海洋情報旬報 2013年8月1日~10日
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8月1日「台湾、アメリカのアジア戦略に不可欠―米専門家論評」(The National Interest, August 1, 2013)
米ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院のハルピン (Dennis P. Halpin) 客員研究員は、8月1日付の米誌、The National Interest(電子版)に、“Don’t Abandon Taiwan” と題する論説を掲載し、アメリカのアジア戦略における台湾の重要性について、要旨以下のように論じている。
(1) 台湾の存在と太平洋地域におけるアメリカの将来の役割との間には、明確なリンケージが見て取れる。もし台湾が中国本土の政治的な支配下におかれた場合、中国の海軍力は、東南アジアと北東アジアを結ぶ重要なシーレーンに対するアクセスが可能となろう。このことはまた、太平洋における軍事バランスの再編を目論む中国の軍事的目標に大きく役立つであろう。米海軍力の前方投射能力を減殺させる狙いとした、中国のA2AD戦略が実現することを意味する。かつてマッカーサー将軍が台湾を「不沈空母 (an “unsinkable aircraft carrier”)」と呼んだ所以である。
(2) 対中接近を求め、アメリカは台湾への関与を漸進的に減らすべきだと主張する声も存在する。なかには、将来、台湾をめぐって米中関係の危機が地域あるいは世界レベルの全面戦争へエスカレートする可能性を懸念し、その解決策として、台湾関係法によるコミットメントを放棄し、台頭する中国との良好な関係を維持すべきという人もいる。こうしたアメリカの戦略的後退は北京の歓迎するところであろう。このことは、2009年の米中共同声明に明記された、北京の最優先外交目標を一層促進させることになろう。2009年の米中共同声明は、「相互の核心利益を尊重することが米中関係の進展に極めて重要である」と明記している。そしてアメリカは、中国の「核心利益」に台湾が含まれることに理解を示した。2013年6月のカリフォルニア州サニーランドでのオバマ大統領と習近平国家主席との首脳会談では、習近平主席は、「新しい大国関係」を提起した。これは、「核心利益」には言及していないが、アメリカの衰退と中国の台頭という、中国軍部と共産党首脳の認識を反映したものである。一方、オバマ大統領は、習近平主席の台湾向け武器輸出を何時停止するのかとの問いに対して、台湾関係法に基づく防衛用の武器輸出を継続する方針を確認した。更にもしオバマ大統領が1983年の台湾に対する「6つの保証」*にも言及しておけば、中国の「新しい大国関係」に対する、アメリカの一層明確なメッセージとなったであろう。
(3) 台湾は依然、北京が指す複雑な中国版チェスゲームにおいて、鍵となる駒である。両岸関係に関してアメリカに安心感を与えたり、台湾関係法と「6つの保証」に基づく台湾に対するコミットメントから身を引くようアメリカに要求したりすることは、北京にとって、台湾自体の歴史的、文化的重要性を超えた、大きな戦略的価値を持つ。米第7艦隊が支える太平洋地域における「パックス・アメリカーナ」は、第2次大戦後に形成され、発展してきた安全保障同盟網の上に形成されてきた。この同盟網は、ほぼ70年にわたってアジア太平洋地域の平和を維持して来た。太平洋地域におけるアメリカのコミットメント後退の如何なる兆候も、世界で最もダイナミックな経済状況にあるこの地域の平和と繁栄を支えてきた、極めて重要な同盟網の緩やかな崩壊の始まりとなろう。北京の台湾に対する威圧的政策にアメリカが妥協的な態度をとれば、北はソウルと東京から南はマニラとキャンベラまで、ショックウェーブが広がるであろう。台湾住民に意に反して北京の力に屈すれば、アメリカ自身の核心利益を完全に損なうばかりか、アジア太平洋地域における「パックス・アメリカーナ」の永続性にも疑問符が付こう。
(4) 北京の威圧的な「1つの中国」政策によってアジア諸国の行動の自由が制約されていても、ほとんどのアジア諸国は、再び台頭しているが依然として全体主義的な中国に対する強力な対抗力 (a strong counterweight) として、ワシントンに期待しているのである。もしワシントンに期待できなくなれば、たとえば、ソウルの政策決定者らは、蘇った中華帝国との伝統的な関係に帰るのが、苦渋だが最善の選択と決心するかもしれない。孤立する日本は、唯一の選択肢としてリスキーな「我が道を行く」戦略をとるかもしれない。東南アジア諸国も、実行可能な唯一の対案として、北京の通商や領有権の要求により妥協的な対応をするかもしれない。
(5) アメリカ自身も、この地域の商業的な利益を保護するための艦隊なしには、新しい世界経済の中心となったアジア市場から閉め出されるかもしれない。ここにおいて、台湾は、狭い海峡を隔てて巨大な共産国家に対抗する小さな民主主義国家以上の存在感を発揮する。台湾は、中国文化が民主主義への進化を果たした象徴であり、第2次世界大戦後形成されたアメリカのアジア同盟網の中核的なリンクである。フェンスを繋ぐリンクが壊れれば、フェンスは容易く崩壊する。サニーランド首脳会談でオバマ大統領が改め確認したように、アメリカの台湾との安全保障協力の持続は、アメリカが太平洋地域に戦後構築した安全保障機構を支える要である。台湾なしでは、アメリカのアジアにおける再均衡化戦略には、巨大な空白が生じるであろう。
記事参照:
Don’t Abandon Taiwan
注*:米レーガン政権が1982年7月14日、台湾に示した以下の6つの保証。(1) 台湾への武器輸出の終了期限は設定しない、(2) 台湾への武器輸出に関して中国とは事前協議しない、(3) 台湾と中国との間の仲介は行わない、(4) 1979年台湾関係法を修正しない、(5) 台湾の主権に関する米国の立場を変更しない、(6) 台湾に対して中国との交渉を慫慂しない。
8月2日「インド・スリランカ・モルディブ、海洋安全保障協力を促進」(Institute of Peace and Conflict Studies (IPCS), August 2, 2013)
インドのIndian Council of World Affairs の研究部長、Vijay Sakhujaは、最近公表された、インド、スリランカ、モルディブの3カ国が調印した、Trilateral Cooperation on Maritime Security (TCMS) に関する協定について、要旨以下のように論評している。
(1) インド、スリランカ、モルディブの3カ国は最近、Trilateral Cooperation on Maritime Security (TCMS) に関する協定に調印した。協定文書は、7月に開催された国家安全保障アドバイザー級の会談の後、公表された。それによれば、この協定は、海洋状況識別能力 (MDA)、船舶長距離識別追跡 (LRIT)、商船情報システム (MSIS)、及び船舶自動識別システム (AIS) を通じて、3カ国がアラビア海南部の海洋安全保障を強化しようとするものである。3カ国はまた、訓練を含む捜索救難活動の調整を強化し、油流出事故への対応における協力態勢を確立し、2国間合同演習の内容を充実させ、既存の通信チャンネルを通じて海洋における違法な活動に関する情報を交換し、そして海賊対処に関わる政策的、法的諸問題に対処するための地域グループを創設することを決定した。
(2) これらは重要なイニシアチブであり、地理的、商業的、戦略的、更には環境及び法的視点から必要なものである。
第1に、3カ国は、ホルムズ海峡からマラッカ海峡を結ぶアラビア海のシーレーンに沿った戦略的位置にある。インドとモルディブ間の海域はチョークポイントではないが、多くの商船が通航する広い国際海域である。
第2に、モルディブやインドの沿岸に迫る、ソマリア海賊への対処である。ソマリア海賊による襲撃事案がモルディブ周辺海域で多く発生しており、この島嶼国家が海賊に対して脆弱であることを露呈してきた。
第3に、3カ国は、1988年のスリランカを拠点とする一部の反政府分子によるモルディブにおけるクーデター未遂事件、スリランカのタミル・イーラム解放の虎による同国北部海域の制圧、2008年のムンバイ同時テロなど、海上からのテロリスト襲撃事案を経験してきた。
第4に、モルディブとスリランカの現在の安全保障機構は、海洋からの脅威を抑止し、探知し、そして撃退するには不十分である。3カ国の海軍は、共同訓練、艦艇の相互訪問、装備の提供、そして情報の共有を通じて、作戦運用レベルでそれぞれ2国間の協力態勢を築いている。インドとモルディブは、MDAを強化するとともに、EEZを哨戒するために、海上哨戒機を展開する協定を締結している。インドはまた、能力構築のために、高速攻撃艇や沿岸警備レーダー網の設置を支援している。インドとスリランカの間でも、同様の海軍力強化のための協定が多くある。
第5に、海賊容疑者を起訴するための法的問題である。例えば、モルディブは、40人の海賊容疑者を収監しており、国際社会に法的能力強化の支援を求めている。米海軍とインターポールは、モルディブに対して海賊容疑者から供述をとる訓練を行っている。
最後に、インドネシア、マレーシア、シンガポール及びタイはマラッカ海峡で哨戒活動 (The Malacca Strait Sea Patrol: MSSP) を実施しているが、この3カ国協定 (TCMS) も、そうした共同哨戒態勢に拡大される可能性があり、それが実現し、マラッカ海峡のMSSPとアラビア海のTCMSの緊密な調整関係ができれば、アラビア海南部から南シナ海西部までシーレーン防衛に資する大であろう。
記事参照:
India, Sri Lanka & Maldives: A Maritime Troika Leads the Way
8月2日「米民間海上警備会社、米沿岸警備隊の船位通報システムに参加」(MarineLink.com, Friday, August 2, 2013)
ワシントンに本部を置く民間海上警備会社大手、AdvanFort Companyは、アデン湾及びインド洋のハイリスク海域に海賊対策船を配備しているが、このほど米沿岸警備隊が調整するコンピューターによる任意の船位通報システム、Automated Mutual Assistance Vessel Rescue System(AMVER)に加入した。ハイリスク海域に展開する同社の海賊対策船は現在、世界の捜索救難機関に利用されるこの任意のシステムに登録されている。同社のワトソン会長は、「ハイリスク海域に戦略的に配備された当社の船舶は、付近の船舶が救援を求めた場合、捜索救難任務を支援できる。また、当社の船舶は非番の民間雇用武装警備要員 (PCASP) チームの拠点となっており、海賊やその他の海洋犯罪グループに襲撃された船舶を護ることもできる」と述べている。
記事参照:
Counter Piracy Firm’s Vessels Join AMVER
8月3日「フィリピン沿岸警備隊、フランスから警備艇購入」(Philippine Daily Inquirer, August 3, 2013)
フィリピン沿岸警備隊(PCG)は、フランスから艦齢26年の海軍警備艇、La Tapageuse(長さ54.8メートル、排水量373トン)を600万ユーロで購入する。PCGのイソレナ (RADM. Rodolfo Isorena) 司令官によれば、警備艇の購入は、海洋法令執行活動、捜索救難活動そして環境保護活動を含む、PCGの任務遂行に大いに役立つことになろう。警備艇は、現在改修中だが、建造当時の固有装備として40ミリ高射砲、20ミリ対空カノン各1門、7.62ミリ機関銃2基を搭載している。警備艇は、フランスで9カ月間の改修が行われた後、2014年4月にフィリピンに到着する予定である。イソレナ司令官は、更に新造多目的船を5隻(長さ24メートル艇を4隻、82メートル艇を1隻)の購入について、フランス政府と最終的な詰めの話し合いを行っている、と述べた。5隻は、2015年にフィリピンに到着すること予定である。
記事参照:
Coast Guard to buy old French Navy vessel
8月3日「オーストラリア、ReCAAP加盟」(ReCAAP, Press Release, August 3, 2013)
オーストラリアは8月3日、ReCAAPの19番目の加盟国となった。オーストラリアの加盟によるReCAAPネットワークの拡大は、アジアにおける海賊と船舶に対する武装強盗に効果的に対処するための国際的協調の重要性を示すものである。オーストラリア国境防衛コマンドのジョンストン (RADM David Johnston) 司令官は、「オーストラリアは、海賊との闘いに参加するとともに、ReCAAPのような地域機構を通じてアジア太平洋地域に広く関与していく。ReCAAPへの加盟によって、オーストラリアは、海賊や船舶に対する武装強盗の脅威を監視していく上で、大きな知見を得られるであろう。また、オーストラリアは、ReCAAPでの議論に参加することを楽しみにしている」と語った。
記事参照:
Australia joins the ReCAAP
8月5日「中国、南シナ海の哨戒ルート確立、占拠島嶼の施設拡充―フィリピン軍秘密報告書」(GlobalPost.com, Kyodo News International, August 5, 2013)
共同通信が8月5日付けで報じた、フィリピン軍の秘密報告書によれば、中国海軍南海艦隊は2013年に、南シナ海の中国が主張する「9段線」内にある、リーフ、島嶼及び暗礁を網羅する監視哨戒ルートを確立し、そしてこれら占拠島嶼における施設を拡充しているという。以下は、この報道が伝える秘密報告書の主な内容である。
(1) Mischief Reef(美済礁)は、1994年後半に中国が占拠し、翌1995年2月にフィリピン軍がその事実を公表したが、現在では、南シナ海における中国海軍の最も活動的な基地であり、指揮センターになっている。中国海軍のフリゲートや哨戒艇、更には漁船がこの基地にしばしば停泊している。中国は、Mischief Reefを海軍の前進基地として要塞化しており、ヘリパッド、コンクリート製プラットホーム、2基の海軍対空砲及び2基の機関銃用の砲座、クロススロット・レーダー、パラボラアンテナやダイポールアンテナなどの衛星通信設備、ソーラーパネル、探照灯、更にはバスケットボールコートまで備えている。建屋は、監視タワーを併設した3階建てである。
(2) 中国は、Mischief Reefに加えて、Fiery Cross Reef(永暑礁)、Subi Reef(渚碧礁)、 Cuarteron Reef(華陽礁)、Johnson Reef(赤瓜礁)、Gaven Reef(南薫礁)などの占拠島嶼の施設も拡充しており、いずれも南海艦隊の管轄下にある。Subi Reef(比名、Thitu Island)は、中国に占拠された最も新しい島嶼で、4基の海軍対空砲、胸壁、パラボラアンテナやヤギアンテナを備え、更に最近レドームが設置された。建屋は、3階建てコンクリート建屋1棟、同2階建て1棟に加え、新たに3階建て8角形のコンクリート建屋1棟と3階建てコンクリート建屋2棟が建設され、更に1棟の「廃屋」がある。中国の占拠島嶼には、Mischief Reefと同じような施設、装備が備えられ、3階建てか2階建ての建屋がある。Fiery Cross Reefは、南シナ海に展開している、玉庭級揚陸艦が前進拠点としてしばしば利用しており、また通信・海洋調査センターともなっている。
(3) 新たに確立された哨戒ルートは、南シナ海情勢をより危険なものとするばかりか、2013年2月以来、Second Thomas Shoal(仁愛礁)周辺海域にまで中国海軍艦艇が展開しているように、「重大な現状変更」をもたらしている。Second Thomas Shoalは、フィリピン軍が分遣隊を派遣している9カ所の島嶼の1つで、1999年以来、第2次大戦当時の揚陸輸送艦を座礁させて拠点としている。北京は、この島嶼への分遣隊派遣を非難し、座礁船を離礁させるよう要求してきた。これに対して、マニラは、この島嶼がパラワン島から約105カイリのフィリピンの管轄海域にあると主張している。またこの島嶼は、他国によるフィリピン領土に近接した島嶼占拠を阻止するための前進監視拠点となっている。中国は、この周辺海域に、少なくとも2隻のフリゲートと玉庭級揚陸艦1隻からなる、「常続的なプレゼンス」を維持している。また、補給船もこれら戦闘艦への補給のために展開しており、更に少なくとも4隻の「海監」、「漁政」からなる監視船も展開している。「漁政」は旧海軍艦艇を改造したものである。
(4) フィリピン軍の戦力は、南シナ海のほぼ全域の制覇を目指す中国の高圧的姿勢を撃退するために必要な軍事行動がとれるほど、十分なものではない。従って、南シナ海におけるフィリピンの防衛態勢は、状況の変化に対して対症療法的なものに留まっている。
記事参照:
Chinese navy launches new patrol route in the S. China Sea
8月5日 「日本・フィリピン、戦略的パートナーシップを強化」(RSIS Commentaries, August 5, 2013)
シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)のJulius Cesar I. Trajano上席分析者は、8月5日付けのRSIS Commentariesに、“Japan-Philippines Strategic Partnership: Converging Threat Perceptions” と題する論説を掲載し、7月27日の安倍首相のフィリピン訪問で強化された日比戦略的パートナーシップについて、要旨以下のように論評している。
(1) 7月27日にマニラで開かれた首脳会談において、安倍首相とアキノ三世大統領は、日比戦略的パートナーシップを強化することに合意した。フィリピンにとって、アメリカに次いで、日本は2番目の戦略的パートナーとなった。安倍首相は、2国間協力の主なイニシアチブとして、海洋における協力促進、2国間経済協力の強化、フィリピンの災害対策に使われる借款の返済期間延長、そしてミンダナオ平和プロセスへの支持表明などを発表した。両国首脳は、両国が直面している地域安全保障の課題、就中中国との領有権問題に関しても意見交換を行った。
(2) 日比戦略的パートナーシップは2011年に形成された。当初は日比経済的パートナーシップ協定の実施を通じて両国間の投資交流を促進するためのものであったが、第2次安倍政権からは、海洋安全保障協力が戦略的パートナーシップの主な柱となっている。安倍首相は、10隻の巡視船をフィリピン沿岸警備隊へ供与することを確認した。両国は域内の重要なシーレーンの安定と航行の自由という国益を共有する海洋国家であり、両国間の協力は、東シナ海、南シナ海における中国の海洋進出に対する明確なメッセージでもある。日本と海洋協力を強化することは、フィリピンの限られた軍事力と不安定な状況を補うための戦略の一環であり、また南シナ海の領有権問題をめぐり、当事国2国間の解決を主張する中国に対抗して、南シナ海問題の国際化を図るマニラの決意を誇示するものでもある。アキノ三世大統領は、南シナ海に面した旧米軍施設であるスービック海軍基地へのアクセスを、アメリカと日本に認めると明言している。
(3) 東京とマニラ間の海洋における協力は、東シナ海と南シナ海で自己主張を強める中国を抑制することを狙いとした、ダイナミックな関係を誇示する意図がある。しかしながら、フィリピンが中国の軍事力増強の対抗勢力として日本に期待するのは誤りである。依然として太平洋地域の覇権国はアメリカだけであり、アメリカの軍事プレゼンスによって地域の平和と安定が保たれているのである。日本による巡視船の供与やフィリピンの基地への日本のアクセスが、南シナ海のパワーバランスを変えることはない。それでも、日本の支援は、フィリピンの海洋状況識別能力を強化するとともに、日本が中国の海洋活動と海軍力の増強を監視していく上で、役立つであろう。
記事参照:
Japan-Philippines Strategic Partnership: Converging Threat Perceptions
8月5日「デンマーク海軍戦闘艦、世界最大のコンテナ船護衛」(Maritime Executive, August 6, 2013)
NATO海賊対処部隊、Operation Ocean Shieldに属するデンマーク海軍フリゲート、HNLMS Van Speijkは、現在世界最大のコンテナ船、MV Mærsk McKinney -Møllerが8月5日に海賊多発海域のアデン湾を通航した際、護衛任務を遂行した。該船の運航社はデンマークのマースク・ラインで、該船は同社の最新コンテナ船、Triple-Eシリーズの1番船である。
記事参照:
NATO’s Ocean Shield Provides Safe Passage to World’s Largest Ship
Photo:
The Dutch Frigate ensured the safe passage of MV Mærsk McKinney -Møller, as it transited the Gulf of Aden on August 5.
8月5日「カムランに他国の軍事施設を認めず-ベトナム国防相」(ИТАР-ТАСС, August 5, 2013)
ベトナムのタイン国防相は、ロシア公式訪問を前にした8月5日、イタル・タス通信のインタビューに答え、かつてソ連海軍基地のあった、ベトナム中部カインホア省のカムランは、他国の軍事施設として使用することはない旨、明言した。国防相は、「わが国の方針は、カムラン軍事基地に、いかなる国の軍事施設も許可しないということだ。その代わり、船舶の保守整備のための国際センターを設置し、独自に運営する計画だ」と述べた。国防相によれば、「このセンターは、全ての国の商船や軍艦が、修理やメンテナンスのために訪れることができ、また受け入れる準備もできている。」カムラン湾には、23年間にわたりソ連太平洋艦隊の展開の拠点が置かれ、ソ連海軍にとって国外最大の基地となっていた。2002年5月、ロシアは正式にカムランから撤退している。
記事参照:
Бывшая российская база ВМФ Камрань во Вьетнаме не будет военным объектом иностранных государств
【関連記事】「ロシア、ベトナム将校の養成支援」(ИТАР-ТАСС, August 7, 2013)
ロシア、ベトナム両国の国防相は8月7日、ベトナムの将校をロシアで養成する計画を承認した。ロシアのショイグ国防相は、「われわれは、武器の供給と軍事技術の同期、専門家の養成についての計画を議論し、ベトナムの将校を養成する5ヵ年計画を承認した」と述べた。会談では、両者の協力関係の重要な問題をくまなく詳細にまで検討したとし、「ベトナムとの協力関係には長い歴史があり、軍事技術分野における協力の大きさは、前例のないものだ」と強調した。ショイグ国防相はまた、「両国の軍事技術協力の発展は、ロシアの産業にとっても、ベトナムにとっても関心のあることだ」と述べた。一方、ベトナムのタイン国防相は、「ロシアとベトナムの緊密な協力は、地域や世界の安定の強化につながる」とし、両国の戦略的パートナーシップが構築されたことを強調した上で、「ロシアの成功は、ベトナムの成功でもある」と述べた。「ロシア・ベトナム両国国防省の協力は、地域の平和と安定のため、新たなレベルでの強化と拡大が必要である」と締めくくった。
記事参照:
Сергей Шойгу: Россия будет обучать вьетнамских офицеров
8月6日「新コロンボ港、運用開始―スリランカ」(International Business Times, August 5, and Marine Link.com, August 7, 2013)
スリランカが南アジアにおける海運のリーディング・ハブを目指して拡張工事を進めてきた、コロンボ港が8月6日、ラージャパクサ大統領が出席して、新たに開業した。新港は、新防波堤と深水係船域に加え、3本の近代的なターミナルの内、最初の1本が開業し、最新世代の超大型コンテナ船、1万8,000TEU級のコンテナ船の受入が可能で、域内の他の港湾に貨物を迅速かつより高い費用効率で転送する施設を備えている。このプロジェクトは官民パートナーシップ (PPP) 方式で実施され、アジア開発銀行がインフラ建設に3億ドルを融資した。年間80万TEUの処理能力を持つ400メートルの最初のターミナルは8月6日から運用を開始したが、残りの東西2本のターミナルは現在計画段階で、3本が完成すれば、現有能力に新たに年間720万TEUの処理能力が加わることになる。
中国は、香港拠点の国営企業、招商局國際有限公司が、この拡張工事資金25億ドルの85%に当たる資金を投資しており、Colombo International Container Terminal (CICT)を今後35年間にわたって運営し、その後はスリランカ国営のSri Lanka Ports Authority (SLPA)に引き継がれる。
記事参照:
China Secures Key Maritime Supply Route With MegaPort Project in Sri Lanka
Sri Lanka’s Colombo Port Expanded
8月6日「2隻目の米供与艦、フィリピンに回航、就役」(Reuters, August 6, 2013)
フィリピンがアメリカから取得した、フリゲート(前米沿岸警備隊Hamilton級巡視船)、BRP Ramon Alcarazは8月6日、南カリフォルニアから2カ月かけて、スービック湾海軍基地に回航され、就役した。同艦の88人のフィリピン人乗組員は、南カリフォルニアで1年間訓練されてきた。BRP Ramon Alcarazは、米供与の2隻目の艦齢46年のHamilton級巡視船で、南シナ海での哨戒活動に従事する。
記事参照:
Eyeing China, Philippines gains U.S. ship in military upgrade
8月10日「インド国産原潜、搭載原子炉臨界状態に」(The Times of India, August 11, 2013)
インドの国産ミサイル原潜、INS Arihantの搭載原子炉、濃縮ウラン燃料の出力84メガワットの軽水炉は8月10日深夜、臨界状態に達した。INS Arihant(サンスクリット語で” the destroyer of enemies”の意)は、東岸ビシャカパトナムの厳重に警備された造船所で、数カ月間にわたって、排水量6,000トンの船体から全てのシステム、サブシステムに至るまで点検作業を繰り返してきた。シン首相は8月10日、海軍、原子力エネルギー庁及び国防研究開発庁の努力を賞賛し、国家安全保障を強化する「画期的な1歩」を踏み出した、と語った。現在、原潜を運用する国は、アメリカ、ロシア、中国、英国及びフランスの5カ国である。INS Arihantは今後、95人の乗組員と共に海上公試に進むことになるが、実戦配備され、核抑止哨戒活動ができるようになるまでには、全てが順調に進んでも更に18カ月間を要するという。
全長110メートル、全幅11メートルのINS Arihantには、最初、射程750キロのK-15弾道ミサイルが搭載されるが、海上公試中に発射実験が行われることになろう。米ロや中国のSLBMは射程5,000キロを超え、例えば中国のJL-2 SLBMは射程7,400キロである。しかし、INS Arihantも、4基の発射サイロを備え、12基のK-15あるいは現在開発中の射程3,500キロのK-4ミサイル4基の搭載が可能である。これによって、インドも、他の5カ国と同様に、陸、海、空の「信頼でき、かつ生き残り可能な」3本柱の核抑止力が完成する。インドは核兵器の「先行不使用政策 (“no first-use policy”)」を宣言しており、SLBM戦力は不可欠である。SLBMは、敵の先行使用あるいは先制攻撃から生き残り可能な、効果的で探知困難な核兵器である。現在、米ロの核戦力の60%以上がSLBM戦力である。
記事参照:
Giant stride for nation, PM says on INS Arihant going ‘critical’
Photo:
India’s first indigenous nuclear submarine INS Arihant
♦♦ トピック ♦♦
海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」進水
~ 海外の報道ぶり ~
8月6日、ジャパンマリンユナイテッド株式会社横浜事業所磯子工場で、ヘリコプター搭載型護衛艦の命名・進水式が行われた。式典には麻生副総理や石破自民党幹事長が出席し、3,000人を超える一般見学者で賑わった。当該艦は「いずも」と命名され、平成27年3月に完成、就役予定である。
基準排水量1万9,500トンの全通甲板型護衛艦の1番艦となる「いずも」は、海上自衛隊の護衛艦としては最大となり、全長248mの甲板にはヘリコプター5機分の発着艦スポットを備えている。建造費は約1,200億円、「いずも」に続く同型艦1隻も現在建造中である。 航空機運用の中枢艦機能と国際平和協力活動等で洋上拠点となる輸送機能が強化されており、災害派遣などの国際協力においても期待されている。進水式を終えた「いずも」は今後、平成27年の就役に向けて、同工場内で艤装作業が進められる。
以下、「いずも」進水に関する海外の主な報道を紹介する。(なお、記事中の数字等は、いずれも原文通り)
8月6日「第2次大戦後最大の軍艦、進水―海上自衛隊」(AFP, August 6, 2013)
日本が建造する第2次大戦後最大の軍艦が8月6日、ベールを脱いだ。建造費12億米ドル、全長248メートルのヘリコプター母艦で、「いずも」と命名された。中国国防部高官は、AFPに対して、「我々は、日本の継続的な軍拡を懸念しており、日本周辺のアジア各国と国際社会はこの傾向を注視すべきで、日本は歴史に学び、自衛の政策を堅持し、平和的発展を順守すべきだ」と述べた。8月6日は広島の68回目の原爆記念日だが、東京は偶然の一致としている。防衛省によれば、「いずも」は9機のヘリを搭載し、シーレーンや領土主権の防衛に加えて、災害救助を主たる任務とする。
記事参照:
Japan navy unveils biggest warship since WWII
8月6日「海上自衛隊、新ヘリコプター搭載護衛艦を公開」(ВПК, August 6, 2013)
8月6日、ジャパンマリンユナイテッド株式会社磯子工場(横浜市)にて、新しいヘリコプター搭載護衛艦、DDH-183「いずも」がお披露目された。これまでのヘリコプター搭載護衛艦、「ひゅうが(DDH-181、DDH-182)」級との違いは、大きさや排水量が大きくなったことのほか、魚雷発射装置を搭載していないことが挙げられる。進水式には、麻生副総理や石破自民党幹事長も参加した。新型護衛艦は、全長248メートル、最大幅38メートル、満載排水量2万4,000トンで、海上自衛隊が保有する艦船の中で最大となる。「いずも」の甲板は、同時にヘリコプター5機の発着艦が可能で、米軍のMV22 Osprey の発着艦にも対応できる。建造費は1,200億円、2015年3月に就役する予定である。更にもう1隻、いずも型護衛艦DDH-184の建造も進めているという。スポークスマンによれば、「いずも」は、国境警備、人道支援、災害救助で使用される。
記事参照:
Новый вертолетоносец ВМС Японии
8月7日「日本の『疑似空母』、姿を現す」(The Diplomat, August 7, 2013)
8月7日付けのWeb誌、The Diplomatに、同誌のZachary Keck副編集長が “Japan’s Unveils ‘Aircraft Carrier in Disguise’” と題する記事を掲載し、「いずも」の進水について、要旨以下のように述べている。
(1) ヘリ搭載護衛艦「いずも」(22DDH)は全長820フィート、満載排水量2万4,000トンで、14機のヘリを搭載できる。「いずも」は第2次大戦後日本が建造した最大の軍艦で、トン数でいえば海自現有の最大艦、「ひゅうが」級ヘリ搭載護衛艦よりも50%大きい。海上自衛隊にとって3隻目のヘリ母艦であり、広島に原爆が投下された68周年の記念日に進水した。22DDHは2009年に発注され、2015年に就役する予定である。
(2) この「いずも」級護衛艦は対潜戦、国境監視任務、更には災害における人員輸送に使われる、と東京は言う。しかしながら、「いずも」は中国を刺激しているは明らかで、中国の多くのメディアが報じている。中国国防大学の李大光教授は、同艦を「疑似空母」と呼んでいる。日本の憲法では作戦可能な空母保有が禁止されていると思われるが、こうした疑念を抱くのは李教授だけではない。中国のコメンテーターも、これを名前だけは護衛艦だが、いずれF-35Bのような垂直離着陸機を搭載できるように設計されていると警告している。一方、日本の専門家は、こうした疑惑に応えて、22DDHが「ひゅうが」より大きいのはMV22 Ospreyの運用を意図したものだと言う。これについては公式に確認されているわけではないが、日本がV22 Ospreyの購入を検討していることはよく知られている。
(3) 日本が22DDHを実際にどう使うかは、この地域の安全保障情勢の動向如何によって決まるであろう。日本は、疑似空母を建造し、戦闘機部隊を整備することで、一定期間の訓練を経た後で、空母を配備する選択肢を残そうとするであろう。こうした訓練は、米海軍の空母を利用して離着陸訓練をすれば、その期間を短縮できるかもしれない。
記事参照:
Japan’s Unveils “Aircraft Carrier in Disguise”
8月8日「日本、東シナ海で存在を誇示―『いずも』進水」(The Diplomat, August 8, 2013)
8月8日付けのWeb誌、The Diplomatに、米海軍大学のJames R. Holmes教授は、“Japan’s Grandstanding in the East China Sea” と題する記事を掲載し、「いずも」の進水について、要旨以下のように述べている。
(1) 海上自衛隊の「いずも」が姿を現したが、日本はうまくやったと思う。この艦は2015年に就役するため、能力発揮するのはまだ先の話である。練達した海軍国は、大言壮語することなく、軍艦を建造し、配備するものだ。その点で「いずも」の進水式と命名式は、国内外の観察者に対して上手にメッセージを送ったといえる。
(2) 「いずも」は、米海軍の強襲揚陸艦ほどの長い甲板をもっているが、その排水量は遠く及ばない。海上自衛隊が垂直離着陸機を取得すれば、米海軍の強襲揚陸艦からハリアー戦闘機が発着艦できるように、少数の戦闘機を運用できると思われる。「いずも」は、重要な意味を持つプラットホームである。日本国民には、「いずも」は、穏やかな規模だが世界水準の海軍力によって護られているとの安心感を与える。国外の観察者に対しては、この式典は、同盟国、同盟国になりそうな国、そして敵対国になりそうな国に、日本が海軍国であり続けることを誇示できたといえる。アメリカに対しては、安全保障の重荷をシェアする信用できるパートナーであり、そしてオーストラリアやインドのような海軍国に対しては、いざという時に助けてくれる魅力的なパートナーにみえる。そして、ライバルに対しては、能力と力を行使する意志の誇示は、日本に対する妨害行為を抑制させることに役立つ。
記事参照:
Japan’s Grandstanding in the East China Sea
8月8日「日本、ヘリコプター空母『いずも』を建造」(Военный Обозреватель, August 8, 2013)
日本は8月6日、第2次世界大戦後最大の軍艦、「いずも」を公開した。ヘリコプター甲板の長さは約250メートルで、容易に空母に改造できることを示している。ヘリコプター搭載護衛艦、「いずも」の全長は248メートル、最大幅は38メートル、満載排水量は2万4,000トン。「いずも」の進水は、尖閣諸島を巡る日中関係の緊張の高まりとも時期的に一致する。現在日本は、太平洋において、最も優れた装備と訓練された海軍力を有する国の1つである。一方で、日本は防衛装備しか持つことを許されておらず、今日まで空母を保有していない。日本政府は、新しいヘリコプター空母を攻撃の目的で使用する計画はないと主張している。「いずも」には、戦闘機を発射するカタパルトもスキージャンプ台もない。しかしながら、日本の近隣諸国は、すぐにでも空母に改造できるヘリコプター空母が海上自衛隊に導入されたことを憂慮している。日本政府の、「同艦を攻撃目的で使用しない」という言明も、特に中国にとっては、説得力のあるものとして響いていないようである。「いずも」をきっかけに、日本により攻撃的な政策が生まれる可能性もあり、今後注視しなければならない。
記事参照:
Япония строит вертолетоносец “Идзумо” с взлетной полосой 250 метров
8月13日「『いずも』進水―日本はルビコンを渡ったか?」(Japan Security Watch, August 13, 2013)
ニュージーランドの東アジア安全保障問題専門家、Corey Wallaceは8月13日、ウエブサイト、Japan Security Watchに、“Does the Izumo Represent Japan Crossing the ‘Offensive’ Rubicon?” と題するブログを掲載し、8月6日に進水した、新しいヘリコプター「護衛艦」、「いずも」について、多くのメディアや外交筋は「いずも」が潜在的な「攻撃」能力を持った「疑似空母」かどうかで騒いだが、「いずも」についてはバランスのとれた議論が必要であるとして、要旨以下のように述べている。(なお、筆者は、このブログで、日本の安全保障政策について5回シリーズの論説を執筆中で、本稿は2回目の論説である。)
(1) 問題は、多くの人が空母をもっぱら攻撃的なものと見るように、「いずも」が「戦闘戦力 (“war potential”)」と見なし得るかどうかである。「いずも」と「ひゅうが」及びその姉妹艦「いせ」は、もし1960年代初めに登場していたら「戦闘戦力」と見なされたであろう。当時は、中国は海軍力と呼べるようなものを保有しておらず、またソ連太平洋艦隊の戦力もそれほどでもなかったからである。しかしながら、両国の海軍は、ソ連/ロシアが1965年から、そして中国が1985年から外洋海軍を目指して近代化を進めてきたことから、日本は、南においても、北においても、戦略地政学的な海洋からの脅威に晒され、対潜戦遂行のためにヘリコプター搭載艦が不可欠となった。
(2) しかし、「いずも」を子細に見ると、同艦は、戦闘能力を持っていないことが明らかで、更に多くのメディアの憶測とは違って、固定翼機運用のために特別に設計されてはいない。同艦を空母として運用することはないとの海上自衛隊や日本政府の主張を額面通り受け取らないとしても、「いずも」を固定翼機運用空母と見なすには、重大な実用上の限界がある。「いずも」の大きさから見れば、実際には、短距離離陸垂直着陸 (Short Take Off/Vertical Landing: STOVL) 機を運用する、「STOVL空母」としてのみ運用が可能かもしれない。しかしながら、アメリカ、ロシアそして現在では中国が配備している、CATOBAR (Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery) 機やSTOBAR (Short Take Off But Arrested Recovery) 機などのカタパルト離陸拘束着艦方式や短距離離陸拘束着艦方式の航空機を運用する空母は、全体的に「いずも」より大型である。従って、「いずも」が実際に発艦させ、収容できる航空機はSTOVL機のみということになる。STOVL機であれば、発艦のためのカタパルトやスキージャンプ台を必要としないし、着艦にもアレスティング・フックを必要としないからである。
(3) ここで1つの問題が生じる。海上自衛隊は、STOVL機を保有していないし、保有する計画もない。有力な候補機としてF-35Bがあるが、日本は保有していないし、恐らく保有することもないであろう。第2の問題は、もし日本がF-35Bを保有することになったとしても、この航空機を「いずも」で運用するためには必ずしもスキージャンプ台が必要というわけではないが、スキージャンプ台がなければ、F-35Bが搭載できる燃料と兵装(特に攻撃任務に重要)はある程度制約されることになろう。またスキージャンプ台があれば、発艦時に費消する燃料を減らすこともできる。第3の問題は、「いずも」は、米海軍強襲揚陸艦、USS Waspに装備されているような、特殊なThermionコーティングの飛行甲板を持っていないことである。この甲板は、USS Waspに搭載されているF-35Bが垂直発進する場合の衝撃と熱を和らげる。
(4) 要するに、「いずも」は、スキージャンプ台も、特殊コーティング甲板も、また発艦と着艦を同時に行うためのアングルド・デッキも持っていないし、そして海上自衛隊はF-35Bも保有していない。その上、「いずも」は、ほんの少数のF-35Bを運用できる以上の大きさもない。「攻撃型」空母というには、あまりにも貧弱である。更に、空母搭載機を発着艦させられるパイロット要員もいない。従って、公式に言明されているとおり、「いずも」は実際には、「そうりゅう」級潜水艦と連携しながらの対潜戦、内外における人道支援や災害救助任務、そして指揮統制艦として使用されると見るのが妥当かもしれない。「いずも」はまた、35床のベッドと手術室を備えた病院船でもあり、更に450人の乗客あるいは500人の将兵を乗せることができる。
(5)「いずも」は未来永劫、固定翼機を搭載しないと言おうとしているわけではないが、こうした能力が、「ひゅうが」、「いせ」そして「いずも」を建造した動機ではないことは確かである。例え「いずも」や後継艦が固定翼機を運用することになったとしても、それは、日本の南方海域における防空任務を意図したものであって、攻撃的目的のためではないと見られる。実際、「いずも」が「攻撃」能力を持ち得るとしたら、それは、空母としてよりは、むしろ強襲揚陸艦としての能力である。Apacheのような攻撃ヘリを多数搭載したり、そして恐らく将来的にMV22 Ospreyを保有したりすることになれば、日本の両用戦能力は強化されることになろう。
(6) 以上のように、「いずも」は、「戦闘戦力」を持った軍艦でもないし、また自衛隊の他の能力と相まって近隣諸国に直接的な攻撃的脅威を与えるものでもない。しかしながら、中国の海軍力増強が続くとすれば、日本が南方海域に洋上航空戦力の投射を可能にする「防御型」空母を保有するという構想自体は、突飛なことではない。
記事参照:
Does the Izumo Represent Japan Crossing the “Offensive” Rubicon?
8月15日「『いずも』、どう呼称するのが適切か?」(The Diplomat, August 15, 2013)
アメリカのThe Patterson School of Diplomacy and International CommerceのRobert Farley准教授は、8月15日付けのWeb誌、The Diplomatに、“Is Any Ship Not an Aircraft Carrier Anymore?” と題する記事を掲載し、「いずも」の進水について、要旨以下のように述べている。
(1) 中型のヘリコプター搭載艦の進水程度では、多くの場合、環太平洋地域を騒がせたりはしない。しかし8月6日の「いずも」の進水はこれとは違った。「いずも」は、任務部隊に航空戦力を提供するとともに、対潜能力を強化するための、伝統的な制海艦 (a classic sea control ship) である。同艦は、特にMV22 Ospreyを運用するようになれば、災害救助任務に効果的なプラットホームになろう。
(2) 一般的に、日本の海洋航空戦力について域内諸国が懸念するのは、その攻撃能力についてである。攻撃用のプラットホームとして「いずも」を活用するためには、F-35Bを運用できるかどうかにかかっている。例え日本がVSTOL (vertical and/or short take-off and landing) 機の取得を決断しても、「いずも」の構造的特徴は、VSTOL機の運用には制約がある。例えば、「いずも」のエレベーターは、特にF-35をハイテンポで運用するには適していない。
(3) 「いずも」の進水に関する内外の反応を見れば、同艦にはもっと適切な呼称が必要である。「ヘリコプター搭載護衛艦 (“helicopter destroyer”)」という呼称は、ジョークのように聞こえる。米海軍の強襲揚陸艦、USS AmericaやUSS Tripoliは、「強襲揚陸艦 (“amphibious assault ships”)」と呼び、「軽空母 (“light aircraft carriers”)」とは呼ばない。同じように、2万2,000トンのヘリコプター空母、4万5,000トンのSTOBAR空母、9万5,000トンのCATOBAR空母などの呼称が使われる。「艦隊空母 (fleet carrier: CV)」、「軽空母(light carrier: CVL)」、そして「制海艦 (Sea Control Ship: CVE)」といった、より正確な呼称を採用した方が良い。
(4) この1週間のイベントから印象づけられたことは、空母の最も重要な使命の1つは国力の象徴であり、国家の威信を誇示することにある、と言うことである。この限り、「いずも」に対する中国の反応は非生産的で、北京の大げさな懸念は、「いずも」の能力について他の人々のイメージを膨らませてしまい、結果的に、この艦の海上自衛隊における象徴的な重要性を高めてしまった。「いずも」の呼称は、「全通甲板航空機搭載艦 (“flat decked aircraft carrying ship”)」とでも呼称することが適切ではなかろうか。
記事参照:
Is Any Ship Not an Aircraft Carrier Anymore?
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