海洋安全保障情報旬報 2013年1月21日〜1月31日

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1月 21日「日本海軍:未来への航海—英専門家論評」 (The Diplomat, January 21, 2013)

英軍事週刊誌、IHS Jane’s Defence Weekly のハイディー (James Hardy) アジア・太平洋版編集長は、21日付けの Web誌、The Diplomat に、“Japan’s Navy: Sailing Towards the Future”と題する論説を寄稿し、増勢される中国の海軍力が世界的注目を浴びる中で、日本の海上自衛隊も着実に進化を遂げており、より広範な役割を果たしつつある、と指摘している。いかは、その要旨である。

(1) 2012年 10月、米海軍大学のホームズ (James Holmes) は、日本は米国との互恵的なパートナーシップの中で特定のニッチを満たすよう設計された、「冷戦型海軍 (a “Cold War navy”)」を維持してきた、と説得力ある論評をしている。ホームズは、「日米両国海軍間の役割分担の中で、米海軍は攻勢的戦力を担い、一方防勢的な性格の海上自衛隊は、掃海、対潜水艦戦 (ASW) 及び攻撃的な潜水艦戦のようなニッチな任務に熟練すべく錬成してきた」と指摘している。今までのところ、海上自衛隊に関する論調は極めて控えめであり、これを拡張主義的と非難する者はなく、既に卓越した防勢的な性格の能力を着実に強化しているだけである。

(2) しかし、日本の新しい政策である「動的防衛力」に合致するもう少し積極的な姿勢の証を求めるなら、最近の装備品等の調達と訓練は興味深いものがある。最初に挙げるのは、新型ヘリ搭載護衛艦、22DDHであり、1番艦が建造中で、2015年には配備予定である。 22DDHは全長 248メートル、満載排水量 2万 7,000トンで、現在、海上自衛隊最大の「ひゅうが」級ヘリ搭載護衛艦の全長 197メートル、1万 9,000トンが小さく見える。「ひゅうが」級と同様に、 22DDHは 2隻建造されている。22DDHは、「ひゅうが」級と異なり、魚雷発射システムを装備せず、その代わり 7機の ASWヘリが搭載される。22DDHは、ウェル・デッキを装備していないが、米海兵隊の軽空母の類と容易にダブらせることができる。

(3) 冷戦時代の潜水艦隊の ASW任務とともに、両用揚陸作戦と島嶼防衛作戦は、攻撃的な兵力展開に近い数少ない海上自衛隊の作戦である。興味深いことに、これは新たな能力というわけではなく、海上自衛隊は 1990年代後半から「本物」の両用揚陸艦、1万 4,000トンの「おおすみ」級ドック型揚陸艦( LSD、正式には戦車揚陸艦)を 3隻保有してきた。変わってきたのは脅威認識であり、今まで海上自衛隊は両用揚陸作戦の訓練を行ってこなかったし、海兵隊創設論にも抵抗があった。今や、これが変わりつつあり、 2012年末にグアムにおいて陸上自衛隊レンジャー部隊が米海兵隊と共に「実際の島嶼」に上陸する訓練に参加した。日本の島嶼は侵攻に対して無防備である。陸上自衛隊は最近、艦船からではなくヘリコプターからではあるが、両用揚陸作戦を演練している。誰も明確に尖閣諸島に言及しないが、中国の攻撃は、日本の軍事計画立案者がこうした強化されつつある能力に対してどの程度確信を持っているかを試す、テストケースとなろう。

(4) 最近の上陸演習と尖閣紛争にもかかわらず、防衛省自衛隊の高級幹部は、中長期的には沖縄周辺における不測の事態をより懸念している。1997年に漏洩した日本の防衛省の計画文書(そして米海大のホームズ)は、宮古島と石垣島を、中国海軍が第 1列島線を突破して太平洋への進出を果たすための中国の潜在的な攻撃目標になる、と指摘している。そして当然ながら、これが沖縄に対する侵攻を含むものであれば、沖縄本島のキャンプ・コートニーを基地とする米海兵隊第Ⅲ遠征軍がほぼ確実に侵攻対処における主たる役割を果たすことになろう。

(5) 最悪のシナリオを離れて現実の世界に目を転じれば、海上自衛隊は、いくつかの新しい現実に直面している。アデン湾における国際的な海賊対処任務に海上自衛隊の護衛艦 2隻を参加させていることは貴重な経験であり、またジブチを拠点とした P-3Cの展開は優れた実地訓練となっており、航空搭乗員の国際化に寄与している。これらの搭乗員達は新しい P-1海上哨戒機の配備に期待しており、同時に安倍総理が最近興味を示している RQ-4 Global Hawk 無人機は、日本の南西諸島周辺における哨戒偵察網に新しい強力なツールを加えることになる。航空自衛隊の F-15戦闘機を那覇基地に移転し、台湾からわずか 110キロの与那国島に新たな早期警戒レーダー施設を設置することは、この地域における日本の能力を極めて強固なものする。海上自衛隊が、より意欲的な安倍政権の主導の下で、より攻勢的な態勢になるかどうかは不明だが、全体として自衛隊は、ゆっくりではあるが冷戦時代のニッチ任務から脱却して、より広範で多様な任務を指向しているように思われる。

記事参照:
Japan’s Navy: Sailing Towards the Future

1月 22日「中国海賊対処任務 4年間の総括—インド専門家」 (The National Maritime Foundation, January 22, 2013)

インドの The National Maritime Foundationのアグニホトリ (Commander Kamlesh K Agnihotri) 中国担当フェローは、過去 4年間にわたる中国の海賊対処任務について、要旨以下のように総括している。

(1) 中国が 2008年 12月にアデン湾・ソマリア沖における海賊対処任務を初めて以来、 4年になった。この間、 3隻編成の艦隊を継続的に派遣し、現在、第 13次隊(ミサイルフリゲート「黄山」、「巣湖」、補給艦「千島湖」)が 2012年 11月半ばから任務に就いている。これまで、延べ 34隻の戦闘艦・補給艦、28機のヘリコプター及び 1万人以上の要員が派遣された。また、500回を超える護衛任務で 5,000隻以上の中国籍船や外国船舶を護衛し、 60隻以上の船舶の解放、救出に貢献した。

(2) これまでの成果から、以下の 3点が指摘できる。1つは、中国海軍が、同様の任務に従事する他国海軍のベスト・プラクティスを吸収することによって、非伝統的な海上治安維持作戦における中国戦闘艦の運用効率を実質的に強化したことである。2つは、中国海軍が最新の国産戦闘艦と関連装備を継続的に実地テストするとともに、米国、 NATO、EU及び他国の艦艇と協働する意志を示したことである。3つ目の、そして最も重要なことは、遠隔海域における海賊対処任務に参加した多くの海軍将兵が得た計り知れない体験である。

(3) 4年間の海賊対処任務は、中国海軍に、3隻編成の艦隊を継続的に実地テストするとともに、これまで経験しなかった遠隔海域における作戦で将兵を実地訓練するという、初めてのユニークな機会を与えたことは間違いない。中でも、継続的な艦隊派遣に伴う、前後及び派遣中の支援メカニズムの構築、即ち、兵站、管理業務およびインフラ整備における経験は得難いものであった。もし中国が海賊対処任務への派遣を拡大する経済に不可欠のシーレーン防衛の一環として決定しているなら、海軍部隊のプレゼンスの意味するところは大きい。この文脈から見れば、中国海軍のプレゼンスは長期にわたるものとなろう。

記事参照:
Four Years of Anti-Piracy Mission: Chinese Navy’s Showcase Achievement

1月 22日「フィリピン、南シナ海領有権問題で中国を提訴」 (The Department of Foreign Affaires, Republic of The Philippines, January 22, 2013)

フィリピンのデルロサリオ外相は 22日、西フィリピン海(WPS、南シナ海のフィリピン管轄海域のフィリピン呼称)における領有権紛争の平和的かつ持続的な解決を実現するために、国連海洋法条約(UNCLOS)第 287条の規定に基づいて仲裁裁判所に中国を提訴した、と発表した。同外相の声明によれば、フィリピン外務次官は 22日、在マニラ中国大使に提訴に関する口上書を手交した。この口上書は、 WPSを含む南シナ海のほとんどの海域をカバーする中国の 9段線の妥当性を仲裁裁判所に問うとともに、UNCLOSで認められたフィリピンの主権的権利と管轄権を侵す中国の不法な活動を阻止することなどを狙いとしている。UNCLOS第 287条の規定では、口上書の手交を以て、仲裁プロセスが始まる。 9段線に関する中国に対する仲裁プロセスの開始は、国際法規、特に UNCLOSに準拠して WPSにおける領有権紛争の平和的かつ方に基づく解決を求めてきた、アキノ三世大統領の政策の具現化である。

23日付のフィリピン外務省の Q&Aの要点は以下の通り。

(1) 中国を提訴した理由:中国の 9段線は、特に WPS全域をカバーしている。我々は、我々の国土と領海を護るために、9段線による中国の不法な主張に異議を申し立てなければならない。

(2) 仲裁裁判所に何を期待しているか:我々は、仲裁裁判所が、WPSにおけるフィリピンの EEZ、大陸棚、接続水域及び領海に対する主権的権利と管轄権を尊重するとともに、フィリピンの諸権利を侵害する不法な活動を止めるよう、中国に指示する判定を出すことを期待している。

(3) 仲裁プロセスはどのようになるのか:UNCLOS附属書 VIIの規定では、仲裁プロセスは、相手国に対する口上書の手交を以て開始される。フィリピン外務省は 22日に、在マニラ中国大使に口上書を手交した。次のステップは、5人のメンバーからなる仲裁委員会の設置である。委員会が設置されれば、当事国は、提訴事案に関する更なる説明文書を提出する。UNCLOS第 287条の規定では、紛争解決の手段として、①国際司法裁判所、②国際海洋法裁判所( ITLOS)、③仲裁裁判所、④特別仲裁裁判所への訴えを、選択できる。フィリピンは、中国に対するフィリピンの主張を訴える最も適切な機関として仲裁裁判所への提訴を選んだ。仲裁プロセスは、現在までの海洋境界紛争の判例から判断すれば、3年から 4年はかかるであろう。

(4) 中国が応じない場合はどうするか:フィリピンは、UNCLOS附属書 VIIの規定に従って、手続きを進める。

記事参照:
Statement by Secretary of Foreign Affairs Albert del Rosario on the UNCLOS Arbitral Proceedings against China to Achieve a Peaceful and Durable Solution to the Dispute in the WPS

【関連記事】「中国、フィリピンの提訴に反対」 (People’s Daily Online, February 1, 2013)

中国外交部報道官は 23日、フィリピンの提訴に対して、領有権問題を複雑にするようないかなる行為にも反対する、と主張した。米下院外交委員会のロイス委員長が 31日にフィリピン当局者と会談した後、同委員長が中国はフィリピンの提訴に応じるべきだと語ったことに関連して、外交部報道官は 31日、フィリピンの提訴に対して繰り返し反対を表明した。同報道官は、中国と ASEANは 2002年に南シナ海に関する行動宣言( DOC)に署名しており、DOCは関係当事国間の友好的な直接交渉を通じて紛争の解決を求めている、と強調した。その上で、同報道官は、DOCの全署名国は DOCを遵守すべきであり、関係当事国間の直接交渉によって紛争を解決すべきである、と主張した。

記事参照:
China opposes taking sea disputes to UN: FM

1月 24日「アジア太平洋地域における潜水艦整備競争、 AIPシステムの装備が戦略的必然に」(RSIS Commentaries, No. 13, January 24, 2013)

シンガポールの S.ラジャラトナム国際関係学院( RSIS)のリサーチ・フェロー、マイケル・ラスカ (Michael Raska)は、24日付けの RSIS Commentaryに、“Submarine Trends in Asia Pacific: Air-Independent Propulsion A Game Changer?”と題する論説を寄稿し、アジア太平洋地域における潜水艦整備競争について、「非大気依存推進 (AIP: Air-independent propulsion)」システムの装備が戦略的必然になってきているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 欧州と北米が依然、主要な潜水艦市場であるが、中国の継続的な軍事力近代化は、アジア太平洋地域での対立的な国際関係と相俟って、次の 10年間にわたってこの地域における潜水艦整備競争をますます煽り立てることになろう。アジア太平洋地域における 2011年の潜水艦市場は全体で 44億米ドルと推定されるが、今後 10年間における潜水艦市場は 460億米ドルと見積もられている。アジア諸国の海軍は、戦略的実態の変化に伴って、伝統的な沿岸防衛任務からシーレーンの防衛に至るまで、多様化する任務にも柔軟に対応できることを目指している。同時に、潜水艦は、電子情報 (ELINT) や通信情報 (SIGINT) を収集するためのますます重要な戦略的ツールになってきている。そしてそこでは、多様な運用能力を高めるとともに、水中航続時間とステルス性を強化するため、AIPシステムの装備が戦略的必然になりつつある。

(2) AIPシステムは、近代的な在来型(ディーゼル−電気)潜水艦の性能向上を目的としたもので、本質的に電池を補う低出力電源による「クローズド・サイクル」の補助動力技術であり、潜水艦の水中航続時間を 2週間あるいはそれ以上延伸することが可能である。 AIPシステムは、原子力潜水艦と在来型潜水艦の水中航続時間のギャップを少なくし、高度な ASW技術によって増加する被探知リスクを軽減する。高度な AIP技術は、重要な運用上の利点と戦術的な柔軟性をもたらす。理論的には、現在実装可能な AIP技術は主として以下の 4つである。(a)クローズド・サイクル・ディゼルエンジン、 (b)クローズド・サイクル蒸気タービン、(c) スターリング・サイクル外部燃焼の熱エンジン、 (d) 水素・酸素燃料電池。

(3) 潜水艦は、電池航走している時、非常に静粛で探知が難しい。しかし、電池容量、放電レート及び無分別率(トータル航走時間に対するディーゼル航走時間の比率)がかなり水中航続時間を制約する。こうした制約を克服するため、過去 20年間、海軍における推進技術の革新は、AIPシステムに移ってきた。一部のアジア諸国の海軍でも、各種の AIPシステムが装備されつつある。例えば、現在、唯一実装可能な AIP蒸気タービン・システムはフランスの “MESMA” (Module d’Energie Sous-Marine Autonome) モジュールで、パキスタン海軍の Agosta 90-B級潜水艦 2隻に装備されている。スウェーデンのコックムス社のスターリング AIP技術は、シンガポール海軍の Archer級潜水艦 2隻、そして海上自衛隊の新型潜水艦、「そうりゅう」級に装備されている。中国海軍の 041型「元」級と 043型「清」級潜水艦もスターリング技術を使用しているといわれる。一方、韓国海軍は、ドイツの HDW AIP燃料電池技術を装備した、 9隻の 214型潜水艦を導入している。最初の 3隻が新型、「孫元一」級潜水艦として 2007年から配備されており、残りの 6隻は 2012年からは配備されることになっている。

(4) AIP技術は有用ではあるが、個々の潜水艦の全体的な威力は、他の重要なシステム—電力システム、センサー・システム、安全システム、航法システム、指揮・管制・通信システム、武器システム及び環境調整システムなどと如何に最適に融合されるかにかかっている。それぞれの AIPシステムは、特に水中航続時に多くの技術的制約、脆弱性及びリスクを内包している。同時に、新たな ASWセンサー技術は、有効な AIP対抗手段となる可能性がある。結局、AIP関連技術の革新とブレーク・スルーは作戦運用上の成功を全面的に保証するものとは言えず、戦略、作戦コンセプト、戦術開発、リーダー・シップ、訓練及び乗員の士気も、革新的技術やその実用能力と同じ程度に、重要な役割を果たし続けるであろう。

記事参照:
Submarine Trends in Asia Pacific: Air-Independent Propulsion A Game Changer?

1月 25日「インドネシア、 3隻目の国産高速ミサイル艇配備」 (The Jakarta Post, January 26 2013)

インドネシア国防省は 25日、リアウ諸島バタム島で KCR-40型国産高速ミサイル艇の 3番艇、KRI Beladau-643を受領した。海軍は既に、 KRI Clurit-641と KRI Kujang-642を配備している。これら 3隻は、2014年までに KCR-40型を 16隻取得する計画の一部である。4番艇は 11月に配備され、残りの 14隻は 2014年までに配備される。 PT Palindo Marine Shipyardで建造されている KCR-40型は、射程約 150キロの中国製 C-705対艦ミサイルを搭載する。国営航空機メーカー、PT Dirgantara Indonesiaが 2017年か 2018年までに C-705をライセンス生産することになっている。3隻の KCR-40型は、西部艦隊に所属し、スマトラ、ジャワ及びカリマンタンに囲まれた浅海域で運用される。スハルトノ海軍司令官によれば、現在、東部及び西部艦隊に加えて、中部艦隊創設を検討中で、海軍組織が再検討されており、3個艦隊を統制する海域防衛コマンド (Kohanla) が創設されることになっている。海軍はまた、西パプアのソロンに基地を置く、第 3海兵隊を編成しつつある。

記事参照:
Third locally made missile ship delivered

1月 25日「対中政策:封じ込めではなく、協働を—ナイ論評」 (The New York Times, January 25, 2013)

ハーバード大学のナイ (Joseph S. Nye. Jr) 教授は、25日付けの米紙、The New York Timesに、“Work With China, Don’t Contain It”と題する論説を寄稿し、対中政策における協調の必要性を強調して、要旨以下のように論じている。

(1) 最近中国を訪問した際、多くの中国当局者が「対中封じ込め」政策が既に定着し、オバマ大統領のアジア「回帰」の核心目標であると見ていることに驚かされた。中国人民大学の金燦?教授は、「アジア回帰は極めて愚かな選択だ。米国は、何も達成できず、中国を苛立たせるだけである。中国を封じ込めることはできない」と言明している。封じ込めは時代錯誤であり、米国が今試みるべきことではない。封じ込めは冷戦初期、ソ連の経済的孤立とモスクワの軍事的拡張を阻止するための NATOなどの地域同盟体制の形成を意味した。冷戦期における封じ込めは、事実上、貿易をせず、社会的にも接触しないことであった。しかしながら、現在の中国はかつてのソ連ではない。中国が世界的な覇権を求めているわけではなく、米国は中国と厖大な貿易関係を維持しており、また非常に多くの学生や観光客の交流がある。

(2) 私は、クリントン政権期の 1994年に国防省の東アジア戦略に関与する仕事に就いていたが、2つの理由から封じ込めのアイデアを拒否していた。即ち、もし我々が中国を敵として扱うなら、我々は将来の敵を創り出すことになる。また、もし我々が中国を友人として扱うなら、我々はより平和的な未来への可能性を開くことができる。我々は、レーガン大統領が言った、「信じるが検証する」に倣って、「協調するがヘッジを設ける (“integrate but hedge”)」戦略を工夫した。米国は、中国の WTO加盟を支持する一方で、1996年に日米安保条約が東アジアの安定と繁栄の基礎であることを再確認した。クリントン大統領はまた、中国の台頭に対抗するためにインドとの関係改善に着手した。この戦略は、超党派の支持を受けてきた。ブッシュ大統領は、インドとの関係改善を続けながら、中国との経済的関係を深めた。当時のゼーリック国務副長官は、米国が「責任ある利害関係者」としての中国の台頭を受け入れることを明らかにした。オバマ大統領のドニロン国家安全保障問題担当補佐官は 2012年 11月、米中関係は「協調と競争の両面を持つ」と語っている。

(3) 米国の強力な軍事的、経済的プレゼンスは、アジアのパワーバランスを維持するとともに、中国をして協調への選択を強いる環境を醸成する上で不可欠である。金融危機後、一部の中国人は米国が恒久的な衰退過程に陥り、新たな機会が到来したと間違って信じ込んだ者もいたようで、日本、インド、韓国、ベトナムそしてフィリピンとの関係を悪化させた。「中国を封じ込めることができるのは、中国自身だけなのである。」しかしながら、米国のアジアにおける再均衡化は、攻勢的であるべきではない。我々は、過度の軍事力重視に対するジョージ・ケナンの警告に耳を傾けるべきであり、中国が包囲されている、あるいは危険に曝されていると感じさせないようにすべきである。世界の 2大経済大国は、気候変動、パンデミック、サイバーテロあるいは核拡散との戦いに協力することから得ることが沢山ある。封じ込めは、台頭する中国に対処するための妥当な政策ツールでは全くない。

記事参照:
Work With China, Don’t Contain It

1月 27日「インド、潜航中の潜水艦からミサイル発射に成功」 (The Times of India, January 27, 2013)

インドは 27日、ベンガル湾で潜航中の潜水艦から、射程約 1,500キロの弾道ミサイル、 K-5の発射テストに成功した。ミサイル開発を担当する、 Defence Research and Development Organization (DRDO)のスラスワット (VK Saraswat) 長官は、K-5の開発段階が終了し、現在建造中の国産原潜、INS Arihant を含む、各種プラットフォームに搭載できる段階になった、と語った。K-5は、DRDOが開発中の水中発射ミサイルの 1つで、核弾頭搭載可能である。インドの専門家は、インドは核先行不使用政策を堅持しており、従って SLBMの開発は第 2撃報復能力を強化することになる、と指摘している。インドは現在、更に 2つの水中発射ミサイル、射程 750キロの K-15と射程 290キロの Brahmos ミサイルを開発中である。

記事参照:
India test-fires ballistic missile from underwater platform

1月 29日「インド海軍、 P-8I海上哨戒・対潜機取得—その戦略的意義」 (South Asia Defence & Strategic Review, January 29, 2013)

インドのシンクタンク、ICWA: Indian Council of World Affairsのリサーチ・ディレクター、ビジャイ・サクフジャ( Vijay Sakhuja)は、 29日付のインド誌、 South Asia Defence & Strategic Reviewに、“P-8I: Expanding Maritime Capability”と題する論説を寄稿している。サクフジャは、インド海軍が米国から P-8I海上哨戒・対潜機を取得したことで、今後数年間以内に海洋における広範囲な監視、偵察及び戦闘能力が強化されることになるとして、要旨以下のように述べている。

(1) インドが 39億米ドルで米ボーイング社に発注した 8機の P-8I長距離海上哨戒・対潜機の 1番機がシアトルでインド海軍に引き渡され、現在ミサイル発射を含む運用テストが実施される。今後、2機が 2013年に、残りの 5機が 2015年までに引き渡される。インドは、米海軍の P-8多用途海上哨戒機の最初の海外の顧客である。米海軍は、196機の P-3Cを 117機に P-8Aと代替更新する計画で、1番機が 2012年 3月 4日に米海軍に配備された。

(2) P-8Iは、次世代航空機 737の軍用機型である。同機の飛行範囲は 4時間の飛行時間で 1,200カイリ以上である。同機は空中給油機能を持っており、行動範囲を拡大することができるが、長期時間にわたる広域哨戒という単調な任務を遂行する搭乗員の能力にも大きく左右される。同機は、海上での監視・偵察、水上・水中目標の探知・追跡、沿岸地域における目標の映像化、更には捜索・救助を含む、多様な任務遂行を目的としており、そのためのレーダー、センサー及び武器が装備されている。インド艦隊の現有の長距離海上哨戒機は、ロシア製の 8機の Tupolev142と 3機の Ilyushin38、及び数機の Dornierからなる。P-8Iは、インド海軍の海上航空監視、偵察及び戦闘能力を大幅に強化する。P-8Iは、タミル・ナードゥ州アラコナムの海軍航空基地 INS Rajaliに配備されると見られ、アラビア海、ベンガル湾、及びインド洋海域を活動範囲とすることになろう。

(3) 2012年 1月に公表された米国の新たな軍事戦略は、21世紀における米国の安全保障と繁栄に他のどの地域よりも影響を及ぼすアジア太平洋地域でより広範な役割を果たすことを企図している。この戦略を支えるため、米国は、最新の艦艇、航空機及びその他のハイテク兵器システムをアジア太平洋地域に配備する計画である。この戦略は、「広大なインド洋地域における地域経済の頼みの綱であり、安全保障の要である、インドの能力を支えるため、米国がインドとの長期的な戦略的パートナー関係にも投資しつつある」と述べている。ワシントンは、ニューデリーに、インド洋地域の問題に主要な役割を果たすことを期待するとともに、アジア太平洋地域においてもより積極的にこの戦略を支えることを望んでいる。インド海軍はこれまで、 Malabar海軍演習で米海軍の P-3Cと協同してきた。この演習は、両国海軍に相互運用性の向上に寄与してきた。このことは、インド海軍と米海軍がインド洋及び太平洋において相互運用可能な任務を行うこと上で役に立つであろう。南シナ海での増大するインドの利益を考えれば、インドがシーレーンを監視するために南シナ海に P-8Iを展開させることもあり得る。そうなれば、インド海軍のアジア太平洋地域への関与は、特に ASEAN諸国に対して安全保障を提供することになろう。このことは、中国を怒らせることになろう。中国は、特に南シナ海におけるインドと米国の協力関係を抑制しようとするであろう。

記事参照:
P-8I: Expanding Maritime Capability

1月 30日「フィリピン、韓国から戦闘機購入」 (ABS-CBN News, January 30, 2013)

フィリピン大統領府報道官が 30日に明らかにしたところによれば、フィリピンは、12機の FA-50ジェット戦闘機を韓国から購入する。FA-50ジェット戦闘機は、2005年に最後のジェット戦闘機、 F-5が退役して以来、空軍にとって初めてのジェット戦闘機となる。同報道官は、同機の購入は特定の国を対象としたものではない、と協調した。国防省報道官によれば、FA-50は、空軍の所要を全て満たしており、またコストも安いことから選定された。取得経費は、 4億 6,400万米ドルである。同報道官によれば、パイロット訓練のために、最初の 2機の早期引き渡しも求めている。(備考:FA-50は韓国開発の軽攻撃機)

記事参照:
PH to buy 12 S. Korean fighter jets

1月 30日「パキスタン、グワダル港運営をシンガポールから中国に移管」 (The Times of India, January 30, 2013)

パキスタン政府は 30日の閣議で、グワダル港の運営管理をシンガポールの The Port of Singapore Authorityから中国の China Overseas Port Holdings Limited に移管することを承認した。同港の開発には中国が主たる役割を果たし、建設費 2億 5,000万米ドルの内、約 75%を負担した。移管時期は明らかにされていない。パキスタンのカイラ情報相によれば、中国は同港運用のために新たな投資を行う。同相は、グワダル港が間もなく新たな運用体制の下でパキスタン経済に貢献してくれるであろう、との期待を表明した。中国は最近、もし港湾運営の権利を与えられれば、新たに 20本の埠頭を建設する意向を表明している。

記事参照:
Pakistan approves transfer of Gwadar port to China