海洋情報旬報 2013年5月21日~5月31日
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5月21日「オーストラリア、衛星による油流出監視を試行」(The Maritime Executive, May 21, 2013)
オーストラリア海洋安全局 (The Australian Maritime Safety Authority: AMSA) は、オーストラリア海域において衛星を利用した油流出監視のテストを行っている。これは、衛星合成開口レーダー (Satellite-based Synthetic Aperture Radar: SSAR) によって、軌道上から直接油流出を24時間、全天候監視ができる。AMSAのストリー海洋環境部長代理によれば、AMSAはこれまで、油流出や海洋汚染の報告を航行船舶や航空機、更には人間に頼っていたため、流出が報告されるまでに、既に流出油が拡散し、迅速な対応が難しかった。海洋環境への被害を局限するためには、迅速な対応が不可欠である。AMSAは衛星による監視情報を60分以内に受信できるため、迅速な対応が可能になる。衛星サービス企業の世界トップレベル、ノルウェー拠点のKongsberg Satellite Services (KSAT) が、船舶航行量の多い海域あるいは石油・天然ガス開発海域など、オーストラリア海域でも海洋汚染のリスクが高い海域を重点に、AMSAのためにデータを収集し、分析する。AMSAは、試行が終了し次第、オーストラリアで恒久的にこのシステムを利用するための実用可能性を評価する。
記事参照:
Spying Oil Spills from Space -AMSA
5月21日「フィリピン、海軍強化へ国防費増強」(Defense News, AFP, May 21, 2013)
フィリピンのアキノ三世大統領は5月21日、海軍創設115周年記念式典で、中国との領有権を争う海洋領土の防衛を強化するために、18億2,000万米ドルの国防費増額を発表した。この日は、フィリピンが西フィリピン海(南シナ海)のパラワン島沖121カイリのEEZ内にあるアユンギン礁(Ayungin Shoal、またはSecond Thomas Reef、中国名仁愛礁)沖における中国艦船の「非合法で、挑発的な」居座りに抗議した日でもあった。アキノ大統領の発表によれば、国防費の増額は東南アジアで最弱とされる海軍を優先的に強化するもので、2017年までに2隻の新造フリゲート、2機の対潜戦能力を持つヘリ、3隻の沿岸高速巡視艇、及び8隻の両用船艇を取得する。
一方、フィリピン当局によれば、アユンギン礁に3隻の中国艦船―戦闘艦1隻、海洋監視船2隻が居座っている。外務省報道官は、在マニラの中国大使館に抗議書を手交した、と語った。アユンギン礁は、1990年代半ばから中国が建造物を構築している、ミスチーフ環礁に近い。また、フィリピン当局によれば、中国は、ルソン島沖140カイリのスカボロー礁も2012年から占拠している。
記事参照:
Philippines To Spend $1.8B on Defense To Resist ‘Bullies’
5月21日「EU、南・東アフリカ諸国に海賊対策支援供与」(gCapatain, May 21, 2013)
欧州委員会が5月21日に発表したところによれば、EUは、南・東アフリカ諸国に対して、海賊対策支援を目的に約3,700万ユーロ(4,770万米ドル)を援助する。援助は、地域海洋安全保障 (MASE) を促進する計画に対する支援を通じて行われる。この援助によって、海賊の逮捕及び移送のための各国における司法制度の整備、海賊へのあるいは海賊からの資金の流れを阻止する資金監視システムの強化のための担当者の訓練、沿岸監視能力を強化するための能力構築支援などが進められる。そして、特にソマリアでは、海賊の根拠地となっている地域における海賊撲滅キャンペーンの推進、若者に対する新たな職業意識を植え付けるための訓練などの計画が進められる。こうした計画を通じて、ソマリアの政府当局や共同体が海賊問題に対して自らの解決に取り組むことを支援する。
記事参照:
EU Pledges $47 Million to Fight Piracy in Eastern and Southern Africa
5月21日「ノルウェー、バレンツ海の海底地形調査継続」(Barents Observer, May 21, 2013)
ノルウェーは、ノルウェーとロシアとの間のバレンツ海洋境界画定協定によって自国の管轄海域となった、新たな海底の地形調査を継続している。この調査は、MAREANO事業により実施されている。MAREANOは、水産沿岸省、石油エネルギー省、貿易産業省、環境省の他、ノルウェー海洋研究所(Institute of Marine Research)、ノルウェー地質調査所(Geological Survey of Norway)、国立地図作成局(Norwegian Mapping Authority)から専門家が集められ、2006年から海底地形調査を進めており、2013年夏季にもノルウェー沖合の海底大陸棚の情報収集を実施する。今回の調査が予定されている海域の中で注目を集めているのは、バレンツ海の以前までロシアとの間で係争されてきた海洋境界に沿ったエリアである。MARENOの責任者によれば、全ての地形調査が終了するのは2019年とのことである。
記事参照:
Mapping under the Barents Sea continues
5月21日「軍事・国内造船の管理をロゴジン副首相に指示-プーチン大統領」(ИТАР-ТАСС, May 22, 2013)
プーチン大統領は5月21日、ロゴジン副首相(軍需産業担当)に対し、軍事のみならず、国内造船に関しても監督を行うよう指示した。ロゴジン副首相によれば、この指示の一環として、統一造船会社の代表らと共に、正常な企業運営のためのロードマップの検討も計画されている。
ソチで開かれた21日の会議で、大統領は、根拠のない国外造船所への発注は許容できないとし、国内の造船会社を優先するよう求めたことのほか、海軍への船舶の引渡しを早め、今後スムーズな作業を保障するよう要求した。また統一造船会社には、ガスプロム、ロスネフチ、その他海洋技術に携わる企業とより密接な協力関係を構築するよう求めた。
大統領はまた、国内造船の分野において、統一造船会社の大きな効率化に期待するとし、「砕氷船、それぞれの用途を持った高技術船、石油掘削プラットフォームの建造は、わが国にとって戦略的な意味を持つ」と述べた。「北極やその他世界の海域におけるロシアのプレゼンスの増強、極東と北方海域の天然資源開発、大陸棚における石油・ガスプロジェクトの経済効果向上には、それらがダイレクトに影響する」と強調した。
記事参照:
Владимир Путин поручил Дмитрию Рогозину взять под личный контроль военное и гражданское судостроение
【関連記事1】「プーチン大統領、海軍艦艇建造加速を指示」(RIA Novosti, May 21, 2013)
ロシアのプーチン大統領は5月21日、統一造船会社 (The United Shipbuilding Corporation: USC) に対して、海軍戦闘艦艇建造の遅れを非難し、効率性を高めるよう指示した。プーチン大統領は、USC幹部との会合で、特に原潜と水上戦闘艦艇の建造と海軍への引き渡しが遅れていることを指摘し、質を落とすことなく建造を加速するよう求めた。その上で、大統領は、USCに対して、10月15日までに改善措置について報告書を提出するよう命じた。マントゥロフ工業貿易相によれば、USCは、国防省との艦艇建造契約の内、約30%が当初計画より遅れているという。USCは2007年に設立されたロシア最大の造船、修理会社で、9設計部門と39カ所の造船所からなり、ロシア国内造船の70%を占める、完全国営会社である。
記事参照:
Putin Calls on Shipbuilder to Speed Up Naval Deliveries
【関連記事2】「ロシア海軍総司令官、統一造船会社の船舶の供給遅延を非難」(РИА Новости, May 24, 2013)
ロシア海軍総司令官は5月24日、統一造船会社の代表も出席する会議において、「統一造船会社の造船所で建造、または修理されている船舶の引渡しが遅延しているのは、しばしば他の関連会社に関わる問題のためだ」とし、「現在、統一造船会社で建造される船が期限内に引き渡されないばかりか、1隻たりとも、期限どおりに修理を終えたものがない」と指摘した。総司令官によれば、その責任は統一造船会社にあるというよりはむしろ、その関連会社にあるという。「船の建造が完成したとしても装備する武器はどうか。対空ミサイル、ミサイル発射装置など全てが山積し遅延する」と述べ、その他にも、海軍の航空機に関する電子機器やコンポーネントの納入業者による納期遅れを、時宜に合わず不適切だと指摘した。総司令官はまた、統一造船会社は、自社に武器を装備する関連企業を設立すべきとし、さもないと、結局今後も悩まされるだろうと述べた。
記事参照:
Главком ВМФ РФ упрекнул в задержках с поставкой кораблей смежников ОСК
5月21日「ロシアの世界最大のSSBN2隻、2018年までに退役、スクラップへ」(RIA Novosti, May 21, 2013)
ロシア軍事産業筋が5月21日、RIA Novostiに明らかにしたところによれば、ロシアは2018年までに、世界最大のSSBN 2隻を退役させ、スクラップにする。退役するのは、白海のセヴェロドヴィンスクに基地を置く、Project 841 (Typhoon級) 型SSBN、Severstal とArkhangelskの2隻で、2013年末までに退役し、解体作業が始められる。同筋によれば、この作業は、遅くとも2018~20年以前には完了するという。Typhoon級SSBNの3隻目、Dmitry Donskoyは、新型SLBM、Bulavaの実験艦として改修されており、今後数年間は現役に留まるという。1980年代に合計6隻のTyphoon級SSBNが旧ソ連海軍に配備され、既に3隻がスクラップにされた。Typhoon級SSBNは満載排水量、3万3,800トンで、SS-N-20 SLBMを各20基搭載していた。SS-N-20は全基既に退役している。
記事参照:
Russia to Scrap World’s Biggest Nuclear Subs
5月21日「恒久インフラ建設せず、夏季にのみ哨戒強化―米沿岸警備隊司令官」(The Day, May 21, 2013)
米沿岸警備隊のパップ (Adm. Robert J. Papp Jr.) 司令官は5月21日、ワシントンのシンクタンク、The Center for Strategic and International Studies (CSIS) 主催のフォーラムで、沿岸警備隊は少なくとも今後10年間は北極海沿岸域に恒久インフラを建設するために予算を投入しない、と述べた。パップ司令官によれば、その代わり、アラスカ州のバローとその他の北極海沿岸域のサイトに夏季にのみ、航空機、巡視船、小型ボート、人員及びその他の装備を配備することで、任務を遂行する。オバマ政権は5月10日に北極戦略を発表したが、この戦略を反映した今後10年間の対処方針を発表したのは、沿岸警備隊が初めてである。パップ司令官はまた、上院に対して、国連海洋法条約 (UNCLOS) への加入を承認するよう求めた。北極会議加盟8カ国中、UNCLOSに加入していないのは米国だけである。米国が未加入であることで、海洋境界画定を巡る紛争対処に対する米国の能力が損なわれている、とパップ司令官は強調した。沿岸警備隊は1867年*以来、北極海域に恒常的にプレゼンスを維持してきており、北極海域で行動可能な現時点では唯一の米政府機関である。
備考*:米国は1867年3月に、帝政ロシアからアラスカを720万ドルで購入した。
記事参照:
Arctic to remain part-time pursuit for Coast Guard
Coast Guard Arctic Strategy Rollout, Remarks of the Commandant, May 21, 2013, Center for Strategic and International Studies (PDF)
5月21日「インドの常任オブザーバー承認―インド外交の勝利」(DNA India.com, May 21, 2013)
スウェーデンのキルナで開かれた北極評議会の閣僚会合で、インドは、常任オブザーバー資格を承認された。これは、インド外務省の敏捷かつ積極的な活動の賜物である。もしインドが常任オブザーバーになるのは時間の問題と構えていたら、結果は違ったものになっていたであろう。何故なら、閣僚会合で、カナダは、インドとはあまりいい関係にないデンマーク、スウェーデン更にはノルウェーと一緒に、インドの常任オブザーバー資格に反対票を投じるつもりだったからだ。しかしながら、カナダにとっては残念ながら、北欧諸国はどこも反対しなかった。インドは、北極海の原油、天然ガス争奪戦が激しくなった2012年11月以来、北極圏の将来を決める会議への参加を模索してきた。インド防衛研究所などは北極評議会への参加にむけ積極的なロビー活動をしてきた。
インドは常任オブザーバーとして、今や中国、イタリア、韓国、日本、シンガポールと同じ位置についた。特にインドは今や、北極政策では先行している中国と同じテーブルについたのである。中国や他のグローバルな国家群は、インドと違って、北極海周辺の莫大な原油、天然ガス、鉱物資源が利用可能になる時と、北極海周辺の新しい貿易航路が登場する時を長期的な視野で見据えている。多くの国は、新しいグローバル秩序の中で、地理的環境が共通の資源にアクセスするための唯一の決定的な要因とはなり得ない、と主張してきた。中国は、自身が北極圏におけるパワーになりつつあるが、北極海においても、South Pole Principle ―南極における如何なる特定国家の領有権も認めないという原則―の適用に熱心である。
記事参照:
India’s Arctic victory: A major diplomatic achievement
5月22日「摂氏-25度で生きる北極圏のバクテリア発見―カナダ研究チーム」(CBC News, May 23, 2013)
北極圏の高緯度地域で生息するバクテリアの存在が明らかになった。最新の調査で、カナダの研究チームは、酷寒の状況で生存するバクテリアを発見した。極限の状況で生息する生物の存在は、太陽系の他惑星においても同様の生物が存在する可能性を示唆する。5月22日づけ、ISME Journalに発表された研究報告によると、バクテリア、Planococcus halocryophilusのQR1株は、摂氏-15度で再生することが確認された。これは今まで知られている生物の最低温度での生存記録であり、このバクテリアは-25度でも活発に動くことが確認された。このバクテリアは、エルズミーア島の永久凍土層で2004年に採取された約200~300株のひとつである。この永久凍土層は5000~6000年間凍っていた中心部分で、その平均気温は約-16度であった。今回の研究は、5000~6000年間凍っていた永久凍土層でも生物の生存と再生が可能であることを示唆している。研究チームは、バクテリアの遺伝子を分析し、それらの酵素と他のタンパク質の多くが低温での活動に適合されていることを発見した。研究チームは、バクテリアが氷点下の環境でも生きられる謎を研究することが、火星、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスのような場所におけるバクテリアの生活に関する知識の収集に有用だ、と指摘している。研究チームは現在、Planococcus halocryophilus のように、酷寒の環境で生存しながらも、酸素呼吸や有機炭素の摂取が要らないバクテリアを探している。また、科学者らは、永久凍土内のバクテリアが温室効果ガスの放出に影響を与える可能性ついて研究している。
記事参照:
Arctic bacteria found multiplying at record –15 C
5月23日「インド、自らの軍事力に自信―シン首相」(The Times of India, May 24, 2013)
インドのシン首相は5月23日、インド国防大学の着工式典で、インドは「我々の周辺とその外側において」、特にインド洋地域において「安全保障の提供者」になる上で「十分準備ができている」と述べ、更に要旨以下のように述べた。
(1) インドの核抑止力は過去9年間で、一定のレベルに達しており、具体的な戦力になってきている。インドは既に、Agniシリーズの弾道ミサイルと、核兵器搭載用の応急装備を施した戦闘機を保有している。加えて、国産原潜、INS Arihantが間もなく海上公試を始め、これが配備されれば核の三本柱戦力が完成する。INS Arihantは、2014年の終わりまでには運用可能になる。
(2) インドは今や、非通常型の脅威、特にサイバーと宇宙の領域における脅威に対しても優れた装備を保有している。サイバー安全保障のための国家的な防衛機構を整備しており、国家サイバー安全保障調整局を新設した。また、アジアでは、破綻国家、内戦、武器の拡散とテロといった多様な安全保障上の危機に直面している。
(3) グローバル化に伴って国境意識が曖昧になると共に、紛争や抗争の様相も変化しつつある。そのため、我々は、本土を防衛するとともに、インドの拡大する国際的な資産を護る用意がなければならない。このような多様な挑戦にもかかわらず、戦略的な機会もまた意識しなければならない。インドの安全保障が今日ほど強くなったことはなく、国際関係がこれほどインドの国家発展に好ましい環境だったこともない。
記事参照:
PM exudes confidence about India’s military might
【関連記事】「4隻のインド軍艦、海外展開へ」(The Times of India, May 28, 2013)
インドは5月28日、4隻の軍艦をマレーシア、ベトナム及びフィリピンへ向け派遣した。東部方面艦隊司令官が率いる4隻は、東部方面艦隊のステルス・フリゲートINS Satpura、誘導ミサイル駆逐艦、INS Ranvijay、ミサイル・コルベット、INS Kirch、そして艦隊給油艦、INS Shaktiである。これら4隻は、6月末にインドに帰港するまで、マレーシアのクラン、ベトナムのダナン、フィリピンのマニラにそれぞれ寄港する。
インド海軍高官は、「建設的な関与こそ平時に我々が持つ最高の武器である。これは、地域と地域の外の国々に対する関与によって、インド洋全域の安全保障環境の強化及び安定を図る考え方である」と強調している。この間、シン首相は日本訪問中で、同首相は日本で、インドは日本と戦略的な国益を共有しており、海洋安全保障における協力を拡大し、地域の安定に寄与する、と述べた。同首相はまた、インドから見ると日本はアジアの平和と安定に対して「自然で、欠くことのできないパートナー」であり、シーレーンを開かれた自由な状態にしておくことは中東からの原油の輸入に依存している地域の繁栄にとって不可欠である、とも強調した。
記事参照:
Four Indian warships on overseas deployment
5月24日「中国、海南省三亜に衛星データ受信施設開設」(People Daily Online, May 25, 2013)
中国科学アカデミー傘下のThe Institute of Remote Sensing and Digital Earth は5月24日、海南省三亜に衛星データ受信施設を開設した。これによって、中国は、南シナ海全域に関する衛星データを受信できるようになる。
記事参照:
China’s satellite data network reaches South China Sea
5月25日「インド、北極圏への科学的、商業的関心」(SME Times, May 25, 2013)
インド地球科学省高官は、インドが北極評議会の常任オブザーバーの地位を認められたことによって、天然資源豊富な北極圏の開発や北極航路といった商業的関心に加えて、北極海の気象条件がインド洋のモンスーンにどう影響するかを理解する機会が得られることになろう、と語った。地球科学省高官によれば、科学的関心については、北極圏における気候変動がインド亜大陸にどのような影響をもたらすのか、特にインド経済に最も決定的な影響をもたらすインドのモンスーンにどのような影響をもたらすのかが重要である。インドは、2008年から北極海に観測ステーション、HimadriをThe National Centre for Antarctic and Ocean Researchが運用している。更に、インドは、天然資源、漁場及び北極航路に関して商業的関心を持っている。地球科学省高官は、「もし北極海で氷が溶けたら、当然ながら漁業が主要な資源となり、北極航路が開かれる。従って、インドとしては、氷の海が溶解する時に、どのような状況になり、どのようなインパクトがあるのか、理解しておく必要がある。いずれにしても、インドが実施したいと考えている如何なる商業活動も、科学によるサポートが必要である。北極航路の問題でも、海底の状況や波がどのように動いていくのか、海面温度がどうかなどについて、知っておかなければならない」と語った。
地球科学省高官は、常任オブザーバーの地位はインドが会議に参加できることを認められたことを意味し、議決権はないが、インドの見解を提示するとともに、会議で何が起きているかを知る機会にもなる、と強調した。
記事参照:
India has science, business interests in the Arctic
5月25日「漂流ステーションSP-40、計画を切り上げ避難」(The Voice of Russia, May 25, 2013)
北極海の氷上を漂流しながら年次調査を実施しているロシアの漂流ステーションSP-40は、計画より3カ月早く今年の調査を終了することになった。ロシア天然資源環境省によれば、SP-40を設置している氷が4月末から崩れ始め、崩壊すれば、今後の研究活動のみならず、氷上で活動する隊員の生命にも脅威をもたらし、その海域の環境汚染にも結びつく恐れがあるとしている。これに関し、北極・南極研究所の副所長は、「ステーションを組織する時はいつも、計画の中に必要な際の撤収や隊員の非難を含めている。今回も不測の事態ということではない」と述べている。地震が起きた場合の避難や、氷にひびが入ることはよくあるが、冬季であれば凍ってくっつくものの、春を迎えたことから、ステーションの撤収は差し迫った問題となっている。
SP-40が作業を開始したのは2012年10月、2013年9月まで調査を行う計画だった。氷上で隊員らは、北極海の高緯度海域の環境を調べるほか、気象観測を行い、新しい科学機器や設備のテストを行っている。しかしながら、グローバルな温暖化現象により、そのような調査は困難になってきている。
5月26日「韓国、海上哨戒機20機購入へ」(Yonhap News, May 26, 2013)
韓国軍事筋が5月26日に明らかにしたところによれば、韓国軍統合参謀本部は、対北朝鮮向け海洋監視能力を強化するために、海上哨戒機20機を購入する計画を承認した。それによれば、現有の16機のP-3Cからなる飛行隊の老朽化を補うため、海軍は20機の海上哨戒機の購入を求めている。購入予算は、8億8,900万米ドルと推測されている。消息筋によれば、候補機種として、Airbus Military’s C-295 MPA、Boeing’s P-8 Poseidon、Lockheed Martin’s SC-130J Sea Herculesが上がっている。これとは別に、海軍は、現有のP-3Cのレーダーとセンサー・システムを2016年までに更新する。
記事参照:
S. Korea to buy 20 maritime patrol aircraft
5月27日「ロシア、2020年までに北極圏に国境警備インフラを整備」(Russia Beyond The Headlines, May 27, 2013)
ロシア連邦保安庁 (FBS) のリバルキン (Col. Gen. Nikolai Rybalkin) 国境軍副司令官が明らかにしたところによれば、ロシアは、2020年までに北極圏に11カ所の国境警備インフラを整備する。更に、同副長によれば、FBS沿岸警備隊の国境警備艦建造における優先順位は北極圏における警備目標に照らして決定され、2020年までに北極海向けに4隻の国境警備艦が建造される。沿岸警備隊は、10年前にスタートした国境警備機能をFBSに移管するFBS改編の主要分野で、他の国境警備とは別に海洋国境警備に専念する。同副長によれば、新国境警備艦の建造は予定通り進展しており、当面、2014年のソチ冬季五輪に備えて、黒海の沿岸警備隊が強化されている。
記事参照:
Russia to build four Coast Guard ships in Arctic by 2020
5月28日「米沿岸警備隊、バングラ海軍に巡視船供与」(NavalTechnology.com, May 28, 2013)
米沿岸警備隊は、退役したHamilton級巡視船、Jarvis (WHEC 725) をバングラデシュ海軍に供与した。5月28日、カリフォルニア州アラメダで引き渡し式典が行われた。同船は1972年に就役した排水量3,300トンの巡視船で、米国の余剰装備品援助計画 (The US Excess Defense Article and Military Assistance Program) を通じて供与され、バングラデシュ海軍での艦名は、BNS Somudra Joy となる。Jarvisの26人の乗組員は、2013年後半に計画されているバングラデシュへの回航に備え、BNS Somudra Joyのバングラデシュ海軍乗組員の顧問として、支援することになっている。
記事参照:
US Coast Guard transfers ex-Hamilton-class cutter to Bangladesh Navy
5月28日「中国海洋調査船、太平洋の海底調査に出港」(Global Times, Xinhua, May 29, 2013)
中国の海洋調査船、「海洋六号」は5月28日、太平洋の海底調査のため、中国南部の広東省の省都、広州を出港した。96人の調査団は、5カ月間にわたって、太平洋の海底鉱物資源を調査する。
記事参照:
Chinese research vessel sets out for Pacific Ocean
5月28日「中国、ミャンマーに石油貯蔵施設完成」(gCaptain, Reuters, May 28, 2013)
中国国営、中国石油天然気集団 (CNPC) の関係者が5月28日に明らかにしたところによれば、CNPCは、ミャンマー西部沖の島に10万立米の貯蔵能力を持つ6基の石油貯蔵タンクを完成させた。更に6基の同様のタンクが今後2カ月以内に完成する。この面積10平方キロの島がパイプラインの起点となり、ここから中国雲南省まで、日量44万バレルの輸送能力を持つ原油パイプライン1本と、年間120億立米の輸送能力を持つ天然ガスパイプライン1本が建設される。原油パイプラインは2014年に操業開始が計画され、天然ガスパイプラインは当初2013年5月末までに操業開始を見込んでいた。CNPCは、原油輸送のマラッカ海峡依存の削減を視野に、この島に大型原油タンカーが接岸できるターミナルを建設中である。
記事参照:
China To Complete Key Myanmar Oil Storage Facility, Pipelines to Bypass Malacca Strait
5月29日「インド・インドネシア防衛協力の再活性化とその意義―RSISインドネシア人専門家論評」(RSIS Commentaries, No. 103, May 29, 2013)
シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のスプリヤント (Ristian Atriandi Supriyanto) 上席アナリストは、5月29日付けのRSIS Commentariesに、“India-Indonesia Defence Cooperation: Back on Track?” と題する論説を掲載し、インドネシア人の視点から、 ①インドとインドネシアは、共通利益を有しているにもかかわらず、その防衛関係は未だ発展途上段階といえ、②改善するには、インドネシアがもっとインド洋の隣国にもっと注目する必要があるとし、要旨以下のように論じている。
(1) インド洋においてわずか80カイリしか離れていないのに、インドとインドネシアの防衛関係は、未だ発展途上である。しかし、両国は、相互利益を共有しており、巨大なイスラム人口を抱えており、共通の民主主義の価値観を有しており、更に非同盟国家であることにプライドを持っている。これらの要因は、防衛協力を含む親密な協力関係を促進するはずである。しかし、両国は、相互無視の泥沼に陥っている。
(2) 実際、国家間関係は、地理的近接性よりも、より精神的な地図、即ち「全体的な地理的環境を理解するために慣習的、継続的に受け入れられてきた心理構造」によって規定される。インドネシア人の理解では、インド洋とインドは、2つの理由によって、精神的な地図の「ブラックホール」にとどまっている。
a.第1に、インドネシアは、その安全保障と経済の国家的存在理由を、主として太平洋、特に米国と北東アジアに指向している。1950年代のほんの一時期を除いて、インドネシアは、インドを、安全保障の提供者として、また経済的な後援者として見たりすることにはっきりと拒否反応を示してきた。
b.第2に、インドと旧ソ連の緊密な関係、そしてインドのインド洋に対する覇権主義的野心に疑惑を抱いていた。
これらの理由から、インドネシアは、インドを潜在的な戦略的パートナーと見なすことに気が進まなかった。
(3) 1945年の独立直後には、インドネシアの精神的な地図の中では、「遠く離れた従兄弟」であり、植民地主義と戦う同胞として見て、インドは光り輝いていた。まさにこれが理由で、インドネシアのスカルノ大統領は、1951年3月に友好条約を調印した。この条約は、防衛協力を含む、両国の様々な分野における協力の枠組みを構築するものとなった。両国関係は、1962年の中印国境紛争からスカルノ政権が終わるまでに徐々に悪化していった。ジャカルタは、新しく誕生したマレーシア連邦とそれを推す英連邦への対抗姿勢を支援してくれた中国に報いる形で、北京に顔を向けるようになった。1966年のスハルト政権の成立は、両国の関係改善にはほとんどつながらなかった。それどころか、1971年の印ソ平和友好協力条約とバングラデシュを巡る印パ戦争(第3次印パ戦争)によって、インドとの関係はますます冷え込んだ。次の20年間、両国の関係は距離が開いたままであった。
(4) スハルト政権が1998年に崩壊すると、インドネシアは民主化し、外交にも影響が生じた。スハルト後の時代は、すべての国、特にインドのような主要な地域大国との関係改善が進められた友好関係増進の時代といえる。特に、インドは、自身がルック・イースト政策に着手していた。2005年のインド・インドネシア戦略パートナーシップ協定が両国関係の画期となった。これは、スカルノ時代に構築された防衛協力の再開を意味するだけでなく、ニューデリーに対するジャカルタの肯定的なイメージを示す信号でもあった。
(5) スカルノ時代の防衛協力関係の再現で、インドネシアは、インドとの様々な分野での防衛交流を再開した。特に、インド洋において共通の国境を持つ両国にとって、海洋安全保障協力は特に重要になっている。この分野の協力には、合同哨戒、2国間・多国間の合同演習、人道支援及び災害派遣等がある。協力関係における新しい分野は、国防科学技術協力である。インドの優れた国防技術産業は、装備の国産化を進めるインドネシアにとって魅力的な機会を提案している。しかしながら、インドは、インドネシアへの技術移転には慎重である。
(6) 両国の防衛協力の再活性化は、インドネシアの精神的な地図を、太平洋に対すると同様に、インド洋の隣国に対してもその認識を改めさせる方向に変えていくことになろう。これは、海洋環境の状況認識、シーレーン防衛を念頭に置いた合同哨戒や演習、海洋における探索救難あるいは国防技術・産業における、より実質的な安全保障の取組につながるものになろう。シーレーンの安全保障は、インドネシアのインド洋における海洋貿易、特にインドに対する天然資源や鉱物の輸出が増えていることから、最重要になっている。それにもかかわらず、防衛協力の復活においては、両国とも、直面している問題に対する現実的な見方が求められる。ジャカルタにとって中国が最大の貿易相手であり、投資国であることから、インドネシアの精神的な地図においては、太平洋が最大の位置を占め続けるであろう。インドネシアの「千の友、敵はゼロ」という外交は、多角的な戦略的、包括的パートナーシップを求めるもので、インドを他の国と比べ特別扱いすることはないであろう。しかし、少なくとも、ニューデリーは、全ての主要なパワーが相互に牽制しあって「ダイナミックな均衡状態 (“dynamic equilibrium”)」を追求する地政学的平衡運動 (geopolitical juggling act) における、ジャカルタにとっての選択肢となり得るパートナーである。
記事参照:
India-Indonesia Defence Cooperation: Back on Track? (PDF)
5月29日「北方航路、急速な発展を期待―ロシア海事専門家予測」(gCaptain, Reuters, May 29, 2013)
北極海の海氷の縮小に伴って、ロシア沿岸沖の北方航路の通航可能期間が年々長くなってきている。そしてロシアは、通航船舶の増大を促すため、北方航路に対する規制を緩和しつつある。ロシアの原子力砕氷船運航会社、Atomflotのベルキン顧問は5月29日、「北方航路はスエズ運河ルートに対抗し得るものではないが、季節的には適切な補完ルートであり、急速な発展が期待される」と見ている。ベルキンによれば、2012年の北方航路の通航貨物量は125万トン前後で、スエズ運河経由の7億4,000万トンとは比較にならないが、2013年には150万トンに、2021年までには4,000万トンに増えると見られる。北方航路の2012年の通航可能期間は約6カ月間で、LNGタンカーは11月まで航行した。今後10年以内に通航可能期間は8カ月間になる可能性がある、と予測されている。ロシアは2013年夏季に、通航コストの軽減を図るため、毎年2カ月前後となる海氷が最も少ない期間に限り、砕氷船先導なしの航行を認めるとともに、通行船舶の規制を緩和し、最大10万DWTまでの船舶の通行を認める。ベルキンによれば、Atomflotが課す通航料は船舶のタイプによって異なるが、スエズ運河の通航料より平均して10~15%高い。しかし航行期間の短縮を考慮すれば、運航社は最大20%程度経費節減が可能であるという。それでも、北方航路には、制約が多い。ロシアは、ルート沿いに最大10カ所の避難港の整備に着手したばかりであり、捜索救難能力も不十分で、民間の天気予報にも限界があり、更に保険会社は航行船舶に多額の特別料金を課している。ノルウェー船主協会のヘンリクセン会長は、「通航量は増える、恐らく急速に増えるだろう。しかし、商業的可能性ということでは当分の間限定的であろう」と語っている。
記事参照:
Opportunity Ripe for Shipping Boom Along Arctic Northern Sea Route, Experts Say
【関連記事】「北方航路の航行、6月下旬にスタート」(РИА Новости, May 30, 2013)
今シーズンの北方航路の通航が、6月下旬にも始まる予定だ。原子力砕氷船団を運航するアトムフロートのスミルノフ副総裁が、РИА Новостиに伝えた。 副総裁はまた、同時に、北部への貨物輸送として寄港なしの北方航路通航も開始し、ムルマンスク海運会社の最初のタンカーが、ペベクに向かう準備ができていると述べた。チュクチへの燃料、食品、建築資材などが大量に運べる海上輸送が可能なのは、7月から10月の通航シーズンに限られる。
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Транзитная навигация по Севморпути откроется в конце июня
5月30日「中国、その北極進出と環境への影響」(New Scientist, May 30, 2013)
5月30日付のNew Scientistで、科学ジャーナリスト、Sara Reardonは、中国の北極進出の狙いと環境への影響について、要旨以下の諸点を指摘している。
(1) 2012年、中国の砕氷調査船「雪龍」が海氷面積の縮小により航行可能となったロシア領海を通過して北極海航路を横断した。中国政府関係者によれば、中国は、2013年夏季も同様の航路を通過する商業航海を計画しているとされる。これは、北極を通過する航路短縮が経済的にも可能であるかテストするためである。2014年には2隻目となる調査砕氷船が就航する予定であり、米国及びカナダの砕氷船は退役が近く、中国はこれらの国よりも優れた船舶を持つようになる。中国が地球最北部を通過して船団を派遣したいと考える理由の1つは、カナダ、欧州、アイスランド、米国の港へと通じる航行距離が数千キロ短縮になるからである。中国極地研究所の楊恵根は、中国の国際貿易の15%程度までが北極を通り運搬されることになるであろうと述べている。
(2) 原油は中国船団が運搬するコモディティの1つとなる見込みである。2003年以来、中国は、北極圏より南にあるカナダのタールサンドの開発に数十億ドルの投資を行ってきた。2013年3月には、バレンツ海におけるエネルギー資源を管理するめの合意をロシアと結んだ。この取引により、中国がロシアから購入する原油量は2倍になる。ワシントンDCの北極研究所のマルテ・ハンパートは、中国が北極の資源開発を主導していくことになるだろうと見ている。ロシアは国内原油の4分の3を輸出しているが、シェールガス革命のため米国は既にロシアの顧客でなくなっている。このため、中国なしではロシア原油は地中に埋もれたままとなるかもしれない。ロシアと中国との今回の取引は、今後生じることを予見する兆しである、とハンパートは述べている。
(3) カリフォルニア大学サンタバーバラ校のポール・バークマンは、水産も中国の政策目標において高い優先順位を持つことになろう、と見ている。海洋温度の上昇は漁業資源をさらに北上させている。カナダのブリティッシュコロンビア大学のダーク・ゼラーによれば、中国は2009年の世界漁獲高の3分の2を消費しており、恐らく、他のアジア諸国と共に北極に目を向け始めるであろう。このことは懸念材料である。何故なら、これらの国々には、漁業資源を激減させるとの評判があるからである。ゼラーの研究班による最新の研究によれば、2000年から2011年の間、他国の水域における中国の漁獲量は自己申告の12倍に達したという。グリーンピースのチャーリー・クロニックは、北極は極めて脆弱であるため、究極的にはいかなる国も間違いを犯せない、と指摘している。クロニックは、中国の石油に対する需要は北極圏における採掘活動をエスカレートさせるものの、中国や他の諸国が北極評議会の意思決定過程に彼らの考えを述べることは良いことであると考える、と語っている。
記事参照:
What China’s Arctic ambitions mean for the environment
5月31日「ロールスロイス社設計の “Environship”、ノルウェーの船社に引き渡し」(gCaptain, May 31, 2013)
ロールスロイス社が5月31日に明らかにしたところによれば、同社設計の “Environship” の構想に基づいて、The Vard Aukra shipyard (前STX OSV) で建造された最初の貨物船、MV Eidsvaag Pionerがノルウェーの船社、Eidsvaag ASに引き渡された。ロールスロイス社のこの革命的な貨物船設計は、2013年にドイツで、The Green Ship Technology Award を、2年前にはオスロでのThe Nor-Shipping eventで、The Next Generation Ship Awardをそれぞれ受賞している。ロールスロイス社によれば、この設計による貨物船は、ディーゼル推進の同程度の貨物船に比して、船首の形状とLNG推進エンジンによって、CO2の排出を最大40%削減することができる。
記事参照:
Concept to Reality: First ‘Environship’ Successfully Delivered
Photo: The first Rolls-Royce Environship – the Eidsvaag Pioner
5月31日「スカボロー礁奪取の手口、中国海軍少将会見で明かす」(Philstar.com, May 31, 2013)
中国海軍の張召忠少将(国防大学教授)はこのほど、中国メディアのインタビューに答えて、中国がスカボロー礁(中国名、黄岩島)を奪取した手口を明かしている。以下、比紙、Philstar電子版が伝える、張召忠少将の発言要旨である。
(1) 中国海軍は、フィリピンが領有を主張するスカボロー礁を、戦闘艦艇などでキャベツのように包み込んだ。我々は、黄岩島とその周辺海域を封鎖し、支配するために幾つかの措置を取った。そして現在まで、封鎖と支配を続けている。
(2) 中国は、フィリピンから黄岩島を護るために、漁業監視船と戦闘艦艇を周辺に配備して継続的に監視する、「キャベツ」戦略をとっている。もしフィリピン側が環礁内に、あるいはその周辺海域に入ろうとすれば、ます中国海軍戦闘艦の、そして次には漁業監視船や海洋監視船の許可を得なければならない。この申し分のない戦略によって、中国漁民の安全操業を保証できる。
(3) 我々は、この戦略によって、島嶼や環礁を回収し、防衛する十分な経験を得た。こうした小さな島嶼や環礁はほんの少数の兵力しか配備できず、しかも食糧や飲料水が現地にない。我々が「キャベツ」戦略をとれば、誰もこれら島嶼や環礁に食糧や飲料水を搬入できないであろう。
(4) 我々は、過去数年間、南沙諸島で一連の成果を上げてきた。その内、最も大きな成果は、黄岩島であり、美済礁(ミスチーフ環礁)であり、そして仁愛礁(アユンギン礁)である。中国がとるべき次の措置は、観光、漁業そして海洋環境の保護など、これらの島嶼や環礁における中国経済に資する積極的な開発であろう。我々は、調整された多様な開発努力を必要としよう。軍事的観点からすれば、武力行使は最後の手段である。中国は、国際法規を遵守するが、武力によって島嶼を完全に回収することもあり得る。
記事参照:
Chinese general reveals ‘strategy’ for Panatag takeover
【補遺】5月19日「北極に対する中国の狙い―ヤコブソン論評」(Financial Times, May 19, 2013)
豪シンクタンク、The Lowy Institute for International Policy の中国専門家、ヤコブソン (Linda Jakobson) 東アジア計画部長は、5月19日付の英紙、Financial Timesに、“Beijing’s Arctic goals are not to be feared ” と題する論説を掲載し、中国の北極地域に対する狙いについて、過度の警戒は不要として、要旨以下のように論じている。
(1) 中国の常任オブザーバー資格が高い関心を集めたのは、中国の全ての動きが注目され、その意図に疑惑が持たれているからである。しかし、中国の北極地域に対する狙いは完全に理解できるものである。
a.第1に、北極の海氷の溶解は、北東アジアの気候に大きな影響を与え、特に農業に被害をもたらす恐れがある。中国はまた、海岸線が低いので、海水面の上昇によって最も影響を受ける国のひとつでもある。
b.第2に、ロシア沿海の北方航路が、今後20年以内に夏季の間、北東アジアと欧州を結ぶ有望な代替輸送ルートになる可能性がある。貿易通商国家にとって、北極海ルートにおける通航量増大の可能性を無視し得ない。中国にとって当面の最大の関心事は、ロシアが沿海域の航行や砕氷船の利用について賦課する料金の額である。モスクワが料金を不当に高く設定すれば、北方航路は採算に合わなくなる。こうした問題は今後、北極評議会が取り組むべき課題であろう。
c.第3に、海氷が溶ければ、北極海の海底エネルギー・鉱物資源へのアクセスが期待され、また新たな漁場としても有望である。中国の動機が疑われるのはこの分野であるが、北極海資源のほとんどが沿岸国の領海または200カイリまでの排他的経済水域にあるという事実が見落とされがちである。中国は常任オブザーバー資格承認に際して、北極海沿岸国の主権的権利と管轄権を尊重することを再確認している。中国は、恐らく資源開発のための投資を申し出ることによって、沿岸諸国とのパートナーシップ構築を目指すであろう。
(2) では北京は北極評議会から何を期待しているのであろうか。中国は、北極海に経済的可能性を見出しており、北極地域の管理の在り方に影響力を持ちたいと望んでいる。常任オブザーバーに議決権はないが、北京は、決定に至るまでの非公式な議論に影響を及ぼすことが可能と期待しているのであろう。ここ数年、中国の学者や政府関係者は、北極地域における機会と挑戦はグローバルなものであり、従って、中国も「北極地域のステークホルダー」であると強調してきた。
(3) とはいえ、北極地域は、中国外交全体から見れば優先分野ではない。北京は、北極地域の将来に関与する権利を持つ大国として認知されることを期待している。全ての国が北極地域の恩恵を共有できるよう人類の利益を考慮することと、中国が北極沿岸諸国に対して求めているのは一種の皮肉とも言える。中国は、自国に近接した海域における領有権問題について、そのような寛容さを全く見せていないからである。中国は、自国の核心的利益に関わる問題では高圧的であるが、北極海については、そのような心配をする必要はない。
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