海洋安全保障情報旬報 2012年8月21日〜8月31日

Contents

8月22日「インド、2013年半ばまでに新沿岸監視ネットワークの運用開始」(Defense News, August 22,2012)

22日付けのWeb誌、Defense Newsによれば、インドのアントニー国防相は、インドの新しい沿岸監視ネットワークは2013年半ばまでに運用を開始する、と議会に対する書面回答で明らかにした。それによれば、この新沿岸監視ネットワークは84カ所のサイトに設置された固定レーダーと電子光学センサーで構成され、不審船を探知するため、島嶼領土を含むインドの全沿岸を監視する。第1段階では46基のレーダーが稼働しており、ネットワークが完全稼働になるのは2013年半ばである。沿岸レーダーの設置は、沿岸警備隊増強計画の一環である。沿岸警備隊はまた、20隻の高速巡視艇、41隻の巡視艇、12機の沿岸偵察機(Dornier)と巡視船を導入しつつある。インド政府は2011年、沿岸警備隊ステーションの建設とともに、クジャラート州沿岸に7カ所のレーダー・ステーションを設置することを承認した。沿岸警備隊はまた、Dornierを受領し始めており、同機は高性能な航法・通信システムや兵装を備えている。同機は、沿岸警備隊の任務に対応した、海洋汚染対処、捜索救難、海上偵察など、多様な役割を遂行できる。

記事参照:
Indian Coastal Surveillance Net to Debut in Mid-2013

8月23日「ロシア空母、再就役」(RusNavy.com, August 23, 2012)

ロシア海軍北洋艦隊の空母、Admiral Kuznetsovは、JSC Zvezdochka Ship Repair Centerのムルマンスク造修所で改修作業を終え、23日に再就役した。同艦は1991年1月20日に北洋艦隊に配属された。同艦は排水量5万5,000トン、速力29ノット、航続日数45日、乗員1,960人で、最大24機のKa-27多用途ヘリ、最大16機のYak-41M超音速VSTOL機、及び最大12機のSu-27K艦上戦闘機を搭載する。兵装は、Granit対艦ミサイル・ランチャー12基、Udav-1対潜ロケット発射管60基、Klinok対空ミサイル・ランチャー24基(ミサイル192基)、及びKashtan CIWシステム(ミサイル256基)である。

記事参照:
Russian Carrier Admiral Kuznetsov Returns to Service

8月26日「南ア、海賊対処活動再開」(Defence Web, August 27, 2012)

南アフリカ海軍は26日、2カ月間のブランクの後、モザンビーク沖で海賊対処活動を再開した。フリゲート、SAS Amatolaは26日にダーバン港を出航し、タンザニア沖とモザンビーク海峡で3カ月間にわたって海賊対処活動に従事する。南ア海軍は、2011年初め以来、モザンビーク海峡で海賊対処活動、Operation Copperを実施してきた。対処部隊は通常、フリゲート1隻と空軍のC-47TP海上哨戒機からなる。モザンビーク海峡への戦闘艦の派遣は継続的ではなく、一定間隔を置いて派遣されてきたが、C-47TP海上哨戒機は、モザンビークのペンバに前進基地を置き、継続的に海洋監視飛行を実施している。

記事参照:
Navy resumes anti-piracy patrols after two-month hiatus

8月26日「インド、チャーバーハル港への投資をイランに提案」(The Times of India, August 26, 2012)

インド紙、The Times of Indiaが26日付けで報じるところによれば、インドは、チャーバーハル港への総額30億〜40億ルピーの投資をイランに提案している。インドの役割は、同港の第2期拡張計画で極めて重要なものとなろう。インドは、同港を、パキスタンを迂回して中央アジアの進出するゲートウェーと見なしている。インド海運省当局者によれば、既にインド港湾協会(Indian Ports Association: IPA)から2つの専門家チームが派遣され、港湾を調査し、投資対象を確認した。海運省当局者は、「第1期計画のほぼ80%が完成している。イランは、これまで約3億4,000万米ドルを投資してきた。我々の役割は、第2期になろう。我々は、イラン対外問題省に3つの投資案を提示している」と語った。それによれば、第1案は、約2,000万米ドルでチャーバーハル港に多目的貨物埠頭を建設し、運用することである。第2案は、推定3,000万米ドルを投資してコンテナ・ターミナルを建設することである。そして第3案は、約6,500万米ドルでもう1つの大規模なコンテナ・ターミナルを建設することである。インドの同港に対する関心は、中央アジアへの直接的アクセスばかりでなく、同港経由でアフガニスタンから鉱物資源を輸入することにある。イランは、同港を5期計画で拡張し、2020年までに2,000万トンの貨物取扱能力を持つ港にする計画である。

記事参照:
India eyeing Iran’s Chabahar port for direct access to Central Asia

8月28日「ロシアでベトナム向け潜水艦、進水」(RIA Novosti, August 28, 2012)

ロシアのサンクトベルグの造船所関係者が明らかにしたところによれば、ベトナム向けの新型Kilo級Project636Mディーゼル電気推進潜水艦が28日に進水する。この潜水艦は、ハノイが発注した6隻の1番艦である。ベトナムは2009年12月、ほぼ20億米ドルで6隻購入する契約を締結したと発表している。造船所関係者によれば、1番艦は28日に進水した後、間もなく海上公試に入り、2012年末までにはベトナムに引き渡される予定である。全6艦の引き渡しが完了するのは、2016年の予定である。Project636潜水艦は、排水量3,100トン、最高速度20ノットで深度300メートルまで潜航ができ、乗組員数は52人である。この潜水艦は533ミリ魚雷発射管を装備し、魚雷、機雷及びKaliber 3M54(SS-N-27)巡航ミサイルを搭載する。

記事参照:
Russia Launches Submarine for Vietnam

【関連記事1】「ベトナムのロシア製潜水艦、その導入の背景」(U.S. Naval Institute, August 21, 2012)

オーストラリア国防大学のセイヤー(Carlyle A. Thayer)名誉教授.は、21日付のU.S. Naval InstituteのHPに、“Russian Subs in Vietnam”と題する論考を寄稿した。この論考で、セイヤーは、ベトナムのKilo級潜水艦の導入の経緯や性能要目などについて言及した後、その運用環境について、要旨以下のように述べている。

(1) ベトナムは、南シナ海の比較的浅い海域で運用するためにKilo級潜水艦を取得する。Kilo級潜水艦は、運用が開始されれば、ベトナム沿岸沖と南沙諸島周辺海域における外国の政府公船と海軍艦艇の活動に関する、ベトナムの海洋環境識別能力を強化することになろう。また、Kilo級潜水艦は、中国が南シナ海においてベトナムが占有してきた島嶼や環礁を奪取しようとするかもしれない不測の事態に対する抑止力となろう。Kilo級潜水艦戦力は全体として、中国海軍の軍艦による威嚇に対して、控えめながらも潜在的なアクセス拒否・地域拒否機能を持つことになろう。

(2) ベトナムは、こうした能力を持つようになるには、Kilo級潜水艦戦力をその戦力構成に組み込むために、これまでの2次元戦力(水上と航空)から3次元戦力に転換しなければならない。ベトナムは、Kilo級潜水艦の運用を維持するために整備及び補修資金を調達するとともに、潜水艦救難能力を開発する必要がある。専門家の予測では、Kilo級潜水艦を効果的に戦力化するベトナムの能力は、シンガポールとインドネシアの間あたりになるという。また、これら専門家は、ベトナムが真に現代的な潜水艦戦力を開発するためには、今後数年間にわたるロシアとインドの継続的な支援によるところが大きいと見ている。

記事参照:
Russian Subs in Vietnam

【関連記事2】「ベトナムのKilo級潜水艦、域内の海軍力バランスを変えるか」(RSIS Commentaries, August 28, 2012)

シンガポールのナンヤン工科大学RSIS防衛戦略研究所のKoh Swee Lean Collin准研究員は、28日付けのRSIS Commentariesに、“Vietnam’s New Kilo-class Submarines: Game-changer in Regional Naval Balance?”と題する論説を寄稿している。筆者は、Kilo級潜水艦は水中戦闘能力の取得というハノイの夢に向けた第1歩ではあるが、域内の海軍力バランスにおけるゲーム・チェンジャーであるには程遠いと見、要旨以下のように述べている。

(1) 中越海軍力バランスを見れば、ベトナム海軍は量的には、中国海軍の増強ペースには追いつけない。中国は、ベトナムだけでなく、この地域の他の潜水艦運用国に比べて、量的に圧倒的に格差のある潜水艦戦力を有しており、しかもその格差は更に拡大しつつある。ベトナムの新型Kilo級潜水艦は質的に見れば、南シナ海において増大しつつある中国の海軍力に対して、非対称的ながら信頼できる対抗戦力である。中国は1990年代以来、Kilo級潜水艦を運用してきたので、ベトナムのKilo級潜水艦は新奇なものではない。しかしながら、以前はベトナムの水中戦闘能力を全く考慮する必要がなかった中国海軍の計画

立案者にとっては、これは懸念材料となるであろう。それでも、域内の海軍力バランスに限れば、この新しい戦力も、中国の潜水艦戦力の全般的な優勢が拡大しつつあることから、南シナ海における中国海軍の優位にたいする深刻な挑戦とはならないであろう。

(2) 東南アジアの他諸国の海軍は、ベトナムがKilo級潜水艦を購入する以前から、少数ながら潜水艦を取得してきた。インドネシアとマレーシアは、最近の新たな潜水艦の取得にもかかわらず、両国の広大な海域から見て、依然として能力不足に直面している。ベトナムは、2018年までに全6隻のKilo級潜水艦が就役すれば、この地域で最大の水中戦闘戦力を保有することになる。しかしながら、他の東南アジアの潜水艦運用国も、この10年以内に、その潜水艦戦力を増強していくであろう。中国のKilo級潜水艦が南シナ海で運用されているといわれており、Kilo級潜水艦は南シナ海で特異なものではない。

(3) ベトナムの新たなKilo級潜水艦は、この地域における海軍力バランスの中でゲーム・チェンジャーであるにはほど遠く、従って海軍力バランスを根本的に変えるものではない。むしろ、Kilo級潜水艦は、ベトナムが「バランスのとれた」海軍を目指す全体的な取り組みの一環として、これまで持っていなかった水中戦闘能力を取得する意図を誇示するものである。また6隻もの取得は、洋上における継続的な海軍力のプレゼンスを維持するとともに、持続的な運用可能戦力規模を保有する意図をも示している。このことは、ベトナムが潜水艦だけでなく、必要なインフラ整備や要員の育成にも力を入れていることからも裏付けられる。ハノイは2010年、カムラン湾に潜水艦施設を建設するためにロシアの支援を求めたといわれる。また、最近では、Kilo級潜水艦の乗組員の訓練のためにインドと協定を結んだ。ベトナム海軍は、この潜水艦整備計画にもかかわらず、南シナ海などにおける洋上航空監視能力と持続的な海軍力のプレゼンス維持能力など、幾つかの重要な分野における明白な欠陥を補完していく必要がある。また、ベトナムは今後、潜水艦救難能力の開発とこの分野での域内各国の海軍との協同を検討すべきであろう。熟練した乗組員と運用ドクトリンを備えた即応態勢の潜水艦戦力の構築には時間がかかる。このことは究極的に、政治的な意志にかかっているだけでなく、ベトナム経済が良好な状態で持続されるかどうかにも左右されよう。

記事参照:
Vietnam’s New Kilo-class Submarines: Game-changer in Regional Naval Balance?

8月30日「中台、合同捜索救難演習の隔年開催に合意」(Xinhua, August 30, 2012)

中国交通運輸省の徐副大臣が30日に明らかにしたところによれば、中台双方は、合同捜索救難演習の隔年開催に合意した。合同演習は2010年に初めて実施され、現在、2回目の演習が厦門と金門島との間の海域で実施されている。この演習は、漁船の転覆と乗組員の救助を想定した救難演習シナリオを含む、多様なシナリオに基づいて実施されている。福建省にある、海難救助調整センターは2011年に、209回の海難救助を実施し、193隻の船舶と1,973人の乗組員を救助した。2012年上半期の両岸の交通量は、輸送人員で前年同期より13.6%増の84万人を記録し、また貨物輸送量は2,700万トン、コンテナー輸送量は84万TEUに達している。

記事参照:
Chinese mainland, Taiwan agree joint maritime rescue exercise

8月31日「南太平洋諸国に対する支援を約束—クリントン米国務長官」(U.S. Department of State, August 31, 2012)

クリントン米国務長官は31日、南太平洋の島嶼国クック諸島で開かれた太平洋島嶼フォーラム(The Pacific Islands Forum)首脳会議の関連会合で演説し、南太平洋諸国に対する支援を約束して、要旨以下のように述べた。

(1) 我々は既に、この地域のパートナー諸国と、犯罪、不法移民、核拡散及び災害対処を含む、伝統的な海洋安全保障問題について緊密に協力している。しかし私が本日、強調しておきたい分野は2つで、その1つが海洋環境識別能力の強化である。米国沿岸警備隊の巡視船と航空機は、Shiprider計画に基づいて、太平洋島嶼諸国の管轄海域を哨戒するために、当該各国からの海洋法冷執行官を乗船させている。これは大きな効果をもたらしている。例えば、キリバスでは2009年以来、400万ドル以上の不法操業による罰金を徴収した。我々は現在、Shiprider計画を、沿岸警備隊に加えて、海軍も参加するよう拡充している。更に、我々は、太平洋における海洋監視、特に漁業活動に対する監視を強化するため、オーストラリア、ニュージーランド及びフランスと密接に協力している。

(2) 第2の分野は、域内の海洋や陸地に残る、第2次大戦当時の残存不発弾やその他の武器の処理である。我々は、この問題を、域内の安全と繁栄のために重要と考えている。腐食した武器は海洋や土壌汚染の原因となる。このために、米政府は最近数年間、太平洋島嶼諸国に対して200万ドル以上を援助してきた。更に、追加援助として、350万ドルを提供する。我々はまた、各国の不発弾処理チームの訓練支援も行う。

(3) 米国は戦後、太平洋地域に留まり、この地域の開発と繁栄を可能にした、域内の安全を保証してきた。我々は、21世紀においても、太平洋島嶼諸国の人々と密接に協力していく。

記事参照:
Commemorating U.S. Peace and Security Partnerships in the Pacific

【関連記事1】「南太平洋における米中の角逐—豪専門家」(The Interpreter, Lowy Institute for
International Policy, August 22, 2012)

オーストラリアのLowy Institute for International Policyのブログ、The Interpreterに22日付けで、同研究所のオキーフ(Annmaree O’Keeffe)研究員は、”US and China meet in South Pacific”と題する論説を寄稿している。オキーフはこの論説で、南太平洋における米中の角逐について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 米中がアジアと北太平洋で展開しているより大規模な外交的、経済的そして地政学的抗争に比して、南太平洋への関与は二次的問題に過ぎないかもしれないが、米国は、赤道の南を軽視すべきでないことを認識してきた。ワシントンのアジア太平洋地域におけるリバランシング政策に沿って、クリントン米国務長官は2009年の国連総会で、米国際開発庁(USAID)による太平洋諸国への関与を強化する、と発表した。クリントン長官は2011年には、USAIDがフィジーに事務所を開設し、気候変動対策に2,100万ドルを供与する、と発表した。USAIDのこの地域への復帰は16年ぶりであったが、この1カ月後のパプアニューギニア(PNG)訪問時、事務所の場所をフィジーからPNGに移すことを明らかにし、2011年10月にポートモレスビーに開設された。更に、クリントン長官は2012年の上院外交委員会での証言で、対外援助を含む国務省予算の削減は、中国の台頭するパワーに対抗する米国の努力を阻害する、と述べた。長官はその際、中国の影響力が増大している太平洋諸国として、PNGとフィジーを例に挙げた。

(2) 太平洋諸国は経済発展の中心から外れていたが、今やこれら諸国は世界の経済大国、中国の裏庭と見なされている。中国のこの地域に対する影響力の増大は、多くの側面、特に経済援助分野で顕著である。公表資料が乏しいので、中国の援助計画の実態は定かではない。Lowy Instituteが2011年に発表した報告書では、中国のこの地域に対するソフト・ローンは2005年の2,300万米ドルから2009年には1億8,300万米ドルに増大している。この数字によれば、中国は、2009年にはオーストラリアと米国に次ぐ3番目の援助国となっている。一方、この地域と中国の貿易関係も、この10年で漸増している。

記事参照:
US and China meet in South Pacific
The report released in 2011 by the Lowy Institute is available following URL;

【関連記事2】「南太平洋における中国のプレゼンスの増大、その戦略的影響—豪専門家論評」(The Strategist, The Australian Strategic Policy Institute Blog, August 30, 2012)

オーストラリア国立大のウォリス (Joanne Wallis) 講師は、30日付けの The Australian Strategic Policy Institute Blogに、“The dragon in our backyard: the strategic consequences of China’s increased presence in the South Pacific”と題する論説を寄稿し、中国の南太平洋におけるプレセンスの増大がオーストラリアの利益と衝突する可能性を指摘し、オーストラリアが中国のプレゼンスの増大に対応する必要性を強調して、要旨以下のように論じている。

(1) クリントン米国務長官がクック諸島で開かれる太平洋島嶼フォーラム(The Pacific Islands Forum)への出席を決めたのは、南太平洋の戦略的重要性が増していることを示すものである。クリントン長官の出席はまた、この地域において増大する中国のプレゼンスへの対応でもあるかもしれない。オーストラリアの近隣地域における中国の進出は、オーストラリアにとっても重要な意味を持つ。オーストラリアは、70年以上の長い年月で初めて、自国の裏庭に必ずしも利害の一致しない大国が進出するという状況に直面することになる。

(2) 中国はこの40年間、南太平洋で活動してきたが、それは、台湾との外交的承認争いが原動力であった。この競争は依然、重要だが、ここ数年休戦状態にある。中国の戦略的関心は今や、この地域において増大しつつある影響力を駆使して、グローバル・パワーとしての力を誇示することにあると見られる。南太平洋諸国は小なりといえども独立国で、国際機関において1票を持つ。中国は、自国の利益に与するよう、これら諸国を説得することが可能である。中国の南太平洋における最も重要な戦略的利益は、軍事的アクセス、就中、通信電波傍受であろう。例えば、フィジー近海で操業する中国魚船団は、特にミクロネシアの米軍基地からの通信傍受を受け持っているといわれる。中国はまた、域内の港湾とEEZ内への海軍艦艇のアクセスを求めるとともに、軍事援助計画を実施し、修理・補給施設へのアクセスを交渉している。

(3) 中国の軍事プレゼンスの増大は、オーストラリアにリスクをもたらす可能性がある。中国は国際的アクターとしてより攻勢的になってきており、従って、例えば2006年にソロモン諸島やトンガで暴動が起きた時のように、移住した中国人の安全が脅かされた場合、中国は軍事的に対応する可能性がある。こうした事態にオーストラリアも対応したらどうなるか、中国とオーストラリアは協力するのか、それとも対決状態となるのか。最も深刻なリスクは、オーストラリアの近隣諸国が、オーストラリアとは必ずしも利害が一致しない大国と連携するようになることであろう。実際、2009年のオーストラリアの防衛白書は、インドネシアや南太平洋の諸国が「オーストラリアに対する脅威の源泉とならない、そして周辺海空域に対するオーストラリアの制海権、制空権を脅かす可能性のある如何なる軍事大国も、オーストラリアを攻撃できる近隣地域における基地にアクセスさせない」ようにすることが、オーストラリアの戦略的利益であると強調している。この地域における中国の関与の性格を見ると、こうしたシナリオが現実となる可能性は決して排除できない。軍事強国がこの地域に拠点を築いた場合のオーストラリアの脆弱性は、第2次大戦時に日本がパプアニューギニアにまで進出した時にまざまざと見せ付けられた。

(4) オーストラリアは遅ればせながら、(多くの場合、ニュージーランドや米国と協力して)南太平洋における中国のプレゼンスの増大に対応し始めた。オーストラリアは、既に実施している広範な援助や軍事、警察、統治支援に加えて、この地域での外交活動を強化している。最も前向きな動きは、オーストラリアが7月にフィジーとの外交関係の全面復活と、同国の軍事政権に課した制裁の緩和を発表したことである。戦略的利害の大きさを考えれば、オーストラリアにとって、中国のプレゼンスの増大に積極的に取り組んでいくことが極めて重要である。

【関連記事3】8月30日「中国・ニュージーランド、クック諸島でインフラ整備協力」(Xinhua, August 31, 2012)

中国、ニュージーランド及びクック諸島は30日、クック諸島最大の島、ラロトンガ島に新たな給水システムを合同で建設するためのパートナーシップ協定を締結したと発表した。中国とニュージーランドが太平洋地域で大きな開発事業を合同で実施するのは、これが初めてである。ニュージーランドのケイ首相は声明で、「このインフラ整備事業は、ラロトンガ島の水質を改善するとともに、住民の健康と衛生状況の向上に資する」と述べた。この事業の総額は約6,000万NZドル(4,801万米ドル)で、ニュージーランドが1,500万NZドルとクック諸島政府に援助し、他方、中国は約3,200万NZドルを借款として提供する。

記事参照:
China-NZ joint Pacific aid project targets water in Cook Islands