海洋情報旬報 2013年8月21日~31日

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8月22日「米比軍首脳、航行の自由維持を言明」(The China Post, AFP, August 25, 2013)

フィリピンのバウティスタ国軍最高司令官とデンプシー米統参本部議長は8月22日、マニラで会談し、東南アジア海域において航行の自由を維持することなどで合意した。会談後の共同声明は、「我々は、海洋における航行の自由を維持し、妨害なき通商と人・物資の移動を保証することに共通の利益を有している。我々は、海洋における優位を維持することで、かかる利益を護ることが可能な東南アジアの安全保障環境を強化していくことを決意している」と強調している。共同声明はまた、中国を名指ししてはいないが、海洋における領有権問題を、国際法の枠内で平和的手段を通じて解決することを求めている。アメリカは、領有権紛争ではいずれの側にも与しないことを明らかにしてきているが、オバマ政権のアジア回帰の一環として、フィリピンにおける軍事プレゼンスの再構築を進めている。これについて、共同声明は、「我々は、フィリピン軍管理下の軍施設への米軍のローテーション配備の強化を通じて、強力で、バランスがとれ、かつ迅速な対応が可能な安全保障パートナーシップを目指す」と述べている。

記事参照:
US, Philippines vow freedom of navigation amid sea rows

8月22日「スペイン海軍哨戒機、ハイジャック漁船を空中観察」(EUNAVFOR Somalia, August 22, 2013)

EU艦隊所属のスペイン海軍哨戒機は8月22日、海賊にハイジャックされ、現在ソマリア中部のガルムドゥグ地区の海岸に乗り上げている、オマーンの漁船、FV Naham 3を上空から観察した。それによると、該船に武装した海賊が視認されたが、該船やその周辺に人質は発見されなかった。該船は、2012年3月26日にソマリア東方沖のインド洋でハイジャックされ、2010年11月26日にハイジャックされた、マレーシア籍船のコンテナ船、MV Albedo と数カ月間にわたってロープで繋がれていた。MV Albedoは2013年7月8日、ソマリア沿岸沖で沈没したが、以来、該船は、海岸に乗り上げていた。空中写真によれば、該船の上甲板で海賊が武器を構えている。現在、人質解放交渉が行われていると見られるが、EU艦隊は彼らの勾留場所を特定するには至っていない。

記事参照:
Pirates Move Fishing Vessel Naham 3 To Somali Shoreline
Photo: On August 22, a Spanish Maritime Patrol Aircraft from EU Naval Force overflew and observed the pirate controlled fishing vessel FV Naham 3. Armed men have been sighted on board FV Naham 3. However, no hostages have been seen in or near the vessel.

8月23日「アジア太平洋における戦略的安定の維持とアメリカの拡大核抑止力―論評」(RSIS Commentaries, August 23, 2013)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のChristine M. Leah訪問研究員と米ユタ州立大のBradley A. Thayer 教授は、8月23日付けのRSIS Commentariesに、“The END of Strategic Stability in the Asia-Pacific?” と題する論説を発表した。筆者らは、中国パワーの拡大とともに、核戦略と抑止力が再びアジアにおけるパワーゲームに重要な役割を占めつつあることから、アメリカは拡大核抑止力 (Extended Nuclear Deterrence: END) を強化するための幅広い選択肢を必要としており、ワシントンは、太平洋地域に戦術核兵器を再び配備することを真剣に検討する必要があるかもしれないとして、要旨以下のように論じている。

(1) アメリカの超大国としての地位は、同盟国に安全保障を提供することを含め、その戦略的な利益を追求するために、強力な拡大抑止能力に依拠している。そのため、アメリカは、十分な戦略核戦力を維持するとともに、紛争のエスカレーションにおける選択肢を拡大するために、より小型の核兵器による補完を必要とした。アメリカのこうした小型核戦力は、1990年代初めに当時のブッシュ政権が撤去して以来、現在ではアジアには配備されていない。しかしながら、現在のアジア太平洋地域における軍事バランスは変化しつつあり、しかも紛争のエスカレーションに対応した選択肢を欠く現在の戦力態勢は、アメリカの拡大核抑止力 (END) の信頼性を低下させている。ENDの核心は、基本的な抑止力、第2撃報復能力、確証破壊能力、(公式には否定されているが)核の先行使用、及び目標照準の柔軟性などにおける信頼性、そして特に紛争の全てのスペクトラムにおけるエスカレーション・コントロールや主導といった、戦闘遂行能力における信頼性にある。核戦争を戦う能力と意志、あるいは少なくとも通常戦力と核戦力におけるエスカレーション・コントロール能力がENDの鍵である。

(2) 中国の軍事力増強によって、アメリカは、その同盟国と友好国に保証を与え、核兵器の拡散を阻止し、そしてアジアにおける緊迫した安全保障環境を緩和する、信頼できる戦力態勢を必要としている。中国の軍事思想は、北京が、核兵器を単なる最小限抑止戦力としてではなく、アメリカに対して必要な時に使用できる戦力と見なしていることを示唆している。中国は核戦力とミサイル戦力を増強しており、これらの戦力は、沖縄を含む日本やグアムを脅かすに十分な射程を有している。最近の報告によれば、中国は間もなく、数千キロの射程を持つJL-2核弾頭ミサイルを搭載できる潜水艦5隻からなる、信頼できる海洋核戦力を配備すると見られる。米国防省情報局 (DIA) の見積によれば、中国はおよそ50~75基のICBMを保有しているという。また、2012年の時点で、中国は、75~100基のMRBM、5~20基のIRBM、1,000~2,000基の陸上基地巡航ミサイル (GLCM) を保有している。

(3) 結局、アメリカのENDが信頼できるものであるためには、アジアは、将来的にかつてのヨーロッパに似た態勢が必要になるかもしれない。ENDの対象国が紛争の最前線に位置していることから、ENDの提供国、即ちアメリカも前方展開しておく必要があろう。中国は、中距離核戦力全廃条約(INF条約)に加盟していないため、アメリカより極めて有利な立場にある。INF条約によって、アメリカは、射程500~5,000キロの陸上基地弾道ミサイルの配備ができない。アジアで台頭する新しいパワーがもたらす軍事的影響に対するロシアの懸念を考えれば、米ロ両国は、アジア太平洋地域において現出しつつある核戦力態勢の実態に対応するため、INF条約の改訂を協議する可能性もある。

(4) 従って、アメリカとアジアの同盟国が短距離核戦力の前方配備の可能性を真剣に再考することは、決して非現実的なことではない。実際、米下院軍事委員会は2012年に、その可能性を提起した。ワシントンは、少なくとも攻撃潜水艦や空母の一部に戦術核システムを再搭載することは可能であろう。同盟国が彼らの安全保障に不安を抱いていない時、ENDは概念そして政策として上手く機能するのである。

記事参照:
The END of Strategic Stability in the Asia-Pacific?

8月23日「アメリカは中国を封じ込めようとしていない―米専門家論評」(Foreign Policy, August 23, 2013)

米国防大学、Center for the Study of Chinese Military Affairs (CSCMA) のサウンダース (Dr. Phillip C. Saunders) 所長は、8月23日付の米誌、Foreign Policy(電子版)に、 “The U.S. Isn’t Trying to Contain China .and China’s neighbors don’t want it to anyway” と題する論説を掲載し、アメリカは中国を封じ込めようとしていないし、また中国の近隣諸国もそれを望んでいないとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国の軍人やコメンテーターの多くは、オバマ政権のアジア再均衡化戦略を中国封じ込めの政策の一環と誤解している。もしアメリカが本当に中国を封じ込めたいと考えているならば、中国を国際的に孤立させ、貿易や投資関係を断ち切ろうとするはずで、中国が国際機関において役割を拡大したり、中国市場へのアメリカのアクセスを拡大したりしないはずである。中国の公式な見解はより抑制されたものであるとしても、疑念が根底にあるのは明確である。8月19日にワシントンで行われた米中国防相会談後の記者会見でも、中国の常万全国防相は、アメリカのアジア戦略が、「地域のどこか特定の国を目標にしたものではない」ことを希望すると述べた。

(2)アメリカは中国を封じ込めようとはしていない。再均衡化戦略は、アメリカの外交、経済、軍事資源をより多くアジアに投入し、拡大しつつあるアメリカの政治的、経済的、安全保障上の国益とバランスをとろうとするものである。過去数年間、米中関係はより抗争的になっているのは事実で、特にアジアでは、中国の強まる影響力と拡大されつつある軍事力は、アメリカの優位に対する挑戦となっている。確かに、ワシントンは、アメリカのアジアでの軍事行動にとって脅威となり得る、接近阻止・領域拒否能力を開発しつつある、中国の軍事力を懸念している。

(3) しかしより重要なことは、米中両国の指導者が、アメリカの中国封じ込めの試みを、米中両国の重要な互恵関係を大きく損なうものと認識していることである。両国の貿易額は、2013年上半期だけで2,440億ドルに達しており、対前年比5.6%の伸びとなっている。再均衡化戦略は、地域の緊張を高めてはいない。それどころか、この戦略は、米中両国間の戦略的な緊張関係を管理する手段として、中国の指導者に対して、安定的で協力的な対米関係建設努力を倍加するよう促しているのである。このことは、最近の出来事からも明らかである。アメリカが再均衡化戦略を発表して以来、米中両国の軍部は、より頻繁に両国軍部間のホットラインを利用し、米統合参謀本部戦略計画政策担当者と中国人民解放軍の担当者との新しい対話メカニズムを設置することにも合意した。中国側は、主要な軍事行動について事前通告する方法について交渉することや、両国の艦艇や航空機が近接した際の運用手順について討議することを提案している。両国はまた、サイバー分野に関するワーキンググループを設置するとともに、戦略的な問題について継続的に議論するための戦略的安全保障対話を開始した。

(4) アジアの中国隣接諸国も、中国の台頭が自国にどのような影響をもたらすかについて、関心を高めている。10年程前から、アジア諸国は、域内における中国の影響力を相殺するため、アメリカに対して、より以上の外交的、経済的そして軍事的な役割を果たすよう求めてきた。これら諸国は、東アジア首脳会議のような地域的な枠組みにアメリカを取り込み、米軍との安全保障協力を拡大してきた。しかし、アジアの指導者は、中国の影響力を相殺するためにアメリカに期待しているが、中国の封じ込めを望んでいるわけではない。中国は、アメリカの同盟国である日本、韓国、オーストラリアを含む全てのアジア諸国にとって、重要な市場である。これら諸国にとって悪夢のシナリオは、これら諸国がいずれにつくかの選択を迫られる、米中間の軍事紛争である。最悪に近いシナリオは、アジア諸国がアメリカ陣営と中国陣営に分断されることで、そうなれば、この地域の繁栄を危機にさらし、何十年かけて形成してきた経済的統合を台無しにしてしまうであろう。

(5) たとえアメリカが中国封じ込めを決心し、封じ込めようと努力しても、アジア諸国は、中国を経済的に孤立させようとするアメリカ主導の試みに参加することを、強く躊躇うであろう。アジア地域には、中国を明確な標的とした「アジア版NATO」や米軍主導体制を求める雰囲気ではない。アジア諸国は、この地域におけるアメリカの影響力を弱めようとする中国の努力を支援することはないが、同時に中国を封じ込めようとするアメリカの努力に参加するつもりもないであろう。その上、日本や韓国などの同盟国の支援がなければ、アメリカは、軍事的封じ込め戦略を遂行するために必要な前方展開基地を欠くことになろう。

記事参照:
The U.S. Isn’t Trying to Contain China .and China’s neighbors don’t want it to anyway

8月24~25日「米中両国海軍、アデン湾で合同演習実施」(American Forces Press Service, August. 26, 2013)

米第5艦隊所属の誘導ミサイル駆逐艦、USS Masonは8月24~25日の2日間、中国海軍海賊対処艦隊の駆逐艦、「哈爾浜」と総合補給艦、「微山湖」と共に、アデン湾で合同演習を実施した。演習では、夜間演習を含む訪問・乗り込み・捜索・拿捕演習、緊急医療支援演習などが実施された。また、実弾射撃演習や両国の戦闘艦の甲板へのヘリの相互着艦演習も行われた。

記事参照:
U.S., Chinese Navies Exercise Counterpiracy in Gulf of Aden
Photo: A boatswain’s mate guides a Chinese Harbin Z-9C helicopter to the flight deck of the guided-missile destroyer USS Mason during a training exercise in the Gulf of Aden on Aug. 24, 2013.

8月26日「ADMMプラスの将来―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, August 26, 2013)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のSee Seng Tan准教授は、8月26日付けのRSIS Commentariesに、“Future of ADMM-Plus: Asia’s Growing Defence Engagements” と題する論説を掲載し、アジアの安全保障アーキテクチャは、3つの方向に、即ち第1にアメリカ中心の「車輪型 (“wheels”)」から「蜘蛛の巣型 (“webs”)」に、第2に外交政策における多国間主義が防衛協議機構の役割にまで拡大し、第3に「対話の場 (“talk-shops”)」から「実務協議の場 (“workshops”)」に変化していることであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) ASEANのイニシアチブでアジア太平洋諸国の国防大臣の公式会合が開かれるようになったのは、つい最近のことである。ASEAN諸国は2006年、ASEAN諸国の国防省間の協力と対話を促進するために、ASEAN国防相会議 (The ASEAN Defence Ministers’ Meeting; ADMM) を発足させた。2010年からは、ADMMを拡大し、8カ国の外部パートナー(オーストラリア、中国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、ロシア及びアメリカ)を加えた「ADMMプラス」が創設された。 東アジアサミットとほぼ同じメンバーだが、ADMMプラスは、信頼醸成と能力構築を主眼としている。とりわけ能力構築に関しては、ADMMプラスは2010年5月11日の共同声明で、ASEAN諸国が複合的な安全保障課題に対応できる能力を構築し、より良き態勢を整える上で、外部パートナーが果たした貢献を評価している。とはいえ、アジアの安全保障秩序とそれを支えるアーキテクチャは、完成にはほど遠い状況にある。しかし、ADMMプラスは、不完全なジグソーパズルに重要なピースを加えるものである。

(2) アジアにおける防衛協力にADMMプラスが加わることの意義は大きく、アジア地域の安全保障の構図を書き直しつつあることは間違いない。それは、少なくとも3つの方向を指向していることが注目される。

第1に、米太平洋軍のブレア (ADM Dennis Blair) 元司令官が2001年に論じているように、アジアの安全保障体制がアメリカとの「車輪型 (“wheels”)」、即ち「ハブ・アンド・スポークス型の2国間同盟システムから、「蜘蛛の巣型 (“webs”)」に変化しつつあることである。この用語は、専門家がアジア地域における2国間及び多国間の防衛協力の拡大に言及するとき、受け入れられるようになってきた。

第2に、 ADMMプラスの発足は、アジア全域に及ぶ多国間外交に、遅れて加わった国防相間のハイレベルの防衛協力機構である。シャングリラ・ダイアローグも、この地域の多国間協議機構の歴史から見れば、最近できた多国間協議の場である。この地域における多国間外交をリードしてきたのは外交部門であるが、シャングリラ・ダイアローグやADMMプラスといった防衛関係の協議機構も、その中味や目的から見て、多国間外交の主役の仲間になってきた。

第3に、この地域の防衛協力が、テロ対処、人道支援と災害対処、海洋安全保障、軍事医療、更には平和維持活動といった、非伝統的な安全保障課題における単なる対話を超えた実際的な協力に向かっていることである。こうした課題は、アジアの多国間協力を単なる「対話の場 (“talk-shops”)」から「実務協議の場 (“workshops”)」に変化させる機会となっている。

(3) それに関わらず、こうした方向性は、アジアの安全保障が野戦服をスーツに着替え、戦闘靴から短靴に履き替えた軍人外交官による外交へと根本的に変化したことを意味するわけではない。しかしながら、多国間防衛協力は、ゆっくりとだが着実にこの地域の安全保障構図を書き換えつつある。政治的な緊張と戦略的な不信感が依然としてアジア地域に根強く、従って、アジア諸国間の防衛部門における実質的な協力の進展は、歓迎すべきものである。

記事参照:
Future of ADMM-Plus: Asia’s Growing Defence Engagements
備考:本稿は、筆者、See Seng Tanのpolicy report, “Strategic Engagement in the Asia Pacific: The Future of the ADMM-Plus” の一部である。Policy Report is available at; http://www.rsis.edu.sg/publications/policy_report/Strategic-Engagement-in-the-Asia-Pacific.pdf

8月27日「北極海航路は世界貿易を変えるか―カナダ専門家論評」(Aljazeera.com, August 27, 2013)

カナダのThe University of British Columbiaのバイヤーズ (Michael Byers) 教授は、北極海経由の航路の将来性について、要旨以下のように述べている。

(1) 北極海の海氷の融解は、アジアの通商大国、中国の関心を高めているが、北極海経由の航路が実用化するには沿岸諸国の協力が不可欠である。太平洋と北極海を結ぶベーリング海峡の水深は深く、海賊の脅威のないチョークポイントである。ベーリング海峡を東に抜ければカナダ北西航路で、米大西洋岸まで7,000キロである。西に抜ければロシア北方航路で、欧州まで1万キロである。将来的には、北極海の中心を通る航路も利用可能となろう。中国メディアは、北方航路をThe “Arctic Golden Waterway” と呼んでいる。韓国、シンガポールそしてインドは、北極海経由の航路に備えて、砕氷能力を持った貨物船やタンカーを建造している。

(2) ロシアは北方航路を重視しており、既にプーチン大統領は2011年9月に、国際通商航路としての北方航路の重要性を強調している。ロシアは、北方航路を通航する商船を砕氷船で先導しており、その料金を徴収している。2007年に就役した、最新の原子力砕氷船、The Fifty Years of Victory は、厚さ2.5メートルの砕氷能力を持つ。その他の北方航路のインフラ整備としては、10カ所の捜索救難船センターの新設、沿岸港湾の改修、通行許可申請の簡素化、モスクワにおける天気予報と海氷状況に関する英語放送センターの新設などが含まれる。こうしたロシアの努力は報われつつあり、北方航路を利用する船舶は大幅に増えた。2012年には、40隻以上の船舶がこの航路を利用し、その大部分が、北西ロシアから中国、韓国あるいは日本向けの、ばら積船や、鉄鉱石、石油、LNGなどを積載した船舶であった。また、カナダのバンクーバーからドイツのハンブルグ向けの船舶も1隻あった。2013年は、既に55隻が通行許可を得ており、通航期間が7月から11まで延長された。

(3) 北西航路も通航船舶が増えているが、スローペースである。2012年には、30隻が通航したが、他国に向かう大型船はなかった。これは、北方地域に対するカナダ政府の投資が少ないことも一因で、また通航船舶に対する砕氷船による先導も提供できない。更に、状況を一層複雑にしているのが、カナダがこの航路を外国船舶が通行許可を必要とする「内水」と主張していることに対して、アメリカが反対していることである。アメリカは、この航路を、通行許可を必要としない「国際水域」と主張している。このことは、この航路の将来に暗雲を投げかけている。ロシアも、北方航路についてカナダと同じ立場をとり、ロシアの管轄水域内にあると主張している。中国や他のアジア諸国も、大幅な航行の自由が認められることから、北極海の航路についてアメリカと同じ立場に立っていると思われるかもしれないが、これまでこうした立場を表明したことがない。2012年の夏に中国の砕氷船、「雪龍」が北方航路を通航した時、北京は、モスクワに許可を求め、ロシアの砕氷船の支援を受けた。

(4) アジア諸国の海運会社は、もし北極海経由の航路を利用するとすれば、北極海沿岸諸国の支援を必要とするであろう。何故なら、海氷がなくても、危険な場所が多いからである。北極海経由の航路は大きな利益をもたらすが、リスクも大きい。北極海が世界海運の新たな「地中海」となるには、アジア諸国も北極海沿岸諸国も共に協力しなければならないであろう。

記事参照:
How the Arctic Ocean could transform world trade

8月28日「世界のコンテナ運営会社、トップテン」(World Maritime News.com, August 28, 2013)

英国の海事調査機関、Drewryが発表した、Annual Review of Global Container Terminals Operatorsによれば、世界のコンテナ運営会社のトップテンは以下の通り。

130828
記事参照:
Drewry’s Top Ten Global Terminal Operators

8月29日「UASC、現代重工に超大型コンテナ船発注」(gCaptain, Reuters, August 29, 2013)

United Arab Shipping Company (UASC) は8月29日、韓国の現代重工に対して、総額20億米ドルを超える金額で超大型コンテナ船を発注した、と発表した。それによれば、UASCは、1万8,000TEU級5隻と1万4,000TEU級5隻を現代重工で建造する。引き渡しは、2014年後半からを予定している。更に、UASCは、1万8,000TEU級1隻と1万4,000TEU級6隻の追加購入オプションを持ち、これらは総額に含まれているという。UASCは1976年に、バーレーン、イラク、クウェート、カタール、サウジアラビア及びアラブ首長国連邦の各国政府出資で設立された船社である。

記事参照:
Hyundai Heavy to Build 18,000 TEU Containerships for UASC

8月29日「台湾、大平島に埠頭建設を計画」(Taipei Times, August 31, 2013)

台湾は南シナ海の大平島に埠頭建設を計画しているが、立法院外交国防委員会の林郁方議員(国民党)は8月29日、埠頭建設によって、南シナ海における台湾の防衛能力は大幅に強化されるであろう、と語った。林議員によれば、建設費は33億7,000万台湾ドル(11億1,250万米ドル)で、当初予算として2014年度に10億台湾ドルが計上されて建設が開始され、当初計画より2~3年前倒しで2016年には完成する。林議員の公表文書によれば、海岸巡防署の排水量6トン未満の巡視艇が大平島にある壊れた横脚橋を利用しているが、埠頭が完成すれば、海軍艦艇が係留でき、重装備や物資を荷揚げできるし、また何隻かの大型や中型の巡視艇及び海軍艦艇が大平島を根拠地とすることもできるという。大平島には現在、長さ1,150メートルの滑走路があるが、少量の貨物を搭載したC-130H輸送機が「極めて良好な」気象条件でしか利用できず、新埠頭が完成すれば、滑走路の拡張にも役立つであろう。同島は、南沙諸島で最大(長さ1.4キロ、幅0.4キロ)で、唯一真水が出る島で、台湾南部の高雄から1,600キロ南にあり、台湾が占拠している。

記事参照:
ItuAbaIsland wharf to bolster nation’s defense
Photo: ItuAbaIsland (TaipingIsland)

8月30日「米比国防相、マニラで会談」(American Forces Press Service, August. 30, 2013)

ヘーゲル米国防長官は、ブルネイでのASEAN諸国との国防相会議、ADMMプラスに出席後、8月30日にマニラを訪問し、アキノ三世大統領、カズミン国防相と会談した。ヘーゲル国防長官は会談後の記者会見で、「米比両国間の不可分の同盟関係は、この地域の平和、安定そして繁栄にとってアンカーであり、両国間の緊密なパートナーシップを引き続き強化することは、アメリカのアジア太平洋地域における長期的な再均衡化戦略の重要な要素となっている」と述べた。また、長官は、「アメリカは、フィリピンに恒久的な基地を求めない。これは、冷戦思考に逆戻りすることになる。最近、シンガポールやオーストラリアで行っているような、フィリピンにおけるローテーション配備による米軍のプレゼンスの強化は、両国の軍事協力関係にとって有益となろう」と述べた。更に、長官は、南シナ海における領有権紛争については、国連海洋法条約を含む国際法規に準拠し、国際的に受け入れられるメカニズムを通じた、紛争の平和的解決を慫慂する、と強調した。

記事参照:
Hagel Praises ‘Unbreakable’ U.S.-Philippine Alliance

8月30日「中国海洋石油、2013年上半期の実績発表」(RIGZONE, August 30, 2013)

中国海洋石油総公司(CNOOC)が最近公表した2013年上半期の実績によれば、CNOOCは上半期に、約1万5,000平方キロの2次元探査データと9,500平方キロの3次元探査データを収集し、この間、中国沿岸沖で48本の試掘井を掘削し、渤海湾と南シナ海西部で7本が新発見に繋がり、18本の評価井を掘削した。

記事参照:
CNOOC Updates on Upstream Operations off China

8月31日「テロリスト、スエズ運河通航中の商船攻撃未遂」(gCaptain, Reuters, August 31, 2013)

スエズ運河庁のメミッシュ (Mohab Memish) 長官は8月31日、「テロリスト分子が8月31日、スエズ運河北部を通航中のパナマ籍船で中国遠洋運輸公司所有のコンテナ船、MV COSCO Asiaを攻撃したが、失敗に終わった。該船と積荷のコンテナには、全く損傷がなかった。運河の安全は軍によって完全に掌握されており、運河の通航は通常通り行われている」と発表した。メミッシュ長官の発表では攻撃の詳細には言及していないが、海運筋がロイター通信に語ったところによれば、該船が航行中、2回の爆発音が聞こえたという。

記事参照:
COSCO Asia Containership Attacked in Suez Canal
Photo: MV COSCO Asia

【関連記事】「海運業界懸念、スエズ運河での商船攻撃事案」(gCaptain, Reuters, September 2, 2013)

エジプト軍当局筋が9月1日に明らかにしたところによれば、MV COSCO Asiaに機関銃を発射したとして、軍は3人の犯人を逮捕した。この事案は、スエズ運河通航中の船舶に対する攻撃を軍当局が確認した最初の事案となった。軍が2013年7月に明らかにしたところによれば、スエズ運河で爆発があったとの報告を調査したが、この時は如何なる証拠も発見されなかった。エジプト治安当局筋は、「スエズ運河通航船舶を狙いとするテロ組織の存在については、如何なる情報もない。これまでの情報では、一部の分子がスエズ運河を目標にしていたことが確認されている」と語っている。スエズ運河収入は年間50億ドルで、攻撃事案が多発するようなことがあれば、エジプト経済にとって大きな打撃となろう。

英国のテロ専門家、ウエルチ (David Welch) は、「多くの専門家は、スエズ運河の通航について、長年懸念していた。運河の大部分が陸地に近く、攻撃目標としては魅力的である」と指摘している。アメリカのコンサルティング会社、C-Level Maritime Risksの幹部は、「今回の攻撃は、シナイ北東部を拠点とする外国人あるいは彼らと行動を共にするエジプト人のテロリストによる可能性が高いが、このことは、国際海運の混乱を狙って他の外国人あるいはエジプト人によるテロリストが陸地から同様の攻撃を行う可能性がある」と語っている。世界最大のコンテナ船運航船社、マースクの広報担当は、スエズ運河の利用については変わらないとしながらも、情勢を注視している、と述べた。ロンドンのThe Lloyd’s Market Association (LMA) のThe Joint War Committee (JWC) も、情勢を注視しているとしている。現在、JWCの危険海域は海賊の脅威を理由に紅海のエリトリア沿岸沖にまで拡大されているが、LMAの上級幹部は、「我々は、今回の攻撃が継続する兆しなのか、あるいは単発的なものか、また、単独犯かそれともグループによるものかなどについて、更なる情報を収集している。我々は、詳細な情報を得るまで、危険海域を見直すことはないであろう。現在、エジプト・スエズ運河海域は危険海域のリストにはない」と語っている。

記事参照:
Shippers Brace for More Suez Turmoil After COSCO Asia Attack