海洋情報旬報 2014年12月21日~31日

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12月22日「中国、尖閣諸島に近い浙江省の島に軍事拠点整備」(The Japan Times, Kyodo & Bloomberg, December 22, 2014)

複数の中国筋によれば、中国軍は、尖閣諸島から約300キロ北西にある浙江省温州の南麂列島で、大規模な軍事拠点の整備に着手しているという。南麂島の高地には既に幾つかの大型レーダー施設が設置されており、また、艦載機やヘリのためと見られるヘリポートが舗装整備されており、2015年には隣接の島にも軍用機用の滑走路が建設される計画という。南麂列島は、大小52の島からなり、沖縄本島からよりも約100キロも尖閣諸島に近い位置にある。この軍事拠点は、軍事危機が生起した場合の中国の迅速な危機対応能力を高めるとともに、東シナ海上空に設定したADIZにおける監視能力を強化する狙いがあると見られる。

記事参照:
Chinese military reportedly building facilities on islands near Senkakus

12月23日「ニカラグア運河建設、幾つかの疑問―米紙論評」(The Washington Post, December 23, 2014)

米紙、The Washington Post(電子版)は12月23日付で、ニカラグア運河の建設計画に疑問を提起して、要旨以下のように報じている。

(1) ニカラグア政府と香港の香港ニカラグア運河開発投資有限公司 (HKND) は12月22日、西半球においてもっとも野心的なインフラ整備計画となる、ニカラグア運河建設に着手した。運河計画は、中米最大の真水の水源であるニカラグア湖を横断して、総延長約278キロで、推定建設費用は約500億ドルである。この運河計画は、アメリカ大陸の最貧国であるニカラグアに計り知れないほどの経済的利益をもたらすことになろう。ニカラグアのハレスレベンス副大統領は、「ニカラグアは世界の海上貿易の5%がこの運河を通航することを期待している。この運河は、ニカラグアに大きな経済的利益をもたらし、GDPを倍増させるであろう」と語っている。

(2) しかし、この事業の成功を疑問視する多くの理由がある。ニカラグア運河建設の夢は、19世紀に遡る。この運河については、アメリカの鉄道王、バンダービルト一族やセオドア・ルーズベルト大統領が支持していたが、これまでの計画は実現に至らなかった。あまり知られていないHKNDの王靖会長が如何にして運河建設の入札に勝利したのか、関係者は疑問に思っている。入札の結果、王靖のHKND は、100年間の運河運営権も取得した。その過程が不透明であるという指摘がある。また、王靖の運河開発のための資金調達力についても疑問視されており、一部では、実際に運河が完成することはない、せいぜい一部の港とコンテナ施設が完成するだけであろう、との推測もある。王靖は、2014年初めのロイター通信とのインタビューで、何千万ドルもの自己資金を投入していると語っている。王靖は中国政府に資金援助か借款を求めるのかどうかについては言葉を濁しているが、多くの関係者は、この運河建設を、ラテンアメリカにおける中国の最大の事績になると見ている。中国の国営企業が世界中のインフラ整備計画に投資していることは珍しいことではないが、王靖は、ニカラグア運河は完全に個人企業による事業だと言っている。現在、ニカラグアは、北京とではなく、台湾と外交関係を維持している。

(3) 他方、建設に少なくとも5年かかると見られているニカラグア運河に対しては、環境専門家や、オルテガ大統領とその取り巻きに富をもたらすだけの無駄な公共投資と危惧する活動家などから、厳しく批判されている。運河建設に伴って、一部の原住民を含め何万人ものニカラグア人が移住させられるかも知れない。更に、国内の湿地帯、森林に対して、深刻な影響を及ぼすことになろう。ニカラグア湖の浚渫も必要になるかもしれない。運河建設支持者達はスーパータンカーがニカラグア湖を通航していくのを見たいと願っているかもしれないが、ニカラグア湖はそのままでは浅すぎてスーパータンカーの通航には適さない。もし浚渫することになれば、大量の堆積物を生じ、水質を損ない、周辺生態系を傷つける可能性がある。科学者と活動家は、HKNDの計画は独立した機関による環境評価を受けずに承認されたと疑問視している。HKNDは、自社で審査したと言っているが、その報告書が公表されていない。環境面では、保護されてきたマングローブ森の保全、漁業、カリブ海及び太平洋からニカラグアの繊細な湿地帯への外来種の侵入の可能性などについて、懸念されている。

(4) 2014年で100周年を迎えるパナマ運河から見れば、HKNDのニカラグア運河建設の夢に対して、本質的な疑問を抱いているであろう。即ち、世界はニカラグア運河を本当に必要としているのか、という疑問である。52億5,000万ドルをかけたパナマ運河拡張計画は、2016年までに完了すると見られる。ある推測によれば、ニカラグア運河はパナマ運河の通航量を全て取り込んだとしても、王靖とHKNDが初期投資分を回収するためには、恐らく30年以上かかるだろうという。

記事参照:
Why the Chinese-backed Nicaragua canal may be a disaster
Map: Proposed route of the Grand Canal of Nicaragua

12月26日「台湾、南沙諸島における中越の軍事力展開を警戒」(Taipei Times, December 26, 2014)

台湾国防部が監察院に提出した最新報告書によれば、 南沙諸島の太平島にある台湾の前哨基地は、中国とベトナムが周辺の島嶼に携行型の対空ミサイルと大砲を配置したことで、脅威に晒されている。国防部の報告書は、東アジアの最近の情勢に関する監察院の特別調査の一環として作成されたものである。国防部の報告書は、Dunqian Sand Cay(敦謙沙洲、越呼称ではSon Ca Island)における最新兵器の配備によるベトナムの軍事プレゼンス強化の動きを特に警戒している。Dunqian Sand Cayは、太平島からわずか11キロ東方に離れているだけである。報告書は、ベトナムが2013年にDunqian Sand Cay の拡張した海上基地に新型の携行型肩付け発射空ミサイルを配備したと述べ、「この対空ミサイルの有効射程は約1.5キロである。しかしながら、ベトナムは、太平島近くの環礁にこれを配備するか、あるいは哨戒艇に乗せて射程範囲内を哨戒させるかもしれない。このようなシナリオが現実化すれば、太平島に向かう台湾の軍用輸送機が直接脅かされることになろう」と指摘している。また、報告書は、ベトナムが人工的にDunqian Sand Cayを拡張し、軍事施設の建設作業を開始したことを示す監視情報を明らかにしている。

一方、中国は2013年以降、中国が領有権を主張している南沙諸島の5つの環礁と砂州で埋め立て工事と軍事施設の建設を続けている。中国が埋め立てや建設工事を進めているCuarteron Reef(華陽礁)、Gaven Reef(南薰礁)及び Fiery Cross Reef(永暑礁)は、Union Reef NorthやUnion Reef Southと同様に、台湾も領有権を主張している。

南シナ海における中国とベトナムの脅威に対抗するために、台湾の立法院議員の一部は、東沙諸島と南沙諸島に海岸巡防署(沿岸警備隊)に代えて、海軍力を展開することを主張している。

記事参照:
Threat to Spratlys outposts ‘growing’

【関連記事】「台湾国防部長、太平島への中越の脅威を否定」(Taipei Times, December 30, 2014)

台湾の嚴明国防部長は12月29日、南沙諸島の太平島にある台湾の部隊や軍事施設は現在のところベトナムからの脅威下にはない、と述べた。嚴明国防部長は、立法院での質疑で、情報報告によれば、ベトナムが南沙諸島の占拠島嶼に携行型ミサイルを含む兵器を配備しつつあるとした上で、「しかしながら、ベトナムは未だ、Dunqian Sand Cay(敦謙沙洲、越呼称ではSon Ca Island)に携行型肩付け発射対空ミサイルを配備しておらず、従って現在のところ、太平島に定期的に補給物資を運ぶ、C-130軍用輸送機や補給船の脅威とはなっていない」と述べた。邱國正国防副部長によれば、ベトナムの新型携行型ミサイルはロシア製のSA-16かSA-18で、いずれも肩付け発射型赤外線追尾対空ミサイルであり、またベトナムはDunqian Sand Cayに20ミリ連装対空砲を配備しているが、その射程は約2キロ強である。邱國正副部長は、「SA-16もSA-18も、最大射程は5.5キロであり、従って、これらミサイルも、対空砲も、太平島やC-130輸送機の脅威にはなっていない」と述べた。2人の発言は、国防部が監察院に提出した報告書の記述を否定した形となった。

記事参照:
Itu Aba military outpost not under threat by Vietnam: defense minister

12月31日「中国のシルクロード建設計画と北方航路の将来性―米紙論評」(Alaska Dispatch News, December 31, 2014)

米紙、Alaska Dispatch News(電子版)は、12月31日付の“China’s Silk Road plans could challenge Northern Sea Route”と題する論説で、要旨以下のように論じている。

(1) ここ数年間、ロシアの沿岸域に沿った北方航路は、ヨーロッパとアジアを結ぶ近道として衆目を集めてきた。北極海のロシア管轄海域を航行することで、スエズ運河を経由して上海とロッテルダムとを結ぶこれまでの通常航路より、24%以上も航行距離を短縮でき、航行日数にして15日間の短縮となる。複数のアジアの海運会社は、積極的に北方航路の発展に寄与してきた。2013年は、中国の中国遠洋運輸集団 (COSCO) や韓国の現代グロービス社のような企業にとって記念すべき年となった。COSCOは2013年8月、1万9,000トンの貨物船、MV Yong Shengを初めて北方航路経由で大連からロッテルダムに向かわせるという先駆的な航海を試み、メディアの注目を集めた。2013年10月には、韓国の現代グロービス社が、スウェーデンのStena Bulk社と提携し、北方航路で初めてとなる水先案内業務の請負を開始した。こうした先駆的な努力によって、北極海は、アジアとヨーロッパとの間にある「湖」と勘違いされるほど身近なものとなった。しかしながら、2014年は、北方航路の全行程を航行した船舶数はわずかであった。航行可能日数の不明確さやロシアの北方航路管理局からの関係情報の少なさなど、北方航路が商業ベースとして成立するのか否かの判断を難しくしている。2014年の北方航路の全面開通は、航路の北東部分が9月初旬まで航行不能であった2013年よりは早かったが、それでも8月21日までは全面開通にはならなかった。全面開通が2013年よりは早かったものの、2014年は23隻の船舶しか北方航路の全行程を航行していない。23隻という隻数は、2013年に北方航路の全行程を航行した41隻の半分強である。北方航路経由の輸送貨物量も、2014年は27万4,000トンで、2013年の135万5,897トンから80%も減少している。

(2) ロシアは、10カ所の捜索救難センターを設けるなど、北方航路の開発に注力してきた。しかし、中国にとって、北方航路の利用は、ちょうど北極海の石油や天然ガスが中東のそれの潜在的な代替資源と考えられているのと同様に、1つの選択肢に過ぎない。中国は、1つの篭に全ての卵を入れるのを避けてきた。中国の習近平国家主席は2013年9月、現代技術を駆使した新たなシルクロードの建設計画について言及した。この「シルクロード経済ベルト (the “Silk Road Economic Belt”)」は、高速鉄道、高速道路そしてパイプラインなどによって構成され、古のシルクロードを旅するようなルートとなっている。中国は、この計画のために400億ドル規模のシルクロード基金を設立している。米Arctic Instituteの報告書によれば、ロシアは、海上交通網の開発に対し、1,340億ルーブル(報告書発表当時の米ドル換算で、41億3,000万ドル、現在の価格では23億ドルに過ぎない)を、今後10年間で投資する計画となっていた。この内、北方航路にどれだけ投資されるのかは不明であるが、明らかなことが1つある。それは、クレムリンが現在、経済危機に直面していることから、中国と同程度の金額を北方航路の開発整備に投入するのは極めて困難だということである。

(3) 2013年のMV Yong Shengによる北方航路経由の航路と平行して走る貨物列車の運行が2013年12月に行われた。この運行はシンボリックなもので、上海近郊の駅を出発した貨物列車は21日間でスペインのマドリッドに到着した。この画期的な鉄道輸送は、MV Yong Shengによる北方航路経由の航海より6日間短かった。年によって海氷の融解状況が変わる北極海の海氷の状況に影響される北方航路と違って、鉄道輸送はそうした障害がない。2014年の北極海の夏は、以前の年に比べ北方航路の航路上に多くの海氷が残っていた。中国のような、海運に多くを依存する貿易国家は、輸送に関する信頼性や安定性を重要視する。中国のシルクロード計画が北極海ではなく大陸ルートになっている所以はこのためであり、それがまた商業的な魅力ともなっている。

(4) 中国はまた、シルクロード建設に政治的な狙いも秘めている。シルクロード建設に伴う国内での大規模なインフラ開発は、沿岸部ではなく内陸部に大きな経済効果をもたらすことができる。また、外交的にも、シルクロード建設計画は、モスクワではなく北京主導による中央アジアの地域統合を目指すという、中国の野心にも適っている。習近平主席は、カザフスタンの首都、アスタナにあるナザルバエフ大学で、このシルクロード建設計画を表明した。新華社通信の報道によれば、習近平主席は、「太平洋からバルト海までを結ぶ戦略的な地域的交通網の接続性を向上させて、西洋と東洋、そして南アジアを結ぶ交通輸送網の構築に向けて段階的に前進していく必要がある」と主張した。太平洋とバルト海を結ぶとはどういう意味であろうか。モスクワが北極海を通じてやろうとしていることと同じようなものである。2013年、3隻の船舶がロシアのバルト海東端の港から北方航路経由でアジアに向けて出港し、2隻は韓国に、1隻は北朝鮮に向かった。しかし、中国のシルクロード建設が計画通りに進めば、太平洋とバルト海を結ぶ主要な輸送「回廊」は、ロシアの内水を通過する「海上回廊」ではなく、ロシア南方の陸地を通過する「陸上回廊」となろう。中国は、北方航路の利用とシルクロードの建設をともに進めて行くであろうが、北方航路の利用は、シルクロードの建設推進と同程度の地政学的なメリットを生むわけではない。中国の李克強首相は12月初旬からカザフスタンやセルビアを訪問し、中国が中央アジアや東欧を重要視していることを示した。これにバルト海を加えた伝統的にロシアの影響力の強い地域に対して、中国は、北極海経由ではなく、古の貿易ルートを再構築することで、徐々に自らの影響圏に引き寄せようとしている。

(5) 北極海の海氷の状況が毎年異なるように、北方航路の利用状況も毎年変化する。従って、北方航路の将来的な成長の可能性に目を閉じるのは早計であろう。しかしながら、現在の政治情勢から見て、ヨーロッパとアジアを結ぶ航路としても、またロシアから海外市場に天然資源を運ぶ航路としても、北方航路はロシアにとって有利な状況にはない。ロシアに対する西側の経済制裁によって、ロシアが北方航路経由の海運の将来性に懸念を持っているとすれば、その目的地である中国も北方航路の将来性に懸念を持つはずである。

記事参照:
China’s Silk Road plans could challenge Northern Sea Route

12月31日「ロシアの新しい軍事ドクトリン、ロシア人専門家論評」(The national Interest, December 31, 2014)

ロシアのThe Carnegie Moscow CenterのDmitri Trenin所長は、米誌、The National Interest(電子版)の12月31日付ブログに、“2014: Russia’s New Military Doctrine Tells It All”と題する論説を寄稿し、ロシアの新しい軍事ドクトリンについて、要旨以下のように論じている。

(1) プーチン大統領は12月26日、ロシアの新しい軍事ドクトリンに署名した。国防に関する公式文書である軍事ドクトリンは原則として、定期的に改訂され、公表される。最近の改訂は2010年2月であった。今回の軍事ドクトリンは、2014年におけるロシアの外交、安全保障政策と国防態勢における激変を反映したものとなった。プーチン大統領と軍や安全保障の担当者にとって、2014年の戦争は単なるリスクではなく、厳然たる現実であった。ロシアは、ヨーロッパに位置する最も重要な隣国であるウクライナに対して、軍事力を投入せざるを得なかった。この新しい環境下で、軍事ドクトリンは、重要度を増したリスクとして、情報戦とロシアの国内政治に対する外部からの干渉を挙げている。

(2) 主要な外部からのリスクの一覧表は、中身はあまり変わっていないが、ニュアンスは重要である。前回と同様に、一覧表の最上位はNATOに関するもので、NATOの強化された能力とその世界的な到達範囲の拡大によって、NATOの軍事力がロシア国境に一層近接するようになっているとしている。NATOに次ぐリスクとして、リビア、シリアそしてウクライナなど見る国や地域の不安定化とロシアに近接する地域の外国軍事力の配備を挙げている。外国軍事力の配備について、バルト諸国へのNATO軍機の増強、ルーマニアにおける弾道ミサイル防衛 (BMD) 網、及び黒海における海軍艦艇に言及している。他に一覧表の上位には、アメリカの戦略弾道ミサイル防衛網、Global Strike構想、及び非核弾頭戦略弾道ミサイルが含まれている。Global Strike構想と非核弾頭戦略弾道ミサイルのリスクは、ロシア全体の防衛態勢の要であるロシアの抑止能力に対する重大なリスクとして、モスクワの関心を高めている。ロシアの領土保全に対するリスクは常に存在しているが、新たな緊急性を帯びることになった。モスクワは、クリミア半島を併合したことで、キエフの領土回復主義者から半島を防衛する必要性を深刻に考慮しなければならなくなった。 従って、ロシアは、2014年夏頃からクリミア半島を主要な軍事力配備地域としている。特にロシアに直接的影響を及ぼさない他のリスクは順位が下がっており、これらには、大量破壊兵器、ミサイル及びミサイル技術の拡散、国際テロ(特に、放射性物質及び有毒物質の使用)、武器と麻薬の密売、民族と信仰に基づく内戦や武装過激派、民間軍事会社などが挙げられている。軍事リスクの構成要素は、軍事、政治目標実現のための、情報やツイッター/フェイスブッによるフラッシュモブ*からサイバー攻撃に至る通信技術の活用まで、広範囲になっている。更に、軍事ドクトリンに加えられた新たなリスクとして、合法政府の打倒とそれに続いて起きるロシアの国益に不都合な体制によるリスクが挙げられている。これは、明らかにクリミア後のウクライナ情勢を念頭に置いたものである。

(3) 軍事ドクトリンは、モスクワにとって友好的と考えられる国だけを、パートナーとして分類している。それらは、上海協力機構 (SCO) とBRICSグループ(ロシア以外に、ブラジル、インド、中国)のメンバー国である。中国については、軍事ドクトリンはSCOと関連づけ、「共通の空間で軍事リスクに対処する努力を調整する」ように提案している。もちろん、これは、北京との何らかの軍事同盟を目指すと言うことではあり得ない。アメリカ、NATO及びEUに対しては、軍事ドクトリンは、ヨーロッパとアジア太平洋における安全保障、軍縮、大量破壊兵器の不拡散及び信頼醸成措置の問題について、「対等の立場からの対話」を求めている。興味深いことに、これには、NATOとの共同ミサイル防衛についてのロシアの2010年の提案が含まれている。これは実現していないが、この提案が現在では全く顧みられていないとの理解の上で、軍事ドクトリンは、アメリカがBMDや非核弾頭戦略弾道ミサイルの開発を通して軍事的な優勢に立つことを許さないと明言している。予見できる将来にわたって、ロシアは、その戦略核戦力の抑止能力に対する絶対的な信頼性を追求して行くに違いない。軍事ドクトリンは、核兵器使用の原則については変更していない。即ち、ロシアは、自国と同盟国に対する核兵器や大量破壊兵器攻撃に報復するとともに、例え脅威が在来兵器による攻撃であっても、核兵器を使用することになろう。

(4) ロシアの軍事ドクトリンにおいて新たに繰り返し言及されていることは、例え西側が公式に敵ではないとしても、西側は強力な競争者であり、手強いライバルであり、そして軍事的なリスクと脅威の根源であるとの記述である。経済不況の中にあっても、防衛能力と軍事即応態勢の強化は、ロシアの明確な優先事項である。ロシアはまた、例え西側との軍事的対峙を冷戦時のレベルにまで悪化させることになっても、ユーラシアの幾つかの友好国やパートナーとの統合と協力を強化しつつある。西側との関係における分水嶺を越えてしまった。

記事参照:
2014: Russia’s New Military Doctrine Tells It All
備考*:フラッシュモブ (flash mob) とは、インターネット上や口コミで呼びかけた不特定多数の人々が申し合わせて、雑踏の中の歩行者として通りすがりを装って公共の場に集まり、前触れなく突如としてパフォーマンス(ダンスや演奏など)を行って周囲の関心を引き、その目的を達成するとすぐに解散する行為をいう。

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子