海洋安全保障情報旬報 2012年10月1日〜10月10日

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10月2日「ロシアで改装中のインド空母、海上公試では高性能発揮」(The Hindu, October 2, 2012)

ロシアで改装中のインド空母、INS Vikramadityaのインド回航が海上公試中の推進機関の故障で遅れるとの報道があったが(OPRF海洋安全保障情報月報2012年9月号1.2軍事動向参照)、2日付のインド紙、The Hinduによれば、海上公試は実際には成功していたようである。インドの調査チームは、INS Vikramadityaの海上公試を追跡調査し、海上公試が全体として順調で、予定されたテスト計画の大部分が達成された、との結論に達した。調査結果は、INS Vikramadityaは海上公試を通じて以前のミサイル・航空機混載型巡洋艦、Admiral Gorshkovから高性能の空母への改装が成功したことを実証した、と評価した。INS Vikramadityaは、優れた運動性能を発揮するとともに、艦載機の発着艦も完璧にこなした。また、搭載した精巧な電子機器、航法装置及びその他のシステムも、高い性能と信頼性を示した。

海上公試中のトラブルを起こしたボイラーも、取り替える必要がないという。原因は、ボイラーの室囲壁と耐火セラミックとの間の防熱に特定された。インドの専門家の要求で、伝統的なアスベストを使用しなかった。ボイラーがフルパワーを出した時、代わりに使用した材質が少し変形したという。インドは、アスベスト板を使用することに合意した。

消息筋がThe Hinduに語ったところによれば、インド海軍幹部は特に、海上公試中の艦載機の発着艦に印象づけられたようである。完全装備で増槽を付けたMiG-29KとMiG-29KUBによる、41回の完璧な発着艦が行われた。ロシア製とインド製の光学電子着艦システムによって、ロシア人パイロットは、3本ある拘束ワイヤーの2本目にフックをかけて着艦できた回数が70%に達したが、これは完璧な成績とされる。排水量4万4,000トンのINS Vikramadityaはまた、速度18ノットで自艦の全長(約283メートル)の半分の半径で360度回頭できる、優れた運動性能を発揮した。

ロシアのSevmash造船所は、2013年初めまでに全ての補修を完了させるとしているが、再度の海上公試は白海の海氷が溶ける5月後半まで再開できず、消息筋によれば、INS Vikramadityaがインド海軍に引き渡されるのは2013年夏になるという。

記事参照:
INS Vikramaditya trials termed successful

10月5日「中国、海洋協力基金30億元提供申し出—第1回拡大ASEAN海洋フォーラム」(PhilStar.com, October 6, 2012)

フィリピン主催の第3回ASEAN海洋フォーラム(AMF)が3日〜4日の両日、翌5日には第1回拡大ASEAN海洋フォーラム(EAMF)がマニラでそれぞれ開催された。EAMFには、ASEAN10カ国に加えて、オーストラリア、中国、インド、日本、ニュージーランド、韓国、ロシア及び米国が出席した。パム・ベトナム外務次官が明らかにしたところによれば、EAMFで、中国は海洋協力基金として30億元(4億7,400米ドル)の提供を申し出たという。ASEANと中国は、既に航行の安全、生物多様性の保護及び捜索救難を含む海洋問題で協力しており、基金で可能な活動を話し合っている。AMFでは、参加国は、領有権紛争は国際法、国連海洋法条約、及び行動規範(DOC)を含む当事国によって採択されたその他の文書に準拠して解決されるべきことに合意した。パム次官は、「我々は、領有権紛争を封じ込め、協力的活動を強化できる平和で安全な海洋環境を如何にして確保するかについて、話し合った」と語った。

記事参照:
China offers Asean $474-M fund

【関連記事】「米、拡大ASEAN海洋フォーラムの制度化望む」(PhilStar.com, October 7, 2012)

マニラで5日に開催された第1回拡大ASEAN海洋フォーラム(EAMF)に出席した、ユン米国務次官補は、「この会議が継続されるかどうかは未だ決まっていないが、米国はこの会議を強く支持する。我々は、この会議が制度化されることを望んでいる。AMFは既に制度化されており、我々としては、AMFの開催時にEAMFも開催されるよう制度化されることを期待している」と語った。

記事参照:
US wants expanded Asean Maritime Forum institutionalized

10月7日「東南アジア諸国の海軍力増強、西側防衛産業の魅力的市場に」(Reuters, October 7, 2012)

7日付けのロイターは、東南アジア諸国が海軍力の増強に注力し、それが西側防衛産業の魅力的市場になっているとして、要旨以下のように報じている。

(1) 東南アジア諸国は、中国に対する懸念と経済発展が相まって、シーレーン、港湾及び海洋境界を護るために、軍事費を増額しつつある。南シナ海における領有権紛争と豊かな石油、天然ガス資源の存在が予測されていることから、ベトナム、マレーシア、フィリピン及びブルネイは、増大する中国の海軍力を前に軍事力の増強に努めている。領有権紛争から距離を置くインドネシア、タイ及びシンガポールでさえ、海洋安全保障が軍事力整備の重点となっている。SIPRIのデータでは、東南アジア諸国の軍事費は、経済発展もあって、2012年には前年比実質42%の増額となっている。

(2) これら諸国の整備の重点は、シーレーンに対するアクセス拒否に特に効果的な潜水艦と対艦ミサイルに加えて、戦闘艦、哨戒艦艇、レーダーシステム及び作戦機である。例えば、マレーシアは2隻のScorpene級潜水艦を保有しており、ベトナムは6隻のKilo級潜水艦をロシアから購入しつつある。タイも潜水艦の購入を計画している。シンガポールは、米国からF-15SG戦闘機を導入するとともに、現有の4隻のChallenger級潜水艦に加えてスウェーデンから2隻のArcher級潜水艦を購入した。重要なシーレーンが通り、5万4,700キロに及ぶ海岸線を持つ群島国家、インドネシアは、現有2隻の潜水艦に加え、韓国から新型潜水艦3隻を購入する。また、C-750、C-802対艦ミサイルを中国と共同生産している。

(3) 西側主要国の国防費が制約される状況下では、西側の防衛産業にとって、アジアは魅力的市場である。例えば、米国のLockheed MartinとBoeingの防衛部門は、海外収益の約40%をアジア太平洋地域に期待している。この地域の海洋安全保障環境は、防衛産業の注目を集めている。ベトナムは、2007年から2011年の間、フリゲート、作戦機及びBastion沿岸ミサイルシステムを含む、主要装備の97%をロシアから導入したが、現在、オランダや米国などと装備調達の協議をしており、供給先の多様化を目指している。フィリピンは、装備の90%を米国に依存しており、南シナ海における中国からの高まる脅威に対処するために、今後5年間で18億ドルを投入し、軍事力の強化を計画している。フィリピンは、空中監視能力と対潜能力の強化を優先課題としている。タイは、英国のBAE Systems設計の哨戒艇1隻を建造したが、更にフリゲート1隻を近代化し、今後5年間で2隻の新型フリゲートの内、1隻を購入する計画である。シンガポールは、米国、フランス及びドイツから大部分の装備を導入しているが、ST Engineeringを主体とする自前の防衛産業も持っている。同社は、シンガポール軍に加えて、海外にも顧客を持っている。

記事参照:
Southeast Asia splashes out on defense, mostly maritime

10月10日「EU艦隊、海賊容疑者を拘束」(EU NAVFOR Public Affairs Office, October 11, 2012)

EU艦隊旗艦、イタリア海軍ドック型揚陸艦、ITS San Giustoは10日、ソコトラ島東方180カイリの海域で、梯子と約20本の燃料ドラム缶を積んだ小型ボート(skiff)を視認し、ヘリを発進させ、現場を確認後、同艦の臨検チームがボートに乗り込み、7人の海賊容疑者を拘束した。ボートは、臨検を終えた後、破壊された。EU艦隊のポッツ(RADM Potts)司令官は、「この3カ月以上の期間で、これが初めての海賊容疑者の拘束である。10月末でモンスーンの季節が終われば、海賊は再び海に出るだろう。従って、常時、警戒していかなければならない」と語った。以下は、その時の様子である。

記事参照:
EU Naval Force Quick To Capture Suspect Pirate Boat