海洋情報旬報 2013年10月1日~10日

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10月3日「米無人機の日本からの偵察飛行、2014年から開始」(The Washington Post, October 3, 2013)

日米両国が外務(国務)・防衛(国防)両大臣(長官)による2+2会談後の10月3日に発表したところによれば、米軍は2014年から日本を基地に長距離無人偵察機、Global Hawkの運用を開始する。米軍が北東アジアに根拠地を置いて無人偵察機を運用するのは、これが初めてである。米政府関係者によれば、空軍は、2014年春から日本を根拠地(どの基地かは未定)に2~3機のGlobal Hawkを運用する。その主たる任務は、米当局が偵察強化を望んでいる北朝鮮近辺の偵察飛行である。現在、空軍は、グアムのアンダーセン基地からGlobal Hawkを運用しているが、北朝鮮までは航続距離の限界に近く、またしばしば悪天候で飛行回数が制約されている。東アジアにおけるGlobal Hawkの存在は中国を苛立たせるのは確かで、日米両国は、Global Hawkの偵察飛行で、尖閣諸島周辺海域における中国艦艇の動きに関する情報も得られるであろう。更に、日米両国の発表によれば、12月にはP-8海上哨戒機も日本に配備されることになる。同機がアメリカ以外に展開するのは、これが初めてである。これらに加えて、京都府の経ヶ岬にX-バンドレーダーが配備され、主として北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に備えて、2014年中には運用が開始される。

記事参照:
Agreement will allow U.S. to fly long-range surveillance drones from base in Japan

10月3日「世界の海洋、汚染深刻―IPSO報告書」(BBC News, October 3, 2013)

「海洋の状況に関する国際プロジェクト (The International Programme on the State of the Ocean: IPSO)」が10月3日に発表した報告書は、世界の海洋の状況は、以前考えられていたよりも急速に悪化しており、海洋は気候温暖化、CO2吸収によるアルカリ性の希薄化、乱獲や汚染など、多様な複数の脅威に晒されている、と警告している。IPSO報告書は、「我々は、海を所与のものと考えてきた。最も重要な問題は、一般大衆も政策立案者も、状況の深刻さを認識していないか、あるいは無視していることにある」と指摘している。報告書によれば、海洋が直面している多様な脅威の複合効果は大きく、例えば、サンゴ礁は、海中温度の高温化と酸性化の影響に晒されていることに加えて、乱暴な漁獲法、海洋汚染、沈泥や有毒藻類によって弱体化されている。報告書は、世界各国政府に対して、CO2の濃度を450ppmに抑えるよう求めており、それ以上の濃度のCO2は海に吸収されて今世紀後半には海洋の大規模な酸性化の原因となる、としている。また、報告書は、各国政府に対して、新設される公海における法令執行機関によって管理される、公海における持続可能な漁業についての新たな取り極めを交渉するよう慫慂している。

記事参照:
Health of oceans ‘declining fast’
See also The International Programme on the State of the Ocean HP

10月3日「習近平中国主席、『海のシルクロード』提唱」(China Daily, October 4, 2013)

中国の習近平国家主席は10月3日、インドネシア議会で演説し、中国のASEANに対する包括的な政策に言及し、その中で、新たな「海のシルクロード」を構築するために、域内各国との協同努力を呼びかけた。専門家は、この提案を、中国と東南アジア諸国との地政学的絆が領有権紛争を巡って協力と対立の両方の可能性に直面している中で、海洋におけるパートナーシップの強化を狙いとして提唱されたと見、新しい「海のシルクロード」は中国とASEAN10カ国にとってウイン・ウインの戦略的な重要性を持つと、その背景を説明している。

古代から、東南アジアは、中国が絹やその他の商品を他国に輸出するルートであった、歴史的な「海のシルクロード」における重要なハブであった。習主席によれば、新たな「海のシルクロード」を構築するために、中国は、「中国政府によって設立された中国・ASEAN海洋協力基金の好ましい使い道」として、ASEAN諸国との海洋における協力を強化していく。北京大学東南アジア研究センターの楊保筠教授は、新しいルートが中国の経済発展と東南アジア諸国との善隣友好外交を発展させるとして、「数世紀前の歴史的なルートと同じように、新しい海のシルクロードは、ルート上の近隣諸国に利益をもたらすとともに、東アジア全域に繁栄をもたらす新たな推進力となろう」と語った。

記事参照:
Xi in call for building of new ‘maritime silk road’

【関連記事1「中央アジア、中国の新たな陸のシルクロードに」(RSIS Commentaries, October 9, 2013)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)を修了し、また中国国防大学の卒業生でもあり、現在トルクメニスタン在住のLoro Hortaは、10月9日付けのRSIS Commentariesに、“Central Asia: China Opens a New Silk Road” と題する論説を寄稿し、9月の習近平国家主席の中央アジア数カ国の訪問が中国を経由してヨーロッパと東アジアを結ぶ新たな陸のシルクロードを拓く象徴的出来事となり得るとして、要旨以下のように述べている。

(1) この10年間、中央アジアは、北京の戦略的思考における下位の位置から外交的優先順位のトップの位置にまで、その重要性を増してきた。中国は、この戦略的に重要な位置を占め、資源豊富な地域において、不可欠な経済的、政治的プレーヤーとして急速に台頭しつつある。この地域における中国の新たな力点は、例えばウイグル族、ウズベク族あるいはカザフ族といった、幾つかのチュルク語グループの居住区である新疆ウイグル自治区西部地区に隣接する、新しく独立した国々との良好な関係を構築することにある。北京がウイグル族民族主義者とか分離主義者と呼ぶグループは、中国に対する抗議活動を組織するために、しばしばこれら近隣諸国を利用してきた。

(2) この地域を安定させるために、中国は、開発援助を供与するとともに、治安維持における協力を強化してきた。中国の経済力が発展するにつれ、中国にとって、エネルギー供給源の多様化のためにも、この地域のエネルギー資源の重要性が高まった。また、中国は、大半の輸入エネルギーが通峡するマラッカ海峡において不測の事態を招きかねない、海賊行為や海難事故などの非伝統的な安全保障上の脅威を懸念している。

(3) エネルギー輸送ルートの潜在的な脆弱性を補うために、中国は、新たなエネルギー供給源として中央アジアに目を付け始めた。この地域は、輸送経費を軽減するとともに、海上輸送への依存を減らす。この面では、他のいかなる地域も代替し得ない。忍耐強く巧妙な外交を通じて、中国は徐々にこの地域に浸透していった。2006年に中国とカザフスタンが同国の石油と天然ガスを新疆ウイグル自治区に輸送する3,000キロのパイプライン建設協定に調印した時、北京の努力は報われた。それ以来、中国は、同国のエネルギー部門への投資を増大し(一部の専門家によれば、同部門の50%が現在中国の国有企業の所有になっているという)、2013年7月には、両国は、パイプラインを延長し、生産能力を倍増する協定に調印した。延長されたパイプラインは、2014年半ば頃までに、中国の主要な石油供給源であるロシアの石油を中国に輸送することになろう。2009年には、中国は、数十億ドルを投資して、トルクメニスタンと中国を結ぶパイプラインを建設した。この1,840キロのパイプラインは、隣接するウズベキスタンとカザフスタンを横断して、石油と天然ガスを新疆ウイグル自治区に輸送する。トルクメニスタンは2012年に、中国の天然ガス輸入の50%以上を提供する主たる供給源となった。しかも、イランとトルクメニスタンの間には既にパイプラインがあり、将来的にトルクメニスタン・中国パイプラインと連結させることを可能である。

(4) もう1 つの正面は中国とパキスタンの間で、新疆ウイグル自治区とグワダル港の間を結ぶ陸上回廊が建設初期段階にある。北京は、グワダル港の建設に12億ドルを投資した。同港は、イランとサウジアラビアに近接するペルシャ湾東部の戦略的要衝にある。グワダル港陸上回廊は、道路、鉄道そしてパイプラインでペルシャ湾岸と中国西部地域を結び、中国経済に不可欠なエネルギー輸送ルートを短縮することになろう。9月の習近平主席の中央アジア訪問で、各国と全部で数百億ドル規模に上る多くの投資協定が締結された。この地域への膨大な投資は、古のシルクロード以来、絶えて見られなかった、ロシア、中央アジアそして中国の経済を1つに結びつける可能性がある。

記事参照:
Central Asia: China Opens a New Silk Road

【関連記事2「2つのシルクロード、中国の狙い」(The Washington Post, October 14, 2013)

10月14日付の米紙、The Washington Postは、“China bypasses American ‘New Silk Road’ with two of its own”と題する記事を掲載し、習近平中国国家主席が最近の中央アジアとインドネシア訪問で示した、陸と海の2つのシルクロード構想の狙いについて、要旨以下のように報じている。

(1) 習近平中国国家主席が最近の中央アジアとインドネシア訪問で示した、陸と海の2つのシルクロード構想は、2年前の2011年9月に当時のクリントン米国務長官が鳴り物入りで提唱した、アメリカ版シルクロード構想* (an American vision of a New Silk Road) を色褪せたものにした。この構想は、中央アジアと南アジアを結びつけるリンクとしてアフガニスタンを復興させることを想定していた。中国の指導者は、特に中央アジアでは、自国の影響力を拡大するために、ロシアの相対的な影響力の低下と予定されているアフガニスタンからの米軍部隊の撤退の機会を活用した。ワシントンの戦略国際問題研究所のクリス・ジョンソン (Chris Johnson) は、「中国は、かなり大胆な行動をとっている。習近平主席は、アメリカがこれまで活用できなかった、貿易と経済機会の大きなチャンスを捉えている」と指摘している。

(2) 習近平主席は、9月の中央アジア訪問で、カザフスタンの首都、アスタナでは、2100年以上前にこの地域を旅した漢王朝の使節、張騫に言及し、太平洋からバルト海までの貿易と輸送リンクを強化し、地域的な政策調整を促進するために、「シルクロード経済ベルト (a “Silk Road economic belt”)」の構築を提唱した。北京は、地理戦略的なエネルギー供給源としてのみならず、経済発展の遅れた中国西部から中央アジアを経由して商品を輸送することに経済的利益を見出している。19世紀のロシアと英国の「グレートゲーム」に擬えて、レースとして見れば、中国がリードしており、中央アジアの5つの共和国の内、4カ国でロシアを抑えて中国が最大の貿易相手国になっている。中国の国家主席は、旧ソ連領のこれら共和国を3代続けて訪問しているが、米大統領は未だこれら諸国を訪問していない。

(3) 習近平主席は10月初めには、インドネシアで、7回に及ぶ15世紀の鄭和の大航海に言及し、「海のシルクロード」を構築することを提唱した。アジアの隣国と友好関係を構築しようとする中国の努力は、海洋における領有権紛争、特に日本とフィリピンとの間の緊張によって、難しくなってきている。前出のジョンソンによれば、「海のシルクロード」構築を提唱することで、習近平主席は、近年中国の隣国を不安にしている過度の民族主義を抑え、投資と経済取引で影響力を買おうとする以前の政策に戻った。

(4) 北京では、オバマ政権の再均衡化戦略を、例えば日本、韓国そしてフィリピンといったアメリカの同盟国を通じた中国封じ込め努力の一環と見、北京が中央アジアでそうした動きに静かに対抗しているとする見方がある。それでも、中国のシルクロード戦略は、アジア太平洋地域における先進諸国との経済的関係の重要性に決して取って代われるものではない、とワシントンのThe Center for a New American Security のエリー・ラトナー (Ely Ratner) は指摘する。

(5) 2011年に、当時のクリントン米国務長官は、インドで、アフガニスタンの経済復興努力の一環として、「万里の長城」からボスポラス海峡に至る通商ルートの復興に言及し、その鍵として、長期にわたって延期されてきた、トルクメニスタンからアフガニスタンとパキスタンを経由してインドに至るパイプラインの建設促進を挙げた**。しかし、インドとパキスタン間の相互不信に加えて、アフガニスタンの政情不安は、その見通しを暗くしている。対照的に、中国のシルクロードは、ほぼ完全にアフガニスタンを迂回している。それでも、米国務省の報道官は、習近平主席の構想を、「ニュー・シルクロードに関する我々自身の考えと瓜二つ」と述べ、アメリカの戦略はこの地域に具体的な利益をもたらすことであり、中国の協力を歓迎する、と強調した。

記事参照:
China bypasses American ‘New Silk Road’ with two of its own
Note*: Remarks at the New Silk Road Ministerial Meeting, Hillary Rodham Clinton, Secretary of State, New York City, September 22, 2011
**: Remarks on India and the United States: A Vision for the 21st Century, Hillary Rodham Clinton, Secretary of State, Anna Centenary Library, Chennai, India, July 20, 2011

10月3日「中国中石化集団傘下企業、最新の地震探査船受領」(MarineLog.com, October 3, 2013)

中国国営、中国石油化工業集団公司 (Sinopec) 傘下のShanghai Offshore Petroleum Bureauは10月3日、上海船廠船舶有限公司から最新の地震探査船、FA XIAN 6 (4,637DWT) を引き渡された。この探査船は、最新のRolls-Royce UT 830 CD設計に基づく船で、中国の造船所で建造されたのは、これが初めてである。該船は、ロールスロイス社製の最新の推進システムや地震探査システムを展開する自動処理システムを装備している。該船は、地震探査では、それぞれ長さ12キロのストリーマを最大14本まで曳航する。

記事参照:
Sinopec unit takes delivery of advanced seismic vessel
Photo: FA XIAN 6

10月3日「ロシア大統領、北極圏におけるプレゼンス拡大を強調」(USA Today, AP, October 3, 2013)

ロシアのプーチン大統領は10月3日、ロシアは旧ソ連時代の基地を再開して、北極圏におけるプレゼンスを拡大する、と語った。ロシアは9月に、ノヴォシビルスク諸島(コチェリヌイ島)の旧ソ連時代の基地を恒久的な施設として再開した。プーチン大統領は、この基地は北方航路を防衛する重要な施設である、と強調した。北極圏を国際社会の管理下に置くべしとの意見に対して、大統領は、北極圏はロシアの経済と安全保障にとって不可欠であるとし、「北極圏は数世紀にわたってロシアの主権下にあり、ロシアの不可分の領土であり、将来にわたってそうであり続ける」と主張した。

記事参照:
Putin says Russia will expand its Arctic presence, restore Soviet-era military base

10月4日「インドネシア海軍、海上哨戒機1番機受領」(Naval Technology.com, October 4, 2013)

インドネシア海軍はこのほど、海上哨戒機、CN-235の1番機を受領した。インドネシア国防省は2009年、PT Dirgantara Indonesia (PTDI) に海軍向けに3機のCN-235を発注している。同機は、海上哨戒用の装備に加えて、魚雷2本やExocet空対艦ミサイルを搭載できる。更に、同機は、Trimble TNL7900 Omega global positioning systemやNorthrop Grumman社製のLN92 ring laser gyroscope inertial navigation systemを搭載している。残りの2機について、PTDIは、2013年12月と2014年2月に引き渡しを予定している。

記事参照:
Indonesian Navy receives first CN-235 maritime patrol aircraft from PTDI
Photo: CN-235 maritime patrol aircraft

10月6日「北西航路、今後10年~20年以内の大型船通航はない―マースクCEO」(Nunatsiaq Online, October 11, 2013)

デンマークのNordic Bulk Carriers社所有でパナマ籍船の耐氷ばら積船、MV Nordic Orion (7万5,603DWT) は、9月6日にカナダのバンクーバーを出航し、9月22日から23日にかけて、ばら積み船として北西航路を初めて横断し、10月7日にフィンランドのポリ港に到着した。この航海について、デンマークの世界最大手のコンテナ船運航社、マースクのニルス・アンダーセンCEOは10月6日の英紙との会見で、コンテナ船などの大型商船が北西航路を航行することは今後10年~20年以内にはあり得ないであろう、との見解を示した。北西航路は、年に約4カ月間開通するが、航路全体が不凍になるのは約2カ月間のみである。更に、多年氷の漂流、海図未記載の水域、予想不可能な天候、高額な保険料そして港湾その他のインフラ不足など、多くの危険がある。アンダーセンCEOは、北方航路についても15年~20年以内に主要航路となることはないであろうとし、そのための船舶の建造を開始するのは時期尚早だ、指摘している。他方、Nordic Bulk Carriers社によれば、パナマ運河経由の代わりに北西航路を航行することで、燃料費が8万ドル節約でき、また航行日数も5日間短縮ができたとしながらも、北西航路が長期的な商業航路となる可能性について判断するのは時期尚早としている。

記事参照:
Commercial Arctic shipping a long way off, Maersk boss says

10月8日「中国、2020年までに台湾攻撃能力保有―台湾国防報告書」(The China Post, October 9, 2013)

台湾国防部は10月8日、「102年版國防報告書」を公表した。同報告書によれば、中国は2020年までに、台湾に対する全面的な軍事攻撃を発動する能力を保有するという。それによれば、中国の南東部沿岸域に配備された台湾を目標とするミサイルは1,400基以上に漸増してきており、このことは、北京が台湾の独立を阻止するための武力の行使を決して放棄していないことを示唆している。また、中国の兵力は227万人で、年間軍事支出は1,160億米ドルで、いずれも台湾のほぼ十倍となっている。国防部の成雲鵬戦略計画局長は、台湾は中国と軍備競争をするつもりはないが、非対称戦闘構想に基づいて、小規模だが強力な軍事力を構築するために、国防予算の最適配分を心がけている、と強調した。

記事参照:
China able to stage attack on Taiwan by 2020: MND report
102年版國防報告書中文版: http://report.mnd.gov.tw/m/minister.html
English version: http://report.mnd.gov.tw/en/m/minister.html

10月8日「デンマーク、北極圏向け軍事力強化」(DefensNews.com, October 8, 2013)

デンマーク国防軍 (DDF) は2012年10月、グリーンランドに司令部を置く統合北極コマンド (Joint Arctic Command: JAC) を発足させたが、これは、160万平方マイルに及ぶ北極領土に対するデンマークの主権を護るために、特殊作戦部隊の訓練と配備を拡充する計画を促進するものである。JACの最初の任務は、特にフェロー諸島とグリーンランド周辺の戦略的に重要な地域で、デンマークの監視能力、空と海における追跡能力を強化することになろう。JACは、特殊作戦部隊、Siriusの指揮を引き継ぐ。Siriusは、1941年以来、時に摂氏マイナス50度まで下がる酷寒のグリーンランドでDDFの長距離偵察哨戒任務を主導してきた。DDFの主要な特殊作戦部隊は、過去もそして現在も、Siriusでの任務を通じて、生き残り能力と偵察能力を錬成してきた。JACは、グリーンランドのヌークの主基地とフェロー諸島のトースハウンのサブ基地から、北極圏における軍事任務と作戦行動を調整する上で中軸的役割を果たすことになろう。グリーンランドとフェロー諸島の地理的位置は、JACとノルウェー軍との間で、軍事任務と海洋における捜索救難などの非軍事任務について、態勢整備と調整を行うのに適している。

デンマークの北極領土の監視と軍事的防衛はNATO条約第5条の集団的自衛権の発動対象となっているが、デンマークは、北極圏での軍事能力強化を重要目標としてきた。そのため、機動能力の高い特殊作戦部隊の兵員募集と訓練のための資金が増額されることになろう。特に、陸軍と海軍の主要特殊作戦部隊である、Jagerkorpset(ハンター部隊)とFromandskorpset(潜水工作部隊)に重点的に配分されることになろう。これらの部隊は、アフガニスタンにも派遣されたが、今後、北極圏の陸上哨戒偵察任務から、北大西洋におけるデンマークの石油・天然ガス施設に対する管轄権と主権回復のための敵艦船への襲撃やテロリストに対する直接的な攻撃処置まで、広範な任務遂行に必要な技能を錬成するために、特殊任務訓練に多くの時間を費やすことになろう。これらの部隊は通常、130~150人の戦力だが、今後、200~300人前後の戦力に拡充されることになろう。

デンマークは最近、Iver Huitfeldt級フリゲートとKnud Rasmussen級耐氷型外洋哨戒艦を取得し、2016~2018年に配備予定の9機のMH-60R Sea Hawk ヘリと共に、北極圏における特殊作戦能力と全般的な軍事力が強化されることになろう。特に、MH-60R Sea Hawk ヘリの取得によって、DDFは、ヘリ搭載型フリゲートを活用することで、北極圏での軍事的行動範囲を拡大できることになろう。更に、デンマークは、衛星監視能力とJACの監視能力を支援するための無人機の導入を目指している。

記事参照:
Denmark Boosts Resources for Arctic Security

10月10日「インドの南シナ海進出の狙い―インド人専門家論評」(China Brief, October 10, 2013)

米シンクタンク、The Jamestown FoundationのWeb誌、10月10日付けのChina Brief に、インドのThe Institute for Defence Studies and Analyses のダス (Rup Narayan Das) 上席研究員は、“India in the South China Sea: Commercial Motives, Strategic Implications” と題する論説を寄稿し インドの南シナ海進出の狙いについて、要旨以下のように論じている。

(1) インドは南シナ海問題の当事国ではないが、特に2010年7月のハノイでのASEAN地域フォーラムで、当時のクリントン米国務長官が南シナ海における航行の自由をアメリカの国益と主張して以来、インドはその主張を支持してきた。同時に中国は、この頃から南シナ海におけるインドの意図について懸念し始めた。この懸念は、2011年9月にインドとベトナムが南シナ海における石油天然ガス開発計画に合意したことを発表するに至って、更に高まった。中国は、南シナ海において議論の余地のない主権を有しており、インドを直接名指しはしなかったが、南シナ海における如何なる開発プロジェクトにも反対する、と主張した。インドは、中国による種々の妨害にもかかわらず、開発計画についてベトナムとの合意に達した。ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席が訪印した2011年10月に、ベトナム国営石油会社、Petro Vietnamは、インドの国営石油天然ガス会社、Oil and Natural Gas Commission Videsh Limited (OVL) との間で、ベトナムにおける石油と天然ガス開発に関する3年間の長期契約に調印した。この合意は、3年間の効力であるが、長期の協力関係を意図したものである。

(2) インドは、OVLの南シナ海への進出を、純粋に商業的な理由によるものとしている。しかし、アジア太平洋への関与に関するインドの戦略的立場は、これとは異なる。メノン国家安全保障問題顧問は、2010年10月のアメリカでの講演で、「中国は、南アジアで長期にわたってプレゼンスを維持してきた。我々も、東アジアに長い間、プレゼンスを維持してきた」、そして平和的協力の重要性を強調して、「我々、全ての主要大国は、グローバルな相互利益を持っている。こうした相互利益は、安全保障や繁栄のサークルの中に組み込まれたものであり、人為的に南アジアや東アジアに分けて考えることができない」と強調した。これは、アジア太平洋についてのインドの戦略的見方を簡潔に反映したものである。インドの南シナ海における戦略的利益は、エネルギー資源とは別に、アメリカとの貿易の40%が米西海岸を経由していることにもよる。南シナ海へのインドの進出には多くの理由がある。その主たる理由は、インド政府が主張しているように商業的目的である。また、域内の全ての国、特にベトナムとの包括的な関与政策を進める、インド政府の「ルック・イースト」政策に沿ったものである。更に、インドが多国間会議で南シナ海における航行の自由を支持していることから、南シナ海を巡るインドと中国の軋轢が強まっている。これは中国から見ると中国包囲網の一環と映るからである。

(3) インドは最近、南シナ海における対立に引き込まれてはいない。これは、中国が日本とフィリピンとの対立を重視しているためである。この間、インドは、南シナ海問題に対する姿勢を明確にしてきた。クルシード外相は最近、「我々は、南シナ海の紛争には介入しない。我々は、見解の異なる当事国間同士で解決するべき問題であると考えている。この問題は、平和的に、そしてASEANで作成している行動規範 (COC) の範囲内で解決されるべきである」と述べている。この姿勢は2国間交渉を主張する北京の立場を一致するものであるが、インドは、シーレーンにおける航行の自由については一貫して支持してきた。2012年12月にニューデリーで開催されたASEAN・インド首脳会議で、シン首相は、演説の中で地域の安全保障システムについて繰り返し言及し、ASEANに対して、航行の自由と国際法に基づく海洋紛争の平和的解決のために、東アジア首脳会議、ASEAN地域フォーラム及びASEAN拡大国防相会議などの地域フォーラムを通じて、海洋の安全保障と治安維持への関与を強めることを慫慂するとともに、開かれたバランスのとれた透明性ある地域枠組みの発展という目的をもって指導者たちがより緊密に協力するよう提案した。

記事参照:
India in the South China Sea: Commercial Motives, Strategic Implications

10月10日「中国海軍のアデン湾派遣による制度的革新―米海大エリクソン論評」(China Brief, October 10, 2013)

米シンクタンク、The Jamestown FoundationのWeb誌、10月10日付けのChina Brief に、米海軍大学戦略研究部中国海洋研究所のエリクソン (Andrew S. Erickson) 准教授は、ストレンジ (Austin Strange) 研究員と共に、“The Relevant Organs: Institutional Factors behind China’s Gulf of Aden Deployment” と題する論説を寄稿している。

2008年12月28日、中国海軍のミサイル駆逐艦、「武漢」と「海口」、及び総合補給艦、「微山湖」の3隻は海南島の三亜港を出港し、ソマリア沖海賊対処任務に就いた。その出港は国連安保理決議第1851号が採択された12日後のことである。そして、2013年8月7日の時点で、613回の護衛任務を実施、5257隻の商船を護衛してきた。しかし、その決定過程には中国国内の様々な制度的な要因が絡まり合ってきた。中国海軍のアデン湾派遣に伴う様々な制度的革新について、筆者らは、要旨以下のように分析している。

(1) アデン湾における海賊対処への参加については、国内の様々な制度的な要素が働いている。その中心的な問題は、中国海軍とその他の軍種、民間組織及び官庁との間を如何に調整するかであった。海軍部隊の派遣決定の1つの側面は、中国の政治指導者だけでなく大衆も中国が21世紀の大国になるとの悲願と関係している。そのことは、中国海軍が対海賊護衛任務で達成しているパーフェクト・ゲームが中国当局、研究者あるいはメディアで繰り返し取り上げられていることからも理解できる。

(2) 2008年5月初旬、海軍軍事学術研究院と国防大学は、護衛の可能性について共同研究を開始した。これには、外交部、交通運輸部、総参謀部の代表、更には多くの専門家が参加した。この中で様々な政治的な問題が提起された。例えば、「どのような海軍の作戦が対海賊のための作戦なのか」、「派遣された軍人は何をするのか」、「もし、海賊の犠牲となった船舶を救助できなかったときには、艦長はどのような責任を負うのか」、「中国の部隊はソマリア領域に入って何をするのか」などである。更に、中国海軍が直面した問題は、指揮系統の問題であった。北京は、米国が主導する合同任務部隊CTF151のような多国間枠組みの中に中国の部隊を統合することは望んでいなかった。このため唯一実行可能な選択肢は、独立した指揮系統のよって参加することであった。

(3) 中央軍事委員会は2008年11月、部隊派遣の提言を承認したが、北京は、国連安保理決議が採択されるまで部隊を派遣しなかった。安保理決議を待ったということは重要である。国防部スポークスマンは2012年12月にも、「中国は、国連安保理決議に基づき、アデン湾及びソマリア沖における完全な護衛任務を継続する」と言及している。しかし、政府当局者、研究者、専門家は、中国の交戦規則 (ROE) と海賊対処との関係について、法律的視点から異なる意見を提起している。本国から遠く離れた海域で中国海軍が海賊容疑者を拘束すべきか、拘束した場合、彼らをどのように扱うかということについては、コンセンサスはあまり得られていない。その結果、海賊対処政策は、かなり慎重なものとなった。確かに、中国海軍のROEは、一定の行動を取ることを容認している。海賊はしばしば音声や光学器材などによる警告を無視して商船に近接するため、中国の部隊は、最初の2年間で21回の実弾警告射撃を行い、商船を護ってきた。

(4) 第2次隊以降の派遣はより一層制度化され、中国政府の省庁横断的行動としては、異例によく調整されたものとなっている。解放軍報によれば、アデン湾派遣は、外交部、運輸交通部と中国海軍によって統合的に監理されている。中でも外交部が重要な調整役を果たしている。外交部は、中国艦艇による護衛を希望する商船の申請を受け付け、部隊に護衛を提案し、中国海軍が計画を決定すると商船に会合点を指示する。また、外国における補給休養のための寄港、さらには外国海軍部隊との交換行事を計画、調整する。指揮系統については、特に外交部と中国海軍、中国海軍と各艦艇、艦艇と商船そして商船と外交部の間の調整と迅速な意志決定を可能にする情報共有機構、「循環的信息鏈」が活用された。運輸交通部は、政策立案、広報の輔佐、特に外国港湾の訪問などの後方分野において役割を果たしてきた。

(5) 作戦面から見れば、中国の海賊対処作戦は、軍と他の省庁間で相当程度の同時性が求められている。縦割りで、非対称的な情報の流れによって起こる非効率を軽減するために、中国海軍は、一本化した指揮系統を採用した。これにより、中央軍事委員会は、所属艦隊や基地司令といった中間指揮機構を通すことなく、直接、艦艇に命令を伝えることができるようになった。これによって、緊急時には迅速な意志決定が下せるようになった。アデン湾における作戦によって得られた省庁間の調整経験は、北京が今後、本国から遠く離れた海域や他の地域で発生した事象に対応するに当たって必要な基準となろう。これらは、この5年間、切れ目なく遂行してきた海賊対処作戦を支えるために達成してきた、中国海軍、その他の省庁及び軍支援ネットワークによる広範な制度的革新の一例である。全体として見れば、本国から遠く離れた海域における作戦遂行のために中国海軍が達成した制度的革新は、それが地味なものであったにもかかわらず、将来、中国海軍にとって、本土からの地理的な距離に制約されることなく任務を遂行するに当たって必要な、一元的な通信・調整システムの構築を可能にするものであった。特に即応時間を最適化し、予測し得ない緊急事態に対応するための調整機構を如何に構築するかといった、アデン湾派遣の経験から学んだ制度的な教訓は、中国近海における多くの事前準備、訓練そしてリアルタイムの作戦行動にも応用できそうである。

記事参照:
The Relevant Organs: Institutional Factors behind China’s Gulf of Aden Deployment