海洋情報旬報 2013年6月1日〜6月10日

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6月2日「ミストラルのロシア輸出、極東のパワー・バランスを崩す―小野寺防衛相」(The Voice of Russia)

6月2日付けThe Voice of Russiaは、ロシアとフランスがMistral級ヘリコプター搭載揚陸艦2隻の調達で合意したことで日本が懸念を持っている旨、伝えた。これは、アジア太平洋地域の国防担当者等が参集する、シンガポールでのシャングリラ・ダイアローグ会合 (IISSアジア安全保障会議) にあわせた小野寺国防相とフランスの国防大臣との会談で、小野寺大臣が「この決定が極東におけるパワー・バランスを崩すものだ」と指摘したのを受けて報じたもの。現在、フランスのサン・ナザール造船所では、ロシア海軍向けにMistral級ヘリコプター搭載艦2隻の建造が進んでいる。これより先、ロシア参謀本部は、少なくともそのうち1隻が太平洋艦隊に配備されるとしていた。

記事参照:
小野寺防衛相:「ミストラル」のロシア輸出は極東のパワー・バランスを崩す

6月2日「ロシア、北極点漂流ステーション撤退へ」(The Washington Post, June 2, 2013)

ロシアは、北極点漂流ステーションを設置している海氷が崩壊し始めたことから、9月まで運用を予定していた漂流ステーションから撤退する準備を始めた。漂流ステーションを設置している海氷は北極海のカナダ側の古い多年氷の上にあることから、ここの海氷の崩壊は、北極海の海氷の急速な縮小を示す新たな兆候である。ロシアの遠征隊長は電話インタビューで、「北極の高緯度地域の気象情報は我々にとって極めて重要であることから、科学的に大きな損失である」と語った。基地の科学者は、ロシアの砕氷船によって収容される。ロシアの北極点漂流観測は40年目になり、最初のNorth Pole-22が1973年9月に観測を始めて、1982年4月まで運用された。北極点に陸地がないことから、漂流ステーションは現地の海洋状況を観測する最も重要な手段の1つで、現在のNorth Pole-40には16人の研究者が低空の気象、オゾン濃度、海氷状況、海中温度、更には海底の状況などのデータを収集していた。

記事参照:
Russians to leave post in Arctic as floe melts

6月2日「インドの海軍力増強、何故注目されないか」(The Diplomat, June 2, 2013)

IHS Jane’s Defence WeeklyのAsia-Pacific Editor、James Hardyは、6月2日付けのWeb誌、The Diplomatに、“India’s Quiet, Big Naval Splash” と題する論説を寄稿し、インドの海軍力増強があまり注目されていない理由について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) インドの海軍予算を見れば、1988年には100億ルピー(1億8,100万米ドル)に過ぎなかったが、2012年には3,731億4,000万ルピー(67億8,000万米ドル)に増大している。 インド政府の装備取得と地政学的な同盟構築の巧みな連携は、シン首相の訪日の際もみてとることができる。インドは日本と共に、中国に対する警戒感を共有していることはよく知られおり、インドは日本に新明和工業のUS-2救難飛行艇の武器輸出に関して予備調査の機会を与えた。このインドが選定した海上自衛隊のUS-2は捜索救難水陸両用機で、日本にとっては輸出に最適な製品である。なぜなら武器は装備しておらず、人道的で、このタイプでは世界で最も優れたものだからだ。そしてインドにとっては、まわりが気づいていない、インド海軍の野心を示す一例でもある。

(2) なぜインドの海軍力はあまり注目されないのか。インドだけが外洋海軍建設を行っているわけではない。しかし、中国海軍の「平和的台頭」物語が実態とかけ離れていることが指摘されるのに比べ、インド海軍のロシア製空母、国産空母の建造には、特に警報ベルが鳴っていない。何故か。

a.第1に、アメリカがインドと連携していることである。アメリカは、太平洋におけるパートナーとしており、2012年には、当時のパネッタ米国防長官がニューデリーで、インドを、安定したインド洋地域を構築するための「アンカー」と呼んだ。また、アメリカは2001年以降、130億米ドル相当の武器を販売しており、更に増えている。海軍向けとしては、揚陸艦や、米海軍に配備され始めたばかりのP-8I対潜哨戒機8機などが含まれている。

b.第2に、インド海軍はまだ発展途上である。インド海軍は1961年、最初の空母を保有し、ソ連そしてロシアの緊密な関係の下、潜水艦戦力を建設してきた。しかし、インドが現在保有する空母、INS Viraat (旧英HMS Hermes) は老朽化している。加えて、2011年から2013年の間に海軍が保有すべき戦力の内、フリゲートの61%、駆逐艦の44%、そしてミサイル・コルベットの20%しか実現していない。

c.第3に、海軍の近代化と新装備取得プロセスが複雑で、遅延を生じ、予算オーバーになっていることである。3つの主要建艦プロジェクト、Project 15Aフリゲート、Project 17駆逐艦、Project 28ミサイル・コルベットについて、遅延と予算オーバーが指摘されている。MiG-29K艦載機も計画より遅れている。

d.第4に、インド海軍の拡大は、比較的真空地帯において行われていることである。インドは海軍をパキスタンとの紛争に使ってきたが、インド洋は十分に広く、真空地帯とも言え、周辺国との軋轢を引き起こすことなく海軍力の役割を拡大することができる。ベンガル湾では、海軍は、2012年8月に航空ステーション、INS Baazを開設し、アンダマン・ニコバル諸島における軍事力増強を主導している。インド海軍のバーマ司令官は、基地の開所式典で、アンダマン・ニコバル諸島はマラッカ海峡の北にある地政学的要衝で、ベンガル湾だけでなく、東アジアや東南アジアへ海軍のプレゼンスを護持するゲートになると述べた。野心的な言葉であるが、中国を除くどの国もこれに懸念を示していない。北京と違い、ニューデリーは、海軍や沿岸警備隊を使って、隣国の海洋資源や領有権を奪いとるような、「9段線」主張を押しつけるようなことはしない。

(3) 沿岸警備隊の36隻の迎撃艇や20隻の高速哨戒艇、海軍の80隻の高速迎撃艇など、インドは、2008年のムンバイ同時多発テロのような事態に対応するに十分な新装備を取得しつつある。一方では、新たな戦略レベルの装備も取得しつつある。しかし、P-8Iや日本から購入するかもしれないUS-2などは、海軍航空隊の航続力を強化する。また、空母、INS Vikramadityaには、米海軍のF/A-18 Super Hornetに匹敵するMiG-29K戦闘機を搭載する。同機は、現有空母、INS Viraatに搭載したSea Harrier戦闘機よりもはるかに航続距離が長い。更にインド海軍は、最初の原子力潜水艦も就役させようとしている。2012年4月にロシアからリースしたINS Chakra原子力潜水艦は、インド洋をこえて展開することが可能である。インド海軍は2012年より、超低周波の通信装置を整え、戦略原潜が世界のどこにいても通信できるようにする計画を始めた。これはインドがより大きな構想を、長期計画で進めていることを示している。

記事参照:
India’s Quiet, Big Naval Splash

6月2日「ロシア海軍、地中海に空母派遣へ」(Defense Update, June 2, 2013)

新編されたロシア海軍地中海任務部隊のチルコフ (Commander Admiral Viktor Chirkov) 司令官によれば、海軍は同任務部隊支援のために、空母、Admiral Kuznetsovを2013年末までに地中海に派遣する。同艦は、2012年に地中海での2週間の任務遂行のためにシリア沖に展開したが、2013年2月17日にはセヴェロモルスクの母港に帰港し、2013年末までに4年間の大改修工事に入る予定であった。この工事で、海軍は、P-700 Granite対艦ミサイルを撤去し、現在搭載のSu-33に替えてMiG-29K戦闘機を搭載できるように、アングルド・デッキにカタパルトを装備し、格納庫を拡張し、更に新型防空システムを搭載する計画であった。また、推進装置や電子機器も更新されることになっていた。同艦は、2017年の再就役を目指していたが、The Severodvinsk Sevmash造船所での改修工事は短縮されることになり、シリア情勢の緊張に備えることになった。モスクワは、シリア情勢の悪化に伴って、地中海でのプレゼンス強化に務めており、3月にはこの数十年で初めて、太平洋艦隊から戦闘艦が地中海に派遣され、任務部隊に配属された。ロシアは、シリアのタルトゥースに地中海で唯一の海軍基地施設を持っている。

記事参照:
Russian Aircraft Carrier To Redeploy to the Mediterranean
Photo; the Russian Navy only aircraft carrier, Admiral Kuznetsov

6月3日「ノルウェー船級協会・世界自然保護基金、海洋におけるプラスチックごみ対策に乗り出す」(DNV.com, Press Release, June 3, 2013)

ノルウェー船級協会(DNV)と世界自然保護基金(WWF)は、世界の海に漂流するプラスチックごみ対策のために、新たな調査船構想を発表した。プラスチックが海洋で分解するためには、10~500年かかると推測されている。DNVは、行動計画を開始し、調査船設計概念を開発することで、プラスチックごみ対策を進め、こうした対策に対する世界的な支援を構築することを期待している。

世界の海に漂流するプラスチックごみは、2020年までに、約2億3,000万トンになると見積もられている。その大部分が陸上起因か海洋活動によるものである。これらのゴミは、世界の5つの大きな海流の比較的表層部分に漂流していることが知られている。この漂流を集め除去することは可能だが、これは途轍もない作業となる。例えば、5つの大きな海流の表層部分をすくい取るには、1,000隻の船舶を動員して、およそ80年かかるであろう。

そのため、DNVとWWFは、プラスチックごみ調査船、Spindriftの設計概念を開発した。同船は全長85メートルで、38人の調査員が乗船して90日間の航海が可能で、世界の海の汚染濃度を把握し、最も効率的な方法でプラスチック破片を除去し、安全に廃棄することを目的としている。

記事参照:
DNV wants increased focus on plastic degradation in the ocean

6月3日「過去2年間の北方航路の通航実績」(Barents Observer, June 3, 2013)

ノルウェーのThe Jefferson InstituteがBarents Observer紙と共に集計した、過去2年間、2011年と2012年の北方航路の通航実績は以下の通り。

(1) 貨物別船舶隻数

a.Liquid: 2011-15、2012-26、b.Bulk: 2011-5、2012-6、c.Fish: 2011-4、2012-1、d.In Ballast: 2011-15、2012-6、e.Repositioning: 2011-0、2012-7、f.General: 2011-2、2012-0

(2) 旗国別内訳

Bahamas: 2011-1、2012-0、Finland: 2011-2、2012-6、Germany: 2011-1、2012-0、Liberia: 2011-2、2012-1、Marsha11 Islands: 2011-1、2012-3、Norway: 2011-2、2012-5、Panama: 2011-1、2012-10、Russia: 2011-26、2012-18、Singapore: 2011-4、2012-0、Spain: 2011-1、2012-0、China:2011-0、2012-2、Cyprus: 2011-0、2012-1

(3) 仕向け先別内訳

東⇒西:2011-11、2012-21、西⇒東:2011-30、2012-25

記事参照:
Arctic change on Barents agenda
See also; interactive visualization

6月3日「インド、北極海向けに砕氷船建造を計画」(NUNATSIAQ NEWS, June 3, 2013)

インド紙、The Times of Indiaによれば、インドは、北極地域の科学調査と商業開発のために1億4,400万米ドルで砕氷船の建造を計画している。インドが中国、イタリア、日本、韓国及びシンガポールと共に北極評議会の常任オブザーバーに認められてから1カ月も経たないで、こうした報道が飛び出した。インドの地球科学省の高官は、同省は2013年末までには砕氷船計画について決断するとし、以下のように述べた。「この計画は、我々が北極地域の気象変動について真剣に研究したいと考えている証左である。現時点では、ロシアとノルウェーの民間会社から砕氷船を短期間借り上げる計画である。科学者は、北極地域で起こっている気象変動について、多くのデータを集めなければならない。砕氷船があれば、45日間の航行能力と非常に厚い海氷は無理としても、1.5~2メートル程度の海氷を割れる能力を持てば、長期間活動できる。基本的に、我々は、砕氷船は一年中使っているべきで、そうしないと保有を正当化し得ないと考えている。従って、我々は、6カ月は南極で、他の6カ月は北極海で使用する。」

最近モントリオールで開かれた北極協議会のフォーラムで、北極政策の専門家、Whitney Lackbauerは、インドの北極海への関心は中国の北極海航路への関心の高まりと関係している、と指摘した。北極海航路を利用すれば、中国はインド洋を経由しないでヨーロッパ市場にアクセスできる。中国は、「雪龍」に続く2隻目の砕氷船を2014年に就役させる予定である。

記事参照:
India eyes icebreaker to use in Arctic

6月4日「アラスカ地区米工兵隊、『北極海の深水港の航行改善の可能性研究』に関する意見聴取を計画」(Dredging Today, Jun 4, 2013)

アラスカ地区のアメリカ陸軍工兵隊は、3つの北極環境政策法のレビュー会議を計画している。同会議は、調査研究として実施された、「北極海の深水港の航行改善の可能性研究(The Arctic Deep Draft Ports Navigation Improvements Feasibility Study)」に対するアラスカ州の環境影響評価 (Environmental Impact Statement: EIS) のコメントを収集するためのものである。この研究は、2013年3月に公表された、「アラスカ州の北極海深水港に関するシステム研究 (The Alaska Deep Draft Arctic Port System Study)」の最終報告における提言を受けて、アラスカ地区工兵隊とアラスカ州運輸公共施設省が共同で実施している。EISは、経済的分析と技術的可能性から構成される、この研究の一環である。工兵隊は、ノートンサウンドとベーリング海周辺の航行インフラ改善の可能性を調査する。インフラ改善が検討されている14カ所の内、Nome とPort Clarence 地域が天然の深水海域で深水港として有力視されている。当地域に存在する既存の港湾施設は、現在のそして増加しつつある航行船舶の需要に対応するには不十分である。調査に参加した専門家らは、航行の安全と国家安全保障、商業、そしてオイル流出事故への対応などの多様な所要に備えるため、現実的でかつ環境保護も考慮した対策が必要だと指摘する。EISは、海洋インフラの建設と運用維持が環境に与える影響を評価する。工兵隊は、意見聴取を通じて、アラスカ地域における船舶航行がもたらす諸問題を明確にすることが期待できる。工兵隊はまた、連邦政府機関だけでなく、州、地方および部族政府からの意見聴取も行っている。

記事参照:
USA: NEPA Meetings Scheduled for Arctic Deep Draft Ports Feasibility Study

6月5日「中国、北極海での石油・天然ガス開発に初めて参画へ」(The Wall Street Journal, June 5, 2013)

アイスランド当局が6月5日に明らかにしたところによれば、中国国営、中国海洋石油総公司 (China National Offshore Oil Corp: CNOOC) は、アイスランド近海の北極海における石油・天然ガス開発のライセンス申請のため、アイスランドのEykon Energyと共同企業体を設立している。ライセンス申請が承認されれば、中国企業としては初の北極海沿岸における石油掘削事業への参画となる。CNOOCによれば、アイスランド政府とEykon Energyから、近海での石油・天然ガス開発事業に参画するよう招請があった。

中国の石油会社は長年、エネルギー供給先の確保を求める北京の努力の一環として、北極海の産出石油との取引を求めてきた。2013年初めには、CNOOCを始めとする中国の石油会社は、訪中したロシア国営のロスネフチの社長と会談し、ロシアの北極海沖合の開発計画について話し合った。4月には、アイスランドが、ヨーロッパ国家としては初めて中国との自由貿易協定 (FTA) を締結した。集中的なロビー活動を経て、5月には、中国は北極評議会の常任オブザーバー資格を獲得しており、北極海地域における資源開発および貿易分野でのプレゼンス拡大のための環境が整ったことになる。

CNOOCの開発プロジェクトへの参画は、まだ初期段階にあるアイスランドの石油産業への初めての進出となろう。2013年初めに、アイスランド北東部でノルウェー沿岸の石油生産海域に隣接する、ドレキー (Dreki) 地域では、2件の開発ライセンスが認可された。Eykon Energy はライセンスを申請したが、単独では不可能で、CNOOCとの共同企業体によって、技術的なメリットと質的向上が期待されている。正式なライセンス認可と開発鉱区が決まるのは2013年の秋になる見通しで、その後、両社の出資比率も決められる。

米地質調査所によれば、北極海地域には900億バレル程度の石油資源の埋蔵が推定されているものの、資源探査および開発は未だに初期段階に留まっている。Royal Dutch Shell PLC (RSDA.LN) は、アラスカの北極海域での掘削事業に50億ドル以上を投資してきたが、2013年初めに、悪天候、機械の故障や法的規制などを理由に、中断することを明らかにしている。これは、北極海での開発での開発を目論む他社にとって重要な先例になると見られる。2014年には、ConocoPhillips (COP) がアラスカ沖で掘削を予定している。その他、Exxon Mobil Corp. (XOM)、イタリアのEni SpA (E, ENI.MI) 及びノルウェーのStatoil ASA (STO, STL.OS) も、北極海域の鉱区開発について、ロシアのロスネフチとパートナー協定を締結している。

記事参照:
China’s CNOOC Eyes First Foray Into Offshore Arctic Oil Drilling

6月5日「北極海には新しい協議体が必要―グリーンランドの政治家」(Nunatsiaq Online, June 06, 2013)

グリーンランドの政治家、Josef Tuusi Motzfeldtは、北極海沿岸諸国は人口が少ないが、世界の経済大国が北極地域の広大な土地と資源への関心を高めるにつれ、国際社会における適切な存在感を確保しなければならない、と主張した。同氏は、6月5日に世界自然保護基金 (WWF) が主催したワークショップで、「ほんの数年前まで、グリーンランドは、世界地図上で巨大な白紙部分に過ぎなかった。世界的気象変動のお陰で、グリーンランドは、中国、インド、日本、韓国、シンガポールといった新しいスパーパワーが注目する中心部となった」と語った。その上で、同氏は、天然資源の保護や開発などの特定の問題を協議する、北極沿岸諸国による新たな協議体、「北極海評議会 (an “Arctic Ocean Council”)」の創設を勧告した。同氏は、北極海における域外諸国のプレゼンスが拡大する中、当地域の諸問題を解決し、かつ域内諸国の独立と固有の権利を維持するためには、北極沿岸諸国間の協力が緊要である、と主張している。

記事参照:
Arctic needs a new Arctic Ocean Council, Greenlandic politician says

6月5日「スウェーデン海軍戦闘艦、ダウ船救出」(EUNAVFOR, Somalia, June 6, 2013)

EU艦隊所属のスウェーデン海軍フリゲート、HSwMS Carlskronaは6月5日、NATO艦隊所属のオランダ海軍フリゲート、HNLMS Van Speijkと共に、5日朝にアデン湾でソマリアの海賊にハイジャックされたインドのダウ船、Shahe Faize Nooriを救出した。ダウ船の船長が5日朝に12人の海賊に襲撃されているとの救難信号を発し、付近の海域にいたHSwMS Carlskronaがダウ船を発見し、同じく付近にいたNATO艦隊のHNLMS Van Speijkと共にダウ船の追尾を開始した。HSwMS Carlskronaの艦載ヘリが上空から監視する中、海賊は逃亡するためにダウ船の船長にソマリア沿岸近くへ航行するよう命じ、夜陰に紛れて逃亡した。14人の乗組員は全員無事で負傷者はいなかった。

記事参照:
Indian Sailors Safe After EU NAVFOR Warship HSwMS Carlskrona Forces Pirates To Abandon Attack on Cargo Vessel
Photo; Shahe Faize Noori

6月5日「印・豪、中国視野に防衛協力強化」(The Times of India, June 6, 2013)

オーストラリア訪問中のインドのアントニー国防相は6月4日、5日の両日、オーストラリアのスミス国防相と会談し、両国は、両国間の更なる「戦略的パートナーシップ」強化のため、防衛交流や定期的な防衛対話から、海洋安全保障、2015年の両国海軍合同戦闘演習に至るまで、多くの「防衛協力イニシアチブ」を実施することになった。両大臣は、両国の戦略的防衛協力を深め、アジア太平洋地域の平和、安定、繁栄に引き続き貢献し、インド洋地域における協力も促進することにも合意した。両国は、中国の軍事的な拡張とインド洋への海軍の進出に対して懸念をもっているが、アジア太平洋地域における「中国を封じ込める」ためのいかなる多国間の戦略枠組みや枢軸にも反対するとしている。しかしながら、中国が、隣国と海洋における領土紛争になっている南シナ海において、高圧的主張を続けていることを背景に、両国は、「海洋安全保障と国際法の原則に基づく航行の自由は、アジア太平洋およびインド洋の発展と繁栄に不可欠なものである」と強調した。両大臣は共同声明で、「定期的な国防相会談」の継続に合意するとともに、防衛政策対話、軍参謀級対話、防衛交流を通じて、防衛当局者及び両軍間の交流の継続を促すことに合意した。また、「現在続けられている両国間の海軍の信頼と友好を深めるための2国間の海軍交流」を継続することにも合意し、その中には2013年10月にシドニーで行われる予定の国際観艦式や、2015年海軍合同演習へのインドの軍艦の参加が含まれている。インド防衛当局者は、「両国海軍は、アジア太平洋地域において2国間の、そして東アジア首脳会議、ASEAN地域フォーラム、拡大ASEAN国防相会議を含む、多くの多国間フォーラム通じて引き続き協力する。また、インド洋地域においてもインド洋海軍会議や環インド洋地域協力連合を通じて協力を強化する」と語っている。

記事参照:
India, Australia to strengthen defence ties to contain China

【関連記事】「インドの再均衡化戦略?―インド人専門家論評」(Security Risk.com, June 7, 2013)

インドのWebサイト、Security Risk.com を主宰する、インド軍退役准将、Rahul Bhonsleは、最近のインドの軍事外交戦略について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 最近のインドのシン首相とアントニー国防相の訪問国リストを見ると、アメリカだけでなく、インドもまた、アジア太平洋における再均衡化 (rebalancing) 戦略を推進していることがわかる。アメリカのオバマ大統領が2011年11月の演説で示した新しい戦略的な転換に比べると、インドのそれは、はるかに捉え難い。インドの場合、地域における安全保障上の存在感は極めて小さく、ニューデリーにとって再均衡化というよりも軍事外交の射程の延伸といえるようである。アジア太平洋地域の日本やその他の国との戦略的協力を拡大することで、安全保障観を涵養する、あるいは中国との対峙という恐怖感を克服することは、5月から6月にかけてのインドの軍事外交の背景にあったようである。

(2) 安倍首相がインドとの安全保障関係の強化に熱心なことについて、昨今のインドでも大いに論議されている。5月28日から30日までシン首相の訪日は、その共同声明の第5項で防衛協力に触れることで、日印関係が新しい時代に入ったことを示す前触れであった。両首脳は、共同声明で、2012年6月に日本近海で行われた初めての日印海軍合同演習に満足の意を表明し、こうした演習を定期的に、かつより頻繁に実施することを決定した。またUS-2救難飛行艇に関する協力の態様を模索する、合同作業部会の設置を決定した。

(3) アントニー国防相のオーストラリア訪問はインド国防相としては初めて訪問で、最近では域内におけるインドの防衛協力の変化を示す最も決定的な出来事である。共同声明は、両国関の戦略的防衛協力をより深化させることが謳われた。それによれば、定期的な国防相会議、国防機関と軍の相互交流、信頼と友好関係を促進する2国間海軍交流の促進と2015年の海軍合同演習の実施、更にはインド洋における協力の強化などが進められる。 オーストラリアのインドへの関与の増加は、最近公表されたオーストラリアの国防白書にいう、「インド太平洋地域への経済的、戦略的、軍事的な重点の移行という、重要な戦略環境の変化」を反映したものである。インド洋側のパースには海軍基地、HMAS Stirlingがあり、印豪の協力関係において中心的な役割を果たす可能性がある。

(4) アントニー国防相はオーストラリアからの帰途、シンガポールも訪問し、同国軍のインド国内の陸軍訓練施設の使用権を2013年8月から更に5年間延長することに合意した。シンガポールは、インドがこのような施設の貸し出しを認めている唯一の国である。また、アントニー国防相は、バンコクも訪問し、同国国防相と兵器の共同生産について協議した。 インドとタイは、2013年2月に防衛対話を行い、両海軍による定期的な合同哨戒活動を実施している。

(5) インドの軍事外交活動におけるもう1つのハイライトは、東部艦隊司令官直率の4隻の艦隊が1カ月以上に及ぶ遠洋航海を実施したことで、この間、5月にはシンガポールで国際海洋博覧会に参加し、またシンガポール海軍との合同演習を行い、更にマレーシア、ベトナム及びフィリピンに寄港した。

(6) これらの動きは、シンガポールに配備予定の沿岸戦闘艦 (LCS) 4隻の内、最初の1隻を配備するなど、アジア太平洋地域へのプレゼンスを拡大しているアメリカを喜ばせることになろう。他方、中国は疑念を抱くであろう。しかしながら、出現しつつあるアジア太平洋地域の戦略関係の特徴は、インドがバンドワゴンニング政策に流れるよりも、勢力均衡策を追求することを求めている。これは、インド海軍が海洋において目指すべき明確な将来への方向性といえよう。そのためには、インド海軍は、東部艦隊を増強する必要があり、そしてインド洋の広域に影響力を及ぼす能力を求めるなら、将来的には南部艦隊も新編しなければならないであろう。

記事参照:
India’s Asia Pacific Rebalancing?

6月6日「スバールバル諸島における北極調査基地、増加」(Barents Observer, June 06, 2013)

スバールバル諸島のNy-Ålesundには、海外からの研究調査機関が多数滞在している。ドイツとフランスが最も旺盛な活動をしている中、7番目にチェコ共和国が研究基地を設置した。ドイツ、フランス、中国、日本、韓国、インド、イタリア、オランド、英国そしてノルウェーがNy-Ålesundに基地を保有している。研究調査に相応しい環境と飛行機で接近可能な北端という利点から、Ny-Ålesundは北極海研究の適地となってきた。しかし、気象変動により、近年はスバールバル諸島のより北端や東方への移動が可能になり、さらなる極地に向けて研究基地を移動させる国も出てきた。ノルウェーは研究基地の北進計画の一環として、Ny-Ålesundの基地を縮小し、同国の研究者は別の地域に移動を開始した。しかしながら、ノルウェー極地研究所長によれば、スバールバル諸島におけるノルウェー研究陣の全体レベルに変更はない。

記事参照:
More foreign Arctic research on Svalbard

6月6日「米海軍、バージニア級原潜最終艦受領」(Marine Log, June 6, 2013)

米Newport News Shipbuilding (NNS)は6月6日、Block II Virginia級原潜、USS Minnesota (SSN 783) を、予定より11カ月近く前倒しで米海軍に引き渡した。同艦は、Block II Virginia級原潜の最終10番艦で、水中速度は25ノット以上で、最大3カ月間の潜航が可能である。

記事参照:
Newport News delivers final Block II Virginia class sub
See also video;
http://www.marinelog.com/index.php?option=com_content&view=article&id=4159:newport-news-delivers-final-block-ii-virginia-class-sub&catid=1:latest-news&Itemid=195

6月8日「インドネシア、EEZ哨戒用哨戒艇2隻進水」(The Jakarta Post, June 9, 2013)

インドネシアの「海上治安調整機関 (The Marine Security Coordinating Agency: Bakorkamla)」は6月8日、リアウ諸島州バタム島の港で、EEZ哨戒用の全長48メートルの哨戒艇2隻、KN Bintang Laut 4801とKN Singa Laut 4802を進水させた。Bakorkamlaはオーストラリアやその他の国から供与された、双胴型哨戒艇8隻と浅海域哨戒艇10隻を運用しているが、進水した2隻は初めて全額国費580億ルピア(約590万米ドル)を投じて建造された。2隻は20ミリ機関砲を搭載し、また20キロ先まで確認可能なロングショットカメラを装備し、衛星技術を利用してジャカルタのBakorkamla司令部で哨戒活動をモニターすることができる。Bakorkamlaは、2014年までに更に4隻の同型哨戒艇を建造する計画である。

記事参照:
Two patrol vessels launched to monitor exclusive economic zones

6月8日「中国の世界的な港湾戦略、最大の動機は商業活動―エコノミスト誌論評」(The Economist, June 8, 2013)

6月8日付けの英誌、The Economistは、“China’s foreign ports: The new masters and commanders” と題する長文の記事を掲載し、中国がスリランカのコロンボ港などでの港湾建設や外国港湾の所有や運営権を獲得している中国の世界的な港湾戦略について、その最大の動機は商業にあるとして、要旨以下のように論じている。

(1) コロンボ港の左側に、巨大な新しい防波堤がインド洋に向かってカーブを描いている。この新しいコンテナターミナルは中国企業が建設しており、運営も別の中国企業が行う。このターミナルは2013年7月に操業を開始し、2014年4月には完成する予定である。全面稼働すれば、コロンボ港は、世界のコンテナ港上位20港にランクインすることになろう。コロンボ港は、インドにとって「積み荷の積み替え」ハブとしての役割を果たしている。大型船はコロンボ港に入港し、積荷はここでフィーダー船(小型船)に積み替えられて、インド各港に輸送される。インドのコンテナ輸送の約13%がコロンボ港経由である。新ターミナルが全面稼働になり、インド向けコンテナの積み替え輸送用に使用されることになれば、この比率は28%に高まると見られる。そうなれば、インドは、外国企業によって運営されるチョークポイントに依存することになる。中国は、コロンボ港の新ターミナル建設に加えて道路と空港の建設も進めている。更に、もう1つの港、スリランカ南岸のハンバントータ港の建設も請け負っている。

(2) 一部のインド人からすれば、コロンボ港は、パキスタンのグワダル港とカラチ港、バングラデシュのチッタゴン・コンテナ施設、ミャンマーの一連の港湾など、中国が進める「真珠数珠繋ぎ」戦略のネットワークに連なる港に見える。この戦略は、例えそうした戦略が存在するとしても、実際に機能するとは限らない。もし中国がこれらの港湾を海軍基地らしきものに転用できたとしても、中国本土から遠く離れた一連の拠点を管理していくことは難しいであろう。その上、ホスト国の動向も変わる。むしろ、中国の最大の動機は、商業活動にあるといえるかもしれない。

(3) 中国の海洋インフラ建設の大半を担っているのは国営企業であり、これらの企業の動機の一端は少なくとも商業活動にある。コロンボ港のコンテナターミナルを運営するのは、Colombo International Container Terminal (CICT) で、その株式の85%は中国政府の傘下にある香港の招商局国際 (China Merchants Holdings International) が保有している。CICTの ゼネラル・マネジャー、ウィックラマシンゲ (Tissa Wickramasinghe) によれば、コンテナターミナル建設の目的は世界貿易の新しい傾向に沿ったもので、今後は貧困国においても貿易が拡大していき、それに伴ってコンテナの使用量は増大する(因みに、インドの海運貨物のコンテナ利用は現在、全体の22%で、世界平均の半分に過ぎない)と予測され、 東アジアから欧州、アフリカを結ぶ海上交通路の輸送量は今後、一層増大し、全長ほぼ500メートルにも達する新世代の超大型船が主流となろうであろうことから、こうした超大型船が出入りできる港が繁栄していくことになろう。

(4) 中国が海洋インフラ建設に関心を持つ背景には、世界最大の輸出国で世界第2位の輸入国であるという状況がある。世界最大級のコンテナ港の多くが中国にある。中国は、主に国営の巨大海運会社を通じて世界のコンテナ船の5分の1をコントロールしており、トン数で見れば、2012年に建造されたコンテナ船の41%が中国で建造された。1980年代から1990年代にかけての日韓両国の企業に代わって、貿易、造船分野における中国の力が港湾分野にも及んでいる。手始めは港湾建設であった。中国港湾工程 (China Harbor Engineering Company) は、世界中で港湾建設プロジェクトに参加している。次の段階は、港湾の所有と運営である。香港の民間コングロマリット、和記黄埔 (Hutchison Whampoa) は、長年にわたって世界的な港湾ネットワークを構築してきた。中国本土企業では、中国最大の国営海運会社、中国遠洋運輸公司 (COSCO) のグループ企業、中遠太平洋 (COSCO Pacific) で、同社は、2003年から2007年にかけて、アントワープ、スエズ及びシンガポールのターミナルに出資した。同社は2009年には、ギリシャのピレウス港の半分を掌握した。同社の海外投資額は、約10億ドルに達する。香港の招商局国際は新たな参入者だが、その投資額は中遠太平洋の2倍である。同社は、2010年にナイジェリアとコロンボに投資し、2012年はトーゴとジブチの港に出資した。2013年1月には、同社は、多額の負債を抱えるフランスのコンテナ海運会社、CMA CGM が運営する世界の港湾のコンテナターミナル建設・運営会社、Terminal Linkの49%を買収した。更に、2013年3月には、別の中国企業、中海碼頭 (China Shipping Terminal) が、ベルギーのゼーブルッヘのコンテナターミナルの株式を取得した。5月30日には招商局国際がタンザニア港建設を受注した。この契約は数十億ドル規模になる。中遠太平洋も、東南アジアでの事業参画とギリシャへの投資拡大を検討している。

(5) 中国企業は、特定の選ばれた港が新世代の超大型船を受け入れるという、海運業界のビジョンに対応しようとしているのかもしれない。2013年5月には、CMA CGMが世界最大のコンテナ船、MV Jules Verneを受領した。該船は、1万6,000TEUで、喫水16メートルである。更に、7月には、デンマークの海運会社、Maerskが1万8,000TEUの超大型船を就役させる。同社は、同型船20隻を韓国の大宇造船海洋に発注済みである。中国第2位の海運会社、中海集裝箱運輸 (China Shipping Container Lines) も、1万8,400TEUのコンテナ船5隻を、韓国の現代重工業に発注したばかりである。一部の港は、こうした超大型船の受け入れが難しいかもしれない。中国の一部の新しいコンテナターミナルは、こうした超大型船に対応しようとしている。中遠太平洋は、ギリシャのピレウス港に超大型船を受け入れられるドックを建設中である。コロンボ港は、喫水18メートルの船でも十分に受け入れられる水深がある。同港のクレーンは、コンテナ24個分の横幅を持つ船舶にも対応できる。インドには、これに匹敵する港はどこにもない。

(6) 中国の港湾戦略にはリスクもある。世界経済が迅速に回復するとはいえず、経済成長の鈍化に伴って、コンテナ需要も低下している。また現在、多くの海運会社が赤字で、そのため超大型船の就役で輸送能力が増大することには必ずしも諸手を挙げて歓迎しているわけではない。コロンボの新コンテナターミナルは、インドの景気低迷もあって、先の見通しは明るくない。超大型船の時代が来れば、コロンボ港の地位も安泰だが、それには時間がかかる。中国の港湾戦略は、主として商機の拡大によって動機付けられている。中国のような大国になれば、世界的な海運、港湾業界を持つのは当然の成り行きである。しかし、それは、外交的な緊張を引き起こすことにもなりかねない。他方で、楽観的な見方もある。中国が投資を増やせば増やすほど、貿易相手国とのより良好な関係を維持しなければならないインセンティブが強まるからである。コロンボ港の新コンテナターミナル建設に対して、中国の意図的な拡大主義の表象ではないと、現地では受け止められている所以である。

記事参照:
China’s foreign ports: The new masters and commanders
Map: String of Chinese pearls

6月9日「中国、スカボロー礁に4隻の監視船配備」(The Philippine Star, June 10, 2013)

The Philippine Association of Chinese Studiesのバンラオイ (Rommel Banlaoi ) 副会長が9日に明らかにしたところによれば、中国は、スカボロー礁(中国名、黄岩島)に建造物を建ててはいないが、3隻の海洋監視船と1隻の漁業監視船を周辺海域に配備している。バンラオイは、もし中国が建造物を建てれば、即ち現状を変更すれば、西フィリピン海(南シナ海)における領有権紛争を一層複雑なものにするばかりか、2002年の行動宣言に対する挑戦となる、と強調した。スカボロー礁における中国監視船の存在が現地漁民の生活を脅かすことになっても、フィリピン政府は、この海域の領有権を誇示するために船舶を派遣することはないであろう。政府は現在、フィリピンの管轄海域における自国漁民の漁業権を護ることができないため、代替操業海域の指定や漁民に対する支援などを含む、措置に頼っている。

記事参照:
No new Chinese structures, but 4 ships in Panatag – expert

6月9日「インド海軍潜水艦、遅々として進まぬ整備計画」(The Times of India, Jun e 9, 2013)

遅々として進まない潜水艦プロジェクトを救わんとするインド海軍の絶望的な努力は、ダブルパンチを受けている。1つは、6隻のScorpene級潜水艦建造計画は更に14~18カ月の遅延を余儀なくされたことだ。計画では、早ければ2016年11月には1隻目がMazagon Dock Limited (MDL)で就役することになっていた。さらに心配なこととして、新しくより高度な対潜水艦、地上攻撃能力があり、非大気依存型推進システムによって長時間海面下で活動できる、最新のステルス潜水艦6隻の取得計画は、政治の無関心と、官僚のお役所仕事により、進展していない。2007年11月に「必要性を認める」とされて以来、すでに3つの委員会が審査している。財務省は、今またこの計画、総額5,000億ルピーを超えるProject-75Indiaを国防省に説明を求めるためのファイルに戻してしまった。消息筋によれば、「内閣安全保障委員会は、P-75Iは解決策がないまま、たらいまわしになっている、と指摘している。世界の国防企業への見積もり依頼は、内閣安全保障委員会の承認が前提となる」と語っている。P-75Iが今から始まったとしても、少なくとも建造する外国企業の選定には3年かかり、さらに最初の潜水艦の導入までには7~8年を要する。

2,300億ルピーを超えるScorpene(P-75)級潜水艦プロジェクトは、2012年~17年に就役する予定だったが、すでに予定より4年遅れ、警告音が鳴り響いている。海軍は現在14隻の老朽化したディーゼル推進潜水艦―10隻はロシアのKilo 級、4隻はドイツのHDWのものを保有し、これらは延命措置にもかかわらず、今後数年の間に退役していく。内閣安全保障委員会は1999年に、30年計画の潜水艦建造計画を承認し、それによれば12隻の潜水艦を2012年までに、次の12隻を2030年までに導入することになっていた。しかし政府の計画能力と決断能力の不足から、海軍は、14年たっても1隻も取得していない。P-75Iは、「インドの造船所選定」、「どの程度の国産化を実現したか」といった議論に巻き込まれている。6隻計画の内、2隻を輸入し、4隻をインドで建造することになっている。海軍は、MDLが能力を超える注文を受け、時間とコストが大幅に超過していることから、民間造船所を動員して時間を節約したいと考えている。しかし国防省の防衛装備品局は、3隻をムンバイにあるMDLで建造し、1隻はヴィシャカッパトナムにあるHindustan Shipyardで建造するとしている。

Scorpene(P-75)級潜水艦プロジェクトは、2005年10月にフランス企業との間で契約が調印されて以来、はなはだしい管理の失敗が続き、莫大な時間がかかり、コストが超過してきた。MDLが必要とするセンサー、推進機関その他を含むパッケージは、2012年12月に契約されたばかりだ。重魚雷の注文についてはまだ契約されていない。現有の14隻の潜水艦の内、2020年には5ないし6隻しか稼働状態にないものと見られる。もしScorpene級潜水艦を2~3隻取得したとしても、パキスタンと中国に対する抑止上必要とされる最低戦力、18隻の潜水艦配備には程遠い状態が続くことになる。

記事参照:
Tangled in red tape, India’s submarine fleet sinking

6月10日「シェールオイル・ガス推定埋蔵量、大幅増―米報告書」(Channel News Asia, June 11, 2013)

アメリカのThe US Energy Information Agency (EIA) が6月10日に公表した報告書によれば、シェールオイルの推定埋蔵量は3,450億バレルで、世界の石油の推定総埋蔵量の10%を占める。またシェールガスの推定埋蔵量は7,299兆立方フィートで、世界の天然ガスの推定総埋蔵量の32%を占める。シェールガスの推定埋蔵量の上位6カ国は、中国、アルゼンチン、アルジェリア、アメリカ、カナダ、そしてメキシコの順で、これら6カ国で世界全体の60%以上を占める。他方、シェールオイルの推定埋蔵量の上位5カ国は、ロシア、アメリカ、中国、アルゼンチン、そしてリビアの順で、これら5カ国で世界全体の63%を占める。報告書は、これらの推定埋蔵量が経済的にどの程度採掘可能かどうかは、地理的環境や地層の状況から、未だ不明としている。

記事参照:
Shale fields “add 47% to global gas reserves”

トピック『他国のEEZ内における軍事行動についての中国の解釈を巡って』

中国国防部外事弁公室の周波大校は6月1日、シンガポールのアジア安全保障会議 (The Shangri-La Dialogue) の海洋安全保障に関するワーキングセッションにおいて、「中国のEEZ内でアメリカが行っている偵察活動のお返しに、アメリカのEEZ内に偵察のために海軍艦艇を派遣した」ことを明らかにし、アメリカや日本のように中国のEEZ内における「ほとんど日常的な活動」と対照的に、中国はまだ「ほんの数回」しか行っていないと述べた、と報じられた。アメリカのEEZ内における中国海軍の活動が、自国EEZ内における他国の軍事活動に反対してきた中国の立場とどう整合するのか、あるいは立場を変えたのか。以下、これに関する論調を紹介する。

1.中国海軍、米EEZ内での行動を認める」(The Financial Times, June 2, 2013)

米太平洋軍のロックリア司令官は6月2日のシンガポールでの会見で、アジア安全保障会議 (The Shangri-La Dialogue) の海洋安全保障に関するワーキングセッションにおいて、米海軍が中国のEEZにおいて艦艇や航空機を活動させていることのお返しに、中国海軍も同じことを始めた、との発言が中国軍代表(国防部外事弁公室周波大校)からあったことを確認した。アメリカや他の多くの国は他国のEEZ内における軍用艦艇の自由な通航が国際法上認められているとの立場だが、中国は、これに同意しておらず、これまで中国沿岸域における米海軍の頻繁な調査活動に反発してきた。ロックリア司令官は、「我々は、中国がこうした能力を持つことをエンカレッジする」と述べ、世界の海洋の3分の1が当該沿岸国のEEZであり、こうした海域における自由な通航が阻止されれば、軍事活動が阻害されると強調した。この両国の立場の違いが、過去に両国関係を緊張させた2つの事件*を引き起こした。

同司令官は中国海軍艦艇が何処まで進出しているかについては明言しなかったが、中国海軍の活動に通暁した関係者は、ハワイや米本土沿岸域ではなく、中国海軍のグアム近海における哨戒活動や演習を指摘している。軍事専門家は、中国海軍のこうした動きは自国沿岸域における米国の軍事活動に対する北京の態度が緩和される兆候か、あるいは太平洋における新たな軋轢を引き起こすかのいずれかだ、と見ている。

備考*:2001年4月の海南島上空での米海軍EP-3偵察機と中国空軍戦闘機の接触事故。2009年3月の米海軍調査船、USNS Impeccable に対する妨害事案。

記事参照:
Chinese Navy Begins US Economic Zone Patrols

2.「中国、他国EEZ内での軍の活動容認か?」(The Interpreter, Lowy Institute, June 1, 2013)

豪シンクタンク、The Lowy Institute のメドカーフ (Rory Medcalf) は6月1日のブログで、上記中国海軍代表の発言を今年の会議で最も驚いたこととし、以下の諸点を指摘している。

(1) この発言は、国連海洋法条約に関する中国の解釈では長期的利益に繋がらないと、中国が認識し始めた兆候かもしれない。中国は、他国のEEZ内における航行の自由には、調査活動が含まれないとの立場に立ってきた。中国の経済的、戦略的利益、そして海軍力が中国沿岸を越えて進展するにつれ、恐らく中国の安全保障関係部局の一部では、他国のEEZ内での情報収集活動を遂行する権利を認めた方が、将来自国の利益に繋がると考え始めている。中国が実際にアメリカのEEZ内で行動しているとすれば、それは現在の北京の解釈から踏み出たものである。

(2) このことは、東アジア海域における調査活動を止めるよう米海軍を説得するつもりがないことを、中国が認めたことにならないか。もしそうなら、最近の中国が数年前のように、米海軍の行動に厳しく当たらなくなったことの説明になるかもしれない。また、このことは、米中間の海洋における危険軽減に関する対話や軍事交流が進展していることの説明にもなるかもしれない。

記事参照:
Is China ‘reciprocating’ US maritime surveillance

3.「他国のEEZ内における軍事行動についての中国の解釈―米議会諮問機関ペーパー」(U.S.-China Economic and Security Review Commission, Staff Research Backgrounder, June 19, 2013)

米議会諮問機関の「米中経済安保調査委員会 (U.S.-China Economic and Security Review Commission)」は6月19日、“China’s Expanding Military Operations in Foreign Exclusive Economic Zones” と題するペーパーを公表し、他国のEEZ内での軍事活動に関する中国の解釈について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 米国防省によれば、中国海軍は2012年に、事前通報なしで、米領グアムとハワイ州周辺のEEZ内において、初めて情報収集活動を行った。この活動は、外国軍に対して中国のEEZ内における活動について事前通告と中国の承認を求めるとする、北京の立場とは相反する。中国軍は6月1日、シンガポールのアジア安全保障会議でこうした活動を公に認めた。国防部外事弁公室の周波大校は、「中国のEEZ内でアメリカが行っている偵察活動のお返しに、アメリカのEEZ内に偵察のために海軍艦艇を派遣した」ことを明らかにし、アメリカや日本のように中国のEEZ内における「ほとんど日常的な活動」とは対照的に、中国はまだ「ほんの数回」しか行っていない、と述べた。

(2) 米中両国は、自国のEEZ内における他国の軍事活動を規制する当該沿岸国の権利を巡って、解釈の相違がある。この問題に対する解釈の相違は、沿岸域の管理と安全保障を重視する沿岸国と海洋の自由を重視する海洋国家との違いを反映して、1970年代における国連海洋法条約 (UNCLOS) の交渉で明らかになった。UNCLOSが1982年に調印された時点では、中国が沿岸海軍しか持っていない沿岸国であったのに対して、米国は外洋海軍を有するグルーバルな海洋国家であった。

a.中国は今日でも、自国のEEZ内における外国の軍事活動を規制する権利を主張している。(米海軍によれば、このような権利を主張しているのは、中国を含め27カ国に過ぎない。アジアでは中国以外に、バングラデシュ、ミャンマー、カンボジア、インド、マレーシア、モルディブ、北朝鮮、パキスタン、スリランカ、タイ、ベトナムの各国である。)中国の立場は、自国の安全保障あるいは経済的利益を直接、間接に脅かす、如何なる活動をも阻止する権利を持つとの見解に大きく依拠している。他方、アメリカは、軍艦艇は他国のEEZ内でも公海における航行の自由を享受するとし、中国はUNCLOSに準拠してかかる自由を行使する他国の権利と義務を尊重しなければならない、と主張している。こうした立場から、ロックリア司令官がシンガポールで中国による同様の活動を「エンカレッジする」と述べたわけである。

b.更に、中国は、自国のEEZが国内法の管轄下にあると主張している。中国の1988年のEEZと大陸棚に関する法律は、中国のEEZ内における外国による漁業、鉱物資源開発及び海洋科学調査の実施に当たっては、中国政府の事前承認を得ることを求めている。中国は、アメリカの軍事活動と水路調査を、この法律の管轄下にある海洋科学調査に類別している。一方、アメリカは、これら2つの活動を、艦艇と航空機の活動に関連した公海における自由と見なしている。

この10年間のこうした海洋における権利と自由に関する解釈の相違が、米中間の緊張と時に事件を引き起こしてきた。

(3) 中国が他国のEEZや東シナ海、南シナ海の紛争海域において軍事活動を増大させることになっても、北京は恐らく、自国のEEZ内におけるアメリカの軍事活動を規制する権利を主張し続けるであろう。その増大する外交的、経済的そして軍事的力が、この問題に対して中国に挑戦するアメリカや域内各国の能力と意思を次第に弱めていくであろう、と恐らく北京は計算している。中国は、自国のEEZ内における外国の軍事活動に対するこれまでの政策を完全に放棄することはないであろう。そうすることは、国際規範に対する異議申し立て国として長年主張してきた法的論拠を弱めることになるからである。

(4) 従って、この矛盾した立場を指弾されないために、また拡大する海軍活動に対する域内諸国の認識を良くするために、北京は、以下のようなアプローチを通じて、その活動を正当化しようとする可能性がある。

a.自国のEEZ内における外国の軍事活動を規制するために、引き続き沿岸国の権利を法制化した国内法に依拠し続ける。これは世界の大勢とは異なるが、それでも中国軍は、この問題に対処する国内法を持たない沿岸国のEEZ内における軍事活動を正当化しようとするであろう。

b.米国の軍事活動を沿岸国の承認を必要とする海洋科学調査と類別し続けることで、自国の活動とアメリカのそれとを区別しようとする。

c.中国本土沿岸沖でのアメリカの活動と、アメリカ本土外の海外領土周辺における中国の活動とを差別化する。

d.こうした中国の活動を、アメリカの同様の活動に対する単なるお返しと主張する。

e.中国のまだ「ほんの数回」の活動と、中国が言うアメリカの「ほとんど日常的な活動」とを対比させる。

(5) 中国の他国のEEZ内における活動は、北京との間で海空域の活動における衝突回避措置を巡る真剣な討議を始める機会を、ワシントンにもたらすかもしれない。

記事参照:
China’s Expanding Military Operations in Foreign Exclusive Economic Zones
See also; Ronald O’Rourke, Specialist in Naval Affairs, Maritime Territorial and Exclusive Economic Zone (EEZ) Disputes Involving China: Issues for Congress (Congressional Research Service, July 5, 2013)