海洋情報旬報 2013年11月21日~30日

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11月21日「中国の挑戦と日米同盟―米専門家論評」(PacNet, No. 83, November 21, 2013)

米ハワイのThe Pacific Forumのexecutive director、Brad Glossermanは、11月211日付のPacNetに、“The China challenge and the US-Japan alliance ” と題する論説で、日米同盟にとっての最大の課題は中国であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) ワシントンと東京は、地域安全保障に対する北京の直接的挑戦に対処していくとともに、中国の台頭が日米2国間関係に及ぼす影響に対応していかなければならない。後者の方が、前者よりもより困難である。何故なら、中国に対する両国の評価では相当程度、共通しているが、中国の行動にどう対応するかという点で、アメリカと日本の間にギャップが広がりつつあるからである。東京の現在の懸念は、中国の核戦力の増強がワシントンをして中国の侵略に対処することを躊躇させるような戦略環境、即ち、米中間に「相互脆弱性 (“mutual vulnerability”)」、しばしば「戦略的安定 (“strategic stability”)」とされる状況が現出することである。この状況は、戦略レベルにおける安定をもたらすが、地域レベルにおいては小規模な挑発あるいは侵略を誘発する、「安定・不安定のパラドックス (a “stability-instability paradox”)」の戦略環境に繋がる(冷戦期には米ソの「相互確証破壊 (MAD)」がこうした状況をもたらした)。

(2) こうした戦略環境における地理的焦点は、尖閣諸島である。長年にわたって、アメリカは尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲にあると主張しているが、日本は安心していない。アメリカの基本的な主張は、「アメリカは、領有権紛争に対してはいずれも側にも与しないが、尖閣諸島は『日本の施政権下にある』ことから、安保条約第5条の適用下にある」というものである。日本の専門家と政府当局者は、尖閣諸島に対する日本の領有権を支持するとともに、地域を不安定化させる中国を厳しく非難するよう、アメリカに対してより積極的な対応を期待している。

(3) こうしたギャップが生じる原因の1つは明らかである。即ち、日本は現に、中国の行動によって脅かされていると感じている。日本の学者が説明するように、「これは、自国政府の管轄下にある日本の領域が外部の敵によって脅かされるかもしれないという可能性を、日本人が実感する初めての出来事である。」一方、アメリカは中国の行動を懸念してはいるが、中国の脅威は、地理的にもまた時間的にも距離があり、それだけにより観念的である。このことは、2つ目の原因に繋がる。各国とも、自国の安全保障上の脅威を順序づけている。中国は日本の脅威リストの先頭に位置づけられているが、アメリカは北朝鮮を域内の直接的脅威と見なしている。アメリカは、いずれのケースでも紛争に巻き込まれる危険があるが、平壌を、北京よりも好戦的で予測できない脅威と見なしている。3つ目の原因は、日米両国の対中関係の認識にある。中国は、両国にとって最大の貿易相手国であり、投資先でもある。しかしながら、ワシントンが、北京との関係を、より広範な視点からパートナーと見なしているのに対して、日本の視野は狭く、中国を一義的には脅威と見なしている。アメリカが中国との戦略的パートナーシップに、あるいは時に中国との協力にさえ言及する時、東京は神経過敏になる。

(4) こうしたギャップを埋めるために、まず、アメリカは、中国との協力を推進し、また東京にも同じように中国との協力を求める一方で、ワシントン、東京そして北京との間が正三角形であるという概念を払拭していかなければならない。日米同盟は、日米関係と米中関係とを全く別物としている。第2に、オバマ大統領と安倍首相が胸襟を開いて話し合う時に来ている。両首脳はハワイで会うこともできる。2人が浜辺を歩いている写真は、日米関係のフレーミングを変えることになろう。そして太平洋軍司令部での会談は、安全保障協力に対する両国のコミットメントを象徴するものとなろう。第3に、両国の安全保障関係者は、地域対話と2国間の有事計画の立案を加速しなければならない。近年、これらの分野では大きな進展があったが、変化する安全保障環境は、公式、非公式のレベルで、より一層の対話を必要としている。日米両国はそれぞれ、相手に対する期待についてより一層の認識を必要としている。両国は、アジア太平洋地域を動かす力について、理解を一にする必要がある。

記事参照:
The China challenge and the US-Japan alliance

11月22日「北極における米軍の役割―ヘーゲル米国防長官講演」(American Forces Press Service, November 22, 2013)

ヘーゲル米国防長官は11月22日、カナダのノヴァスコシア州ハリファックスで開催された約25カ国から数百人が参加した、The Halifax International Security Forum で講演し、米国防省が同日公表した、「北極戦略 (Arctic Strategy)」の概要について説明した。ヘーゲル長官は、国防省の「北極戦略」の核心は気候変動がもたらす新たなフロンティア、北極における平和と安定を維持するための8つのアプローチであるとして、要旨以下のように述べた。

(1) アメリカに対する脅威を探知し、抑止し、阻止しそして撃退するための準備を継続するとともに、アラスカ州とその周辺地域においてアメリカの主権を行使する。

(2) 北極において安全かつ効率的に行動できるように、北極の環境に対する理解と情勢認識能力を強化するために、民間部門とアラスカ州や沿岸警備隊などの連邦政府各機関との協同を推進する。ヘーゲル長官は講演で、「北極は海洋探検の新たなフロンティアであり、我々が北極の大気、海洋及び海氷状況について正確な観察、地図そしてモデルを作成するために協同する絶好の機会となっている」と述べた。

(3) 既存の国際法の枠内で、北極圏全域における海洋の自由の維持を支える。

(4) 北極の環境変化に合わせて、アメリカの北極におけるインフラと能力を注意深く整備していく。そのために、ヘーゲル長官は、「潜在的な北極投資と他の国家安全保障の優先施策とのバランスを取りながら、国防省は北極における活動の増加に伴う所要を絶えず再評価していく」と述べた。

(5) 同盟国とパートナー諸国との既存の合意事項を遵守しながら、新しい協力の在り方も追求していく。ヘーゲル長官は、「域内のパートナー諸国との多国間演習の機会を利用することで、寒冷地における行動体験を高めるとともに、他の北極圏諸国の軍との関係を強化する。これにはロシアが含まれ、両国間の軍同士の実際的な協力関係を推進し、透明性を向上させていく」と述べた。

(6) 北極における人為的災害や自然災害に対する支援に備えておく。

(7) 北極の環境保全のために、アラスカ原住民や、他の諸国や機関と協同する。ヘーゲル長官は、「国防省は、国際的な捜索救難任務や事故、自然災害などの対処に当たっては、現有の能力を活用する。我々は、人命救助などの緊急事態対処に当たっては、カナダの関係諸機関と密接に協力する」と述べた。

(8) 北極における地域協力と法の支配を促進する、北極会議や他の国際諸機関の活動を支援する。

ヘーゲル長官は、「北極戦略」は、数日間とか数週間といったものではなく、数年、数十年に及ぶ長期的な努力であるとして、「我々が国内で国防予算削減を含む短期的な課題に忙殺されている時にこそ、こうした長期的思考は将来のために不可欠である。我々は、戦略的な大変動に備えて、新たな課題に対処できるように、国防機構と能力を調整できる用意がなければならない」と強調した。

記事参照:
Hagel Announces Arctic Defense Strategy
Read the full text of Secretary Hagel’s remarks;
See The Defense Department’s Arctic strategy;

【関連記事】「北極海における海氷面積の将来見積―米海軍気候変動任務部隊司令官」(MarineLink.com, November 26, 2013)

米海軍のホワイト (RADM Jon White) 気候変動任務部隊司令官 (Director Task Force Climate Change) は、11月26日付の海洋情報Web誌、MarineLink.comで、北極海の海氷面積の縮小が将来の任務、戦力構成、訓練及び予算配分の面で米海軍に影響を及ぶすであろうとの認識から、北極海での将来任務の計画立案に資するために、グリナート (ADM Jonathan Greenert) 海軍作戦部長から指示された北極海での海氷面積の将来見積について、各種データからの分析結果から、要旨以下のように述べている。

(1) 現在から2020年までに短期的見積では、海氷面積の縮小が続き、解氷域が大きくなっていくという、現在の傾向が続くと見られる。2020年までに、ベーリング海は、年間の解氷期間が約160日になると見られる。北方航路 (NSR) の解氷期間は30日前後、海氷面積によっては最大45日間となろう。

(2) 2020年から2030年までの中期的見積では、海氷面積の縮小が続き、解氷域が増えていくであろう。2025年までに、ベーリング海は、年間の解氷期間が最大175日になると見られる。2030年までに、この日数は190日に増えるであろう。2025年までに、NSRの解氷期間は、最大45日と見られる。2030年までに、この日数は50~60日に増えるであろう。この期間、北極点通航航路 (TPR) へのアクセス可能日数が増えると見られ、年間約45日の解氷域が見られるであろう。他方、この期間でも、カナダ側の北西航路 (NWP) の安全な通航は限定的と見られる。NWPは水深が浅く、航路が狭いため、解氷期間であっても、通航は極めて困難である。

(3) 2030年以降の長期的見積では、より多くの安全な海事活動が可能な環境条件になると見られる。主要航路は、より長期の解氷期間が見込まれ、特に夏季における通航船舶が増えるであろう。NSRとTPRは、年間最大75日の解氷期間に加えて、年間130日間、通航可能になると見られる。2030年までは、NWPの解氷期間はわずかの期間であろう。

この見積は、海軍が北極地域で予想される活動の増加に備えるための時間枠を設定し、海軍の北極地域への将来の関与のための戦略的アプローチである、「北極ロードマップ」の更新に資する。

記事参照:
U.S. Navy Responds to Increased Arctic Activity

11月25日「インド、ベトナム海軍潜水艦要員を訓練」(Thanh Nien News.com, November 25, 2013)

ベトナムのThanh Nien Newsが11月25日付で報じるところによれば、インドは現在、ビシャカパトナムにあるインド海軍潜水艦訓練センター、INS Satavahanaで、ベトナム海軍の潜水艦要員に対して、「広範な水中戦闘作戦」について訓練中である。報道によれば、ベトナムは、500人を超える潜水艦要員を、インド海軍の最新装備を備える同センターに派遣することになっている。ベトナムは2009年12月に、ロシアとの間で6隻のKilo級潜水艦を20億米ドルで購入する契約を結び、2016年までに全てが引き渡されることになっている。インド海軍は1980年半ば以来、ロシアのKilo級潜水艦の十分な運用経験を持っており、インド海軍から潜水艦運用のノウハウを学ぶことは、ベトナムにとって貴重なものとなろう。

記事参照:
India trains Vietnamese navy to handle new Russian subs

11月25日「米運輸省、パナマ運河拡張による米海運業界への影響に関する報告書公表」(gCaptain, November 26, 2013)

米運輸省海事局 (MARAD) は11月25日、パナマ運河拡張による米海運業界への影響に関する報告書、The Panama Canal Expansion Studyを公表した。この報告書は、2015年に完了予定のパナマ運河拡張が海運業界に及ぼす影響を検討したもので、アメリカの港湾や輸送網に及ぼす影響に対応するためのものである。フォックス運輸長官は、「この報告書は、ポスト・パナマックス世界において、アメリカの港湾がより大型の船舶を受け入れ、グローバルな競争力を維持できるようにするための、港湾への投資の指針となり得る」と語った。この報告書は、ポスト・パナマックス船舶がアメリカの海運業界、そして特に東岸、メキシコ湾岸及びミシシッピー川流域各州における、港湾と国内水路に及ぼす影響を検討したものである。報告書は、運河の拡張によって最も運航コストの節約が予想されるアジアからのコンテナ貨物輸送に加えて、大型船舶による費用対効果の優れた輸送によって、アメリカの穀物、石炭、石油精製品やLNGなどの世界市場における競争力の強化が期待される、と見ている。報告書は、運河拡張による経済効果を吸収できるかどうかは、アメリカの港湾と国内水運業界がインフラ整備にどれだけ投資できるか、運航船社がインフラ整備にどう対応するか、そして経済効果を吸収できるサプライチェーンの管理方法を確立できるかどうかにかかっている、と指摘している。報告書は、アメリカ国内の輸送システムに影響を及ぼす海運パターンの変化はゆっくりとした長期にわたるものとなろう、と見ている。

アメリカ国内の港湾と水路のインフラ投資と開発は、オバマ政権の最優先施策の1つである。オバマ政権は2009年以来、22州の33カ所の港湾に対して、道路、鉄道及び水路を含む港湾能力強化のためのインフラ整備に4億ドル以上を投資してきた。現在まで、オバマ政権は、5つの主要港、ジャクソンビル、マイアミ、サバンナ、ニューヨーク・ニュージャージー及びチャールストンの近代化と拡張のために、7つのインフラ整備計画を推進してきた。

記事参照:
MARAD Report Studies Impacts of Panama Canal Expansion
The full report can be download from the MARAD website at:
http://www.marad.dot.gov/documents/Panama_Canal_Phase_I_Report_-_20Nov2013.pdf

11月26日「中国空母、南シナ海へ」(Reuters, November 26, 2013)

中国海軍の空母、「遼寧」は11月26日、南シナ海に向けて青島を出航した。「遼寧」は2012年9月の就役以来、100回を超える発着艦訓練と各種のテストを行ってきている.

洋上訓練は2013年になって5回目だが、南シナ海への展開は今回が初めてで、また公海上で長期間にわたって訓練を行うのも今回が初めてである。中国海軍によれば、「遼寧」には、2隻の誘導ミサイル駆逐艦、「瀋陽」、「石家荘」、2隻の誘導ミサイル・フリゲート、「煙台」、「濰坊」が随伴している。

記事参照:
China carrier steams towards disputed South China Sea for drills

【関連記事】「中国空母、台湾海峡通峡」(DiploNews.com, November 28, and Taipei Times, November 29, 2013)

中国海軍の空母、「遼寧」と4隻の随伴艦は11月28日朝、台湾海峡に入り、約10時間で通峡した。「遼寧」艦長によれば、艦隊は、通峡中、外国の戦闘艦や航空機の接近に対して、高度な警戒態勢を維持しながら航行した。

一方、台湾国防部は11月28日、艦隊の通峡をモニターしており、艦隊は通峡中、台湾海峡の中間線を越えることがなかったことを明らかにした。この通峡は、中国が11月23日に東シナ海に「防空識別圏 (ADIZ)」を突然設定したことから、台湾軍部の関心を引いた。国防部によれば、艦隊は11月27日1030頃、台湾のADIZに入り、台湾海峡の中間線から約14カイリ(26キロ)西側を航行して、28日0400頃、ADIZを出た。台湾軍報道官、羅紹和少将は、「台湾の監視・偵察システムは、数隻の海軍艦艇と空軍戦闘機と共に、艦隊の台湾海峡通峡の全航程を監視していた」と語った。

記事参照:
China’s aircraft carrier passes through Taiwan Strait
Ministry makes light of China carrier’s passage
Photo: A screen grab from Chinese TV station CCTV shows the Chinese aircraft carrier Liaoning passing through the Taiwan Strait en route to the South China Sea yesterday morning November 29, 2013.

11月26日「ロシア、ベトナムとの関係強化―セイヤー論評」(The Diplomat, November 26, 2013)

オーストラリアのThe University of New South Walesのセイヤー (Carl Thayer) 名誉教授は、11月26日付のWeb誌、The Diplomat に、 “The Bear is Back: Russia Returns to Vietnam ” と題する論説を寄稿し、ロシアのベトナムとの関係強化について、要旨以下のように述べている。

(1) ロシアのプーチン大統領は、2012年にベトナムとの間で合意に達した包括的な戦略的パートナーシップ関係を促進するために、11月12日にハノイを1日だけ訪問した。この訪問はプーチンにとって3回目、大統領としては2回目であった。この訪問で、石油、天然ガス及びエネルギー関連部門の5つを含む、17の2国間協定が調印された。

(2) ロシアは2001年3月に、ベトナムの最初の戦略的パートナーとなった。この時、両国は、政治・外交、石油・天然ガス、水力発電・原発、貿易・投資、科学技術、教育・訓練、文化・旅行、及び軍備の8つの分野での協力推進を取り決めた。戦略的パートナーシップに関する協定の第8項は、「両国は、ベトナムとロシアの安全保障の所要に対応するため軍事装備の供給において協力するが、これは如何なる第三国をも対象としたものではない」と規定している。その後両国関係は停滞したが、2008年以降、ロシアは急速な経済成長を続けるベトナム市場に目を付け、ベトナムに対するロシアの武器売却は、間もなく両国間の戦略的パートナーシップの重要な構成要素になった。例えば、ベトナムは2009年に、Kilo級潜水鑑6隻を購入する契約に調印した。2012年以降も、ベトナムは、12機のSu-30MK2戦闘機と2隻のGepard 3.9級対潜フリゲートをロシアに発注した。一方、ロシアは、カムラン湾に軍戦闘艦船の整備修理施設を建設する契約を獲得した。ロシアは、11月のプーチン大統領訪越の前日、最初のKilo級潜水鑑がベトナムに向けて輸送され、2014年1月にカムラン湾に建設していた潜水艦要員訓練センターに引き渡される、と発表した。ロシアは今後、ベトナムに売却した装備の補修やライセンス生産のための技術移転を進めて行くであろう。ロシアは、カムラン湾で建設が進んでいる軍戦闘艦船の整備修理施設に対する排他的なアクセス権をベトナムに強く求めている。

(3) 要するに、「クマ」はベトナムに戻ってきている。今後、ロシアの軍需産業は、ロシアから購入した高性能の軍事装備を維持補修のために、また海空軍の最新のプラットホームに搭載される各種のミサイルや兵装の共同生産のために、ベトナムを支援することになろう。更に、ロシア海軍の要員と専門家は、潜水艦隊の育成のために、ベトナムを支援することになろう。カムラン湾のロシアの軍事施設は、極東からアデン湾まで往復の途上でロシア海軍艦船の補給や修理に利用されると見られる。11月14日に公表された、共同声明では、ロシアとベトナムの石油・天然ガス合弁事業は、ベトナムの大陸棚での資源調査と生産を進めるとしている。従って、ロシアとベトナムは、南シナ海の平和と安定維持において利害が一致している。

記事参照:
The Bear is Back: Russia Returns to Vietnam

11月27日「ロシア、北極地域に放射性廃棄物貯蔵所建設を検討」(Barents Observer, November 27, 2013)

ノルウェー紙、Barents Observer,が11月27日付けで報じるところによれば、ロシアは北極地域に放射性廃棄物貯蔵所建設を検討している。同報道の要旨、以下の通り。

(1) ロシア北西部で放射性廃棄物貯蔵所建設地として予め選ばれた10カ所が現在検討されており、この中には、ノヴァヤゼムリャ島とネネツ自治管区の永久凍土層地域が含まれている。数千年にわたって安全に貯蔵しておく必要のある、数千立米に及ぶ放射性廃棄物を永久凍土層に埋蔵しても、気候変動によって永久凍土層が溶け始めたらどうなるか。放射性廃棄物貯蔵所をロシア北極地域で建設する前に、このことは検討を要する厄介な問題の1つである。ロシア北西部に核廃棄物貯蔵所を建設する計画は、最近モスクワで開催され、ロシアと外国の専門家が参加した会議、AtomEco 2013で発表された。

(2) 10カ所の建設候補地の内、8カ所はバレンツ海域にある。1カ所ないし数カ所の建設場所が最終的に選定されれば、現在、コラ半島のAndreeva BayとSaida Bay、セヴェロドビンスクやレニングラード原子力発電所に一時保管されている、固形放射性廃棄物の多くが移される計画である。貯蔵所の稼働が予定されている2025年までに、全体で約30万立米に及ぶ放射性廃棄物が累積されると見られる。核専門家は、貯蔵所の建設場所の決定を喫緊の課題と考えている。今日、コラ半島のAndreeva Bay、GremikhaそしてAtomflotなどで、潜在的に致死的な放射性廃棄物がコンテナ容器に入れられ、一部は野晒しで保管されている。

(3) ノヴァヤゼムリャ島では、2カ所が検討されている。1つは、島を南北に分かつ、マトキチン海峡内にある。ここには、核兵器の臨界前実験の試験場がある。1963年から1990年まで、この地域で39回の地下核実験が行われた。ここに建設される貯蔵所は、岩山に600メートルの穴が穿たれることになろう。もう1つの場所は、南島の南西部岸のベルシャヤ湾である。バレンツ海のこの地域は、通常年間を通じて氷結することがないため、ノヴァヤゼムリャ島の中心地であり、船舶輸送に最適の場所でもある。この貯蔵所は、20万立米以上の放射性廃棄物の貯蔵を見込んでおり、ノヴァヤゼムリャ南島に特有の永久凍土層砂岩の表層に溝を掘って作られる。計画されている溝の深さは、表層下20~100メートルである。一部の地域では、永久凍土層の厚さが数百メートルもある。

(4) 永久凍土層の貯蔵所候補地としては、ネネツ自治管区の永久凍土層で3カ所が検討されている。アルハンゲリスク地域では、アルハンゲリスク市東方約100キロの白海台地 (White Sea plateau) といわれる地域で2カ所が検討されている。この場所は、ロシアの最大のダイヤモンド鉱山の1つがある場所からあまり遠くない。アルハンゲリスク地域南方では、Kotlas地域が3つ目の候補地となっている。最後の候補地は、コミ共和国のUst-Vymsky地区である。

記事参照:
Nuclear repository could end up in Arctic

【関連記事】「ロシア、放射性廃棄物運搬船の建造を計画」(Barents Observer, November 29, 2013)

ノルウェー紙、Barents Observerが11月29日付けで報じるところによれば、ロシアのサンクトペテルブルグにある造船研究所、The Krylov State Research Centreは、北極海に放射性廃棄物を運搬する特殊設計の耐氷型船舶の建造計画を明らかにした。隣国のノルウェーは、この計画を懸念している。ノルウェーの原子物理学者、Nils Bøhmerは、北極海域での放射性廃棄物の輸送は極めて困難であるとして、「まず第1に、気象条件が厳しい。そして、例えば、船体自体に着氷するなど、氷海航行故の困難もある。また、北極海では、捜索救難態勢が欠如している」と指摘している。また、Bøhmerは、この船が他国からロシアに放射性廃棄物を輸入するためにも使われかねないとして、「ロシアが北極海域で放射性廃棄物の貯蔵所を計画していること、そして使用済み核燃料輸送用の耐氷型船舶の建造を計画していることから見て、将来、外国からロシアへの放射性廃棄物が輸入される可能性は十分考えられる」と懸念している。

計画では、輸送用船舶は、長さ140メートルのRo-Ro船で、特殊クレーンや危険物を収納したコンテナを取り扱う特別な施設のない港でも荷役が可能である。この船は、二重船殻で砕氷能力を持つ。The Krylov State Research Centreは、ペチョラ海で操業するガスプロムの石油開発プラットホーム、原潜そして特殊船などを設計している。この船舶が何処の造船所で建造されるかは未だ決定されていないが、The Krylov State Research Centreは2013年夏に、イタリアの造船グループ、Fincantieriとの間で、海事部門における協力覚書に調印した。FincantieriのジェノバのMuggiano造船所は2011年に、コラ半島沿岸から退役原潜の使用済み核燃料と放射性廃棄物を安全に運搬するための船、Rossitaをロシアに引き渡している。Rossitaは、これまで使用済み核燃料を輸送しておらず、現在、ムルマンスクの原子力砕氷船基地、Atomflotに係留されている。11月中旬に、プーチン大統領がイタリアを訪問した時、ロシアは、セヴェロドビンスクからコラ半島沿岸のSaida Bayまで、退役原潜の原子炉部品を輸送するためと見られる、放射性廃棄物運搬用の艀を建造する覚書を、Fincantieriとの間で調印した。

記事参照:
Prepares for Arctic nuclear waste shipping
Photo: This first image of what will be Russia’s new ice-classed vessel for transport of nuclear waste in the Arctic.
Photo: Rossita

11月28日「ロシア、北極圏に航空宇宙防衛軍部隊配備」(RIA Novosti, November 28, 2013)

ロシア連邦軍航空宇宙防衛軍司令官、ゴロフコ少将が11月28日に明らかにしたところによれば、ロシアは、北極圏に航空宇宙防衛軍部隊の配備と最北の弾道ミサイル早期警戒レーダーの建設を開始した。ゴロフコ司令官によれば、レーダーの建設場所は北極圏のすぐ北に位置する、コミ共和国北部のヴォルクタ (Vorkuta) 近郊で、ロシアは、2018年までに包括的な弾道ミサイル早期警戒網を完成する計画である。現在、4カ所のVoronezh級レーダー・ステーションが早期警戒網の一部として稼働中である。このレーダーの覆域は6,000キロである。

記事参照:
Russia Begins Deployment of Aerospace Defenses in Arctic

11月29日「イタリア、ノルウェーの新型極地調査船建造」(Barents Observer, November 29, 2013)

イタリアの造船グループ、Fincantieriが11月29日に公表したところによれば、Fincantieriは、ノルウェーの最新の極地調査船、RV Kronprins Haakonを建造する契約に調印した。ノルウェーのThe Institute of Marine Researchが建造プロジェクトを主管し、英国のRolls Royce Marineが船舶設計を担当し、The Norwegian Polar Instituteが該船を運用する。該船の母港は、トロムセとなる。該船は、ジェノバのMuggiano造船所で建造され、2016年後半に引き渡され、最終的な内装や航行試験はノルウェーで行われ、2017年初めから定期的な調査航行を始める。トロムソのThe Arctic University of Norwayが最大のユーザーになる。該船は、長さ100メートル超、幅21メートルで、36のキャビンに55人の科学者、学生、乗組員などを収容可能である。該船は、世界でも最新の砕氷船で、海洋環境の調査のために最新の設備を搭載する。

記事参照:
Italians to build “Kronprins Haakon”
Photo: RV Kronprins Haakon will be one of the most advanced icebreaker in the world, and will provide a high-tech facility for the study of the marine environment

11月29日「インド海軍、アンダマン・ニコバル・コマンドを指揮下に」(Defense News, November 29, 2013)

インドはこのほど、アンダマン・ニコバル・コマンドの指揮権を、これまでの空、陸、海軍の持ち回りに変えて、海軍に付与した。海軍当局者によれば、インド国防省は、同コマンドを強化するために海軍に指揮権を付与することに決定した。現在、同コマンドには、ロシア製のSu-30MKI戦闘機が配備されており、稼働飛行場の増強や潜水艦の配備も計画されている。アンダマン・ニコバル諸島は、インド東岸から100キロ足らずの距離にあり、572の島々からなり、マラッカ海峡の出入り口を扼する位置にある。

記事参照:
India Gives Navy Control of Andaman and Nicobar Command

11月29日「シンガポール、ドイツから潜水艦2隻購入」(Defense News, December 2, 2013)

シンガポール国防省は11月29日、ドイツから、Type 218SG潜水艦2隻を購入する契約に調印した。この契約には、ドイツでの乗組員の訓練や「非大気依存 (AIP) システム」などが含まれており、2020年に引き渡される計画である。

記事参照:
Singapore Contracts for 2 New German Subs