海洋情報旬報 2013年12月1日~10日

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12月3日「北極海経由航路の常用化、依然時期尚早」(The Arctic Journal, December 3, 2013 )

「北極政策経済フォーラム (The Arctic Policy and Economic Forum)」の最初の年次総会が11月末にコペンハーゲンで開催され、北極海経由航路の実現可能性に期待を寄せる政策決定者らが参加した。北極海経由の航路は近年、パナマやスエズ運河を経由する伝統的なルートより近い経路としてますます注目されてきたが、海運業界の大方の見方では、北極海経由の航路が競争力のある代替ルートとなるには少なくとも今後十年はかかるという。それにもかかわらず、コペンハーゲンでの会議を主宰した「フォーラム」の創設者、Damien Degeorges博士は、遠くオーストラリアなどからの参加者もあり、北極海経由の航路が今や「大きな話題」になってきたと述べ、「北極海は、もはや世界の極地ではなく、世界中の主要国家が関与し合う、国際政治の中央舞台となっている」と強調した。

北極圏の開発は、主に石油や鉱物資源の開発と海運ルートの2つの面から議論されている。Degeorges博士は、グリーンランドを引き合いに出し、今後の数年間で多くの鉱山が開発され、資源開発と海運輸送が結び付くことになろう、と語った。北極海の西端では、北極海経由の航路の主要ハブ港としての地位を目指して、一部の国が動き始めている。既にアイスランドとフィンランドでは、アジアから欧州あるいは北米に向かう貨物の積み替え港を目指す取り組みが始まっている。しかしながら、北極海経由の航路の常用化に対する期待が高まってきてはいるが、常用化には幾つかの障害があり、インフラの欠如や捜索救難能力と航行支援施設の不足が指摘されている。

記事参照:
Arctic’s ship still over horizon

12月3日「中国の『選択的アクセス拒否』戦略とアメリカの対応―ホームズ論評」(The national Interest, December 3, 2013)

米海軍大学のホームズ (James Holmes) 教授は、12月3日付の米誌、The National Interestに、“China’s Selective Access-Denial Strategy ” と題する論説を掲載し、“Access denial ”という用語は単純化され過ぎた適切な表現ではなく、“Selective access denial”(「選択的アクセス拒否」)の方が中国の戦略に鑑みてより精緻な表現であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) 「アクセス拒否 (“Access denial ”)」とは、中国のような沿岸国が外国の軍民全ての艦船や航空機に対して扉を閉ざすという意味と解するなら、単純化され過ぎた用語であり、むしろ「選択的アクセス拒否 (“Selective access denial”)」という用語の方が、中国の戦略をより正確に表現する。北京は、この地域の海路と航空路を経由する通航に対する統制を望んでおり、しかも他国にそれを認めさせようとしている。中国は、商業的アクセスを咎めているわけではないし、貿易は歓迎している。また、軍事的アクセスについても、全面的な禁止というわけではなく、中国は、ある種の海洋活動を制限したいだけで、海洋における外国の商船や軍艦に対して航行の自由を認めている。同様に、最近中国が東シナ海に設定した防空識別圏 (ADIZ) を飛行する航空機に対しても、航行の自由を認めている。このことは、一見無害に思える。しかし、中国当局は、航行とは通り過ぎる権利であって、それ以上の何ものでもない、と急ぎ付言するであろう。要するに、北京は、他国が輸送に使用するシーレーンは認めるが、他国が戦闘即応態勢を強化するような活動を行うことを拒否しているのである。国連海洋法条約 (UNCLOS) が沿岸国の海岸線から12カイリ以内の「領海」における軍事活動を禁止しているように、この地域での監視飛行、海洋調査及び空母からの航空機運用などは、中国が禁止したいと望んでいる活動である。実際、北京は、管轄権を主張する海空域を航行し、飛行する船舶や航空機に対して、領海、領空と同じように「無害通航」規則に従うことを求めているのである。

(2) 海洋法の父と呼ばれる、グロティウスは、自由な海を主張した。自由とは、単なる輸送のみに限定されるものではない。マハンは、領海を超えた水域を「ワイド・コモン (“wide common ”)」と呼んだ。こうした海域の使用に当たっては、誰も、許可を必要としなかった。ワシントンは、北京の巧妙な言葉のごまかしを暴き、「コモンズ」を、本来あるべき位置、即ち海洋秩序の核心に戻す義務がある。アメリカ政府は、航行の自由は、グロティウスやマハンが主張し、UNCLOSにも盛り込まれた他の自由とは切り離せないものであることを、強く主張しなければならない。アクセスはアクセスなのである。

(3) 中国は、「コモンズ」における大方の利用法を積極的に認めることによって、費用対便益比の論理をアメリカに不利な形に変えてしまった。クラウゼヴィッツは、国家がその政治的目標にどの程度の価値を見出すかによって、その目標の達成に投入する努力―資金、ハードウェアそして人命の規模と期間が決まる、と教えている。もし北京がアジアの海域や空域に対する外国のアクセスを全面的に禁止するなら、ワシントンにとって問題は簡単だ。いかなるアメリカ大統領も、全面的アクセス拒否を容認できるはずがない。クラウゼヴィッツの教えに従えば、「コモンズ」をこじ開け、オープンな状態に維持しておくために、アメリカは、最大限の「規模」と「期間」の努力を投入することになろう。中国の真っ向からの挑戦に対しては、アメリカも正面から応じるだけである。

(4) ところが、中国は、アメリカに対して、一見それほど重要でないように思われる事を護るために、多大の努力を払うよう仕向けているのである。北京は、偵察飛行や海洋調査を行なう権利のためにどれだけ犠牲を払うつもりか、とワシントンに密やかに問いかけているのである。しかし、もしアメリカの指導者が、クラウゼヴィッツの論理に従って、一見して見返りの少ない、しかしコストのかかる活動を控えれば、実際には、アメリカは、非常に価値のあるものを譲り渡してしまうことになろう。即ち、アメリカの指導者は、この地域の強国が沿岸域へのアクセス条件を決定できることを容認することになり、「開かれたコモンズ」の原則を犠牲にしてしまうことになろう。従って、「選択的アクセス拒否」は、たいしたものでないどころか、アメリカ主導のリベラルな秩序の核心に打撃を与えるものである。

(5) 「コモンズ」は何よりも観念であり、思想である。一部の沿岸国家にある地域の海域や空域の自由を選択的に制限することを許すようなことになれば、この観念あるいは思想が次第に浸食され、アジアのみならず世界中に有害な影響を及ぼしていくことになろう。アメリカの指導者は、ADIZ、南シナ海そしてその他のアジアのフラッシュポイントをめぐる軋轢の中で基本的な原則が危機に瀕していることを承知しており、しかも、この基本的な原則はいかなる犠牲を払ってでも護る価値があると考えていることを、北京に知らしめておかなければならない。

記事参照:
China’s Selective Access-Denial Strategy

12月3日「インド海軍、民間洋上武器庫に深刻な懸念表明」(The Times of India, December 4, 2013)

インド海軍のジョシ司令官は12月3日、インド洋沖の「民間洋上武器庫」について、この「全面的に非合法な活動」が引き起こしかねない事態に、「深刻な懸念」を表明した。ジョシ司令官は、IMOに提出した書面で、「洋上武器庫は、テロリストの潜入などを招きかねず、我々にとって極めて深刻な安全保障上の懸念である。インド洋北部では、民間武装警備員を乗せた140社近い民間警備会社の船が展開しており、これら警備要員が、何処の港にも寄港することなく、また沿岸国の領海法規が適用されない洋上で、船から船に乗り移っている」と語った。ジョシ司令官はまた、インド政府はこれら洋上武器庫には一部の国の制服の戦闘要員が乗り込んでいるとの報告を受けていると述べ、洋上武器庫や武装警備員の活動を規制する国際的枠組の欠如を指摘した。その上で、ジョシ司令官は、「我々は、インドのEEZに近接する海域におけるこれら洋上武器庫について、何人の武装要員が乗り込んでいるのか、どのような武器を携行しているのか、どのような国際的な規制が必要か、などについて知らなければならない。実際、全てのインド洋沿岸国は、こうした洋上武器庫の実態を把握しておかなければならない」と強調した。

一方で、ジョシ司令官は、事実上インド西岸海域も含まれている、IMOが公表している現在の「危険海域 (“high risk area”)」の指定について、元に戻すよう求めている。ジョシ司令官は、この2年間、海軍の哨戒活動の強化によって、インド西岸から450カイリ以内の海域では、海賊襲撃事案が1件も報告されていないと強調し、「商船は現在の危険海域の境界近くのインド西岸海域付近を航行しているが、その必要はない」と述べた。

記事参照:
Navy sounds alarm on ‘floating armouries’

12月5日「USS Cowpens、中国海軍戦闘艦と異常接近」(The Stars and Stripes, December 13, 2013)

米太平洋軍によれば、誘導ミサイル巡洋艦、USS Cowpens (CG- 63) は12月5日、南シナ海の国際海域で中国海軍戦闘艦と異常接近した。太平洋軍は声明で、「USS Cowpensは、国際海域で合法的に行動中、中国海軍戦闘艦と遭遇し、衝突回避行動を求められた。この事案は、予期せぬ事故や誤算を防ぐために、艦艇間のコミュニケーションを含む、高水準のシーマンシップの確立の必要性を示している」と述べている。米海軍当局者によれば、中国海軍艦艇は国際海域でUSS Cowpensを停船させようとしたが、発砲はなかったという。別の当局者によれば、この事案は、最終的にはUSS Cowpensと付近にいた中国海軍の空母(「遼寧」)との間の無線による艦対艦の通信によって解決されたという。米国務省広報官は、中国政府とのハイレベル会合で、この問題を提起したことを明らかにした。

記事参照:
Chinese warship nearly collided with USS Cowpens
Photo: The Ticonderoga-class guided-missile cruiser USS Cowpens

【関連記事1「進まぬ米中間の海洋及び空中の安全に関する協定作り―セイヤー論評」(The Diplomat, December 17, 2013)

オーストラリアのThe University of New South Wales のカール・セイヤー (Carl Thayer) 名誉教授は、12月17日付のWeb誌、The Diplomatに、“USS Cowpens Incident Reveals Strategic Mistrust Between U.S. and China” と題する論説を寄稿し、米中間の海洋及び空中の安全に関する協定作りが進まない現状について、要旨以下のように述べている。

(1) 中国の空母「遼寧」は11月26日、山東省青島の母港を出港し、初めて南シナ海に向かった。「遼寧」には、誘導ミサイル駆逐艦「瀋陽」、「石家荘」及びミサイル・フリゲート「煙台」、「濰坊」の4隻が随伴している。「遼寧」の行動は、米海軍のTiconderoga級誘導ミサイル巡洋艦、USS Cowpens (CG-63) によって公海上でずっと監視されていた。12月5日、中国海軍の1隻がUSS Cowpensに無線連絡し、海域を離れるよう指示した。USS Cowpensは公海上にあると応答し、変針を拒否した。USS Cowpensは、艦首500メートル未満の至近距離を突然、横切ってきた中国海軍のドック型揚陸艦によって進路を妨害され、衝突を避けるために回避行動を取らざるを得なかった。中国の環球時報は、この事件について異なる報道を行っている。この事件に詳しい中国側情報筋は、USS Cowpensは「遼寧」空母群の45キロの内側防衛ゾーンに進入したとしている。更に、USS Cowpensは、「遼寧」空母群を追尾し、悩ませていた。事件の日、12月5日、USS Cowpensが最初に「遼寧」空母群に対し攻撃的な行動を取ったと指摘している。

(2) アメリカは16年前に初めて、海洋と空中の安全に関する協定を中国に提案した。この提案はその後、1997年5月に当時のシャリカシビリ統合参謀本部議長が中国のカウンターパートである傅全有人民解放軍総参謀長と北京において会見した時、改めて提案された。海洋及び空中の安全に関する協定については、1997年10月に当時のクリントン大統領と江沢民中国国家主席との会談においても取り上げられた。首脳会談の成果として、米中定期国防協議の開催と軍事海洋及び空中の安全に関する協定を締結することに合意した。第1回米中国防協議はクリントン・江沢民会談の3カ月後に米国防省で開催され、両国は、軍事海洋及び空中の安全に関する協定草案に調印した。両国は1998年1月に、「軍事海洋安全強化のための協議機構設立に関する米国防省と中国国防部の協定 (The Agreement Between the Department of Defense of the United States of America and the Ministry of National Defense of the People’s Republic of China on Establishing a Consultation Mechanism to Strengthen Military Maritime Safety)」に正式に調印した。この協定は通常、「軍事海洋協議協定 (The Military Maritime Consultative Agreement: MMCA)」といわれ、海洋及び空中において行動中の米中両軍部隊間での事故発生を局限するための枠組構築を目指したものである。

(3) 米中国防協議は、1999年5月のNATOによるベオグラードの中国大使館誤爆によって中断され、2000年1月まで再開されなかった。2001年4月には南シナ海で米海軍のEP-3電子偵察機と中国の殲-8戦闘機の衝突事故が発生した。この事故を受け、同種事故をいかに防止するかを討議するために、2001年9月にグアムでMMCAによる最初の特別会議が開催された。この会議で、アメリカは、以下の問題を提起した。第1に、公海、国際空間及びEEZにおいて行動する軍の安全な飛行と航海の原則、第2に、緊急時に避難行動の権利を行使する艦艇及び航空機の安全である。これらの提案は、MMCAの作業グループに付託された。しかし、その後12年を経過しても何の成果が生まれなかった。もし成果が得られていれば、USS Cowpensの事件は防げたかもしれない。MMCAの協議が暗礁に乗り上げたため、米中両国は2005年初めに、MMCAでは対象としない国防政策問題に関する特別政策対話を立ち上げた。特別政策対話は、2009年12月の正式な「国防政策調整対話 (The Defense Policy Coordination Talks: DPCT) の設立に繋がった。米中軍事関係は、2009年3月に米海軍音響測定艦、USNS Impeccableの行動に対して中国の艦船5隻が妨害行動を行った事件で再び後退した。この事件以降、中国は、アメリカに対して、軍事関係の進展を阻む3つの障害に対処するよう要求し始めた。3つの障害とは、台湾に対する武器装備品の売却の停止、12の分野での軍事協力を禁止する2000年度国防授権法の条項の無効化、及び中国のEEZ内における米軍艦艇と航空機による至近距離での偵察行動の停止である。更に、中国は、DPCTを事務レベルに格下げした。2013年6月のカリフォルニアでのオバマ大統領と習近平国家主席との非公式首脳会談は、両国間の軍事関係の改善を図る場となった。第14回米中国防協議は9月9日、北京で開催された。両国は、如何にして戦略的信頼性を高め、海洋における安全を含めた協力の分野を設定し、そして誤算を避けるためのコミュニケーションを強化するかを討議した。国防協議は、これらの問題を海洋法の専門家に委ね、2国間対話を維持することに合意するという結論に達した。

(4) USS Cowpensの事件は、16年にわたる海洋及び空中の安全に関する協定に向けての交渉を経ても、軍同士の協議と戦略対話が戦略的不信を減少し、透明性を向上させることにはほとんど繋がらなかったことを示している。米中両国を分かつ深い溝が依然存在しており、従って、今後、南シナ海とその上空で海軍艦艇や軍用機が遭遇した場合、より不幸な結果が引き起こされかねない。

記事参照:
USS Cowpens Incident Reveals Strategic Mistrust Between U.S. and China

【関連記事2「USS Cowpens の事故、戦略的不信を増大―ベイトマン論評」(RSIS Commentaries, December 23, 2013)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のアドバイザー兼上席研究員のサム・ベイトマン (Sam Bateman) は、12月23日付けのRSIS Commentariesに、“The USS Cowpens Incident: Adding to Strategic Mistrust” と題する論説を寄稿し、最近東アジア海域で発生している海軍艦艇の事故は、戦略的不信を増大させるとともに、発生の可能性があるINCSEA (Incident At Sea) に関する協定を含む、海軍の活動に関する共通の理解を醸成する必要性を示唆しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 東シナ海と南シナ海における領有権を巡る紛争の中で、この海域での海軍艦艇の接近遭遇事案が増えているように思われる。12月5日には、米海軍誘導ミサイル巡洋艦、USS Cowpens (CG-63) は、進路上で停船していたといわれる中国海軍の揚陸艦との衝突を回避するため緊急回避行動をとらなければならなかった。これより先、10月後半には、中国は、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機が東シナ海の中国海軍の実射演習を妨害した、と正式抗議を行った。これらの2つの出来事は類似している。両方とも、ある国の海軍演習を他国の海軍が妨害した事案である。これらは、旧ソ連海軍とNATOの海軍がいつも互いの活動を妨害していた冷戦時代を思い起こさせる。こうしたことが頻繁に見られるようになれば、この地域の海洋の安全が悪化する。このことは、特に一方における中国海軍そして他方における米海軍と海上自衛隊との間で、2国間のINCSEAに対する協定の必要性を高めている。

(2) USS Cowpensの事故は、南シナ海で中国海軍の空母、「遼寧」と数隻の随伴水上戦闘艦が演習中に起こった。中国側による航行上の警告と回避海域告知にもかかわらず、USS Cowpens は、接近して演習を監視していた。中国側の主張によれば、「遼寧」の「後ろをつけ回し妨害し (“tailing and harassing”)」ていた。こうした接近した監視行動は、冷戦時代を思い出させる。米国防大学が2012年9月に公表した報告書、‘Managing Sino-US Air and Naval Interactions’* は、「アメリカの監視行動と実施とその対応に関するドクトリンと運用上の慣例は、主として冷戦時代の旧ソ連軍との相互行動を継承している」としている。こうした監視行動には、単なる情報収集に止まらず、プレゼンスを誇示するとともに、時に「邪魔する」ことも含まれている。USS Cowpensの事案は、米海軍の主要水上戦闘艦がこうした役割を果たした最初のケースと考えられる。こうした事案が頻発するようになれば、この地域の安全保障に悪影響を及ぼすことになろう。全ての国の海軍には、特に自国のEEZ内であるいは公海上で、他国の海軍による妨害を受けることなく、演習を実施する権利がある。米国防省当局者は、USS Cowpensは公海上にあり、従って「他国の海軍同士が互いに近接して作戦行動するのは普通のことである」と主張している。しかしながら、この主張には疑問がある。何故なら、特にある国が演習実施に関して適切な航行上の警報を事前通告している場合、他国の海軍が近接海域で行動することは慣例とは言えないからである。

(3) 冷戦時代の旧ソ連海軍と米海軍やNATO海軍の間にあったような、INCSEA協定はこの地域には必要がない、というのがこれまでの一般的な考えであった。何故なら、米中間に「冷戦」はなく、冷戦時代の西側と旧ソ連の海軍同士が相互に監視し妨害をするような環境が米中間にはなかったからである。USS Cowpensの事案は、こうした状況が変化している可能性を示唆している。INCSEA協定の適用が想定される海域の位置付けは、米中間のINCSEA協定を難しくしている要因となっている。旧ソ連とNATO海軍間の協定は、公海における行動にのみ適用された。しかしながら、東シナ海と南シナ海は、公海または国際海域ではない。この海域は事実上、沿岸諸国が大きな権利と義務を有するEEZである。これらの海域で適用されるINCSEA協定は、第3国のEEZ内における軍事活動を巡る米中間の見解の相違を際立たせることになろう。もし米中両国の海軍戦闘艦船同士の接近事案が発生すれば、米海軍の広報官は、「1972年の国際海上衝突予防規則に関する条約 (The 1972 International Convention on the Prevention of Collisions at Sea: COLREGS)」に頻繁に言及し、関与した中国海軍戦闘艦船がCOLREGSを厳守しなかったと主張するであろう。しかしながら、こうした事案をCOLREGSに照らして正当に評価できるような状況は、実際にはめったにない。COLREGSは一方に都合の良いに運用できる。それは比較的容易で、戦術上他方の艦船が航路を譲らなければならないような状況を作為することである。USS Cowpensの事案では、USS Cowpensの方が航路を譲って回避する位置にあったと、メディアでは報道された。

(4) 問題は、他国海軍の運用を接近監視する利点が、他の手段を以てしては得られない情報収集という点から、コストを無視してでも実施する価値があるかどうかである。 INCSEA協定は、確かに役には立つであろう。もし近い将来にこれが実現できない場合、他国海軍の合法的な演習に対する干渉にしないことについて、より大まかな相互了解が可能かもしれない。その場合の最も基本的な要求は、全ての国が戦略的不信を高めるような行動を自制するということでなければならない。

記事参照:
The USS Cowpens Incident: Adding to Strategic Mistrust
備考:‘Managing Sino-US Air and Naval Interactions’ is available following URL;
http://www.ndu.edu/press/lib/pdf/china-perspectives/ChinaPerspectives-5.pdf

12月6日「英民間海洋警備会社、日仏の自国籍船への武装警備員添乗許可を評価」(GoAGT HP, December 6, 2013)

英国の民間海洋警備会社、GoAGT Ltd. (Gulf of Aden Group Transits Ltd.) は、日仏両国が自国籍船への武装警備員の添乗を許可したことを評価した。同社の幹部は、「こうした措置を未だ講じていない国は、世界の海運ルートを安全に維持するために、こうした措置をとるべきである」と語った。同幹部は、「日本の原油タンカーに添乗する武装警備員は、既に他の多くの海運国が採用している多層的な防衛システムを強化することになろう。このことは、日本籍のタンカーはもはやソフトターゲットではないということを、あらゆる海賊襲撃グループに知らしめる強力なメッセージとなろう」と付け加えた。同社のCEOは、「フランスの政策変更は、海賊問題が同国のエネルギー供給の安全に対する懸念を高めていることを示している。海賊の脅威はソマリア沖ででも依然として存在し、ギニア湾のように海賊の活動が激化している海域もある。各国と各海運会社は自ら防衛する必要がある」と語った。

GoAGT Ltd.は2008年以来、1,600回以上のインド洋での武装警備員の添乗任務で、100%の成功率を達成してきた。GoAGT Ltd.は、300人以上の武装警備員を雇用しており、常時160~180人を添乗させている。武装警備員は、主として英国海兵隊、空挺部隊及び陸軍部隊での前線勤務経験を有する退役軍人を徴募している。

記事参照:
Armed security teams on French and Japanese ships are welcomed

12月6日「カナダ、北極海における大陸棚の延伸申請」(CBC News, December 9, 2013)

カナダは12月6日、国連海洋法 (UNCLOS) に従って、北極海の大陸棚の一部に対する延伸を申請した。戦略問題の専門家によれば、カナダが北極海海底における200カイリ以遠の大陸棚延伸を認めさせるには、長い時間がかかろう。問題は、ロシア、デンマーク、ノルウェーを含むその他の国々も、資源の豊富な供給源である海底の一部に対して同じ主張をしていることである。カナダは、延伸申請の全貌を明らかにしていないが、自国の大陸棚が北極点を越えてどこまで延びているかを確認するために、大規模な科学研究に投資してきた。ベアード外相は12月9日、カナダが北極点までの延伸と、大西洋と北極海の海底資源の領有権を主張する予定であり、北極海海底の科学的な調査を継続する計画である、と述べた。

記事参照:
Arctic claim process melds science, diplomacy
See also Preliminary Information concerning the outer limits of the continental shelf of Canada in the Arctic Ocean;
http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/preliminary/can_pi_en.pdf

【関連記事】「プーチン大統領、北極圏における軍事プレゼンスの強化を指示」(The Globe and Mail, December 10, 2013)

カナダ外相が12月9日に北極点までの大陸棚外側限界の延伸申請の方針を確認したことを受けて、ロシアのプーチン大統領は翌12月10日、軍高官会議で、軍の最優先施策の1つとして、北極圏における軍事プレゼンスの強化を指示した。大統領は、軍が最近再開したノヴォシビルスク諸島の旧ソ連時代の基地の重要性を強調するとともに、1991年のソ連崩壊以降、放置されてきた北極圏の空軍基地の多くを再開すると述べた。ショイグ国防相は、大統領の指示に従って、北極圏でのロシアの国益を護るために、2014年には軍部隊を創設する意向を明らかにした。

記事参照:
Russia to boost Arctic military presence following Canada’s North Pole seabed claim

12月7日「オーストラリア、日本に潜水艦技術移転要請」(The Australian, December 7, 2013)

オーストラリアの保守系紙、The Australianが12月7日付で報じるところによれば、オーストラリア国防当局者は、将来の潜水艦戦力強化のために、日本に潜水艦技術の移転を要請したことを認めた。それによれば、日本との防衛協力を拡充するためのオーストラリア側の努力の一環として、日豪両国の当局者は既に、新型潜水艦建造における協力について話し合いを行った。オーストラリア国防当局者によれば、新型潜水艦は現有Collins級の発展型になる可能性が高く、オーストラリアは、世界でも最新の非大気推進 (AIP) システムを装備する海上自衛隊の最新型、「そうりゅう」級の技術移転を望んでいる。日本の武器輸出禁止政策は、域内各国との協力関係見直しの過程で、徐々に緩和されつつある。

記事参照:
Japan Australia talked to share submarine technology

12月10日「インド海軍の空母、その戦略的含意―インド専門家論評」(The Diplomat, December 10, 2013)

インドのシンクタンク、The Institute for Defence Studies and Analysesのシン (Abhijit Singh) 研究員は、12月10日付けのWeb誌、The Diplomatに、“INS Vikramaditya and the Aircraft Carrier Debate” と題する論説を寄稿し、ロシアでの改修を終えてインド海軍戦闘艦として正式に就役した、空母、INS Vikramadityaの戦略的含意について、要旨以下のように論じている。

(1) インド海軍は、INS Vikramadityaの就役によって活気づいている。2カ月前には、インド初の国産原潜、INS Arihantの原子炉が臨界に達した。INS Vikramadityaの就役は、インド海軍がインド洋海域のみならず、それを越えた存在として変貌していく可能性を秘めた、ゲームチェンジャーと見なされつつある。INS Vikramadityaの偉容とその能力は実際に大きな影響を与える。同艦の排水量は4万5,500トンであり、インド海軍がこれまで保有してきたどの艦船よりも大きい。搭載航空戦力はKamov-31ヘリとMiG 29K多目的戦闘機で、世界で最も進んだ艦載機の1つである。加えて、国産軽戦闘機の海軍型が搭載されるかもしれない。そうなれば、INS Vikramadityaは、2種の短距離発艦拘束着艦 (STOBAR) 機を運用するインド海軍初の空母となる。

(2) 興味深いことに、INS Vikramadityaの就役は、現代の海洋戦略における空母の位置づけという、専門家の間で長く論議されてきた問題を改めて提起している。支持論者は、空母は海洋戦略の中核であり、外洋海軍の運用計画における中心的役割を果たす戦力である、と主張する。反対論者は、空母は(新型の破壊的な兵器や技術に対して)極めて脆弱であり、不適切な装備である、と言う。彼らはまた、運用経費が巨額であるばかりでなく、海面下からの攻撃、長距離戦略空軍力や弾道ミサイルに対して事実上無防備であるということは空母が戦争においてはほとんど重荷でしかない、と指摘する。

(3) こうした批判も予想される反面、大型戦闘艦を保有する理由もある。現代の海洋戦略では、大型戦闘艦を新しい概念の中で見る必要がある。今日の外洋海軍は、3つタイプの通常能力を必要としている。第1のカテゴリーは「ハード・パワー」としての能力で、これらは、海軍戦闘における真の戦闘力である、駆逐艦、フリゲート、ミサイル艇、攻撃型潜水艦などである。これらの能力は、攻撃、防御の両方の戦闘に使用され、海洋における戦闘の推移と結果を左右する。第2は「ソフト・パワー」としての能力で、これらは病院船、人道支援・災害派遣 (HADR) 用の艦船、及び調査船などである。これらは、有意義な地域的(そしてグローバル)な任務遂行を可能にし、海軍のソフト・パワーの展開には不可欠である。第3に、そして最も重要な能力として、海軍は「戦力投射 (“power projection”)」能力を必要とする。この能力は、海洋戦略における決定的な部分である。戦力投射能力は、当該国家の戦略的能力と政治的意図を具現化したものである。各国海軍は、国家の影響力と地域的な存在感を誇示するために、国境を越えて自国のパワーを投射しようとする。空母は、このカテゴリーに当てはまる戦力である。空母を保有することは確かに威信の誇示であり、しかもその威信はますます国家の影響力と同義と見なされるようになっている。空母保有論者が指摘するように、各国の港への空母の寄港は、潜水艦や駆逐艦などとは比較にならない外交的影響がある。それ故に、将来の海洋任務が(両用強襲艦艇のような)多目的艦艇重視へのシフトを必要とするような柔軟性の高い所要が高まっているとの認識がある中でも、空母が現在の艦型を維持し続ける可能性は依然高い。 

(4) 更に、空母を巡る議論に付け加えるとすれば、空母は、制海か接近拒否かを巡る論議に終止符を打つわけではないということである。空母を保有することはより実際的でより安価な接近拒否概念に対する制海概念の勝利を意味する、と見られてきた。専門家は、国家の海洋戦略に固有のこの2つの基本的な概念を、同等のものと間違って引用しがちである。制海概念は海軍の戦闘目的を決める前提条件で、接近拒否概念(前者の下位概念)は、より限定された概念で、より強力な敵が特定の海洋空間を利用するのを拒否することを意味する。両者は国家の海洋戦略という大きな枠組みの中で不可欠の役割を果たしているが、いずれが他方に取って代わるというものではない。しかし、これらの概念には1つ大きな違いがある。接近拒否が攻撃的な敵から自国の海洋領域を護る上で有効なことから、この概念は主に戦時の概念である。一方、制海概念は、戦時における戦闘海域の制圧いうことに加えて、平時における海軍の役割の拡大(国家の大戦略における不可欠の要素)という意味もある。それ故、制海概念は、海軍戦略における用語としての有用性は、拒否概念よりも遙かに高い。

(5) インド海軍にとって、2個の空母戦闘群を東部方面艦隊と西部方面艦隊に各1個配備することは、長年の夢であっただけでなく、海軍の運用構想の中核をなすものである。空母、INS Viraatは退役間近であり、インド海軍は、戦力更新の必要に迫られていた。INS Vikramadityaは、長年の夢を実現する1歩である。順調にいけば、2018年末までには、コーチンの造船所で建造されている、4万トンの空母、INS Vikrantが配備される。インド海軍のジョシ司令官の言葉を借りれば、INS Vikramadityaは、「INS Viraatの退役とINS Vikrantの就役の間隙を埋める。」インド海軍は、中国海軍の海洋における野心、そして空母、「遼寧」が中国のインド洋進出に果たす役割を気にかけている。空母、「遼寧」は、中国海軍の戦力投射能力の強化に加え、中国海軍の「遠海」戦略における鍵となる、ソフト・パワー外交にも有用な戦力である。中国海軍は、第1、第2列島線と知られる列島線防衛のためのハード・パワーの役割にも、空母を使うことを検討しているといわれる。事実、専門家の間では、中国が将来、空母を追加建造する可能性が高いと見ることで一致している。このことは、中国海軍が空母建造計画に重きを置いていることを示している。結局、空母の保有は、それだけで外洋海軍能力を意味するわけではなく、海軍力の方向性を象徴するわけでもない。もし空母を(ソフト・パワー外交から戦力投射や戦闘作戦任務にまで簡単に切り替えることができる)多様で柔軟な戦力として海軍戦力に取り込むことができれば、空母は、国家の外交政策にとっても海軍戦略にとっても、ゲームチェンジャーとなり得る。もし賢く使えば、INS Vikramadityaは、インド洋の戦略環境を形成していく上で決定的な役割を果たし得ると言えよう。

記事参照:
INS Vikramaditya and the Aircraft Carrier Debate