海洋情報旬報 2013年7月11日~20日

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7月11日「ロシア、2013年中の在ウクライナ艦載機訓練サイト使用計画なし」(RIA Novosti, July 11, 2013)

ウクライナ国防省は7月11日、ロシアが4月24日付の書簡で、2013年中にウクライナのクリミア半島にある唯一の固定翼艦載機パイロット訓練サイト、Nitka Naval Pilot Training Centerを使用する計画はないと国防省に通告していたことを明らかにした。ウクライナ国防省は現在のところ、どの国ともNitka Naval Pilot Training Centerのリース契約を結んでいないことも認めた。このサイトは、北方艦隊所属のロシア海軍唯一の空母、Admiral Kuznetsov搭載のSu-33戦闘機とSu-25UTG練習機のパイロット訓練用として、ロシア海軍が独占的に利用してきた。ロシア海軍のチルコフ司令官は5月に、艦載機パイロットの訓練の大部分は2013年12月まで地中海に展開予定の空母、Admiral Kuznetsov艦上で実施されることになろうと語っていた。また、同司令官によれば、ロシア海軍は間もなく、ロシア黒海沿岸のエイスクに建設された艦載機訓練施設の運用を開始する。

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Russia Has No Plans to Use Nitka Pilot Training Site in 2013

7月12日「米海軍初の移動揚陸プラットホーム、海上公試へ」(American Forces Press Service, July 12, 2013)

米海軍初の移動揚陸プラットホーム (MLP)、USNS Montford Pointは7月12日、米海軍海上輸送コマンド (MSC) にチャーターされた民間契約船員33人によって運航され、サンディエゴを出航し、ワシントン州エバレット海軍ステーションに向かった。この間、システムのテストが実施される。また、同艦は9月に最終的な海上公試が実施され、中核装備が搭載されて、2015年度中に全面稼働になると見られる。海軍は2隻目のMLP、USNS John Glennを2012年12月に起工し、2014年3月に完成、引き渡しが予定されている。MLPは、MSCの事前集積船隊に所属し、移動洋上基地あるいは洋上桟橋として、部隊や装備品の柔軟な展開を可能にする。MLPは、沿岸から25カイリまでの海域で波高1.25メートルの洋上で装備を移し替えることができる。また、半潜没式プラットホームとしても運用できる。

記事参照:
Navy’s First Mobile Landing Platform Departs San Diego
Photo:
The mobile landing platform ship USNS Montford Point is floated out of General Dynamics’ shipyard in San Diego on Nov. 12, 2012;

7月12日「ベトナム、インドによる自国沖合での石油開発を望む」(TNN, July 12, 2013)

ベトナムは、自国のEEZ内におけるインドによる石油資源の開発生産を強く望んでいる。 インドで開催された第15回合同閣僚会議で、両国は7月12日、インドがベトナムに対して1,950万米ドルの借款を供与することに合意した。会議終了後、ベトナムのミン外相は、両国が南シナ海・東シナ海情勢について話し合い、公海における航行の自由に関する国連海洋法条約の規定が尊重されなければならないことで合意した、と語った。ミン外相は、南シナ海・東シナ海に面する全ての沿岸国はEEZを設定する権利を有しており、従って、「インドは、ベトナムのEEZ内において石油資源の開発生産を進めることができる」ことを両国間で再確認した、と強調した。インドのクルシード外相は、インドは引き続き、資源開発分野におけるベトナムとの2国間協力関係を維持していくが、これらはインドの民間企業による商業ベースの事業である、と述べた。

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Vietnam backs India’s oil ‘exploration’ work

7月12 日「インド、モーリシャスに海上哨戒機部品を供与」(The Times of India, July 13, 2013)

インドは7月12日、インド洋周辺で影響力を強める中国に対抗してインド洋沿岸諸国との海事分野での連携を強化する政策の一環として、モーリシャスに海上哨戒機の部品とエンジンを供与した。インド海軍は、モーリシャスのポート・ルイスに寄港したインド海軍の外洋哨戒艦、INS Sukanyaの艦上で、モーリシャス国家沿岸警備隊に対して、Islander海上哨戒機用の新しいエンジン3基と重要部品を引き渡した。モーリシャスの当局者は、「これらの部品は、モーリシャス国家沿岸警備隊による広大なEEZ内で海賊や密漁対策のための哨戒や捜索救難活動に不可欠の航空機を維持整備する上で、大いに役立つ」と語った。

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India ‘gifts’ military equipment to Mauritius

7月12日「中国の北極海政策―米専門家論評」(China Brief, The Jamestown Foundation, July 12, 2013)

米陸軍大学戦略研究所 (The Strategic Studies Institute of the U.S. Army War College) のブランク (Dr. Stephen Blank) 教授は、7月12日付けのWeb誌、China Briefに、“Exploring the Significance of China’s Membership on the Arctic Council” と題する論説を寄稿し、中国の北極海政策の行方について、要旨以下のように述べている。

(1) 北極評議会で中国を始めとするアジア諸国のオブザーバー資格が承認されたことは、北極圏とアジアの双方にとって画期的である。今回の決定により、北極海問題に対するアジアの意見がより大きく反映されることが期待される。実際に、中国の船社は2013年夏季に、北極海を利用する中国初の商業航海を計画している。北極における中国の関心の高まりは、長年続いて来た。2012年には、中国の砕氷船、「雪龍」がアイスランドから北極点を通過してベーリング海峡に抜ける北極海航路を利用する中国初の航海を行った。この航海が契機となって、中国当局は2020年までに、中国の主としてコンテナ輸送による国際海運貿易のほぼ5~15% の貨物(12万5,000~37万5,000トン)が北極航路経由になると予想した。

(2) しかしながら、北極評議会のオブザーバーになることで、経済、貿易及び商業的利益を追求しているのは、中国だけではない。他のアジア諸国も、商業、貿易面での利益と豊かなエネルギー資源へのアクセスを求めている。インドは、エネルギー資源の輸入依存度が飛躍的に高まると予測され、エネルギー資源の供給先の多角化を図っており、その供給先には、ロシアの北極圏、極東ロシア、米太平洋沿岸及び南シナ海の資源が含まれ、これら地域からの資源輸入は航行の自由に大きく依存する。そのためには、日本との協力の拡大とともに、中国のある種の了解が必要となろう。北極海と北太平洋におけるインドの関心は、サハリンのエネルギー資源の確保をめぐるロシアとの協力に限られたものではない。国連安保理事会の常任理事国入りを目指す積極的な外交展開がその背景にある。また、これは、北極海へのプレゼンス拡大に努める中国を意識したものでもある。純粋な商業的利益の追求とは別に、伝統的な地政学的観点から、中国を牽制するための北極海政策が読み取れる。

(3) 中国は、北極海をめぐる境界画定問題に対して、発言権を要求するための足場として、北極評議会を利用すると見られる。オブザーバーになる前には、中国は、北極海において如何なる国も主権を有しないと主張し、ロシアの領有権主張を非難した。北極評議会に参加するに当たり、中国は、このような立場を撤回し、全ての沿岸国の領有権主張を尊重するが、最終決定は将来に委ねることを受け入れた。こうした立場は、尖閣諸島と南シナ海において「核心利益」と主権を強固に主張するのとは対照的である。実際、北京としては、北極海については、こうした立場以外に選択肢がない。しかしながら、中国は最近、自らを「北極海近傍国家 (a “near-Arctic state”)」とか「北極海利害関係国 (an “Arctic stakeholder”)」と称している。

(4) 中国の一部の軍事専門家らは、北極海を支配することが世界の軍事情勢を左右する拠点を支配することである、と見なしている。このような観点が中国の戦略的思考を特徴付けるとすれば、北極海の領土・領海の境界画定問題が北京にとっても重要な意味を持つことになる。北極海を巡る戦略的抗争の激化は、軽視されるべきではない。北極海には膨大な資源がある。ロシアは、北極海における軍事力強化に着手し始めた。ヨーロッパ諸国やNATO加盟国、更にはカナダそして恐らくアメリカも、ロシアに追随するであろう。少なくとも、ヨーロッパでは、北極海の軍事化や無統制な商業的資源開発と、北極海の利用に対するより熟慮された国際的アプローチとの間に、明らかな抗争がある。中国は、他のアジアの4カ国と共に、こうした抗争に正式に参画を求められた。中国は既にそれに参画しており、熱心に参画し続けるであろう。中国の政策がどちらの方向に行くかは、今後に待たなければならない。

記事参照:
Exploring the Significance of China’s Membership on the Arctic Council

7月13日「ロシア極東軍管区、大規模な即応態勢の抜き打ち点検演習実施」 (The Voice of Russia, July 15, 2013)

ロシア極東軍管区における大規模な抜き打ちの即応態勢点検のための演習が7月13日、ロシア極東で予告なしに始まった。即応態勢点検の演習は20日まで続く。この演習の詳細については、中国には事前通告がなされていた。ロシア国防省のアントーノフ次官は、(中国側へ事前の情報開示を行うことで)、「モスクワと北京の関係が疑念で曇らされることはない」との声明を発表した。

かつてない大規模な抜き打ちの即応態勢点検演習には、軍人16万人、戦車・装甲車1,000両、軍用機130機、艦艇70隻が参加している。この演習を、モスクワは一方的に開始した。現在ロシアには、この地域における軍事行動に関して、近隣諸国に事前通告する国際的義務はないが、唯一中国だけ例外で、ロ中間には、軍事分野における1998年合意に基づいて、国境から100キロ以内で行われる軍事行動については事前通告義務がある。具体的にどのような情報が伝えられたかは公表されていないものの、情報提供がなされたという事実そのものが、両国の高い信頼関係を表している。モスクワと北京は共に、戦略的パートナーとして両国の軍事的関係を強化することが重要であると考えている。その一環として、よりダイナミックで、かつ質の高い合同軍事演習の実施も含まれている。

7月上旬まで日本海のピョートル大帝湾を舞台に、ロ中合同海軍演習が実施された。ロ中合同の大規模海軍演習は2度目になる。両軍合わせて駆逐艦、ミサイル艇、対潜艦艇、補給艦など20隻、艦載ヘリと戦闘機10機が参加した。ロシアと中国は、この演習をもって、近隣諸国に対して、「国家安全保障を共同で担保するための努力を拡大していく」という意思を誇示した。8月3日には、ロシア・ウラル地方でロ中合同陸軍演習が行われる。「平和の使命」と名づけられたこの演習は、対テロ作戦の立案、準備、遂行の各過程が合同で演練される。両軍から軍人1,500人、戦車等100両、戦闘機・ヘリ20機が参加する。この演習も、第3国を脅かすものではないが、一方で、アジア太平洋地域における米国と日本の軍事活動の活発化に対する相応の対応という意味も含まれている。

記事参照:
ロシア、その軍事政策における透明性を誇示

【関連記事】「ロシア太平洋艦隊、緊急出動演習実施」(RIA Novosti, July 14, 2013)

ロシア国防省によれば、太平洋艦隊の6隻の戦闘艦艇からなる任務部隊は7月13日夕、大規模な抜き打ちの即応態勢点検のため、オホーツク海に出動した。同部隊は、対潜、対空演習も実施する。プーチン大統領は7月12日夕、抜き打ちの演習実施を命じた。これは、2013年1月以来、3回目の抜き打ちの即応態勢点検である。

記事参照:
Pacific Fleet Ships Deployed in Sea of Okhotsk Amid Snap Drills

7月14日「インドネシア、中国との海事分野での協力拡大に合意」(ANTARA News.com, July 14, 2013)

インドネシアの海事局長は7月14日、中国の巡視船、「海巡01」のタンジュン・プリオク港への寄港歓迎式典で、インドネシアは中国との間で、合同演習を含む、海事分野での安全協力を強化していくことに合意した、と述べた。海事局長は、インドネシアはこれまで、マレーシア、シンガポール、フィリピンそして日本との海事分野での協力を進めているが、中国は高度な海事産業を持っており、しかも地理的に近いことから、今後、海事分野での安全協力を強化していく、と語った。7月18日には、「海巡01」が参加して、海難事故への初動対応に関する合同海上演習が行われる。駐インドネシア中国大使は、中国はこれまで、航行の安全やその他の関連分野における両国間の協力拡大のために10億元を供与してきたが、今後、国際海事機関(IMO)と国際水路機関 (IHO) などを通じて、海事分野での協力を拡大していくことで合意した、と述べた。

記事参照:
RI, China expand maritime safety cooperation

7月15日「マースク、Triple-Eシリーズ・コンテナ船1番船就役」(gCaptain, July 15, 2013)

マースク・ラインの最新コンテナ船、Triple-Eシリーズの1番船、MV Mærsk McKinney -Møllerは7月15日、正式に就役した。該船は、全長400メートル、1万8,270TEUで、現時点では世界最大で、これまで建造されたコンテナ船としても世界最大である。該船は、世界の多くの港湾のガントリークレーンの現有能力が最大積載能力に対応できていないために、平均1万4,000TEU以下の積載で運航されることになろう。2013年9月下旬には、Triple-Eシリーズの2番船がコペンハーゲン港に到着予定である。マースク・ラインは20隻のTriple-Eシリーズを韓国の大宇造船海洋に発注しているが、これらは、アジアの8カ所:釜山、広東、上海、寧波、塩田、香港、シンガポール及びタンジュン・プレパス(マレーシア)とヨーロッパの6カ所:タンジール(モロッコ)、ロッテルダム、ブレーメン、グダニスク(ポーランド)、オーフス(デンマーク)及びイェーテボリ(スウェーデン)を結んで運航される。

記事参照:
World’s Largest Ship Commences Maiden Voyage
Photo: The MV Mærsk McKinney-Møller

7月16日「中国の海洋発展戦略―中国専門家解説」(人民網日本語版、July 16, 2013)

7月16日付け人民網日本語版に、北京大学中国戦略研究センターの胡波副研究員のコラムが掲載された。以下はその要旨である。

(1) 国連海洋法条約の規定と中国の一貫した主張に基づくと、中国は内水、領海、接続水域、排他的経済水域を合わせて300万平方キロメートルの管轄可能海域および一部外縁大陸棚の権益を有する。世界の他の海洋大国と比べ、これは非常に小さな数字だ。米国とオーストラリアはいずれもおよそ1,000万平方キロメートル、日本、カナダ、英国は400万平方キロメートル以上の海域を擁すると主張している。膨大な人口を擁することを考えれば、中国の主権範囲内の海洋空間は広大とは言えない。

(2) 海洋地理空間の不利な国家、大きな発展課題と世界的使命を有する大国である中国が海洋強国となるには、その海洋発展戦略はグローバルな視野を持ち、世界の海洋空間を舞台とし、自らの海洋空間を勝ち取るのと同時に、国際公共海洋空間および他の沿岸国との協力空間を積極的に開拓し、主権権益範囲外の海洋空間での計画と取り組みを強化しなければならない。国際公共海洋空間は、公海と「区域」を含む。公海は、各国のEEZ、領海、内水および群島国家の群島水域以外の全ての海域を指す。「区域」は、各沿岸国のEEZまたは大陸棚以外の海底部分を指し、人類全体の共同の財産であり、豊富な資源を埋蔵している。

(3) メディア世論、戦略設計、政策計画などが中国近海、特に係争海域に集中しているのと異なり、中国の海洋活動はもっと範囲が広く、内容が豊かだ。事実上、中国の海洋活動はすでに世界の各大海、各大洋の至るところに及んでいる。中国の遠洋漁業は遥か太平洋、大西洋、およびインド洋の公海に及んでいる。中国は、国際海底機構の活動に積極的に参与し、海底「区域」の開発分野で世界の先頭を歩んでいる。深海掘削プラットホームや深海探査艇「蛟竜」の相次ぐ配備も、中国の海洋経済活動をますます強大なものにしている。中国海軍も近年頻繁に遠洋へ航行し、各種の国際合同演習や海上護送活動に積極的に参加している。

(4) 中国は、その海洋戦略を自らが管轄する海洋空間内に限定しないことで初めて、経済のグローバル化と国連海洋法条約を基礎とする海洋秩序がもたらす各種の機会を捉え、科学技術、経済、外交が次第に強大な軍事力に取って代わって核心的競争力となる世界の海洋政治の新たな趨勢を把握し、そして中国の豊富な海洋活動の意義を把握することができるのである。しかしながら、世界の他の国々は依然として色眼鏡をかけて、あるいは古い植民地主義的思考で中国の海洋行為を見ている。中国も世界も、300万平方キロメートルの中国の「所有海域」に視線の焦点を合わせるべきではないし、中国の海軍力の整備にのみ視線を集中すべきでもない。中国の海洋観念、海洋意識、海洋科学技術、海洋経済活動、海洋外交能力の強化の状況を総合的に評定すべきである。視野を広くして初めて、中国は海洋強国に向かってより確実に発展することができ、一方世界は中国という後発の海洋国家をより理解することができる。

記事参照:
中国の海洋戦略:平和と協力(1)
中国の海洋戦略:平和と協力(2)

7月17日「中国、東シナ海でのガス田開発に50億米ドル投入」(Reuters, Jul 17, 2013)

中国国営の中国海洋石油総公司 (CNOOC) は、東シナ海で7カ所の新しいガス田開発を望んでいる。このガス田開発は、日本が権利を主張している海域の真下にある天然ガスを吸い上げてしまう可能性があるため、日中間の緊張をさらに高めるかもしれない。このプロジェクトに直接かかわっているCNOOCの幹部がロイター通信に語ったところによれば、CNOOCは近々、Huangyan IIとPingbeiの計7カ所のガス田開発計画に国家承認を申請する。承認されれば、既に開発中のHuangyanⅠの2カ所に加えて、Huangyanプロジェクトは9カ所になる。Huangyanプロジェクトの経費は、現在中国の造船所で建造中の11基の生産プラットホームを含め、300億元(49億米ドル)以上になると見られる。もし承認されたとしても、新しい7カ所のガス田は中国の天然ガス生産を飛躍的に増大させるわけではない。中国の地質学者は、東シナ海の天然ガスの埋蔵量は小さく、分散していると語っている。

記事参照:
Exclusive: China in $5 billion drive to develop disputed East China Sea gas

7月17日「中国、米海軍調査艦を再び妨害か」(The Washington Times, July 17, 2013)

米紙、The Washington Timesが7月17日付で報じるところによれば、米海軍調査艦、USNS Impeccableに対する中国の海監5001による妨害事案が6月21日にあった。中国のウエブサイト、Sinocismにその様子が投稿された。それによれば、中国海監は、公海にもかかわらず、米艦の行動を非合法として警告している。中国側は、USNS Impeccableを「非戦闘艦」とは見ておらず、このサイトは、「USNS Impeccableは、パッシブとアクティブの低周波曳航ソナーを装備した米海軍調査艦5隻の内の1隻で、潜水艦探知に効果的である」とし、同艦は中国沿岸から100カイリ以内の海域にあり、中国はこの海域での行動許可を与えていない、と説明している。

記事参照:
Inside the Ring: New naval harassment in Asia
The video of the incident can be seen here
Photo: USNS Impeccable

7月17日「オーストラリア・インドネシア、海洋戦略パートナーシップを拡大すべき―インドネシア専門家」(RSIS Commentaries, No. 132, July 17, 2013)

シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のRistian Atriandi Supriyanto上席分析者は、7月17日付けのRSIS Commentariesに、“Australia-Indonesia: Towards a Maritime Strategic Partnership” と題する論説を掲載し、インドネシアの研究者としての視点から、 過去、長い海洋境界で接するオーストラリアとインドネシが直面してきた海洋問題は密航、密漁、海洋汚染といった非伝統的安全保障問題であったが、昨今のこの地域の戦略環境の変化をみれば、両国は軍事分野において協力関係を拡大するべきであるとして、要旨以下のように述べている。

(1) 戦略環境の変化についていえば、第1に、オーストラリア政府の白書、Australia in the Asian Centuryが指摘するように、世界経済の中心がアジアに移りつつあり、この地域の戦略的な重要性が高まっている。アメリカの海軍戦力分析会社、AMI Internationalは、アジア太平洋各国の海軍が2031年までに約800隻の水上戦闘艦艇と潜水艦を取得するために1,800億米ドルを投入すると予測している。これに対して、アメリカは、域内の安定を維持するために、海軍戦力の再配置を含む、再均衡化戦略を進めている。

第2に、再均衡化戦略は、アメリカの同盟国としてのオーストラリアの役割を重視している。再均衡化戦略には、ダーウィンへの米海兵隊のローテーション配備に加えて、西オーストラリアや北方地域への米海軍や米空軍がローテーション配備も含まれている。これに対して、北京は、例えば、オーストラリアのような米軍接受国のEEZでの調査活動を実施することで、対抗するかもしれない。この種の行動は、インドネシアの群島水域を抜けてインド洋まで活動を拡大するためには、特に潜水艦が必要となろう。

第3に、インドネシアの群島水域、特にズンダ海峡やロンボク海峡のようなチョーク・ポイントは、通過する外国海軍艦艇でいっぱいになるかもしれない。これらの海峡は水深が深く、またマラッカ海峡のように通航する商船も少ないことから、両海峡は、海軍艦艇にとって魅力的な代替ルートになる。例えば、ロンボク海峡は原潜の作戦や安全な航行に十分な水深がある。米海軍の原潜に加えて、中国とインドの原潜がインド太平洋海域を跨いで行動するために、これらの海峡を通峡するかもしれない。最近インド海軍の報告書は中国の潜水艦のインド洋での活動を確認したとしているが、これはこうした可能性を裏付けるものである。

以上のような戦略環境の変化から、両海峡に加えて、オーストラリアとインドネシアの海洋境界に沿った海域では、幾つかの国の潜水艦や海軍艦艇が多く通航することになる可能性がある。しかしながら、これらの海域は沿岸国であるオーストラリアとインドネシアが直接的な利害を持つ海域である。例えば、通峡する原潜が衝突事故を起こしたら、沿岸国の安全保障に影響する政治的、軍事的惨禍をもたらすかもしれない。

(2) こうした変化に対応するために、オーストラリアとインドネシアは、ロンボク条約として知られる2006年オーストラリア・インドネシア安全保障協力枠組協定 (The 2006 Australia-Indonesia Security Cooperation Framework Agreement) 第14条に規定されているように、特に両国間の海洋境界に沿って、海洋状況識別能力を高めるために、防衛協力を深めるべきである。戦略的なレベルでは、両国は、既存の外相・国防相会合と軍高官同士の年次対話を補完するために、海洋戦略パートナーシップを形成するとともに、戦略対話フォーラムを設置すべきである。そこではまずは、アメリカの再均衡化戦略におけるオーストラリアの役割とそれがインドネシアの安全保障に及ぼす影響、そして中国の軍事的対応の可能性について、実質的かつ率直な対話を通じて、両国間に真の信頼を醸成すべきである。そして両国は、例えば南・東シナ海の領有権問題など、域内のフラッシュポイントで何かが起きた時、軍事的にどのように関わるかについて、戦略的な相互対話を行うべきである。

(3) 作戦・戦術レベルでは、両国は、戦略的イニシアチブを、合同行動態勢に移行させるべきである。例えば、合同作戦指揮統制センターを含む合同海洋監視システムは、相互の海洋状況識別能力を強化しよう。両国の軍人で構成される合同作戦指揮統制センターは、ティモール海やロンボク海峡のような海域における、両国の艦艇、航空機及びレーダーによる監視活動を調整することができよう。また、最新型のTriton無人機、P-8A Poseidon哨戒機といった、オーストラリアが将来取得する最新の監視プラットホームは、インドネシア南方海域の海洋状況の識別に役立つであろう。合同海洋戦闘訓練や演習は、特に海面下の戦闘環境における両国間の相互運用性を高めることになろう。インドネシアはまた、例えばインド洋における3カ国海軍合同演習などの形で、米豪関の2国間安全保障態勢に参加することもできる。両国とも潜水艦整備計画を進めていることから、両国は、2国間の潜水艦の捜索救難態勢についても話し合うべきである。更に、両国海軍部隊の合同展開における作戦、戦術調整を容易ならしめるために、合同海洋ドクトリンを計画立案すべきである。

(4) 両国間のパートナーシップを深化させるに当たっての課題は、特にインドネシア側にある。インドネシア国内では、多くの者が、中国の軍事的台頭を封じ込めるための連合に参加することによって、インドネシアは「自由で積極的な」外交政策を放棄した、と批判し、抗議するであろう。オーストラリアと同じく、インドネシアも、ワシントンか北京か、という選択には反対するかもしれない。しかし、何時までもワシントンと北京の間で右顧左眄することも不可能である。インドネシアがインド・太平洋海域の中心に位置していることは、米中紛争が生起すれば、板挟みの苦境に陥る可能性があることを意味している。キャンベラと連携することで、ジャカルタは、少なくとも背後に大きな緩衝地帯を持つことになろう。

記事参照:
Australia-Indonesia: Towards a Maritime Strategic Partnership

7月17日「インド海軍、P-8I対潜哨戒機1番機を配備」(The Hindu, July 18, 2013)

インド海軍に納入されたボーイング社のP-8I対潜哨戒機1番機は7月17日、初めてインド南部タミール・ナードゥ州アルコナムのINS Dera基地に配備された。インド海軍は8機のP-8I を装備することになっているが、1番機は5月にインドに到着した。同機は今後、の同基地を拠点に東部方面艦隊の指揮下で哨戒活動を実施する。P-8Iは、ボーイング社が米海軍向けに開発したP-8A Poseidonのインド海軍向けで、海洋索敵、対潜水艦、電子情報任務用の外国製及び国産のセンサー類を搭載している。

記事参照:
Navy’s Boeing P8I touches down at INS Dega

7月17日「中国、海洋紛争に対する強硬姿勢を堅持―米専門家論評」(PacNet, Pacific Forum July 17, 2013)

米ジョージ・ワシントン大のRobert Sutter教授は、南カリフォルニア大の Chin-Hao Huang研究員と共に、ハワイのPacific ForumのPacNetに、 “China’s Shift to Toughness on Maritime Claims – One Year Later ” と題する論説を寄稿し、中国の東シナ海と南シナ海の海洋問題に対する強硬な姿勢は新指導部でも継続されているが、長期的には、国内外の状況が中国指導部に政策転換を促すこともあり得るとして、要旨以下のように述べている。

(1) 2012年は、中国の域内に対する外交政策の柱として強硬姿勢が確立された年となった。フィリピンとの場合、中国の行動は、国際的規範を無視した外交的威嚇と経済制裁、更にはフィリピンの治安部隊と漁民を威嚇するための沿岸警備力の増強を伴ったものであった。日本との場合においては、文化大革命以降に見たことのない、外国の財産に対する暴力と破壊行為が100以上の中国都市で勃発した。 南シナ海をめぐる領土問題において中国の威嚇的行動は、成功した。中国はまた、東シナ海をめぐる日本との対立においても、領有権を主張するために軍事力以外の力の行使とその他の圧力手段を動員する行動パターンを確立した。多くの関係国政府は、中国の核心利益に触れる範囲が今や中国周辺の海洋紛争にまで拡大されてきた、と認識している。アメリカの指導者たちはハイレベルの米中交流を通じて、中国の強硬姿勢の緩和を説得しているが、領土紛争をめぐる中国の強硬路線を変更させる可能性が高いとは考え難い。

(2) このような背景から、中国の近隣諸国と米国などの関係国は、海洋をめぐる領有権紛争に対する自らの行動により慎重な配慮が必要となろう。残念なことに、海洋をめぐる領有権主張に関する中国のレッドラインは、依然明確ではない。そのため、南シナ海関係当事国は、どのような行動が中国の威嚇的行動を誘発することになるかについて、引き続き不確定なままであろう。一方、中国をして海洋問題に対して新たな強硬姿勢に駆り立てている背景には、国内のエリートや大衆の愛国的ナショナリズム、中国の軍事力、海洋法令執行能力、漁業、更には資源開発能力などがある。中国のナショナリズムは、2012年の対日抗議デモに見られたように、揮発性と潜在的な破壊力を持っている。

(3) 中国の強硬姿勢は、国内外の状況から、習近平体制下で変化する可能性もある。7月の選挙により自民党政権の安定が確実視される日本は、日米同盟の強化を通じて中国との長期的な対応を模索すると思われる。中国と日本の長引く対峙は、中国の不安定な同盟国である北朝鮮によって朝鮮半島危機に繋がることもあり得る。東南アジア諸国は、領有権紛争の当事国と非当事国間の幅広い連携の下、中国の主張を抑制するための行動規範の実現に向けて努力している。韓国からインドネシアへ至る中国の東側の地域では、現在の中国外交において最も重要な地域でありながら、緊張と不安定が続いている。隣接する朝鮮半島、東シナ海そして南シナ海における緊張の激化を抑制することで、中国指導部は、汚職、景気後退、社会不安や環境の悪化を含む、数多くの国内問題に専念できることになろう。複数の問題に直面した際、毛沢東と鄧小平は、優先順位に従って問題解決を図った。彼らは、最優先の問題を決め、それに専念するために、その努力を阻害する恐れのある他の問題では後回しにしたり、緊張を緩和したりすることに務めた。習近平体制は現在、3つの大きな対外問題と多くの国内問題に直面している。不幸にも、習近平は、毛沢東や鄧小平と違って、最優先課題に専念するために、他の外交問題を後回しにできるほどの力を持っていない。そのため、習近平の政策は、緊張の継続がもたらす否定的な結果が顕著になるまで、漂流を続けるかも知れない。

記事参照:
China’s Shift to Toughness on Maritime Claims – One Year Later

7月18日「フィリピン、米軍のプレゼンス強化のための法的枠組を模索―比専門家バンラオイ」(Radio Australia, July 18, 2013)

オーストラリアのRadio Australiaは7月18日、フィリピンのThe Philippine Institute for Peace, Violence and Terrorism Researchのバンラオイ (Romel Banlaoi) 教授にインタビューしている。バンラオイ教授は、フィリピンは自国内における米軍プレゼンスの強化のため、憲法に抵触しない方策を模索しているとして、要旨以下のように述べている。

(1) アメリカは現在、アジアにおける再均衡化政策を進めている。フィリピンは、特に南シナ海における中国の政府公船による活動の強化を懸念しており、アメリカの同盟国として再均衡化政策の一翼を担うことに強い関心を表明している。フィリピンもアメリカも、フィリピンの自国軍事施設に対する米軍のアクセスを容認する計画が中国に対抗するものであると明言するつもりはないが、このことは、中国の南シナ海における領有権主張と深いかかわりがあり、またフィリピンの管轄海域における中国のプレゼンスに対抗するフィリピンの対抗措置とも関連するものである。中国は南シナ海問題の二国間交渉による解決を主張し、南シナ海問題を国際化しようとするフィリピン政府の最近の方策、特にこの地域にアメリカの軍事プレゼンスを招き入れようとしていることに、不快感を示している。

(2) 中国の視点から見れば、自国領内への米軍のアクセスを容認しようとするフィリピン政府の決定は、南シナ海における中国の領有権主張に対抗するものと映るであろう。フィリピン政府は、アメリカこそが中国の南シナ海における高圧的な言行を抑止し、封じ込めることができる存在と見ている。しかしもちろん、米軍がフィリピン国内に駐留するには、国内的に問題がある。何よりも、憲法が外国軍隊のフィリピン領内における恒久的な駐留を禁止している。そのために、フィリピン政府は現在、現行法に従ってフィリピン国内における米軍のプレゼンスを可能にするために、アメリカとのアクセス協定を締結する可能性を検討している。現在、両国間には、相互防衛条約、訪問部隊に関する協定(地位協定)及び軍事兵站支援協定が存在する。フィリピン国内の一部には、これらの条約や協定だけでは国内における米軍部隊のローテーション配備の強化を容認するには十分でないとの意見もある。従って、現在、駐米フィリピン大使が新たな協定の可能性についてアメリカ側と話し合っている。

(3) フィリピン政府が認めているように、フィリピンはフィリピンの管轄海域における中国のプレゼンスに対抗し得る国防能力など持っていない。中国に対抗する唯一の方策は、現在の中国の高圧的な言行を抑止するために同盟国を引き入れることだ。これこそ現在フィリピン政府がとっている方策である。しかしながら、憲法上の制約があるために、憲法に抵触しないで米軍のプレゼンスを招き入れるひとつの方法がアクセス協定の締結なのである。現在フィリピンには、ミンダナオ島のザンボアンガに既に十年近くThe Joint Special Operation Taskforce in the Philippines に所属する600~700人の米軍兵士が駐留し、対テロ支援プログラムや対テロ能力の構築などに取り組んでいる。これは小規模だが、既に米軍のプレゼンスが実現しているのである。フィリピン政府がより大規模な米軍のプレゼンスを期待するのであれば、憲法に抵触しないために、別の協定を検討する必要がある。そして、この協定はフィリピン議会の承認を必要とする。もし議会がこれを承認すれば、米軍の駐留が合法的なものになる。しかし、それは、憲法が禁じる外国軍の恒久的な駐留ではない。

記事参照:
Philippines allows boosted US presence in South China Sea

【関連記事】「米、フィリピンの軍事施設に対するアクセス拡大を交渉」(The New York Times, July 13, 2013)

米比両国の当局者によれば、アメリカは、フィリピンにおける軍事基地再建に伴う厄介な問題を回避する一方で、同国に軍事装備品を事前備蓄し、人員をローテーション配備できるようにするための交渉を行っている。フィリピンは、小規模の海空軍力しか持っておらず、軍事力強化のためにアメリカの支援に頼っている。米比軍事関係には、合同演習、人道的支援や災害支援のための定期的な短期間の米軍部隊の訪比が含まれている。現在交渉中の協定では、米軍部隊は、より長期間訪問し、フィリピンの軍事施設に滞在することができるようになろう。また、米軍の装備品を同国に事前備蓄することができるようになる。アメリカは、フィリピン国内に軍事基地を新設したり、再建したりすることを求めているわけではない。フィリピン外務省報道官は、米軍基地の新設を計画しているわけではなく、米軍部隊のローテーション配備を話し合っている、と語った。ローテーション配備のモデルは、2002年以来フィリピン南部に対テロ戦のために配備されている、米軍各軍種からの約500人の要員からなる、The Joint Special Operations Task Force Philippines (JSOTF-P) で、JSOTF-Pが配備されている南部の施設は、公式には一時的なものとされているが、実際には、兵舎、食堂及び指揮センターといった、伝統的な米軍基地の特徴を多く備えている。米軍はまた、かつてのスービック海軍基地へのアクセスも増やしている。

記事参照:
U.S. Negotiates Expanded Military Role in Philippines

【補遺】
北極関連論調

6月4日「中国、北極圏の豊かな資源に関心」(The Guardian, June 4, 2013)

英紙、The Guardianは6月4日付けで、北極沿岸8カ国と投票権を持たない参加者としての北極先住民によって構成される北極評議会では、最近まで、安全保障問題、捜索救助、先住民の権利、気候変動、及びその他の環境上の諸問題が主要な関心事項であったが、中国及びアジアの他の経済大国がオブザーバー国として認められた結果、海氷減少後の北極圏における経済開発が北極沿岸及び非北極圏の諸国の最優先課題となりつつあるとして、北極圏における中国の狙いについて、要旨以下のように報じている。

(1) カナダのカルガリー大学軍事戦略研究センター副所長で、カナダ極地委員会委員のロブ・ヒューバートは、「5年ないしは6年前、ほとんどの人々は中国が北極圏における主要プレーヤーとなることに懐疑的であった。しかし、過去数年間、中国は北極圏の主要大国としての地位を確立するために多くの資源を投入してきた。現在、北極圏を注視する他の国々と同様、中国は北極圏における新航路とエネルギー及び鉱物資源を開発したいと望んでいる」と述べている。中国は、北極圏が「全人類の相続財産」であり、自国が「準北極圏諸国」であることから、将来重要な役割をもっている、と主張してきた。こうした主張に懸念を示す北極沿岸諸国は、現在に至るまで中国の北極圏における経済的野心に強く反発してきた。例えば、中国は、アイスランド北部でのゴルフ場リゾート開発のための115平方マイルの農地の購入計画をアイスランドに2度申請したが、2度とも拒否されている。北大西洋と北極海の合流点に位置する島国であるアイスランドは、これらの提案が北極圏における港湾建設計画を装ったものであることを疑った。2012年、欧州連合のアントニオ・タヤーニ副委員長がグリーンランドを訪問し、グリーンランドが中国にレアアースへの排他的開発権を与えないことと引き換えに、多額の開発援助の申し出を行った。カナダは、北西航路に対するカナダの主権主張について中国が消極的であることを不安視している。しかし、ワシントンD.Cの北極研究所のマルテ・ハンパート代表は、中国の北極圏における利益は主要な西欧諸国と根本的に異なっていると見るべきではないという。

(2) 北極評議会において、EUのオブザーバー国申請が拒否されたにもかかわらず、中国のオブザーバー国承認についてコンセンサスが形成されたのは、北極圏における資源開発とその中での中国の役割の重要性が高まっていることの証である。前出のヒューバートは、「北極沿岸諸国が中国の願望について警戒を解いたわけではない。現実は、中国が北極圏に非常に多くのことを望み、かつ余りにも大きな国であるので無視することができないということである。北極沿岸諸国が恐れていることは、中国が仮にオブザーバー国として承認されなかったとしても、中国が北極圏における目標達成のために関与し続けるということである。そうなったとき、どの国が中国を抑制できるのか」と指摘している。北極評議会の加盟国にとっての明白な課題は、いかに効率的に中国及び他のアジアの経済大国の願望をコントロールし、制御していくのかということにある。ヒューバートは、「中国人は資源開発のために北極沿岸諸国が自分たちを必要としていることを認識しているが、中核的な利益についてはどの国が友好的かどうかは問題ではなく、ただ中国人たちが必要と考えることを実行するだろう」と分析する。中国の公式見解は、資源獲得のために北極圏に関心を抱いているのではなく、北極圏の運命にこそ真の関心があるというもので、国営新華社通信は2012年に、「中国の北極圏における活動は定期的な環境調査と投資であり、資源を略奪したり、戦略的にコントロールしようとしたりする意図は一切ない」と述べている。

(3) しかし、大多数の専門家はこの見解に懐疑的である。彼らは、中国は主に3つの理由から北極圏に関心を持っていると見、そのいずれも北極圏の環境に大きな影響を及ぼす。

第1に北極海航路である。中国経済は、輸出に大きく依存している。北極海の海氷が急激に縮小していることから、北方航路や北西航路を通過することで航続距離が短縮され、結果的に数十億ドルの輸送コストを節約できるとの期待が高まっている。北極海経由の上海からハンブルグまでの距離は、スエズ運河経由よりも、2,800カイリも短い。

第2にエネルギー資源である。北極圏内には石油、石炭、ウラン、レアアースの潜在的埋蔵量に加えて、地球上で技術的に採掘可能な天然ガス全体の30パーセントと同じく石油で全体の13パーセントが存在すると推測されている。中国は、他国と同様にこれらの資源を将来の経済成長の手段とみなしているのである。

第3に漁業である。中国は、世界最大の漁業大国でもある。北極海の海氷の消失にともなって、北極海は漁業において新規の重要なフロンティアに成り得る。

(4) 中国は、北極評議会によるオブザーバー国承認を待っているだけではなかった。アイスランドによる土地取引の失敗に代わる次の一手として、中国は最近、アイスランドと自由貿易協定を締結し、そこに新しい大使館を建設した。中国の資源会社は、カナダ北極圏のエネルギー及び鉱物資源開発に4億ドルを投資し、更にグリーンランドで英国が中心となって進めている鉱物資源の開発事業に23億ドルを投資し、3,000人の中国人労働者を送り込む予定である。また、中国は、北極研究資金を増額し、上海に極地研究所を設立した。2012年には砕氷船、「雪龍」が北方航路を通航した。これは、同航路の商業利用の可能性を探るためであったとみられている。カリフォルニア大サンタバーバラ校のオラン・ヤングは、「これらの発展は、北極圏のグローバル経済における重要性の高まりと著しい経済大国としての中国の立場を反映したものである。中国は他地域に進出するのと同様に北極圏にも参入しており、中国のこうした進出は、経済的な利害関心に基づいている。中国は、北極圏における天然資源開発の機会を確保しようとしている」と指摘している。更に、「中国が北極評議会のオブザーバー国として承認されたことは、良いことである。中国はオブザーバー国として議決権を持たないが、その考え方を明らかにすることができる」と述べている。そして前出のハンパートは、北極の将来についての議論に中国を参加させることが重要であるとして、「中国を北極評議会に参加させることは、評議会の協調的な議論に中国を巻き込んでいく良い方法である。全般的に言えば、中国自身やその経済的関心についてあまり関心を寄せるべきではなく、高い環境基準に基づいて開発が行われるように目を向けるべきである」と主張している。

記事参照:
China signals hunger for Arctic’s mineral riches

6月6日「NATO、北極圏に軍事プレゼンス確立の意図なし―NATO事務総長」(Alaska Dispatch, June 6, 2013)

NATOのラスムセン事務総長は5月6日から7日にかけて、ノルウェー軍の司令部があるボードーを訪問した。ラスムセン事務総長は、「現時点においてNATOは極北に軍隊派遣を計画しておらず、その意思もない」ことを明らかにした。ロシアのラブロフ外相は2013年初めに、「複数の我々の友好国がNATOを北極圏に関与させようとしているが、軍事的観点からみて北極圏はさほど複雑ではない。(中略)我々はNATOの関与に反対である。NATOの関与をめざす動きは、北極圏の軍事化への悪い兆候となるだろう。北極圏の軍事化は如何なる手段を講じてでも回避されるべきである」と述べている。

ラスムセン事務総長は、北極圏で協力が継続されるべきという考えを裏付けるものとして、北極沿岸諸国のうち4カ国がNATO加盟国であることを指摘する。NATO加盟国でない北極沿岸諸国はロシアだけある。主としてノルウェーが東の隣国に対する協力を強化しようと努力していることから、北極圏におけるNATOとロシアとの緊張は低いものとなっている。ノルウェーが2006年に発表した「極北戦略 (High North Strategy)」は、ロシアについて79回も言及しており、ノルウェーの外交政策におけるロシアの重要性を示している。「極北戦略」の最初の章は、対ロシア協力の深化と刷新を扱っている。対照的に、NATOはただ2回言及されているのみである。とはいえ、少なくとも複数のロシアのメディアは、ノルウェーの平和的な提案よりもノルウェーの軍事装備や同国がNATO加盟国であることに目を光らせている。例えば、ロシア国境警備隊の記念日である、5月23日付けのプラウダ紙は、「ヨーロッパ戦勝記念日以来68年が経過しても、国境警備隊は未だにロシア北西部国境を守護している。結局のところ、ムルマンスク州はノルウェーとフィンランドと直接国境を接しており、北極圏における海洋境界の防衛の礎となっている。ロシアとノルウェーの国境線は、画定されてから最も古い。我々の隣国の中で、ノルウェーは、現在でも我が国に敵意をもつNATOの唯一の加盟国である。従って、国境警備隊は、国境を守護し続けなければならない」と述べている。

記事参照:
Why NATO isn’t establishing an Arctic presence

6月26日「北極圏における資源開発、高リスクだが依然魅力的」(The Moscow Times, Reuters, June 26, 2013)

高緯度北極地域(high Arctic)は、これまで石油天然ガス開発の魅力的なフロンティアと見られてきた。しかし、関係企業は、手つかずの氷の原野で作業を行う上で派生する資金面及び社会的リスクを恐れるようになるにつれ、急速にその魅力を失っている。分岐点は、2012年大みそかに発生した。英・蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの浮体式海洋掘削リグがアラスカ沖で座礁した。同社は、2005年以来同施設建設に45億ドルを費やしてきたが、この事故により投資額を大幅に上回る損害が発生した。シェルは直後に2013年の掘削計画を撤回し、2014年にも再開の見通しが立っていない。世界最大の石油・ガス海洋掘削装置メーカーであるケッペル社のCEOのチュー・チャウ・ベンは、「シェル問題によって、北極圏全体、とりわけ北米の北極圏における投資状況は後退している」と述べた。この事故は、環境へのダメージも少なく、油濁汚染を併発しなかったものの、北極圏の資源に注目する企業にとって大きな警鐘となった。米国のコノコフィリップス社幹部のハラルド・ノルヴィックは、「石油及び天然ガスを開発しようという関心は非常に高い。しかし、環境と経営リスクに対する懸念が次第に高まりつつある。我々は北極圏に照準をあわせてきたが、現在、我々のプライオリティーは、タンザニア、アルゼンチン、テキサス州といった他の地域に向けられている。これは必然的な流れである」と述べている。企業は、北極圏における事業に伴う潜在的な環境コストについての一般的議論を無視できなくなっている。スコットランドのカーリン・エネルギー社は、グリーンランド沖で試掘に12億ドルを投じたが、何も発見できなかった。ロシアのガスプロム社は、高コストのためシュトックマン天然ガス開発の大規模事業を断念した。コノコフィリップス社も、ケッペル社との共同で北極海仕様の掘削リグの開発に取り組んでいたが、これを一時凍結している。同社は2014年に予定していたチュクチ海における試掘も棚上げすることを発表した。

一方で、シェール石油開発への期待が高まっている。シェール石油は相対的に割高である。しかし、深海開発事業にかかるコストとであれば競合できる。コノコフィリップス社幹部のノルヴィックも、「シェールは非常に安いというわけではない。しかし、海底資源に較べれば経済的であるし、リスクも低い。現時点の予想よりもより早い速度で広がっていくだろう。やがてはロシア、中国、南アフリカ、アルゼンチン等においても生産されるようになるだろう」と語っている。

しかしながら、北極における石油、天然ガスの魅力が全く消失してしまったわけではない。ロシアは、ノバテック社とフランスのトタル社と協同で、ヤマルLNG事業で年間1650万トンを生産しようとしている。この試みは、難易度のそう高くない事業である。現実の課題は、海氷状況の厳しい航路をつかって通年輸送を実現させることである。また、米エクソンモービル社は、最近、ロスネフチ社とロシア北部沖の6000万ヘクターを共同開発することで合意した。ノルウェーも北極海において開発事業を行っている。バレンツ海は相対的に暖かく、海氷も少なく、さほど困難ではない。ノルウェーのスタット・オイルのルニ・ハンセン北極部長は「北極圏には様々な場所があり、それぞれの特徴がある。北極圏は単純に1つの地域ではないのだ。スタット・オイルにとって優先事項は変わっていない。しかし、当初の目標が非常に高く設定されていたので、再調整が必要となっていることも確かである」と言う。北極にある資源量を考慮すれば、石油企業はやがては北極に戻ってくることになるだろう。

記事参照:
Romance Wearing Thin but Not Over for Arctic Resource Exploitation