海洋情報旬報 2014年11月11日~20日

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11月11日「中国海軍対潜型コルベット、就役」(US Naval Institute News, November 12, 2014)

Jane’s Defence Weeklyが11月11日付の中国紙の報道として伝えるところによれば、中国海軍は、新型コルベット、「株洲」を就役させた。同艦は、Type-56江島級コルベットの18番艦で、初めての対潜型である。U.S. Naval Instituteの専門家は、対潜戦 (ASW) 能力はこれまで中国海軍の弱点と見られており、「『株洲』の就役はこのギャップを埋める試みの1つと見られる」と指摘している。中国海軍によるASW能力の強化は、近年における近隣諸国の潜水艦戦力の強化によって動機付けられている側面もある。例えば、ベトナムは2013年にロシアから購入した6隻のKilo級潜水艦の1番艦を受領し、日本の海上自衛隊は世界でも最新鋭の通常型潜水艦の1つとされる、「そうりゅう」級1番艦を就役させている。Jane’s Defence Weeklyは、「ベトナムによる6隻のKilo級潜水艦の取得は、北京をして、自国の管轄海域と考える海域への潜水艦の進入に対して南海艦隊が確実に対処できるようにするための対応措置を急がせることになったかもしれない」と指摘している。

記事参照:
China Commissions New Sub Hunting Corvette
Photo: Chinese Jiangdao-class corvette

11月13日「プーチン大統領の北極圏計画、後れをとるアメリカ―米アラスカ州副知事」(CQ Roll Call.com, November 13, 2014)

米アラスカ州副知事、Mead Treadwellは、11月13日付の米議会紙(電子版)に寄稿した論説で、プーチン大統領のロシアは北極圏において活発な活動をしているのに対して、アメリカは、自らも北極圏の一員であるにもかかわらず、新たなエネルギー資源の開発、領有権主張そして北極航路の活用といった面で後れをとっているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 北極圏での石油開発:ロシア経済を推進する石油資源を発見するための北西シベリア及び極東ロシアにおけるプーチン大統領の計画は国際的投資を吸い寄せており、開発はすごいスピードで前進している。アラスカ沖の石油資源には大きな期待が寄せられているが、連邦議会が新しい規則を作り、自然保護団体が法廷闘争をしている間、手付かずのままの状態に置かれている。

(2) 北極航路の活用:砕氷船の保有と北方航路がロシアの内水の内にあるとするロシアの根拠不明の主張にどの国も異を唱えないために、ロシアは、アジアと欧州を結ぶ北極海航路の最初の市場を手中にし、砕氷船の先導付きの航海に1回につき数万ドルの通航料を徴収している。連邦議会からの突き上げにもかかわらず、アメリカは、北極海における商業航行を促進する計画を持っていないし、また環境保護のために必要な砕氷船も設計段階にさえ至っていない。

(3) 北極海における領有権主張:ロシアは、北極海の海底面積の45%を占め、北極点に達するまでの海域に対して領有権を主張している。アメリカは、領有権申請の準備をしているが、上院が国連海洋法条約 (UNCLOS) の加盟承認を先延ばしにしているために、領有権申請のための法的手段を見出せないでいる。ロシアの新たな領有権申請が承認されれば、気候変動や海洋生物の多様性を研究する各国の研究者は、ロシアの海域から閉め出される可能性がある。

(4) ロシアは北極圏の活動において先行している。しかも、対ロ制裁措置にもかかわらず、カラ海のロシア海域における最近の石油資源の発見によって、ロシアが世界で最大の石油埋蔵量を有する国の一つになるかもしれない。その埋蔵量は、メキシコ湾よりも潜在的に大きいといわれる。一方、アメリカでは、北極圏における開発努力は、お役所仕事や法的な問題などで停滞している。アラスカ沖には270億バレルの石油資源と132兆平方フィートの天然ガス資源が埋蔵されていると見積もられている。これらの90%以上はアラスカ北部のチュクチ海とボーフォート海にあるが、そこでの掘削作業は留保されている。 

(5) 幸いなことに、こうした状況は比較的容易に改善することができる。

a.第1に、経済安全保障と国家安全保障のために、オバマ大統領と新議会は、アメリカが2015年夏には北極海の沖合開発を推進できるようにすべきである。北極海開発は、民主・共和両党が党派的対立を超越して、アメリカに経済的機会をもたらすとともに、アメリカが世界のエネルギー開発におけるリーダーであり続けることを確実にする機会となるのである。

b.第2に、アメリカは、今後何年間にも亘って北極海におけるエネルギー資源開発の在り方を決める北極海に関する法的規制を進めようとしているが、連邦議会議員は、単に規制強化を目指すのではなく、北極海で操業する企業が安全な技術革新に意欲を持てるような規制を目指すのが賢明であろう。チュクチ海には世界で最大の手付かずの石油資源と天然ガス資源が埋蔵されていると推測されている。関係企業は、これまで数億ドルの資金を緊急事態計画とその対処技術に投資してきている。科学は、我々が北極海において安全に掘削できることを示している。

c.第3に、アメリカが北極海で大規模な石油資源を発見すれば、ロシアに追い付くための2つの決定が可能になるであろう。それらは、石油生産に必要な安全対策としての新たな砕氷船の建造、そしてアラスカ北西部における新たな港湾建設を含むインフラの整備である。当然、こうした発見は、沖合におけるエネルギー資源確保のための領有権申請のために、上院におけるUNCLOS加盟論議を余儀なくさせるであろう。

(6) 北極海開発におけるアメリカの後れは、世界のエネルギー開発のリーダーとしてのアメリカの座を脅かすことになろう。今日の後れは、米経済の将来にとって大きなマイナス要因となろう。先行するロシアに追い付くためには、アメリカが北極評議会の議長国となる2015年以上の好機はない。

記事参照:
Putin’s Arctic Plans Spring Ahead While America Lags Behind | Commentary

11月13日「インドネシア海洋ドクトリン、ウィドド大統領」(The Jakarta Post, November 13 2014)

インドネシアのウィドド大統領は11月13日、ミャンマーの首都ネーピードーでの東アジア首脳会議で演説し、インドネシアの海洋ドクトリンについて、以下の5つの柱を挙げた。

(1) インドネシアの海洋文化の再建:インドネシアは、1万7,000の島嶼からなる群島国家として、海洋が民族のアイデンティティの一部であることを自覚すべきであり、国家の繁栄と将来は我々が海洋を如何に管理するかによって左右されよう。

(2) 漁業の発展を通じて、海洋食糧資源に対する主権的権利を確立し、海洋資源の管理と維持保全に努める。

(3) ジャワ島沿岸域に沿って海洋ハイウェーを設定し、深水港と物流ネットワークを建設するとともに、海運業と海洋観光事業を発展させ、海洋インフラの開発とそれらの連結を重視する。

(4) 海洋分野における協力を促進するとともに、不法操業、主権的権利の侵害、領有権紛争、海賊、海洋汚染といった、海洋における紛争要因を除去するよう、海洋外交を通じて他の諸国に働きかける。

(5) 海洋防衛戦力を整備していかなければならない。これは、海洋主権と海洋資源を防衛するためばかりでなく、船舶航行の安全と海洋治安を維持する我々の責任を果たす上でも必要である。

記事参照:
Jokowi launches maritime doctrine to the world

11月14日「北極圏の資源開発における中露協力」(Barents Observer, November 14, 2014)

(1) ロシア政府は中国との包括的パートナーシップの構築に力を注いているが、北極圏はその中心的な役割を果たしている。11月上旬にロシアのガスプロムと中国の石油天然気集団公司 (CNPC) の間で仮契約が締結された、ロシアのアルタイ地方を経由して中国新疆省に至るパイプラインは、年間300億立米のヤマル半島の天然ガスを中国に供給することになろう。この西側ルートは、中国北東部に天然ガスを供給する東側ルートを補完することになろう。この2つのプロジェクトによって、中国は合計680億立米の天然ガスを確保することができる。

(2) ロシアのガスプロムとロスネフチは、欧米の経済制裁に最も苦しめられている企業である。この2つのロシア国営企業は、西側の資金と技術なしでは北極海における野心的な資源探査と掘削プロジェクトを推進することが困難である。このような状況の中、中国との協力はこれら2社にとって一定の救済措置となる可能性がある。中国海洋石油総公司 (CNOOP) が参加する可能性があるガスプロムのプロジェクトは、ペチョラ海におけるDolginskoyeプロジェクトとその近くのPrirazlomnoyeプロジェクトとなろう。後者は既に生産を開始しているが、前者は2020年以前の操業開始を計画している。ロスネフチもバレンツ海とペチョラ海において中国企業と協力しており、Zapadno-Prinovozemelsky、Yuzhno-Russky及びMedynsko-Varandeyskyの開発についてCNPCとの契約を締結したと見られる。中国はまた、ロシアの独立系天然ガス企業、NOVATEKとの協力を拡大する用意があると報じられており、ヤマルLNGプロジェクトにおける株式シェアを増大させると見られる。CNPCは既に、同プロジェクトの20%の株式を保有している。更に、中国企業は、カラ海に接するギダン半島で計画されているNOVATEKの北極海LNG1、LNG2及びLNG3の開発への参加に関心を示しているといわれる。

記事参照:
In Russia-China alliance, an Arctic dimension

11月15日「世界の海洋秩序と中国―エコノミスト誌論評」(The Economist, November 15, 2014)

英誌、The Economist(電子版)は、11月15日付の、“Maritime power; Your rules or mine?”と題する長文の論説を掲載し、要旨以下のように述べている。

(1) 貿易は海洋の秩序に依存するが、それを維持することは決して容易ではない。中国旗を掲げた中国名の巨大なコンテナ船がサンフランシスコの金門橋の下を進んでオークランド港に入るのは、見慣れた光景である。中国は太平洋国家であるが、それは海軍力というよりもむしろコマーシャルパワーとしての存在である。America’s Centre for Naval Analysesの統計によれば、中国は今や世界最大の造船国であり、世界第3位の商船隊を持っており、世界最大の自国籍船保有国である。その上、69万5,000隻余の強力な漁船団も保有している。また、中国は世界のコンテナ貿易のほぼ4分の1を占めており、世界の海洋を運搬されるコンテナの中身はほとんど中国製商品である。太平洋を跨ぐ通商貿易の安全は、アメリカの賜物である。中国は、米太平洋艦隊により提供される保護に「ただ乗り」しており、アメリカの海洋秩序維持活動から利益を得ている。

(2) しかしながら、西太平洋において、中国は、アメリカの同盟諸国に対して挑発的な行動に及び、国際海洋関連法規の限界を試そうとしてきた。Henry Kissingerは、近著、“World Order” (2014) で、中国はアメリカの海洋秩序維持活動を必ずしも規則とは見ておらず、「上級指導者を含む多くの中国人は、国際的なシステムにおける『ゲームの規則』を遵守するとともに『責任』を果たすよう求められると、中国はそのような国際システムの構築に参画していなかったので遵守する義務はないと考えているようだ」と指摘している。また、シンガポール外務省高官のKausikanは、全ての中国人は1949年以前に被った西欧諸国と日本による100年に及ぶ侵略を意識しており、「中国がその構築に全く発言権を持たなかった地域的な、そしてグローバルな秩序において、中国に『責任あるステークホルダー』として振る舞うことを期待するのは決して現実的ではない」と述べている。中国は、特に近隣諸国に対して挑戦的で、第2次大戦以降、海洋の安全を維持してきた、規則や規範を無視している。例えば、中国は2002年に、南シナ海における領有権紛争を平和的に解決するとともに、1982年の国連海洋法条約 (UNCLOS) などの国際法規の遵守を約束して、ASEANとの行動宣言 (DOC) に調印した。それにもかかわらず、中国は、南シナ海の島嶼の領有権を巡ってベトナムやフィリピンなどのASEAN諸国と、そして日本とは尖閣諸島を巡って、激しく対立している。フィリピンが3月に国連仲裁裁判所に領有権問題を提訴した時、中国は仲裁受け入れを拒否した。

(3) また、中国は米海軍艦艇や空軍機による自国のEEZ内で活動を阻止しようとしてきたが、アメリカとその同盟国の多くはこれをUNCLOS違反と見なしている。このEEZ内での活動を巡る対立は、米海軍によって長年支えられてきた太平洋全域のシーレーンの安全に重大な意味を持つ。2014年初めに公刊された、“South China Sea: The Struggle for Power in Asia” で、著者のBill Haytonは、「ある国の艦艇が他国のEEZ内で何ができるかという法的議論は、米中関係を紛争の瀬戸際に追い込んだ。それは、『グローバル・コモンズ』への自由なアクセスを求めるアメリカと、安全保障を追求する中国との戦いである。そして、それは、アジアの将来を決定する闘争でもある」と指摘している。南シナ海は、その闘争が最も顕著に見られる戦域である。Haytonによれば、南シナ海はそれ自体、争いにおける規則を生み出す上で歴史的な役割を果たした。オランダの東インド会社は1603年に、マラッカ海峡の近くで生糸と金塊を積んだポルトガル船を押収し、そしてこの行為を正当化するためにオランダ人法律家、Hugo Grotiusを雇った。Grotiusは、“Mare Librium”(『自由の海』)というラテン語の本を書いて、海は国際的な領域であり、全ての者に解放されなければならない、と主張した。次の数世紀間、この理念はグローバル・パワーによって利用され、彼らの商船がしばしば砲艦を伴って好きな海域を航行することを正当化する口実としてきた。この理念に基づくUNCLOSは、EEZの概念を導入したが、海岸から12カイリまでの領海外における航行の自由と上空飛行の自由を認めた。皮肉にも、中国はUNCLOSに加盟しており、アメリカは、海軍がUNCLOSに準拠して行動しているものの、上院が加盟を拒否している。しかし、中国の解釈(そして、例えばインドやブラジルなどの少数の国も同じだが)は、他の多くの国の解釈とは異なっている。これらの国は、他国の海軍艦艇が自国のEEZ内に入る前に事前許可を要求している。もし中国が自国の解釈を強要しようとすれば、リスクが高まるであろう。Robert Haddickは、著書、“Fire on the Water: China, America and the Future of the Pacific”(2014年)で、中国による解釈の強要は「マラッカ海峡から日本までの全ての海域」から外国の軍艦を排除することを意味する、と書いている。そうなれば、例え中国がこの海域を商業船舶に解放しておいたとしても、全体的な海洋安全保障は危険に晒されることになろう。その場合、アメリカは、報復行動を余儀なくさせられるかもしれない。多くの安全保障専門家は、少なくとも今のところ中国がアメリカにこのような対決を迫るとは考えていないようだが、これはアラーミングなシナリオである。彼ら専門家は、南シナ海の島嶼を巡る紛争において、中国がアメリカの盟友に対して報復が難しい小規模な諍いを仕掛けることで、これら盟友に対するアメリカのコミットメントの信憑性を試している、と指摘している。そして、その過程で、中国は、自らの隣接海域で着々と「既成事実」を積み上げているのである。シンガポールのS.ラジャラトナム国際学院のEuan Grahamは、こうした既成事実の積み重ねによって、最終的には、中国は自国のEEZを沿岸域からの強固な緩衝海域にすることができるであろう、と語っている。更に、Grahamは、1840年代から1850年年代における英国の阿片戦争のような屈辱の歴史が、中国をして海の脅威に対して特に敏感にさせている、と指摘している。

(4) 中国が主張する「9段線」は、事実上南シナ海のほぼ全域に及ぶ。前出のHaddickは、中国が南シナ海における領有権主張を徐々に強固にしていく過程を「サラミ・スライシング (“salami-slicing”)」戦術と呼び、「1つ1つが紛争の引き金にはならない小さな変更をゆっくりと積み重ねていくことで、時間の経過とともに大きな戦略的変更になる」と指摘している。そして中国当局者が言う「キャベツ戦略 (“cabbage strategy”)」の下、中国が占拠した島嶼は、中国の漁船、次いで沿岸警備隊巡視船そして最後に海軍艦艇によって構成される連結した防御網によって、「キャベツ」のように取り囲まれる。中国は、領有権紛争に軍事力を直接投入することは稀で、海洋法令執行機関を多用しているが、「海洋法令執行機関の存在そのものが、既に中国が当該領域に管轄権を有していると考えている証左といえる」と、シンガポールのThe Institute of South-East Asian StudiesのIan Storeyは指摘している。こうした中国の戦術に対して、どの紛争当事国も軍事行動に訴えることが難しくなっている。

(5) 中国にとって海洋大国を目指す上で最大の問題は、中国が沿岸域をはるかに超えた遠隔の海洋に何処までそのプレゼンスを投射することを望んでいるのかということである。前出、シンガポール外務省のKausikanは、中国がこれまで恩恵を被ってきた海洋システムを支えていくようになるのか、それとも「グローバル・フリーライダー (a “global free-rider”)」であり続けるのか、と問うている。これこそが、世界の海洋において次第に大きく立ちはだかってきている疑問である。アメリカがシェール革命によって中東石油への依存を減らすにつれて、中国は、どの国にとっても恩恵を及ぼす、インド洋と太平洋を跨ぐシーレーンを保護するために尽力するであろうか。

記事参照:
Maritime power; Your rules or mine?

11月17日「カナダ・ハーパー政権の北極圏政策、レトリック先行」(Geopoliticalmonitor.com, November 17, 2014)

カナダのWebサイト、Geopoliticalmonitor.comは、“Canada Falling Short on Arctic Sovereignty”と題する11月17日付の論説で、ハーパー政権の北極政策について、要旨以下のように論じている。

(1) 16万2,000キロの北極圏海岸線を持つカナダにとって、北極圏を巡る世界的関心の増大は、カナダの戦略的利益にとって重大な懸念事項であることは間違いない。ハーパー政権は、カナダの北極圏における主権擁護を強調してきた。カナダ政府は2009年に、Canada’s Northern Strategyを公表し、4つの優先分野―主権の行使、社会・経済発展の促進、環境の保全、そして統治の改善と発展―を示した。2010年には、Statement on Canada’s Foreign Arctic Policyを公表し、そこでは北極圏に対する主権の行使が政府の最優先事項とされ、「カナダは、北極圏における主権、主権的権利及び管轄権を最大限行使することを誓約する」と宣言した。伝統的な主権概念は、外部の干渉を排除する国家の能力に依拠している。北極圏における主権行使に当たって、カナダは、北方領域を陸、海、空から効果的にモニターでき、かつ効果的な統治権限を行使できなければならない。そのために、連邦政府は、北極圏における主権行使のための幾つかの措置をとってきた。例えば、9月に、カナダのジェット戦闘機は、カナダの北極圏沿岸沖75キロにまで接近した2機のロシアのジェット機を退去させた。また、カナダ軍は、北極圏での年次演習を実施しており、北米航空宇宙防衛司令部 (NORAD) の北方演習にも参加している。国防省は北極圏における監視任務のためにRADARSAT II衛星をアップグレードし、カナダ宇宙局は北極通信気象衛星を2015年に打ち上げる予定である。更に最近、連邦政府は、陸軍のトレーニング・センターをヌナブト準州のレゾリュート湾に開設した。

(2) しかしながら、こうした措置は、ロシアが実施してきた北極圏での大規模な軍事力増強に比べれば、色あせて見える。ロシアは、北極圏に軍隊を恒常的に配置し、ソ連時代からの施設を近代化するともに、多くの新しい軍事施設を建設している。北極圏で隣接する2つの国の軍事的措置の差違は、1つには両国の常備軍と防衛費の相対的な規模の差に起因している。ハーパー政権が北極圏政策において前政権より多くの成果を上げていることは事実だが、公表された政府の宣言政策から見れば、現実よりもレトリック先行と言わざるを得ない。例えば、ハーパー政権がレゾリュート湾でトレーニング・センターの開設を発表した時、原案では長い舗装された滑走路、航空機ハンガーと燃料備蓄施設が整備されることになっていた。しかしながら、完成したのは、軍人よりも単に科学者を収容するのに用いられる小さな宿舎だけであった。

(3) カナダの砕氷船隊もそうである。砕氷船隊は、質量とも大きく不足している。砕氷船隊は北極圏の海岸線をパトロールし、調査研究活動を行い、そして捜索・救難活動を行うために必要であり、こうした行為は全て、主権を行使する機能である。現在の砕氷船隊は、2隻の大型砕氷船、4隻の中型砕氷船、9隻の多目的船及び2隻のホバークラフトから構成されている。最も強力な砕氷船、CCGS Louis S. St-Laurentは、1969年以来の現役砕氷船である。該船は2017年に除籍し、新造のCCGS John G. Diefenbakerに更新される計画であった。しかしながら、該船の建造が2021年から2022年までに遅れたため、CCGS Louis S. St-Laurentはそれまで現役に留まることになっている。他方、ロシアは、6隻の原子力砕氷船を含む38隻の砕氷船を保有しており、これは他の全ての北極圏諸国の保有隻数より2倍以上の隻数である。ロシアは現在、7隻目の原子力砕氷船を建造しており、この船は現在の世界最大の砕氷船より14メートル長く、最大3メートルの砕氷能力を有する。

(4) カナダが国際的な認知を得て主権を行使しようとしているもう1つの分野は、大陸棚外縁の延伸申請である。200カイリのEEZを超えて大陸棚の外縁延伸が認められれば、北極海の海底にあると見られる天然資源を考えれば、カナダの大陸棚がもたらす経済的効果は巨大なものとなろう。カナダは2013年12月に、国連大陸棚限界委員会 (CLCS) に対して部分申請を提出した。この申請は10年かけて作成され、カナダの大陸棚は120万平方キロに及ぶと主張するものであった。しかしながら、申請数日後に、カナダの外相は、十分な科学的根拠が欠如しているにも関わらず、カナダは北極点を含む海域にまで大陸棚外縁の延長を申請する、と発表した。この発表は科学的プロセスを無視し、国際的な法的手続きよりも国内受けを狙ったものであり、ハーパー政権の北極圏政策は、再び騒々しく横暴なレトリックが先行したことになる。

記事参照:
Canada Falling Short on Arctic Sovereignty

11月17日「南シナ海におけるインドの存在感を高める時―インド人専門家論評」(RSIS Commentaries, November 17, 2014)

インドのObserver Research FoundationのDarshana M. Baruah特別研究員は、11月17日付のRSIS Commentariesに、“South China Sea: Time for India To Mark Its Presence”と題する論説を寄稿し、インドは東アジアの安全保障の担い手としての存在感を強めるべきとして、要旨以下のように述べている。

(1) 南シナ海における緊張が増大するにつれて、ベトナムやフィリピンといった国家は、西太平洋における自国の権益を強化し、維持するために、域外の大国に益々目を向けるようになっている。特にハノイは、インドとベトナムとの防衛協力関係を強化することで、経済的あるいは戦略的な理由からこの地域におけるインドの存在に期待している。しかしながら、インドはこれまで、ASEANの友好国からの期待に応えられなかった。インドは如何なる「中国包囲網」戦略と見られるものからも距離を置いてきたが、最近のニューデリーは、より積極的にASEANの友好国の声に耳を傾けようとしている。最近のミャンマーでの第9回東アジア首脳会議や第12回インド・ASEAN首脳会議におけるモディ首相の存在感は、インドが地域の安全保障問題に積極的に関わっていくという意欲を他国に示すものとなった。

(2) モディ首相の政権は、海洋安全保障におけるインドの関心を改め、インド太平洋地域において変化しつつある安全保障機構の形成に参画する必要性を認識している。インドは、防衛関係を強化するために、オーストラリア、日本、シンガポール及びベトナムといった、この地域の各国海軍との海洋パートナーシップの強化を図ることに注力している。10月にベトナムのグエン・タン・ズン首相が訪印した際、インドは1億ドルの借款を供与したが、ハノイはこの借款でインドから海軍艦艇を購入する計画である。ニューデリーはまた、海洋戦略を特に重視しているインドネシアのウィドド大統領とも連携を強化していく必要がある。モディ首相の最初の外国訪問先の1つが日本であったが、日本はインド太平洋地域において重要なプレーヤーであり、中国との潜在的な危険性を孕む紛争を抱えている。同首相が9月に訪日した際の東京宣言には、「米印間のMalabar演習への日本の継続的な参加といった、日印2国間の海上演習の定期的な実施」などが含まれている。更に、9月のモディ首相の訪米の際の米印共同声明は、ワシントンとの共同声明においてインドが初めて南シナ海における紛争解決に直接的に言及したことで、重要な意義を持つものであった。同声明は、「両国首脳は、海洋における領有権紛争を巡って激化する緊張状態に懸念を示し、特に南シナ海における海洋の安全を維持し、航行の自由と上空通過の自由を確保することの重要性を確認した」としている。また同声明は、全ての関係当事国に対して、国際法規に準拠した紛争の平和的解決を呼びかけた。そしてズン首相の訪印の際の共同声明でも、南シナ海問題に言及された。同声明は、南シナ海における航行の自由と、全ての紛争当事国に対して法的拘束力を持つ行動規範 (COC) の実現に向けて努力することを求めた。インドがこうした共同声明において繰り返し南シナ海問題に言及しているということは、以前の海洋安全保障政策からの明確な転換を示している。これまでニューデリーは、航行の自由と海洋安全保障の必要性には言及していたが、紛争当事国や地域については名指することはなかった。こうした最近の動向を踏まえて、モディ首相は、ミャンマーでの会議で、南シナ海の安定化の必要性を強調した。モディ首相の発言は、ニューデリーがこの地域の安全保障における指導的役割を担う必要性が一層高まっているとの認識を反映している。インドは漸く、この地域における安全保障の担い手としてより大きな役割を負う政治的意欲を見せたのである。ベトナムとの共同声明は、東南アジアにおけるインドの緊密な友好国の1つであり、中国との激しい紛争に直面しているベトナムに対する再保証であった。モディ首相は、ミャンマーでフィリピンや日本の指導者とも会談している。両国はそれぞれ、南シナ海と東シナ海において中国との紛争を抱えており、インドは、地域の安全保障に対してより積極的な役割を演じるという強い政治的シグナルを送ったのである。

(3) 中国は、こうしたインドの活動を最も警戒している。何故なら、中国は、紛争海域に関する問題の国際化に反対し、第3国が干渉してくることに対して常に警告してきたからである。中国は、全ての紛争問題は、当事国である2国間で解決されるべきであり、第3国や国際機関などの介入や仲介は必要ないという立場をとっている。東南アジアと東アジアに対するニューデリーの関心が次第に高まっていることは、明確である。インドは、域内各国と経済、防衛の両面での協力関係の強化を模索している。インドの「ルック・イースト政策」は、“Act East” として弾みをつけてきている。これまでインドは、中国を刺激するまいとして、アジアにおいて役割を担うことに消極的であった。しかし、変わりゆく地域の安全保障環境とインド洋における中国のプレゼンスの拡大という現実を受けて、インドは、「中国に対する畏怖 (‘timidity of China’)」から一歩踏み出し、地域における主要パートナー国との協力関係を前進させるべきである。とはいえ、ニューデリーが如何なる中国包囲網政策にも関わっていないこと、そしてその必要もないということは、重要な点である。要するに、インドは、東南アジアにおける友好国に対する再保証として十分な程度の関心を声高に発言することである。そうすることで、インドは、この地域が必要としている、安全保障の担い手としての役割を果たす準備を徐々に整えていくことができよう。

記事参照:
South China Sea: Time for India To Mark Its Presence
RSIS Commentaries、November 17, 2014

11月18日「ロシア海軍の最近の世界的展開、国際法に合致―米専門家論評」(CNN.com, November 18, 2014)

米海軍大学の国際法担当教授、James Kraskaは、CNNのブログで、最近のロシア海軍がグローバル・コモンズの海、空領域において目立った活動を展開していることについて、西側がこれを懸念すべきかどうかについて、要旨以下のように論じている。

(1) 全ての国は、グローバル・コモンズにおける航行の自由と上空飛行の自由の権利を持っている。従って、グローバル・コモンズにおける活動は、国際法の侵犯というよりむしろ大国の戦域行動と見るべきである。このことはまた、アメリカと、その主導する世界秩序を欧州とアジアにおいてひっくり返すことに執着している失地回復論者であるロシアと中国との3極構造の中に、今我々が住んでいることを証明することでもある。

(2) ロシアは、そうした動きの一環として、国家の正当性と力の及ぶ範囲を誇示するために海軍力を活用しつつある。実際、ロシアは11月に、カリブ海とメキシコ湾に海軍力を進出させることを明らかにした。この発表は、6月に2機のロシアの戦略爆撃機がカリフォルニア沖50カイリまで接近した事案に続くものであった。シリア内戦が勃発して以来、ロシアは、シリアの前方展開拠点、タルトゥース基地に少なくとも軍艦4隻、情報収集艦及び工作艦を各1隻増派した。これら艦艇は新設の常設地中海機動部隊の一部を構成する。更に興味深いのは、11月中旬にオーストラリアのブリスベーンで行われたG20首脳会議の期間中、ロシアの巡洋艦、Varyagを旗艦とする4隻の戦隊がオーストラリアの北東沖に進出したことである。HMAS Parramattaを旗艦とする3隻のオーストラリア海軍戦闘艦と哨戒機がロシア戦隊を追尾したが、ロシアは、この戦隊は「南極で気候変動調査を実施しなければならなくなった場合」に備え、滞洋能力の検証を行っており、そしてもし必要になった場合には首脳会議に出席しているプーチン大統領を防護することもできる、と説明した。こうした海軍の活動は、北極海と太平洋におけるロシアの海、空軍の行動を補完するものである。15年の中断の後、ロシアは、2007年に北極圏における長距離の哨戒飛行と戦略爆撃機の飛行を再開した。これらのフライトは、カナダを悩ませ、スカンジナビア諸国に懸念を与えたが、それにもましてNATOとフィンランド、スウェーデン両国との結びつきを強固することになった。また、報道によれば、ロシアの戦略偵察機は年に100回以上、日本周辺を飛行しており、時には沖縄から北海道までの全行程を飛行している。これらの飛行に自衛隊は神経を尖らせており、自衛隊はロシア機を阻止するために航空機を発進させている。

(3) こうしたロシアの海軍や空軍による活動はいずれの場合も、クレムリン外交の先兵の役割を果たしている。それぞれの活動には共通の狙いがある。

a.第1に、ロシアは、海軍の戦力組成に対する過去の投資の成果を取り込みつつあるということである。ロシアは、2013年に36隻の新造艦艇を戦列に加えたと報じられており、これによってロシア海軍は冷戦期の世界規模の行動を再現できるようになった。ロシアの視点に立てば、こうした部隊の展開活動は正常な状態への復帰ということになる。

b.第2に、こうした部隊展開は、ロシアが如何なる地域に対しても戦力投射能力を持つグローバル国家であることを、世界に認知させるよう企図されている。人口が今後数十年間に逓減し、そしてその経済が下落傾向の石油と天然ガス市場に一元的に依存している状況の中で、ロシアは、必死になってかつての栄光を再び手に入れようとしているのである。

c.第3に、ロシアのウクライナ侵攻が武力による介入を禁止した国連憲章の核心に反する行為であるのと対照的に、ロシア海軍、空軍の世界的な展開活動は、完全に国際法、特に国連海洋法条約 (UNCLOS) と合致したものであるということである。UNCLOSに規定された航行の規則は、慣習国際法を反映したものであり、全ての国を拘束する。軍艦、潜水艦及び軍用機を含む、全ての国の船舶と航空機は、沿岸国の領海である距岸12カイリ以遠の公海における航行と上空飛行の自由を享受できると規定されている。こうした行動における唯一の規制は、国連憲章の下で「平和的」なものでなければならないということだけである。国連憲章は、違法に軍事力を行使したり、行使すると脅したりすることを禁じている。12カイリ以内の領海では、船舶は、国連憲章よりも厳しい規則である無害通航を求められる。しかしながら、無害通行権は航空機には認められていない。

(4) 要するに、ロシアの空軍、海軍による行動の増加は、公海及び国際空域を妨げられずに使用できるという権利を全ての国に認めている、グローバル・コモンズにおける航行の自由と上空飛行の自由の原則を想起させるものである。

記事参照:
Should West be worried by Russia naval moves?

1118日「世界最大のコンテナ船、命名式」(MarineLog.com, November 18, 2014)

1万9,000TEUの世界最大のコンテナ船の命名式が11月18日、韓国の現代重工 (HHI) で行われた。このコンテナ船は、中国の中海集装箱運輸 (CSCL) が2013年5月に5隻発注した内の最初の船で、CSCL Globe と命名された。MV CSCL Globe は、全長400メートル、全幅58.6メートル、深さ30.5メートル、サッカー・フィールドの4面の大きさで、CSCLに引き渡された後、アジア・欧州航路に投入される。HHIは、2010年に世界で初めて1万TEUのコンテナ船を建造して以来、82隻のコンテナ船を建造しており、1万TEU以上のコンテナ船建造隻数では世界最大である。

記事参照:
HHI to deliver world’s largest containership
Photo: MV CSCL Globe on sea trials

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子