海洋安全保障情報旬報 2012年9月1日〜9月10日

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9月1日「パキスタン、グワダル港の運営権を中国に移管へ」(Pak Tribune.com, September 1, 2012)

パキスタンは、グワダル港の運営権を、シンガポールの港湾運営会社、PSA Internationalから中国の会社に移管することを計画している。パキスタンの港湾・海運相は8月末、英紙とのインタビューで、「我々は、PSAとの間で、PSAがグワダル港の運営から手を引くことで合意した。現在、中国の会社と話し合っている」と語った。同相は、中国の会社名には言及しなかった。グワダル港は、ホルムズ海峡に近接した位置にあり、中国資本の援助で建設された。シンガポール筋によれば、PSAが手を引くことになったのは、パキスタンが同港を結ぶ道路網を建設できなかったことなどが原因という。パキスタン政府高官は、「この変更は戦略的なものでもあり、中国にとって大きな価値がある。我々は、中東から中国西部を結ぶ石油パイプラインを建設するために、中国はグワダルにおけるプレゼンスを活用すると見ている」と語った。

記事参照:
Pakistan in talks to hand Gwadar port to China

9月3日「チッタゴン港の現況、バングラデシュ」(BBC News, September 3, 2012)

バングラデシュは近年、衣料品の輸出で世界のトップとなった。これを支えているのが、ベンガル湾に注ぐカルナプリ川に面したチッタゴン港である。同港は、バングラデシュの輸出入の80%以上を取り扱っており、同国経済の動脈となっている。同港の2011年の荷役量は、貨物が4,700万トン以上で、コンテナは140万TEUであった。バングラデシュの経済成長率は近年、6%を超えており、それに伴って貿易量も増えている。同港の現在の平均回航所要時間は2日半になっているが、専門家は、経済の成長に伴って、もっと短縮すべきと指摘している。因みに、シンガポール港の所要時間は12時間以下である。

チッタゴン港はミャンマー、中国そしてインドに近接した戦略的位置にあり、ネパールとブータンの内陸国も同港へのアクセスを望んでいる。インドも、内陸の北東7州への物資輸送のために、同港へのアクセスを望んでいる。バングラデシュと近隣諸国とのアクセス協定が結ばれれば、同港は、この地域のハブ港となろう。そうなれば、政府は、これら諸国から数百万ドルの港湾リース料を稼ぐことができる。しかしながら、この夢は長続きしないかもしれない。ミャンマーが約200キロ離れたシットウェーを、インドの支援を得て深水港に改修しつつあるからである。これが完成すれば、インドが内陸州への物資輸送に利用すると見られ、バングラデシュの港湾収入に影響を与えることになろう。

チッタゴン港は河川港で、船長188メートルを超える大型コンテナ船は利用できない。大型のコンテナ船は、シンガポールかその他の大型港を利用している。バングラデシュ政府は、将来的に深水港の必要性を認識しており、チッタゴン港南方のベンガル湾のソナディア島(Sonadia Island)に深水港の建設を計画している。これが完成するまでには数年を要することから、それまではバングラデシュの経済発展をチッタゴン港に託するしかない。

記事参照:
Bangladesh pins hope on Chittagong port

9月2日「新型ステルス・ミサイル艇の全貌—インドネシア海軍」(PRESS RELEASE – from North Sea Boats, September 2, and Defense Media Network.com, September 4, 2012)

インドネシア海軍の3胴型ステルス・ミサイル艇、KRI Klewang(インドネシアの伝統的な長刀の意)が8月31日、東ジャワのNorth Sea Boats(PT Lundin Industry Invest)のBanyuwangiにある造船所で進水した。以下は、KRI Klewangの全容である。

(1) KRI Klewangは、長さ63メートルの3胴型船体で、全ての構造物にビニエステル・カーボン・ファイバー素材を使用し、ステルス性能とともに、軽量化、強靱性そして腐食防止効果を高めた、既存の先端技術の粋を集めたミサイル艇である。船体デザインは、ニュージーランドの海軍艦艇設計会社、LOM Ocean Design Ltdとの24カ月に及ぶ共同研究、設計、開発作業の成果であり、発展途上国で先端技術を駆使して建造された戦闘艦として重要な意義がある。

(2) KRI Klewangは、今後4週間にわたって艤装が施され、10月から海上公試が行われる。運用開始は2013年中と見込まれている。North Sea Boatsは、2014年までに同型艦4隻を引き渡す契約になっている。

(3) 乗組員は将兵29人で、他に11メートル級のRHIB(特別機動船)1隻を含む特殊部隊の装備と要員を収容できる。KRI Klewangは安定した各種兵器プラットフォームで、Type705(最大8基)、RB 515、PenguinまたはExocetなどの各種ミサイル、40~57ミリ艦砲、更にはCIWSなどが搭載可能である。最大速度は30ノット以上、航続距離は2,000カイリ以上である。

記事参照:
PRESS RELEASE – from North Sea Boats
Indonesia Launches New Class of Large Trimaran Missile Boats

9月3日「中国、ミスチーフ環礁の建造物拡張」(Philstar.com, September 3, 2012)

中国は、フィリピンが領有権を主張する、ミスチーフ環境(Mischief Reef)に新たな建造物を構築している。Philippine Institute for Peace, Violence and Terrorism Researchのバンラオイ(Rommel Banlaoi)所長は、6月に同環礁の建造物の画像を入手したが、建てられたのはそれ以前と見ている。バンラオイによれば、この画像には、新たな建造物として、風車、ソーラー・パネル、ヘリパッドやバスケットボール・コートとしての利用に適したコンクリート・プラットフォームが見られる。バンラオイは、こうした建造物は中国の実効支配を強めるもので、紛争海域における中国のプレゼンスを誇示するもの、と指摘している。

ミスチーフ環礁は、フィリピンの沿岸監視所がある、Ayungin Shoalに近く、パラワン島から約70カイリの位置にある。ミスチーフ環礁は、フィリピンではPanganiban Reefと呼ばれるが、1995年以来中国に占拠されている。中国は、フィリピンが実効支配するPag-asa Islandの南西12カイリにある、Subi Reefにも強力なレーダーステーションを建設しており、6年前から灯台を含む4層の建造物を建設している。一方、フィリピンも、Pag-asa Islandに、集会所、健康センター、1,300メートル滑走路、海軍ステーションを建設しており、最近では小学校も設置した。

フィリピンはまた、3日から5日間に亘って、沿岸監視システムの性能を検証する、Coast Watch System Capability Exercise 2012を実施する。この演習は、The National Coast Watch Systemの設置に伴って、海軍、沿岸警備隊、及び国家警察海洋部による海事関係機関の活動調整を狙いとするもので、米海軍のP-3C Orionも参加する。

記事参照:
China expanding Mischief structures

9月4日「中印両国、合同軍事演習の再開に合意」(The New York Times, AP, September 4, 2012)

中印両国国防相は4日、ニューデーリーで会談し、2年間中断されていた両国間の合同軍事演習の再開に合意した。会談後の発表によれば、両国は、ハイレベルの軍事交流、合同海洋捜索救難演習、ソマリア沖での海賊対処活動における協力などについて合意した。演習の期日は特定されなかったが、両国防相は声明で、緊密な軍事関係が両国間の信頼と友好の増進に資する、と強調した。消息筋によれば、中国側はこの会談で、インドが南シナ海における領有権紛争に関わらないよう求めたとされる。更に、中国側は、インドに対して南シナ海でのベトナムとの合同石油開発を中止するよう求めたという。一方で、中国の梁光烈国防相は、中国の急速な軍事力増強とミャンマー、スリランカ、パキスタン及びモルディブにおける中国の投資の増大について、インド側に説明したと見られる。これら諸国における中国の投資の増大は、中国によるインド包囲の懸念を生んでいる。

記事参照:
India and China Agree to Resume Joint Military Exercises

9月4日「EU艦隊等、十分な海賊対策の継続を海運業界に要望」(UPI, September 4, 2012)

最近のソマリアの海賊による襲撃事案が減少しているが、ソマリア沖で海賊対処作戦を遂行する、EU艦隊、NATO艦隊及び合同任務部隊、CTF-151は4日、海運業界に対し、引き続き十分な海賊対策の継続を呼びかけた。国際海事局(IMB)の報告によれば、2012年1月1日から7月12日までの襲撃事案は69件で、これは2011年同期から32%減となっている。しかしながら、EU艦隊は声明で、「海賊行為を許すソマリアの情勢は依然として変わらず、各国海軍と海賊多発海域を航行する全ての船舶は、警戒を怠ってはならない」と述べている。更に、声明は、海軍戦闘艦の展開だけではこの海域の安全を保証できないとし、海運業界に対して、今後も船員への海賊対策訓練を継続するよう要請している。そして、海賊対処マニュアル、”Piracy — Best Management Practices Version 4″に示された防護手段を履行するよう慫慂している。

記事参照:
EU Naval Force Somalia warns ship owners
“Piracy — Best Management Practices Version 4” is available at following URL;

9月4日「米国のリバランシング戦略と南シナ海における紛争—R.エマース」(RSIS Commentaries, No. 165, September 4, 2012)

シンガポールのナンヤン工科大学国際問題研究所(RSIS)のエマース(Ralf Emmers)准教授は、4日付のRSIS Commentariesに、“US Rebalancing Strategy and the South China Sea Disputes”と題する論説を寄稿している。エマースは、米国のリバランシング(再均衡)戦略あるいはアジア「回帰」(“pivot”)は南シナ海の領有権紛争に新たな次元を画するもので、中国の対応とこの地域における緊張の高まりを見れば、話し合いによる紛争解決の余地が残っているのだろうかと問いかけ、要旨以下のように述べている。

(1) オバマ政権は、アジア太平洋への回帰あるいは再均衡戦略の一環として、その外交と軍事力の重点をアジア太平洋地域に再指向している。米国のこの再均衡戦略は、南シナ海の領有権紛争に新たな次元を画するものとなっている。米国は伝統的に、南シナ海での主権問題に巻き込まれることを避けてきた。米国の関心は、一貫して航行の自由と第7艦隊の機動性の維持に限られてきた。しかしながら、2009年3月の海南島南方における米海軍海洋監視艦、USNS Impeccableに対する妨害事案は、ワシントンに深刻な懸念を引き起こした。南シナ海における米国の立場は、この事案以降も基本的には変わっていない。ワシントンは依然として、主権問題に関与しない姿勢を変えておらず、米国の核心利益は、紛争海域における航行の自由に限られるとしている。米国は、中国の海軍力の強化と紛争海域での航行の自由の原則に対する中国のコミットメントの不透明さを徐々に懸念するようになってきている。

(2) ゲイツ米国防長官は2010年6月のシャングリラ対話において、米国は主権紛争の一方に与しないとしながらも、南シナ海における航行の自由を脅かす如何なる行為にも反対すると宣言した。南シナ海における航行の自由は米国の国益であるとした、2010年7月のASEAN地域フォーラム(ARF)でのクリントン米国務長官の宣言は、中国を激怒させた。北京は、クリントン長官の言明を、外部勢力による一種の干渉と受け取った。クリントン中間は、2011年7月のバリでのARF会合で再び南シナ海に言及し、ASEANと中国が行動規範(COC)を締結するよう慫慂した。オバマ大統領は2011年11月のバリ島の東アジアサミット(EAS)で、米国は紛争当事者の一方に与しないが、米国の国益には南シナ海における航行の自由と妨害なき国際的通商が含まれると言明した。これに対して、中国の温家宝首相は、航海の自由の原則を再確認するとともに、南シナ海における紛争の平和的解決を求めると反論した。ベトナムとインドネシアがASEANの議長国を努めた後、次の3年間の議長国は、カンボジア、ブルネイ及びミャンマーの順となり、南シナ海問題の国際化を最小限に抑えることによって北京を宥めることが期待された。このことは既に、ASEANが南シナ海問題に関する見解の相違を理由に、共同宣言の発出に失敗した2012年7月のカンボジアでのASEAN外相会議(AMM)で現実のものとなった。その後のARFの会合に出席したクリントン長官は、このASEAN内の出来事に干渉しなかった。

(3) 中国は、米国の再均衡戦略を、アジアにおける中国の平和的台頭を封じ込めるための企みと受け取っている。中国の視点からすれば、ワシントンは、2国間同盟を強化し、この地域へのより多くの軍事力を割り当てることで、中国の封じ込めを目指していると見える。特に、米国は、南シナ海への関与を強め、従って北京が東南アジアの係争国との2国間問題であると考えるものに干渉していると見ている。中国はまた、係争海域での最近のフィリピンの行動、例えば、2012年春のスカボロー礁における事案を、ワシントンに唆されたものと見なしている。

(4) 米中両国は、領有権紛争の過剰な軍事化を防ごうとしている。北京とワシントンはともに、南シナ海における紛争を、軍事的解決よりも外交的解決が必要と考えており、少なくとも現在は、ASEANが紛争の管理プロセスをリードすることを受け入れている。しかしながら、ワシントンも北京も、南シナ海の紛争を何処で論議すべきかについては、意見が一致していない。米国は、国際的なフォーラムでこの問題を取り上げることを望んでいるが、これは中国にとって誠に厄介なことである。北京は、この問題を国際化しようとする如何なる企てにも益々懸念を強めており、むしろ、この問題を東南アジアの小国である紛争当事国との2国間で議論することを望んでいる。南シナ海における大国間の抗争関係は、ASEANの前途を一層複雑にすると見られる。

記事参照:
http://www.rsis.edu.sg/publications/Perspective/RSIS1652012.pdf

【関連記事】「台湾、南シナ海紛争の調停者を目指す—国家安全会議秘書長」(Taipei Times, September 2, 2012)

台湾の国家安全会議の胡為真秘書長は8月31日、視察に訪れた南シナ海の太平島(台湾が領有する島)で、南シナ海の豊かな富を関係国全てが平和裏に開発できるようにすべきとして、台湾が南シナ海紛争の調停者になることを決意した、と述べた。胡秘書長らは、南シナ海最大の島、太平島とその周辺海域に対する台湾の領有権主張を誇示するために、同島を訪問した。また一行は、同島から東約5.7キロにある、中洲礁(Chungchou Reef)にも上陸した。これら2カ所の訪問先では、台湾の主権を誇示するために、国旗を掲揚した。胡秘書長は、太平島などに対する台湾の主権は議論の余地なきものであることを確認した上で、全ての領有権主張国が資源の共同開発のために平和裏に協力できれば、領有権紛争も解決できる、と強調した。そして胡秘書長は、南シナ海を繁栄と平和の海にするために、領有権紛争を棚上げし、対決を対話に代え、話し合いを通じて紛争の解決を目指し、そして豊かな資源の共同開発を目指す、という馬政権の南シナ海イニシアチブに全ての関係国が応えるよう求めた。台湾は、太平島に病院や太陽光発電施設を設置している。

記事参照:
Taiwan seeks China Sea peacemaker role

9月5日「アキノ比大統領、『西フィリピン海』命名文書に署名」(Diplo News, September 12, 2012)

フィリピンのアキノ三世大統領は5日、「西フィリピン海」命名文書、行政命令29号に署名した。文書は、「フィリピンは、ルソン海とその周辺海域、カラヤン諸島(南沙諸島)とスカボロー礁及びその周辺海域を含む海域を画定する、固有の権限を有している」と述べている。更に、文書は、「西フィリピン海の命名は、フィリピン共和国が主権と主権的権限を持つ領域に対する完全な支配を確定するものである」としている。文書は、The National Mapping and Resource Information Authority(NAMRIA)に対して、西フィリピン海の命名を反映したフィリピンの地図を作成、発行するよう命じている。その後、公式地図は、関連文書を添付して、国連事務総長、国際水路機関(The International Hydrographic Organization)や国連地名標準化会議(The United Nations Conference on the Standardization of Geographical Names)などの関係機関に提出される。全ての政府機関と行政文書は、NAMRIA作製の地図を使用する。特に、教育省、高等教育委員会、国立大学などは、教材などにNAMRIA作製の地図を使用するよう指示されている。

記事参照:
President Aquino signs AO 29 naming West Philippine Sea

9月7日「南シナ海での紛争回避—P.クローニン」(China & US Focus, September 7, 2012)

米シンクタンク、The Center for a New American Securityのクローニン(Dr. Patrick M. Cronin)上席顧問は、7日付のChina & US Focusに、“Averting Conflict in the South China Sea”と題する論説を寄稿している。クローニンは、南シナ海での紛争は回避できるし、回避すべきであるとして、領有権紛争を解決することはできないとしても、管理することは可能であると、要旨以下のように論じている。

(1) 南シナ海での紛争は回避できるし、回避すべきである。関係各国の利害の対立はあっても、そこにおける共通利益の方が意見の不一致よりも大きいが故に、紛争回避が可能である。また、短期間にせよ武力に訴えれば、米中関係は悪化し、域内は分裂し、そしてグローバル経済に深刻な影響を与えるが故に、紛争を回避すべきである。

(2) 船舶の航行規則が将来的な外交方針に洞察を与える。全ての船舶は衝突を避ける責任があるのと同様に、全ての国は敵対行為を回避する義務がある。特に米中2大国は、平和を維持する特別な義務を負っている。まず、南シナ海は一部が世界の公共財であり、同時にその一部が沿岸国の主権が及ぶ領域でもあることを認識することが、緊張緩和に不可欠な出発点である。領海の確定、島嶼の領有権や海底資源の管轄権の画定は、安易な解決策を受け付けない。如何なる国家や国際機構も解決策を押しつけることはできない。そこには、共有できる解決策がなければならない。事態の打開に必要なのは、現実主義、信頼醸成措置、透明性の増大、そして関係各国の自制である。

(3) 米国は今後も、力を増しつつあるインド太平洋地域に、外交、貿易そして軍事面で高い優先度を置くと見られる。しかし、米国の戦略の核心は、航行の自由の維持や国際公共財へのアクセスの自由といった、経済的利益にあり、それには一層の米中協力を必要とする。従って、米国は、敬意をもって中国に接し、協力関係を促進する努力が必要である。そうした協力に向けて最も機が熟している分野には、人道支援や災害救助、科学技術(特に、南シナ海の資源開発に関連するもの)、そして実際的なエネルギー協力が含まれる。ブルネイとマレーシアによる生産物分与協定に見るように、南シナ海の資源は、こうした協力があって初めて利用できるようになるであろう。

(4) 他方、中国は、独断的な解決策を押しつけるのではなく、主権に関する論議を尊重するよう、米国に求めることができる。しかし、中国は、米国に対して、この問題に関与にないことを期待すべきではない。それがフィリピンのような条約上の同盟国であろうと、ベトナムのような重要性を増しつつある貿易相手国であろうと、米国は、平和裏に領有権紛争を解決すべしとする主張に組みすることになろう。そして中国当局者は、米国のコミットメントの信頼性を試さない方が賢明である。例えば、大統領選挙後の2013年早々の米国の政権は、その様な試みに過剰にあるいは過少に反応するかもしれないが、過剰な対応は中国にとって有利ではなく、過少な反応はその後に厳しい反発を生む可能性がある。米中双方にとって、自制と慎重な対応が求められる。

(5) それと関連するが、南シナ海だけに限定されない戦略的課題として、米国の艦船が中国のEEZを無害航行する法的権利を、中国が拒否している問題がある。中国は、この軍艦の無害通航権という慣習を廃止し、他国の海軍艦艇、就中、グローバルな商取引だけでなく安全保障に関する開放性維持のために航行の自由という公共財を護ろうとしている、米海軍のアクセスを拒否し、駆逐するための能力を構築しつつある。周辺諸国にとって、中国の軍事力近代化は、あまりにも秘密のベールに包まれており、友好的意図とはそぐわない。米国も何時かは、人民解放軍の艦艇が米国の沿岸沖を航行するという事態を受け入れるようになるのは間違いない。しかし、当面は、中国のEEZや南シナ海シの紛争海域における米海軍艦艇の無害航行や南シナ海の領有権紛争といった問題は、無理に解決を図るよりも、管理することを考えるべきである。より広範な対話、信頼醸成措置さらには透明性の強化を通じた、海洋における非公式なルールの確立が、台頭する中国と強い米国の両者にとって受け入れ可能なものであろう。

記事参照:
http://www.chinausfocus.com/uncategorized/averting-conflict-in-the-south-china-sea/