっている。とはいえ、これは、北京にとって必ずしも悪い戦略ではない。ハードな対応とソフトな対応を同時に駆使することで、中国は、東南アジア諸国との駆け引きから最大限の利得を引き出すことができる。即ち、南シナ海問題では妥協しない姿勢を堅持しながらも、一方で近隣諸国との経済関係を強化するとともに、(全体として)近隣諸国との安定した関係の維持を可能にしている。

(4) 南シナ海紛争は確かに地域の安全保障問題ではあるが、ASEAN諸国にとって、明るい見通しもある。中国の硬軟両用戦略は、南シナ海問題を、中国と東南アジア諸国とのその他の関係から切り離すことを意味している。 中国と東南アジア諸国との軍事、外交及び貿易関係は全体として、領有権問題に足を引っ張られないようにすべきである。東南アジア諸国自体も、中国のソフトパワー・アプローチから利益を得ることができるからである。大事なのは領有権問題とその他の関係に明確なラインを引くことであり、そうすることで、東南アジア諸国は、両者の関係における対立問題がその他の関係に及ぼす波及効果を最小限に抑えながら、中国からの最善の恩恵を受け続けることができるのである。明確なラインを引くことは、例え南シナ海の紛争が未解決のままであっても、この問題を、中国と東南アジア諸国とのより広範な関係における一局面に限定しておくことが可能なことを意味する。領有権紛争が全体関係における他領域に波及しないとすれば、域内の全ての国は、迫り来る「中国の脅威」を常に懸念することなく、経済的繁栄、軍事協力そして政治的安定を強化していくことに集中することができるであろう。

記事参照:
China-ASEAN Relations: Hamstrung Soft Power in South China Sea?
RSIS Commentaries, September 3, 2014

93日「シンガポール・インドネシア、シンガポール海峡東側の境界画定条約に調印」(Xinhua, Global Post.com, September 4, 2014)

シンガポールとインドネシアの両国外相は9月3日にシンガポールで、シンガポール海峡東側の境界画定条約、The Treaty between the Republic of Indonesia and the Republic of Singapore Relating to the Delimitation of the Territorial Seas of the Two Countries in the Eastern Part of the Strait of Singaporeに調印した。両国は2009年に、シンガポール海峡の西側の境界画定条約、The Treaty between the Republic of Indonesia and the Republic of Singapore Relating to the Delimitation of the Territorial Seas of the Two Countries in the Western Part of the Strait of Singaporeに調印済みである。

記事参照:
Singapore, Indonesia sign key maritime boundary treaty

94日「『航行の自由』に対する中国の恣意的解釈に挑戦すべし―ホームズ論評」(The Diplomat, September 4, 2014)

米海軍大学のJames R. Holmes教授は、9月4日付のWeb誌、The Diplomatに、“China’s War on Maritime Law”と題する論説を寄稿し、国連海洋法条約における「無害通航」に対する中国の恣意的解釈に挑戦すべしとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国は、言論戦において、決してワシントンに屈することはないであろう。使用する用語の解釈権を譲ることは、外交的に致命的な失策となり得る。もし外交の場において使用する用語を相手側に定義させれば、相手側の定義に基づいて展開される議論に屈することになろう。こうした言論戦、あるいは中国の言う「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)は、どんな名前であれ、北京にとって終わることのない戦いである。北京の言論戦に対抗するためには、粘り強い対応が必要である。

(2) 中国には、アメリカが国連海洋法条約 (UNCLOS) の下で「無害通航 (“innocent passage”)」の定義を乱用しているという強い認識がある。UNCLOSでは、「無害通航」は、当該沿岸国の海岸から12カイリの領海を通航する船舶に対して、当該沿岸国の安全を脅かす行為を自制することを条件に認められている権利である。UNCLOSは、軍による偵察活動も安全を脅かす行為としている。しかし、「無害通航」は、当該沿岸国のEEZを含む領海外においては意味を持たない用語である。そこでは海洋の自由が適用される。自由とは、自由であることを意味する。最近、中国軍機によって異常接近された、米海軍哨戒機、P-8 Poseidon は、海南島東方約135カイリの公海上空にあった。アメリカや同盟国の軍広報官は、中国が「無害通航」を自国のEEZにまで適用する度に、そのことを指摘しなければならない。もし「無害通航」という用語が、領海においてのみ適用されるという厳密な用語ではなく、一般的な用語として行き渡れば、アメリカは極めて重要な点において屈服することになり、そうなれば中国に法的な規範を再定義させることになろう。

(3) 北京大学の王棟教授は、「米軍のスパイ機は、見物やピクニックに来ているわけではない。それは、大規模かつ継続的に実施されている集中的で侵略的な軍事情報収集活動であり、中国の安全保障を脅かしているだけでなく、中国の国内法の重大な違反である」と指摘している。これに対するワシントンからのメッセージは、「おあいにく様 (tough luck)」というべきであろう。全ての沿岸国と同じように、中国の主権は、その領海と領空にのみ及ぶものである。中国の国内法は、中国のEEZ内は言うまでもなく、南シナ海のほとんどを囲い込む中国の不条理な「9段線(10段線)」の中で行動する船舶あるいは航空機に適用されるものではない。もし米海軍機が(中国のEEZ内で)漁獲をしたり、石油を掘削したりする海賊行為を働いたのであれば、中国は抗議する権利がある。中国の指導者が周辺海域と空域を強力な管制下に置きたいと望むのであれば、それは法律を作ることではない。

(4) 前出の王棟は、「アメリカは、自国の沿岸域で外国軍のかかる行動を許していないではないか」と言う。これは、もう1つの標準的な中国の論点である。しかし、その論点を絶えず繰り返しても、それが正しいということにはならない。王棟は、冷戦史を見直すことが必要である(王棟の専門は、冷戦史、米国外交及び米中関係)。冷戦期、ソ連の艦艇と航空機は、ヨーロッパと北米の沿岸域で日常的に行動していた。西側の艦艇と航空機も、ワルシャワ条約機構諸国の沿岸域で同じように行動していた。更に、王棟は、「UNCLOSは、他国のEEZ内において敵対的な行動をとる権利を国家に与えてはいない。恐らく、米軍が他国のEEZ内で集中的な情報収集活動を継続的に実施できる能力を持った唯一の軍事超大国であるが故に、米軍の行動を完全に正当であると主張するアメリカの立場は、極めて偽善的なものと見られる」と指摘している。王棟は、中国軍機のパイロットの行動を正当化しようとしているのであろう。しかしながら、米国防省は、「敵対意図 (“hostile intent”)」を、ある国の本国、部隊、国民及び財産に対する、「差し迫った軍事力の行使の脅威 (the “threat of imminent use of force”)」と定義している。同様に、「差し迫った脅威 (“imminent threat”)」とは、論議があるにしても、軍事力の予防先制使用を正当化する国際的な基準である。

(5) 日常的な軍の行動を、事実上の戦争行為と見なす試みに反論してみよう。ある国がグローバル・コモンズにおける特権を行使しないことを選択したという事実は、特権を行使する国の特権そのものを否定することにはならない。中国がアメリカと同じようにグローバル・コモンズを活用したいのであれば、活用できる能力を育成すればよい。米国務省と国防省はほぼ30年にわたって、「航行の自由プログラム (a Freedom of Navigation Program)」を実施してきた。例えば、米軍艦船は、リビアのシドラ湾全体に対する領海主張*のような、海洋に対する無法な主張を意図的に無視してきた。大国が軍事力を背景に超法規的な主張を押し通すことに対しては、海洋国家は声を大にし、より強硬に海洋の自由を追求すべきである。

記事参照:
China’s War on Maritime Law

備考*:UNCLOS第10条第4項は、「湾の天然の入口の両側の低潮線上の点の間の距離が24カイリを超えないときは、これらの点を結ぶ閉鎖線を引き、その線の内側の水域を内水とする」と規定している。この場合、湾口が24カイリ未満の湾は、沿岸国の主権が適用されることになる。更に、同条第6項で第10条の規定は歴史的湾には適用されないとしている。歴史的湾(あるいは歴史的内水)は、歴史的権限を主張する沿岸国により平穏にかつ継続して権限が行使されており、外国が黙認しているか抗議が行われていない場合に、湾口が24カイリ以上であっても沿岸国の内水として主権が認められると考えられている。リビアは地中海に面するシドラ湾を同国の歴史的湾と主張しているが、シドラ湾の湾口の幅は約296カイリもあり、地図見れば奥行きより湾口の方がはるかに広い。アメリカは、リビアの主張を認めず、第6艦隊の空母群をアメリカが公海と主張する海域で行動させてきた。このため、1981年には米海軍機とリビア空軍機が衝突、リビア軍機が撃墜される事件などが発生している。

95日「ARFにおける米中間の意見対立の含意―ベトナム専門家論評」(The Diplomat, September 5, 2014)

ベトナムのThe Diplomatic Academy of VietnamのThuc D. Pham研究員は、9月5日付のWeb 誌、The Diplomatに、“Implications of the US-China Split at the ARF”と題する論説を寄稿し、ARFで見られた南シナ海問題に対する米中間の意見の対立がASEANに及ぼす影響について、要旨以下のように述べている。

(1) 中国がベトナムのEEZ周辺海域から石油掘削リグと巡視船や軍艦を移動させるなど、南シナ海における緊張は戦術的には低下したが、8月10日にミャマーのネピドーで開催された第21回ASEAN地域フォーラム (ARF) での論議は、この地域の対立が依然として厳しいものであることを明らかにした。ARFで、ケリー米国務長官は、南シナ海における関係国の全ての活動の「凍結」を提案した。一方、王毅中国外交部長は、南シナ海問題解決のために、「21世紀安全保障コンセプト (a ”21st century security concept”)」と称する、「2重アプローチ」を初めて提案した。この2つの提案は、全く異なった思惑から出ているように思われる。米中両国外相は、南シナ海の状況に対して全く異なる認識を示している。ケリー長官は、「一部の領有権主張国は、明らかに現状変更を目的として挑発的な行動を取ってきた。(その結果)緊張が高まり、交渉が難航し、そして隣国諸国間の関係が悪化している。船舶は危険な行動を取っており、相互に挑発し合っている。こうした理由から、アメリカは、多数の巡視船を伴った中国の掘削作業開始の決定に疑義を呈したのである」と述べた。これに対して、王毅外交部長は、「南シナ海の状況は一般的に安定しており、航行の自由は何の問題もない」とし、「域外諸国が正当な懸念を持つことは理解できるが、それが名指し非難を意図しているのであれば、中国は反対する」と述べ、アメリカの発言に反発した。両国は提案も出した。ケリー長官が提案した「凍結」は、紛争を複雑化させたり、エスカレートさせたりする行動を自主的に、そして共同で停止することを求め、紛争当事国に対して、① 無主の島嶼を新たに占拠したり、他の当事国によって既に占拠されている島嶼を奪取したりすることを自制する、② 島嶼においてどのような補修作業が認められるか、あるいはその外形、サイズや施設を何処まで拡張するかを明確にする、ことを要求した。ケリー長官の提案は、恐らく中国が南シナ海の島嶼や環礁で浚渫したり、その土砂で埠頭、人工島、滑走路、守備隊宿舎そして直近では灯台を建設したりしている事実を念頭に置いたものであろう。これに対して、中国外交部邊界與海洋事務司の易先良副司長は当初、中国は南シナ海の島嶼において望むことは何でもできると記者団に語っていた。一方、中国の「2重アプローチ」提案では、① 中国と関係当事国が直接的かつ友好的な方法で問題を解決すること、② 中国は平和と安定の維持を約束することとしている。

(2) より大きな戦略的文脈で見れば、中国の21世紀安全保障コンセプトは、アジアにおけるアメリカの戦略的再均衡化に対する対抗策と見られる。このコンセプトは、習近平国家主席が2014年5月に上海で開催された、「アジア相互協力信頼醸成措置会議 (Conference on Interaction and Confidence Building Measures in Asia: CICA)」で初めて発表したもので、「アジアの安全保障問題はアジア主導で解決すべき」ことを宣言した。要するに、アメリカがアジア太平洋地域の条約上の同盟国やパートナーとの連携を強化している中にあって、北京は、地域安全保障の枠組作りに主導的な役割を果たすことを狙っているのである。

(3) 南シナ海問題を巡る米中両国間の軋轢の中で、北京は、自らの視点を変えなければならない。アメリカのアジアへの戦略的シフトがもたらす新たな安全保障環境は、北京に対して、高圧的な主張を強めるよりも、ASEAN諸国との積極的な協力を通じて諸問題の解決を目指すことを求めている。ASEANとの連携について、王毅外交部長は、中国はASEANとの対話と協力を深化する用意があるとして、「行動宣言 (DOC)」の枠組みの中で実際的な協力を深めていくとともに、「行動規範COC」の早期締結を目指していく、と語った。

記事参照:
Implications of the US-China Split at the ARF

9 5 日「インド洋・太平洋地域におけるインドの海洋政策―インド専門家論評」(The Diplomat, September 5, 2014)

インドのシンクタンク、The Institute for Defence Studies and Analyses (IDSA) の研究員で、Geopolitics of the Indo-Pacificの共著者、Abhijit Singhは、9月5 日付のWeb 誌、The Diplomat に、“Rebalancing India’s Maritime Posture in the Indo-Pacific”と題する長文の論説を寄稿し、インドは海軍に軍事安全保障に対する役割を今以上に付与し、インド洋・太平洋地域における役割の拡大を目指すべきとして、要旨以下のように論じている。

(1) 8月に2隻の国産駆逐艦、INS Kolkata とINS Kamortaが就役した際、インド国内メディアは、インド海軍のインド洋における経済権益の「保護者 (a “protector”)」としての役割に焦点を当てて報じた。海上貿易の安全とインドの海洋におけるエネルギー権益の確保する上でのインド海軍の役割が強調された背景には、インド洋地域 (IOR) におけるシーレーンの安全に対する深刻な懸念が存在していることに起因する。インド海軍の経済安全保障面における役割を重要視し過ぎれば、その一方で、インド洋・太平洋地域におけるインドの戦略的利益の防衛というインド海軍の役割から目を逸らせることになろう。結局のところ、海軍というものは、広範囲な戦略的利益の衝突による伝統的な紛争シナリオにおいて使用される軍事力であり、一義的には国家の戦略的利害が敵対的海洋国家によって脅かされた場合の防衛手段なのである。しかしながら、インド海軍の経済面での役割を重視する論者は、モディ首相がINS Kolkataの就役式典で述べた発言に元気づけられた。モディ首相は、「海軍力と国家の成長との不可分の関係」や「海上貿易に関わる者に信頼感を与えるインド海軍の能力」に言及し、シーレーン防衛における海軍の役割を強調したからである。モディ首相が経済安全保障という観点を強調した背景には、今日、選挙で選ばれた政権は、海軍力を、時には他の機能を犠牲にしてまでも国家の経済利益を護るためのものと見なすという、無視し得ない現実があるからである。従って、経済再生を掲げて選ばれた現政権は、国内の経済成長を支えることを狙いとした海洋政策を追求している。その必然的結果として、例え日印間に政治的な緊密性があっても、ニューデリーは、北京の敵意を駆り立てるようなことはしないであろう。いずれにせよ、インドの海洋政策は、戦略的リスクの回避と強力な多国間枠組みによる関与という2つの原則に基づいて構築されることになる。興味深いことに、こうした政策は、インド海軍の役割をインド洋での協調的行動にほぼ限定してきた、前政権の海洋安全保障に対するアプローチと奇妙な継続性を持っている。

(2) ニューデリーにおける中心的論議は、インド洋と太平洋は2つの戦略的に異なった戦域であり、この2つの戦域を1つの連続した戦略的空間として捉えるという概念は間違っているというものである。インドの政治エリートの大多数は、インド洋地域 (IOR) の主要な脅威は非伝統的なものであり、地域全体のコンセンサスの形成や多国間協力のプロセスを通じて対処されるべきもの、と考えている。他方、彼らは、太平洋に関しては、「戦略的な沼地 (strategic swamp)」と見なしている。そこでは、政治的不協和と対処が困難な紛争が蔓延っており、未だに軍事的な瀬戸際政策、外交的駆け引き、そして同盟政治の泥沼的状況から抜け出せていない。インド洋における海洋戦力はこれまで、海賊行為、海上テロ、不法移民そして人道的危機などの非伝統的課題に取り組んできた。この地域では、西太平洋地域で長く続いている海洋での対立といったような事態に、未だ直面したことはない。しかし、インドの政策決定者達は、インド洋と太平洋で直面する問題は全く違ったものであり、従ってその解決策も異なったものになる、と考えている。しかしながら、このような考え方は、大局的な戦略的見地から見て、間違っている。

(3) インド洋地域 (IOR) が比較的平穏な状態であったのは、主としてインドがIORにおける突出した海洋大国であったことによる。インド海軍は、南アジアで最強の海軍であるだけでなく、インド洋中央部における主たる安全保障の提供者としての役割を果たしてきた。IORにおけるインドの戦略的優位に対する真の挑戦者がいなかったが故に、インドは、人道的支援や非伝統的脅威対処を重視する余裕があったのである。しかしながら、インドにとって、こうした現在の戦略的シナリオが将来とも変化しないという保証はない。中国のIORに対する経済的関心が急速に高まっているからである。中国海軍がIORにおいてより大きな役割を目指すようになれば、いずれ、インドの政治エリートは、深刻な安全保障のジレンマに直面することになろう。即ち、北京の条件に従って中国に協力するか、あるいは、IORにおいて優勢な海軍力を以て対抗するか、という選択を迫られることになろう。結局、インド洋における将来の戦略的力関係が、現在の太平洋に見られるような対立的なものにならないという保証はどこにもない。現在のところ、インド洋におけるインドの利益に対する喫緊の脅威はないが、中国海軍がIORに恒久的なプレゼンスを確立することに成功すれば、状況が劇的に変化する可能性がある。北京が積極的に喧伝している「海のシルクロード(MSR)」は、そうしたプレゼンス確立の始まりを予告している。南アジアのグワダル、ハンバントータ、チッタゴンにおける港湾インフラの開発から、アフリカ東岸のモンバサ、ダルエスサラーム、バガモヨにおける港湾施設の建設や再開発に至るまで、北京は、IORに独自の貿易回廊の建設を決意しているようである。こうした中国の港湾開発プロジェクトに最近、新たに加えられたのはケニア港湾都市、ラムで、中国企業がラムに3つのバース(係留施設)を建設する約5億ドルの契約を結んだ。このプロジェクトは、The Lamu Port South Sudan-Ethiopia Transport Corridor (LAPSSET) の一環で、MSRのアフリカ区間において重要な役割を果たすことになろう。海洋問題の専門家は、中国がインド洋における海軍力のプレゼンスを拡大していけば、いずれかの段階で、インドの戦略的影響圏と交錯し、それが最終的には大きな戦略的対立に発展するかもしれない事態の引き金になることを懸念している。

(4) しかし、インドは当面、インド洋・太平洋地域における中国の海軍力に対抗することには慎重である。ニューデリーは、海洋アジア (maritime-Asia) における中国の広範な海洋活動に対抗できるだけの十分な海軍力も政治力も持ち合わせていないからである。しかし、インドは、この戦略的苦境を脱する方策を探求する必要がある。まず、ニューデリーは、地域的優越を巡る抗争というより大きな文脈において、地域的安定を損なう不均衡を是正することによって国益を護るという第一義的任務を遂行できる、インド海軍を必要としている。そのため、インドは、インド洋・太平洋地域における「寛容な安定装置 (a gentle “stabilizer”)」としての役割を担うことを真剣に検討すべきである。「安定装置」としての役割を果たすためには、ニューデリーは、積極的な中国封じ込め政策ではなく、紛争を引き起こす可能性のある如何なる一方的な軍事行動にも反対するという思慮深い決意を持つことである。そうするためには、インドは、太平洋における安全保障に関する政治的議論、例えば、ARF、東アジア首脳会議、拡大ASEAN国防相会議、拡大ASEAN海洋フォーラムなどに積極的に関与することが求められる。また、シャングリラ・ダイアローグなどで、インドが海洋安全保障問題に対する自らの立場を表明することも有益である。更に、インド洋・太平洋地域における三国対話外交を活性化させることも有益である。

(5) インド海軍は、東アジアにおいて作戦行動を拡大する必要がある。いわゆる「ルック・イースト」政策に最近、海洋問題が追加されたにも関わらず、インド海軍の太平洋への進出は、その範囲も回数も控えめである。より永続的な戦略的プレゼンスのために、インド海軍は、更に高レベルの作戦行動に関与するとともに、太平洋沿岸域の燃料・物資補給施設へのアクセス協定を獲得することが必要である。東南アジアの友好国との補給面での協定と沿岸域の軍事関連施設へのアクセスによって、インド海軍は、戦略的任務を遂行するための不可欠の手段を得ることになる。更に重要なことは、インド海軍は、新たな戦略ドクトリンの枠組みを必要としていることである。この枠組みは、現在、インド海軍の作戦活動のほとんどを占めている警察治安活動と同等の比重を、軍事安全保障面での役割にも置くことになろう。その鍵になるのは、遠海での信頼できるプレゼンスを維持できる戦略的能力の向上である。

(6) インド海軍はこれまで、例えば、中国海軍との演習、RIMPACへの参加、アメリカとのMALABAR合同演習など、太平洋における各種の活動に参加してきたが、これらの活動が全て、それぞれ孤立した相互に関連のない活動として扱われ、従って、一貫した戦略的構図を描けないできたし、またインドの明確な戦略的メッセージもパートナーに効果的に伝えられなかった。インド海軍の作戦運用担当官は、一貫した良く考えられた戦略が不在のままでは、全ての海洋協力はほとんど無意味な努力になることを思い知ることになろう。インド海軍は全ての戦略的パートナーと協力することが可能だが、それらを一つの方向に纏め上げる「効能書き(the “balance of narrative”)」が緊要である。日本との包括的な海洋パートナーシップは、反中同盟と見るにはほど遠いが、広大なインド洋・太平洋地域において実質的な安全保障を提供する可能性を秘めている。日本は、7月の憲法第9条の解釈変更により、強力な軍事的パートナーになれる。更に重要なことは、日本との海洋パートナーシップによって、インド海軍は、インド洋・太平洋地域における自らの戦略姿勢を再定義する機会を得ることになる。そして、インドが自国の海軍に国益擁護の役割を求めるのであれば、インド海軍は、インド洋のシーレーンの「保護者 (a “protector”)」であるだけでなく、インドの戦略的利益の「守護者 (a “defender”)」でなければならない。インド海軍は、安定した地政学的均衡を維持する上で効果的な役割を果たすことができるであろうが、そうするための戦略的なメッセージは、的を絞った効果的に方向付けられたものでなければならない。

記事参照:
Rebalancing India’s Maritime Posture in the Indo-Pacific

96日「ロシア北洋艦隊、北極海の恒久基地に人員、資材搬入へ」(RIA Novosti, September 7, 2014)

ロシア北洋艦隊の6隻の艦船は9月6日、バレンツ海に面したセヴェロモルスクの基地を出港し、北極海のノヴォシビルスク諸島にある恒久基地に向かった。コロリョーフ北洋艦隊司令官は、「今回の艦隊派遣の主たる目的は、ノヴォシビルスク諸島の恒久基地で軍事任務を遂行する北洋艦隊戦術グループの人員や資材などを搬入することである。同司令官によれば、6隻の艦船は、対潜艦、“Admiral Levchenko”、2隻の大型揚陸艦、“St George”と“Kondopoga”、給油艦、“Sergey Osipov”、救難タグ、“Pamir” 、及び揚陸係留船、“Aleksandr Pushkin” である。派遣艦隊は、ロシア原子力公社、Rosatomの数隻の原子力砕氷船によって先導される。航行ルートは、北洋艦隊航空隊によって監視される。ノヴォシビルスク諸島にある恒久基地は1993年に放置されたが、2013年9月に、基地再開のために最初の資材や補給物資が搬入された。プーチン大統領は2014年4月に、北極圏における国益と国境防衛を強化するための計画の一環として、最新の戦闘艦や潜水艦を受け入れるための統合海軍基地施設網を、北極圏に構築することを明らかにしている。

記事参照:
Russia’s North Fleet Heads to Arctic for Permanent Naval Base

98日「マレーシア、米海軍P-8分遣隊基地の提供申し出」(Sea Power, September 8, 2014)

米海軍のグリナート作戦部長が9月8日の講演で明らかにしたところによれば、マレーシアは最近、東マレーシア(ボルネオ島)に米海軍のP-8飛行分遣隊の基地提供を申し出た。P-8が東マレーシアを基地にすれば、南シナ海やマラッカ海峡、スンダ海峡などの重要なシーレーンへの哨戒飛行が容易になる。マレーシアは、3月8日に消息を絶ったマレーシア航空370便の捜索のために、米海軍のP-8AとP-3Cが西マレーシアを基地とすることを認めたことがある。

記事参照:
CNO: Malaysia Offers U.S. P-8 Detachment Site

98日「タイ政府、アンダマン海側に深水港建設承認」(The Maritime Executive, September 8, 2014)

タイ政府はこのほど、アンダマン海側のPak Baraに深水港を建設することを原則的に承認した(注:マレーシア領ランカウイ島に隣接するタイ領タルタオ島対岸のマレー半島の都市)。アンダマン海側のPak Bara新港は、マレー半島タイ湾側のSongkhlaにある深水港との間を道路と鉄道で結ばれる。Pak Bara新港が完成すれば、アンダマン海側で初めての深水港となり、マラッカ・シンガポール海峡経由の航路が大幅に短縮されることになる。タイは現在、マラッカ・シンガポール海峡経由で、年間30万TEU前後のコンテナ貨物を輸出している。Pak Bara新港は、年間最大80万TEU前後のコンテナ処理能力を持ち、接岸可能船舶は7万DWT級となろう。漁民や農民を含む一部の現地住民が環境汚染を理由に反対しているが、Pak Bara新港は2016年の建設開始、2020年の完成を見込んでいる。建設費は、150億バーツ(4億6,000万米ドル)と見積もられている。

記事参照:
Thai Government Approves Asia Europe Shortcut

910日「インド洋・太平洋地域諸国、多国間海軍外交に期待―RSIS専門家論評(RSIS Commentaries, September 10, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のRistian Atriandi Supriyanto 研究員は、9月10日付の RSIS Commentariesに、“Multilateral Naval Diplomacy: Indo-Pacific Navies Exercising More Together?”と題する論説を寄稿し、インド洋・太平洋地域諸国は多国間海軍外交に期待感を高めているとして、要旨以下のように述べている。

(1) インド洋・太平洋地域における最近の多国間合同演習や国際観艦式を見れば、域内各国の多国間海軍外交に対する期待感が見て取れる。ベンガル湾で実施されるインド海軍主導のMILAN演習は、2013年に参加国が最大数となった。2014年には、インドネシア海軍は、南シナ海で18カ国の参加を得て初めての多国間合同海軍演習、KOMODOを主催した。ハワイでのRIMPAC 2014演習でも、中国海軍とブルネイ海軍が初めて参加した。域内では、海軍演習や国際観艦式そして災害救助活動に至るまで、多国間海軍外交に対する期待感の高まりが見られる。

(2) インド洋・太平洋諸国は、経済発展に支えられて、海軍力の整備や近代化を行っている。海軍力の強化は、海軍力を支えに外交政策を展開する、「海軍外交」を盛んにしている。海軍外交は、他国港湾への「友好親善訪問」、そして災害救助活動から海賊対処まで、更には係争海域での主権誇示など、多岐に亘る。海軍力による主権誇示は、「砲艦外交」とも呼ばれる。軍艦は、当該国の象徴であるとともに、戦闘手段でもある。 帆船時代では、軍艦は、例えば英国軍艦、HMS Sovereign of the Seasやフランスの一等戦列艦、Soleil Royalなど、しばしばヨーロッパの君主の栄光の象徴であった。現代で言えば、インドと中国が空母を国産するのもそうかもしれない。同様に、マレーシアとインドネシアの海軍力近代化は、フリゲートと潜水艦を新たに取得して「世界レベルの海軍」になりたいという願望が1つの動機になっている。 多国間海軍外交を通じて自国の力と誇りを誇示することは、他国海軍と比較によって自らの海軍の弱点や優れた能力を認識する、「デモンストレーション効果」を生む。また、多国間海軍外交への参加は、友好親善を深める狙いもある。友好親善は、海軍間のインターオペラビリティを強化することにも繋がる。海賊行為や自然災害などの国の枠組みを超えた脅威に対しては、1国だけでなく、国境を越えたアプローチが必要になる。こうした国境を越えた脅威に取り組むための演習や実働体験を通じて、各国海軍は、教訓を学び、相互に運用手順を知ることができる。

(3) しかしながら、多国間海軍外交への参加は、平和的意図に反することもある。「連携強化」のための海軍外交は、例えば合同演習を通じて敵対国を抑止する決意を示すことができるが、第3国に誤ったシグナルを送ることもある。例えば、中国は、アメリカ、インド、シンガポール及びオーストラリアが参加した2007年のMALABAR演習に対して、中国封じ込めの動きと見、抗議したことがある。また、海軍演習は、潜在的な敵に関する情報収集の手段ともなる。中国は、RIMPAC 2014に参加する一方で、ハワイの周辺海域での演習をスパイするために、監視船の派遣を止めなかった。他方、「危機管理」のための海軍外交もある。海洋における領有権や境界画定紛争を巡る海軍同士の小競り合いは、誤算と誤解を生む可能性がある。各国とも、係争海域における海軍力による主権誇示が、戦闘を引き起こす意図がないとしても、危機を長引かせる可能性があることを恐れている。西太平洋海軍シンポジウム (WPNS) の参加国は、こうした危機を認識して、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準 (CUES)」について合意した。海軍部隊指揮官同士の直接の安全で常続的な通信を確保するための海軍間の「ホットライン」構築も、同じような意図によるものである。例えば、ベトナム海軍は、南シナ海における緊張を緩和し、危機的状況を回避するために、近隣諸国海軍との間で幾つかの「ホットライン」を構築している。

(4) 多国間海軍外交は、増加の兆しを見せているが、実際に地域的安定に大きく貢献できるかどうかについては、大きな疑問が残る。海軍外交は、信頼を醸成し、インターオペラビリティを強化することができるが、悪意ある意図を秘匿することもできる。例えば、ある同盟国とそのパートナーとの合同演習は、そうした同盟協力の対象とされていると感じている国から誤解されるかもしれない。また、CUESのような海軍の行動基準は、不慮の遭遇によるリスク回避のために必要であるが、一方で政治的環境の悪化がこうした行動基準を必要としているという側面もある。更に、海軍間の連携強化は同盟国とそのパートナーにとって再保障となるが、他国に一層の疎外感を抱かせる危険もある。しかしながら、それでも海軍外交は有効であり、少なくとも多国間海軍外交への参加は、(同盟国、友好国あるいは潜在敵国と問わず)参加各国海軍の思考様式と行動様式について、より深く洞察する機会となる。

記事参照:
Multilateral Naval Diplomacy: Indo-Pacific Navies Exercising More Together?
RSIS Commentaries, September 10, 2014

911日「シンガポール海軍、沿岸戦闘艦国産開始」(Asia One.com, September 11, 2014)

シンガポールのSingapore Technologies Marine (ST Marine) は9月11日、海軍の国産沿岸戦闘艦、The Littoral Mission Vessel (LMV) の建造を開始した。LMVは8隻建造され、現有11隻のFearless級哨戒艦を代替する。Fearless級哨戒艦は20年近く前に建造され、シンガポールの領海警備任務に就いている。国防省によれば、LMVは、ミッション・モジュール方式で、任務に応じた装備を搭載する。例えば、機雷掃討任務では、機雷対策用モジュールを搭載する。LMVはヘリ甲板も装備している。LMVの1番艦は、2016年1月に海軍に引き渡される予定である。

記事参照:
Singapore Navy starts building first of 8 coastal warships
Image: The Littoral Mission Vessel (LMV)

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子