海洋情報旬報 2013年10月21日~31日

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10月21日「スウェーデン・韓国船社の合同運航船、北方航路経由で韓国到着」(MarineLink.com, October 23, 2013)

スウェーデンの船社、Stena Bulkと韓国の船社、Hyundai Glovisとの合同運航船、P-MAXタンカー (ice class 1A)、MT Stena Polaris (6万5,000DWT) は10月21日、北方航路経由で韓国全羅南道の光陽港に到着した。MT Stena Polarisは、4万4,000トンのナフサを積んで9月17日にロシアのフィンランド湾のウスチルーガ港を出港し、北方航路経由で光陽港まで35日間かけて航行した。欧州北部から韓国への航路は、北方航路経由の場合、インド洋とスエズ運河を経由する通常ルートに比べて距離にして7,000キロ、航行日数にして約10日間短縮されるが、韓国海洋水産部によれば、今回の航行は悪天候のため、予定の日数より5日間多くかかった。この航海は、Stena Bulkから北方航路経由の技術とノウハウをHyundai Glovis(韓国現代グループの海運部門)に伝えるための初めてのプロジェクトであった。同時に、Stena Bulkの目的は、アジアにおけるパートナーを拡充することにもある。

記事参照:
Stena Polaris Completes Northeast Passage

10月22日「米海洋大気庁、2014年4月から紙海図の発行停止」(NOAA News, October 22, 2013)

アメリカ海洋大気庁 (The National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA) 沿岸測量部 (Office of Coast Survey) は10月22日、アメリカ政府は2014年4月13日から従来型の紙海図の発行を停止する、と発表した。アメリカ政府は、1862年から紙海図を発行してきたが、発行停止の理由として、デジタル・電子海図の需要の増加に伴う紙海図の需要の低下や政府予算の都合などを挙げている。なお、NOAAは、NOAA認可の印刷業者が要求に応じて印刷を行う、需要の多いPrint on Demand (POD) 海図の発行を継続する。また、NOAAの航海用電子海図 (NOAA ENC) と航海用ラスター海図 (NOAA RNC) は1週間毎に更新し、これらは沿岸測量部のウェブサイトから無料でダウンロードできる。更に、NOAAは、新製品としてPDF (Portable Digital Format) 海図を発行し、試行版のウェブサイトからダウンロードできるようにする。

記事参照:
NOAA announces end of traditional paper nautical charts
Print on Demand (POD) chart
Electronic navigational chart (NOAA ENC)
Raster navigational chart (NOAA RNC)
PDF (Portable Digital Format) nautical chart

10月25日「アイスランド、北極ビジネスのハブを目指す」(Bloomberg, October 29, 2013)

アイスランドのスヴェインソン外相は10月25日、EU加盟に関する会談をキャンセルした後、アイスランドは北極ビジネスのハブを目指しており、「アイスランドの外交政策の重点は、北極にある」と語った。外相は、アイスランドは今後、北極評議会との協力を深化させるとともに、中国、シンガポール、韓国及びその他の国との貿易を促進していく、と語った。アイスランドはまた、北東部沿岸のフィナフィヨルズルに港湾を建設することを検討している。この港湾は、北方航路を通航する船舶や北極圏における資源開発に関わる関係者が利用できるようになろう。

記事参照:
Iceland Pushes to Become Arctic Hub After Scrapping EU Accession

10月28日「米海軍ズムワルト級駆逐艦、1番艦進水」(gCaptain, October 29, 2013)

米海軍の最新の駆逐艦、Zumwalt 級の1番艦、USS Zumwalt (DDG -1000) は10月28日、メーン州のジェネラル・ダイナミック社の造船所で進水した。同艦は、沿岸域戦闘や陸上攻撃用の戦闘艦で、現在87%以上の完成度で、2014年後半までに海軍に引き渡され、20116年に実戦配備に就く予定である。同艦は、多くの新技術を取り入れたユニークな艦形で、乗員130人に加え、航空要員28人を収容可能である。

記事参照:
First Zumwalt Class Stealth Destroyer Launched in Maine
Photo; USS Zumwalt (DDG -1000)

10月30日「パナマ運河拡張工事、完成予定3カ月遅れ」(Hellenic Shipping News, October 30, 2013)

パナマ運河庁 (ACP) はこのほど、運河拡張工事が更に3カ月遅れ、商業通航開始時期が2015年第4四半期になる、と発表した。発表によれば、遅れの原因は、閘門を建造するコンソーシアムによる閘門の設置が、大西洋側で当初予定の2015年初めから同年3月31日に、太平洋側で当初予定の2015年4月から同年6月30日に、それぞれ3カ月遅れになるためである。更に、閘門の稼働テストに3カ月を要することから、商業通航開始時期は、当初予定の2015年6月半ばから、同年第4四半期にずれ込むことになる。運河拡張工事は現在のところ、66%完了している。ACPは、工事資金52億5,000万米ドルの内、23億ドルについては日本を含む各国の金融機関から調達済みで(日本国際協力銀行は8億ドル融資)、残りの資金は国内で賄う。

記事参照:
Another delay hits Panama Canal expansion project

【関連記事1「パナマ運河拡張、米東岸諸港に経済効果をもたらすか」(Hellenic Shipping News, October 30, 2013)

パナマ運河が拡張されれば、例えば、コンテナ船だと、現在の4,000~5,000TEU級から1万2,000~1万4,000TEU級のコンテナ船が通航可能になる。パナマ運河庁 (ACP) の予測によれば、通航貨物量は年率平均3%で伸び、2025年までには2005年実績の倍になるという。年間1万4,000隻近い各種船舶が運河を通航しており、その搭載貨物の約70%が米東岸諸港に向かう。しかし、中国からの米東岸向け輸出の大部分が西岸で荷下ろしされ、パナマ運河を通航するのは全体の20%に過ぎない。これは、ロサンジェルス港で荷揚げして、ニューヨークなどの東岸諸都市に鉄道とトラックで運ぶ方が安いからである。

一方で、拡張後の運河通航が可能なポスト・パナマックス級船舶がより多くの荷物を搭載できることから、経済効率が高まり、現在の西岸向け貨物の約35%が運河経由になるとの見方もある。

しかしながら現在、東岸でポスト・パナマックス級船舶が寄港可能な港湾は、バージニア州ノーフォークのバージニア港だけである。他方、西岸の諸港は天然の深水港で、大型船の受入が可能である。アメリカの港湾は、維持改修経費の負担を含めて、連邦政府の管轄下にある。サウスカロライナ州港湾局のCEOによれば、同州は現在、チャールストン港の関連インフラ整備のために約7億ドルを投入しており、今後10年間で13億ドルの投資を見込んでおり、その大部分が連邦政府資金である。港湾局CEOは、アメリカの輸出は伸びており、例えブームには至らなくても、アジアからの船舶の多くがパナマ運河を経由して東岸諸港に向かう、と期待している。フロリダ州のマイアミ港も、4,300万ドルを投資して、4基の超大型クレーンを設置した。州政府はまた、トレーラー・トラックが同港からルートI-95に直接乗り入れられるトンネルを工事中である。更に、ニューヨークとニュージャージー両州は2010年に、大型船がニューアーク港とその他の港湾に寄港できるようにするため、バイヨン橋の高さを151フィートから215フィートに嵩上げする計画を発表し、現在も検討が続けられている。

パナマ在住の海事弁護士、クリス・デービスは、パナマ運河の拡張が米東岸諸港にどのような効果をもたらすかは一種の推測ゲームに過ぎず、港湾の規模より経済の健全性の方が大切、と指摘している。

記事参照:
Panama Canal expansion boom might sail past US ports

【関連記事2「パナマ運河拡張、世界のLNGタンカーの90%が通航可能に」(Hellenic Shipping News, October 31, 2013)

パナマ運河庁 (ACP) のマルッチ上席専門家は10月30日、2015年に予定されるパナマ運河の拡張工事が完了すれば、世界のLNGタンカーの90%近くが通航できるようになろう、と語った。現在では、わずか8.6%のLNGタンカーが通航できるだけである。しかしながら、船幅49メートルを超える船舶の通航は基本的に不可能で、業界最大のLNGタンカー、Qatar MaxQatar Flex級のLNGタンカーは通航できない。通航できないLNGタンカーは160隻に上る。マルッチは、運河の拡張は世界的なLNG貿易のゲームチェンジャーとなるとして、特に北米からのアジア向けLNG輸出が増大すると見ている。メキシコ湾岸からアジア向けの航路としては、スエズ運河経由に比較して、パナマ運河経由だと航程にして約5,300カイリ、日数にして11日間短縮できる。また、米西岸からスペインのビルバオ(大西洋側)に向かうルートでも、スエズ運河経由に比較して、パナマ運河経由だと日数にして12日間短縮できる。マルッチは、拡張後のパナマ運河のLNGタンカーの通航量が増加するかどうかは、ラテンアメリカのLNG需給関係、中国におけるLNG需要の動向、オーストラリアにおけるLNG開発の動向、更には米政府がどのようなLNG輸出政策をとるか、といった幾つかの要素に左右されよう、と指摘している。

記事参照:
Panama Canal expansion to accommodate 90% of global LNG fleet by 2015

10月30日「スエズ運河収入増収、2013年第3四半期」(Hellenic Shipping News, October 30, 2013)

2013年第3四半期(7月1日から9月30日)のスエズ運河収入は13億2,600万ドルで、2012年同期の13億1,500万ドルから0.8%増となった。一方で、通航船舶隻数は減少しており、2012年同期の4,423隻から約4,224隻となった。

記事参照:
Suez Canal revenues hit $1.3bn

10月31日「カナダ北西航路の活用、インフラ整備が課題」(Bloomberg, October 31, 2013)

デンマークのNordic Bulk Carriers社所有でパナマ籍船の耐氷型ばら積船、MV Nordic Orion (7万5,603DWT) は、9月6日にカナダのバンクーバーを出航し、9月22日から23日にかけて、ばら積船として北西航路を初めて横断し、10月初めにフィンランドのポリ港に到着した。カナダ沿岸警備隊で最も強力だが船齢45年の砕氷船、CCGS Louis S. St-Laurentが、該船の北西航路通航をエスコートした。Nordic Bulk Carriers社によれば、北西航路を利用することで、パナマ運河経由より航程にして約1,000カイリ、日数にして6日間短縮でき、また通航量と燃料経費が20万米ドル節減できたという。

カナダ政府は北西航路の商業運航の可能性に期待するとともに、北西航路に対する領有権を主張しているが、行動が伴っていない。ブリティッシュ・コロンビア大学のビヤース教授は、北西航路の船舶通航を支援するために何もしていないとして、カナダの4隻の中型砕氷船を含む、現有のカナダの砕氷船隊は老朽化し、北西航路の商業船舶の支援には適していない、と指摘している。その上で、ビヤースは、5隻の原子力砕氷船隊を強化することで北方航路の利用拡充を図っている、ロシアの努力を見習うべきだ、と述べている。

北極海を航行するためには、砕氷船のエスコートが不可欠である。カナダは、北極海を航海する外国船舶をエスコートするとともに、軍がカナダ沿岸に隣接する水域において法令執行活動を実施する歴史的な権限を持つ、と主張している。ロシアがカラ海からベーリング海峡まで北方航路に対して管轄権を主張しているのと同じように、カナダも北西航路を内水と主張しているが、アメリカを含め他の諸国はこれを国際水域と見なしている。

カナダのハーパー政権は、「我々は主権を行使するか、さもなければ失うかだ」として、北極に対する主権を主張してきた。カナダ政府は、2015年までに8隻の北極海域哨戒艦建造と深水港を建設する計画である。またCCGS Louis S. St-Laurentの更新も計画している。砕氷船の更新だけでは、北西航路の安全強化には不十分との指摘もある。北西航路の多くの海域に関して、十分な海図もなく、実際の水深なども分かっていない。更に、北緯70度以北ではGPSが十分に機能しないという問題もある。今回のMV Nordic Orionの航海は試験航海のようなものであり、2014年には耐氷型船舶による更なる航行が予定されている。

一方、ロシアは、第2次大戦から旧ソ連時代を通じて、北方航路を利用してきており、カナダに比べてインフラ整備などで幾つかの利点を有している。航路沿いに停泊可能な港を持っており、また北西航路に比べて航路上の海氷が薄い。更に、5隻の原子力砕氷船を持ち、ほぼ通年で北方航路を航行できる。ロシアは、潜水装備と油漏洩対処装備を備えた2隻の砕氷船で、北極専門の捜索救助態勢を整備しており、またヘリコプター・パッドを備えた3隻の砕氷救難船を建造する計画である。北西航路を航行した、ばら積船はMV Nordic Orionが初めてであったが、1969年以来、4隻のタンカーが北西航路を航行している。これに対して、ばら積船による北方航路経由の輸送は40回以上に達した。

北極海経由の航路は、スエズ運河やパナマ運河経由の伝統的な航路に比べて距離的に短いが、夏季に限定される。海運業界は、新しい航路を試すことに慎重である。カナダの北西航路は、海氷のない期間が長くなり、十分なインフラが整備されるまでは、耐氷型船舶にとっても難しい航路であろう。北極海の鉱物資源や石油・天然ガス資源の開発につれ、今後15年から20年の間に北極海経由の航路の需要が増えると予想される。短い航海時間と燃料節減の利益を享受するためには、港湾、道路や空港の建設等の費用がかかる。カナダの北極地域専門家は、カナダ政府が今後民間の投資を取り込んで、このようなプロジェクトを推進するかどうかは、今のところ不明である、と語っている。

記事参照:
Canada Needs More Escorts for Plan to Boost Arctic Ships