海洋安全保障情報旬報 2012年7月11日〜7月20日

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7月11日「インド、シンガポール軍部隊の訓練継続」(Defense News,July 12,2012)

インドのシン首相と訪印中のシンガポールのリー・シェンロン首相は11日、インドが引き続きインド軍の訓練施設でシンガポール軍部隊の訓練を行うことで合意した。インドは既に、シンガポール空軍要員を西ベンガル州のKalaikunda空軍基地の訓練施設で訓練している。両国は2003年10月、防衛協力協定に調印し、両国軍の合同演習を実施してきた。この協定はまた、インドの国営防衛産業とシンガポールの防衛産業との間での合同生産協力を促進するとしている。インドの防衛問題専門家によれば、インドは、「ルック・イースト」政策の、そして中国の対抗するためにアジア太平洋地域諸国との軍事関係を強化する努力の一環として、シンガポールとの防衛関係の強化に力を入れている。

記事参照:
India to continue Training of Singapore Troops

7月11日「中国の南シナ海における最近の行動、その狙い—M.バレンシア」(The Japan Times, July 11, 2012)

オーストラリアの海上安全保障問題の専門家、バレンシア(Mark J. Valencia)は、11日付けのThe Japan Timesに、”China upsets Asia’s applecart “と題する論評を寄稿した。中国の国営石油大手、「中国海洋石油総公司」(CNOOC)は、ベトナムが主張する大陸棚にあって同国のEEZと重複する、CNOOCの石油ブロックにおける外国企業の入札を求めた。このブロックは、ベトナムが既に米国のエクソンやロシアのガスプロム、インドのONGCなど、海外の石油大手にリースしている開発鉱区の相当部分と重複している。(CNOOCの開発鉱区については、OPRF海洋安全保障情報月報2012年6月号1.3南シナ海関連事象参照。)バレンシアは、中国の狙いについて、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) このような行動は、中国が自らの「9断線」の中では何でもできることを確認しようとしているようである。中国は、フィリピンとの緊張状態が続くスカボロー礁に対する自らの領有権主張を護るために、「戦闘即応態勢」の哨戒艦船を派遣した。中国にとって次のミッションは、ベトナムの大陸棚におけるプレゼンスの確立であるかもしれない。中国の行動は大胆である。中国は恐らく、この海域には合意された境界がなく、従って紛争海域である、と主張する。また、中国は「歴史的水域あるいは歴史的権原」を持ち出すことができても、政治家や専門家からはそれらは受け入れられないであろう。「歴史的水域」とは伝統的に内水と同じで、そこでは「航行の自由」が認められない。

(2) 米国の最大の関心事は、中国が何時の日か南シナ海を内水化するかもしれない、ということである。米国は、南シナ海の領有権紛争の武力による解決に一貫して反対してきた。中国のこうした動きは、米国が(南シナ海問題の)「操舵室」に入ることを正当化することになり、このことはASEAN諸国にとっても大いなる利点となろう。中国は明らかに、既存の国際秩序や国際法規の遵守を求めるASEAN諸国や米国の要請を踏みにじった。中国は、一方的に歴史的領有権主張を推し進め、第三者による調停や仲裁を拒否するであろう。「三沙市」の制定も含め、中国のこのような行動は、ベトナムの主権を踏みにじるだけでなく、この海域における諸問題で緊張関係を高めるような一方的行為を控えることを宣言した、「南シナ海行動宣言」に明らかに逸脱している。こうした状況は、法的拘束力を持つ、「行動規範」に対する合意を、不可能ではないとしても、益々困難にするであろう。

(3) 中国は何故この時期に、こうした行動に出たか。指導部の交代と何らかの関係があるのか。これは、ナショナリスティックな軍部がより強い権力を手に入れたことを示す兆候なのか。あるいは、中国の指導部が「賽は投げられた」と決断し、「手札を見せる」ことにしたのか。中国の動機が何であれ、中国の行動は、この地域を不安定化させた。もちろん、中国にも、米国を含む多くの国と同様に、地域大国として台頭し、国際秩序を有利に変えようとする権利がある。最近の中国の行動は、中国がまさにそうしようとする意図があることを示している。

(4) 米国のアジアにおける「リバランシング」は既に、域内を騒がせ、米中間の緊張を高めてきた。中国は、米国の動きを、自らの台頭を封じ込める企図と見ている。一部のASEAN諸国は、単独でも、あるいはASEAN全体でも、米中いずれかの選択を余儀なくさせられることを望んでいない。米中両国は今や、東南アジア諸国の心をつかむことを競っている。フィリピンとベトナムは米国の政策転換を歓迎しているが、他の諸国はそれほどでもない。実際、一部の国は、米中間の抗争が域内の政治問題の中心となり、不安定を助長し、そのためにASEANの政治・安全保障問題における存在感が薄らぐことを危惧している。ASEANから見て最悪のシナリオは、米中間の抗争が過熱し、南シナ海問題を深刻な政治的紛争とし、ASEANの分裂を促し、それによって域内の安全保障問題におけるASEANの存在感が低下することであろう。

記事参照:
China upsets Asia’s applecart

7月13日「オーストラリア、アジア太平洋地域のキー・プレイヤー—米太平洋軍司令官」(American Forces Press Service, July 13, 2012)

オーストラリア訪問中の米太平洋軍ロックリア(ADM Samuel J. Locklear)司令官は13日の記者会見で、オーストラリアは60年以上にわたって米国の信頼に足りる同盟国であり、アジア太平洋地域の安全保障とその将来に引き続き重要な存在であり続ける、と強調した。ロックリア司令官は3月に就任後初めてオーストラリア訪問で、12日にオーストラリア軍のハーリー(Gen. David Hurley)総参謀長を初めとする同国軍高官と、13日にはギラード首相と会談し、米国がアジア太平洋地域における戦力の再編を進める中で、米豪同盟を更なる段階に進化させていくことを話し合った。その第1歩が2012年4月からの半ば頃から米海兵隊約250人のダーウィン近郊のロバートソン駐屯地へのローテーション展開で、今後2,500人程度にまで拡大される予定である。ロックリア司令官は、この展開は計画通り上手く進んでおり、米政府も満足している、と語った。

同司令官はまた、アジア太平洋地域の将来を見通した場合、最大の課題は海洋、宇宙そしてサイバー空間を含むグローバル・コモンズに対する国境を越えた脅威である、と指摘した。その上で、同司令官は、米軍再編の中で、グローバル・コモンズに対する広範なアクセスを確保できる戦力を開発していかねばならず、また域内のほとんどの国が国境を越えた多国間作戦を遂行できる戦力の必要性を認識し始めている、と語った。

同司令官は更に、米軍再編は中国の「封じ込め」を狙いとしたものではないことを強調し、最近の中国訪問でも、域内の安全と安定を促進するために、中国に対してもより緊密なパートナーになるよう求めている、と語った。

南シナ海、特にスカボロー礁を巡るフィリピンと中国との緊張関係について、同司令官は、南シナ海の領有権問題について米国はいずれの側にも与しておらず、関係当事国が平和的な手段を通して解決することを望んでいる、と語った。

記事参照:
Pacom Chief Calls Australia Key Player in Regional Security

7月15日「ARF、米国にとって不満な結果に」(The Wall Street Journal, July 12, 2012)

プノンペンで12日〜13日の間、開催されていたASEAN地域フォーラム(ARF)は、南シナ海の領有権問題において、共同声明さえも採択できないまま閉幕した。共同声明が発表されなかったのは、45年の歴史を持つASEAN史上初の出来事であった。フィリピンは、ARFで中国を困らせることになるような如何なる措置にも抵抗した、議長国のカンボジアを非難している。

クリントン国務長官は、「難しい問題においても、ASEANは解決の意思を見せたという意味で前進であった」と語った。しかし、米国の保守系シンクタンク、AEIのブルメンソール(Dan Blumenthal)研究部長は、「ASEANは、共通の立場に立たなければならない。それができなければ、それ自体、中国の勝利である」と指摘している。長年にわたって、中国の影響力の拡大に対抗する統一戦線となり得る地域ブロックとして、長年にわたってASEANの強化に努めてきた米国にとって、今回のARFは、多くの点で満足のいく結果ではなかった。ASEANの団結を強化するという米国の努力は今回のARFで成果を得られず、ASEAN内部の中国を巡る分裂をさらけ出しただけであった。シンガポールのThe Institute of Southeast Asian Studiesの研究員、ストーレイ(Ian Storey)は、「公には言えないが、米国は、ASEANが南シナ海問題で合意を実現できなかったことに、極めて不満であろう」と述べている。

米国はこの地域における中国の行動を警戒しており、カンボジアやミャンマーへ資金援助や開発投資を行い、ASEAN諸国の結束を強固なものにすることで中国に対応するという環境を創出したいのだろう。その意味で今回のサミットは米国にとって思い描く内容ではなかった。

記事参照:
Sea Dispute Upends Asian Summit

7月16日「米海軍補給艦、不審船に発砲、1人死亡」(U.S. Navy News Service, July 16, and Al Jazeera, July 16, 2012)

米海軍艦隊補給艦、USNS Rappahannock (T-AO 204)は16日、アラブ首長国連邦のジュベルアリ沖で警告を無視して接近してくる小型船に対して、同艦の保安チームが発砲した。同艦は、米海軍の防衛手順に従って、発砲前に、ラジオやスピーカー、発光信号や警告射撃で小型船に繰り返し警告した。しかし、小型船が接近を止めないので、保安チームが50口径機関銃で銃撃した。16日のAl Jazeeraの報道によれば、この銃撃で、インド人漁民1人が死亡し、3人が負傷したという。一方、米第5艦隊報道官は、米艦は警告を無視されたので発砲したとし、「米艦は潜在的な脅威から自衛する固有の権利を持っている。艦と乗員の安全確保は最優先課題である」と述べた。イラン革命防衛隊はペルシャ湾で比較的小型の高速艇を使っているが、この小型船は3基の船外機を取り付けたもので、この海域では漁業に使われている。

記事参照:
USNS Rappahannock Fires after Vessel ignores warnings

7月17日「中国海軍ソマリア沖派遣部隊、台湾漁船乗組員救出」(Reuters, July 17, and Somalia Report, July 19, 2012)

中国外務省が17日に明らかにしたところによれば、中国海軍ソマリア沖派遣部隊は17日、ソマリアの海賊に抑留されていた台湾漁船の乗組員を救出した。乗組員は26人で、中国人13人、ベトナム人12人そして台湾人1人である。詳細な状況は発表されていない。この台湾漁船、FV Shiuh Fu No 1(旭富壱號)は、2010年12月25日にマダカスカル沖でハイジャックされた。台湾外交部は、中国側の謝意を表明したが、身代金が支払われたかどうかについては言及を避けた。19日付のSomalia Reportによれば、海賊側は300万米ドルの身代金を受け取ったといわれる。

記事参照:
China rescues fishermen held by Somali pirates for 18 months
FV Shiuh Fu No.1 Ransom Amount Revealed

7月18日「中国空母、近影」(Global Times, July 18, 2012)

18日付の中国紙、Global Timesは、16日に中国中央電視台が公表した、海上公試中の空母の画像を掲載している。空母は6日に大連の造船所を出て、これまでで最長の25日間にわたって海上公試中である。専門家は、国産のJ-15戦闘機を使って発着艦訓練が行われるかもしれないと見ている。空母は、約30基の固定翼機とヘリを登載でき、乗員は2,000人前後である。

記事参照:
Recent sea trial pictures of China’s aircraft carrier

7月20日「中国、三沙市に『警備区』設置」(Global Times, Xinhua, July 21, 2012)

中国人民解放軍広州軍区関係者が20日に明らかにしたところによれば、中央軍事委員会はこのほど、三沙市に警備区を設置することを承認した。警備区(The PLA’s Sansha Garrison Command)は、海南省軍区に属する師団レベルの司令部で、海南省軍区司令員と文官の三沙市長の二元指揮を受ける。

記事参照:
China to deploy military garrison in South China Sea

【関連記事】 「三沙市の現況」(Global Times, July 18, 2012)

18日付の中国紙、Global Timesは、海南省の3番目の地級市として6月21日に制定された、三沙市の現況を以下のように報じている。同市の面積は、島嶼が13平方キロだが、周辺海域は200万平方キロを超える。市庁舎が置かれる永興島は2.3平方キロ、定住者は833人で、その大部分が市当局の要員とその家族である。他に、西沙諸島で定期的に漁業活動に従事する約2,000人の漁民がいる。

記事参照:
A glimpse into Sansha, the heart of the South China Sea debate
Sansha new step in managing S.China Sea