海洋情報旬報 2013年5月11日~5月20日
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5月11日「インド国産空母、8月に進水」(The Times of India, May 10 and 11, 2013)
インドのアントニー国防相は、INS Hansa基地で 5月11日に編成された、MiG29Kを装備する海軍初の超音速ジェット戦闘機飛行隊の編成式典で、国産空母が8月12日に進水し、ロシアで改修中の空母、INS Vikramadityaは2013年末までにインドに回航される、と語った。MiG29K飛行隊は最終的に、INS Vikramadityaと国産空母から運用されることになる。4万トンの国産空母は現在、コーチンの造船所で建造中である。MiG29Kはロシアから45機購入する計画で、最初の16機でINSAS 303 “Black Panthers” 飛行隊が編成された。MiG29Kは、短距離発艦・拘束着艦のSTOBAR (short takeoff but arrested recovery)である。
記事参照:
Indigenous aircraft carrier to be launched in August: Antony
India to commission its first supersonic naval fighter squadron
【関連記事】「インド空母、ロシアで7月から最終海上公試へ」(Zee News, May 15, 2013)
2013年12月にインドに回航される、空母、INS Vikramadityaは現在、ロシアのSevmash造船所で、最終の化粧直し中である。造船所によれば、現在、空母を乾ドックの中で艦底の再塗装中で、また司令部要員の公室は耐火フローリングに張り替えられ、家具や精巧な音響、ビデオ設備が備え付けられる。その後、INS Vikramadityaは7月から白海で、8月~9月はバレンツ海で海上公試が行われる予定である。
記事参照:
INS Vikramaditya undergoes repairs before final sea trials
5月13日「イラン、インドネシア経由で原油輸出か」(Reuters, May 13, 2013)
ロイター通信が5月13日付で報じるところによれば、イランは、西側の制裁下でアジアの顧客に原油を売却する戦略として、インドネシアの港湾を利用しているようである。ロイター通信が入手した、船舶自動識別装置 (AIS) のデータによれば、それぞれ200万バレルの原油を積載可能な2隻のイランのVLCCは、4月にインドネシアのバタム島に寄港し、その後、両船とも中国に向った。シンガポール拠点のエネルギー・コンサルタント会社、FGEのアナリストは、「イランは過去数カ月、この戦略を活用している。この戦略は、アジアの島まで原油を運び、そこから原油を売却先まで運ぶやり方である」と指摘している。バタム島はシンガポール南方20キロにあり、ある世界的大手の石油会社関係者は、「1年前はイランのタンカーを見ることはほとんどなかったが、同島は原油ハブとなっており、そこから中国やその他に原油が運ばれていると見られる」と語った。AISのデータによれば、イラン国営タンカー会社 (NITC) に所属する2隻のタンカー、MT SonataとMT Courageがバタム島寄港後、中国に向かった。また、数日前に3隻のタンカー、MT Glaros、MT Seagull、MT Ocean Nymphがインドネシアに近い南シナ海にいたことが確認されたが、現在位置は分かっていない。この3隻は、ギリシャの仲買人がNITCの代理で購入した8隻の内の3隻である。この仲買人は、イランの海運ネットワークを運営しているとの理由で、2013年年初に米政府により制裁対象に加えられた。4月のイラン原油の最大の顧客が中国で、韓国、日本、インド、トルコ、台湾がこれに次ぐが、いずれもこの1年間で購入量を減らした。イランの原油輸出は1日当たり約110万バレルにまで落ち込んでおり、制裁が厳しくなった2012年始めのほぼ半分で、現在のレートで見れば約33億米ドルとなる。イランは制裁が厳しくなったことから、石油輸出はほとんどNITCのタンカーに依存しており、MT Maharlika、MT Skyline、MT Demosを含むNITCのタンカーは、約16ノットの高速(世界のタンカーの航行速度は8~11ノット)で、中国や他のアジアの仕向先を往復しているという。
記事参照:
Iran routes oil via Indonesia to keep up exports
5月13日「ロシア、2016年までにベトナム海軍へ6隻の潜水艦を建造」(ИТАР-ТАСС, May 13, 2013)
このほど、ロシアを訪問したベトナムのグエン・タン・ズン首相は、ベトナム海軍向け潜水艦が係留されているバルト海沿岸のカリーニングラードを訪れ、2016年までに、ロシアからベトナム海軍に6隻の通常型潜水艦、Project 636 が引き渡される旨、イタルタス通信の質問に答えた。潜水艦は現在、バルト海での海上公試が行われている。首相はまた、「合意に基づき2016年までに6隻の潜水艦を建造し、引渡しを行う、ロシアの友人に大変感謝している」とし、このような潜水艦の発注が、「商業的な意味合いだけでなく、両国の友好と信頼の表れでもある」と述べた。ベトナムは長い海岸線を有していることから、首相は、「わが国の政策は国防に目を向けている。主権国家として、われわれは、自国の経済を発展させる。そしてまた、わが国の領土主権保護の目的で、防衛のための武器を手に入れる」と強調した。また、ロシアとの軍事技術協力に関し、「6隻の潜水艦に限ったものではなく、その他の武器や装備にも期待したい」と述べた。
通常型潜水艦、Project 636は、NATOコードネームKilo級として知られる。このタイプの潜水艦は、ロシア製潜水艦でも最も静粛性が高いとされる。
記事参照:
Россия к 2016 году построит для ВМС Вьетнама шесть подводных лодок проекта 636 – премьер-министр СРВ
5月13日「インド、漁民管理用システムの実験的運用開始へ」(The Hindu, May 13, 2013)
海からインド本土へテロリストが侵入することを防ぐ、第1線の防衛ラインとして、漁民に、改ざんしにくく、機械で読み取ることのできる生体認証カードを配布する、実験的な計画が近々開始される。このシステムは国家情報センターのケララ州支部が、州都コーチンのムナンバン地区で9月から試行するもので、当初800人の漁民に配布するが、最終的にはケララ州の30万人の漁民に配布する。各港湾と認可された荷揚げセンターにはインターネットで中央のコンピュータと接続したカードリーダーが設置され、漁業者が出漁を認められる前に、漁船と漁民の生体認証を記録する。漁民が一旦漁を終えて上陸し、再び出漁する時は同じ手順が繰り返される。また政府は、規定の手続きをとった船主、船長及び乗組員に対してのみ海難保険の更新を許可する。国家情報センターはすでに、インドで登録されている漁船30万隻のデータベースを作り終えているおり、その内、ケララ州から操業している漁船は2万5,000隻と見られる。
このカードのシステムでは、過去の犯罪歴や、所有者と乗員、燃料の量、漁具、公開日程、目的地、通信機器の固有番号、緊急時の衛星通信、捜索救難用のトランスポンダー(あらかじめ定められた無線信号を受信すると、自動的に応答信号を返す装置)等が特定できるようになっている。このシステムによって、沿岸警備隊や警察はリアルタイムで漁船の位置を特定できるため、外国の領海に侵入しそうな船に前もって対処できるし、もし侵入したとしても、素早い解放につなげることができる。また、エンジンの番号を重複して登録したり、偽の登録によって燃料の補助金を重複して受け取ったりする方法が広く使われているが、このような違法行為もより正確に特定できる。
記事参照:
Biometric cards to seal marine border
5月13日「北極開発の可能性と障害、そして中国の狙い―中国紙論評」(China Daily, May 13, 2013)
スウェーデンのキルナで開催された北極評議会閣僚会合において、5月15日、中国は日本やインドと共に、北極評議会の常任オブザーバー資格が承認された。それに先だって、5月13日付の中国紙、China Daily は、“Warming to the idea of Arctic exploration” と題する長文の論評を掲載し、北極開発の可能性と障害、そして中国の狙いについて、要旨以下のように述べている。
(1) 北極は未踏の地ではなく、1920年代にカナダのマッケンジー渓谷で最初の陸上での掘削が行われて以来、これまで400以上の石油・ガス田が発見されてきた。しかし、厳しい環境と高い開発費用のため、石油天然ガス産業と海運業による開発は低い水準に留まってきた。温暖化する北極では、新航路が現れ、より多くの航行とより良いインフラのための開発事業が進められており、今後もさらに人的活動が増えていくだろう。1951年以来、北極は世界の2倍の速さで温暖化してきた。研究データによれば、この期間のグリーンランドの気温は、他の地域での平均の気温上昇が0.7度であるのに対して、1.5度上昇した。その結果、北極の氷河と海氷は減少している。北極海の海氷面積は2012年9月17日、1979年の最少面積の半分に相当する341万平方キロにまで縮小した。ノルウェー船級協会の報告書は「この傾向が続けば、北極海は次の数十年のうちに夏季の終盤にはほとんど海氷のない状態になる」と述べている。北極における海氷面積の縮小は、世界中に地球温暖化の深刻さについて警鐘を鳴らすとともに、幅広い影響を及ぼしている。環境保護活動家は、この地域を手付かずの大自然が残された最後のフロンティアとみなし、企業による開発から守ろうとしている。その一方で、北極諸国の政治家は、この地域の問題に非北極圏諸国の参入、とりわけ最近の数十年増加する経済力によって国際社会に脅威と懸念を与えてきた中国の参入について議論している。多くの北極ウォッチャーにとって、こうしたことは実際に心配するにたるシナリオである。 縮小する海氷面積は、宝石箱の蓋を開けるようなものである。ノルウェー船級協会の報告書によれば、北極には世界中の埋蔵炭化水素資源の20パーセント相当が埋蔵されていると考えられており、うち84パーセントが水深500メートル以内の海底にあるとされる。海運産業と石油・天然ガス産業にとって非常に大きな利益が眠っているように見えるが事態はそう簡単ではない。確かに海氷の縮小により新たな航路が拓かれつつある。これまでのところ、北方航路、北西航路、中央航路という3つの主要な航路が知られている。
(2) 中国国内での極地研究の主要機関である中国極地研究所の楊恵根所長は、海氷の縮小により北方航路では7月下旬から4カ月かそれ以上の期間、また中央航路では8月下旬から1カ月かそれ以上の期間で海氷がなくなる、と述べている。海運会社は、北極海を経由することで、欧州とアジアの大部分の港の間の航行期間を3分の1短縮できる。これにより、近年値上がりする燃料コストの削減に加えて、温室効果ガスの放出も削減できる。海運会社は、スエズ周りに年間70億ドルから120億ドルにも及ぶ保険料、海賊対策及びその他の経費として支払っているが、北極海航路を通れば海賊に襲われる恐れもない。しかし、24時間続く暗闇、極端に低い気温、装備の凍結など、船舶及び船員は様々な難題にさらされる厳しい自然条件であることから、海運会社は追加の費用と投資をしなくてはならない。
(3) 石油・天然ガス産業にとっても、同じような障害に直面している。英誌、The Economist のインテリジェンス部門、The Economist Intelligence Unitは、最新の調査結果を踏まえ、北極での石油事業は少なくとも現時点においては投資に値しない、と主張している。厳しい環境のため事業費が極めて高くつくことと、近年強化されつつある環境規制のためにさらに費用がかさむためである。北極での採掘活動に反対する環境団体に全く思慮分別がないわけではない。仮に海上で事故が起きると、北極の気象と天候条件の下では効果的に対処し復旧作業を行うのは困難である。ノルウェー船級協会の報告書によれば、流出した油の洗浄を船上から行うために現在利用可能な技術の水準は厳しい気候条件の下では不十分としている。経済的な潜在性は非常に高いが、甚大な環境への影響が大きな不安材料であり、ノルウェーのフリジョフ・ナンセン研究所 (The Fridtof Nansen Institute) のルンド所長は、「北極は、大きな可能性と矛盾を同時に秘めた地域である」と指摘している。
(4) 北極における海氷の縮小によって、地球規模での地政学的情勢が作り替えられ、様々な利益が誘発されている。現在、北極地域は、国連海洋法条約 (UNCLOS) によって管理されている。UNCLOSは、北極における海洋活動の基本的な法的枠組みとなっているのである。1996年に設立された北極評議会は、法的拘束力をもった合意を作り出すことに成功した、ソフト・ローに基づいた地域制度となっている。北極評議会は、北極圏内に領土をもつ8カ国(米国、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン)によって構成され、北極圏にかかわる幅広い問題を扱うハイレベル・フォーラムになるという目的を表明してきており、近年その影響力を高めている。今年2月には、常設の事務局がノルウェーのトロムソに設置された。中国は、他の多くの非北極圏諸国と共に常任オブザーバーの地位を取得する申請を北極評議会に提出している。(5月15日の閣僚会合で承認された。)
(5) 経済力の増加と国際的な影響力により、中国の一挙一動が国際社会の関心を集めている。中国の常任オブザーバー資格の申請が北極地域における利益拡大の傾向を狙ったものであり、北極クラブにおける影響力を高めるためであるとの批判の声が多い。事実に照らせば、北極において増加する中国の利益は主に経済的なものである。これは、紛争と対立を作り出すものではなく、アジア諸国と北極諸国の間の商業的な連携を促進することに役立つものである。ロシアは、北極圏の陸地面積の半分以上を占めており、ほぼ間違いなく北極諸国の中で最も影響力のあるプレーヤーである。中国が北極以外でロシアとの関係を改善しているとの証拠は今のところないが、北極における対ロシア協力は両国の今後の関係に影響してくるだろう。中国の国家主席である習近平の最初の公式訪問はモスクワであったが、この訪問においてロシアと中国は多くの合意を行った。この機会に中国国営の中国石油天然気集団公司 (CNPC) は、ロスネフチとの間でロシア北極において協力を行う合意書に署名した。4月16日、中国はアイスランドと自由貿易協定を結び、両国首脳は北極において協力していくことを再確認した。2012年の両国の貿易額は、前年比21%増の1億8,000万米ドルへと急増し、今後も増え続けていくものとみられる。
(6) 中国の外交政策において北極が重要な焦点となっていないもう1つの理由に、中国の北極研究がより多くの利益をバックアップするのに十分なほど包括的なものになっていないことがある。現時点において、中国における北極研究は、海氷縮小による環境的影響に関するものがほとんどである。近年、経済的影響や政治的影響について調査している研究者の数は増えてきているが、そうした研究が政策決定に影響を及ぼすまでにはまだ時間がかかる。中国政府は北極についてまだ公式見解を明らかにしていない。中国極地研究所の楊所長は「中国人研究者は北極の研究においてより包括的なアプローチをとる必要がある」と述べている。同時に、中国は北極よりも南極により高い関心を持っているという事実も北極諸国の懸念を和らげるだろう。経済的に言えば、管理されていない南極のほうがより得るものが多い。比較でいえば、北極の80パーセントの資源が北極沿岸諸国の国内法の下におかれ、北極は高度に管理された地域であり、沿岸諸国は開発に排他的な権利を有している。科学調査に限ってみても南極の優先順位が高い。中国は、最近、既存の3つの観測基地に加え、南極に新たに2つの観測基地を建設する計画を公表した。中国は、5度目の北極観測を行った観測砕氷船「雪龍」に加え、今新しい観測砕氷船を建造中である。情報筋が本紙、『中国日報』に語ったことによれば、この新観測船は、2014年運行開始に向けて、北極で必要となる装備よりも先に南極で必要となる装備を搭載するとされる。同情報筋は、「我々の中でよく言われる言葉がある。新観測船は、北極では行けるとこであればどこにでも行き、南極では我々が行きたいところにどこにでも到達するであろう」と語った。目覚めつつある龍は周りを驚かせることもあるが、その吐き出す火炎が北極諸国にとどくまでにはまだ時間がかかるだろう。
記事参照:
Warming to the idea of Arctic exploration
5月14日「米海軍無人機、空母から初発艦」(Los Angeles Times, May 14, 2013)
米海軍は5月14日、海軍航空史上初めて無人機 (X-47B) を、バージニア沿岸沖の空母、USS George H.W. Bushの甲板からカタパルト発艦させ、飛行させた。これは、過去8年間実施してきた無人機開発計画上、重要な1歩となるものである。今回のテストでは、この無人機が艦載された場合に遂行されるべき任務を模擬した幾つかの戦術的な操縦テストが実施され、その後、陸上基地まで約65分間飛行し安全に着陸した。なお、運用上最も難しいとされる空母甲板への着艦は、今回のテストには含まれていなかった。この無人機の特徴は、完全にコンピュータ制御による戦闘任務を遂行するように設計されていることであり、人間は、その飛行経路を決め、その経路に送り出すだけで、後はコンピュータ・プログラムが艦から標的に誘導し、そして艦に戻すことになっている。また、他の無人機と異なる点は、ステルス性が高いこととジェット推進であることである。
X-47BはB-2ステルス爆撃機の外見に似ており、4万フィート以上の高度で飛行する。行動半径は2,400カイリ以上であり、速度は高亜音速に達する。この無人機は、パイロットの持久力に依存しないため、既存の有人航空機よりも遠く飛び、かつ滞空時間も長く、海軍戦闘機パイロット(最大10時間)の約3倍の長時間飛行ができる。
X-47BはXが表すとおり試験用ジェットであり、自動離陸、着陸、給油などの新しい技術を実証するために設計されている。この無人機は、4,500ポンド搭載容量の武器格納区画を持つが、海軍はX-47Bを武装する計画はないとしている。海軍は、ピンポイントでのGPS座標と高度な航空電子技術により、2013年後半にはX-47Bの空母への初着艦を期待している。海軍は、2017年から2020年の間に固定翼無人機部隊の艦隊への導入を望んでいる。2007年の契約により2機のX-47Bが製造されているが、その価格は10億米ドル以上に高騰している。
記事参照:
Navy drone, in a first, is catapulted from carrier deck into flight
5月15日「P-8I対潜哨戒機1号機、インドに到着」(NDTV, May 16, 2013)
インドが米国より購入したP-8I対潜哨戒機が5月15日、東岸のArakkonam近郊のインド海軍ラジャリ基地に到着した。この機体は米海軍向けのP-8Aポセイドンのインド海軍用で、機体はボーイング737-800をベースにしている。この機体は国産および輸入による海洋哨戒、対潜水艦作戦用の最新センサーを備え、対艦、対潜兵器として多くの潜在性を備えており、インド洋におけるインドの海洋哨戒能力を著しく向上させるものである。2009年の契約に含まれている他の7機については、次の2年間の間に引き渡されることになっている。
記事参照:
First of Boeing’s P-8I planes for Indian Navy arrives
5月15日「中国、北極評議会常任オブザーバーに」(BBC News, May 15, 2013)
中国は5月15日、スウェーデンのキルナで開催された北極評議会閣僚会合において、日本、韓国、インド、イタリア及びシンガポールと共に、北極評議会の常任オブザーバーの資格が承認された。しかし、カナダの反対により、EUの常任オブザーバー資格は保留となった。常任オブザーバーとなった諸国は、北極評議会における議決権を有しない。北極評議会は1990年代に設立され、北極地域が抱えている気候変化、汚染等の環境問題に主として取り組んできた。現在の常任メンバーは、北極沿岸国、ノルウェー、ロシア、カナダ、米国及びデンマークに加えて、フィンランド、アイスランド及びスウェーデンの8カ国で構成されている。同会議で発出される議定書は拘束力を持たないが、北極の自然環境の急速な変化に伴い、国際的にも注目されるようになり、非構成国からも関与を望む声が高まっていた。既に、ヨーロッパの6カ国が常任オブザーバーの資格を得ており、北極評議会は、北極海における膨大な石油、天然ガス資源の開発の可能性の高まりを反映して、The “coldrush club” と称され、世界的に最も重要な機関の1つとして存在感を増いている。
一方、EUの常任オブザーバー入りは、現在の議長国、カナダの強い反対により先送りとなった。EUとカナダはアザラシ猟などを巡り対立している。EUはまた、カナダ・アルバーター州のタールサンドから産出される石油に対して輸入規制を課している。会議は、EUの申請を受理したが、構成国間のコンセンサスができるまで最終決定が先延ばしされた。環境保護論者らは、このような常任オブザーバーの増加に慎重な姿勢を取っている。
記事参照:
China joins Arctic Council but a decision on the EU is deferred
【関連記事1】「我が国の北極評議会オブザーバー資格承認」(外務省、2013年5月15日)
日本は2009年7月にオブザーバー資格を申請していた。2013年3月には、北極担当大使を新設した。外務省は5月15日、要旨以下の声明を発表した。
(1) 5月15日(現地時間同日)、スウェーデンのキルナにて開催された北極評議会(AC)閣僚会合において、我が国のオブザーバー資格が承認された。我が国は2009年7月、ACのオブザーバー資格を申請していたが、今回これが承認されたことを歓迎する。
(2) 我が国は今後、ACのオブザーバーとして、これまでよりも安定した地位から、ACにおける諸会合に参加するとともに、ACメンバー国や北極圏に居住する先住民の方々と協力し、ACの作業部会の活動への参加等を通じて、ACの活動により本格的な形で協力していく考えである。
【関連記事2】「北極評議会の拡大を歓迎-ロシア外相」(РИА Новости, May 15, 2013)
ロシアのラブロフ外相は5月15日、スウェーデンのキルナで開かれた北極評議会の閣僚会合で、「北極評議会のオブザーバー資格を与えることによる北極評議会の拡大をロシアは歓迎する」と述べた。外相はまた、「北極への関心が急速に高まっている。これは実際に、北極評議会のオブザーバーステータスの申請数増加にも表れており、本評議会の国際的な権威が拡大していることの証である」と述べた。
2011年にグリーンランドのヌークで開催された前回の閣僚会合では、海上の捜索・救難に関する「北極SAR条約」が採択された。今回の閣僚会合では、キルナ宣言と北極海の石油汚染への備えと対応に向けた協力協定に署名する。
記事参照:
Россия приветствует расширение Арктического совета, заявил Лавров
【関連記事3】「北極評議会、持続可能な開発と気候変動への対応を最優先課題に」(Environment News Service, May 16 2013)
北極評議会8カ国の閣僚と原住民の代表は5月16日、スウェーデンのキルナで開かれた北極評議会の閣僚会合で、北極海の将来を「平和と安定の地域」にするための声明、「北極海のビジョン (The “Vision for the Arctic”)」を発表した。同声明は、北極海の経済的な潜在性は大きく、持続可能な開発が地域の復元力と繁栄のカギになると指摘している。また、この声明は、気候変動の世界的影響とともに、北極海の雪、氷そして永久凍土の大規模な溶解が及ぼす地域的、世界的影響について懸念を表明している。更に、温室効果ガスや汚染物質を減らすために行動し続けるとしている。
今回の閣僚会合で、スウェーデンにかわりカナダが議長国になった。カナダが議長国を勤める2年間における北極評議会の計画には、経済活動の新しい機会を提供する北極周辺ビジネス・フォーラムの設立、石油汚染阻止の継続的作業、更には黒色炭素やメタンなどの空気汚染物資への対策などが含まれる。
北極評議会の構成国は、北極海における石油汚染対策のために、新しい、法的拘束力のある合意書、Agreement on Cooperation on Marine Oil Pollution Preparedness and Response in the Arcticに署名した。この合意書は、北極海における石油汚染に対処する手続きを改善するための協力枠組みを提供するものである。
ケリー米国務長官は閣僚会合で、気候変動対策が優先順位の1つだと述べた。ケリー長官は、(1) 北極海の気温は世界のレベルよりも倍以上の速度で上昇しており、生息環境は生命の危機にさらされている、(2) 2012年9月の北極海は海氷面積が最も小さくなり、海洋生物や住民の生活が危機に瀕しつつある、(3) 温暖化はアラスカ沿岸を汚染から守ってきた氷のバリアを壊しつつあり、永久凍土の溶解によって、二酸化炭素の20倍の温暖化効果のあるメタンが排出される、(4) この結果、ここ数千年で初めて、北極海周辺で山火事が起きる事態になった、などと強調した。
今年の北極評議会では、北極海の環境変化に関する3つの報告書が提出された。1つは生物多様性保護のための政策提案を含む、「北極海の生物多様性に関する評価 (The Arctic Biodiversity Assessment)」、北極海の海洋環境保護に関する調査である、「北極海報告 (The Arctic Ocean Review)」、酸性化が現地の人々の生活及ぼす影響についてまとめた、「北極海の酸性化 (The Arctic Ocean Acidification)」に関する評価である。
また、北極評議会では、北極海の気候変動や環境の変化を助長している温室効果ガスの排出に関して懸念を表明し、グローバルな行動を求めた。そして国連気候変動枠組条約の下で8カ国が協力し、2015年までに新たな法的枠組みを形作ることで合意した。世界の平均気温の上昇を近代工業化以前のレベルに比して摂氏2度以下に抑えること、黒色炭素、メタンの削減を促すための報告書を2015年の次の閣僚会合までにまとめるよう行動することにも合意した。しかし、環境保護グループは、北極海の温暖化を遅らせるための黒色炭素やメタン等の対策について合意できなかったことについて、落胆している。
記事参照:
Arctic Council Prioritizes Sustainable Development, Climate Action
KIRUNA DECLARATION On the occasion of the Eighth Ministerial Meeting of the Arctic Council, Arctic Council, 15 May 2013;
【関連記事4】「アジア諸国、北極評議会の常任オブザーバー資格を取得―ロシアの視点」(The Voice of Russia, May 15, 2013)
5月15日付けThe Voice of Russiaに、非北極圏にあるアジア諸国の北極評議会オブザーバー参加に関し、ロシアの視点を垣間見る署名記事が掲載された。以下はその要旨である。
(1) スウェーデンで開かれた北極評議会の閣僚会合で、新たに、中国、インド、日本、韓国、シンガポール、イタリアの6カ国をオブザーバー参加させることが決まった。新たな常任オブザーバーの承認に至るまで、加盟8カ国は、各国の立場の相違を抱えていた。極めて慎重な姿勢だったのはカナダで、関係国が増えると北極評議会の活動に支障が出ると考えていた。米国は、中国との全般的な対立に鑑み、最後の最後まで、中国にオブザーバーステータスを付与することに躊躇した。
(2) これに関し、ロシア科学アカデミー欧州研究所の専門家は、「中国が北極評議会に関与するのは商業的関心からだ」とし、実際、同地域に最初に手をつけ、長らく調査を行ってきた米国企業と競合が起こっているという。「中国は、アイスランドの大陸棚における石油開発に関し、積極的な交渉を行っている。米国企業がアイスランド大陸棚における化石燃料埋蔵量に関するデータを明らかにするや否や、中国が勢いよく割り込み始めた」と指摘する。一方で、アイスランド、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンは当初から、中国を含め名乗りを挙げた国にオブザーバー資格を付与することに賛成であった。前出のロシアの専門家は、「中国は、政治・財政的に弱い国々を通じて北極海との関わりを作る努力を行ってきた。それらの国々は今、深刻な経済・債務問題を抱えており、北極評議会への関与権利と引き換えに、誰でもいいから資金を提供してもらおうという構え」と見ている。
(3) ロシアはというと、常に、中国やインド、日本、韓国、シンガポールが抱く、北極におけるパートナーシップに積極的に加わろうとする狙いに理解を示してきた。ロシアの立場が、今回の決定においても重要な役割を果たしたもののようだ。ロシアは、北極開発に関する独自の計画を持っており、ロシアの北極海開発戦略の中には、この地域の石油ガス産地を開発するためのリザーブ・ファンドの設立なども含まれている。このような計画も踏まえ、ロシアは、北極から遠く隔たった国々にも、オブザーバーの地位を付与する提案を行っている。一方で、北極海非沿岸国と沿岸諸国との相互利益的パートナーシップを拡大しつつ、他方では、沿岸諸国にこそ北極における主権、最高権、司法権があるということを、域外のプレーヤーに尊重させるよう考えている。モスクワは、北極評議会は自身の地域的アイデンティティと決定の効率性を保つべきと考えている。
5月16日「Taiganの火災、ロシア人乗組員6人死亡-稚内港」(ИТАР-ТАСС, May 16, 2013)
5月16日、稚内港に停泊中のTaigan(カンボジア籍船、497トン)で発生した火災により、6人が死亡した。遺体は救助隊員により発見された。火災は11時間以上も続き、鎮火した。今後、Taiganの船長と日本の当局が火災の原因を調査する。犠牲となった6人全員がロシア人。カンボジア船籍のTaiganは蟹を載せ、5月14日、サハリンのコルサコフから北海道最北の稚内に到着した。16日には帰路に就く予定だった。Taiganにはロシア人が14人とウクライナ人が4人乗り組んでいたが、稚内で更に5人のロシア人が乗り込んだ。火災が発生したのは、現地時間午前2時頃。船長を含め乗組員の多くが自力で船から脱出した。消火には、6台の消防車と海上保安庁の船2隻があたった。救助隊員によると、船内は多くの部屋に分かれており、直接の放水が困難なことが、事態を難しくしたという。
記事参照:
При пожаре на судне “Тайган” в японском порту погибли шесть российских моряков
【関連記事】「Taigan火災の負傷者、日本の病院へ搬送‐1人重体」(ИТАР-ТАСС, May 17 and 18, 2013)
札幌のロシア総領事が5月17日に明らかにしたところでは、稚内港で発生したTaiganの火災で、現在2人のロシア人が病院で治療を受けており、うち1人が上半身に大やけどを負って重体となっている。稚内から旭川赤十字病院にヘリコプター搬送され、集中治療室で治療を受けているものの意識はある。もう1人は、気道の上部にやけどを負い稚内市の病院で1週間ほど入院する。ウクライナ人船員も同様のケガを負ったが既に退院している。火災により6人が死亡したが、全員ロシア人で、サハリンや沿海州の出身。
日本の当局は5月17日、火災発生原因の本格的な調査を開始したが、調査にはあと数日かかる見込み。現地海上保安部によると、船尾で特に火災が激しく、中でもキャビンと操舵室がひどく焼けていたが、エンジンルームは傷んでいなかった。4人の遺体はキャビンから、操舵室からは1人が発見され、あと1人は船尾の窓から脱出を試みたものの死亡したとみられる。火災の原因は未だわかっていない。
記事参照:
В японских больницах находятся два пострадавших моряка со сгоревшего судна “Тайган”, один – в тяжелом состоянии
Вопрос о возвращении в Россию членов команды судна “Тайган” будет решен в ближайшее время
5月16日「IMO、特別敏感海域 (PSSA) の対話型展示開始」(IMO Briefing, May 17, 2013)
国際海事機関 (IMO) は5月16日、ロンドンのIMO本部で、「特別敏感海域 (Particularly Sensitive Sea Areas: PSSA) 」についての対話型展示を開始した。PSSAは、「環境的、社会経済的、科学的重要性から、そして国際的な海事活動に対する脆弱性から、IMOの活動を通じて特別に保護を必要とする海域」とされる。現在まで、世界で14カ所が指定されている。IMOは、本部での展示とウェブサイトで、14カ所のPSSAについて、ビデオ、写真、地図等で解説し、またこれらに対するIMOの取り組みを説明している。この展示には、オーストラリア、フィンランド、ドイツ、オランダ、韓国及びスウェーデンが資金提供した。IMOの関水事務局長は16日に開催された式典で、「この画期的な展示が、IMOのPSSA計画を通じた環境保護への多大な貢献への賛美となるとともに、継続的な注意を喚起するためのものになることを期待する。またそれ以上に、これが今後の取り組みを活性化させる原動力となることを希望する」と述べた。
記事参照:
Interactive Particularly Sensitive Sea Area display launched at IMO HQ and online
ウェブサイトは以下を参照
http://pssa.imo.org/
14カ所のPSSAは以下の通り:The Great Barrier Reef, Australia (designated a PSSA in 1990), The Sabana-Camagüey Archipelago in Cuba (1997), Malpelo Island, Colombia (2002), The sea around the Florida Keys, United States (2002), The Wadden Sea, Denmark, Germany, Netherlands (2002), Paracas National Reserve, Peru (2003), Western European Waters (2004), Extension of the existing Great Barrier Reef PSSA to include the Torres Strait (proposed by Australia and Papua New Guinea) (2005), Canary Islands, Spain (2005), The Galapagos Archipelago, Ecuador (2005), The Baltic Sea area, Denmark, Estonia, Finland, Germany, Latvia, Lithuania, Poland and Sweden (2005), The Papahānaumokuākea Marine National Monument, United States (2007), The Strait of Bonifacio, France and Italy (2011), The Saba Bank, in the North-eastern Caribbean area of the Kingdom of the Netherlands (2012)
5月16日「米沿岸警備隊、2013年の北極海哨戒計画発表」(Alaska Dispatch, May 16, 2013)
米沿岸警備隊は5月16日、2013年の北極海哨戒計画 (2013 Arctic Shield) を発表した。2013年は、ベーリング海峡に面した、コツエビュー (Kotzebue) が前進運用拠点となり、沿岸警備隊のヘリと搭乗要員の駐留拠点となる。2012年は、アラスカ州北部沿岸のバロー (Barrow) が拠点であった。沿岸警備隊広報官によれば、2013年の哨戒活動の重点は、アラスカ州西部海域とベーリング海峡における船舶通航量の増大を反映している。近年、幅50カイリのベーリング海峡の船舶通航量が増えており、2008年の220隻から、2012年には480隻に増加した。2012年のArctic Shieldでは、沿岸警備隊は、漏洩石油回収システムをテストする訓練を実施した。2013年のArctic Shieldでは、アラスカ州西部海域を重点哨戒する。この海域では、既存のインフラが最大限に活用できる。沿岸警備隊も連邦予算削減の例外ではなく、コツエビューが前進拠点となった理由の1つは、アラスカ州兵軍のヘリ・ハンガーが利用できるからである。沿岸警備隊は、アラスカ州に恒久的なインフラを保有していない。
記事参照:
Coast Guard shifting Arctic operations off Alaska to the west this season
5月17日「汎ASEAN海上安全保障協力の必要性―RSIS論説」(RSIS Commentaries, No. 096, May 17, 2013)
シンガポールのナンヤン工科大学ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の准研究員、Koh Swee Lean Collinは、5月17日付けのRSIS Commentaries, No. 096に、 “Pan-ASEAN Maritime Security Cooperation: Prospects for Pooling Resources” と題する論説を掲載した。筆者は、東南アジアにおける国境を越えた海洋安全保障上の課題に効果的に対処するため、ASEANは、欧州で運用されているような域内の海洋安全保障協力を考慮する必要があり、既存の国家及び2国間の監視機能を、新たなASEANにおける海洋安全保障の枠組みに繋げることができるとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) ASEANは2011年以来、域内における多国間海洋安全保障協力を受入れ始めている。例えば、2012年には、加盟国海軍のASEAN情報共有ポータルを発足させ、最初のASEAN海洋安全保障情報共有訓練を実施した。ASEANは2013年9月、域外のパートナーと共同で最初のASEAN国防大臣会議プラス専門家のワーキング・グループによる海洋安全保障訓練演習を実施する予定である。明らかにもっと多くのことができるはずだが、国家主権と各国の国力の差異が大きな障害の1つとなっており、結果的にASEANは、国家レベルの能力構築に行き詰まっている。国際的な事例は、国家主権と実務的な協力関係が如何に両立し得るかの有用な示唆を与えるとともに、より強力なASEAN海洋安全保障協力のための制度化したメカニズムの創設が国家の能力構築努力をも促進し得ることを示している。例えば、バルト海における多国間海洋監視協力 (The Sea Surveillance Cooperation Baltic Sea: SUCBAS) は、元々フィンランドとスウェーデン2国間の枠組み (Surveillance Cooperation Finland-Sweden) が2009年に強化されたものである。SUCBASでは、共有するにはセンシティブに過ぎるデータについては加盟国の国家主権を侵害しないものとしている。
(2) ASEAN諸国は、情報交換と共有を超えて、合同海洋治安行動の実施を真剣に検討すべきである。このような包括的で制度化された海洋安全保障協力の事例としては、欧州対外国境管理協力機関 (The European Agency for the Management of Operational Cooperation at the External Borders of the Member States of the European Union: FRONTEX) がある。FRONTEXは2004年の発足以来、欧州、大西洋及び地中海海域で定期的な合同海上国境管理や監視作戦を実施している。FRONTEXの中核は、3段階の汎欧州国境監視システム (pan-European Border Surveillance System: EUROSUR) である。最初の段階では、EUROSURネットワーク内の各国毎の国家監視能力を融合することで、各国家レベルの能力構築を促進する。各国当局は、共有するデータと、誰れと何時共有するかについて統制することができる。第2段階では、全てのユーザーが汎欧州海洋状況認識画像を24時間利用できるようにすることである。最後に、EUROSURは、漁業監視や環境保護といった、多様な海洋安全保障における共通の情報共有プラットフォームを想定している。SUCBASとFRONTEXは、大胆だが段階的な取組によって、国家主権を維持しながら、一方では国境を超える海洋安全保障の課題に効果的に取り組むために貴重な資源を効果的にプールし、利用することで各国の能力不足を補い、実用的な地域協力を推進できることを示している。この点で、これらの事例はASEANの検討に役立つ。
(3) ASEANは、域外のパートナーが関与する前に、既存の海洋安全保障協力の枠組を活用し、拡充することができる。海賊と船舶に対する強盗に対処するために、インドネシア、マレーシア及びシンガポール(後にタイが参加)が2004年に設立した、「マラッカ海峡哨戒取極 (The Malacca Strait Patrols: MSP) 」が、有益なプラットフォームになり得る。MPSは、後に「空からの目 (“Eyes in the Sky”)」と称される空中監視を加えた合同海上哨戒や情報交換など、小規模ながらSUCBASやFRONTEXと同じような幾つかの機能を有している。MSPは、東南アジアの沿岸全域における国境を越えた海洋安全保障課題に対処する、FRONTEXに似た、ASEAN全体の海洋安全保障枠組に拡大できる可能性がある。FRONTEXに似た新たな制度化されたASEAN海上安全保障枠組は、最終的には汎ASEAN海洋状況認識ネットワークの確立を視野に、既存の各国や2国間の監視機能に連接されることになろう。
(4) この努力において、シンガポールは、重要な役割を果たすことができる。特に、チャンギ指揮統制 (C2) センターは、既に2009年以来、地域的な安全保障協力を推進している。多国籍のスタッフから構成される情報融合センター (Information Fusion Centre) は、汎ASEAN海洋状況認識ネットワークのデータ融合の24時間稼働の結節点としての役割を果たすことができる。チャンギC2センターの多国籍運用センター (Multinational Exercise and Operations Centre) は、ASEANの多国間合同海洋監視作戦を調整することができよう。
(5) こうした制度への取組みを推進するためには、ASEAN各国政府間の十分な政治的な意志が必要となろう。ASEANは、制度化された協力を実現するためには、既存の枠組を乗り越えていかなければならない。長期的に見れば、そうした制度化の戦略的なメリットは大きい。このことは、ASEAN共同体構築の目標を促進するばかりでなく、地域的な安全保障構造の中でASEANの中心性を強化することにも繋がる。乏しい国家資源の効果的な共同利用と活用は、この地域の社会経済の発展を妨げる国境を超えた海洋安全保障の脅威に対して、東南アジア海域におけるより効果的な海洋治安維持を可能にする。
記事参照:
Pan-ASEAN Maritime Security Cooperation: Prospects for Pooling Resources
5月20日「次世紀のロシアと北極―プラウダ紙論評」(Pravda, May 20, 2013)
地政学に基づく多くの分析では、ロシアの4つ目の防壁として、北極海が今後核心的な役割を果たすと予想する。Pravda紙の掲載された論評はロシアと北極海の今後を展望して、要旨以下のように述べている。
(1) マッキンダー以来、西欧の近代地政学はロシアを脅威と見なしてきた。ロシア人はユーラシアのハートランドに存在する悪の帝国のように思われたのである。それが、シーパワーを力説したマッハンをはじめ、多くの地政学者やネオコンが抱いたロシアの真意に対する疑いはある種の信念になってきた。アフガニスタンで展開されたテロとの戦いが与えた悲惨な結果を目の当たりにして、2期目のオバマ政権ではネオコンの影響力が衰退すると予測される。もしそうであれば、アメリカのロシア理解においてより現実的でかつ実用的な未来ビジョンが広がる可能性がある。
(2) このような中で、地球温暖化による北極海の海氷の縮小は、新しい冷戦を誘発する可能性が指摘されている。ロシアと隣接したアジアの南部リムランドに軍事的プレゼンスを確立することが容易であったのに比べ、ロシアの北方境界となる北極海で抑止可能なプレゼンスを確保することは極めて難しい。すでに2007年夏、ロシアは北極点に国旗を設置し、北極海におけるプレゼンス拡大を続けている。開発および利用の潜在性の高い北極海を巡り、ロシアと沿岸諸国間の抗争、軋轢、そして危機へと繋がる危険性が浮上しつつある。さらには、北海やバルチック海などを中心として維持されて来たロシアの海軍力が今後北極海を中心に発展することが予想される。
(3) しかし封じ込めや包囲を語る古い地政学の戦略はすでに時代遅れになりはじめたのは良いニュースである。2008年9月、ロシア連邦の安全保障評議会はロシアにとっての北極海の未来ビジョンを提示した。そこでは、①北極海地域の戦略資源基地としての利用、②平和と協力の地帯として北極海を保全、③北極海に存在する特殊な生態系の保護、そして④国家の統合輸送路として北極航路の利用が提示された。勿論、ロシアがこれらの目標を果たすためには、他の北極海沿岸国と協力する必要性が大いにある。このようなビジョンが厳しい現実にそのまま符合することではないだけに、今後ロシアがこの地域を発展させるためには、人的資源の開発が先に求められる。
記事参照:
Russia and the Arctic Ocean in the next century
5月20日「アラスカ州、野生生物保護区での石油・天然ガス埋蔵量調査へ」(Newsminer.com, May 20, 2013)
アラスカ州は5月20日、北極海に面しカナダと国境を接する同州北東部の、「北極圏国立野生生物保護区 (The Arctic National Wildlife Refuge: ANWR)」での石油・天然ガスの真の埋蔵量を判定するため、数年間にわたる調査計画を発表した。同州のパーネル知事は、ジュエル連邦内務長官への書簡で、連邦政府が参画するなら、ANWRにおける地震探査のために、州政府は5,000万ドルの予算を州議会に要請する用意がある、と述べている。州当局は、この計画がANWRの1002Area と呼ばれる150万エーカーに及ぶ沿岸平野部における石油掘削を巡る論議を活気づけるであろう、と期待している。州知事は書簡で、「米国は26年間にわたって、1002Areaでの野生生物保護と石油開発について論議してきた。1002Areaの石油・天然ガス資源は古い2次元地震探査で推定されてきた。最新の3次元地震探査が不可欠となっている」と述べている。1002Areaで実施された最後の地震探査は1980年代初めで、1987年に内務省が開発を勧告し、1995年に議会は掘削を認める法案を可決したが、当時のクリントン大統領が拒否権を行使した。以来、開発を求める努力は、州当局と州選出連邦議員によって支持されてきたが、成果はなかった。
記事参照:
State announces plan to assess oil, gas at Arctic National Wildlife Refuge
5月20日「比海軍への供与艦、米で海上公試開始」(Business Mirror, May 21, 2013)
米国の余剰装備品援助計画 (The US Excess Defense Article and Military Assistance Program) によってフィリピン海軍に供与される、BRP Ramon Alcaraz (PF-16) は5月20日、1,515万ドルを要した改修、艤装作業を終え、海上公試が開始された。同艦は、旧米沿岸警備隊巡視船、排水量3,250トンのUSCGC Dallasで、1986年に就役し、2013年5月に退役し、フィリピン海軍に供与された。 同艦は、フィリピン海軍に供与される2隻目のUSCG Hamilton級巡視船となる。1隻目は2011年5月に引き渡された、BRP Gregorio del Pilar (PF15)である。BRP Ramon Alcaraz (PF-16) は、2012年から訓練を受けてきたフィリピン海軍乗組員88人(内、士官14人)が乗船し、サウスカロライナ州ノースチャールストンにある連邦海洋法令執行訓練センターを出港し、3日間の航海後、23日に帰港する。同艦は、6月中旬までにフィリピンに向け出港する予定となっている。
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