海洋情報旬報 2014年10月1日~10日

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10月1日「中国潜水艦、コロンボ港寄港―インド人専門家論評」(CIMSEC, October 1, 2014)

インドのNational Maritime Foundation会長、Dr Vijay Sakhujaは、米シンクタンク、Center for International Maritime Security (CIMSEC) の10月1日付ブログに、“Chinese Submarines Taste Indian Ocean”と題する論説を寄稿し、中国の潜水艦が9月にスリランカのコロンボ港に寄港したことについて、インド人専門家としての視点から、要旨以下のように論じている。

(1) スリランカのメディア報道(9月19日付)を引用する形で、中国人民解放軍系のChina Military Online(9月24日付*)は、中国海軍の039型宋級ディーゼル推進潜水艦が、北海艦隊所属の潜水艦支援艦、「長興島」と共に、スリランカのコロンボ国際コンテナターミナルに停泊していたことを報じた。 潜水艦と支援艦が同時に停泊している画像はスリランカでも中国のメディアでも公表されていないが、潜水艦は、習近平国家主席の同国訪問(9月16日)の直前の9月上旬に寄港したとみられる(注:中国国防部報道官によれば、9月15日に寄港)。スリランカのメディア報道によれば、潜水艦は通常任務で、補給のために寄港したとしている。更に、中国海軍の艦隊が、10月後半と11月にもスリランカを訪問するかもしれないと報じた。過去、インド洋における中国の潜水艦の出現については、何度か報道された。例えば、インドのメディアは、093型攻撃型原潜がインド洋に展開し(2013年12月から2014年2月まで)、そして中国国防部が在北京のインド軍駐在武官に対して潜水艦の展開を「インドに敬意」を表するために通知した、と報じた。明らかに、この潜水艦展開情報は、アメリカ、シンガポール、インドネシア、パキスタン及びロシアの各国と共有されたと見られる。

(2) インド洋の中国潜水艦の出現に関して、注目すべき点が幾つかある。

a.第1は、中国の潜水艦が、「全天候型」の同盟国と信頼されるパキスタンではなく、スリランカを訪問したことである。 スリランカを選択した理由は、パキスタンの国内政治情勢が不安定であることが要因と見られる。実際、このことは、習近平主席の9月の南アジア諸国歴訪の際も、イスラマバードへの訪問がキャンセルされた所以でもあった。更に、カラチ港とグワダル港における治安の悪化も、中国の好むところではなかった。過去に、カラチ港の海軍施設に対して何度かテロ攻撃があった。最近では、アルカイダに繋がるテロリスト・グループによるパキスタン海軍の中国製フリゲートのハイジャック計画の報道もあり、中国の不安を高めた。一方、グワダル港は、恐らく潜水艦が入港できる状態には未だなく、また過去には、グワダル港建設プロジェクトで働いていた3人の中国人技術者が殺された事案もあった。

b.第2は、宋級潜水艦のインド洋への展開が中国の在来型潜水艦としては初めてであったことである。中国はインド洋に関する十分な海洋学的データを持っていないことから、今回の展開は、慣熟化のためと見ることができよう。結局のところ、潜水艦の運用は、海中の塩分、温度及びその他の水中データについての豊富な知識の関数である。アラビア海での豊富な運用経験を持つパキスタン海軍が、中国海軍と潜水艦運用のための海洋学的データを共有した可能性があることは十分想像できる。更に、潜水艦は、母港から遠く離れた海域で運用されることがあるので、潜水艦支援艦が護衛していたのはこのためであろう。中国がマレーシア航空機MH 370便の断片を見つけるためにインド洋南部に複数の艦船、航空機及び人工衛星を投入したことは、中国海軍がインド洋に潜水艦を派遣する上で有益であったかもしれない。

c.第3に、2014年初めにインド洋に093型攻撃型原潜を展開するに当たって、中国がシンガポールとインドネシアに通告していたことが事実とすれば、その狙いは、第5回ASEAN首脳会議における、1995年12月15日に署名されたバンコク条約、即ち、「東南アジア非核兵器地帯 (The Southeast Asian Nuclear Weapon Free Zone: SEANWFZ)」の問題の討議に対応するためであったろう。中国の原潜は、マラッカ海峡、スンダ海峡あるいはロンボク海峡の3海峡のいずれか、即ちSEANWFZを通過して、インド洋に入ったであろう。ASEAN諸国は、原子力推進の潜水艦や核兵器搭載軍艦を運用する5つの核兵器国、即ち、 中国、フランス、ロシア、イギリス及びアメリカに対して、SEANWFZの各種議定書に署名するように求めてきたが、5カ国は、SEANWFZによって潜水艦のような原子力推進プラットホームの活動が阻害されるということもあって、署名を留保してきた。インドネシアは、「核兵器国によるSEANWFZ議定書の批准を可能にする適切な措置を実現する狙いからASEAN諸国と核兵器国間の協議招集を推進する」ために、先頭に立ってきた。

(3) もしインド洋における中国潜水艦の存在が事実であるとすれば、このことは、中国の進出が、もはや港湾への友好訪問、訓練航海、海賊対策活動そして捜索救難任務といった外交的な活動の域を脱して、潜水艦による水中活動にまで及んでいることを示唆しているといえる。更に、中国によるインド洋に展開させるプラットホームの選択が、多目的フリゲートから、駆逐艦、両用揚陸艦、そして今では潜水艦にまで質的に拡大してきたことを物語る。インドの戦略コミュニティは長い間、中国が何時の日にかインド洋に潜水艦を展開させ、インドの裏庭におけるインド海軍の優位に挑戦する日が来ると予測をしていたが、こうした懸念が裏付けられたことになった。インド海軍はこれまで、インド洋における中国海軍の水上戦闘艦の展開を注視してきたが、今や、潜水艦の動向にも対応しなければならなくなった。そしてこのことは、強力な対潜能力を備えた特別なプラットホームの開発を必要とすることになろう。

記事参照:
Chinese Submarines Taste Indian Ocean
Photo: Chinese “Changxing Dao” submarine support ship in Colombo Port of Sri Lanka
備考*:PLA Navy Submarine visits Sir Lanka, China Military Online, September 24, 2014

【関連記事】インド洋への中国海軍の進出、インドは如何に対応すべきか―ホームズ論評」(The National InterestOctober 7, 2014)

米海軍大学のJames Holmes教授は、米誌、The National Interest(電子版)の10月7日付ブログに、“Coming to the Indian Ocean, the Chinese Navy: How Should India Respond?”と題する論説を寄稿し、中国海軍のインド洋進出について、インド洋は中国にとって東シナ海や南シナ海よりも優先度が低いことから、当面、インドはそれほど懸念するには及ばないとして、要旨以下のように論じている。

(1) インドの海軍関係者は長年、中国がインド洋に原潜を展開させることになれば、北京は越えてはならない一線を越えたことになろうと主張してきた。9月に、中国海軍の039型宋級ディーゼル推進潜水艦が、潜水艦支援艦を伴って、スリランカのコロンボに滞在した。このことは、インドの専門家達を震撼させた。何故か。1つには、こうした企ては、指揮官に域外展開のための戦力を割ける程、中国海軍の増強が進捗していることを示す不吉な前兆かもしれないからである。また、もう1つには、インドがインド洋地域を自国の占有領域的なものと見ているからである。従って、インドは、インド洋における域外国の軍事プレゼンスに対して反射的に嫌悪感を示す。そして、このようなプレゼンスが恒久的なものに見える時には、一層強固な拒否反応を示す。外国海軍のプレゼンスが軍事基地を伴ったものであれば、なおさら問題である。

(2) 中国海軍に対するインドの論評は、ここ数年の間に変化してきた。10年前、インドは、中国が「真珠の数珠繋ぎ (a “string of pearls”)」によってインドを包囲しようとしているとして、絶え間なく苛立っていた。しかし、インド政府は、現在の戦略環境には不安を持っていないようである。ニューデリーは、余裕のある秩序立ったペースで海軍と軍の近代化を進めている。例えば、インド海軍は、即応態勢で常時1個の空母任務部隊を維持するに十分な艦艇からなる艦隊の建設を進めている。こうした戦力整備方針は、覇権を狙う他の国による差し迫った包囲の脅威に対抗する地域覇権国の対応ではない。より強力で、時にどう猛になる隣国に対して、インドのこうした比較的悠長な態度は何故か。インドは、多くの面で中国に後れをとっているのは事実である。しかしながら、南アジアでの抗争では、インドは中国よりかなり優位に立っている。1つは地理である。インド亜大陸は、地理的にこの地域の中心に位置しており、インド洋における海上交通をある程度管制できる。更に、インドは、マラッカ海峡の西から航路を横切る、アンダマン・ニコバル諸島を領有している。そしてインド軍は、潜在的紛争地域まで最短の位置にあって距離の優位を享受しており、また域内の地誌を熟知している。従って、こうした地理的環境は、インドにとって、インド洋地域で生起する事態を管理する上で、いかなる外部パワーよりも有利に働く。中国は、東アジアにおいては、アメリカに比してホーム・チームとしての優位を占めているが、南アジアではビジターであり、そこで思い通りにやるためには、ホーム・チームとしてのインドの優位を克服しなければならない。中国にとって、インド洋への力の投射は難しい。海軍力のプレゼンスを恒常的に維持することは、更に難しい。これが接近と接近拒否の冷酷な論理である。

(3) 地理空間の視点から中国の戦略的問題を見てみよう。インドは、遠隔の戦域で行動する「外縁 (an “exterior-line”)」の競争相手に対峙する、「内縁 (the “interior-line”)」パワーであり、インド亜大陸を中心とする円の半径に沿って動くことができる。ニューデリーは、この円の中で起こることに対して、どの外部パワーよりも関心を持っており、その利益を護るために国力の全てを集中できる。対照的に、中国は、この円の外周、即ち、より長い距離と複雑な海洋地形に沿って行動しなければならない。自国の沿岸から遠く離れた戦域で行動しながら、防御側の周囲に優勢な戦力を集中させることは、簡単な問題ではない。遠隔の戦域に力を投射するための障害を克服するためには、資源に加えて、決意が必要である。中国から見て不利な点は、インドが円に沿って存在する遠隔の島嶼を領有していることである。このような遠隔の前方拠点は、中国の行動と戦略を難しくする。ニューデリーは、アンダマン・ニコバル諸島に対艦巡航ミサイルを配備するという単純な手段を通じて、マラッカ海峡を通航する、あるいは接近する商船や海軍艦艇の安全を脅かすことによって、北京の「マラッカ・ジレンマ」を一層深刻なものにすることができる。インドはまた、これら島嶼群を要塞化することで、中国の海上交通路を横断する「鉄鎖 (a “metal chain”)」を展伸することができる。中国の戦略家は、そのような動きを恐れている。もしマラッカ海峡がインド洋とその豊かな天然資源への中国の主たる出入口であるとすれば、インド軍は、その門を閉ざすと脅迫することができる。そうすることで、インドは、中国による悪巧みを抑止し、あるいは阻止できる。地理は不可抗力ではないかもしれないが、インドの戦略にとっては恩恵である。

(4) 更に、政治的、戦略的な優先度が、南アジアで中国が高圧的な存在になることを妨げている。決定的な場所に、そして決定的な時間に力を集中することが戦略の要諦である、とは先人の教えである。言い換えれば、あらゆる場所であらゆることをしようとする競争相手は、何処ででもほとんど何も達成できないという危険を冒すことになる。従って、もう1つの試みが「例外的な報償」を約束するものでない限り、そしてそれが主要な戦域における不当なリスクを招くことなく遂行できるものでない限り、政治的、戦略的なパワーの管理者は、主戦域あるいは主たる試みから資源を吸い上げることを避けなければならない。パワーの管理者は、優先順位を遵守しなければならない。このことは、二義的な試みへの敷居を高くする。言うまでもなく、自国の近辺での事象を管理することは、中国を含む如何なる国家の指導者とっても第一義的任務である。例えば、中国海軍がインド洋でインド海軍より優位に立つことはあり得る。しかし、中国の指揮官は、どのようにして南アジアに優勢な戦力を集中できるのか。中国の指導者が、インド洋における不確かな賭けのために、東シナ海や南シナ海における中国の利益を危険に晒すとは考えられない。

(5) コストと利益を厳密に考えれば、中国海軍の艦隊を南アジアに配備することは賢明ではなく、従って、北京は今のところインドの裏庭での冒険を思い止まろう。中国軍の増強が完了し、そして東シナ海や南シナ海における諸問題が中国の意のままになるようになれば、事態は変わるかもしれない。しかし、それは遠い先の話である。従って、インドの指導者は、こうした事情を熟知した上で、海軍の装備や運用戦術の試行に余裕を持って当たっているのである。確かに、中国は、南アジアに数隻の潜水艦を展開させることによって、インドを困惑させることができよう。しかし、トラブルを起こすことと、インドの縄張りでインドを圧倒することとは同じではない。ニューデリーにとって、警戒しつつ、海軍増強を推進することが最も賢明な政策である。

記事参照:
Coming to the Indian Ocean, the Chinese Navy: How Should India Respond?

101日「中国の海洋法令執行船隊、何を目指しているのか―米海大専門家論評」(The National Interest, October 1, 2014)

米海軍大学、The China Maritime Studies Institute (CMSI) のRyan Martinson研究統括官は、米誌、The National Interest(電子版)の10月1日付ブログに、“Here Comes China’s Great White Fleet”と題する論説を寄稿し、急速に増強されつつある中国の海洋法令執行船隊(「グレート・ホワイト船隊」)が何を目指しているかについて、要旨以下のように論じている。

(1) 中国の巡視船、「海監7008」(排水量1,750トン)が9月17日、正式に浙江省の支隊に配備された。「海監7008」は特殊放水銃を2基装備している。この放水銃は海外から130万元(約21万ドル)という法外な価格で購入したもので、200メートル先まで海水を放水する能力を持つ。また、100メートルの範囲に嫌悪感を与える雑音を発生する装置を装備している。これらの装備から、「海監7008」は外国船と対峙するために設計されたことは明らかである。「海監7008」は、中国の海洋権益を擁護する船隊に配備された最新の巡視船である。この船隊には、排水量500トン以上の大型船が全て含まれており、中国の中央及び地方の海洋法令執行機関に所属し、運用されている。今日では、これら巡視船の役割はよく知られている。これらの巡視船は、一般的に非武装あるいは軽武装であり、いわゆる「非軍事的砲艦外交 (“paragunboat diplomacy”)」を遂行している。その任務の範囲は、海洋における象徴的な展開から中国が主張する管轄海域からの外国船舶を強制的に排除し、また中国自身による侵入行為の擁護にまで及ぶ。これらの巡視船は、しばしば海軍艦艇の保護の傘の下で行動している。

(2) 中国の海洋権益を擁護する船隊は最近、急速な成長を遂げている。筆者 (Martinson) の見積もりでは、2012年4月のスカボロー礁占拠事案以来、52隻の新しい巡視船が就役している。更に、2012年後半には、中国は、東シナ海や南シナ海における巡視船の所要に対処するために、海軍の大型艦11隻を海警局に移管することを決定した。また、2012年に、中国海警局は、排水量3,000~5,000トンの大型巡視船建造のための最初の契約に調印した。これらの大型船は、長期滞洋能力があり、全天候型で外国船舶への対処に適したものである。2014年末までに、6隻が就役し、その他の多くが進水を持っている状況である。一方、農業部漁業局漁政検査隊の国家及び地方部隊への外航型船舶の追加は、あるものは新造であり、あるものは海軍からの移管であるが、この中には最近、広西チワン族自治区に所属し、運用されている1,746トン級の「漁政45005」、「漁政45013」の姉妹船が含まれている。こうした船舶の急増ぶりが重要な理由は、海洋権益を擁護する船舶の数と東アジアの海洋において拡張主義的な政策を追求する中国の能力との間に直接的な関係があるからである。その最も端的な事例が、「海警3401」が2014年1月10日に中国海警局に配属されたことである。この排水量4,000トンの大型巡視船は、2013年7月に海警局が創設されて以来、初めて配備された新造大型船となった。「海警3401」は、就役後数週間の内に、セカンド・トーマス礁(中国名:仁愛礁)沖に現れ、同礁近くに着底したフィリピン軍の揚陸艦、BRP Sierra Madreの海兵隊員に対するフィリピンの補給を妨害した。

(3) 中国の政策決定者は、この新しい船隊をもって何をしようとしているのか。まず、我々は、中国がこうした大型巡視船を捜索救難任務や環境保全任務のために(もちろん、時にはこうした任務に従事することもあるが)建造したわけではないことを、改めて指摘しておかなければならない。過去2年間の間に、中国の海洋政策が単なる宣言政策から実際の高圧的な政策遂行に変化していることは明らかである。海外の専門家はしばしば、中国の意図が東アジアの近海域の「支配」を実現することにあるというが、正確にその意味するところはあまり説明されない。中国政府の公文書に見る、中国の海洋における権益保護に関する記述は、中国の管轄海域である300万平方キロの海域に対する「実効支配の強化」と「管理能力の強化」を重視している。この300万平方キロの海域のかなりの部分は他の国も権利を主張している海域でもある。海洋権益保護やそのための船隊配備を決定する、国家海洋局の指導者の発言や記述を見れば、例えば、『中国海洋報』の2013年1月18日号の記事で、国家海洋局南海分局党委書記銭宏林は、第18回中国共産党大会で取り上げられる議題の1つは中国の海洋権益の保護である、と述べている。この記述には、「管轄海域を効果的に行政管理する能力を強化する」ともある。第18会党大会では、中国を「海洋強国」に転換するとの目標が示された。同誌の2014年7月7日号の巻頭言では、国家海洋局局長劉賜貴は、中国が「海洋強国」になるということの意味について、中国の経済と安全保障の利益に脅威を及ぼす一連の有害な状況を指摘した上で、中国の唯一の選択肢は海洋に対する行政管理権を行使する能力の強化である、と述べている。

(4) しかし、平時における海洋の支配とは何を意味するのか。前出の文脈から判断すれば、海洋法令執行船隊を使用して中国が管轄権を主張している海域に対する行政権限を行使することを意味しているようである。これには、他国がその主張を実現しようとする努力を妨害するとともに、中国自身の主張を実現するための努力を防護するという、2つの意味がある。従って、それは必然的に高圧的な政策となる。中国の法律を遵守しない外国船に対しては、端的に言えば、明白な戦闘行為以外のあらゆる手段がとられる。中国政府の文書は領有権を主張する島嶼に対する支配を強化するための平時の作戦について明確には述べていないが、スカボロー礁やセカンド・トーマス礁に見られるように、シーパワーの論理は、海上からの接近路を制圧することが領有権を主張する島嶼に対する効果的な支配に通じることを示している。東シナ海における中国の主張の範囲は明確である。北京は、尖閣諸島に対する主権と長く伸びた(沖縄に至るまでの)大陸棚の管轄権を主張している。南シナ海における主張はより曖昧である。中国の指導者は、中国が「9段線」の内側にある全ての島嶼や低潮高地の多くに対して主権的権利を有すると考えているが、「9段線」の内側の海域に対する中国の「歴史的権原」の内容について公式に定義したことはない。オーストラリアの専門家は、中国の海洋法令執行船隊は「9段線」の内側の海域全体に対してある種の管轄権を有するとの前提に立って行動している、と指摘している。海洋の特性、関連する長大な距離空間、そして他の領有権主張国の不退転の意思を考えれば、中国が、武力の行使に訴えることなく、領有権や管轄権を主張している全ての島嶼や海域に対して行政管理権を確立するには、非常な困難を伴うであろう。しかし、中国は、「グレート・ホワイト船隊」(海軍艦艇のグレー塗色に対して海警等の巡視船の白の塗色を表意)をもって、そのための準備を進めているに違いない。

記事参照:
Here Comes China’s Great White Fleet

101日「ロシア、2017年までに北極圏に軍事コマンド創設」(The Moscow Times, October 1, 2014)

ロシア地上軍司令官が10月1日に明らかにしたところによれば、ロシアは、北極圏の軍事力強化の一環として、スノーモービルとホバークラフトを装備した2個自動車化狙撃旅団から構成される軍事コマンドを、2017年までに北極圏に創設する。サリュコフ司令官は、「北極圏におけるロシアの国益防衛のために、統合タスクフォースが編成される。1個自動車化狙撃旅団は現在、ムルマンスク地区で編成中であり、2個目の北極旅団は2016年に編成され、ウラル山脈東側の北極圏のヤマル・ネネツ自治管区に配備されることになっている」と語った。ロシアは近年、旧ソ連時代の軍事基地を再開するなど、北極圏における軍事活動を強化してきた。サリュコフ司令官によれば、新たに編成される北極圏向けに訓練され、装備された旅団は、ロシアの北極海沿岸地域を哨戒し、北極圏にある現在及び今後開設される軍事基地施設を防衛し、北方航路の安全通航を確保し、そして恐らく最も重要な任務として、他の北極圏諸国に対して、ロシアの軍事プレゼンスを誇示することになろう。

記事参照:
Russia to Form Arctic Military Command by 2017

102日「インドネシア領ナトゥナ諸島、南シナ海における中国の次のターゲットか―現地取材レポート」(The Diplomat, October 2, 2014)

アジア太平洋地域をフォローするジャーナリスト、Victor Robert Leeは、Web誌、The Diplomatに10月2日付で、“Is Indonesia Beijing’s Next Target in the South China Sea?”と題する論説を寄稿し、南シナ海のインドネシア領、ナトゥナ諸島の訪問、取材を踏まえて、中国が南シナ海における次のターゲットとしてナトゥナ諸島に食指を伸ばしていると見、要旨以下のように述べている。

(1) インドネシアは最近まで、南シナ海における領有権紛争の埒外にあると見られていた。しかし状況が変わりそうである。ナトゥナ諸島は南シナ海における中国の次のターゲットになるかもしれない。ナトゥナ諸島最大の島、大ナトゥナ島 (Natuna Besar) では、「保安検査」が大変厳しい。大ナトゥナ島に着陸後、そのフライトが国内便であっても、外国人は登録され、パスポートがコピーされる。空港はインドネシアの空軍基地としても使用されているので、写真撮影は空港からかなり離れる場所まで禁止である。島を離れる時には、全ての外国人は、保安要員から島での滞在場所と島への出入りの経路について質問される。非番の海軍士官も、島の訪問者の活動について調査している。北京が最近、ナトゥナ諸島も中国領土の一部と見られかねない海洋境界を示した地図を公表したことを考えれば、厳重な保安検査も理解できる。しかし、この重要なインドネシア領の最前線における軍事力の貧弱さは、北京が進めている南シナ海の領域化がほとんど強固な抵抗に直面していないということを思い起こさせる。過去2年間、中国は、恫喝、海軍艦艇の哨戒、局所的な封鎖、石油採掘リグの設置、漁船に対する衝突、そして多くの島嶼や環礁における施設の建設を通して、その領有権主張を実体化してきた。

(2) 最近まで、インドネシアはこうした中国の敵対的行為とは無縁と思われており、実際、インドネシア政府は、中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ及び台湾の近隣諸国間の領有権を巡る係争問題に公正な仲裁役を買って出ていた。しかし、中国が新たに認可した地図やパスポートにナトゥナ島周辺海域が含まれていることで、インドネシアのジョコ・ウィドド新大統領にとって、最初の課題の1つは中国の侵略行為になるかもしれない。新大統領は、大ナトゥナ島の空軍基地や海軍基地が最前線基地として十分な防衛力を備えていないことを理解することになろう。空軍基地は30棟以上の小さな建屋を持つが、航空機格納庫はあまり大きくない3棟だけである。この基地に軍用機が視認できないのは、隠蔽されているか、航空機がいないかのいずれかであろう。隣接した海軍基地構内の芝生で、数人の女性を含む数十人の隊員が格闘技の演練をしていたが、島の唯一の海軍戦力は2隻の小型軽武装の巡視艇と1隻の複合型ゴムボート (RIB) で、老朽化しつつある埠頭に係留されていた。最近、ナトゥナ島から210カイリ南西のアナンバス諸島の基地に一部の海軍戦力が移転されたとされるが、厳しい撮影禁止措置は、軍事機密を護るというよりは、むしろ弱点隠しが動機になっているのかもしれない。

(3) インドネシア政府は2014年3月に、中国の南シナ海の大部分に対する一方的な領有権主張に、インドネシアのリアウ省(大ナトゥナ島と周辺の他の島が属す)の地域をも含んでいることを初めて認めた。ナトゥナ諸島は、かつてインドネシアと中国の間の綱引きの対象であった。1970年代までは、ナトゥナ諸島の居住者の多数は中国系であった。インドネシアでは、反華人暴動が1960年代、1980年代初期そして再び1998年に勃発したことで、5,000~6,000人と推定されたナトゥナ諸島の中国系人口が、現在では1,000人台にまで減少している。インドネシア政府は1980年代に、全国的な移住措置の一環として、ナトゥナ諸島にマレー系インドネシア人の移住が開始された。表向きの理由は、ジャワ本島の過密な人口を緩和するというものであった。しかし、地元の中国系インドネシア人が認識する暗黙の理由は、彼らを「生粋のインドネシア人」で圧倒するのが狙いで、現在、ナトゥナ諸島全体でマレー系の人口は約8万人を数える。

(4) インドネシアは1996年に、中国がナトゥナ諸島周辺海域にまで領有権を主張していることを認識し、ほぼ2万人の兵力をナトゥナ海域に派遣し、それまでで最大規模の海軍演習を行った。ジャカルタの狙いは、アメリカの石油会社との提携による天然ガス生産のために、中国が探査鉱区を設定し、管轄しようとしたことに抵抗することであった。当時、インドネシア海軍と空軍による行動は中国の野心に対する抑止効果があったと見られるが、18年後の現在では、中国軍事力の大幅な拡充によって、インドネシアが同じような状況下で果敢な対応をとったとしても抑止効果があるとは思われない。東シナ海と南シナ海における領有権問題に関して、鄧小平はかつて、「この世代は、このような難しい問題を解決するのに賢いとは言えない。それを解決するために次世代の知恵に期待しよう」と唱えた。しかし、海軍力によって南シナ海の大部分を事実上占拠した、現在の習近平主席は、鄧小平の願いより、「政権は銃口から」という毛沢東の挌言に忠実であるように思われる。1996年のナトゥナ諸島周辺海域を護るインドネシアの軍事演習の時に、インドネシアのアジア問題専門家、Dewi Fortuna Anwar博士は、「中国は力を信奉する。もし中国が相手を弱いと見なせば、中国はこれを餌食とするであろう」と語ったといわれる。現在、Anwar博士は国際的に認められた学者となり、インドネシア副大統領の顧問を務める。今日、彼女の言葉は、南シナ海で現実になっているのである。

記事参照:
Is Indonesia Beijing’s Next Target in the South China Sea?
地図:この地図は、この論説の筆者、Victor Robert Leeが、中国の「9段線」の2つの最南端の「段線」を繋ぐ3本の仮定的な破線を引いたものである。筆者によれば、3本の仮定的な破線は、いずれもインドネシアが管轄権を主張するナトゥナ諸島(主要な天然ガス田を含む)周辺海域と重複している。
http://thediplomat.com/wp-content/uploads/2014/10/thediplomat_2014-10-02_07-12-47.jpg
Photo: Indonesian navy vessels at dock, Natuna Island

10月2日「米、対ベトナム武器禁輸措置を緩和」(The New York Times, October 2, 2014)

アメリカは10月2日、長らく続いていた対ベトナム武器禁輸措置を部分的に解除した。これは、ハノイによる高圧的な中国に対抗する海洋安全保障の強化を支援することを意図した措置である。この政策転換は、訪米したベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外相が、ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官やケリー国務長官らと会談した際に発表されたものである。国務省は、この武器輸出再開が、海洋哨戒や海洋治安関連システムに限定されたものであることを強調するとともに、この決定がベトナムにおける人権状況の一定の改善を反映したものであることを強調している。中国の軍事力増強に対するアメリカの懸念が高まるにつれ、米政府関係者は、徐々にベトナムとの安全保障関係を強化する方向に動き出していた。

記事参照:
U.S. Eases Embargo on Arms to Vietnam

【関連記事】「米の対ベトナム武器禁輸措置の緩和、ベトナムはどう対応するか―セイヤー論評」(The Diplomat, October 6, 2014)

オーストラリアのThe University of New South WalesのCarl Thayer名誉教授は、10月6日付のWeb 誌、The Diplomatに、“The US Lifts Arms Embargo: The Ball Is in Vietnam’s Court”と題する論説を寄稿し、ベトナム側の熱心なロビー活動によってアメリカの対ベトナム武器禁輸措置の一部解除が決定されたが、これにより今後の展開はベトナム側がこの一部解除を承諾するのか、あるいは全面解除を要求するのかという判断に委ねられることになったとして、今後の展開について要旨以下のように述べている。

(1) アメリカによるベトナムに対する武器禁輸措置の一部解除は、ケリー米国務長官が10月2日、訪米したベトナムのミン副首相兼外相との公式会談で表明された。ケリー長官は、ミン外相に対して、「国務省は将来を見据え、ベトナムに対して海洋安全保障に関する物資の移転を認める方針を打ち出した」と述べた。同政策は、ベトナムの海洋監視能力や安全保障能力を高めるという試みをサポートする内容となっている。国務省報道官は、メディアによる「武器輸出解禁措置は、中国の南シナ海における活動、とりわけ紛争海域への石油掘削リグの設置が主因なのか」などといった一連の質問に答える形で、「理由の一部には、ベトナムを同地域の海洋安全保障イニシアティブに完全に組み入れるためということもある。しかし、ベトナム国内では改革に向けたステップが進行しており、この動きが同措置を促しただけである」と述べている。国務省はメディアに対するブリーフィングを実施し、背景事情を解説した。それによれば、国務省当局は、ベトナムへの武器売却承認という決断において、中国要因が果たした重みをプレイダウンしようとした。例えば、ある当局者は、「広義には、南シナ海地域では海洋防衛能力が不足しており、従って、そのギャップを埋めることが理由の1つであった。実際、ここ1、2年でそうしたギャップを埋める必要性が明確になった。しかし、このことは、特定の行動や危機に対応したものではなく、ましてや反中国の動きでもない。このことは、中国に対する警告というメッセージでもない。この措置は、我々がこれまでに多くの国家の海洋防衛能力の構築を手助けしてきたプログラムの一環に過ぎない」と指摘し、更に、「直ちに武器を売却することは予定しておらず、ベトナムも現段階では受け入れ態勢が整っていない」と述べた。

(2) では、アメリカの部分的な武器禁輸措置の解除を受けて、ベトナムはどのような装備を望んでいるのか。ベトナムは、これに先立つ2012年1月に、購入希望の軍事兵器をリストアップした「購入希望リスト」を、当時ハノイに滞在中だったマケイン上院議員とリバーマン上院議員に手渡している。リストの内容は不明だが、彼らハノイ訪問直後、ベトナムが地雷除去技術を欲していることなどがメディアで報じられた。更に、注目すべきは、ベトナムが対潜戦能力の開発に関心を示しており、最新のソナーを搭載した対潜哨戒機、P-3 Orionに関心を示している、と報じられたことであった。ベトナムは、南シナ海における自国のEEZを防衛し、この海域で活動する中国の潜水艦を探知するために、P-3 Orionの購入を希望した。2012年6月にベトナムのタン国防相とパネッタ米国防長官がハノイで共同記者会見を開き、タン国防相は、「武器禁輸措置が解除されれば、ベトナムはまず、アメリカから何種類かの兵器用の部品を購入し、それでベトナム戦争当時の米製兵器を補修、整備したい。その後のことは、ベトナムの財政状況や軍の需要によるだろう。いずれにせよ、我々は、ベトナム軍の近代化プロセスのために、幾つかの兵器を購入することになるだろう」と述べた。

(3) 現在の米政府の方針では、各種兵器や、「非致死性の暴動鎮圧用装備や役務、そして地上戦闘用の夜間暗視装置」のライセンス生産や売却を禁止している。今回の禁輸緩和措置では、巡視船、沿岸監視レーダーそして海洋監視航空機などを提供することで、ベトナムの沿岸警備能力を強化することに狙いがある。どのような防衛装備の売却が許可されるのかは未だ決定していないが、アメリカによる武器禁輸措置の部分的解除について、以下の2点を指摘することができる。

a.1つ目は、南シナ海における中国の高圧的姿勢に対抗するための米政府の政策は、外交的修辞を越え、そして国際法遵守に対する慫慂から、今や海洋権益防衛のための当該沿岸諸国の武装化を支援する戦略に変わったということである。このアメリカの政策転換は、アメリカを中国との直接的な海軍力の対峙に引きずり込むことなく、中国の高圧的姿勢を抑止するために、沿岸諸国の海洋防衛能力を強化することを狙いとしている。ベトナムの場合、米政府当局者は、ベトナム沿岸警備隊の防衛能力の強化が優先事項であることを明らかにしている。何故なら、中国が自国の主権主張を押し進めるに当たって、中国海警やその他の海洋法令執行機関、そして漁船を活用する戦略を取っているためである。

b.2つ目は、アメリカの政策転換が、これまでアメリカとの防衛協力強化に反対してきた、ベトナム共産党内の保守派の力を弱めることになったことである。これまで党内保守派は、「アメリカはこれまでベトナムに何をしてきたのか」と主張し、党内の対米協力重視派と対立してきた。党内保守派は、① 枯れ葉剤で汚染された地域の除染のための更なる費用、② ベトナム戦争中に行方不明となったベトナム人兵士の身元確認作業への更なる協力、③ 武器禁輸措置の解除、をアメリカに要求してきた。アメリカは、① と ② の問題については対策を講じてきた。今回の武器禁輸措置の一部解除は、③ の要求に対応したものである。そして、今やボールはベトナム側に投げ返された。保守派は、アメリカによる海洋安全保障のための武器提供のオファーを受け入れるか否かの決断を迫られることになった。保守派は、武器禁輸措置の全面解除を求めてくるかもしれない。その場合、保守派の対応が、ベトナムによる米国製兵器の購入を規制する要因にもなりかねない。その一方で、もし保守派が武器禁輸措置の一部解除を受け入れれば、ベトナムは、最新型兵装の巡視船や航空機の提供を要請することで、アメリカの本気度を試すことができよう。

記事参照:
The US Lifts Arms Embargo: The Ball Is in Vietnam’s Court

10月2日「ベトナム籍船タンカー、ハイジャック&積荷抜き取り事案」(ReCAAP ISC, October 9, 2014)

ReCAAP ISCは10月5日、ベトナム沿岸警備隊とThe Vietnam Maritime Security Information Centre (MSIC) から、同国籍船の精製品タンカー、MT Sunrise 689が10月3日に南シナ海のアナンバス諸島沖で消息を絶った、との連絡を受けた。該船は、10月2日にシンガポールから5,000トンのgas oilを積んでベトナムに向かっていた。ReCAAP ISCがベトナム沿岸警備隊とThe Vietnam Maritime Administration (VMA) から9日に受けた通報によれば、該船の船長と9日に連絡が取れ、船長によれば、2日に銃とナイフで武装した強盗に乗り込まれ、積荷のgas oilを彼らの船に抜き取られ、強盗は船の通信設備を破壊し、また2人の乗組員が軽傷を負った。該船の位置は、ベトナムのカーマウ岬沖のコアイ島南西約78カイリの海域で、ベトナム沿岸警備隊の巡視船が救助に向い、該船を救助した。

記事参照:
ReCAAP ISC, October 9, 2014
Photo: MT Sunrise 689

【関連記事】「ベトナム籍船タンカー船長、ハイジャックの様子を語る」(Tuoi Tre News, October 9, 2014)

ハイジャックされたベトナム籍船精製品タンカー、MT Sunrise 689のタン船長は10月9日、ベトナムのTuoi Tre Newsに携帯電話でハイジャック時の様子を語った。タン船長によれば、10月2日にシンガポール出航後、数時間して1隻の高速ボートと2隻の漁船が接近してきた。船長によれば、インドネシア人と見られる海賊は銃とナイフで武装しており、該船に横付けして乗り込み、18人のベトナム人乗組員を統制下に置き、一部の海賊は船の通信設備を破壊した。ほぼ1週間に亘る制圧下で、乗組員は1日に1食しか与えられなかった。最初の日に海賊に抵抗した2人の乗組員は負傷した。更なる負傷者を出さないため、以後、船長と他の乗組員は海賊に協力した。海賊は、積荷のgas oilを3分の1ほど抜き取り、9日午前9時頃、カーマウ岬沖のコアイ島付近の海域で該船を解放した。

記事参照:
Captain of hijacked Vietnam oil tanker recalls horror of attack

10月3日「中国海軍のイージス艦、南シナ海での演習に参加」(The Diplomat, October 3, 2014)

Web誌、The Diplomat の編集主幹、Zachary Keckは、10月3日付の同誌に、“‘Chinese Aegis’ Leads A2/AD Drill in South China Sea”と題する論説を寄稿し、このほど南シナ海での演習に参加した、中国海軍の「イージス艦」について、要旨以下のように述べている。

(1) 台湾のメディアの報道によれば、中国は、大規模な海軍演習に参加させるために、係争中の南シナ海に最新の誘導ミサイル駆逐艦を派遣した。それによれば、派遣されたのは、最新の052D型誘導ミサイル駆逐艦 (DDG) の1番艦、「昆明」である。派遣の目的は、係争海域における「接近阻止・領域拒否 (A2/AD)」攻撃を想定した演習の実施にあった。052D型ミサイル駆逐艦はそれ以前の052C型と052A型駆逐艦の後継である。中国は、メディアの派手なファンファーレの中で、2014年3月に「昆明」を就役させた。052D型は中国の最も進んだ駆逐艦で、しばしば米海軍のイージス艦、Arleigh Burke級DDGと比較され、中国のイージス艦と見なされている。中国は、最終的に6隻の052D型駆逐艦を就役させると見られる。

(2) 052D型は、それ以前の052C型と052A型に幾つかの重大な改修を加えたもので、排水量は6,000~7,000トンで、主砲は新型の130ミリ主砲で、Active Electronically Scanned Array (AESA) を装備している。垂直発射セル (VLC) も大きく改善された。このVLCは、艦の船底からマガジンまで弾薬を装填する必要がなく、対空、対艦、対地の各攻撃ミサイルを迅速に発射することができる。052D型 DDGは、中国海軍の水上戦闘艦の主力になると見られる。052D型 DDGは、中国が南シナ海、東シナ海あるいは台湾を巡って直面するかもしれない海軍戦闘で、中国が投入できる最も重要な戦力となろう。洋上における高精度な防空能力を保有することは世界的な海軍になるための不可欠のステップであり、この能力によって、本国の海域から遙かに離れた陸上基地防空システムの覆域外において、作戦行動ができるようになるのである。052D型DDGが南シナ海での演習に参加したことは偶然ではない。中国は、南シナ海におけるほとんどの海域に主権を主張するために、より広範囲の哨戒能力を強化しており、航空機では、新型のSu-35を取得しつつある。海上では、フィリピンの近くの環礁に補給基地を建設している。052D型 DDGは、こうした強化措置の一環である。

記事参照:
‘Chinese Aegis’ Leads A2/AD Drill in South China Sea

10月6日「北極圏におけるロシアの軍事力強化、アメリカは如何に対応すべきか」(The Weekly Magazine, October 6, 2014)

米誌、The Week(電子版)は10月6日付の、“Russia’s arms race in the Arctic is heating up. How worried should the U.S. be?”と題する論説で、アメリカの北極政策の在り方について、要旨以下のように論じている。

(1) 近年の北極圏に対する関心の高まりは、北極海の海氷が溶解していることに起因する。これは単なる意見ではなく、人工衛星によって観察される実際の現象である。この20年間、記録に残る歴史の中でも、北極海の海氷の融解は最も顕著な傾向を見せてきた。北極海の海氷の融解は、経済的機会の到来なのか、あるいは軍事的抗争の出現なのか。北極海の海氷の融解がもたらす経済的な影響は巨大なものとなろう。2013年には、91隻の船舶が北西航路と北方航路を利用して安全に航行した。この隻数は新記録であった。非北極圏国家である中国は、2隻目の砕氷船を建造しており、北極圏の富に強い関心を示している。貿易への依存度を考えれば、中国は北極圏に対して強い経済的動機を持っている。中国はまた、エネルギー供給源の多様化も緊急の課題となっている。米地質調査所によれば、世界の未開発原油資源の13%そして未開発天然ガス資源の30%が北極圏に埋蔵されていると見られ、更に今日のハイテク経済に不可欠の鉱物資源も存在するとされる。北極海の海氷の融解によって、こうした資源の開発、生産の可能性が高まってきているのである。

(2) ロシアの存在は、経済的機会を複雑なものにしている。ロシアは、最長の北極海沿岸域と海上交通路を有しており、沿岸諸国の中でも明確な比較優位を保持している。その優位の1つは、ロシアが保有する38隻の砕氷船であり、この隻数は他の北極海沿岸諸国の砕氷船を合わせた隻数よりも倍以上である。しかも、ロシアは世界で唯一、原子力砕氷船を保有している。ロシアは北極圏において冷戦時代の軍事プレゼンスを復活させることを表明しているが、北極圏における実際の投資は、ほとんどロシアの領土内にあることが判明している石油や天然ガスを中心としたものである。しかしながら、領土問題は、潜在的な紛争要因である。通航が可能になった北方航路は沿岸5カ国に面した海域を通航するものであり、過去にはその大部分がアクセス不能な海域であったために、領有権主張を争う必要がなかった。北極海の状況が変わりつつある中で、一部の領有権問題は平和的に解決されてきた。北極海沿岸諸国の内、4カ国がNATO加盟国で、もう1つがロシアであることを考えれば、未解決の領有権問題の解決は一層困難なものになるかもしれない。更に、北極圏における沿岸諸国のプレゼンスの格差が、戦略的に一層重要なものになってきている。言い換えれば、北極圏における経済的利益と軍事的利益は共に重要であるばかりでなく、これら2つは相互に絡み合っているのである。

(3) では、アメリカ政府は、何をすべきか。アメリカは、北極海沿岸国として、経済的、軍事的利益を持っているが、これらの利益を促進するための能力が十分ではない。オバマ大統領の北極戦略は、北極圏問題の研究着手を約束しているだけで、状況静観の構えである。奇妙なことに、少なくとも今のところは、このようなアメリカの対応は最善の戦略かもしれない。国防省の議会提出報告書は、「問題は、北極圏に対する尚早の投資による機会コストと、実際の需要が後から遅れてやってくることによるリスクとの間でバランスをとることである」と指摘している。実際、輸送ルートとしての北極海は依然困難かつ危険な海域であり、また極地専用の装備は非常に高価である。しかしアメリカが北極圏への投資において先陣を切らないからといって、アメリカは、時期が来るまで何もしないで良いわけがない。最近の北極担当大使の任命は、アメリカが2015年に北極評議会の議長を務める上で有益であろう。そして特に、アメリカは、国際航路に対するアクセス確保とともに、北極圏における自国の国境と領土を護るために行動する必要がある。アメリカは、カナダと協力して、北部の荒涼たる地域に、強力なミサイル防衛システムを構築している。そして、この地域における通信および監視機能を強化するために再投資が必要になっている。これらの特定の施設への投資は、ロシアの大胆な軍事化宣言に対する最適な対応となるであろう。領土と国際航路については、アメリカは、大規模な砕氷船船隊を持たなくても、これらを防衛する手段(例えば潜水艦などの)を有している。当然ながら、もし国連海洋法条約への加盟が上院で承認されれば、それはアメリカの北極戦略に大きく裨益することになろう。今日の北極圏における最も明確かつ危険な問題の1つは、海上交通の増加によって海難事故のリスクが実際に高まっていることである。長い航行距離、過酷な環境、そして適切な支援設備の欠如を考えれば、海難事故は何時起こっても不思議ではない。従って、こうした理由からだけでも、新たに砕氷船を建造するのは有益である。

(4) 最後に、アメリカは、北極圏への新たな投資を誘発するトリップワイヤを設定しておく要がある。最近公表された、国連の気象変動に関する政府間パネルの報告書によれば、今世紀半ばには北極海には「氷のない」夏が訪れる可能性がある。これは、より適切な投資を行う時期の到来を意味する。北極圏を巡る抗争が経済的なものになるか、あるいは軍事的なものになるかは、こうした可能性の中ではあまり考慮する必要はない。このような北極海における急速な海氷の融解は、恐らく気象変動の加速を意味するものであろうし、また世界規模の淡水利用の問題や気象パターンにも影響を与えるであろう。このような気象変動が意味するところを認識せず、一部の政府当局者や企業が全面的に航行可能な北極海がもたらす経済的機会や安全保障上のリスクを喧伝するのは、アメリカの北極政策の不条理の表れである。

記事参照:
Russia’s arms race in the Arctic is heating up. How worried should the U.S. be?

10月6日「北方航路のハブ港を目指す、韓国地方自治体の取り組み」(The Korea Times, October 6, 2014)

韓国紙、The Korea Heraldは10月6日付けで、北極海航路のハブ港を目指す韓国地方自治体の取り組みについて、要旨以下のように報じている。

(1) 韓国東海岸の地方自治体と港湾都市は、北極海における海氷の溶解を低迷する地域経済を活性化させる契機として見なしている。シベリアを通じて韓国とヨーロッパを結ぶ新たな航路としての北方航路 (NSR) が実用化するにつれ、これらの自治体は新しい輸送ハブになることを期待している。これが実現された場合、国からの多大なインフラ建設への投資が実現し、地域住民の雇用拡大に繋がるであろう。 江原道のチェ・ムンスン知事は、NSRが現実になれば、海運と水産業における巨大な利益が予想される、と述べた。江原道を含む韓国の地方自治体は、新たなシーレーンのハブ港として指定されるために海洋水産部に対するロビー活動を行っている。NSRを航行する新たな航路は、オランダのロッテルダムからスエズ運河を経由して釜山を結ぶ従来の貿易ルートより、10日間の時間短縮が可能である。そのため、物流コストと燃料の削減のために短い航行ルートを求める多くの貨物船にとって、NSRは魅力的である。就中、南部の港湾都市、釜山は、NSRのハブに相応しい港としては、能力面で他の追随を許さない水準にある。

(2) 釜山より小さい港湾を持つ他の地方も、ハブ港としての釜山に挑戦するために大規模なロビー活動を展開している。江原道は、ハブ港を目指して最も活発なロビー活動を行っている。江原道地方政府は、9月に国際セミナーを開催し、ソウルへのアクセスの容易さを強調して、当地方の比較優位をアピールした。地方政府当局は、このセミナーで、釜山・ロッテルダム間よりも、ロッテルダム・江原道のルートの方が2日間も航行日数が短いことを指摘した。しかも、首都と近い位置にあることから、北極圏からより多くの新鮮な食材をソウルの消費者に提供することが可能であろう、と強調した。 チェ知事は2013年、当該地域の東海市を宣伝するために海洋水産部を訪問するなど、ハブ港誘致に尽力している。フロントランナーの釜山も、何もしないでいるわけではない。釜山広域市政府は2014年、ハブ港としてのメリットを国民にアピールするための政策オプションを検討するチームを設置した。有力政治家もロビー活動を強化している。2013年には、与党のセヌリ党の幹部議員らは、北極海時代のハブ港を巡る江原道の挑戦に対抗するための広報キャンペーンを開始した。元議員で現在釜山市長を務めるソ・ビョンスは、理想的な港湾都市として釜山をアピールするためのセミナーを開催した。地元選出議員や他の有力な政治家も、海洋水産部の関心が江原道に向けられるのを警戒し、働きかけを強めている。ハブ港を巡る競争は、蔚山広域市や慶尚北道を含む、他のマイナーな港湾都市や沿岸地域も加わり、益々過熱している。

(3) 韓国極地研究所のキム・ジンソク上級研究員は、NSRが実用化した場合、スエズ運河を経由する伝統的なルートより貨物船の燃料を大幅に節約することが可能になると指摘し、「北極海の海氷が溶ければ、より短い貿易ルートが生まれる。しかしながら、流氷などのリスクがあるため、新たな貿易ルートの常用化までにはまだ時間が掛かるであろう」と見ている。通常、貨物船が釜山からスエズ運河を経由してロッテルダムに到着するには40日がかかる。この間の距離は約2万1,000キロである。ロシアを通過する新たなルート、NSRが実用化されれば、航海距離は1万2,700キロに短縮され、所要日数は30日程度になる。但し、NSRでの貨物船の運航が可能になっても、航行可能期間は年間、4カ月間にとどまる。NSRは、2007年に初めて海氷のない夏を迎えた。その後、2010年には4隻の貨物船が、2011年には34隻、2012年には46隻、そして2013年には71隻の船舶が航行した。砕氷船によるエスコート費用として40万ドルが追加されるため、一部のアナリストは、NSRの経済的メリットについて懐疑的である。中には、北極海時代の経済的な利益に期待し、多大な投資を行っているロシアが砕氷船によるエスコート費用を値上げするかもしれない、と懸念する向きもある。キム研究員は、NSRによる航行距離の短縮は、非北極圏国家である韓国が北極海に関心を寄せる要因の1つであり、加えて、北極海域の豊かな天然資源や漁業資源も韓国企業にとってビジネスチャンスを創出する可能性がある、と指摘している。

(4) 韓国は北極海に対する主権的権利を持っていないが、北極海における石油・天然ガスの開発プロジェクトに高い科学技術能力を有する韓国企業が協力する可能性がある。北極海沿岸諸国がこれらの天然資源を開発するためには、高い科学的研究能力を持つ信頼できるパートナーが必要になる。韓国極地研究所の研究者らは、近年、北極海に関心を高めてきた。キム研究員は、韓国は他の国に比べて、新型研究砕氷船、RV Araonを保有していることで優位に立っていると見ている。2009年に就役した排水量7,000トンの該船は、世界的に注目を集めた。この新型砕氷船の建造は、韓国の北極海研究に大きな進歩をもたらした。 砕氷船が建造される前には、北極研究に長い歴史を持つ国家に対して、韓国の方から共同研究への参加を求めてきた。キム研究員によれば、RV Araonの就役以降は、世界のトップクラスの研究機関や研究者の方から、自主的な協力へのプロポーザルが届いているという。

記事参照:
Melting Arctic ice thrills port cities

10月9日「北極圏、将来の国際政治の中心舞台に―米エネルギー問題専門家論評」(The Energy Collective.com, October 9, 2014)

アメリカのエネルギー問題専門家、Roman Kilisekは、多くの場合、国際政治の焦点は個々の国家の経済成長を維持するための資源争奪という文脈からエネルギー安全保障を中心に展開する傾向があるとして、天然資源の豊富な北極圏が将来の国際政治の中心舞台になると見、要旨以下のように論じている。

(1) 9月30日に米シンクタンク、戦略国際問題研究センター (CSIS) が開催した、「北極評議会のトーチを引き継ぐ (“Passing the Arctic Council Torch”)」*と題したセミナーで、アメリカの北極担当特別代表、パップ提督(元沿岸警備隊司令官)は、北極海で可能な地域モデルとして、「地域毎の海洋協定 (“regional seas agreements”)」に言及した。このことは、米政府が水面下と上空を含め国際海峡の通航に関して長い間堅持してきた立場を変える意思がないことを示している。即ち、このことは、世界中における海洋の自由を規制しようとする当該沿岸各国の動きに対抗していくことを意味する。北極海に対するアメリカの姿勢は、北西航路を国内法により内水航路として扱うカナダを念頭に置いており、マラッカ海峡やホルムズ海峡といった、アメリカの安全保障にとって死活的な国際海峡にとって北西航路が先例となりかねないことを懸念している。更に、パップ提督の言う「地域毎の海洋協定」という表現は、基本的には当該地域毎のアプローチによって、海洋油汚染防止などの環境問題、捜索救難及び一般的な緊急事態対応などについて、地域毎の効果的な協力の機会を拡大しようとする構想である。国連環境計画 (UNEP) が指摘するように、「それぞれの地域の海洋は特有の環境問題があり、それに適した対処方法を必要としており、従って、地域毎の協定はより総合的な参加国の利益とコミットメントを反映することができる。」

(2) アメリカは、2015年5月から2017年5月まで北極評議会の議長を務める。前出のセミナーで、パップ提督は、気候変動対処をアメリカの北極政策の優先課題とすべきとして、「手遅れになる前に、気候変動の影響に対処することが重要である」と主張した。気候変動を優先課題とすることは、現議長国、カナダの下で進められてきたテーマ、「北極圏の人々のための開発 (“Development for the People of the North”)」とは異なる。北極圏の温暖化は誰もが否定できない現実であり、毎年夏季の海氷面積は大幅に減少しており、このような傾向はこの10年間加速されてき手織り、温暖化と海氷面積の減少は今後も継続するとみられている。このことは、新しい航路の実用化と天然資源の開発がもたらす経済的な機会の到来を意味する。従って、アメリカにとって、生態系の変化に敏感な地域における人間活動のリスクを環境問題との関連を認識し、対処していくことは、大いに意義がある。前出のCSISのセミナーで、カナダのブリティッシュコロンビア大学のMichael Byers教授は、「北極圏における気候変動の異常なペースとロシアを含む地政学的動向を考えれば、北極圏は国際外交の最前線となり、中心舞台となろう」と指摘した。クリントン元米国務長官も、3月のモントリオールでの講演で、北極圏に対するロシアの積極的な取り組みに警戒心を示し、北極海で最も長い海岸線を有するロシアが北極圏の天然資源の開発に積極的に取り組んでおり、カナダはアメリカと協力してロシアの行動に対応していく必要がある、と主張した。クリントン元長官が2016年の米大統領選挙に出馬する可能性を考えれば、こうした主張は、アメリカの北極評議会議長国としての采配に影響を与える可能性がある。

記事参照:
Why is the Arctic at the Center of World Politics?
備考*:Video: “Passing the Arctic Council Torch

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子