海洋情報旬報 2013年4月21日〜4月30日

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4月 21日「海軍建艦競争—アジア・太平洋地域」 (Defense News, April 21, 2013)

4月 21日付けの Web誌、Defense Newsは、現在アジア・太平洋地域おいて活況を呈している各国海軍の戦力整備の動向について詳報し、今後 20年間に、複雑化する地域情勢を反映して、世界の海軍及び海洋安全保障関係の戦力整備費の 26%、2,000億米ドル近い資金が投入されるであろうとしている。以下はその要旨である。

(1) 海軍関係の分析を専門とする、米国の AMI Internationalの分析専門家によれば、アジア各国とオーストラリアにおける新たな建造艦艇には、空母 6隻、両用戦艦 128隻と補助艦 21隻、コルベット 12隻、巡洋艦 2隻、駆逐艦 42隻、高速攻撃艇 235隻、フリゲート 115隻、機雷対策艦艇 34隻、外洋哨戒艦 (OPV) 82隻、哨戒艇 255隻、及び潜水艦 116隻が含まれる。これらのリストには、中国の 172隻、韓国の 145隻そして日本の 74隻が含まれている。

(2) AMI Internationalの分析専門家によれば、特にこの地域の OPV市場は、2013〜2030年に総計 46億米ドルまで増大するという。この趨勢は、OPVが、フリゲートに替わるわけではないが、海洋安全保障と海洋法令執行任務を目的とする、“other-than-war” shipとして、OPVの需要が高まっていることを示している。このことは、 OPVが潜在的なフラッシュポイントに最初に投入される艦船になる可能性が高いことを示唆している。OPVは、比較的シンプルな艦であり、ローカルな造船所でも設計、建造が可能である。特に 1,500トンあるいはそれ以上の大型 OPVは、コルベットやフリゲートに求められる任務の多くを代行することが可能で、シンガポールの Formidable級コルベット、マレーシアの第 2世代哨戒/沿岸戦闘艦、そしてブルネイの OPVは、プラットフォームの小型化への趨勢を示している。シンガポールの RSISの上席フェロー、ベイトマン (Sam Bateman) は、OPVは ASEAN諸国で好まれているが、北東アジアでは、イージス駆逐艦や大型両用戦艦を含むより大型の戦闘艦が建造されている、と指摘している。

(3) 日本の 2013年度防衛予算は、南西諸島の防衛及び日本領海の侵犯抑止を最優先課題としている。ロンドンのキングス・カレッジの日本海軍専門家、パタラノ (Alessio Patalano)は、「日本は、海へのアクセスに依存する海洋国家である。従って日本の海洋戦力は、シーレーンへの定常的なアクセスを維持できるように設計されている。中国の海洋における高圧的な姿勢は、日本列島の領土保全に対する主たる潜在的な懸念事項である」と指摘している。従って、日本は、潜水艦探知能力を向上させた、 5,000トン級の新しい多目的駆逐艦 (DD) の建造に 2013年度 701億円を投入する。防衛省によれば、その狙いは「高性能で静粛性の高い潜水艦に対応するため」であり、これは暗に中国の新型でよりステルス化された Type 93「商」級攻撃型原潜を指すと見られる。パタラノによれば、中国からの圧力に対して、日本は 2つの対応策をとっているという。1つは、日本列島の南西部の防衛に重点を置くことであり、もう 1つは、特に ISR(情報・監視・偵察)の強化と定期的なプレゼンスの増強による従来型の抑止力の強化である。その例として、 10年を超える防衛予算の制約下でも、4つのタイプの駆逐艦 14隻の延命措置がとられたこと、また海上自衛隊が 2013年度で新型潜水艦 1隻の建造に 531億円を支出することに加えて、潜水艦艦隊の延命と 16隻から 22隻への増強に予算を投入していることである。注目されるのは、日本が既に就役させた 1万 3,500トン級艦 2隻に加えて、建造中の排水量 1万 9,500トン(満載排水量 2万 7,000トン)級艦 2隻で構成される、4隻の「ゆうが」級ヘリ搭載護衛艦である。この艦については、この艦が F-35B短距離離陸・垂直着陸機を搭載できるように改修できるかどうか、その戦略的目的を巡って憶測されている。

(4) ASEAN諸国の脅威認識は、大陸国家(カンボジア、ラオス、ミヤンマー及びタイ)と海洋国家に 2分される。後者は、領土紛争に関わっているフィリピン、ベトナム及びブルネイと、それに関わっていないインドネシアとシンガポールが含まれる。 AMI Internationalによれば、海洋 ASEAN諸国の多くは、様々な理由から海軍戦力を強化している。例えば、フィリピンは、マランパヤ石油ガス・プロジェクト護衛のため、巡視艇 1隻とヘリコプター6機の調達に 6,000万米ドルを投入し、更に 2012年には、総額 9億米ドルの 5カ年近代化計画を開始し、フリゲートの改修、 C-130輸送機及び多用途/戦闘ヘリコプターの調達を発表した。ベトナムは、南シナ海における中国の高圧的姿勢に対応して、その海軍力と空軍力を向上させてきた。オーストラリアの海事専門家、セイヤー (Carl Thayer) によれば、2012年度のベトナムの国防予算 33億米ドルで、2008〜2011年度から 150%増でとなっており、海軍予算だけでも 2015年までに 4億米ドルに達するとみられる。ハノイは 2009年に、6隻のロシア製 Kilo級潜水艦を調達すると発表した。この潜水艦は、2014年から配備が予定されている。更に、ベトナムは 2011年に、Kh-59MK対艦巡航ミサイルが装備される、4機の Su-30MK2戦闘機を購入すると発表している。

記事参照:
Asia-Pacific Spending Spree: China, Rivalries Drive Naval Buys

4月 22日「中国 CNOOC、南シナ海で石油生産開始」 (UPI, April 23, 2013)

中国海洋石油総公司は 4月 22日、南シナ海北部の北部湾(トンキン湾)の Weizhou 6-12で石油生産を開始すると発表した。生産井は 10本で、平均深度は 29.9メートルである。 CNOOCによれば、2013年中に最大産出量に達すると見込まれている。

記事参照:
CNOOC starts production in South China Sea

4月 22日「ミャンマー、ヤンゴン港拡張」 (Mizzima News, April 22, 2013)

Myanmar Port Authorityは 4月 22日、ヤンゴン港に既存の 18本の埠頭に加えて、更に 14本増設すると発表した。これによって、貨物取扱量は倍増する。運輸相によれば、 14本の内、7本は外国との合弁によって建設される。ヤンゴン港は、同国の輸出入の 85%を取り扱っている。一方、中国の国営新華社通信が 4月 22日付けで報じたところによれば、ミャンマー当局は最近、ヤンゴン港の主要埠頭の 1つを民営化し、軍所有の Myanmar Economic Holdings Ltdに 300億チャット (3,500万米ドル) 以上の価格で払い下げた。

記事参照:
Yangon Port to host 14 new jetties

4月 22日「ノルウェー、バレンツ海の石油開発を承認」 (РИАНовости, April 22, 2013)

このほど、ノルウェーの北極海域での石油、ガス開発調査の開始に、約 200名の与党議員が賛成票を投じた。これは、バレンツ海のロフォーテン諸島沿岸の鉱物資源開発をスタートさせる第一歩になる、と米通信社、 Bloombergが報じている。ノルウェーの石油ガス輸出量は、世界第 7位の規模を誇る。しかしながら、北海の天然資源は減少の一途を辿っており、今年は、過去 25年間で記録的な低さにまで落ち込む可能性がある。その一方で、ロイター通信によれば、ロフォーテン諸島近郊の石油埋蔵量が、 12億 7千万バレルに及ぶと推計されている。

WWFやグリーンピースといった環境団体は、北極での石油、ガス開発に反対の意を示している。開発企業が最新技術を使用したとしても、石油やガスの流出がないという絶対的な保障はできないからだ。また専門家によれば、バレンツ海のこのエリアが、地域の魚類の個体数にとって非常に重要な意味を持っているという。

記事参照:
Норвегияможет дать “зеленый свет” нефтеразработкам в Баренцевомморе

4月 22日「アルハンゲリスク港建造、中国企業投資の構え」 (РИА Новости, April 22, 2013)

このほど、ロシア・アルハンゲリスク州副知事(インフラ開発担当)は、アルハンゲリスクの深水港建造に、中国企業が投資する用意であることを明らかにした。この港は、鉄道幹線ベルコムール(白海−コミ−ウラル)に結び、物流の流れとなる。副知事によれば、アルハンゲリスク州の発展の可能性に中国投資家の関心があるとし、中国のパートナーが、新たな港湾エリアの開発のみならず、輸送・物流インフラや、道路、水道の敷設、天然資源や木材加工の分野にも多額の投資の用意があるという。新深水港の建造は、「ロシア連邦土地利用基本計画」と「2030年までのロシア運輸戦略」に含まれている。

記事参照:
Китайский бизнес готов вложиться в строительство Архангельского порта

4月 23日「ロシア海軍、 2013年に 3隻の原子力潜水艦を受領」 (телеканал Звезда, April 23, 2013)

このほど開催されたロシア軍の新しい軍備に関するラウンドテーブルで、ロシア国防相が明らかにしたところによれば、ロシア海軍は 2013年内に 3隻の原子力潜水艦を受領する。これは、多用途攻撃型原潜、セヴェロドヴィンスクと 2隻のボレイ級弾道ミサイル原潜、アレクサンドル・ネフスキー、ウラジーミル・モノマフである。ミサイル原潜は就役前に、ブラバ・ミサイル発射テストが計画されている。

記事参照:
Военно-морской флот России получит в 2013 году три атомных подлодки

4月 23日「中国、大型空母建造の意向」 (Reuters, April 23, and South China Morning Post, April 25, 2013)

新華社通信によれば、中国海軍の宋学副参謀長は 4月 23日、海軍創設 64周年記念式典で外国駐在武官を前に、「中国は1隻以上の空母を保有するが、我々が必要としている次の空母は、より大型で、より多くの航空機を搭載できるものとなろう」と語った。また、宋学副参謀長は、上海で 2隻目の空母が建造されていると報じた、2012年 9月の外国メディアの報道を、「事実と異なる」として否定した。更に、宋学副参謀長は、海軍は現在、空母「遼寧」艦載用の海軍航空部隊を建設中で、最終的には、空母 1隻当たり少なくとも 2個航空連隊—戦闘機、偵察機、対潜機、電子戦機及びヘリを含む—が編成されることになろう、と語った。宋学副参謀長によれば、「遼寧」の改修に当たっては、10年以上にわたって、1,000社を超える中国企業が参加したという。また、「遼寧」は現在、海軍の 3個艦隊のいずれにも属しておらず、海軍司令部の直接の指揮、管理下にあるという。最近の解放軍報の報道によれば、「遼寧」は 2013年後半に最初の公海での海上公試を実施する。

記事参照:
China to build second, larger carrier − report
Senior PLA naval officer pledges ‘bigger and better’ aircraft carriers

4月 24日「中国の潜水艦建造における課題—豪海軍退役少将論評」 (The Interpreter, April 24, 2013)

オーストラリアの The Lowy Instituteの外部研究員、オーストラリア海軍退役少将のゴールドリック (RADM James Goldrick) は、同研究所の 4月 24日付けの The Interpreterに、”Problems in China’s submarine program?”と題する論説を寄稿し、中国が直面している潜水艦建造における課題について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 台湾情報によれば、中国の第 2撃報復核戦力を担う、Type 094「晋」級 SSBNと搭載する JL-2 SLBMは未だ開発中か、実験段階にある(注:祭得勝台湾国家安全局長の立法院での 4月 15日の証言)。このことは、中国が海軍戦力における複雑な分野において目標達成に苦闘していることを示唆している。また、中国は最近、少なくとも 4隻のロシアの Lada (Type 677) 級潜水艦の輸出型を購入する計画であると報じられた。この計画の信憑性には疑問があるが、ロシア自身も Lada級の建造に問題を抱えている。1996年の起工以来、これまでわずか 3隻しか完成しておらず、しかも 1番艦さえ完全稼働状態にあるかどうかは疑問である。このため、ロシアは、自国海軍用に Kilo (Type 636) 級の生産再開を余儀なくされた。ロシアは現在、潜水艦建造に西側の技術を取り入れることを期待して、イタリアの Fincantieri造船所との協力関係を再開した。もし中国がこの協力関係に単なる購入者としてでも参加すれば、中国が自国生産に自信を持っていないことを示すことになる。

(2) 中国は、3つの別々な国産潜水艦計画を効果的に遂行する上で、途方もない課題に直面している。国家の安全保障上及び商業的知的財産権の制約にもかかわらず、西側のほとんどの潜水艦運用国は、同盟国間の協定や 2国間関係を通じて技術や運用ドクトリンの多くを共有することが可能だが、中国は、こうしたことが少なくとも合法的には不可能である。中国は以前、技術転用を目論んで、ロシアの Kilo級潜水艦 12隻—1993年に 4隻、2002年に 8隻を購入した。最初の 4隻は自国よりはるかに進歩した当時のロシアの潜水艦設計と建造技術への手掛かりを与えたとみられ、2度目の 8隻もそうだと思われるが、中国が設計した「宋」級 (Type 039) は、海軍の所要に全て応えられたわけではなかった。事実、「宋」級 1番艦は就役前の海上公試に数年を要し、2番艦とそれに続く艦は大幅な設計変更を余儀なくされた。「宋」級は「元」級 (Type 041) に引き継がれ、その外観は Kilo級に強く影響されたことを示している。この艦は現在、シリーズ生産中であり、ジェーン海軍年鑑は、20隻建造されると推測している。しかしながら、そのシステムやサブ・システムの多くは旧式技術によるものであり、将来の運用上の課題を満たすためには、実質的な設計更新を必要としよう。

(3) ロシア・イタリア協力関係への中国の参加は、中国が必要とする技術へのアクセスを可能にするかもしれない。しかしながら、ロシアは、中国が単に技術転用だけとの非難を躱すに十分な隻数を購入するのであれば、中国の参加に同意するとみられる。中国の参加は、短期的には弾道ミサイル原潜や攻撃型原潜に関する中国の課題を解決するのもではないが、海軍が多くの水上艦や潜水艦を建造中であることから今後強まって行くに違いない、艦船設計担当者や施設に対する圧力を軽減するのには役立つであろう。製図事務所、設計専門家、製図家及び海軍の設計家など数が限られていたことが、独自の軍艦建造に固執してきた米英を含む多くの国々の海軍力整備における大きな制約要因の 1つとなってきたことは、往々にして認識されてこなかった。しかし、このことは、今中国が直面している現実である。

記事参照:
Problems in China’s submarine program?

4月 24日「米国の再均衡化戦略とインドネシアの海洋ジレンマ— RSIS専門家論評」 (RSIS Commentaries, No. 073, April 24, 2013)

シンガポールの S.ラジャラトナム国際関係学院( RSIS)のスプリヤント (Ristian Atriandi Supriyanto) 上席アナリストは、4月 24日付けの RSIS Commentariesに、“The US Rebalancing to Asia: Indonesia’s Maritime Dilemma” と題する論説を掲載し、米国の再均衡化戦略の推進によって米中の海洋における抗争が激化すれば、インド洋と太平洋の交差路に位置するインドネシアにとって、戦略的災難となりかねないとして、インドネシア人の視点から要旨以下のように述べている。

(1) インドネシア群島は、2つの海—インド洋と太平洋、そして 2つの大陸—アジア大陸とオーストラリア大陸の「交差路」にあり、戦略的要衝である。これら海洋と大陸の間に位置し、これらを繋ぐのが世界の海運にとって死活的に重要な 3カ所のチョークポイント、マラッカ・シンガポール海峡、スンダ海峡そしてロンボク・マカッサル海峡である。スンダ海峡とロンボク・マカッサル海峡はインドネシアの群島シーレーン (Archipelagic Sea Lanes: ASL) の中にあるが、マラッカ・シンガポール海峡は、一部マレーシアとシンガポールの管轄下にある。一瞥すれば、こうした地理環境は地政学的利点に見えるかもしれない。しかしながら、海洋戦略環境の最近の動向は、インドネシアの戦略的な計算を複雑化しかねない。米国のアジアにおける再均衡化戦略は、米国の潜在的な敵対勢力である中国の軍事的台頭と平行して進行している。

(2) その結果、マラッカ・シンガポール海峡、スンダ海峡そしてロンボク・マカッサル海峡の戦略的な重要性は、増加することになろう。

a.第 1に、これらのチョークポイントは、各国の海軍艦艇の通峡量が増えることになろう。インドと中国は、強大化する海洋大国として、太平洋とインド洋にそれぞれ自国の海軍艦艇の配備海域を伸ばしている。最近リークされた、インド海軍の報告書は、中国海軍の潜水艦が既にインド洋で活動していることを確認した。米軍部隊の多くは北東アジアに集中しているが、中国海洋戦力がこの地域における北京の拡大する利益に伴ってインド洋を目指して南進すれば、東南アジアにおける海空域における中国軍の通行量が増える可能性がある。この傾向は、東南アジア諸国の海洋戦力の増強とも相まって、地域の海洋における戦略的環境を一層「飽和状態」にすることになろう。

b.第 2に、これらのチョークポイントは、外国の海洋戦力による、情報、監視及び偵察 (ISR) 活動の焦点となると見られる。チョークポイントを通峡する海軍艦艇の増大は、これらの海域における ISR活動を一層活発化させよう。インドネシアは沿岸国として、こうした活動の増大を、国家安全保障にとって有害と見なしている。それでも、インドネシアが、これらのチョークポイントに沿って沿岸監視システムを整備するために、米国及び中国とそれぞれ個別に協力を進めているのは、こうした懸念があるからといえるかもしれない。これらのチョークポイントにおける状況識別能力の強化は、インドネシア軍が通航する外国の艦艇をモニターする上で役立つ。

c.第 3に、戦時には、これらのチョークポイントは、本国から離れた海上輸送に対する「オフショア・コントロール」の目標になりやすい。チョークポイントの制圧によって、敵の軍民の海上輸送を遮断するための戦力集中が可能だが、公海ではより分散して遮断が困難になるからである。

(3) ジャカルタにとって、ワシントンのアジアにおける軍事力再均衡化と海洋における北京の台頭は、インドネシアの戦略的な計算を複雑なものにしている。インドネシア海域における外国海軍部隊の通航の増加は、事故または誤算を誘発することになりかねない。この状況下で、ジャカルタにとって、3つの選択肢が考えられる。

a.第 1に、ジャカルタは、米国を暗黙裏に支持することができる。この選択によってジャカルタは、北京に敵対することによる大きな代価を払うことなく、米国の同盟国と密接に連携するとともに、米国の軍事支援を期待できる。インドネシア軍が戦闘作戦に関与することはないが、インドネシアは、自国海域内における中国の輸送船舶と航空機をモニターする ISR活動を支援することはできよう。一方で、米軍は、南シナ海におけるインドネシアの北部領域の安全確保を支援することができよう。

b.第 2に、ジャカルタは、米側とは距離を置いて、北京の海洋圏に入ることもできる。この選択肢は、中国が既にインドネシアに多くの援助を与えており、その見返りにインドネシアの支持を期待するというシナリオを想定している。見返りは、中国の利益に反する如何なる行動においても、米国とその同盟国から、そして仲間の東南アジア諸国からも距離を置くことを意味する。その結果、インドネシアは、米国とその同盟戦力がインドネシア海域内において一方的な海洋作戦を遂行するため、これら戦力による主権の侵害に直面することになろう。

c.第 3に、ジャカルタは、積極的に、あるいは受動的に中立を宣言することもできる。積極的な中立は、中立国家の海域における敵対勢力間の敵対的行動を禁止した、The 1994 San Remo Manual on International Law Applicable to Armed Conflicts at Sea を適用することを意味する。インドネシアの現在の戦略的方針がこの選択を目指している可能性は高い。しかしながら、その適用は非常に困難である。ジャカルタの限られた軍事戦力では、全ての交戦国の船舶と航空機をモニターするのは難しい。一方、受動的中立では、ジャカルタは、厳密な不介入の立場から、戦闘行為が続いている間、ほとんど行動しないとしても、インドネシア海域内での敵対国同士の戦闘は、インドネシア人の生命財産に多大の副次的被害をもたらす。

(4) これらの選択肢は、インドネシアだけのものではなく、萌芽しつつある米中抗争を戦略的災害と見なす、域内の他の諸国も同じ選択肢に直面している。インドネシアは、大国間のパワーゲームにおける鍵を握る存在としての地位を維持する、「最小悪 (the “least bad”) 」の選択肢を熟考し始める必要がある。

記事参照:
The US Rebalancing to Asia: Indonesia’s Maritime Dilemma

4月 24日「国際海洋法裁判所、仲裁人 5人を指名—南シナ海を巡るフィリピン提訴事案」 (GMA News, April 25, 2013)

国際海洋法裁判所 (International Tribunal on the Law of the Sea: ITLOS) は 4月 24日、中国との南シナ海における領有権を巡ってフィリピンが 1月に国連海洋法条約に基づいて仲裁裁判所に提訴した事案について、仲裁裁判の仲裁人 5人の指名を完了した。5人は、既に指名されていた、中国を代弁する Mr. Stanislaw Pawlak (Poland)、フィリピン指名の Mr. Rudiger Wolfrum (Germany)に加えて、Mr. Jean-Pierre Cot (France)、Mr. Chris Pinto (Sri Lanka)、 Mr. Alfred Soons (The Netherlands) の 3人である。

マニラは 1月 23日、南シナ海において中国が主張している「9段線」の違法性を訴えて、仲裁裁判所に強制的仲裁を求めた。

記事参照:
ITLOS completes five-man tribunal that will hear PHL case vs. China

【関連記事】「中国、フィリピンの提訴を改めて拒否」 (The Economic Times, April 26, 2013)

中国は 4月 26日、フィリピンの提訴を改めて拒否した。中国外交部報道官は、この問題に対する中国の態度は変わらないとし、2国間協議による解決を目指すことを確認した。

記事参照:
China rejects international arbitration over South China Sea

4月 24日「ソマリアの海賊、拉致船員を解放」 (gCaptain, April 30, 2013)

デンマーク外務省が 4月 24日に確認したところによれば、ソマリアの海賊は、デンマーク籍船、MV Leopardの乗組員 6人を拉致し、2年余にわたって拘束していたが、全員を解放した。該船は 2011年 1月 12日にオマーン沖のアラビア海で襲撃され、海賊は該船を完全に制圧できなかったが、6人の乗組員を拉致した。該船の船主は、支払った身代金の額については明らかにしなかったが、過去にデンマーク船員が拉致されたケースより多い、数百万米ドルと語った。

記事参照:
Leopard Crew Released by Somali Pirates

4月 25日「ロシア国境警備隊、ナマコ密猟者を拘留」 (РИА Новости, April 25, 2013)

ロシア連邦保安庁沿海地方国境警備局が伝えたところによれば、ヴィチャージ湾で違法にナマコを捕獲した地元の住民 3名を拘留し、小型船から 500匹の生きたナマコを押収した。専門家により状態が確認されたナマコは、元の海に戻された。違法操業者には法的措置が取られる。ロシアは、ナマコ漁を違法としている。ナマコには心臓・血管系の疾患に有効とされる薬効成分があることから珍重され、絶滅の危機に瀕している。ナマコを使った料理はアジアで人気があり、中国の闇市場では、乾燥ナマコ 1kgの平均価格が 350ドルにもなる。

記事参照:
Пограничники в Приморье задержали ловцов трепанга

4月 26日「ASEAN、言葉より行動が必要— RSIS専門家論評」 (RSIS Commentaries, No. 078, April 26, 2013)

シンガポールの S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の Kaewkamol Pitakdumrongkit 研究員、Benjamin Ho 准研究員及び Sarah Teo上席アナリストは、 4月 26日付けの RSIS Commentariesに、“ASEAN Unity: From Word to Deed”と題する論説を掲載し、4月 24、25日の両日、ブルネイで開催された ASEANサミットの成果を分析し、要旨以下のように論じている。

(1) 第 22回 ASEANサミットは、 “Our People, Our Future Together” をテーマに、ASEAN国家間の経済協力と南シナ海問題の解決に関する活発な議論の場となった。南シナ海における沿岸諸国間の軋轢により緊張に包まれた 2012年のサミットとは対照的であった。今回のサミットでは、2015年に予定している ASEAN経済共同体 (ASEAN Economic Community, AEC) 構想の進行状況の確認とともに、南シナ海問題の解決に向けて、「中国に対して、コンセンサスベースで南シナ海行動規範 (Code of Conduct in the South China Sea: COC) の早期締結を働きかけていく」ことを求める共同声明が採択された。

(2) 今回のサミットで ASEAN諸国間の結束が再確認されたのは、議長国であるブルネイのイニシアチブが大きかった。ブルネイのボルキヤ国王は、 ASEANサミットの前に、米国、中国、フィリピンを訪問し、サミットに対する地域主要国の理解を求めた。今回のサミットでは ASEAN諸国間の結束が表明されたものの、 ASEAN各国は、より大きな地域的目標達成に向けて自国の国益との葛藤に直面することになろう。

(3) ASEAN諸国は依然、その結束と求心性を乱しかねない、北京かワシントンのいずれに付くかという、選り好みの許されない「ホブソンの選択(the Hobson’s choice)」に直面する可能性を残している。アジア専門家のマーク・バレンシアが最近の論説で指摘しているように、「東南アジア諸国の基本的問題は、これら諸国が外部からの影響力—現在、南シナ海問題に顕著に見られる—に抵抗できるかどうか、そして域内の安全保障を維持するに当たって自らの求心性を持続できるかどうかである。」現実政治における各国の国益が示唆するところは、依然、 ASEAN諸国の多くが、アジア太平洋地域における米国の軍事プレゼンスと、中国との経済関係の維持との間で両賭けすることにある。

(4) このような状況下で、ASEANは、引き続き中立と統一を維持することが求められる。シンガポールのリー・シェンロン首相はサミットで、 ASEANは「重要問題について実践的かつ共通の立場を創り出さなければならない」と述べた。 ASEANの団結が維持されておれば、例え外部の大国が関与することになっても、地域秩序のアーキテクチャーにおける中心的な役割を果たし続けることができよう。海洋境界を巡る誤算から紛争が生起する可能性は排除できない。領域確定問題について伝統的に二国間交渉に固執してきた北京が多国間交渉に同意するかどうかに、紛争生起の可能性は大きく左右されよう。北京が COCの実現に向けた動きを加速するために、 ASEAN諸国と中国の外相による特別会議を提案したのは、中国が多国間交渉に舵を切る兆候かもしれない。ボールが ASEAN側のコートにある間は、 ASEANにとって、その求心性と団結を誇示するために、良好な状況を活用する絶好の機会である。しかし、そうするためには、文書に示された ASEANの政治的願望を現実の成果として実現しなければならない。

記事参照:
ASEAN Unity: From Word to Deed

4月 26日「西太平洋におけるシーパワーの未来— RAND報告書」(RAND Research Brief, April 26, 2013)

米シンクタンク、RANDは 4月 26日、David C. Gompert海軍大学客員教授による、Sea Power and American Interests in the Western Pacificと題する報告書を公表した。筆者は、西太平洋における米中シーパワーの抗争の特徴を分析し、米国のとるべき対応を提言している。以下は、その要点である。

(1) 中国は西太平洋におけるシーパワーの構築を目指し、他方、米国は、この地域における影響力と安定を維持するために、自らのシーパワーを後退させるつもりはない。第 1次世界大戦前の英独間の抗争や第 2次大戦前の日米間の抗争は、台頭するシーパワーによる既存のシーパワーに対する挑戦が平穏には終わらないことを教えている。しかし、 19世紀後半の米英間の抗争では、英国は、ひとつには別のシーパワー、ドイツの台頭に直面し、また米英間の経済的相互依存と海洋安全保障を含む利害の共有もあって、米国のシーパワーの台頭に反対せず、米国との対決を回避した。アングロ・アメリカン関係は、海洋における共存、協力そして最終的には同盟関係にまでなった。しかしながら、米国は、英国が西半球を米国に委ねたように、東アジアを中国に譲り渡すわけにはいかない。

(2) 今日、経済のグローバル化が進展し、特に米中間には経済の相互依存が高まっており、協調的な海洋安全保障関係がシーパワーの抗争を克服する可能性がある。米国や他の東アジア諸国と同様に、中国も、その貿易量の 90%、国内経済の 50%近くを海運で賄っており、海洋の安全に大きく依存している。

(3) 従って、米国は、東アジアの海洋へのアクセスと通航に利害を共有する全ての諸国に対して、「東アジア海洋安全保障パートナーシップ (an East Asian maritime security partnership)」を提案すべきである。もし中国がこれに参加すれば、米中間の域内におけるシーパワーの対決を回避できる可能性が拓けるかもしれない。他方、中国が参加しなければ、この東アジアにおける海洋安全保障パートナーシップは、域内における同盟諸国に対する米国のリーダーシップを強固にするとともに、西太平洋における米国のシーパワーにとって政治的かつ実際的な枠組となろう。

(4) 要するに、米国は、台頭するシーパワーとの対決に代わる協調的選択肢を追求するとともに、中国の対艦攻撃能力の強化に鑑み、空母などの水上戦闘艦への過度の戦力集中を軽減すべきである。米中両国には、東アジアにおける紛争を回避すべき理由がある。軍事技術の進展は海洋拒否能力を高め、従って両国から確実な制海能力を奪いかねないことから、海洋における戦略的優位の追求は、両国とも海洋安全保障の弱体化を招くことになりかねないからである。

記事参照:
The Future of Sea Power in the Western Pacific
The Report is available at following URL;
http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR100/RR151/RAND_RR151.pdf

4月 26日「インド洋、中印抗争の場に」 (UPI, April 26, 2013)

ペルシャ湾岸では、エネルギー輸送の大動脈、インド洋における中国とインドの海軍競争に警戒感が高まっている。ペルシャ湾の石油輸送は、欧米向けよりもアジア向けが多く、特に中国の石油輸入の 55%は湾岸石油である。米海軍がインド洋のシーレーンの安全を担ってきたが、中東における米国の影響力は弱まりつつある。太平洋における米中抗争は強まっていくと見られるが、インド洋における戦略的ダイナミズムは、中国とインドの抗争に取って代わりつつある。とはいえ、中印両国の海軍が米国に取って代わるだけの力をつけるまでには、10年や 20年はかかるであろう。

インド洋は、ペルシャ湾岸に出入りするチョークポイント、ホルムズ海峡から、インド洋と南シナ海を結ぶマラッカ海峡までつながっている。この 2つのチョークポイントは、中東からアジアへのエネルギー輸送の鍵となる海峡である。インドは 2012年 8月、ベンガル湾の東の出入り口、アンダマン・ニコバル諸島の南端に新たな海空軍基地を開設した。アンダマンの基地施設は、インドがインド洋沿岸域に沿って構築しつつある、一連の新たな基地と情報収集センターの 1つである。中国も、インドを取り囲む「真珠数珠繋ぎ」戦略と呼ばれる、港湾や基地のネットワークを構築しつつある。中東諸国は、中国の殷周海軍少将(退役)がアデン湾における海軍基地建設について提案したことに関心を持っている。この提案は、表向きには、中国が派遣している海賊対処艦隊を支援するためという理由であった。しかし、中国海軍が拡張されるにつれ、アデン湾に軍事的根拠地を持つことは北京にとって大きな意味を持つ。東アフリカがエネルギー資源の次のホットゾーンとなるにつれて、インド洋は、中国とインドにとってこれまで以上に重要な海域となろう。

記事参照:
China, India spar over Persian Gulf oil