海洋情報旬報 2014年10月11日~20日

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1011日「米海軍最新揚陸艦、就役」(The Maritime Executive.com, October 13, 2014)

米海軍の最新型揚陸艦、USS America (LHA 6) は10月11日、サンフランシスコで就役した。就役式典で、ハリス太平洋艦隊司令官は、紛争や危機が生じた場合に備えて、USS Americaのような戦闘艦は太平洋における戦略的再均衡化を遂行する上で不可欠の戦力となろう、と強調した。USS Americaは同級の1番艦で、艦名は4代目となる。同艦は、排水量4万4,971トンで、全長844フィート、全幅106フィートである。同艦は、MV-22 OspreyやF-35B joint Strike Fighterの搭載が可能である。

記事参照:
USS America Joins the Fleet

1011日「ロシア、北極圏環境監視センター設立を計画」(Barents Observer, October 14, 2014)

ロシア国防省は10月11日、北極圏の環境監視を強化するために、近い将来、北洋艦隊によって運営される地域環境センターを設立する計画を発表した。このセンターは、北極圏の環境を監視するとともに、環境に関するロシアの国内法と国際法の順守状況も監視する。国防省は北極圏の環境保全のためのロード・マップを完成しており、これに従って、軍の専門家は、北極圏におけるロシア軍基地周辺(旧ソ連時代に使用された領域を含む)で環境状況を分析している。ブルガコフ国防次官は、「我々は、今後数年間で、軍事基地の古い建物や瓦礫などを除去する」と語った。同次官によれば、ロシア軍は既に今夏、ウランゲリ島で10トンの廃棄物処理を行った。

記事参照:
Russia to build military Arctic environmental center

10月13日「岩礁を人工島に、中国の南シナ海における野望―ベトナムの論調」(Vietnam Net, October 13, 2014)

ベトナムのVietnam Netは10月13日付けで、“China’s dark designs after 25 years of seizing Johnson South Reef”と題する解説記事を掲載し、中国がJohnson South礁やその他の岩礁を不法に占拠して25年を経、今や拡張工事によって人工島に変貌させようとしており、ベトナムはこれらの工事が完了する前に中国の行動に反対する姿勢をASEAN諸国と協調して明確に示すべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 海南島からパラセル諸島(西沙諸島)そしてスプラトリー諸島(南沙諸島)に至るまで、中国が軍民合同で実施してきた数々の施策は、中国が東海(南シナ海)を独占しようとする自らの野望を実現する手段を模索していることの現れである。中国が軍事力によってスプラトリー諸島のJohnson South礁(ベトナム名:Gac Ma、中国名:赤瓜礁)やその他の6つの岩礁を占拠してから25年が経つが、今や再び国際法に違反し、国際世論の反対にもかかわらず、中国はこれらの岩礁を埋め立てなどによって拡大し、人工島に変貌させることで、徐々に南シナ海を占有しようとしている。

(2) Johnson South礁は、ベトナムのKhanh Hoa県に属するスプラトリー諸島の1つであるSinh Ton島(中国名:景宏島)の南東に、そしてベトナムのCollins礁(中国名:鬼喊礁)から北西にわずか6.4キロの近くにある。Johnson South礁は、干潮時のみ海面に姿を現す「低潮高地」だが、多くの岩礁は満潮時にも海面上にある。中国は1988年、同礁を武力で不法占拠した後、小型の建屋、桟橋そして海洋監視ステーションなどの多くの建造物を建設したり修繕したりして、同礁を南シナ海における非合法な軍事拠点にした。中国は2014年2月下旬、同礁において再び大規模な拡張工事に着手した。十数量もの削岩機、ブルドーザー、クレーンそして船舶を動員して、同礁を深水港、大型桟橋そして長い滑走路を持つ人工島に作り替えようとしている。中国メディアによれば、中国は、Johnson South礁を十分な兵站施設、工兵施設そして通信設備を備えた軍事基地にすることを企図している。より懸念すべきことは、同礁で行なわれていることが南シナ海を占有する中国の大いなる計画の一環に過ぎないということである。中国は、同礁だけでなく、Chau Vien(中国名:華陽礁)、Huy Go (同:東門礁)、Ga Ven(同:南薫礁)そして Xu Bi(同:渚碧礁)といった岩礁でも拡張工事を行なっている。こうした動きは、ベトナムだけでなく、東南アジアや東アジアの平和と安定にとって脅威といえる。

(3) 中国のこうした行動は、「行動宣言 (DOC)」や国際法、就中、国連海洋法条約 (UNCLOS) に違反しているだけでなく、スプラトリー諸島や南シナ海全体を極度に危険な状況にしている。スプラトリー諸島、特にJohnson South礁は、地理戦略上極めて重要な位置にある。同礁は、スプラトリー諸島へと続く輸送航路上に位置するSinh Ton島(景宏島)とSong Tu島の隘路にあり、しかもベトナム本土の海岸からわずか250キロの距離にある。ベトナム、マレーシア、フィリピンそして台湾の関係当事国は、これら地域に小規模の軍隊を配置しているのみであり、その施設も主として防衛用である。しかし中国は、Johnson South礁やその他の岩礁に空海兼用の通信、兵站施設を建設しようとしている。そしてこれらの施設は明らかに「攻勢思想」から建設されており、これらが完成すれば、これらの人工島は中国が攻勢的な活動を展開するための十分な地積を持った拠点となろう。それによって、中国は、南シナ海の上空、海面及び海中を管制する能力を大幅に強化することになろう。最近、国際法の観点からこの問題を問われた際、中国外交部報道官は、「これらの環礁における改良工事は、居住島民の生活に資するためである」と主張した。これが意味することは、例えば、Johnson South礁で人間の居住が可能になるということであり、従って、中国は恐らく、その事実をもってこの環礁を他の自然の島嶼と同じものであると強弁し、基線を引き、領海とEEZを主張することになろう。そのようなことになれば、中国は、南シナ海のほぼ全域を含む、いわゆる「9段線(U字ライン)」の法的根拠を徐々に確立していくことになろう。また、中国は、南シナ海に防空識別圏 (ADIZ) を設定することもでき、状況は極めて複雑かつ深刻になるであろう。

(4) 外交的には、新たな力関係によって、中国はASEAN諸国との交渉においても有利になる。中国は最近、南シナ海における「行動規範 (COC)」についてASEAN諸国と協議することで合意した。しかし、中国は意図的にそのプロセスを遅延させている。その理由は、ASEAN諸国と圧倒的な力を背景に話し合うために、Johnson South礁などにおける建設工事の完了を待っているためである。中国は、優位な立場に立てば、簡単には南シナ海における野望を諦めることはないであろう。近年の中国の行動を振り返ってみれば、中国は、南シナ海を手中に収めるために周到な計画を進めてきたことが理解できる。1980年代に、中国の最高指導部は、海南島を広東省から分離して省とし、南シナ海進出の足掛かりとした。中国の南シナ海進出への長期計画から見て、これは戦略的な決断であった。海南島に解放軍を配備した後の1990年代には、中国は、石油掘削リグ、Kantan-3をトンキン湾の外側のベトナムの大陸棚上に2度に亘り設置した。不法に占拠したパラセル諸島に軍事拠点を設けた後、2014年5月には、中国は、最新型の石油掘削リグ、HD-981をベトナムのEEZ内に設置したのである。今後も、中国は、スプラトリー諸島における建設工事を終えれば、遅かれ早かれ同じようなことをするであろう。

(5) このような状況に対処するために、ベトナムは、早急に対応措置をとり、中国の不法なかつ一方的な挑発的行動にたいして反対の意志を示さねばならない。法的措置としては、パラセル諸島やスプラトリー諸島に対するベトナムの主権を証拠立てる説得力のある法的根拠を示していくことに加えて、中国が南シナ海の岩礁を人工島に変貌させている実態を明らかにすべきである。中国が建設中の人工島は、不法であり、UNCLOSの島の定義には該当しない。これらの点について、国連や国際司法裁判所などと意思疎通を図ることが必要である。メディア対策としては、ベトナムは、可能な限り速やかに声高の主張を展開し、中国の行動に反対するために、国際社会、特にASEANに働きかけるべきである。外交的には、ベトナムは、ASEANと協調してCOCの交渉を促進させることが必要である。また、その際には、中国が正式に調印したDOC第5条(「関係国は状況の悪化を防ぐべく、特に無人の島嶼を有人化しないよう自制する」)を着実に履行することを求める必要がある。

記事参照:
China’s dark designs after 25 years of seizing Johnson South Reef

【関連記事1】「中国海軍司令員、南シナ海での島嶼拡張工事を視察」(The Diplomat, October 17, 2014)

Web誌、The Diplomatの編集主幹、Zachary Keckは、10月17日付の同誌で、中国海軍の呉勝利司令員が南シナ海の紛争中の島々に対する「前例のない」視察を行ったとの台湾からの報道について、要旨以下のように述べている。

(1) 台湾国家安全局の李翔宙局長は10月15日、中国海軍の呉勝利司令員が9月に南沙諸島の係争中の5つの島で行われている拡張工事を1週間にわたって視察したと、立法院外交・国防委員会で明らかにした。李翔宙局長によれば、中国は最近、南沙諸島の7つの島嶼で建設工事を進めており、その内5つは習近平政権になってから承認されたものである。香港の英字紙、The South China Morning Post(南華早報)によれば、李翔宙局長は、「拡張工事の目標は、これらの島嶼を堡塁に、そして南沙諸島を戦場に変えるである」と立法院で指摘したという。李翔宙局長の立法院での発言は台湾メディアが最初に報じたが、それによれば、李局長は、中国が最近、南沙諸島で行っている大規模な拡張工事は習近平によって個人的に承認されたものであると指摘し、「全ての動きは、大陸が南シナ海全域に対する主権を主張するための全般的な戦略計画を有することを示している」と述べたという。

(2) 中国は最近、南沙諸島の5つの環礁を、そこから軍事力を投射できる島嶼に変えようとしている。9月にそれらの環礁の1つを取材したBBCの報道によれば、「2014年の初めには、南沙諸島における中国のプレゼンスは環礁の上に立てられた一群のコンクリート・ブロック製の建物からなる、一握りの前哨拠点群に過ぎなかった。それが今や、5つの別々の環礁が実質的な新島に変貌しつつある」と報じている。更に、BBCは、「海底から数百万トンの土砂が浚渫され、新しい陸地を造成するためにジョンソン南礁に流し込まれた。・・・・中国は、ジェット戦闘機が離発着できるコンクリート製の長い滑走路を持つ空軍基地を建設しようとしているらしい」と報じた。

(3) 南沙諸島の環礁や島嶼における拡張工事は、北京が主張する広大な海域において、中国海軍がより強力なプレゼンスを維持できるようにすることを意図している。特に、これらの拡張工事は、北京が南シナ海に防空識別圏 (ADIZ) を設定するための前触れである。アメリカや域内各国は、南シナ海におけるADIZについて中国に対して警告している。拡張工事はまた、南シナ海のほとんどに対する主権を主張する中国の「9段線」についての国際法的基盤の強化をも狙いとしている。国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定では、人間が居住する島を基点として12カイリの領海と200カイリのEEZが形成される。しかし、暗礁、暗岩は12カイリの領海を形成するが、EEZは形成しない。干潮時でも完全に水没している岩礁はいずれも形成しない。中国は、水没している環礁を島嶼に変えることで、それらを基点とするEEZを主張しようとしているらしい。

記事参照:
China Naval Chief Conducts ‘Unprecedented’ Survey of Disputed Reefs

【関連記事2「中国、永興島(西沙諸島)の滑走路延伸」(The Diplomat, October 17, 2014)

Web誌、The Diplomatの編集主幹、Zachary Keckは、10月17日付の同誌で、中国が永興島 (Woody Island) に新しい軍用滑走路を建設したとの報道について、中国が進める南シナ海での哨戒能力強化の努力の一環であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) AFP通信は10月15日付で、新華社の報道を引用して、永興島で新しく建設していた滑走路工事が完了したと報じた。永興島は、中国が占拠する西沙諸島の島だが、ベトナムと台湾も領有権を主張している。AFPによれば、滑走路の長さは2,000メートルであり、中国軍が使用することになるという。AFPの引用によれば、新華社は、「永興島の滑走路の完成と引き続く改良工事によって西沙諸島に軍用機が駐留できるようになり、南シナ海における中国の防衛能力が大幅に向上した」と報じている。しかしながら、永興島の滑走路は新しく建設され、その長さが2,000メートルと報じられても、永興島には既に以前から滑走路が存在しており、最新の衛星写真では長さが2,400メートルから2,700メートル、あるいは2,800メートルに延伸されていることを示している。従って、この滑走路は全く新しく建設されたというより、既存の滑走路の延伸工事を完了したと見るのが正しいと思われる。新設であれ、既存のものを延伸したのであれ、こうした建設工事は、中国が南シナ海における主権主張と管轄権を主権する広大な海域に対する軍の哨戒能力とを強化する方策として、南シナ海の全域に亘って中国か占拠する島嶼や環礁において軍事施設やその他の施設を建設する進行中の努力と軌を一にするものである。

(2) 西沙諸島の中で最大の島である永興島は、こうした努力の中核をなすものであった。同島は、2012年6月に周辺の島嶼群を管轄するための管理能力強化の目的で創設された省級の市である三沙市が置かれた行政の中心である。2012年7月には、中国中央軍事委員会は、三沙市に新しい駐留部隊を創設する計画を承認したと報じられた。三沙市駐留軍の創設当時、新華社は、「駐留部隊は師団規模で人民解放軍海南省軍区の指揮下におかれ、市の国防動員、軍予備及び軍事作戦の実施を管理する責任を有する」と報じた。2014年6月、中国は、「国家の海洋権益を総合的に護るために、三沙市に常続的な哨戒システムを徐々に構築していく」と発表した。このため、永興島における必要なインフラ整備を継続し、最終的には5,000トンの哨戒艦を同島に常駐させるとしている。中国は2011年に、同島の西側に新しい港湾の建設を完了している。

記事参照:
China Builds Military Airstrip in Disputed South China Sea

1013日「ロシア原子力コンテナ船、2015年後半に再就航」(Barents Observer, October 13, 2014)

ロシア国営原子力砕氷船運航会社、Rosatomflotによれば、世界で唯一の原子力コンテナ船で船齢26年の、MV Sevmorputは、2015年後半から再就航する。該船は10月1日から12月半ばまでの間、ムルマンスクのドックで改修作業が行われ、その後、Rosatomflot の拠点に移される。該船は、全長260メートルで、排水量6万1,000トン、1988年に就航し、当初計画では国際航路に投入されることになっていた。しかしながら、世界の多くの国の港湾における原子力船に対する厳しい規制のために、該船は主としてムルマンスクとドゥディンカ(タイムイル自治管区)間の航路で利用されていた。該船はこれまで10年以上に亘って係留され、2012年にはロシアの船籍名簿からも削除されていた。該船は砕氷能力を持っており、再就航は最近の北極開発における原子力推進船の需要の高まりを反映している。

記事参照:
More nuclear power for Arctic shipping
Photo: The nuclear-powered container ship “Sevmorput” is getting a new life

10月14日「日越の『広範な戦略的パートナーシップ』、アジアの安全保障に貢献―セイヤー論評」(The Diplomat, October 14, 2014)

豪、University of New South WalesのCarl Thayer名誉教授は、10月14日付のWeb 誌、The Diplomat に、“Vietnam’s Extensive Strategic Partnership with Japan”と題する論説を寄稿し、日越戦略的パートナーシップの拡大は中国の海洋進出という脅威に晒されているアジア地域の安全保障に貢献し得るものであるとして、要旨以下のように論じている。

(1) ベトナムにとって、日本との関係は極めて重要な安全保障要因として、その重要性を増している。日本の岸田外相は8月1日、ハノイへの公式訪問中、日本がベトナムの海洋安全保障能力の向上に資するため6隻の船舶を供与することを公表した。6隻の内2隻は、これまで水産庁が使用していた中古船であり、残りの4隻も中古の漁船で、これらの船舶は600トンから800トン級の小型船である。これら6隻の船舶の供与は、5億円(486万ドル)規模の対ベトナム無償資金協力の一環であり、この他にもレーダーや訓練経費なども含まれている。これらの船舶は、2014年末までにはベトナム側に引き渡される予定であり、ベトナムの沿岸警備隊や漁業監視にのみ用いられることになっている。

(2) 日越両国は、2011年から防衛協力の絆を強めてきており、2014年3月には、安倍首相と訪日したチュオン・タン・サン国家主席との間で、8年間続いてきた「戦略的パートナーシップ」が「アジアの平和と安定のための広範な戦略的パートナーシップ (Extensive Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia)」に格上げされた。この格上げは、安倍首相がベトナムとの防衛・安全保障協力を一貫して押し進めてきたことで達成されたものである。首脳会談の共同声明には、69項目の日越間の協力項目が含まれている。両首脳は、閣僚、高官及び専門家レベルの対話を継続し、また能力構築、海軍艦艇の相互訪問を含む防衛協力の促進を確認した。

(3) 日越防衛協力は、南シナ海で緊張関係が高まった、2011年に具体化された。両国は、中国が海洋における主権を主張するために非軍事の海洋法令執行機関を活用していることに対抗していくことで、戦略的利害を共有している。この利害の一致が、2011年10月の「日越防衛協力に関する覚書」の署名に繋がった。日本が海洋安全保障のために6隻の船舶を供与する対越支援を決定したことは、発展しつつある日越防衛協力関係における自然な流れである。日越両国は、中国が海洋における主権主張を強めるために海洋法令執行機関や漁船を活用しているとことに、対抗している。日本は、アジア諸国の中で唯一、中国の海洋における野心に立ちはだかり、それに対抗し得るだけの能力を有している。ベトナムに対する非軍事の海洋監視能力の増強支援は、日本にとっても利益となる。その見返りに、ベトナムが、この地域の各種の多国間安全保障機構において、日本に対して外交的、政治的な支援を提供することが期待されるからである。

記事参照:
Vietnam’s Extensive Strategic Partnership with Japan

1015日「ロシア、北方航路に3カ所目の捜索救難センター設置」(Barents Observer, October 15, 2014)

ロシアは10月15日、北方航路沿いに10カ所設置予定の捜索救難センターの内、3カ所目をアルハンゲリスクに設置した。このセンターは、陸海から捜索救難活動を実施し、アルハンゲリスク州とネネツ自治管区の150万平方キロ以上の地域における緊急事態に対応する。センターは、火災対処や油漏洩対処能力を持ち、捜索救難用船舶、消火艇、複合艇 (RIB)、オフロード車及びスノー・スクーターを装備する。ロシアは2009年に、北方航路の通航船舶量の増大を見込んで、西のムルマンスクから東の(ベーリング海に面した)プロヴィジェニアまでの航路沿いに、総額9億1,000万ルーブルの予算で10カ所の捜索救難センターを建設する計画を始めた。2015年までに全10カ所が完成する計画である。

記事参照:
Third Arctic search and rescue center opened
See: Photos from EMERCOM facilities in Naryan-Mar, Dudinka and Arkhangelsk

1017日「台湾、『太平島』に軍艦常駐を検討」(Taipei Times, Reuters, October 17, 2014)

ロイター通信が10月17日付で報じるところによれば、台湾は、南沙諸島最大の島で台湾が占拠している「太平島」に、軍艦を常駐させることを検討している。台湾は現在、同島で港を拡張中で、2015年後半に完成すれば、3,000トン級の海軍のフリゲートや海岸巡防署の大型巡視船が停泊可能になる。「太平島」を管轄する海岸巡防署幹部によれば、港は武装艦船の常駐拠点となる。台湾海軍の陳永康司令官は、「非常にセンシチブな問題だが、我々は常駐させる可能性を検討している」と語った。巡防署の施義哲通信部長は、「常駐の狙いは、同島に対する台湾の主権と防衛能力を誇示することである」と語った。中国外交部はロイター通信に対する声明で、「台湾と中国本土は1つの中国の不可分の一体である。南沙諸島とその周辺海域における中国人民の行動は非難されるべきものではない」と強調している。もっとも、台湾は南シナ海問題で中国サイドに立ってきたわけではない。「太平島」への台湾艦船の常駐は、中国共産党にとって新たな頭痛の種になるかもしれない。「太平島」は真水が出る島で、長期の駐留が可能である。シンガポールのThe Institute of South East Asian Studiesの南シナ海問題専門家、Ian Storeyは、台湾の艦船常駐計画について、「それは、南シナ海全域における准軍事的活動の激化傾向を一層促進するであろう。そして、まずベトナムが、続いてフィリピンが抗議するであろう」と見ている。前出の巡防署の施義哲部長は、常駐する艦船は武装するが、主として捜索救難に使用されるであろう、と述べた。どの程度の艦船が常駐するかは、最終決定がなされるまでは分からない。フィリピン海軍の幹部は、台湾の計画は南沙諸島における関係国の軍事的活動を激化させることになろう、と指摘している。一方、ベトナム外務省報道官は、かかる計画は非合法であり、根拠のないものであるとし、また「事故」の可能性を高めると非難している。マレーシアは、南沙諸島に5カ所の常駐基地を持ち、少なくとも常時1隻の海軍艦艇を常駐させている。

記事参照:
Armed vessels may stay on Itu Aba

1019日「中国空母『遼寧』、最近の公試中にエンジントラブル発生か」(Medium.com, October 19, 2014)

中国のメディア・サイト、Sina.comが報じるところによれば、中国の空母「遼寧」は、最近の公試中に少なくとも1回、推進システムがダウンし、蒸気が噴出して出力が低下したという。それによれば、この事故で、「遼寧」は一時、エンジン推力を失ったが、最終的には通常の航行ができるまでに推力を回復した。幸運なことに、この事故は、危険な高圧蒸気が瞬時に噴出する悲惨なボイラー事故には至らなかったようで、熱交換器の欠陥による低圧蒸気の噴出だったようである。中国海軍は2005年に当時の旧ソ連海軍の空母、Varyagの改修を始めたが、基本的には船体内部の改装であった。「遼寧」は中国海軍が初めて運用する空母であり、例え実戦には使えなくても、訓練用として、また空母運用に習熟するためのプラットホームとしては有益であろう。

記事参照:
Aircraft Carrier Trouble—Spewing Steam and Losing Power

1020日「海洋政策の課題―インドネシア新政権」(RSIS Commentaries, October 20, 2014)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のFarish A. Noor 准教授は、10月20日付の RSIS Commentariesに、“Addressing Indonesia’s Maritime Needs: Jokowi’s Ground and Sea-level Challenges”と題する論説を寄稿し、インドネシアのウィドド新政権が掲げる海洋政策の前途には多様な課題があるとして、要旨以下のように論じている。

(1) ウィドド新政権は、7月の大統領選挙での公約で、インドネシアの将来の経済と防衛のニーズを応えるために、印象的で野心的な海洋政策を約束した。インドネシアの広域に亘る群島を数百万のインドネシア人が船舶で移動している現状を考えると、新政権が海洋政策を中心課題に据えたことは理解できる。インドネシアの現状は、海洋補給能力の強化が群島全域の生産拠点や人口拠点を繋ぐために極めて重要であることが分かる。更に、インドネシアの国内フェリー・システムの整備が依然として遅々たる状況で、特に国家の祭日や宗教上の休日など時期にピークに達するフェリー事故は依然、危険な状況にある。加えて、新政権は、インドネシア海軍の大幅な増強と海上警察能力の近代化を約束した。新政権は、2024年までにインドネシアの内水シーレーンと沿岸域の安全を確保する「グリーン(沿岸域・近海防衛)艦隊」を整備すると公約している。その狙いは、群島内で行動する海賊(船舶武装強盗)への対処と同時に、(人身売買、不法移民や難民を含む)密輸問題に対応することにある。これらの取り組みに対して、インドネシアの隣国は歓迎している。インドネシア群島水域のシーレーンの安全確保が海賊や密輸に対処する世界的な努力にも多く寄与すると期待されるからである。サプライチェーン の欠陥を克服することは、地域毎のカルデルに苦しんできたインドネシア産業界においても歓迎されている。これらのカルテルは、国内の物流ネットワークをコントロールしており、群島外縁部の地域におけるガス、石油、米や砂糖などの必需品の価格を高くしている。

(2) しかし、国内環境から見れば、一貫した効果的な海洋政策は、国内政治の必要にも応えるものである。特に、スラウェシ島南東半島のチモロ (Timoro) 海峡沿いに居住するバジャウ・ラウト (Bajao Laut) 民族のように、その政治経済が海洋と結びついているインドネシアの地域共同体にとって、海洋政策は重要である。チモロ海峡沿いに居住する、この海洋民族コミュニティは、ヨーロッパ人が初めて東南アジアに到着した16世紀以降、彼らの海の遊牧民的生活が記録されてきた。バジャウ・ラウト人の「世界」は、陸上よりも海上を基盤としている。バジャウ人は、スラウェシ島全域だけではなく、カリマンタン島沿岸域や東マレーシアのサバ州そしてフィリピン南部にも居住しており、政治的な国境を越えたコミュニティを形成している。パジャウ人の多くは、1980年代までインドネシア国民として識別できるパスポートやIDカードを所持していなかった。彼らの多くは、海上のボートに住んでいて、その生活様式は海に結び付いたものであり、彼らの収入もそうである。今日、彼らの多くは水上家屋に定住し、漁業と(香港や中国で好まれる)ナマコの収穫が主な経済活動である。このコミュニティのグローバル化は、中国のような他国のレストランで使われるナマコを大量に購入する商人がもたらした。しかしながら、彼らの漁法は初歩的なままであり、ほとんどの漁民は大型漁船を持っていない。今日、バジャウ人の漁師は、彼らの漁場に侵入してくる、外国漁船を含む他の漁業コミュニティの圧力に直面している。

(3) パジャウ人コミュニティのような、地域コミュニティのニーズに対応することは、インドネシアの新政権の優先課題の1つとなろう。 バジャウ・ラウト人は、インドネシア全体の存在する多くコミュニティの中でも大きなコミュニティを構成している。彼らは、遅々としたプロセスながら定住しつつあり、今では住民登録を行い、有権者になりつつある。バジャウ・ラウト人のコミュニティは興隆するコミュニティで、若い世代は、彼らの文化、言語そして定住する住所を認めるとともに、彼らの政治経済に関わる諸問題に対応するよう、スラウェシ州政府と中央政府とに働きかけている。これら若い世代の主たる懸念は、彼らの漁場に侵入し、彼らの収入源を略奪する、パジャウ人以外の漁船と張り合うための、支援インフラや能力を欠いていることである。‘Bajao Bangkit’(台頭するパジャウ人)のようなグループは、安全や教育の向上、そして漁場保護の強化を求め始めており、これらのグループは時に政治的なロビー活動も展開している。

(4) 従って、新政権を待ち受けている課題は、極めて多様で複雑である。新政権は、経済と防衛のニーズのみならず、インドネシアの複雑な多民族社会のそれぞれのコミュニティの要求にも対応した、統治システムを創出することに取り組まなければならない。民主化と政治教育の強化によって、新政権は今や、小規模だから、あるいは孤立しているからなどといった理由で、無視してもかまわないコミュニティなどは存在しないことを実感している。

記事参照:
Addressing Indonesia’s Maritime Needs: Jokowi’s Ground and Sea-level Challenges
RSIS Commentaries, October 20, 2014

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子