海洋安全保障情報旬報 2012年11月11日〜11月20日

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11月12日「世界最大のコンテナ船、就役」(gCaptain, November 12, 2012)

12日付のgCaptainによれば、フランス海運会社、CMA CGM所有で、英国籍船のコンテナ船、MV Marco Poloは11月初め、中国の寧波から処女航海を開始した。該船は、韓国の大宇造船海洋(DSME)の建造による世界最大のコンテナ船(1万6,020TEU)で、長さ396メートル、幅54メートル、吃水16メートルである。2013年末までに、更に2隻が就役することになっている。該船は、海洋環境に配慮した各種の最新の技術を採用しており、例えば、IMOが定めた、2025年までのThe Energy Efficiency Design Index(EEDI)の30%削減目標を既にクリアしている。

記事参照:
CMA CGM’s Marco Polo is Now the World’s Largest Containership

11月13日「中国のA2/AD戦略と空母の就役—韓国海軍専門家論評」(Pac Net, No 72, November 13, 2012)

韓国海洋戦略研究所主任研究員兼世宗大学防衛システム工学客員教授である韓国海軍退役大佐スクジョン・ユーン(Sukjoon Yoon)博士は、米戦略国際問題研究所(CSIS)Pacific Forumの13日付けPacNet, No. 72に、″An Aircraft Carrier’s Relevance to China’s A2/AD Strategy″と題する論説を寄稿している。ユーンは、この論説で、中国のA2/AD戦略における空母の位置づけについて、要旨以下のように論じている。

(1) 中国初の空母取得には2つの力が働いた。1つは、中国のマハンとして知られ、米空母を最初に訪問した中国海軍士官であり、中国海軍の発展に重要な役割を果たした、故劉華清提督の宿願である。2つ目は、国連安保理常任理事国としての中国の威信が空母を保有していないことで損なわれるかもしれないとの中国指導部の懸念である。この観点からすると、空母と艦載航空団の保有は、大国としてのステータスを誇示するものである。
中国の海軍航空戦力は2012年までは、A2/AD戦略を厳格に固守して推進されてきた海軍力近代化においては、非対称なシステムが戦略的に優先されたことから、中国の世界的な利害に比して、機能的には地域的な海軍力に限定されてきた。中国初の空母、「遼寧」は、中国がこれまでに保有してきた最も革新的なプラットフォームであり、新たな段階に入ったことを示すものである。

(2) 中国の軍事戦略の基本概念は、高度な軍事技術や資源に欠けるため、本質的に防御的と考えられてきた。海軍は、対艦巡航ミサイル(ASCM)、対艦弾道ミサイル(ASBM)更にはステルス性能を有するディーゼル潜水艦と原子力潜水艦のような、非対称なシステムによるA2/AD戦略を採用してきた。空母を取得したことは、その海軍戦略の本質を変えた。この空母に加えて、将来的には2〜3個空母航空団を運用することができる国産空母によって、海軍は、高性能水上戦闘艦、潜水艦、早期警戒能力及び洋上補給能力補給を含む多様な戦力で構成される、実戦的な地域アクセス能力を持つ外洋遠征任務部隊の展開に向けて1歩近づいた。中国は、空母航空能力を保有することで、地域防空機能に限定された現在の陸上基地海軍航空戦力の戦闘行動範囲を大きく超えた、攻勢的な海軍力投射能力を大幅に強化することができよう。最近、南海艦隊が内側の列島線を超えて多様な海軍演習を実施することによって、(域内に)警戒感が高まっている。将来的の中国海軍の演習では、空母航空団による艦隊防空機能に加えて、内陸部への航空戦力の投射を含む、複合的海軍戦闘作戦コンセプトの演練を意図して、未だ就役していないが国産空母が旗艦になると思われる。中国海軍の空母の取得は明らかに、外側の列島線に達する外洋海軍能力を誇示することを狙いとして、攻勢的な複合的海軍戦闘作戦コンセプトのテストを意味している。

(3) 中国の初めての空母の就役は、既に確立され、そして費用が遙かに少なくてすむ海洋拒否コンセプト(the concept of sea denial)に対して、制海コンセプト(the naval concept of sea control)が優位になりつつあることを示唆している。中国のA2/AD戦略は、大いに成功し、満足のいく成果をもたらしてきた。この戦略を継続することで、米国がグアム・ハワイ・サンディエゴにまで後退を強いられることになるかもしれず、そうなれば、中国海軍は、海軍の運用空間の拡大に弾みをつける余裕が得られよう。近い将来に予想される国産空母の就役は、A2/AD戦略と制海コンセプトの間に明確な一線を画することになろう。
A2/AD戦略は、中国海軍が、敵による海洋域支配を防ぐための低コスト、低リスクそして高い効果を持つ戦略として、海洋拒否コンセプトを遂行できることを誇示するものであった。しかしながら、本格的な空母能力を保有することになれば、中国海軍は、海洋拒否よりも制海に基づく新たな海洋戦略コンセプトを遂行できることになろう。

(4) 2011年に公表された、The AirSea Battle Concept (ASBC)、そして2012年に国防省と統合参謀本部が公表した、The Joint Operational Access Concept(JOAC)は、中国のA2/AD戦略の効果を減殺するための米国の対抗策である。前者は中国のA2/AD戦略に照準を当てたものであり、後者は西太平洋への中国軍事力の延伸を抑止することに焦点をおいたものである。中国の空母の存在は、米国とその同盟国の間で議論を呼んできた。そこでの理解は、東アジア海域における中国の現在のA2/AD戦略が近く修正されて、中国がこの海域を“no-go-zones”と宣言することが現実味を帯びることになる、というものである。米国とその同盟国は、(2007年10月に公表された)受動的な“Cooperative Strategy for 21st Century Sea Power”を超える海洋戦略を構築するとともに、米国の太平洋と大西洋における海軍戦力の配分を、既に表明されている60/40よりも踏み込んだものにしなければならない。中国の空母(複数)に対抗するためには、米海軍は、ASBCのような米国版のA2/AD戦略を必要とする。

記事参照:
An Aircraft Carrier’s Relevance to China’s A2/AD Strategy

11月14日「米海軍のアジア回帰—グリナート海軍作戦部長」(Foreign Policy, November 14, 2012)

米海軍のグリナート作戦部長は、14日付けの米誌、Foreign Policyに、“The Navy pivots to Asia”と題する論説を寄稿し、米海軍のアジア回帰の現状と将来展望について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) アジア太平洋地域への再均衡化(rebalance)における最も目に見える措置は、日々の軍事プレゼンスの強化である。域内で行動する米軍部隊は、米国のコミットメントの象徴であり、我々の同盟国とパートナー諸国を支援するフルタイムの戦力である。米海軍の展開戦力の半分強が太平洋に所在し、常時50隻の艦船が展開している。米本土からアジアまでの距離を考えれば、6カ月間から9カ月間の間隔で艦船や航空機をローテーション配備するだけでは不十分である。移動時間をなくすとともに、同盟国とパートナー諸国との結びつきを強化するために、アジア太平洋地域における海軍部隊の90%以上の戦力が恒久的あるいは半恒久的に現地に所在している。例えば、常時展開している50隻の艦船の半分強が日本とグアムを恒久的な根拠地としており、乗員と共に家族もそこに居住している。

(2) 将来的に国防予算の削減が計画されているが、海軍は、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを引き続き強化していく。2012年の「国防戦略指針(The Defense Strategic Guidance)」の目標年次は2020年であり、海軍はその年までに、約295隻の艦船を保有することになろう。艦船の増強に加えて、以下の3つの措置によって、海軍は、2020年までにアジア太平洋地域において常時60隻の艦船を展開させることが可能になる。

  1. 今後数年以内に、弾道ミサイルの脅威から欧州同盟国を防衛するために、4隻の駆逐艦がスペインのロタ基地を恒久的な根拠地とする。現在、この任務のために、10隻の駆逐艦が米本土から地中海にローテーション配備されている。この結果、6隻の駆逐艦がアジア太平洋地域へのローテーション配備が可能になる。
  2. 現在建造中の、新型の「統合高速輸送艦(Joint High Speed Vessel: JHSV))と「沿岸戦闘艦(Littoral Combat Ship: LCS)」が配備され、南米やアフリカにおける安全保障協力や人道支援任務に使用されるようになれば、現在これらの任務に使われている駆逐艦や両用戦艦はアジア太平洋地域に回すことが可能になる。両用戦艦は、オーストラリアのダーウィンの海兵隊を含む海兵隊の作戦行動を支援するために、今後数年以内にアジア太平洋地域に展開し始めることになろう。
  3. 移動時間を節減するために、JHSV、LCSそして新たに導入される「機動揚陸プラットフォーム(Mobile Landing Platform)」や「洋上前方展開出撃ベース(Afloat Forward Staging Base: AFSB)」を含むより多くの艦船を前方展開させ、文官要員と軍要員をローテーションで配置する。

 

(3) アジア太平洋地域への艦船の増強に加えて、航空機の配備も増強し、域内のパートナー諸国と共に協調的空中監視作戦を強化する。現在、オーストラリア、フィリピン及びタイと協調的空中監視作戦を実施しており、これら諸国の乗員を航空機に搭乗させるかあるいは情報を共有することで、洋上における状況認識を共有している。我々は将来的に、海賊、不法移民あるいは不法操業による脅威を懸念する新たなパートナーを加えて、こうした任務を拡充していく。監視能力を強化するために、無人偵察機、MQ-4 Global Hawkの海軍型が2010年代半ばにはグアムに配備され、運用を開始する。

(4) アジア太平洋地域におけるプレゼンスの強化を支援するために、米西岸と太平洋地域に基地を置く艦船と航空機の割合を、現在の全海軍の55%から2020年までに60%に増やす。海外の根拠地から運用される艦船はフルタイムのプレゼンスが可能である。それによって、ローテーション配備によるプレゼンス維持に必要となる艦船を他の地域に振り向けることができる。現在、20数隻の艦船がグアムと日本を母港としている。2013年には、LCS、USS Freedomがシンガポールを母港とし、運用が開始される。2017年までには4隻のLCSがシンガポールに配備され、東南アジアのパートナー諸国と共に海上哨戒任務を遂行する。我々は、Air-Sea Battleコンセプトの下、空軍と協調して、アクセス拒否環境下における戦力投射能力を維持していく。そのため、我々は、水中、水上及び航空戦力を強化していく。

記事参照:
The Navy pivots to Asia.

11月15日「米タイ両国、新たな同盟ビジョンに調印」(Diplonews.com, November 15, 2012)

タイのスカンポル国防相は15日、訪タイしたパネッタ米国防長官と会談し、米タイ同盟関係の新たなビジョン、The 2012 Joint Vision Statement for the Thai-U.S. Defense Allianceに調印し、両国の長期にわたる軍事パートナーシップを確認した。新たなビジョンは、4つの分野での防衛協力の強化を謳っている。①東南アジアの地域安全保障に向けたパートナーシップ、②アジア太平洋地域とその他の地域における安定化支援、③2国間及び多国間のインターオペラビリティーと即応態勢の強化、及び④あらゆるレベルにおける協調、協力関係の構築。パネッタ長官は、「新たなビジョンの調印によって、米タイ同盟は21世紀の新たな時代を迎えた」と述べた。

記事参照:
US, Thai Leaders move Defense Alliance into 21st Century

11月16日「中国・ミャンマー、軍事戦略協力継続へ」(DioloNews.com, November 19, 2012)

中国人民解放軍の威建国副総参謀長は16日、訪中したミャンマーのソー・ウィン国軍副司令官兼陸軍司令官と会談し、地域の安全保障情勢、両国関係全般、軍事関係及び共通の関心事項について話し合った。威建国副総参謀長は、外交関係樹立以来60年に及ぶ両国関係が変動する国際情勢に耐え、両国間の長期にわたる相互理解と相互支援は大きな成果を達成してきた、と述べた。両国軍は、高官の相互訪問、装備技術交流、要員訓練及び国境哨戒活動などを通じて、緊密な関係を築いてきた。威建国副総参謀長は、両国の軍事関係は両国関係の包括的発展に大きく貢献してきた、と述べた。

記事参照:
China, Myanmar pledge to further military strategic cooperation

11月16日「中国、3,000トン級大型監視船2隻配備」(Xinhua, November 16, 2012)

中国国家海洋局は14日、3,000トン級の大型巡視船2隻、「海監137」と「海監110」を配備した。「海監137」は、国家海洋局の東シナ海を管轄する海監東海総隊に配備され、海洋権益保護のための間もなく東シナ海で巡視任務を開始する。「海監110」は、海監北海総隊に配備され、12日から黄海で巡視活動を開始している。国家海洋局は現在、400隻以上の海洋法令執行船を保有している。国家海洋局によれば、近い将来、新たに数隻の巡視船が配備されることになっている。

記事参照:
Two new patrol vessels join China’s marine surveillance fleets

11月16日「インドネシアの2012年コンテナ取扱量、前年比27%増に」(The Jakarta Post, November16, 2012)

16日付のThe Jakarta Postの報道によれば、2012年のインドネシアのジャカルタの北にあるタンジュンプリオク港のコンテナ取扱量は年末までに前年比27%増が見込まれ、550万TEUから700万TEUになろう。The Indonesia Port Corporation(IPC)は、現在までの取扱量は既に600万TEU強に達しており、700万TEUは2009年の取扱量のほぼ倍となる。IPCは、強力な経済成長に加えて、2009年以来の同港の拡充によって、同港の取扱量を更に増やすことができるとしている。IPCはこの3年間、2億5,000万米ドル近い資金を投入して、新たなガントリークレーンと船舶航行情報システムを設置し、24時間の港湾運営システムを整えた。その結果、5,000TEUコンテナ船が毎日1隻接岸できるようになった。さらに、IPCが管理するその他の11カ所の港湾でも貨物取扱量が増えており、IPCは、これら港湾の処理能力も強化している。例えば、西スマトラのパダンのトゥルクバユールでは、2012年末までに4本のターミナルとガントリークレーンが新設される。

記事参照:
Container traffic expected to increase 27% this year

11月19日「中国の2012年におけるASEANとの関係」(DiploNews.com, November 19, 2012)

以下は、中国の2012年におけるASEANとの高官レベルの相互訪問と南シナ海問題の議論の概要である。

(1) 高官レベルの相互訪問
中国とASEANは、2012年において緊密な高官レベルの相互訪問を行った。政府高官あるいは副首相以上の相互訪問は、約50回に達した。中国の楊潔.外相は、7月のプノンペンでのARFに出席し、善隣友好関係とASEANとの相互協力という中国の政策を再確認した。中国は、ジャカルタにASEAN代表部を開設し、大使を任命し、9月27日から業務を開始した。中国の梁光烈国防部長は、5月29日にプノンペンで開催された、第1回中国・ASEAN国防相会議に出席した。参加国防相は、域内の安全保障情勢について意見を交換するとともに、相互信頼と協力を進化させる方法について議論した。

(2) 南シナ海における協力
2012年は、ASEANとの行動宣言(DOC)調印10周年であった。中国とASEANは、1月に北京でDOC履行に関する4回目の高官会議と7回目のワーキング・グループ会合を開催し、6月にはハノイで5回目の高官会議を実施した。4回目の高官会議で採択された2012年ワーキング計画に基づいて、中国は、南シナ海における自然災害対処、海洋環境保護と海洋調査技術に関するセミナーを主催した。中国とASEANは、南シナ海における行動規範(COC)に関する協議を続けてきた。COCに関する高官レベルの非公式協議が7月8日と9月13日に行われた。参加国は、関連する諸問題を討議することで、相互理解を深めるとともに、南シナ海の平和と安定の維持への期待を表明した。中国は、マレーシアで開催されたASEAN諸国のシンクタンクによる1.5トラックのセミナーに参加し、他の参加国と関連する諸問題について議論した。

記事参照:
China details its cooperation and initiatives with ASEAN in 2012