海洋情報旬報 2013年6月11日~20日

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6月11 日「米エクソンモービル、ロシアのロスネフチと共同で北極調査センター立ち上げ」(Press Release, ExxonMobil, June 11, 2013)

アメリカの石油大手、Exxon Mobil Corp.は6月11 日、ロシアのRosneftと共同でモスクワに立ち上げる北極調査センター、The Arctic Research and Design Center for Continental Shelf Development (ARC) の最終合意書に調印した。ARCは、短期的にはカラ海を重点に、両社の合弁事業のために、調査、開発及び技術サービスを提供する。

記事参照:
Rosneft and ExxonMobil Finalize ArcticResearchCenter and Technology Sharing Agreements

6月11日「シンガポール、北極の新しい参加者」(Eurasia Review, June 11, 2013)

赤道の北100キロに位置するシンガポールが北極評議会に参加する。5月15日の北極評議会で、シンガポールは、中国、日本、韓国、インドと共に常任オブザーバー資格を獲得した。南極調査を通じて長年極地研究の成果を蓄積して来た他のオブザーバー国家とは異なり、シンガポールはまだ極地研究が進んでいない。しかしながら世界の海事産業と深く関わるシンガポール経済の事情から、シンガポールは、北極海へのプレゼンス拡大を試みている。海運のハブ港であるシンガポールは、国際海事機構(IMO)をはじめ、海洋管理と輸送に関わるグローバル・ガバーナンス体制や制度において重要な役割を担って来た。このような事実から、北極航路の発展につれ、シンガポールが北極評議会へ参加したのは自然の流れと理解できる。1959年以降、一党による統治が続いて来たシンガポールは、国家機関および官僚組織がシンガポール経済の管理や企業体活動へ深く介入している。そのため、北極での変化は、企業体のみならず国家そのものにも挑戦と機会として認識されている。とりわけ、北極航路の発展は、マラッカ海峡を通る物流のハブ港としてシンガポールが享有してきた経済的、地政学的な利点が低減すると予想される。しかし、航行の安全、輸送時間、利用可能な季節の制約等、北極海航行の制約条件が山積している限り、マラッカ海峡の重要性は依然として大きい。そして北極航路の常時利用が可能になった場合でも、シンガポール企業がこれまれ蓄積した港湾・物流のインフラ技術に対する需要が予想される。シンガポールの北極における利益は、シンガポール政府と企業が続けて来た国際海事政策からの広範囲の利益と密接に繋がっている。

記事参照:
Singapore: The Arctic Newcomer – Analysis

6月12日「インド、北極圏での活動拡大へ」(NDTV, June 13, 2013)

インドのクルシード外相は6月12日、ノルウェーのアイデ外相と共に、スバールバル諸島のスピッツベルゲン島北部のニーオーレスンを訪問し、インドはこの地にある自国の研究施設、Himadriへの滞在を増やしていくことを明らかにした。この地は、10カ国180人の研究者が滞在する北極研究の最前線である。現時点では、インドの研究者は、最大で40日間しか滞在しておらず、しかも冬期だけである。そのため、インド政府は、今後5年間に1,200万米ドルを投じて、滞在日数を増やす計画である。Himadriの研究者は、「ここで起きていることは、モンスーンやインドなどの諸国に直接影響を及ぼす。北極は変化しており、海氷が溶ける速度は予想したよりも早く、このことは世界的な海面上昇が起きることを意味している」と語っている。

しかし、科学研究だけが、各国を北極に引き付けているわけではない。海氷が溶ける速度が速まれば、これまでアクセスできなかった土地が現れる。ニーオーレスンの世界で最も北に位置する大学、UNISの研究者は、「そこにはかなりの石炭や原油埋蔵資源があり、新たに世界的な注目を集めている」と指摘している。インドのクルシード外相は、インドもまた北極の埋蔵エネルギー資源を巡る、The ‘New Great Game’ に参入するのかと問われ、「インドは自己中心的な関心のためにここにいるわけではない。インドは人類に役立つことは何でもするつもりだ。我々の関心は、地球をより理解し、それを護るために努力することである」と強調した。世界的な燃料価格の高騰で、北極への関心も急速に高まっているが、資源を巡って深刻な紛争になるような状況ではない。しかし科学者は、北極の壊れやすい生態系が開発の最初の犠牲になるかもしれない、と警告している。

一方で、国際的な協力が機能し得る兆候もある。スピッツベルゲン島のロングイエールビエンの山中に深く埋められた施設がそれである。これは「種の金庫 (a ‘Seed Vault’)」という施設で、インドも含む世界中から何百万もの「種」が集められており、病気や災害による打撃に備えて貯蔵されている。この地域の地上は永久凍土で、地殻構造変化もないので、「種」を貯蔵するには理想的である。これは自然保護活動家の発案で、ノルウェー政府によって建設され金庫で、無料で450万もの「種」を貯蔵できる。この金庫は2008年に建設されて以来、「種」を受け入れ続けている。国際協力が機能している事例は他にもある。スバールバル諸島には、世界中から研究者や関係者が集まっている。スバールバル諸島はノルウェーの主権下にあるが、自治が認められている。UNIS大学には世界中から学生が来ており、北極や世界のその他の地域における変化の理由を理解する知識を集め、共有する場となっており、将来の世代に資産を残すための方途を見出そうとしている。

記事参照:
India to expand engagement in the Arctic

6月13日「ニカラグア議会、運河建設プロジェクトの中国企業への譲渡承認」(gCaptain, Reuters, June 13, 2013)

ニカラグア議会は6月13日、将来パナマ運河と競合することが予想される運河の設計、建設および管理を、中国企業に50年間譲渡することを承認した。香港に本社を置くHK Nicaragua Canal Development Investment Co Ltd’s (HKND Group) 社によって提案された、400億米ドル規模の運河プロジェクトは、ニカラグアのカリブ海沿岸と太平洋沿岸を結ぶ運河建設とともに、2カ所の自由貿易地域、鉄道、石油パイプライン及び空港の建設計画も含まれている。ニカラグア政府は、数十年前から論議されてきた運河が建設されることになれば、GDPの成長率が15%まで上昇する、と予測している。HKND Groupの王靖董事長は、ニカラグア議会承認後の声明で、「中央アメリカは南北間及び東西間のグローバルな貿易の中心であり、その中で、ニカラグアは、新たな国際的な海運と補給のハブとして完璧な立地条件を備えている」と強調している。

ニカラグア政府は、運河の建設開始が予測される2015年までに、採算可能性について調査を進める。この調査では運河建設ルートが決められるが、どのルートになっても、中央アメリカ最大の8,265平方キロの湖、Lake Nicaraguaを通るルートになることはほぼ確実である。運河建設は、低地や湖が多いニカラグアの自然地理環境を利用することになるが、それでも、運河の長さは、全長77キロのパナマ運河より3倍程度長くなると予想される。

HKND Groupは、わずか16年後の2030年までに、ニカラグア運河による貿易量が240%増大し、パナマ運河と合わせた通行貨物は1兆4,000億米ドルに達し、世界で最も重要な海上交通路の1つになる、と展望している。一方、パナマ運河当局は、ニカラグア運河の可能性やそれが世界の通商に及ぼす影響について憶測するのは時期尚早である、としている。

記事参照:
Nicaragua Government OK’s $40 Billion Canal Project
HKND Group Press Release dated on June 13, 2013; Nicaragua Ratifies Exclusive Commercial Agreement with HKND Group to DevelopNicaraguaCanal and Development Project
Additional details on the NicaraguaCanal and Development project can be found at the HKND website; Trends in Global Shipping Trade Demand A New Canal
See also Map; Nicaragua

6月13日「ジブチ海軍、米陸軍から海洋監視システム受領」(Defence Web, June 13, 2013)

ジブチ海軍はこのほど、米陸軍「アフリカの角合同統合任務部隊 (Combined Joint Task Force Horn of Africa: CJTF-HOA)」から、海洋監視システムを受領した。このシステム、Regional Maritime Awareness Capability (RMAC) surveillance systemは、領海内の海賊、テロ行為、密輸などの海洋犯罪の監視を目的とした海洋環境識別システムで、自動船舶識別装置(AIS)受信設備を備えた6カ所のレーダーサイトが含まれる。またRMACには、遠隔監視カメラ、ブロードバンド・マイクロ波リンクにより国内全域からデータへのアクセスが可能な6基のセンサーと通信塔、港湾ビデオ監視システム、及び6基の再生可能エネルギーを利用した電力システムが含まれる。ジブチ海軍のアリ作戦部長は、「この海域を航行する全ての船舶を監視することは、我々にとって非常に重要である。我々は、工業も商業も持たないが、港湾を持っている。我々は、自国経済を維持するために港湾の安全を必要としており、このシステムはジブチ海軍の領海監視能力を強化する」と強調した。

記事参照:
Djiboutian Navy gets new maritime surveillance system

6月14日「台湾・フィリピン、漁業紛争で武力不行使に合意」(Channel News Asia, AFP, June 16, 2013)

台湾外交部の6月14日付け声明によれば、台湾とフィリピンは、マニラで開催された漁業協力に関する予備会談で、フィリピン沿岸警備隊による台湾漁民の射殺事案の再発を防止するために、漁業関係法規の執行に当たっては、武力を行使しないことに合意した。また、台湾とフィリピンは、海洋法令執行手順を共有するとともに、他国の船舶と乗組員に対して法令執行を実施する場合は、遅滞なく相互通報することを確認した。更に、拘束した漁船と乗組員の早期解放のために、国際慣行に準拠した手続きを確立することにも合意した。双方は近く、漁業資源の管理と保護に関する会合を開催することに合意した。

記事参照:
Taiwan, Philippines agree to avoid force in disputes

6月14日「マースク、Triple-Eシリーズ・コンテナ船1番船の命名式挙行」(Marine Log, June 14, 2013)

マースク・ラインの最新コンテナ船、Triple-Eシリーズの1番船の命名式が6月14日、韓国の大宇造船海洋玉浦造船所で行われ、”Mærsk Mc-Kinney Møller“と命名された。この船名は、1965年から1993年までCEOで、2012年4月に98才で亡くなった、Mærsk Mc-Kinney Møller に因んだものである。Triple-Eシリーズは、1万8,000TEUの世界最大のコンテナ船で、エネルギー効率と環境に配慮したコンテナ船で、CO2排出量はアジア・欧州間航路のコンテナ船の平均値より50%少ない。マースク・ラインは、Triple-Eシリーズを20隻発注しており、今後数年以内にアジア・北欧間航路に順次投入される。

記事参照:
Maersk names first Triple-E containership

6月15日「インド海軍、南部に海軍用埠頭建設へ」(The New Indian Express, June 16, 2013)

インド海軍は6月15日、南部艦隊司令部で開催された、アントニー国防相を議長とするハイレベル会談で、大陸南端のティルヴァナンダプラム近郊のVizhinjam港に、海軍艦艇用の埠頭を建設することを決定した。建設コストは、ケララ州政府とインド海軍共同で負担する。インド海軍は、Vizhijnam港に500メートルの埠頭建設を求めている。ケララ州政府はすでに、海軍がコストを負担するならば、建設に問題はないとしている。ケララ州政府は、埠頭建設には49億8,000万ルピーかかるとみている。国際的な航路からわずか10カイリしか離れていないVizhinjam港に根拠地を建設することの戦略的重要性を認識し、海軍と沿岸警備隊はともに、ここに基地を設置することに関心を寄せてきた。海軍は500メートルの埠頭と25エーカーの土地を、沿岸警備隊は150メートルの埠頭を求めている。

記事参照:
Berthing facilities for naval ships

6月16日「コーチン港での浚渫、港にダメージ―インド沿岸域研究家警告」(The Hindu, June 16, 2013)

インド海軍退役中佐で、インド沿岸域の研究者、John Jacob Puthurは、このほど出版した著書、The Untold Story of a Coastの中で、コーチン港における堆積土砂排除のための浚渫が港自体に深刻なダメージを与えることになるかもしれない、と警告している。Puthurによれば、コーチン港は1920年代に英国人港湾エンジニア、Robert Bristowによって建設されたが、港湾維持のための浚渫作業は必要ないとされた。Puthurは、「Bristowの指針に反して、インド海軍が1980年代半ばに南埠頭を建設するまでは、本当にそうだった。この埠頭によって、かつて美しかったFort Kochi Beachへの土砂の流入を遮断してしまい、この砂浜は浸食され始めた。現在、ビーチはなくなってしまい、醜い護岸になっている。同時に、ビーチを維持するはずであった土砂がVypeen Coastに流れて堆積している。その後、Vypeenの東にVallarpadamコンテナターミナルが建設された」と書いている。Puthurは、このコンテナターミナルにそって浚渫することで、土砂の海への流入を遮断することになろう、と指摘している。「このような沿岸の浸食は、環境問題の観点から見て深刻である。何故なら、ここには石油精製品を貯蔵しているタンクがいくつも建設されているからだ。すでにこれら貯蔵タンクは、塩分を多く含む強い風を吹き付けるモンスーンに晒されており、腐食する可能性がある。もし貯蔵タンクの1つがひどい腐食ために破損し、中身がコーチン港に流出したらどうなるであろうか?Vallarpadamのコンテナターミナルも、強いモンスーン風に対するシェルターを欠いている。そのため、5月から9月まで4カ月続くモンスーンの期間中、コンテナの取り扱いは非常な困難を伴う。南埠頭の建設に始まった開発工事の結果、状況は何倍も悪化し、現在、コーチン港は、機能維持のため、モンスーン期間中、浚渫を行わざるを得なくなった」と、Puthurは言う。更に、「沿岸域は、陸地より土砂が流入しなくなると浸食される。それは波によるものではない。波と沿岸域は共存してきた。土砂の流入が途絶えるという事態は、主に沿岸の港、海岸道路、ダムや河川における架橋などの思慮に欠ける建設プロジェクトが原因である。沿岸域の浸食は、沿岸への土砂の流入が回復されない限り、止まらないであろう。しかし、簡単な解決法はない」と指摘している。

記事参照:
Maintenance dredging may harm Kochi port

617日「北極圏を巡る騒ぎに対するロシアの対応」(The Voice of Russia, June 17, 2013)

ロシアは、北極圏を巡る西側諸国の動きを受け、北極圏における軍事活動を活発化させる。自国の地政学的利益を保護するために、そのような対策を講じる必要がある。複数の専門家は、いま北極圏における軍事力を増強しなければ、アメリカやそのNATO同盟国が始めた北極圏の軍事化に追いつくのが難しくなるだろう、と指摘している。

北極圏の軍事化を考える新たなきっかけとなったのは、北極評議会の総司令官級会合だった。会合は、ロシア空軍基地の仮想戦闘環境における機能テストの実施と重なった。空軍の機能テストは今後、北部を中心にさらに増える予定だ。ロシアでは「北極圏におけるロシアの国家政策基盤」が承認され、これに基づき北極圏では、北極部隊の創設や軍事インフラの整備が進み、国境警備が強化されているが、これらは、現在の状況では当然の措置だ。ロシア外交・防衛政策会議のススロフ調査担当副責任者は、各国間の争いが、資源開発を妨げる恐れがあると指摘し、「北極圏の資源は、まだ本格的な調査が行われていないが、すでに今から、北極圏における根拠のない緊張の高まりや、ある種の軍拡競争に向けて準備する必要がある。これらは非常に悲しい傾向だ。たとえ北極圏に鉱物資源があったとしても、現時点では、それらの採鉱費用は極めて高額であり、経済的にも妥当ではない。各国が相互協力を宣言し、北極開発で協力するべきだ。例えば、ロシアのロスネフチとアメリカのエクソンモービルが協力することもできるだろう」と語っている。

ロシアは、北極海に接する最も長い海岸線を持っており、北極圏には、北極圏諸国のデンマーク、カナダ、ノルウェー、アメリカよりも大きな貿易・経済的、資源・エネルギー的、軍事・政治的な利益がある。ロシアはこれらの利益を譲る気はない。

記事参照:
北極圏を巡る騒ぎに対するロシアの対応

6月17日「拡大ASEAN国防相会議合同演習、開始」(People’s Daily Online, June 17, 2013)

拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)による初めての人道支援・災害救援・軍事医療合同演習、The ASEAN Defence Ministers’ Meeting-Plus Humanitarian Assistance and Disaster Relief and Military Medicine Exercise ( ADMM PLUS HADR & MM Ex) は6月17日、ブルネイの首都バンダルスリブガワンのルアラ海軍基地に設営された、The Multi National Coordination Centreで開始式典を行い、20日まで4日間の日程で実施される。ADMMプラスを構成する18カ国、ASEAN10カ国と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、米国及びロシアから2,000人余りの将兵が参加する。台風及びそれに伴う水害や土石流など2次災害を想定し、捜索・救難、医療、道路・橋梁修復、物資輸送、衛生・防疫などの演習を行なう。中国は、病院船「平和の方舟」を派遣し、演習の全日程に参加する。

記事参照:
ASEAN-Plus exercise officially kicks off in Brunei

6月17日「WWF、世界の海難事故に関する報告書公表」(gCaptain, June 17, 2013)

世界自然保護基金(WWF)は6月17日、世界の海難事故に関する報告書を公表した。この報告書は、1999年から15年間の世界における海難事故の特徴を分析したものである。

それによれば、海難事故の多発海域は、南シナ海と東インド諸島海域、東部地中海と黒海、北海とイギリス諸島海域、そして日本海周辺海域である(Accidents at Sea inforgraphic参照)。特に、1999年以来、南シナ海と東インド諸島海域での海難事故は233件発生している。この海域は、世界のサンゴ礁の76%を占める、The Coral Triangleと呼ばれる海域である。また、船種別に見れば、過去15年間の海難事故で失われた船舶の40%以上が一般貨物船で、次いで漁船が約25%を占める。船舶の船齢は10年以上が多く、また船籍を見れば、規制の緩い旗国が多い。報告書は、一般貨物船の事故が多いのは、特に東南アジアで不定期貨物船が定められた航路以外の航路を航行することによる、と指摘している。

記事参照:
New Study Identifies World’s Most Dangerous Ship Accident Hotspots
See also; Accidents at Sea inforgraphic
Accidents at Sea Report Summary

6月18日「インド海軍、老朽化が進む潜水艦隊に懸念」(NDTV, June 18, 2013)

インド海軍は、潜水艦戦力が減耗しつつあることに懸念を抱いている。海軍は、14隻の通常型潜水艦を保有しているが、半分しか稼働させていない。これは、潜水艦の老朽化が進み、修理や整備により多くの時間がかかるようになっているためである。インド海軍によると、潜水艦の不足は深刻である。海軍高官は、「海中に潜水艦が潜んでいる可能性があれば、敵の艦船は自由に動けなくなる。潜水艦隊が減耗し続けていることは、インド海軍がその能力を失いつつあることを意味する」と語っている。また悪いことに、2016年までに配備されることになっていた6隻のスコルペヌ級潜水艦は、さらに遅れることになった。1番艦は2012年に配備される計画であったが、2016年に配備されることになろう。遅延の理由は、潜水艦のセンサーや推進機関を含む装備の購入を決定する、国防装備品取得庁と造船所、Mazagaon Docks Limited (MDL) の官僚主義的な怠慢である。発注は、2022年までには完了しそうにない。6隻のスコルペヌ級潜水艦は、フランスのDCNSからの技術提供を受けながら、ムンバイのMDLで建造されている。

インド海軍は、西岸と東岸でパキスタンと中国を抑止するには、少なくとも24隻の潜水艦が必要としている。中国は60隻の潜水艦を保有しており、パキスタンは5隻保有している。スコルペヌ級潜水艦は、2016年に1番艦が引き渡された後、毎年1隻ずつ引き渡されることになりそうである。

記事参照:
Navy concerned over India’s depleting submarine fleet

6月18日「北極海を巡るNATOとロシアの角逐と協力」(Barents Observer, June 18, 2013)

北極における直接的なプレゼンスを否定する最近のNATOの決定は、ロシアおよび北極海地域のNATO非加盟国に肯定的なシグナルを送っている。NATOの北極における軍事プレゼンスの拡大を主張したノルウェー軍のタカ派の試みは失敗に終わった。これは当該地域で資源開発を推進している企業にとっては、政治的なリスクに伴う安全と保険費用の値上がりを阻止する良いニュースであった。北極圏におけるパワー・バランスは、冷戦時代にはライバルであった国家間同士の経済協力の可能性を生み出している。

戦争が続く世界の他地域に比べて、北極海周辺は安定しているが、ロシアとNATOの信頼問題も依然として存在する。6月3、4日にノルウェーのキルケネスで開かれたバレンツ・サミットにおいて、ロシアのメドベージェフ首相は、NATOがスウェーデンとフィンランドまでに拡大することは北極海におけるパワー・バランスを壊し、ロシアの対応を招く危険がある、と警告した。NATOが北極での軍事プレゼンス拡大する間接的な試みとして、緊急事態対処措置や災害対策を利用するかもしれない、と考える専門家もいる。しかしながら、現時点で、NATOはすでにロシアのプレゼンスが確立されている北極海を軍事化する計画がない、とNATO事務総長は断言する。また、ロシアの資源開発を巡るエネルギー企業間の協力や北極海航路の有用性は、ロシアと沿岸国間の対立を和らげる効果をもたらしている。ロシアの北極におけるパートナーシップを目指した新たな措置として、北方航路管理局がモスクワに設立されている。ロシア・ルートの航路に関心を持つ海運会社は、透明性の高い手続きによって、通行許可を得ることができる。

記事参照:
Russia’s Arctic, NATO and Norway: a post- Kirkenes political landscape

6月18日「海賊被害による2012年の人的、経済的コスト―米シンクタンク推計」(Ocean Beyond Piracy, One Earth Future Foundation, Press Release, June 18, 2013)

米コロラド州のシンクタンク、One Earth Future Foundationによるプロジェクト、Ocean Beyond Piracyは6月18日、ソマリアと西アフリカにおける海賊被害による2012年の人的、経済的コストに関する報告書を公表した。

(1) ソマリアの海賊による2012年の人的コスト
a.ソマリアの武装海賊によって襲撃された船員:851人(2011年比78%減)。b.ソマリアの海賊によって船舶に乗り込まれた船員:381人(2011年比61%減)、内、人質となった船員;349人(2011年比37%減)、2010年と2011年から拘束されている人質;240人。c.2012年の人質合計:589人、平均拘束期間:11カ月、人質死亡:5人。

(2) ソマリアの海賊による2012年の経済的コスト:57億~61億米ドル
a.身代金等:1%、b.保険:10%、c.船舶の保安装備・武装警備員雇用:29%、d.航路迂回経費:5%、e.襲撃回避のための増速経費:27%、f.危険手当等の労務費:8%、g.起訴、裁判経費:1%以下、h.各国の軍事活動経費:19%、i.各種海賊対処活動組織の経費:1%以下。

(3) 西アフリカの海賊による2012年の人的コスト
a.西アフリカの海賊によって襲撃された船員:966人。b.海賊によって船舶に乗り込まれた船員:800人、内、人質となった船員;206人(平均拘束期間:4日)、身代金目的で陸上に拉致され拘束された船員;5人(拘束期間に関するデータなし)。c.人質死亡:5人。

(4) 西アフリカの海賊による2012年の経済的コスト:6億7,400万~9億3,900万米ドル
a.強奪された財貨:8%、b.保険:49%、c.武装警備員雇用経費:19%、d.軍支出:15%、e.危険手当等の労務費:8%、f.能力構築支援:1%以下。

記事参照:
Launch Of Report On The Human Cost Of Maritime Piracy 2012
See Also; Human Cost of Piracy 2012 – Summary
Full Report: The Human Cost of Maritime Piracy 2012

6月19日「中国空母、2回目の発着艦訓練実施」(China Defense Mashup, June 21, 2013)

渤海海域で海上公試を実施中の中国海軍の空母、「遼寧」で6月19日、艦載機J-15の発着艦訓練が行われた。これは、2012年11月に次いで2回目の訓練である。「遼寧」で6月11日、科学実験と各種海洋訓練を実施するため、母港、青島を出港した。これは、「遼寧」が2013年2月に青島に移って以来、初めての出港である。

記事参照:
J-15 Landing on China’s Aircraft Carrier Liaoning on June 19
Photo; http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2013-06/20/content_29176517.htm
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2013-06/17/content_29142482.htm

6月20日「英国、ケニア・モンバサ港のインフラ整備支援」(Nairobi Capital FM, June 20, 2013)

英国のターナー駐ケニア総督は6月20日、英国際開発省 (Department for International Development: DFID) がケニアのモンバサ港のインフラ整備に45億シリング(約51億円)を援助すること明らかにした。この援助は、貨物移動の混雑解消を目的に、道路と鉄道との接続、港湾内のターミナルの整備や埠頭の拡張に投入される。このインフラ整備によって、2030年までに同港の貨物取扱量は400%増加すると予測されており、インフラ整備は同国に1,000億シリング(約1,130億円)の経済効果をもたらすという。

記事参照:
Britain pumps Sh4.5bn to Mombasa port

6月20日「中越両国、トンキン湾共同開発鉱区拡大に合意」(RIGZONE, Dow Jones Newswires, June 20, 2013)

ベトナム政府が6月20日に明らかにしたところによれば、ベトナムと中国は、2016年までにトンキン湾の共同開発鉱区を拡大することに合意した。ベトナムの国営、PetroVietnamと中国国営、中国海洋石油総公司 (CNOOC) は、2006年11月からトンキン湾で共同開発を行っているが、未だ商業生産可能な鉱区を発見していない。今回の合意で、中越両国は、当初の1,541平方キロの共同開発鉱区を4,076平方キロに拡大する。担当鉱区と経費は2等分される。

記事参照:
Vietnam, China Expand Joint Exploration in Gulf of Tonkin

6月20日「米海軍力に対する中国の強まる挑戦―米専門家論評」(The Wall Street Journal, June 20, 2013)

米ハドソン研究所のクロプシー (Seth Cropsey) 上席研究員は、6月20日付の米紙、The Wall Street Journalに、“China’s Growing Challenge to U.S. Naval Power” と題する論説を寄稿し、中国海軍が台頭する一方で、米海軍力が予算の制約等で縮小しつつある現状を懸念し、強力な米軍のプレゼンス維持が不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。

(1) ヘーゲル国防長官は先般のアジア諸国歴訪で、米国防予算の7%削減が地域におけるアメリカの影響力の低下に繋がることを懸念するアジア諸国に対して、アジアにおける「再均衡化」というオバマ大統領公約に言及して、アメリカは「再均衡化」のためにあらゆる措置を取りつつあると述べ、懸念払拭に努めた。また、ヘーゲル長官は、中国との軍同士の関係改善にも言及した。長官の補佐官は、オーストラリアのダーウィンに展開する海兵隊を250人から1,100人に増強する計画であることを明らかにした。

(2) 長官のこうしたメッセージは、地域の同盟国を安堵させたとは思われない。ダーウィンの海兵隊が最終的に2,500人になったとしても、この戦力は、アジアと欧州間の海運が経由しなければならない、マラッカ海峡、スンダ海峡及びロンボク海峡といったチョークポイントの制海権を巡る紛争には役立つかもしれない。しかしながら、日本、韓国、台湾、フィリピンあるいはベトナムに対する中国の直接的な脅威に対しては、限定的な役割しか果たせないであろう。南シナ海北端からダーウィンまでの距離は、ニューヨークとサンフランシスコ間の距離にほぼ等しい。

(3) 中国は、米中軍事関係改善の一環として、次回のRIMPAC演習に参加することになっているが、それが中国の西太平洋における野心を和らげることに繋がると見るのは馬鹿げている。中国は、台湾に対する長年の威圧に加えて、南シナ海と東シナ海における覇権を狙っていることを隠そうとしていない。中国のこうした野心は、広範な軍事力近代化計画によって裏付けられている。

(4) 西太平洋における中国軍事力の増強に直面している状況下で、米海軍の艦艇数は、1990年代初めの冷戦終結直後の艦艇数の半分以下に減少している。任務遂行に必要な306隻の艦艇を建造するという、海軍の計画は非現実的である。下院軍事委員会シーパワー小委員会のフォーブス委員長(共和党)は6月18日のハドソン研究所での講演で、「2007年には、海軍は、戦闘司令官が必要とする艦艇数の90%に対応することができた。しかし、2013年には、51%になってしまうであろう」と述べた。

(5) 米中の軍事投資における格差が広がり続ければ、ついには西太平洋における軍事バランスを変化させることになろう。軍事バランスの変化は、軍事紛争を招来するか、あるいは中国の優位に対するアメリカの暗黙の認知か、いずれかになりかねない。米中紛争は悲惨だが、中国優位も好ましいことではない。国際秩序を形成するアメリカの能力は、世界で最も人口の多い、そして経済的に繁栄したこの地域における中国の優位によって、終焉を迎えることになろう。

(6) もしアメリカの一方的な軍備縮小が続き、また国防省が各軍種に予算を概ね均等に配分する方式に固執した場合、西太平洋に展開可能な米海軍力はかなり低下することになろう。その代わり、アメリカが太平洋に強力な軍事力を維持し続けようとすれば、カリブ海やペルシャ湾といった、戦略的に重要な海域への海軍力のプレゼンスを放棄せざるを得なくなろう。こうしたシェルゲームは、アメリカの戦略にとって最善の利益にはならないし、またアメリカが数十年にわたって構築し維持してきた国際秩序の利益にもならない。アメリカと安定した世界秩序にとって枢要な課題は、グローバルに分散、配備された強力な軍事力を維持するアメリカの能力である。アメリカは、アジアの安全保障状況にもっと注意を払う必要がある。アメリカの「再均衡化」には錘が必要だが、アメリカはこの錘を失いつつある。日本が潜水艦戦力を16隻から24隻に増やそうとしていることは、アジアの指導者がこのことを認識していることを示している。

記事参照:
China’s Growing Challenge to U.S. Naval Power