海洋情報旬報 2013年7月21日~31日
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7月21日「日豪印海洋連合に向けて―ホルムズ」(The Diplomat, July 21, 2013)
米海軍大学のホルムズ (James R. Holmes) 教授は、米シンクタンク、The Center for a New American Security主催のシンポジウム(7月19日開催)における日豪印海洋連合の可能性についての発言内容を、7月21日付のWeb誌、The Diplomatで紹介している。以下はその要旨である。
(1) 日豪印は、東アジアの大陸を囲む三日月型の外縁に位置し、長いシーレーンによって繋がっている。日豪印3カ国は海洋国家群であり、その内側には大陸国家群が集まっている。そして一方の国境を中国、もう一方を韓国や北朝鮮と接し、タイを除き内側の大陸国家群はすべて大日本帝国に征服された過去がある。
(2) 共通の利益、特に共通の脅威は、諸国家を同盟や連合に結びつける最も強力な誘因となる。しかしながら、日豪印の海洋協力について考える場合には、ある国にとっては深刻な問題であっても、他の国にとっては遠く離れた海で起きる問題で、二義的な問題であることは忘れてはならない。例えば、ベンガル湾で起きる問題が日本にとって最優先の問題にはなることには疑問があるし、他方インドが東シナ海で起きる問題について同じように考えることもないであろう。クラウゼヴィッツは、ある国にとって主要な場所で「決定的な優勢」を確立することなしに、あまり重要でない場所に資源を割くことはできないことを指摘している。クラウゼヴィッツは、他人の大儀に対して、人は決して自らの大儀と同じ価値を認めない、と警告している。その場合、自らのパートナーを本気で支援しないのが普通で、同盟国の支援に中程度の戦力を派遣して、状況が厳しくなれば出口を探すのが常である。クラウゼヴィッツの見方に従えば、アジア大陸の外縁で形成されつつある新しいパートナーシップは、簡単な事柄で協働することは容易だが、困難で危険な事柄に直面した時には非常な重圧を受けるということになろう。
(3) 日豪印3カ国の海洋連合の構築については、努力する価値がある。東京は、それを精力的に追求していかなければならない。しかし、気を付けなければならないことは、この3国の関係がほうっておけば、「自然で」、「特別な」パートナー関係になっていくと誤解しないことだ。
記事参照:
Strategic Triangle: A Japan-Australia-India Coalition at Sea?
7月22日「中国国家海洋庁、正式発足」(Record China, July 22, 2013)
中国国家海洋庁のウエブサイトに7月22日付けで掲載された「中国海洋報」によれば、7月22日早朝、国家海洋庁のビルに真新しい「国家海洋庁」と「中国海警局」の2枚の看板が掛けられた。第12回全国人民代表大会(全人代)の審議を通過した「国務院機構改革・職能転換方案」の決定により、もとの国家海洋局および中国海洋環境監視観測船隊と、公安部辺防海警部隊、農業部漁業局、税関本部(海関総署)海上緝私警察の部隊と職責を統合して、新たに国家海洋庁を組織し、国土資源部の管理下に置いた。国家海洋庁は公安部の業務指導を受け、中国海警局の名義で海上の権利保全と法令執行を行う。
記事参照:
新たに組織された国家海洋局、中国海警局が正式に発足=海上の権利保全が任務-中国
7月23日「南シナ海におけるフィリピンの対応―中国に対する小国の対応のテストケース」(The Washington Post, July 23, 2013)
7月23日付の米紙、The Washington Postは、フィリピンは南シナ海における領有権問題を巡って東南アジアで中国に最も強く対抗している国であり、中国という経済的には必要な存在だが海洋では危険な高圧的姿勢を示す国に対して、小国がうまく対応できるかどうかのテストケースになっているとして、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピン政府当局者は、フィリピンと中国の貿易関係が増大していることを指摘して、中国を脅威とは見なしていない、と言う。しかし、専門家は、ここ数カ月のフィリピンの一連の措置はマニラが北京と対決する意志を明示するものであり、またフィリピンは中国の支援に依存していた幾つかの開発計画を中止したり、キャンセルしたりした、と指摘している。例えば、2013年初めにフィリピンは、中国との領有権問題について国連仲裁裁判所に提訴した。また最近では、フィリピンは、領有権を争っている島嶼における駐留人員を増強し、軍装備の近代化を承認し、更には米軍によるフィリピンの海空軍基地へのアクセスを増やす計画を論議している。アキノ三世大統領は5月に、フィリピンの海洋領土を「暴漢ども (“bullies”)」から護る必要性を強調した。一方、中国はここ数年、失われた領土回復を主張して、益々高圧的になっている。
(2) 少なくとも他の4カ国、ブルネイ、マレーシア、台湾及びベトナムも、それぞれ自国の管轄海域における島嶼や周辺海域を巡って、中国との領有権紛争を抱えている。しかし、これら諸国は、中国に慎重にならざるを得ない理由を抱えている。中国は、マレーシアの最大の貿易パートナーである。ブルネイは、自国産石油の輸出先をして中国の依存している。台湾の馬政権は、中国との関係改善に力を入れている。これに対してベトナムは、中国との対決意志を持っている。一部のフィリピンの研究者は、フィリピンはこの地域で中国と対決する上で、最も適した条件を備えている、と見ている。フィリピンはアメリカと深い関係を維持しており、朝鮮戦争でもベトナム戦争でも、また冷戦期を通じても、中国とは別の陣営に属していた。フィリピンの政治分析者は、フィリピンの対中戦略はデルロサリオ外相(前駐米大使)が立案していると語っており、アキノ三世大統領はこれを全面的に支持しているといわれる。
(3) 数年前、中国は、フィリピンと友好関係構築を目指し、ほとんど成功しかけた。当時のアロヨ政権下のフィリピンに、中国は20億ドル以上の借款を供与した。アロヨ大統領は、フィリピンに近い係争海域での天然資源の共同開発を中国とベトナムに認める3国共同開発計画に調印した。2005年に調印された、The Joint Marine Seismic Undertaking (JMSU) は、中国がフィリピンに対して行った経済支援の代償であるとの批判が強まり、長く続かなかった。結局、2008年にJMSUが期限切れになり、共同開発は取り止めになった。2011年3月には、フィリピンは、中国公船2隻がパラワン島沿岸80カイリ沖のReed Bankでフィリピンの石油探査船を妨害した、と非難した。フィリピンは、政治的緊張を理由にこの開発計画を中断した。Reed Bankでの開発計画は40年近くになるもので、フィリピンのエネルギー安全保障にとって死活的な存在と見られてきた。フィリピンのエネルギー省次官によれば、この源開発計画はフィリピンにとって毎年10億ドルの収入が見込まれるもので、開発中断は中国との対峙の中で最も高価な代償となったという。フィリピン内の少数派だが声高な、例えば、アロヨ政権時代の下院議長などは、アキノ政権は中国との関係を改善し、共同開発を再開すべし、と主張している。
(4) 中国もフィリピンも、海上における艦船の対峙とは別に、南シナ海の島嶼、環礁ある砂州における他国の活動を相互にモニターしている。ここ数年、両国は、ベトナムと共に、これらの島嶼に居住施設を建設してきた。フィリピンは、国連海洋法条約に基づいて自らの領有権を主張する53の島嶼や環礁の内、9の島嶼に居住施設を有している。ベトナムは22の島嶼の領有権を主張し、中国は、7の島嶼に推定1,000人の兵士を駐留させている。フィリピン政府当局者は、中国がこれらの島嶼から撤退する可能性はほとんどない、と見ている。フィリピンの占有島嶼に設置されている自治体の首長は、「これは、まるで我々が中国に侵攻されているかのようだ」と嘆いている。
記事参照:
Philippines pushes back against China
7月23日「米、バハマと海賊対処に関する覚書に調印」(Tribune242.com, July 23, 2013)
アメリカとバハマ両国は7月23日、海賊対処に関する覚書に調印した。バハマは米国船の旗国として知られているが、ハンナ・マーチン米運輸長官によれば、この覚書によって、バハマ籍船を襲撃した海賊が拘束された場合、バハマはアメリカに裁判権を委ねることができる。
記事参照:
Bahamas Playing Role In Tackling Shipping Piracy
7月23日「ReCAAP、タグボート&バージに関する海賊対処ガイド発行」(MarineLink.com, July 23, 2013)
ReCAAP ISCとIFC (Information Fusion Centre) は7月23日、タグボート&バージの船主、運航社及び乗組員を対象とした、海賊と船舶強盗に関する対策ガイドブック、“Tug Boats and Barges Guide (TaB )” を発行した。ガイドブックの目的は、タグボート&バージの船主、運航社及び乗組員に対して、情報収集、ガイドライン、報告手順、連絡先、更には過去の経験から得た海賊・武装強盗の手口などを明示することで、ハイジャックや武装強盗の乗りこみを回避することにある。更に、ガイドラインは、船主、船長及び乗組員の事前対策、航行中そして事案の通報、事後処理など、それぞれ段階における責任についても記述している。
記事参照:
Tug Boat, Barge, Guide Against Piracy Published
“Tug Boats and Barges (TaB )Guide”
7月23日「米政府高官のアジア訪問回数で見る、『アジア回帰』の実態」(The Diplomat, July 23, 2013)
米国防大学のサウンダース (Dr. Phillip Saunders) 国家戦略研究所中国軍事問題研究センター長は、ファング (Katrina Fung) 研究員と共に、Web誌、The Diplomatに、“Wheels Up! Has Obama Really Pivoted to Asia?” と題する論説を掲載し、オバマ政権高官のアジア訪問回数をブッシュ前政権高官のそれと比較し、オバマ政権の「アジア回帰」の実態解明を試みている。以下は、その要旨である。
表3.大統領、国務・国防両長官の訪問回数
a.大統領
b.国務長官
c.国防長官
(1) 表1のブッシュ政権の第1期と第2期では、訪問回数と滞在日数に大きな相違がある。これは、9.11以後、ブッシュ政権の高官が対テロ戦争やアフガニスタンとイラクでの戦争に関連した訪問が多かったことを示している(但し、アフガンやパキスタンだけの訪問は戦争努力の一環で、地域外交とは関連がなく、カウントしていない)。表2では、第2期とオバマ政権第1期の違いはそれほどではなく、アジアへの関心の増大を示している。オバマ政権の高官は、APEC、ARF、東アジア首脳会談(2011年以降)、米ASEAN首脳会議(2009年以降)、シンガポールでのシャングリラ安全保障対話、ARF国防相会議プラス(2010年以降)など、地域の多国間会議の出席が増えている。
(2) 表3のaでは、第2期のブッシュ大統領は、6回の訪問中、3回は東アジア首脳会談への出席であった。オバマ大統領の5回の訪問は、APEC、東アジア首脳会談及び核安全保障首脳会談を含め、全て多国間会議への出席であった。クリントン国務長官のアジア訪問と滞在日数は前任者より突出しているが(表3のb)、ブッシュ政権第2期とオバマ政権第1期の最大の違いは、国防長官の訪問パターンである。ゲーツ、パネッタ両長官は計13回の訪問で、15カ国に計58日間滞在し、特に2009年から2012年までシャングリラ安全保障対話に、2010年からはARF国防相会議プラスに、それぞれ出席している(表3のc)。
(3) こうしたデータから、米太平洋軍司令官、国務省東アジア太平洋問題担当次官補、あるいは国防省アジア太平洋地域安全保障問題担当次官補といった、アジア太平洋地域担当高官の訪問回数を除いても、オバマ政権がアジア太平洋地域に高い関心を寄せていることが分かる。アジアにおける再均衡化を継続していく上で鍵となるのは、第2期政権の、特に国務、国防両省の新指導部がアジア太平洋地域へのコミットメントを維持していくことであろう。再均衡化を進めるオバマ大統領の個人的役割に加えて、多くの2期目の大統領が外交政策に力を入れるという傾向を考えれば、こうしたコミットメントは維持されるであろう。しかし、最大の課題は、こうしたコミットメントが、繁栄し、安定し、そして安全なアジア太平洋地域がアメリカにとって利益となるような、実質的な成果に繋げていくことである。
記事参照:
Wheels Up! Has Obama Really Pivoted to Asia?
7月23日「ドイツのコンテナ船運航船社、マレーシアの港を拠点に」(Maritime, Bernama, July 23, 2013)
世界第12位のコンテナ船運航船社、ドイツのHamburg Süd のコンテナ船、MV Cap San Marcoは7月20日、マレーシアのPort KlangのWestports Malaysiaに初めて寄港した。該船は9,600TEUで、Hamburg Süd が南アメリカ航路 (ASIA2) で運航する8,500TEUから9,600TEUまでの12隻のコンテナ船の1隻である。ASIA2は、Westports Malaysia を拠点として、南米と極東を結ぶ輸送網の拡大を目指している。Hamburg Süd のアジア太平洋地域担当マネージャーは7月23日付けの声明で、「Westports Malaysia を拠点とするASIA2は、南米と極東の主要市場を最適の輸送時間で結ぶことができる」と述べている。これに対して、Westports MalaysiaのCEOは、該船の寄港をHamburg Süd との長期的なパートナーシップの始まりを画する出来事とし、「我々は、同社がWestports Malaysiaにおけるプレゼンスを拡大できるよう、継続的な支援を提供していく」と語った。現在、Westports Malaysiaは拡張中で、完成すれば、同港の処理能力は950万TEUから1,100万TEUになる。全長600メートルの新埠頭、Container Terminal 7 (CT7) は、現在運行中のコンテナ船では世界最大の1万8,000TEU級のコンテナ船の寄港が可能になる。
記事参照:
World’s 12th Largest Container Carrier Hamburg Süd Calling Westports Home
Photo: MV Cap San Marco (9,600 TEU) called at Westports Malaysia for the first time on 20th July.
7月23日「米沿岸警備隊、北極海における任務に対応」(Military.com, July 23, 2013)
米沿岸警備隊は、北極海の安全と安定を維持する連邦主管官庁として、北極海の安全保障と環境保護に関わる任務を遂行する。沿岸警備隊は、ノーススロープとバローで行われたArctic Shield 2012作戦の成功を受けて、2013年は西アラスカとベーリング海峡を中心とするArctic Shield 2013を実施する。2013年の作戦は、哨戒活動、他省庁・機関等との連携、そして能力評価の3つの側面にわたって実施される。Arctic Shield 2013の一環として、コツェビューに前進作戦基地が7月12日に設置された。同基地は、西アラスカとベーリング海峡の海上哨戒活動の増加が予想されるために、設置された。コツェビューにはアラスカ州兵の大きな格納施設があり、沿岸警備隊は同施設を共用する。同基地に前方展開する沿岸警備隊員は、捜索救助、海洋法令執行任務及び本土防衛任務を遂行するとともに、Arctic Shield 2013にも参加することになっている。Arctic Shieldにおける他省庁・機関等との連携については、北極海における沿岸警備隊の継続的なプレゼンスについて協議するとともに、増加しつつある北極海における船舶航行に関する相互に関心のある諸問題に対処するために、ノームとコツェビューの地方政府と部族関係者間の地域レベルの協議を続けてきた。沿岸警備隊巡視船、USCGC SPARは、アラスカ州環境保全庁やカナダの沿岸警備隊との協力を強化している。米沿岸警備隊の歴史で初めて、北極海の環境下での能力評価のために、巡視船、USCGC Naushonが北極海に展開した。同船は、ベーリング海、ベーリング海峡、コツェビュー及びノートンサウンドにおいて、海洋法令執行任務と漁業監視パトロールを実施している。National Security級巡視船1隻も、各種任務を遂行する指揮統制プラットホームとして派遣される。第17沿岸警備管区司令官によれば、沿岸警備隊は、当該地域において砕氷船、USCGC HealyとUSCGC Polar Starを含む複数の沿岸警備艇を配備しており、USCGC Healy は、科学調査任務を遂行するとともに、装備品を評価する沿岸警備隊調査開発センターとも協力している。
記事参照:
Coast Guard Meets Arctic Missions
7月24日「北極海の海氷融解、『世界経済に対する時限爆弾』に」(CBC News, July 24, 2013)
北極圏の温暖化は、「世界経済に対する時限爆弾」になりつつある。ヨーロッパの経済学者と科学者らの研究によれば、今後10年あるいはそれ以上の期間、北極海の海氷の急速な融解による経済コストは60兆ドル以上になるであろうという。この数値は2012年の世界経済全体の規模、70兆ドルに迫る数字で、長年にわたって温室効果ガスの排出を低減させるための世界的な効果的な計画がない場合の数値である。夏季の北極海における海氷の著しい消失は、気候変化の加速と、夏季に温められる沖合のメタンガス放出に膨大な影響を及ぼしている。研究グループによれば、膨大なメタンガスの放出は、世界経済や社会にも大きな影響を及ぼす。北極海における氷の減少は、北極海航路の利用と資源開発の面から、経済的な利益をもたらすと見られてきた。しかし研究グループによれば、経済的な利益を遥かに上回る費用が生じるという。研究グループが科学誌、The natureに掲載した論文によれば、東シベリア海海底の永久凍土層の融解によって、今後10年間に500億トンのメタンガスが放出された場合、世界各地での洪水、干ばつ、異常気象等により60兆ドルの経済的損失が生じるという。これは、陸地の永久凍土層の温室効果ガスを計算に入れていない。全体的損失の80%は、自然災害対処のインフラが不十分な開発途上国を直撃すると見られる。
記事参照:
Melting Arctic ice called ‘economic time bomb’
7月24日「北極点の海氷融解、『湖』に」(The Atlantic Wire, July 24, 2013)
カナダのWilliam Wolfe-Wylie of Canada.comによれば、北極点の海氷が今夏も融解し、「湖」になっている。この湖は “Lake North Pole” と呼ばれ、今や年次現象になっているという。この「湖」は、極点周辺の海洋からしみ出た水たまりではなく、海面下の海洋の薄くなりつつある層が融解してできたもので、「この湖は浅く、冷たいが、湖そのものである」という。7月の北極海の温度は平年より摂氏1~3度高かったことから、この湖は7月13日から姿を見せ始めた。
記事参照:
The North Pole Lake Wasn’t at the North Pole
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7月24日「北極における中国とインドの抗争」(Foreign Policy Journal, July 24, 2013)
衝突することになるのか、あるいは協力し合うことになるか、北極海における中国とインドの動向は、注目に値する。両国は5月15日、北極評議会の常任オブザーバーの地位を得た。エネルギー資源を必要としているインドと中国が北極評議会に足場を築こうとするのは、自然なことである。オブザーバー国は、議決権をもたないが、会議に参加して自らの政策について発信することができる。
中国の北極への関心は、科学的調査、天然資源、航路、漁業、地政学的なパワーなどのよって動機付けられている。中国は経済発展に必要なエネルギー資源の60%を輸入に頼っており、北極海のエネルギー資源への関心が高い。中国の漁業にとっても、氷が溶けた後の北極海は豊富な漁場となる。ロッテルダムから上海まで、バレンツ海とロシアの領海を通る航路は、地中海とスエズ運河を通るよりも大きく距離を短縮する。これは燃料費や乗組員のコストを削減し、マラッカ海峡やアデン湾の海賊からの危険を避けることもできる。 北極海沿岸国では、特にアイスランドが中国を信頼できるパートナーと見ている。アイスランドは、2008年に銀行破綻の危機に直面した際、中国によって救われた。それ以来の関係である。またデンマークも、中国を「北極海に正当な経済的科学的関心を有する国」として、北極評議会の正規メンバーになることに好意的である。他のノルディック諸国も中国を正規メンバーとすることを検討中である。
一方、インドの北極に関する公式な立場は、科学的なものである。しかし、インドも、エネルギー供給源の多様化を図る選択肢の1つとして北極を見ている。地政学的に見れば、北極周辺の人口の半分を占めるロシアとの協力が最も適している。しかしインドがロシアと協力するには、ロモノソフ・メンデレーエフ海嶺がシベリアから延びる大陸棚の一部であるとのロシアの主張を、インドが明確に支持する必要がある。インドとノルディック諸国との関係は、中国よりもはるかに遅れている。
記事参照:
India and China in the Arctic
7月25日「韓国、北極総合政策推進計画を発表」(韓国海洋水産部発表、2013年7月25日)
韓国海洋水産部は7月25日、関係省庁合同で「北極総合政策推進計画」を策定した。韓国政府は、5月の北極評議会オブザーバー承認を契機に、「持続可能な北極の未来を開く極地先導国家」というビジョンを設定し、①北極パートナーシップの構築、②科学研究の強化、③北極新産業の創出という3つの政策目標を提示した。また、政策目標を果たすための4つの政策課題を定めた。尹珍淑海洋水産部長官は、沿岸国の排他的権利が認められる北極海においては、沿岸国との協力が必須であると強調しながら、同計画に基づいた政府全体レベルの北極政策の推進を言明した。
同計画の4大推進課題は以下のものである。
①北極ネットワークの構築のための「国際協力」を強化する。
②北極での科学研究活動を強化する。
③北極ビジネスモデルを発掘する。
④北極政策の法的・制度的な基盤を拡充する。
記事参照:
http://www.mof.go.kr/cop/bbs/selectBoardArticle.do
【関連記事】「韓国、北極海における多国間協力推進」(Yonhap News Agency, July 24, 2013)
韓国海洋水産部は7月24日、北極海における多国間協力を推進する方策を明らかにした。南極とは異なり、沿岸諸国の排他的権利が認められる北極海では、沿岸国との協力が核心的な課題であると、尹珍淑(ユン・ジンスク)海洋水産部長官は述べた。5月に北極評議会のオブザーバーとして承認された韓国は、世界の気候変化が朝鮮半島へもたらす影響を観察するため、北極海における研究活動を強化している。韓国は、ノルウェーのニーオルスンに位置する北極研究施設、茶山基地を中心とした研究活動を拡大しつつある。また、研究活動と北極海でのプレゼンスを強化するために、2010年に進水した韓国初の砕氷船「アラオン号」に続く2隻目の砕氷船の建造を推進する。研究活動の強化に加えて、韓国政府は、北極海を利用する商業利益を探索し、拡大する方針である。8月に韓国の海運会社は、北極海航路を利用してヨーロッパへ向かう航行を計画している。韓国政府とロシア政府は、ロシアの港湾施設の開発協力に関する覚書(MOU)に署名する予定である。韓国とグリーンランド政府の間では、すでに天然資源の共同探査の協力のために覚書が締結されている。
記事参照:
S. Korea seeks to play greater role in the Arctic
7月25日「インド洋におけるパワーバランスの在り方―米専門家論評」(PacNet, No.58, Pacific Forum, July 25, 2013)
米シンクタンク、The Near East South Asia Center for Strategic Studies のペイン (Jeffrey Payne) 上席研究員は、7月25日付けのPacNet (Pacific Forum, CSIS) に、“Finding a Balance in the Indian Ocean Region” と題する論説を掲載し、現在、アジア太平洋地域において海洋を巡って抗争が激化しているが、今後、インド洋地域にも波及する可能性があり、インド洋における3つのパワー、即ちアメリカ、中国そしてインドの動向に注目していく必要があるとして、要旨以下のように論じている。
(1) 北京にとって、インド洋地域は中国の影響力を拡大させていかなければならない地域である。中国とヨーロッパ及び東アフリカとの貿易額は多く、インド洋のシーレーンが妨害されれば、中国の貿易依存経済に大きな打撃を与える。同様に、中国経済の拡大は、外国のエネルギー資源へのアクセスを必要としており、中東の石油資源への依存が続くことになろう。従って、中国は、チッタゴン、グワダル及びハンバントータ(そして恐らくチャーバハール)への港湾投資を含め、この地域における存在感を次第に高めている。また、中国海軍も、合同演習、海賊対処そしてシーレーンの哨戒などを通じて、インド洋での活動を増やしている。
(2) インド洋は、アメリカにとって重要な海域である。米海軍は、インド洋のシーレーンの安全を保証しており、対テロ作戦やアフガニスタンでの任務のための戦力展開にインド洋を使用している。加えて、米軍部隊は、ペルシャ湾内にもプレゼンスを維持している。インド洋地域は、米軍の最も活発な地域戦闘軍である、中央軍 (CENTCOM) と太平洋軍 (PACOM) が分担して管轄海域としている(一部はアフリカ軍(AFRICOM)も担当)。
(3) インドにとって、インド洋地域は裏庭である。北京やワシントンが貿易を護るとともに、国家安全保障目標を追求する場として、インド洋を見ているのに対して、インド洋地域の安全保障はインド自身の安定を左右する。インドは、インド洋地域に対する他の大国の介入に警戒感を持っており、特に南アジアの港湾施設に対する投資やパキスタンとの長期にわたる関係を維持する中国を警戒している。インドは、中国が域内に反インド感情を醸成し、印パ両国間の緊張を高め、最終的には、インドの商船や艦隊を封じ込めようとしているのではないか、と警戒している。インドは、アメリカに対してはそれほどの警戒感を持っていないが、アメリカからの戦略的協力関係構築の誘いに対しては、それがインド軍をアジア太平洋地域の敵対関係に引きずり込みかねないことを懸念して、依然用心深い態度をとっている。
(4) インド洋の3つのパワー同士の信頼関係は低いし、予測し得る将来そうであろう。このような環境においては、アメリカとその戦略的同盟国との協力関係を進めることが、安定に結びつく最も有効な手段である。インド洋地域における中国のプレゼンスは、自らの国益のためである。中国は、他の国との協力に反対しているわけではないが、躊躇している。インドの目標は、関与を通じて、インド洋地域の他の諸国の活動をリードすることである。インドが主導権を発揮する上で課題は、インドが依然、非同盟時代の影響を引きずっており、また中国を協力枠組に組み込むことに躊躇していることである。結局、インドの戦略ビジョンはまだ不透明である。アメリカは、インド洋地域の安全保障活動をこの数十年リードしてきた。アメリカが引き続き主導権を発揮していく上で問題なのは、域内で存在感を高めるインドと中国がアメリカとの協力に躊躇していることだ。とはいえ、今日、全ての関係国が、緊張をコントロール不能にまでエスカレートさせることなく、国益を追求できるのは、アメリカ主導の戦略的パートナーシップだけである。
(5) そこで、インド洋の安定のためにアメリカが実施すべき政策は、まず、インド洋を1つの全体的な海洋空間として認識することである。中央軍と太平洋軍に管轄地域を分けないで、東アフリカ沿岸からペルシャ湾、南アジアも含めて一体とする。国務省内の地域割りについても同様である。第2に、域内の同盟国との海洋協力関係を強化することである。第3に、インドと中国という台頭するパワーが持つ異なった国益を認めた上で、既存の、あるいは新しい協力枠組みに両国を加盟させることである。
記事参照:
Finding a Balance in the Indian Ocean Region
7月26日「中国、ミスチーフ環礁に前方海軍ステーション建設」(The Philippine Star, July 27, 2013)
フィリピン政府高官(匿名希望)が7月26日に明らかにしたところによれば、中国は、ミスチーフ環礁(タガログ語でPanganiban Reef、中国名は美済礁)を、少なくとも艦艇1隻を係留できる前方海軍ステーションに変えている。ミスチーフ環礁は、パラワン島から約130カイリ、南沙諸島のフィリピン領、Pag-Asa島から97カイリの位置にある。この高官によれば、中国は1994年にミスチーフ環礁を占拠して以来、徐々に前進海軍施設を整備してきており、現在、レーダードーム、ヘリパッド及び桟橋を備えた要塞化された8階建ての海軍施設が建設されている。風力発電用の風車も設置されている。現在、南海艦隊から南シナ海海域に派遣される全ての海軍艦艇と政府公船がこの施設を利用しているという。2012年7月にパラワン島南方のHalf Moon Shoalで座礁したフリゲートを離礁させるために、中国海軍が直ちに海軍艦艇やその他の船舶を現場に派遣することができた理由は、この施設が存在したからである。この施設とは別に、中国は、Subi Reefを含む、南沙諸島の占拠島嶼の一部に海軍施設を建設している。Subi Reefには、砲座、ヘリパッド、レーダードーム及び灯台を備えた3階建ての施設が建設されている。
記事参照:
China transforms reef into naval station
7月25日「北極海のサイクロン、海氷融解を促進」(The Vancouver Sun, The Canadian Press, July 25, 2013)
北極圏の気象専門家は、北米を襲うサイクロンによって北極海の海氷が記録的に減少しかねないことを懸念している。北極海のサイクロンは、低気圧によって直径1,000キロを超える半時計周りの最大時速100キロの強風域を伴う。サイクロンは夏季と冬季の両方で発生するが、通常は冬季の方が強い。しかし近年、こうした傾向に変化が見られるになった。サイクロンの発生頻度が増えたわけではないが、より強力になっていく傾向が観測されている。そして強風と降水による高波によって海氷が割られ、太陽エネルギーの吸収を促進する結果を招いている。また、強風によって表面の海水より温かい深海の海水の循環を引き起こす。このためサイクロンは、迅速な海氷の大量破壊を引き起こす。特に、2012年の強力なサイクロンは80万平方キロに及ぶ海氷を破壊したと推定され、これが2012年の記録的な海氷の減少に大きな影響を与えた。カナダの著名な海氷の専門家、バーバー (David Baber) によれば、2009年から北極海に非常に脆弱な海氷域が見られるようになり、これを「衰弱した海氷 (“decayed ice”)」と呼んでいる。バーバーによれば、カナダ沿岸警備隊の砕氷調査船、CCGS Amundsenは、通常の海域を13.5ノットで航行できるが、”decayed ice” 海域でも13ノットで航行できる。北極海のサイクロンが年間の氷結・融解のサイクルにどの程度の影響を及ぼすかは、依然未知の分野が多い。サイクロンは、7月末から再び調査に出航する、CCGS Amundsenの重要な調査項目の1つである。北極海でのサイクロンを調査するには、8月は最適月間の1つである。
記事参照:
Scientists watch Arctic cyclone chew up sea ice
7月26日「ロシア北方艦隊、北極海域哨戒へ」(Barents Observer, July 30, 2013)
ロシア北方艦隊のコロレフ司令官が7月26日に明らかにしたところによれば、北方艦隊から2個の戦闘艦群が、北方航路の商船通航が頻繁になる期間、北極海域に派遣される。同司令官によれば、北方艦隊旗艦の原子力ミサイル巡洋艦、Pyotr Velikyを旗艦とする同艦隊分遣隊が間もなく北極海東部海域に派遣される。別の分遣隊は、フランツヨーゼフランド群島海域に派遣される。これは、ロシアの北極探検家、ゲオルギー・セドフの北極探検100周年を記念するイベントである。ロシア海軍は2012年9月にも、北極海域で人員7,000人以上、艦艇約20隻が参加する大規模海軍演習を実施しており、この時には、ニューシベリア諸島で史上初めて北極での揚陸作戦を演練している。
記事参照:
Russian Navy to perform Arctic campaigns
Photo: The Northern Fleet’s flag vessel “Pyotr Veliky”
7月27日「日本、フィリピンに10隻の巡視船を供与」(ИТАР-ТАСС, July 27, 2013)
7月27日にマニラで行われた安倍首相とアキノ三世大統領との会談で、日本政府がフィリピンに対し10隻の巡視船を供与する意向を明らかにした。この巡視船は、中国と対立のある南シナ海において、フィリピンの海上警備能力向上を促進させるためである。また、この会談で安倍首相は、フィリピン南部のミンダナオ島の開発発展のために経済的支援を供与する用意があることを表明した。ミンダナオ島は、フィリピン政府がイスラム分離派との和解合意を求めている地域である。
記事参照:
Япония предоставит Филиппинам 10 патрульных кораблей
7月28日「フィリピン、主要海空軍部隊のスービック湾への配置替えを計画」(The Washington Post, AP, July 28, 2013)
フィリピンのカズミン国防相は7月28日、訪問中の韓国で、フィリピン政府は、資金手当ができ次第、主要海空軍部隊と航空機及び艦艇を、スービック湾に配置替えする計画である、と語った。マニラ南部のカビーテ州サングレイ・ポイントの狭い艦隊基地に比べて、スービック湾は、アメリカから取得した2隻の大型戦闘艦が接岸できる天然の深水港湾である。AP通信が入手したフィリピン国防省の秘密文書によれば、スービック湾への配置替えによって、南シナ海の紛争海域への戦闘機の飛行時間が、マニラ北郊のクラーク空軍基地から出撃するよりも30分以上短縮され、「スービック湾は、フィリピン軍にとって、西フィリピン海の作戦海域を支援するための直接的かつより短い戦力的アクセス拠点となる」としている。この文書によれば、スービック湾には既に国際水準の飛行場があり、修理改良経費は、新設する場合の推定110億ペソ(2億5,600万ドル)に比して、少なくとも51億ペソ(1億1,900万ドル)で済むという。フィリピンは、米軍部隊、航空機及び艦艇のより頻繁なアクセスを認める計画である。
記事参照:
Philippines to move air force, navy camps for faster access to disputed South China Sea areas
Photo: Subic Bay
7月29日「米海上哨戒機、フィリピンに海洋情報提供」(Fox News.com, AFP, July 31, 2013)
フィリピンのデルロサリオ外相は7月29日、フィリピンの管轄海域だが、中国の艦艇が展開している海域上空を、米海軍のP-3 Orion哨戒機が頻繁に飛行し、中国艦艇の動向についての重要情報をフィリピンに提供している、と語った。同外相は、フィリピンのEEZ内で、あるいは大陸棚の境界内で、何が起こっているかを知る上で、この情報はフィリピンにとって極めて重要である、強調した。同外相は会見で、中国の動向に関する米哨戒機による情報提供は海洋紛争に対するアメリカの中立方針に抵触するのではと問われて、緊密な米比同盟関係を強調し、相互防衛条約の下で外部からの脅威に対しては相互に支援できると述べた。
記事参照:
Philippines says US spy planes monitoring China at sea
Photo: US and Philippine navy personnel launch an unmanned aerial vehicle (UAV) from a speed boat off the naval base in Sangley Point near CaviteCity, on June 28, 2013.
7月31日「米上院外交委員長、東アジアの海洋紛争の平和的解決の必要性強調」(Peace and Freedom, July 31, 2013)
メネンデス米上院外交委員長は7月31日の声明で、東・南シナ海における海洋紛争の平和的解決を求めて、アメリカは、フィリピン、ベトナム及び日本が関わる海洋境界を巡る中国との紛争に対して、外交的手段を通じて介入していく、と強調した。メネンデス委員長は、「アメリカは、長年にわたってこの地域に関与しており、この地域にルールに基づいた秩序を確立し、制度化し、そして維持していくために、域内諸国との協働を死活的な利益としている。そのためには、この地域を不安定化させる海洋紛争に対処する効果的なメカニズムを確立するとともに、海洋紛争の平和的解決を慫慂していくことが肝要である」と強調している。メネンデス委員長は、7月29日に上院が採択した、東アジアにおける海洋紛争の平和的解決を求める米上院決議167の共同提案者である。決議167は、フィリピンが中国との海洋紛争を国連仲介裁判所に提訴したことを評価するとともに、「上院は、この地域の海洋紛争に関わる全ての当事国に対して、情勢を不安定化させたり、紛争をエスカレートさせたりすることを自制するよう、強く求める」と述べている。
記事参照:
Disputes in East China Sea, South China Sea Endanger Global Economic Development
Read also: US Senate Resolution 167
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