海洋情報旬報 2014年12月1日~10日

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12月2日「ベトナム海軍、周辺諸国との防衛協力強化―セイヤー論評」(The Diplomat, December 2, 2014)

豪The University of New South WalesのCarl Thayer名誉教授は、12月2日付のWeb誌、The Diplomatに、“Vietnam’s Navy Crosses the Line”と題する論説を寄稿し、ベトナムは周辺の友好国との間で、特に海洋問題に関して防衛協力を強化しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) ベトナムの最新軍艦2隻、Gepard級誘導ミサイル・フリゲート、Dihn Tien Hoang (HQ 011) とLy Thai To (HQ 012) は11月5日、カムラン湾を出港し、赤道を越えてジャカルタのタンジュンプリオク港に向かった。艦隊は、ベトナム海軍副司令官、Nguyen Van Kiem少将指揮下に、228人が乗艦しており、両艦にはKa-28対潜ヘリが搭載されている。これは、ベトナム海軍にとって最初の外国親善訪問であり、ベトナムが防衛外交の強化を決意した明確な徴候である。今回の艦隊派遣は、ブルネイ、インドネシア及びフィリピンへの親善訪問であり、ベトナム人民軍の新聞によれば、訪問の目的は、「ベトナム海軍と、インドネシア、ブルネイ及びフィリピンの各国海軍との間で信頼を醸成し、友好、協力、相互理解そして信頼を促進する」ことであった。ベトナム艦隊は11月12日にタンジュンプリオク港に到着して、3日間の親善訪問を実施した。最終日に、艦隊は、インドネシア海軍艦艇と捜索・救難訓練を実施した。次の寄港地であるブルネイのムアラ海軍基地には11月19日に到着した。ベトナム艦隊のブルネイ訪問は今回が初めてであった。ブルネイで3日間寄港した後、艦隊は11月24日にマニラの南港に入港した。1975年のベトナム再統一後、ベトナム艦隊の初めてのフィリピン訪問となった。インドネシアと同様に、訪問中、ベトナム艦隊はフィリピン海軍と捜索・救難訓練を実施し、11月26日に出港し、帰途についた。

(2) ベトナムは2014年に、その他の国とも防衛協力を促進した。ベトナム人民軍の新聞によれば、8月にシンガポールが主宰したアデン湾でのテロ対策演習にベトナム海軍チームが参加した。副国防相で海軍のNguyen Van Hien司令官は11月24日、訪越したタイ海軍のChansuvanich司令官を迎え、両国海軍間における訓練、後方支援と技術面などにおける協力強化を提案した。更に、ベトナムは11月15日~19日の間、ダナンのTien Sa港にフランス海軍フリゲート、Vendémiaireを迎え、同艦は訪問中、ベトナム海軍との捜索・救難訓練に参加した。ベトナム海軍司令部は11月18日、2009年のロシアとの契約に基づいて、Ba Son 造船所でProject 1241 Tarantul級(Molniya級)コルベットの国内建造を検討する会議を開催した。既に2隻のコルベット、HQ 377とHQ 378が実弾射撃演習を成功裏に完了した後、6月にベトナム海軍に引き渡されている。会議は、同級コルベットの残り4隻の国内建造を決定した。ベトナム紙、Thanh Nienが11月20日付で報じるところによれば、ベトナムは12月初めに、3隻目のKilo級潜水艦、HQ 194 Hai Phongを受領することになっている。ロシアのTASS通信社が11月27日に報じるところによれば、ベトナムとロシアは、カムラン湾へのロシア軍艦の寄港に関する規制を緩和する政府間協定に調印した。ロシア国防省筋によれば、この協定によって、今後、ロシア軍艦は寄港直前に港湾管理委員会に通知するだけで入港できることになる。この協定は、ベトナムを訪問する他の全ての国の海軍と比較して、ロシア海軍に特権を与える内容となっている。 ベトナムは、他の全ての国の海軍にカムラン湾の商業施設の利用を認めているが、ロシア海軍は、ロシアが包括的な戦略パートナーであり、かつベトナムの潜水艦艦隊の創設を支援していることから、特別な権利を付与されているのである。露越両国は現在、ロシアがシリアとの間でタルトゥース港について結んでいる協定と同条件で、ロシア海軍用にカムラン湾に兵站施設を建設することに関して、話し合っている。

(3) ベトナムが2014年に他国との防衛協力を促進してきたのは、2013年4月の国防省のガイドラインと共産党政治局決議に基づくものである。政治局決議は、5つの行動方針の3番目で、「近隣諸国、ASEAN加盟国、主要大国及び伝統的友好国との間で、防衛、安全保障分野における2国間協力を強化し、その後、協力分野を徐々に拡大し、深化させていく」と明記している。ベトナム海軍による防衛協力の強化は、適切な時期に実施されたことになる。ベトナム共産党は、12月に中央委員会第10回総会を開催する。この会議は、2016年初めに予定されている第12回全国党大会に付託される、主要な政策文書に関する基本方針を決める。恐らく、党大会は、国防支出の増額を支持し、海軍と空軍の継続的な近代化と、国際防衛協力の推進を優先課題として承認することになろう。

記事参照:
Vietnam’s Navy Crosses the Line

12月3日「中国海軍を悩ます日清戦争の亡霊―米海大専門家論評」(The National Interest, December 3, 2014)

米海軍大学、The China Maritime Studies Institute (CMSI) のLyle J. Goldstein准教授は、米誌、The National Interest(電子版)の12月3日付ブログに、“The Ghost That Haunts the Chinese Navy: When China and Japan Went to War”と題する論説を寄稿し、日清戦争120周年の節目に見られた、特に2014年半ばの『中国军事科学』に掲載された中国軍人の論考を取り上げ、これらの論考は現代の中国軍が抱える課題を示したものであり、注目しておかなければならないとして、要旨以下のように述べている。

(1) まず、中国軍事科学院副院長のHe Lei中将の論考である。He Lei中将は、日清戦争の敗因を、清朝の腐敗や統制能力の低下によるものだと指摘し、中国の伝統的な文化的、社会的な風潮である、「好铁不打钉, 好男不当兵(良い鉄を釘にはしないように、能力ある男を兵士にはしない)」という思想を批判している。また彼は、現代中国社会で勢いを増す実利主義を憂い、部下に対して「不当和平兵(平時だけの兵士になってはならない)」と諭している。そして彼は、日清戦争の軍事的敗因に触れ、中途半端な事前準備と、攻勢的な戦闘戦術と主導権奪取を重視した軍事ドクトリンの欠如が敗因であると指摘している。彼の論考の主題が、「重陆轻海(陸軍を重視し、海軍を軽視する)」という、中国の歴史的な誤りに言及していることは注目に値する。彼は、西太后による海軍資金の流用や、清朝に海軍経験を持つ指導者が全くいなかったことを非難している。このことは、現在の中国の軍事指導部が特に最上層部において圧倒的に陸軍出身者で占められている状況に照らし合わせると、興味深い指摘として注目しなければならない。また、彼は、日清戦争の敗因として、陸軍と海軍との協調が全くなかったことを挙げている。日清戦争の結果として、中国は、朝鮮半島や台湾に加えて、広大な海域の支配を失い、「中国の海洋戦略空間が大幅に圧縮」されるとともに、「走向海洋(海洋への進出を図る)」という、近代中国の歴史的発展方向が阻止されたと言われる。このことを踏まえて、He Lei中将は、中国は中国国家の「外洋」への歴史的発展過程を阻害する「海上霸权(海上覇権)」を容認できない、と指摘している(これは明らかにアメリカを意識したものであろう)。いずれにせよ、中国の陸軍将官が、シーパワーの強化を今日的課題と主張している事実は、現在の中国海軍の増強に対する軍部内の幅広いコンセンサスの存在を示唆しているといえるかもしれない。

(2) その他の2つの論考は、中国海軍の将校によるものである。1つは広州軍区副司令員の蒋偉烈中将の論考で、彼は、特に中国のシーパワーに対する歴史的軽視というHe Lei上将の主張に同意している。その上で、蒋中将は、今日の中国社会が今なお、海洋に対する意識が欠如していることを嘆いている。彼は、日清戦争における混乱した命令系統を図示して、中国のシーパワーの統合に言及し、2013年3月に実施された中国の海上法令執行機関の統合を、「未得到根本解决(根本的な問題の解決にはなっていない)」と指摘している。そして、He Lei中将と同様に、蒋中将も、日清戦争における中国軍の「受動的な作戦計画」を嘆き、結論として「积极长远的力量运用规划(ロングレンジに積極的に戦力を展開する計画)」を主張している。彼は、中国が直面する多くの海洋紛争に関して、政府に対して、「軍事抑止力を開発し、これらの海洋紛争において徐々に軍事的な優位を確立するために、中国軍の展開を常態化する」ことを求めている。

(3) もう1つの論考は海軍海洋問題研究センター のYang Xiaodan上級大佐によるもので、彼は、清朝の軍改革と海軍近代化の遅れを指摘した上記2つの論考とは異なり、1866年に福州に設立された、中国初の現代的な海軍学校の設立と初期の活動を詳細に観察している。彼によれば、創建当時の中国海軍は、特に「远航训练(遠洋航海訓練)」を重視した比較的野心的な育成計画とともに、若い士官を海外に派遣する制度を備えていた。彼は、李鴻章に言及して、「李鴻章は、北洋艦隊の構築に大きな努力を払ったが、実際の戦闘作戦には十分な関心を払わなかった」と結論づけている。日清戦争という実戦の場で、清国海軍将校の質は総じて水準以上であったが、「又慢又旧又有限(緩慢で、旧態依然とし、全体として行動が制約されていた)」と指摘している。Yang Xiaodan上級大佐から見て、中国が海軍近代化を進める上で日清戦争から学ぶべき第1の教訓は、実戦に即した海軍演習の強化、頻繁な人事交流の実施、そして究極的には一流の教育、訓練システムを構築することである。

(4) 日清戦争120周年の年におけるこれらの中国軍将校の論考は驚くべきものではない。東京と北京との間に生じている最近の厳しい状況を考えれば、これらの論考が、超国家主義的なものでも、また反日感情に染まったものでもないことに安心するかもしれないが、こうした論考は専門性の高いもので、中国軍が取り組まなければならない課題を明確に提示している。これらの中国軍人の論考は、人民解放軍の現在の考えを示したものであり、太平洋の両側における実務家や安全保障問題の研究者にとって認識しておくべきものである。

記事参照:
The Ghost That Haunts the Chinese Navy: When China and Japan Went to War

12月4日「北極有事におけるロシアの5つの武器―米専門家論評」(The National Interest, December 4, 2014)

米The Patterson School of Diplomacy and International Commerce (The University of Kentucky)のRobert Farley 准教授は、米誌、The National Interest(電子版)の12月4日付ブログに、“The Ultimate Cold Warrior: 5 Weapons Russia Could Use in an Arctic War”と題する論説を寄稿し、もし北極圏で考えられない事態が生起した場合、ロシアが投入できると見られる5つの武器があるとして、要旨以下のように述べている。

(1) この10年間で、北極圏に国境を接する国々は新たに深刻な安全保障上の問題を自覚するようになった。北極海における海氷の融解は、長い間安全と考えられてきた北方辺境の脆弱性を露呈させることになった。ロシアが他のどの国よりも優れた軍事作戦態勢を整えていることは、驚くべきことではない。冷戦時代、ソ連は、空と海の領域において北極圏全体で戦う態勢を整えていた。ソ連崩壊後も、武器やインフラの多くはこの地域に残っており、もし北極圏で考えられない事態が生起した場合、ロシアが北極圏で自国の国益防衛のために投入できると見られる5つの武器がある。

a.砕氷船:北極海へのアクセスを可能にする唯一で最も重要な手段は砕氷船である。ロシアは、世界最大の砕氷船艦隊を保持している。北極海の海氷の縮小によって、北極海に対する商業的関心が増大し、軍や民間による北極海の利用が増え、これまで以上に砕氷船が必要になった。民間及び軍用船舶を定期的に継続運用するためには、砕氷船の支援を必要とする。近い将来に亘って、ロシアは、北極海へのグローバルアクセスの保証人として最良の態勢を整えている。ロシアは、4隻の外洋型原子力砕氷船を運用している。これらは、北極海全域に及ぶ軍事展開を支援するのに十分なパワーと航続能力を持っている。対照的に、アメリカもカナダも、沿岸警備隊が数隻の砕氷船を持っているに過ぎない。ロシアの原子力砕氷船は、他国とは隔絶した能力を以て、ロシアの北極海への軍事プレゼンスを支えている。またロシアは、この能力の故に、北極点周辺海域における軍事的展開や天然資源へのアクセスの面で、大きな自由を確保している。

b.Akula級攻撃型原潜:冷戦時代、米英両国やソ連の海軍は、北極海の海底で潜水艦探知機材や攻撃型原潜 (SSN) を投入して、熾烈な抗争を演じた。ロシアの潜水艦乗組員は北極海作戦の豊富な経験を持っており、沿岸域には旧ソ連時代の多くの支援インフラが残っている。ロシアのSSNの主力は、Akula級SSNで、多くの兵器を搭載できる。Akula級SSN は、1980年代の建造だが、海氷面下でも効果的な対潜戦能力を持っており、また対水上艦戦能力(海氷面の厚みが減少すれば、その分、対艦巡航ミサイルの効果が増す)も持っている。Akula級SSNは、静粛性において西側の同型艦に劣るが、船体サイズの大きさと多様な武器搭載能力がこの欠点を補っている。北極海域を担当するロシア北方艦隊は現在、6隻のAkula級SSNを保有しており、定期的に北極海の海面下で哨戒活動を行っている。

c.MiG-31:北極海では、海氷がなくなっても、空母の運用は困難であり、従って、陸上基地航空機が重要な存在となる。北極海沿岸域に沿って存在する基地から出撃する、MiG-31 Foxhoundは広範な空域をカバーすることができる。同機は、MiG-25 Foxbatの改良型で、より高速で、航続距離が長い。MiG-31とMiG-25は、ソ連領空に侵攻しようとする米空軍の爆撃機を探知、迎撃するために開発された。MiG-25は空対空戦闘に優れていたが、MiG-31は、より高性能のレーダーと優れた空中運動性能によって、効果的な制空戦闘機となっている。MiG-31は、米空軍の第4.5世代や第5世代戦闘機に対抗できることは確実であろう。むしろ、アメリカにとって、北極海沿岸域における基地インフラの不足を考えれば、米空軍の戦闘機は対抗できないかもしれない。MiG-31は最高速度マッハ2.83、戦闘行動半径900マイル強で、ロシアは、海軍と空軍に約200機のMiG-31を配備するとともに、北極海の支援インフラの改善を進めている。

d.Tu-95/Tu-142:Tu-95 Bearは現在も運用されている最も古い作戦機の1つである。米空軍のB-52のように、1950年代のエンジニアが設計したものとは異なる戦略環境の中で運用されている。しかしながら、B-52と同様に、Tu-95は、非常に柔軟な機体性能を発揮し、長い間、哨戒活動に従事してきた。Tu-95とその海洋哨戒用の派生型、Tu-142は、陸上基地からは遠く離れ、空母の運用が困難な、北極海の寒冷な空域で活動している。Tu-95 Bearは、戦闘行動半径が最大3,000マイルで、対艦巡航ミサイルを搭載し、海上哨戒用のTu-142は、対潜戦能力を持つ。これらは、陸上基地や空母艦載機の行動半径を越えた空域で行動できる。ロシアは、B-52のように、Tu-95 Bearが今後数十年間、運用できることを期待している。

e.特殊部隊:北極海は広い陸地を欠き、人口希薄な海域である。厳しい気象環境のために、最大の島でも事実上人間の居住に適なさい地域となっている。従って、軍事的には、大規模な歩兵部隊や機甲部隊の運用には適さず、機動性と致死性の高い戦力が主体となる。ロシアの特殊部隊は、長い間北極圏での戦争に備えてきた。冷戦時代、特殊部隊、Spetsnazチームは、ノルウェー、フェロー諸島そしてアイスランドにおけるNATO軍施設を攻撃する訓練を実施してきた。近年では、ロシアは、北極圏への展開を意図した、特殊部隊の訓練を強化している。潜水艦、航空機そして水上戦闘艦で特殊部隊をアクセス困難な地域に輸送し、そこでの偵察活動や通信遮断訓練などを実施している。特殊部隊はまた、アクセス困難な地域での民間人労働者や軍事チームの捜索救難任務を支援することもできる。

(2) ロシアは、冷戦の遺産である北極圏の軍事インフラによって、北極圏を巡る抗争を有利に展開することができる。ロシアの今後の課題は、砕氷船、Tu-95/Tu-142 Bearあるいは MiG-31のように、長年運用してきた装備を如何に維持していくか、そして効果的な更新装備を如何に開発していくかであろう。原油価格の崩壊とウクライナ危機に伴う西側の制裁措置の影響下にあって、ロシアの現在の財政状況は、軍による効果的な近代化戦略の追求を困難にしている。しかしながら、多くの分析モデルが予測するように、気候変動が続けば、北極圏におけるロシア軍の責任と機会は増大する一方であろう。

記事参照:
The Ultimate Cold Warrior: 5 Weapons Russia Could Use in an Arctic War

12月4日「アクセス拒否海域への対応、米海軍が直面する最大の挑戦―ホームズ論評」(The National Interest, December 4, 2014)

米海軍大学のJames Holmes教授は、米誌、The National Interest(電子版)の12月4日付ブログに、“The U.S. Navy Could Be Facing Its Biggest Challenge Ever: The Anti-Access Dilemma”と題する論説を寄稿し、敵のアクセス拒否海域にどう対応するかが今日の戦闘環境で米海軍が直面する最大の挑戦であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 米海軍は、水上戦闘艦にどのような夢を描いているのか。その答えは意図している任務によって異なってくる。制海権を獲得するためか、海空域から敵を排除した後に陸上に戦力を投射するためか、それとも敵艦隊を無力化するためか。異なる目的で建造された艦艇はそれぞれの異なる分野で優れている。水上戦闘艦の大きさ、艦型そして隻数は、意図した任務によって異なるべきである。全ての戦闘艦は妥協の産物である。次善の策が最も少ない戦闘艦が最も優れた艦である。いかなる軍艦でも、速力、防御力及び攻撃力が3つの基本特性である。海軍指導部がある1つの特性を多く望めば、他の2つの特性よりも優先させなければならない。理想的な戦闘艦は、十分に速く、十分に頑丈で、決定的場所で決定的瞬間に任務を遂行できる重武装で、しかも敵の防御を乗り越え、打ち勝つことができるものである。しかし、敵は、米海軍部隊を撃破し、自国沿岸域での作戦遂行コストをつり上げ、あるいは介入を完全に阻止することを期待して、自らの強点をアメリカの弱点にぶつけてくる。

(2) 第2次大戦中に慣れ親しんだ水上戦闘艦隊は、空母、両用輸送艦あるいは主要水上戦闘艦などからなる、「高価値ユニット (“high-value unit”)」を中心とした輪陣形であった。「高価値ユニット」は部隊の打撃力の大半を占めているため、敵は、これを撃破することに注力することが予期できる。このため、指揮官は「高価値ユニット」の外側を護衛部隊で囲み、水上、航空及び水中からの攻撃に対する防御網を構築する。重層的な防御は、向かってくる脅威に対し様々な対応をとることができる。問題は、東アジアあるいは南アジアの現に係争中の海域で、こうした伝統的な任務部隊が依然、有用なのかということである。帆船時代の海軍がそうであったように、外洋で敵の艦隊と戦うのも任務の1つである。しかし、長射程の精密誘導武器が運用される今日の環境下では、沿岸域に配備されたミサイル、ミサイル搭載軍用機、そして哨戒艇や通常型潜水艦などのピケット艦は、沖合での海空域の戦闘に投入することができる。敵の艦隊や空軍部隊と戦い、その上、陸軍部隊とも戦うことは、どの海上部隊にとっても過大な要求である。今日、水上戦闘艦隊は、海空域の脅威が概ね排除された段階で、初めて沖合海域に侵入する戦力になりつつあるようである。このことは、恐らく海軍当局者の気づかないまま、米海軍の水上戦闘艦隊の任務の変換が進んでいることを示唆している。歴史的に、海軍は、制海権を獲得するために敵の艦隊と戦う戦艦群、敵艦隊の活動が制圧された後に制海権を行使するために散開する費用のかからない巡洋艦群、そして日常の管理業務を実施する軽武装あるいは非武装の艦艇からなる小艦隊で構成されてきた。通常の環境下では、シーパワーを構成するこれら戦力は順番に機能していた。敵の主力艦隊を行動不能あるいは撃沈することによって制海権に対する主たる脅威を排除し、巡洋艦あるいは小艦隊を多かれ少なかれ安全になった海域で彼らの任務を遂行させたのである。1世紀前に海軍が帆船から蒸気船に移行するという、「過去の経験を越える革命」を経験したように、ミサイルなどの新しい武器を搭載した小艦隊は突然に、主力戦闘艦と戦う能力を手に入れたのである。海の女王だった弩級戦艦は今日、安価な魚雷艇によって壊滅的な損害を被るようになった。今日の海洋環境は、対艦巡航ミサイルや航跡追跡魚雷など装備によって、巡洋艦や小艦隊の射程は一層長くなり、また海軍艦艇は沿岸域から数百カイリまで長射程の火力支援を期待できるようになった。

(3) 海軍の指揮官は率直に自問しなければならない。即ち、水上戦闘艦が制海権獲得のための戦闘に生き残ることができない時代に、水上任務部隊はそれ自体で戦闘艦隊を構成するのか。このことは一時的な現象なのか。アクセス拒否を掲げる防衛側の艦隊に生ずる優位を、近い将来、高度な技術や戦術的妙技によって克服可能なのか。もしそれが不可能なら、空母、誘導ミサイル搭載巡洋艦や駆逐艦などの水上戦闘艦は主力艦ではなくなる。制海権を確保するために建造された、「高価値ユニット」である主力艦は、戦艦艦隊が勝利した後で海域を警備する巡洋艦や小艦隊によく似た、支援任務を遂行する役割に落とされることになるかもしれない。従って、海軍は、水上戦闘艦隊を、この新たな過酷な環境に如何に適合させるかを判断しなければならない。アルフレッド・マハンは、主力艦を、主要な艦隊行動において「防御力と攻撃力の適切な組み合わせによって、相手の強烈な打撃に耐え、相手に対して強烈な打撃を与えることができる戦闘艦」と定義している。しかしながら、今日、主力艦は、敵艦隊を撃破するだけでなく、敵の航空攻撃やミサイル攻撃に対処するに十分な防御力と攻撃力を備えていなければならない。海軍は、時代に合わなくなった水上戦闘艦を、どのように支援戦力として使用するかを考えなければならない。もしアクセス拒否海域において敵から制海権を奪取する究極の戦闘艦がないのであれば、残る疑問は、マハンやジュリアン・コルベットがいう戦闘艦隊に匹敵する、今日の艦隊とはどのようなものかということである。どのような艦隊が制海権を奪取できるのか。水上戦闘艦隊はそれができるのか。攻撃型潜水艦なら、あまり損傷を受けないでアクセス拒否海域に侵入できる。これは極めて有効な機能だが、攻撃型潜水艦は、陸上基地航空機やミサイル戦力にはほとんど対応できない。

(4) 米軍の指揮官は、こうした事態をどう考えるべきか。今日の脅威が最早、純粋に海軍だけの脅威でないのと同じように、その対応も純粋に海軍だけのものではない。恐らく、明日の「戦闘艦隊」は、海・空・陸のハイブリッド戦力となろう。水上戦闘艦に脅威を及ぼす陸上基地航空機やミサイル部隊が沿岸域に配備されていても、高速・小型哨戒艦艇群によって補完された潜水艦戦力は、死活的海域における敵海軍による制海を拒否するであろう。要するに、敵によるアクセス拒否に対する米軍の対応は、夢の戦闘艦ではなく、夢の戦闘チームということかもしれない。

記事参照:
The U.S. Navy Could Be Facing Its Biggest Challenge Ever: The Anti-Access Dilemma

12月7日「ベトナム籍船タンカー、襲撃、乗組員死亡事案」(ReCAAP ISC, December 7, 2014)

ReCAAP ISCのレポートによれば、ベトナム籍船タンカー、MT VP Asphalt 2は12月7日早朝、マレーシア東岸の南シナ海のプラウ・アウル島南西沖約20カイリの海域を航行中、銃器で武装した7人の強盗に乗り込まれた。強盗は、該船を制圧下に置き、乗組員の持ち物を盗み、積荷を調べた。強盗は、約1時間後に該船から逃亡する際に、乗組員1人に重傷を負わせた。強盗が逃亡した後、船長は、船内を点検し、3等機関士が前頭部に傷を負ってベッドに倒れているのを発見した。船長は、シンガポールのFocal Pointに救助を要請した。機関士はヘリでシンガポールの病院に搬送されたが、その後、死亡した。ReCAAP ISCは、この事案は2009年以来、アジアでは初めての死亡事案であり、武装強盗に乗り込まれた場合には、抵抗しないよう、船長や乗組員に勧告するとともに、夜間の航行には十分な監視態勢をとり、襲撃された場合は速やかな通報を要請している。

記事参照:
ReCAAP ISC, December 7, 2014

12月9日「中国の戦略潜水艦戦力の現状―米通信社報道」(Bloomberg.com, December 9, 2014)

米通信社、Bloombergは12月9日付で、敵の核攻撃に報復する第2撃に不可欠の、米本土を攻撃可能な核ミサイルを搭載する最も隠密性の高い潜水艦を整備しつつあるとして、中国の戦略潜水艦戦力の現状について、要旨以下のように報じている。

(1) 中国が最初の核実験を行なってから50年後、JL–2(巨浪2)戦略核弾道ミサイルを搭載する、探知困難な晋級弾道ミサイル搭載原潜 (SSBN) による哨戒は2014年末までに始まると見られ、11月に公表された米議会の米中経済安全保障調査委員会2014年年次報告書によれば、これによって、「中国は、最初の信頼性の高い海中発射核抑止力を手中にする。」SSBNによる哨戒は、アジア太平洋の安全保障におけるアメリカ覇権の終焉を狙う習近平国家主席にとって、中国の威信を高めるものとなろう。習近平は主席に就任以来、1隻の空母に加え、より長射程の核攻撃能力の整備に国の威信をかけ、軍事支出を増やしてきた。在ブリュッセルの軍事専門家、Nicolas Giacomettiが指摘するように、「(SSBNの配備によって)史上初めて、中国の核戦力は第一撃から生き残ることができることになろう。これは、中国の生き残り可能な核報復能力の取得に向けた新たな跳躍である。」米The Foreign Policy Research InstituteのFelix Chang上席研究員によれば、中国の核防衛戦略は、遠隔のアメリカに加え、ロシアやインドの核保有国からの核攻撃に対しても、核報復を実施できるように整備されているという。

(2) SSBNの配備に当たっては、中国は、海軍司令部と政治指導部がSSBNとの通信を確保し、管制することができていることを外国軍部に保証する必要があろう。中国が領有権を主張する南シナ海と東シナ海において、米中の艦艇と航空機の近接遭遇が増えており、ニアミスや衝突のリスクが高まっている。豪Bond UniversityのMalcolm Davis准教授は、「中国は、SSBNを常時、厳格な管制下に置いていることを、敵対勢力に保証する必要がある」と述べている。Davisによれば、「厳格な管制」とは、最高指導部からのミサイル発射許可コードがSSBNに送信され、艦長と恐らく2人の幹部士官による確認の後、初めてミサイルが発射されるといった、核戦力に対する中共中央軍事委員会の絶対的な管制を保証する手順のことである。そのためには、「中国は、SSBNが洋上あるいは水中にいる時でも、中共中央軍事委員会がSSBNとの通信を維持できることを確実にする、適切な指揮統制インフラを整備しておく必要がある。アメリカ、英国、フランス及びロシアは、厳格な管制を確実にするために、洋上のSSBNとの確実な通信能力を維持している」と、Davisは語っている。

(3) 中国の軍事動向に関する米国防省の年次報告書は、「中国の核戦力計画は透明性に欠けるために、中国の核弾頭搭載弾道ミサイルの基数と弾頭数について精度の高い見積ができない」と述べており、国防省は2006年以降、中国の核弾頭保有数についての推定を公表していない。核弾道ミサイル搭載の晋級SSBNは何時から定期的な哨戒を開始するのか、更には中国の核戦略について、弊社、BloombergによるFAXの質問状に対して、中国国防部は回答しなかった。前出、米中経済安全保障調査委員会2014年年次報告書によれば、中国の現有晋級SSBNは3隻で、2020年までに更に2隻が加わると見られる。晋級SSBNはそれぞれ12基のJL-2ミサイルを搭載可能で、このミサイルは「初期作戦能力を達成した模様である。」年次報告書によれば、JL–2の射程は約4,598マイルで、中国の近海からJL-2を発射すればアラスカに対して、日本の南の海域から発射すればアラスカとハワイに対して、ハワイの西の海域から発射すればアラスカ、ハワイ及び米西岸に対して、そしてハワイの東の海域から発射すれば全米50州に対して、それぞれ核攻撃が可能という。前出のChangは、「これらSSBNの哨戒活動がどの海域で行われるかで、目標地域が決まるであろう」と指摘している。恐らく、SSBNの活動海域は当初、探知される可能性が少ない中国沿岸域や南シナ海に限定されるであろう。 ハワイや米本土を目標にミサイルを発射するためには、SSBNは西太平洋と更にはそれ以遠の海域に進出する必要があり、前出のDavisは、「このためにはアメリカの対潜網を打ち破らなければならず、中国のSSBNにとっては困難な挑戦となろう」と見ている。

(4) 軍事専門家は、核攻撃を受けて後、初めて核報復攻撃を行うという、中国が長年維持してきた「核の先制不使用」政策を変えるとは見ていない。むしろ、前出のGiacomettiによれば、中国は、その核抑止戦力を強化するにつれ、核戦力の将来計画の進展について語り始めるかもしれない。Giacomettiは、「中国側における透明性の増大は、信頼醸成措置の実現可能性を高め、将来の核軍備管理の基盤となるかもしれない」と指摘している。

記事参照:
China Takes Nuclear Weapons Underwater Where Prying Eyes Can’t See

12月10日「南シナ海問題に関する中国外交部公表文書、その評価―バレンシア論評」(The Diplomat, December 10, 2014)

中国南海研究院の非常勤上席研究員、Mark J. Valenciaは、Web 誌、The Diplomat に12月10日付で、“China’s Maritime Machinations: The Good, the Bad, and the Ugly”と題する論説を寄稿し、中国外交部がこのほど公表した、南シナ海問題に対する中国政府の立場に関する文書を評価して、要旨以下のように述べている。

(1) 中国外交部は12月7日、「フィリピン政府によって提起された、南シナ海の管轄権問題の仲裁申し立てに対する中国政府の立場に関する文書 (Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines)」*を公表した。この文書は、南シナ海における領有権問題に関する中国の法的・政治的立場を示したものであり、領土主権や海洋境界線確定に関して、仲裁裁判所は管轄権を有していないとの立場を明示している。更に、この文書は、今回のフィリピンによる提訴は強制的な紛争解決手続の乱用であり、当事国同士の直接交渉による解決を目指すという中比両国間の合意に反していると主張している。この文書は、中国に対する法的・政治的批判に十分応えているかどうかは別にして、既存の国際法を暗黙裡に認めたものであり、かつ近隣諸国の懸念や批判の一部に応えたものであるという点で、重要なものである。従って、この文書は、これまで以上に厳密な反論を呼び起こし、議論の舞台を国際法に―ここでの議論は際限のないものになる可能性があるが―移すことに繋がろう。そうすることで、この地域における中国の政治的立場は、より一層強まることになろう。

(2) 中国の海洋分野における政策や行動に対しては、多くの専門家が中国批判を繰り広げてきた。一部のアジア諸国や保守的な専門家やメディアは、中国を危険で傲慢な国であるとする、「非難と侮辱」のキャンペーンを展開してきた。しかし、他の多くの国と同様に、中国の海洋政策にも良い面と悪い面の両面がある。中国批判の先鋒であるアメリカとは異なり、中国は、164カ国が加盟する国連海洋法条約 (UNCLOS) に加盟している。UNCLOSは、1994年に発行してまだ日が浅く、その解釈も国による施行状況も確定された段階にはない。「航行の自由 (“freedom of navigation”)」、「平和的目的 (“peaceful purposes”)」、「権利の濫用 (“abuse of rights”)」、「妥当な配慮 (“due regard”)」、更には「海洋の科学的調査 (“marine scientific research”)」といった重要な用語は、曖昧にしか定義されていないため、国家によって異なる解釈がなされている。中国も既に、海洋汚染、環境保護及び漁業に関する国内関係法規を定め、主として中国近海において施行している。更に、中国は、ソマリア沖での海賊対処活動にも参加している。アメリカなどの主張とは異なり、中国はこれまで、商業航行の自由については妨害しておらず、実際、この概念を公に支持してきた。中国は、ベトナムとの間でトンキン湾での合同操業海域の設定を含む海洋境界確定に合意している。日本との間では、東シナ海での漁業資源の共有、係争海域での海洋調査の事前通告、そして少なくとも原則的に係争海域の一部における資源の共同開発について合意している。また、北朝鮮との間でも、詳細は不明ながら同様の合意を実現している。更に中国は、ASEANとの間で「南シナ海における関係当事国間の行動宣言 (DOC)」に合意しており、法的拘束力を持つ行動規範の実現に向けてASEANと議論している。中国が管轄権の行使や国内法規を執行する必要があると判断した場合には、中国は主として政府公船を用いている。

(3) 他方、これまでの中国の行動は時に「酷い」ものもあった。まず何よりも、海洋問題における不合理で威圧的と受け止められるような外交姿勢は、近隣諸国との間に友好よりも摩擦を引き起こしてきた。前記の文書は、これまで中国が行ってきた威嚇的な行動に変えて、合理的な議論を重視して行くための努力の一環として受け止められるべきである。この文書は、これまでの威嚇的と見られてきた中国の政策や行動が、UNCLOSを含む現行国際法に沿ったものに移行していくことを示すものであるかもしれない。この文書はまた、UNCLOSにおける様々な定義やその条項に対する中国の解釈を明確化し、擁護するものである。もっとも、こうした中国の解釈が国際的な議論の場で支持されるかどうかは、別問題である。更に、この文書は、中国の積極的な政策や行動を強調する一方で、他の領有権主張国の「悪い」行動と対比することで、他の領有権主張国の違法行為を際立たせている。

(4) 南シナ海における中国の軍事演習や軍事活動は、政治的には好ましいメッセージにはなっていない。日本が領有権を主張する海域における海保巡視船や海自哨戒機との異常接近事案を含め、他国の軍や警備機関の艦船や航空機に対する嫌がらせや威嚇的行動が生じている。確かに、中国は、日本による挑発的と見られる行動に対応しているだけであるが、しかし、こうした異常接近事案は危険であり、日本だけでなく全ての国が懸念している。更に、DOCが求める「自制」や、紛争海域における軍事訓練や一方的な活動、そして埋め立て工事による「無人島嶼の居住地化」など、中国による露骨なDOCの違反行為は、外交的に「酷い」ものである。確かに、他の領有権主張国も同じような行動をとってはいるが、中国は、外交的により高い地歩に立たなければならない。前記文書は、そうした方向に向けた第一歩といえる。

(5) 中国にとって不幸なことに、中国の「良い」行動は一部の外国政府、専門家そしてメディアからは無視され、反対に「悪い」面が取り上げられ、その「酷さ」がセンセーショナルに強調されてきた。こうしたことが、中国は既存の国際秩序に挑戦しているのかもしれないといった、中国脅威論に拍車をかけている。この点でも、前記文書は、こうした状況改善に向けての一歩となる。要するに、中国は東シナ海と南シナ海において柔軟な姿勢が必要とされており、この文書はそれに向けての好ましいスタートとなる。このことは何も領土主権や管轄権に対する主張を放棄することを意味するのではなく、北京は、そのレトリックと行動のトーンを落とすことが必要だということである。それができなければ、域内(世界中ではない)における反中包囲網の形成というリスクに直面することになろう。そうなれば、中国国内におけるナショナリズムが煽られることになり、それがまた、他国からの否定的反発を誘発することになろう。ナショナリズムの作用と反作用の力学は、熱戦か、冷戦かの敵対感情を高めることになろう。この点からも、前記文書が東アジア地域に対する中国のより積極的な外交の嚆矢となることを期待したい。

記事参照:
China’s Maritime Machinations: The Good, the Bad, and the Ugly
備考*:Position Paper of the Government of the People’s Republic of China on the Matter of Jurisdiction in the South China Sea Arbitration Initiated by the Republic of the Philippines, Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China, December 7, 2014

編集責任者:秋元一峰
編集・抄訳:上野英詞
抄訳:飯田俊明・倉持一・黄洗姫・山内敏秀・吉川祐子