海洋情報旬報 2013年3月21日〜3月31日

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3月 21日「マルタ、民間海上警備会社の武器携行認可手続きを法制化」 (Times of Malta.com, March 21, 2013)

21日付の Times of Malta(電子版)によれば、マルタ政府は、これまで同国船籍の武器搭載を個別申請に基づく審査により認可していたが、マルタ籍船に武器を携行して添乗する民間海上警備会社 (PMSC) の認可手続きを法制化した。3月 8日に公布された、Legal Notice 110/2013: Licensing of Private Maritime Security Companies Regulations 2013は、これに定める規定に従ってライセンスを得ない限り、何人も PMSC業務に従事し得ないとしている。同規則は、マルタ籍船に武器を携行して添乗する PMSCによる武器所持の認可手続きを定めたものであり、公共の利益のため、または船員の生命の安全と保護のため不可欠な場合のみに適用される。武器を携行した PMSC要員を添乗させた商船は、現在まで 1隻もハイジャックされていない。このことは、武器を携行した PMSC要員の添乗が有効な海賊対策であることを示している。マルタの司法管轄下に所属することを選択する PMSCは多い。その理由としてマルタが EU加盟国で、安定した法制度と会社制度を持っていることがあるが、最も重要な理由は、地中海の中心というその地理的位置にある。マルタは、ジブラルタル海峡からスエズ運河までの航路上にあり、従って、スエズ運河を通峡して海賊多発海域に入る船舶にとって、信頼でき、安定した利便性の高い事前寄港地となっている。

Legal Notice 110/2013によれば、マルタに籍を置く PMSCは、20項目以上の厳格な基準と義務を満たさなければ認可を得られない。これらには、申請社の保険加入状況、標準的な海賊対処活動手順、必要な訓練受講歴と任務経験を証明する書類を添付した武器携行要員の詳細な記録、あるいは国際的な認証機関の定めた危機管理システムの履行証明などが含まれる。Legal Notice 110/2013は制度管理委員会の設置を定めている。この委員会は、マルタ船籍登録局長を議長とし、警察、税関、外務、貿易および治安各省庁の代表者で構成される。この委員会は、PMSCの管理に全ての政府省庁が関わる構成となっている。

記事参照:
Private maritime security licence rules are another notch for Malta

3月 22日「中国、アイスランドの土地に触手—疑惑を高めるその狙い」 (The New York Times, March 22, 2013)

22日付の米紙、The New York Timesが報じるところによれば、中国共産党中央宣伝部出身で北京の土地デベロッパー、黄怒波・中坤集団董事長は、アイスランドのグリームススタージル (Grimsstadir) 地域に土地を取得し、中国富裕層向けの豪華ホテルと「エコ・ゴルフコース」の建設を目論んでいるという。同紙は、要旨以下のように報じている。

(1) アイスランドの内務相は、これはまともな計画ではないし、外国人の土地取得を規制する国内法を理由に 2012年にこれを断った、と語った。その上で、同内相は、「われわれは、この計画を地政学的視点から見直し、その動機を疑ってみなければならない」と指摘した。中坤集団は現在、ゴルフなど考えられない同国でも特に不毛の大地を 100平方マイルにわたって購入する代わりに、長期リース協定の締結を求めている。中坤集団が 2012年にアイスランド政府に提出した計画は、「グリームススタージルは、遠隔地に環境に優しいエコリゾートを開発するという我々の戦略計画に完全にマッチした場所である」としている。計画では、客室 100のファイブスター・リゾートホテル、ビラ、ゴルフコースが建設されるという。中坤集団は 2012年、中国国営の中国開発銀行から約 8億ドルの融資を受けることになっており、これはアイスランドを含む中坤集団のプロジェクトに対する融資とされる。

(2) 中坤集団の計画が疑惑を高めているのは、その背後に中国政府当局の思惑があると見られているからである。例えば、中坤集団がグリームススタージル地域の小さな滑走路を改修し、航空機を 10機購入するという提案は、中国の空軍基地になるのではとの疑惑を生んだ。また、この地域が石油資源海域に近い同国北東部沿岸の深いフィヨルドに近接していることから、中国が海軍施設を建設し、北極圏の天然資源にアクセスすることを狙っているとの疑惑を高めた。荒唐無稽な噂では、中国がミサイル監視のリスニングポストを建設し、軍人がホテルの従業員やゴルフ場のキャディーに偽装してやってくるというのもある。中坤集団の副董事長は、こうした疑惑や噂を一蹴し、「グリームススタージル地域は、中国の平和と閑静さを求める市場要求から選ばれた。今や多くの中国人は、汚くて騒々しい場所に旅行することを好まない」と語った。

(3) アイスランドは、NATO加盟国であり、北極海の海氷の縮小に伴って、重要なシーレーンとなる北方航路に跨って位置している。同国外相によれば、中国は、北方航路とアイスランドを同航路の輸送ハブとすることに関心を示している。同外相は、黄怒波が生み出したこうした疑惑や噂は決して中国のためにならない、と指摘している。北京がグリーンランドに、そして北極圏地域に近いアイスランドに大きな関心を持っていることはよく知られている。中国は現在、欧州諸国とは初めてレイキャビックと自由貿易地域協定を交渉中である。また、中国の砕氷船、「雪龍」は 2012年夏に、北京の北極評議会におけるオブザーバーの地位獲得運動の一環として、同国に寄港した。中国は、レイキャビックの外国公館としては最大規模の大使館を開設しているが、駐在外交官はわずか 7人に過ぎない。

記事参照:
Teeing Off at Edge of the Arctic? A Chinese Plan Baffles Iceland

3月 22日「中国最大の漁業監視船、南シナ海哨戒へ」 (China Daily, March 23, 2013)

中国農業部南海区漁政局によれば、漁業監視船、「漁政 312」は 22日、広州を出航し、南シナ海哨戒への処女航海に向かった。呉壮局長は、「『漁政 312』は、南シナ海における定期的な巡視活動において大きな役割を果たすであろう」と述べた。「漁政 312」は、海軍東海艦隊の給油艦、「東油 621」の転用で、満載排水量 4,950トン、最大速力 14ノット、最大航続距離 2,400カイリ、南シナ海で哨戒する最大の漁業監視船となる。呉壮局長によれば、今回の哨戒活動は 40〜45日間の予定で、主として南沙諸島海域を哨戒する。

記事参照:
New ship patrols South China Sea
Photo: China’s largest fishery administration ship, the Yuzheng 312

3月 25日「インド、海洋問題で日本を支持」 (The Times of India, March 29, 2013)

来日中のインドのクルシード外相は、25日に立教大学で講演し、公海上における航行の自由について、“India stand with Japan”と述べ、インドが日本と同じ立場にあることを明確にした。クルシード外相は、その理由として、「大量の石油や天然ガスを輸入している日印両国にとって死活的に重要な、公海上における航行の自由を含む海洋コモンズの安全確保について、両国は協力しなければならない」と強調した。その上で、外相は、「こうした両国の協力はいかなる第三国をも対象としたものではなく、両国の軍のインターオペラビリティーに関する価値ある知識と経験を得るためである」と述べた。

記事参照:
India backs Japan on maritime security to fend off China

3月 25日「米安全保障戦略再考—元米国家安全保障会議上級部長」 (The New York Times, March 25, 2013)

クリントン米政権期の国家安全保障会議上級部長を務めた、ハンス・ビネンダイク (Hans Binnendijk, currently a senior fellow at Johns Hopkins’ Center for Transatlantic Relations) は、25日付の米紙、The New York Timesに、“Rethinking U.S. Security Strategy ”と題する論説を寄稿し、国防予算が削減される中にあって、今後の安全保障戦略は同盟国やパートナーの能力を強化し、より多くの負担を求める「前方パートナーシップ」の構築を追求するものになろうとして、要旨以下のように述べている。

(1) ヘーゲル国防長官は、国防省に対して、国防予算が継続的に縮小されることを踏まえて、軍事戦略を見直すように求めた。この見直しには最終的に、ケリー国務長官も関与することになろう。2013年後半に公表される新たな国家安全保障戦略は、両長官の考えを反映し、同盟国とパートナーにより多くの負担を求めるものとなろう。国防予算が削減される中で、今後の米国はより少ない国家安全保障資源でより危険な世界に直面することになる。従って、米国の新戦略は、縮小された戦力態勢でより大きなリスクを吸収するか、あるいは不足分を補うため世界的なパートナーシップを拡大強化していくか、そのいずれかとなろう。

(2) 何人かの著名な専門家は、ある程度の戦力態勢の後退を伴う、オフショア・バランシング戦略を提案している。この戦略は、米国が地域の主要国を介して影響力を行使する一方で、欧州や中東の米地上軍の大部分を撤退させるというものである。この戦略を批判する者は、オフショア・バランシング戦略は結果的に米国の不関与をもたらし、同盟関係を崩壊させることになりかねない、と指摘する。

(3) このオフショア・バランシング戦略よりも、ケリー長官やヘーゲル長官の関心を引くと思われるのは、「前方パートナーシップの構築 (forward-partnering)」というアプローチである。国防大学で開発されたこのアプローチは、米軍戦力の前方展開を引き続き重視することに加えて、米軍と共同作戦を行えるようパートナー諸国の能力を強化するとともに、これら諸国が当該地域で主導的役割を遂行するよう慫慂するという新たな狙いを加味した戦略である。これはこれまでの戦略的流れにも適合する。即ち、米国はこれまで、冷戦期にはパートナー諸国を護るために敵を「封じ込め」、クリントン政権時代には民主主義パートナー諸国の数を「増やし」、そして今や米国はグローバルな安定を維持するために米国を手助けできるようパートナー諸国を「強化」しようとしているのである。

(4) ワシントンでは、パートナーシップの強化という考えが支持されつつある。この戦略における米国のパートナー諸国には、アジアや欧州の伝統的な同盟国だけでなく、ブラジル、インド、インドネシアなどの新興の民主主義国が加わる。更に、アフリカ連合、アラブ連盟および湾岸協力会議といった地域機構も、当該地域における作戦行動では、当然のパートナーとなるであろう。

(5) 「前方パートナーシップの構築」というアプローチでは、各地域において負担の分担が求められる。その代わり、パートナー諸国は、世界的な政策決定におけるより大きな発言権を持つことになろう。欧州諸国も国防予算を削減されつつあることから、関係諸国間で兵器の共有を促す NATOの「スマート防衛 (“smart-defense”)」は一層促進される必要がある。アジアの同盟国は多国間行動を増やしていく必要がある。貧しいパートナー諸国に対する米国の軍事支援や軍事訓練は大幅に増えることになろう。また、アジアや欧州で提案されている自由貿易協定は、理念を共有するパートナー諸国との政治的絆を強めるとともに、パートナー諸国の経済を強化することによって、「前方パートナーシップの構築」戦略をより盤石なものとしよう。米国は、撤退するのではなく、リバランスする必要がある。パートナー諸国がより大きな責任を分担できるようにするためには、米軍の前方展開態勢を維持することが、リバランスの要請に応えることである。

記事参照:
Rethinking U.S. Security Strategy

3月 26日「中国海軍海賊対処部隊、マルタ訪問」 (Xinhua, March 26, 2013)

中国海軍第 13次海賊対処部隊は 26日、マルタの首都バレッタのグランド・ハーバーに到着し、歓迎式典が行われた。中国海軍艦艇のマルタ訪問は初めてで、5日間滞在する。同艦隊は、3月 18日まで約 4カ月間に亘り海賊対処任務に従事した。マルタ訪問後、同艦隊は、アルジェリア、モロッコ、ポルトガルおよびフランスを訪問する。同艦隊は、フリゲート、「黄山」、「巣湖」および総合補給艦、「千島湖」、人員 787人から構成されている。

記事参照:
China Navy kicks off visit to Malta
Photo: The 13th Escort Taskforce of the Chinese Navy arrived in Valletta, Malta on Tuesday, beginning a five-day visit to the country.

3月 26日「インド、東岸に対中核戦略海軍基地を建設中」 (The Times of India, March 26, 2013)

インドは、東部艦隊司令部が所在するヴィシャカパトナム近郊に対中核戦略を視野に入れた、海軍基地を建設中である。26日付のインド紙、The Times of Indiaが報じるところによれば、この海軍基地建設計画、”Project Varsha” は、ヴィシャカパトナム南方約 50キロの Rambilliに建設中で、まだ初期段階だが最終的には、偵察衛星や敵の攻撃から核原潜を防衛するために地下基地となり、中国の海南島亜龍湾の地下戦略原潜基地(新型の「商」級 SSN、「晋」級 SSBNの母港)に対抗するものになると見られている。建設作業は数年前に始まったばかりで、今後 20平方キロを超える敷地内に各種の施設が建設される。

“Project Varsha” は、西岸での “Project Seabird”に相当するもので、西岸では、ムンバイ近郊にカルワル海軍基地が建設されている。カルワルは 2018〜19年までに、主要水上戦闘艦と潜水艦を 32隻係留できるバースが完成する。また、ロシアで改修中の INS Vikramaditya (旧 Admiral Gorshkov) と現在インドで建造中の 6隻のフランス製 Scorpene級潜水艦の母港になる。

インドの SSBN計画は、間もなく国産の INS Arihant (排水量 6,000トン) の海上公試がヴィシャカパトナム近海で始まり、同艦と後継艦 3隻が `K’シリーズの SLBMを搭載することで、核 3本柱戦力が完成する。インドは長期的には、少なくとも 3隻の SSBNと 6隻の SSNで海洋核抑止力を構成する計画である。また、インドは、 2012年にロシアから INS Chakra (排水量 8,140トン) を 10年間リースで配備しているが、更にもう1隻の Akula-II級のリース契約をロシアと交渉中である。

記事参照:
India readies hi-tech naval base to keep eye on China

3月 26日「インドネシア、カリバル港の建設開始」 (Seenews Shipping, March 26, 2013)

インドネシア国営、Indonesian Port Corporation (IPC, or Pelindo II) は 26日、ジャカルタ北部にカリバル (Kalibaru)港の建設を開始した。総建設費は 40億米ドルである。第 1段階の建設計画では、23億米ドルで、450万 TEUの処理能力を持つ 3つのコンテナ・ターミナルと 940万立米の処理能力を持つ 2つのガソリン・ターミナルが建設される。これらの施設は、 2014年までに運用可能になると見込まれている。カリバル港は完成すれば、 1,300万 TEUの処理能力を持つ。同港は、Pelindo II傘下の PT Pengembang Pelabuhan Indonesia (PPI)によって運営される。

記事参照:
Construction of Indonesia’s USD-4bn Kalibaru Port starts

【補遺】

3月 4日「ウクライナ、空母艦載機パイロット訓練サイトの貸し出し検討」 (RIA Novosti, March 4, 2013)

ウクライナのオレイニク第 1国防次官は 4日、同国のクリミアにある空母艦載機パイロット訓練サイトの他国への貸出を検討中であることを明らかにした。ロシアは現在、ウクライナとの 1997年の 2国間協定に基づいて、北海艦隊の艦載機、 Su-33 戦闘機と Su-25UTG練習機の唯一のパイロット訓練施設として、このニトカ (Nitka) 海軍パイロット訓練センターを時々使用している。オレイニク次官によれば、ロシアがこの施設を 100%使用しているわけではなく、またロシアも異論がないはずなので、他国への貸出を検討しているという。英 IISSのバリーエ (Douglas Barrie) 航空戦アナリストによれば、インドと中国が有力候補である。インドは、ロシアの MiG-29K戦闘機を搭載するロシアで改装中の空母の引渡しを待っているところである。また中国は唯一の空母を保有し、 2012年に初めて空母からの海軍機の発着艦訓練を行ったばかりで、空母艦載機による海軍作戦の経験はない。

ニトカ訓練センターは、空母飛行甲板からのパイロットの発着艦訓練のために旧ソ連時代に建設され、1991年のソ連崩壊後、ウクライナの管理下に移った。このセンターは、発艦パッド、カタパルト発艦装置、拘束ワイヤー、滑走路位置表示機、マーカー・ビーコン及び光学着艦システムを備えている。

記事参照:
Kiev Seeks Foreign Clients for Carrier Pilot Training Site
Photo: Ukraine’s Nitka Naval Pilot Training Center

3月 5日「中国国防予算、大幅増」 (Reuters, March 5,2013)

中国は 5日、伸び率二桁の国防予算を明らかにしたが、国防予算は 3年連続して国内治安関係費より少なく、北京の国内治安への懸念を際立たせるものとなっている。発表によれば、人民解放軍(PLA)の予算は 10.7%増の 7,406億元(1,190億米ドル)であるのに対して、国内治安関係費は伸び率が 8.7%増だが、7,691億元である。この予算は、共産党の警戒心が、日本と東南アジア諸国との領土紛争や米国のこの地域への回帰だけではなく、大幅な経済成長と所得の増加にもかかわらず、腐敗、公害そして権力の乱用に対する民衆の暴動にも向けられていることを示している。

中国は、正当な防衛目的のために必要な国防支出に対して世界は何ら恐れる必要はないし、米国の国防支出と比べると中国の金額は僅かなものだ、と繰り返し言ってきた。また、「中国の平和的な外交政策とその防勢的な軍事政策は、アジアにおける安全保障と平和に資するものである」とも強調してきた。しかしながら、アジアの近隣諸国は、中国の軍事的拡大については神経質であり、特に最近の二桁の国防予算の伸び、日本、インド、東南アジア諸国、そして台湾の不安を高めている。台湾の野党民主進歩党のスポークスマン林俊憲は、「中国は、台湾との和平合意を強調しつつ平和的イメージを演出してきたが、大規模な軍事予算と東・南シナ海における挑発的な行為は、このイメージに反している」と中国の二面性を非難している。

記事参照:
China hikes defense budget, to spend more on internal security

3月 7日「地域的安全保障構造における台湾、高まるその重要性—在台北ジャーナリスト論評」(The Diplomat, March 7, 2013)

在台北ジャーナリストのコール (J. Michael Cole) は、7日付けの Web誌、The Diplomatに、“Taiwan’s Regional Security Profile Grows” と題する論説を寄稿し、台湾がこの地域で発展しつつある安全保障構造の中で、受け入れ可能な構成要素としての役割を静かに切り拓きつつあるとして、要旨以下のように論じている。

(1) 台湾の状況が微妙に変化したのは 2年前であった。全くの偶然の一致というわけではないが、この変化は、米国が中国に対抗するために、アジアへの「戦略的シフト」あるいは「回帰」を表明したのとほぼ同時期である。中国がその外交的、軍事的力を誇示し、東・南シナ海問題で近隣諸国に脅かすにつれて、アジア太平洋地域の国々は、中国が言う「平和的台頭」なるものを再考し始めた。このプロセスには、オーストラリアのダーウィンへの米海兵隊の配備の受け入れ、シンガポールへの最終的には 4隻の米沿岸戦闘艦のローテーション配備など、多くの決定が含まれているが、同時に、域内諸国をして、この地域における台湾の役割、そして台湾と如何に安全保障問題で協力できるかについて、改めて目を向けさせることになった。

(2) 馬総統の「善意」にもかかわらず、北京がこの島を 1,600発以上の短・中距離弾道ミサイルで威嚇するとともに、「再統一」の手段として軍事的選択肢を排除しないということを、台北は誠に遅まきながら気付きつつある。北京は、外交的には停戦状態にあるにもかかわらず、民主主義国家台湾が国際社会の中で演ずべき資格のある役割を容赦なく妨害してきた。他方、台湾が緊密な両岸関係の水面下で、攻勢的なミサイル・プログラム—射程約 650キロの対地攻撃巡航ミサイル、「雄風ⅡE」の大量生産や射程 1,500キロの地対地ミサイルの開発計画などによって、中国の好戦的態度に対応しているのは、驚くべきことではない。

(3) 恐らくより重要なことは、中国に対するヘッジの必要性を認識した台湾の安全保障機構がこの地域と関わることがより受け入れやすくなってきたことである。中国に関する地域の懸念と台湾の募る不安—米国によって見捨てられる恐怖によって一層高まる感情が相俟って、台湾に行動の余地をもたらし、そして台北は立ち止まらなかった。台湾の不安定な地位と馬総統の中国との関係改善への決意を考えれば、台北が北京と不和になることを避けながら、一方でこの地域に目立たないように、そして多くの場合、非公式に関与してきたことは、理解できることである。在台湾の外国高官が匿名を条件に 3月に筆者(コール)に語ったところによれば、近年見られなかった頻度で、情報関係者のトップを含む安全保障問題に関わる閣僚級の台湾高官が、域内諸国に招かれ、当該国のカウンターパートと対話を行っているという。在台北の日本当局者が筆者に語ったところによれば、台北と東京の間における安全保障問題に関する対話も、尖閣問題にも関わらず、依然健全であるという。時を同じくして、総額 13億米ドルの米レイセオン社製の強力で広覆域の早期警戒レーダーシステムが 2月初めに台中の新竹で運用を開始した。また、シンガポール軍は、長年、台湾に訓練拠点を置いてきたが、公式的には常に台湾軍とは別に訓練してきた。シンガポール国防省が今後、域内で他国と実施しているような共同訓練を台湾軍と行うかどうか分からないが、シンガポールは、台湾と緊密に連携することで予想されるリスクをある程度許容する意志を示すようになるかもしれない。

(4) 北京は、その振る舞いが域内の他の諸国に脅威と受け取られなかった時期には、台湾を最も上手く孤立させることができた。中国の過去 2年間の好戦的な態度は「台湾問題」の中立化に成功した直接的な結果であったかもしれないが、このことは今や、この地域における台湾の重要性を低めるよりはむしろ高めるという逆効果を招きつつある。

記事参照:
Taiwan’s Regional Security Profile Grows

3月 7日「インド洋における米印海洋協力の重要性— I.レーマン論評」 (The National Interest, March 7, 2013)

米シンクタンク、 Carnegie Endowmentのレーマン (Iskander Rehman, Associate Nuclear Policy Program) は、7日付の米誌(電子版)、The National Interestに、“Arc of Crisis 2.0?”と題する長文の論説を寄稿し、インド洋を中心とした「危機の孤」の重要性を再認識し、インド洋での米印両国の海洋協力の促進を論じている。レーマンの論旨は以下の通り。

(1) 過去 5年間の地政的な特徴は、世界的な海洋活動の中心として、インド洋・太平洋という概念が出てきたことである。ロバート・カプランなどは、世界貿易のハブとして、また大国同士の潜在的な抗争の場として、インド洋の重要性の高まりに着目してきた。しかしこの認識は別に新しいものではない。例えば、 1978年にブレジンスキー (Zbigniew Brzezinski) は、インド洋周辺地域を予感に満ちた用語で「危機の弧 (an “arc of crisis”)」と呼んだ。冷戦期と異なり、米国は、最早この地域で旧ソ連のような侮りがたい競争相手に直面していないが、30年近く経った今日でも、ブレジンスキーの指摘は多くの点で依然当てはまる。2008年のフランス国防省の白書は、「不安定の孤」がセネガルのダカールからパキスタンのペシャワールにまで伸びていると指摘している。

(2) 2つのことがインド洋の海洋環境を変えつつある。1つは、「近接拒否・地域拒否 (“anti-access and area denial”: A2/AD)」技術の急速な拡散である。もう 1つは、核兵器の海洋配備の進展である。A2/ADは、実態としては、昔の海軍戦闘—攻撃と防御あるいは艦砲と沿岸砲の戦い思い起こせば分かりやすい。同時に、精密誘導武器の分野における技術進歩は、限られた能力やあるいは戦力投影の野心を持つ国にとって、拒否戦力重視の海軍戦略をますます魅力的なものとしている。中国は、その典型である。米国の戦略予算評価センター( CSBA)の 2011年の報告書が指摘するように、A2/ADは弱者にとって普遍的な戦略かもしれないが、実際の海軍戦闘では、各国の地理的位置、戦略的伝統及び保有資源によって変わる。このことは、米国に対するイランの戦略、インドに対するパキスタン海軍の態勢に顕著である。イランもパキスタンも、ミサイルと水中戦闘に多くを投資する非対称な戦略を選択してきた。両国は、有事において、彼らより強力な敵のエネルギー供給のための海上輸送を妨害すると脅してきたし、世界で最も混雑した海上交通路に厚い A2/AD網を構成している。このような不安定な構造は、海洋配備核兵器の進展によって一層複雑なものになっている。

(3) パキスタン軍は 2012年 5月、「海軍戦略軍コマンド」の設立を発表した。これは、ひとつには増大するパキスタンの核戦力を海上に分散配備することでインド海軍の通常戦力面での優位を相殺する措置でもある。パキスタン海軍の指揮官達は、イスラエルが核弾頭搭載巡航ミサイルを在来型潜水艦に配備する決定を下した先例に言及し、パキスタンもこの先例に倣うべきことを示唆した。彼らは、その他の選択肢として、核兵器を水上戦闘艦艇や海上哨戒機に搭載することを主張している。こうした動きは、大きな不安定化をもたらすであろう。インドとパキスタンが海上で衝突した場合、インド海軍は、敵の艦艇や航空機が核兵器を搭載しているか否かを判断する術がない。一方、イランも、その艦隊に核戦力を搭載するという、同じような野心を明言してきた。テヘランの声明は、次の 10年あるいはそれ以降なら、核兵器を搭載した在来型戦闘艦艇や潜水艦の配備決定は不可能ではない。

(4) インド洋では、米国とインドは、非常に良く似た一連の課題に直面している。米印両国は、将来の敵の戦略を効果的に無力化するための創造的な方策を必要としている。 A2/AD対策は、インドと米国の海軍協力において、最優先課題とされるべきである。両国は、同じような脅威に直面しているだけでなく、相互に重要な作戦経験を交換できる。例えば、インドは、小型舟艇の波浪攻撃や沿岸域での不正規戦闘に経験を有する。他方、米国は、対潜戦に多くの経験を有している。米国が以前に無視してきた戦域にその注意を強いられるのは、これが初めてではないかもしれない。しかしながら、米海軍がこの三日月形の海洋で直面している課題の本当の難しさは、前例のないものである。このことが米海軍の停滞期に起こっていることは不運ではあるが、インドの興隆は、2つの民主主義国家にとって、世界で最もダイナミックな海洋のひとつにおける重要な機会の窓をもたらしている。

記事参照:
Arc of Crisis 2.0?