海洋安全保障情報旬報 2013年1月1日〜1月10日

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1月 1日「中国海南省沿海辺防治安条例、発効」 (The Diplomat, January 3, 2013)

米 MITのフラベル (M. Taylor Fravel) 准教授は 3日付の Web誌、The Diplomatで、1日に発効した、中国海南省沿海辺防治安条例について、要旨以下のように述べている。

(1) この条例は、1999年版を改正したもので、6章 52カ条からなる。海南省が公表した条例全文によれば、中国船舶と沿岸管理を主たる対象としており、海南省政府は、密輸や海上における犯罪、違法行為に対する取り締まりを強化するために改正したとしている。この条例によれば、中国は、外国船舶の強制退去や拿捕を含む、航行の自由を阻害するような措置を強化する意図はないようである。条例の大部分(ほぼ 42カ条)は、海南省及び中国沿岸各省からの中国船舶の活動を対象としている。

(2) 海南省沿岸海域における外国船舶の活動については、 2カ条で言及されている。第 31条によれば、同省海域に入る外国船舶は、中国国内法を遵守するとともに、同省領海 12カイリ内における違法な滞留、あるいは島嶼や環礁などへの上陸を禁止される。第 47条によれば、沿海辺防治安管理部隊は、外国船舶に対して、乗り込み、臨検、勾留、退去、航路変更、あるいは拿捕、航法装置などの押収などを合法的に実施できる。

(3) 三沙市に対する規定もある。第 7条では、沿海辺防治安管理部隊は、同市管轄の島嶼、環礁及び海域における哨戒活動を実施するとともに、南シナ海における各種海洋法令執行活動を支援する。

(4) この条例の対象範囲には、一定の限界が設けられている。第 1に、外国船舶に対して、条例は、海南省領海 12カイリ内でのみ適応される。その結果、沿海辺防治安管理部隊が外国船舶に対して乗り込みや拿捕を実施できる海域は、国連海洋法条約の下で、沿岸国が無害通航以外の行為に対して主権を行使できる海域に限定されている。第 2に、第 5条では、この条例は、沿海辺防治安管理部隊のみを対象とするもので、「海南省沿海辺防治安管理部隊は、省沿岸の防衛・治安管理に責任を持つ」と規定されている。従って、この条例は、中国の 200カイリ EEZ内における通常の哨戒活動を行う他の機関には効力が及ばない。第 3に、三沙市の管轄海域に対する規定があるが、この条例は、南シナ海の紛争海域ではなく、ほとんど海南省周辺海域と西沙諸島において履行されるものである。

記事参照:
Hainan’s New Maritime Regulations: An Update

1月 3日「インドネシアの海上安全保障機関、統合化が必要」 (RSIS Commentaries, No. 1, January 3, 2013)

シンガポールの S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の上席アナリスト、Ristian Atriandi Supriyantoとインドネシア国家海洋研究所( Namarin)常任理事、 Siswanto Rusdiは、1月 3日付けの RSIS Commentaryに、“Maritime Security Agencies in Indonesia: More Not Merrier” と題する論説を寄稿した。筆者らは、インドネシアの海上安全保障機関は調整上の問題を抱えており、これ以上の機関を追加する代わりに、確固たる指導力と強力な法的権限によって1つの機関に統合することであると指摘し、要旨以下のように述べている。

(1) インドネシア海軍(TNI-AL)は、インドネシアの 600万平方キロに及ぶ国家管轄海域の責任を負う唯一の機関として、余りにも分散しすぎており、また資源不足である。そのため、政府は、海洋安全保障問題に関わる、12以上の国家機関あるいは「利害関係者」の活動を調整するため、海上安全保障調整委員会 (Bakorkamla) を設置した。しかしながら、各機関はしばしば、 Bakorkamlaの調整を無視して独自の道を進む傾向があり、各機関の多様な利害を考えれば、Bakorkamlaを調整機関とするアイデアは、インドネシアでは機能していないと見られる。また、海運に関する 2008年の国法 17号によって規定された、インドネシア海洋沿岸警備隊 (ISCG) も、インドネシア水域における海洋法令執行に責任を有する単一の機関として、未だ設置に至っていない。

(2) インドネシア海軍は、インドネシアの国家管轄海域、特に EEZにおける主権保護に一義的責任を有し、一方国家警察海事部門は、領海における法令執行を担当している。海事・漁業省、運輸省海洋沿岸警備局、及び財務省税関局は、海洋環境保護、航行の安全、港湾セキュリティー、及び徴税をそれぞれの任務としている。他方、法務・人権省、政治・司法・安全保障調整省 (Menkopolhukam)、内務省、外務省、国家情報局、インドネシア国防軍司令部、及び検事局は、海に関わる如何なる手段も持たず、情報調整機能を持つのみである。Bakorkamla自体も、強力な指導力がないことに加えて、視野の狭い組織的利害対立、資源の取り合い、あるいは遅い法令執行に悩まされている。

(3) 現在、Bakorkamlaの権限は、調整されることになっている各機関の組織的利害が優先して、しばしば無視されている。一方、目的の統一は戦略レベルで認識されているようだが、陸上及び海上での運用レベルにおける調整はベストには程遠い。現実には、各機関は独自の方法をとる傾向にあり、同時に、資源を取り合う機関の縄張り争いが激化している。 Bakorkamlaが、資金不足、装備不足、人員不足で運用されていることは公然の秘密である。現在、群島全域で 100人程度のスタッフしかいない。ジャカルタの中心にある Bakorkamlaの本部はインドネシア海軍のビルを間借りしている。Bakorkamlaの能力を向上させるため、各種の措置が取られてきた。2010年には、2カ所の海洋地域管制センター (MRCC)と 12カ所の地域管制センター (RCC) が群島全域に設立された。また、これまで運用してきた、 8隻の Bimaran級哨戒艇と 10隻の RIBボートに加えて、Bakorkamlaの最大の哨戒艦となる、2隻の外洋哨戒艦、KAMLA-4801と KAMLA-4802を受領することになっている。

(4) 単一の海上安全保障機関創設における問題は、1つには既存の省の中に ISCGを創設しようとすることにある。2008年の法律は、ISCGが大統領に対して責任を負い、1つの省の運用監督下に置かれるとだけ規定されている。例えば、運輸省海洋沿岸警備局の下における海洋沿岸警備部隊 (KPLP) の設置は、Bakorkamla との、そして Bakorkamla内部での抗争を激化させた。運輸省は、2008年の法律を、KPLPの地位を ISCGに引き上げたと解釈している。この解釈は、 KPLPを大統領府の直接指揮下に置くが、日々の運用は運輸省が監督するというものである。 Bakorkamlaはこれを拒絶し、代わりの対抗措置として、大統領に直接報告するが、Menkopolhukamの運用監督下に置く、 Bakamla構想を提示した。何れの場合も、KPLPと Bakorkamla(及びその他の機関)との間の責任分担の曖昧さは、確実にあつれきを生じさせることになろう。両機関は、インドネシアの「真の」沿岸警備隊として認知され、代表となるべく競っている。この状態が長引けば、資源の割当が一層非効率になり、プロフェッショナリズムを損なうことになろう。

(5) もう1つの問題は、指導力の欠如である。ユドヨノ大統領は、 ISCGの所管をどの省にするかについて、未だ政令で決定していない。大統領は国家の最高執行権者として、KPLPと Bakorkamlaを単一機関に統合し、その運用監督に当たる省を指定し、そして必要なら、新しい変化に対応させるべく既存の法律と規則の改正するために、確固たる決断を示すべきである。ISCGの設置はまた、その他の機関による同じような任務の遂行を規制することも必要となる。各機関からの抵抗も予想されるが、単一の沿岸警備隊の設置は、インドネシア領海の哨戒効率を著しく高める一方、インドネシア海軍がインドネシアの EEZとシーレーンの安全保障に関心と資源を注力することが可能になる。

記事参照:
Maritime Security Agencies in Indonesia: More Not Merrier

1月 3日「中国、退役戦闘艦艇の転用による海洋監視船能力の増強」 (The Diplomat, January 3, 2013)

台湾在住のコール (J. Michael Cole)軍事専門記者は、3日付の Web誌、The Diplomat で、中国が退役戦闘艦艇を海上監視部門に転用することで、海洋監視船隊を強化しているとして、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 最近の報道によれば、中国海軍は、 2隻の駆逐艦( Type 051型旅大Ⅰ級誘導ミサイル駆逐艦、「南寧」と「南京」、調査艦、航洋曳船及び砕氷調査艦)を含む退役戦闘艦 11隻を国家海洋局( CMS)に移管した。 2隻の駆逐艦は、排水量 3,250トン、最大速度 32ノットで、東シナ海と南シナ海の双方で活動することになる。この移管については、中国国防部も CMS当局も一切コメントしていない。しかし、中国の専門家は、この転用によって中国の海洋監視能力が一段と強化された、と指摘している。

(2) 2000年以来、CMSは、13隻の新型巡視船を導入した。これらは、排水量の大きい大型船で、日本の海上保安庁の巡視船を意識したものと見られる。現在の第 12次 5カ年計画では、2015年までに、600トン型、1,000トン型及び 1,500トン型を含む、36隻の新型海洋監視船が建造されることになっている。

記事参照:
China’s Maritime Surveillance Fleet Adds Muscle

1月 5日「米仏海軍戦闘艦、海賊容疑者 12人を拘束」 (EUNAFOR, Somalia, January 8, 2013)

ソマリア沿岸沖 260カイリの海域を航行中の商船が 5日夕、ロケット発射擲弾筒で武装した 6人が乗った小型高速ボートに襲撃されているとの救難信号を発信した。該船は、回避行動をとって、襲撃を免れた。現場から 80カイリ離れた海域を哨戒中の NATO艦隊所属の米艦、USS Halyburtonは、救難信号を受信し、艦載ヘリを発進させ、数人が乗った別のボートを曳航している不審なボートを発見した。 EU艦隊所属のフランス海軍フリゲート、FS Surcoufも、ドイツ海軍の海上哨戒機に誘導されて現場海域に到着した。米艦の全面的な協力の下、同艦の乗り込みチームは、2隻の不審なボートに乗り込み、12人の海賊容疑者を拘束した。以下はその時の様子である。

記事参照:
EU Naval Force French Frigate Surcouf and NATO Warship USS Halyburton Work Together to Apprehend Twelve Suspect Pirates

【関連記事】「EU艦隊、海賊容疑者 12人をモーリシャスに移管」 (EUNAVFOR, Somalia, January 25, 2013)

EU艦隊所属のフランス海軍フリゲート、FS Surcoufは 25日、5日に拘束した 12人の海賊容疑者を裁判のためモーリシャス当局に引き渡した。

記事参照:
EU Naval Force Transfers Twelve Suspect Pirates to Mauritius for Prosecution After Attack on Merchant Vessel off Somalia

1月 7日「中国海軍艦隊、ベトナムに寄港」 (China Defense Blog, Xinhua, January 7, 2013)

3隻編成の中国艦隊は 7日、アデン湾における海賊対処任務からの帰国の途次、ベトナムのホーチミンシティーを 5日間の友好訪問を開始した。中国艦隊は第 12次派遣艦隊で、ミサイルフリゲート「益陽」、「常州」及び補給艦「福地」の 3隻と海軍将兵 790人余である。滞在期間中、ベトナム海軍との交流や幹部会同などを実施する。同艦対は、 2012年 12月にオーストラリアのシドニーを訪問している。

中国海軍は、2008年 12月 26日に初めて海賊対処任務に艦隊を派遣して以来、これまでに延べ 28隻の戦闘艦、28機の艦載ヘリコプター、及び 1万人以上の将兵が参加した。

記事参照:
3 Chinese navy ships visit Vietnam

1月 8日「中国紙、海軍に海外基地の構築を提案」 (China Defense Mashup.com, January 8, 2013)

中国の軍事情報を紹介する、8日付けの China Defense Mashup.comは、”Chinese paper advises PLA Navy to build overseas military bases”と題する記事を掲載し、中国新華社傘下の国営新聞、“International Herald Leader” が、インド洋におけるエネルギー輸送路を護るため海外に海軍基地を構築すべしと中国海軍に提案した解説記事の内容を紹介している。それによれば、同記事の要旨は以下の通りである。

(1) 中国は、強力な海軍戦力によって、インド洋海域、特にマラッカ海峡のエネルギー輸送路を護ることができる、と見ている。しかしながら、中国が今後より多くの艦艇を持つことになっても、海軍は、海外に軍事基地を持たない限り、外洋海軍としての重要な役割を果たすことはできない。中国海軍は、米国スタイルの海外軍事基地を構築するのではなく、現行の国際法規に従い、多くのいわゆる「海外戦略支援拠点 (“Overseas Strategic Support Bases”)」を構築する選択肢を排除していない。中国は、相互の利益との友好的協議の下で海外に補給、スタッフの休養及び係船修理拠点を構築する権利を有する。

(2) 中国海軍は、最初の支援拠点群をインド洋海域に構築することになろう。これらの拠点は、以下の 3つのレベルに類別できる。第1に、ジブチ港、イエメンのアデン港及びオマーンのサラーラ港のような、平時における船舶の燃料と物資補給の拠点である。補給の方法は、国際的なビジネス慣行を考慮したものとなる。第 2は、セーシェルの港のような、戦闘艦艇の係留施設、そして固定翼偵察機と海軍スタッフのための陸上施設を持つ、比較的固定化された補給拠点である。中国は、セーシェルとの間で短・中期の契約を結ぶことで、こうした固定拠点を構築できる。第 3は、中・長期契約の下でパキスタンに構築する、補給、休養及び大規模な艦艇搭載兵器の整備のための完全な機能を有する補給整備センターである。

(3) 中国は今後 10年間に 3つの「ライフ・ライン」を持つと見られる。1つは、パキスタン、スリランカ、ミヤンマーにおける拠点を含む、北部インド洋補給ラインである。 2つ、ジブチ、イエメン、オマーン、ケニア、タンザニア及びモザンビークにおける拠点を含む、西部インド洋補給ラインである。3つは、セーシェルとマダガスカルにおける拠点を含む、中南部インド洋補給ラインである。これらの 3つの戦略ラインは、戦略的な国際海峡の安全を維持するとともに、地域及び世界の安定の責任と能力を維持するための中国の努力を一層強めていくであろう。

(4) 何人かの中国の専門家は、海軍の海外拠点として、以下の 18カ所を予測している。チョンジン港:清津港(北朝鮮)、モレスビー港(パプア・ニューギニア)、シアヌークビル港(カンボジア)コー・ランタ港(タイ)、シットウェー港(ミヤンマー)、ダッカ港(バングラディッシュ)、グワダル港(パキスタン)、ハンバントータ港(スリランカ)、モルディブ、セーシェル、ジブチ港(ジブチ)、ラゴス港(ナイジェリア)、モンバサ港(ケニア)、ダル・エス・サラーム港(タンザニア)、ルアンダ港(アンゴラ)、及びウォルビス・ベイ港(ナミビア)。

記事参照:
Chinese paper advises PLA Navy to build overseas military bases