海洋安全保障情報旬報 2012年7月1日〜7月10日

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7月1日「中国軍のタカ派将軍、外交政策への影響力を強める—中国専門家論説」(The Wall Street Journal, July 1, 2012)

ウィリー・ラム(Willy Lam)秋田国際教養大学教授兼香港中文大学准教授は、1日付の米紙、The Wall Street Journalに、“China’s Hawks in Command: Gen. Zhang Zhaozhong denounced American-trained foreign policy experts as ‘traitors’” と題する、センセーショナルな副題の付いた論説を寄稿している。筆者は、中国の外交政策決定過程において、人民解放軍(PLA)の将軍達が前例のない影響力を及ぼしているとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国共産党は、ここ数年より積極的な外交政策を追求し始めた。このことは、中国の経済力と軍事的影響力が実質的に増大してきたことから、ある程度は予想されていた。しかし重要な要因がこれまで見過ごされてきた。すなわち、外交政策決定過程における人民解放軍(PLA)の将軍達による前例のない影響力である。2010年以来、PLAのタカ派は、公式メディアで好戦的な発言をし始めた。この傾向は、楊毅海軍少将が2011年後半、.小平の外交格言、「韜光養晦」の放棄を求めたころから顕著になった。

(2) 楊毅は、「中国は低姿勢を維持することはもはや不可能だ。如何なる国が我が国の安全と利益を侵害した場合でも、我々は毅然として自己防衛をしなければならない」と強調する。楊毅によれば、「毅然とした自己防衛」とは、「迅速かつ低コストで効果的なカウンター攻撃」を意味するという。PLA国防大学で教鞭をとる韓旭東陸軍少将は6月、国営の『環球時報』の「防御的考え方が中国の海外展開を妨げてきた」と題する寄稿の中で、「反拡張主義」的ドクトリンを放棄する秋がきたと主張し、軍事的、地政学的及び経済的側面における拡張政策を求めた。韓旭東は、「覇権主義を追求しない」のが中国の伝統的な政策であるが、この政策は中国が拡張主義的目標を追求しないことを意味すると解釈すべきではない、と指摘した。その上で、「非拡張主義観念を打破しない限り、中国は、地域大国から世界大国への移行を加速することができない」と強調している。

(3) 将軍達は、アジア太平洋地域で最も危険な発火点の1つである南シナ海における領有権紛争において、中国をより対決的なアプローチをとるよう慫慂しようとしているように思われる。彼らのレトリックは単純である。すなわち、中国の管轄権下にある石油・ガス資源と同様に、南シナ海の無数の島嶼に対する中国の領有権主張に異議を唱える国に対して、PLAは最早、懲罰を加えることにためらうべきではない、ということだ。羅援陸軍少将は5月以来、スカボロー礁(中国では黄岩島)付近で海軍艦艇を派遣して中国と対峙し、事態を膠着化させているフィリッピンの「国粋主義的好戦論者」を恫喝してきた。羅援は、「もしマニラが好戦論者を抑えられないのなら、我々が代わってやってやろう」と警告した。更に羅援は、フィリピンとの海軍戦闘の可能性に触れ、「我々は繰り返し自制してきた。我々の我慢も限界である。これ以上自制する必要はない」とも述べた。

(4) PLAとその戦略家達の背景には、6月の三沙市の制定がある。海南省の新たな自治体として制定された三沙市は、その多くが近隣諸国の主張と重複する西沙諸島と南沙諸島などを管轄する。三沙市制定のアイデアは、2007年に初めて中国指導部内で議題に上ったが、外交政策担当部門はそれに反対した。キャリア外交官の多くは、そのような動きは、米国はもちろんのこと、東南アジア諸国における「中国脅威」論を煽ることになりかねない、と主張した。2011年までは、国際関係論を専門とする高名な学者達は、外交政策に干渉す る将軍達を批判していた。例えば、清華大学の楚樹龍教授は、2010年10月のThe Wall Street Journalとのインタビューで、「中国軍は、政策、特に外交政策の決定過程においてあまりに強力過ぎる」と批判していた。その数ヵ月後、北京大学の王緝思教授は、軍人を含む多くのタカ派のコメンテーターに対して、「公式に承認されたわけではない無謀な意見は、大きな混乱を招く」と激しく非難した。しかしながら2011年半ば以降、楚樹龍や王緝思のような影響力のある学者達でさえ、将軍達にあえて逆らっていない。張紹忠少将は最近、中国には「百万人以上の裏切り者」がいると主張している。張紹忠は、「中国の学者達の一部は米国人によって教育されている。彼らは、米国の本を読み、米国の理念を受け入れ、今や米国が中国を騙すのを手助けしている」との非難をオンラインで広めている。

(5) この将軍達が影響力を発揮しているのは、1つには、2012年10月か11月に予定されている第 18回党大会を控え、共産党指導部内の権力闘争が激化していることによる。軍は、制度的には政治局メンバーを選出することになっている、強力な中央委員会メンバー定数の内、常に20%が保証されている。従って、党内の主要な派閥は、将軍達に頼むところが大きい。政治局と同様に重要なのは、PLAを統制する中央軍事委員会である。党最高指導者となる習近平も、胡錦濤主席が少なくとも 2年間は中央軍事委員会委員長として留まるとみられることから、彼のこのポストへの就任は前途多難である。習近平は、PLAの中で数十人もの太子党である将軍達の支持を取り付けており、彼らの支持と引き換えに、高級将校達が外交政策に対して大いに物申すことを許容している。PLAは今や、文民指導者達を意のままにしているが、党は、この秋の党大会以後、外交政策に対する優位を再び取り戻そうとするかもしれない。しかし、既に進行中の景気後退の中で、ナショナリズムという魔神を閉じ込めておくことは困難であろう。

記事参照:
China’s Hawks in Command: Gen. Zhang Zhaozhong denounced American-trained foreign policy experts as ‘traitors.’

7月2日「中国人民解放軍は張子の龍か?— M. オースリン論評」(The Wall Street Journal, July 2, 2012)

米シンクタンク、AEIのマイケル・オスリン(Michael Auslin)日本研究部長は、2日付けの米紙、The Wall Street Journalに、“Is the PLA a Paper Dragon?”と題する論説を寄稿している。オースリンは、中国人民解放軍( PLA)が米軍に匹敵するような軍事力になる可能性は当面ないが、北京は最も重要な目的である地域覇権を達成しつつあるとして、要旨以下のように述べている。

(1) フィリピンとの数カ月に及ぶ対峙に続くベトナムとの新たな緊張関係は、自らの軍事力に対する中国の自信の程を試することになるかもしれない。中国の指導者達が自らの軍事力にどの程度自信を持っているかは、中国がその領有権主張を何処まで推し進めるかを占う大きな鍵となろう。このことはまた、北京がアジアを攪乱させている領有権紛争から米国を締め出そうとするかどうかを占うことにもなろう。

(2) 問題は、PLAが「張子の龍 (a paper dragon)」かである。正直なところ、その答えはイエスでもあり、ノーでもある。実際、PLAは 1990年代以降驚異的に成長した。中国の軍事力は、1950年代の陸軍中心の時代から、量的には今や世界で2番目となった。特筆す べきは、今や本国から離れた遠隔地でも作戦行動ができるようになったことである。中国の各海洋法令執行機関が南シナ海や東シナ海で恒常的なプレゼンスを維持しながら、一方では海軍がアフリカ沖で長期にわたる海賊対処任務を遂行できるようになった。70隻態勢の潜水艦隊の整備や最初の空母の試験航行などに見られるように、中国は明らかに外洋海軍を目指している。空軍もまた、近代化しつつあり、高度な第4世代戦闘機を導入し、徐々に複雑な作戦運用訓練を強化している。空軍は依然としてほとんど自衛戦力に留まっているが、その作戦範囲は、係争中の南シナ海のほとんどの島嶼をカバーできる。そして、1990年代以降に発展したミサイル部隊がある。最も注目すべきは、米空母を標的とし得る対艦弾道ミサイル、DF-21の開発である。

(3) 問題は、量的側面や表向きの近代化の反面、PLAの質的側面について多くの議論があることである。北京が強力な攻撃力を備えてきているかどうか、疑問が生ずるのはこの点である。中国軍は、西側諸国の軍隊程訓練されていない。大規模な潜水艦部隊が沿岸基地から遠く離れた海域に出て行くことは稀だし、またパイロットの飛行時間は非常に少ない。更に、中国は、現代軍事力の基盤となる大規模で専門的な下士官集団を持っていない。運用面でも、中国の軍事システムや運用手順は脆弱かあるいは不明なところがある。例えば、中国海軍の戦闘艦を訪問した西側諸国の士官は、初歩的なダメージコントロールシステムの欠如を指摘し、これらの戦闘艦が戦闘では生き残れないかもしれないと見る士官もいる。中国の兵器弾薬庫にどれ程備蓄があるか知る由もないが、PLAは、戦闘のかなり初期の段階で弾薬を費消する可能性がある。また、中国の指揮統制システムについても角綱ところは分からない。そして、PLAの気質は、その教義上の硬直性から戦場指揮官の独創性を奪ってしまう旧ソ連軍のそれと似ているという証拠がある。この柔軟性と独創性の欠如は、あるいは中国軍の最大の弱点かもしれない。

(4) PLAが米軍に匹敵するような軍事力になる可能性は当面ないが(何時かはあるかもしれないが)、北京の軍事力増強は、米国の優位に挑戦するためだけではない。北京は他にも政治的目的を持っており、その最も重要な目的は地域的覇権の達成であり、それはほぼ間違いなく達成されつつある。中国の軍事力は、日本を含む他のアジアの国のそれよりもはるかに大きく能力が高い。従って、地域的紛争のリスクは、北京が自らの武力の行使にどの程度自信を持っているかにかかっている。6月末、北京は、ベトナムの哨戒飛行に対抗して、係争中の南沙諸島と西沙諸島周辺海域において戦闘即応態勢による哨戒活動を開始すると宣言した。

(5) 一方、ワシントンは、中国の地域的野望を如何に阻止するかに苦慮しているが、自らの問題にも直面している。即ち、米国にとって、アジアにおいて信頼できる軍事的プレゼンスを如何に維持していくかが、益々大きな課題となってきているのである。米国は、アジアにおけるプレゼンスを強化する能力を持っているかもしれないが、まだそうするだけの軍事戦略を持ち合わせていない。ワシントンは、アジア太平洋地域に積極的に関わっていくと言うが、行動が伴っていない。最大の問題は、国防予算が大幅に削減されていることである。それは別にしても、国防省の戦略立案者達は、米国の前方展開基地を無力化する可能性がある中国のミサイル戦力の実態を直視していない。彼らはまた、中国の電子戦能力に対する適切な防御措置をとってもなければ、あるいはアジアにおける米国の 7個前方展開戦闘飛行隊が中国の航空戦力の増強に対抗するのに十分かどうかも検討していな い。もし米国が遠距離からのタイムリーかつ持続的な作戦遂行能力を失えば、中国は、米軍の戦域への入域能力を拒否し、あるいは例え入域できても戦域内での自由な作戦遂行を拒否することができよう。そうなれば、北京にとって、地域覇権という目的達成が遙かに容易になるであろう。「張子の龍」は、「飛べない鷲 (a grounded eagle) 」(米国の意)を打ち負かしてしまうことになりかねない。

記事参照:
Is the PLA a Paper Dragon?

7月2日「中国海洋監視船、南シナ海で演習」(Xinhua, July 3, 2012)

中国の国家海洋局所属の監視船 4隻からなる哨戒部隊は 2日、南シナ海の Yongshuリーフ近海で編隊演習を実施した。2時間にわたる演習は順調に行われたが、悪天候のためヘリの発着艦訓練は中止された。これら 4隻の監視船は 6月 26日に海南省三亜を出港して、南シナ海の定期哨戒活動を実施しており、哨戒期間中の港口距離は 2,400カイリを超えると見られる。

記事参照:
Chinese patrol ships practice in S China Sea

7月2日「米海軍、老朽艦の撃沈処理再開」(Military Times, July 2, 2012)

2日付の Web紙、Military Timesによれば、米海軍は、環境問題とコスト面で2年近く停止していた、沿岸域での老朽艦の撃沈処理を再開した。7月末に、3隻の老朽艦がハワイ沖で、RIMPAC演習に参加している戦闘艦による魚雷やその他の兵器で撃沈される。海軍が老朽艦を標的演習 (Sinkex, short for sinking exercise) で処理するのは2010年以来である。環境保護グループは、老朽艦を解撤施設でリサイクルすべきと主張している。環境保護グループは、老朽艦に残留する有害物資による長期的な影響を懸念し、環境保護庁(EPA)にSinkex規制を求めて提訴し、現在サンフランシスコの連邦地裁で裁判が行われている。一方、海軍は、Sinkexを戦時に備えた有効な実弾射撃演習であり、同時に標的艦を航空機、水上艦及び潜水艦で攻撃することで、その結果を将来の艦船設計に反映させることができる、と主張している。Sinkexは、沿岸から少なくとも 50カイリ離れ、そして少なくとも水深6,000フィートの海域で実施しなければならないことになっている。海軍はこの12年間、109隻の老朽艦を、カリホルニア、ハワイ、フロリダなどの各州沖合で撃沈処理してきた。海軍の文書では、撃沈処理艦の1部にはポリ塩化ビフェニール(PCB)が500ポンド以上も残っていた。この間、他の64隻の老朽艦が米国内6カ所の公認解撤施設の1つでリサイクルされた。

記事参照:
Navy to resume sinking old ships in U.S. waters

7月3日「米、ペルシャ湾における戦力増強—イランへのシグナル」(The New York Times, July 3, 2012)

3日付けの米紙、The New York Timesは、ホルムズ海峡を封鎖しようとするイラン軍の如何なる企図をも阻止するとともに、イランの核開発計画を巡る対立がエスカレートした場 合にイラン内陸部を攻撃できる戦闘機を増強するために、米国はペルシャ湾での軍事力を 着々と強化しているとして、要旨以下のように報じている。

(1) ペルシャ湾における戦力増強は、湾岸地域における軍事プレゼンスを強化するための長期計画の一環であり、またイスラエルを安心させる狙いもある。しかし、イランにその核開発計画を厳しく規制する交渉を強いることを狙いとして、米国と同盟国がイランの石油輸出に対してより広範な禁輸措置を開始した状況下で、湾岸地域における軍事力の増強は大きなリスクを孕んでいる。

(2) 戦力増強で目立つのは、ホルムズ海峡における哨戒能力を大幅に強化するとともに、イランが機雷敷設を企てた場合に航行路を啓開することを狙いとした、海軍戦闘艦艇の増強である。米海軍は、湾岸地域における機雷対策艦艇を倍増し、8隻を配備した。今春、ステルス戦闘機F-22やF-15C戦闘機は、既にこの地域に通常展開されている戦闘機戦力や空母打撃群を増強するため、ペルシャ湾内の 2カ所の基地に増派された。そして海軍は、初の洋上前線基地として、両用揚陸輸送艦を改装した、USS Ponce(AFSB-1: Afloat Forward Staging Base)をペルシャ湾に配備した。USS Ponceの当初の任務は、掃海のための兵站、作戦基地である。しかし、USS Ponceは、医療設備とヘリコプター甲板、更には戦闘部隊の宿泊施設を備えていることから、最終的には公海からの偵察や対テロ任務を含む広範な任務を遂行する特殊作戦部隊の基地として使用される可能性がある。

(3) オバマ大統領にとって、交渉、イランの石油収入を対象とした新たな制裁そして軍事的圧力の強化という組み合わせは、オバマ政権のイランに対する「二面政策」の最新の、そして最も重要な試みである。オバマ大統領は、湾岸地域において危機を高めることなく不屈の強さを誇示しようとしている。同時にオバマ大統領は、イスラエルを支援しなければならないが、この軍事力増強を、イスラエルがイランの核施設を攻撃するチャンスと見なす程、あからさまな支援であってはならない。イランの核施設への攻撃は、イランの核計画を断念させることなく、戦争を勃発させることになると、オバマ政権は考えている。しかし、イランとイスラエルの両方に微妙なシグナルを伝えることは、極めて難しい。ケリー上院外交委員会委員長は、オバマ政権はイランを抑止するために十分な軍事力を配備しなければならないが、一方でイランの核施設に対する攻撃が差し迫っているとかあるいは不可避であるということをイランやイスラエルに不用意に示してはならず、両者の兼ね合いが肝要である、と強調している。

記事参照:
U.S. Adds Forces in Persian Gulf, a Signal to Iran

【関連記事】「米、ペルシャ湾に水中ドローンを配備」(The Los Angeles Times, July 11, and Stars & Stripes, July 11, 2012)

11日付けの米紙の報道によれば、米海軍は、湾岸危機の際、イランによるホルムズ海峡封鎖を阻止するための湾岸地域における米軍事力増強の一環として、機雷を検知し、破壊する小型水中ドローンを配備している。この水中ドローンは、重さがわずか 40キロ弱で、長さが1.2メートル程の無人で遠隔誘導で、TVカメラ、ホーミング・ソナー及び自爆破壊に必要な量の爆薬を搭載し、機雷を検知すると、機雷と共に自爆消滅する。このシステムはドイツ製のSeaFoxで、米海軍は、2月に米中東軍司令官からの緊急要求を受け、この地域における機雷対処能力を一層強化するため、数ダース購入した。そして最初の SeaFoxが、6月後半から配備され始めた。米国防省は、湾岸地域への戦力増強を図っているが、SeaFoxの配備については公にはしていない。 単価 10万ドルでのSeaFoxの技術は新しいものではなく、魚雷に似たこの水中ドローンは、既に英国を含む約10カ国で10年程前から使用されてきた。SeaFoxは、約 900メートルの光ファイバー・ケーブルを介してコンソールのカメラ操作員によって操作され、ライブのビデオ映像を送信する。潜航深度は最大約300メートルで、最大 6ノットの速度で航走する。SeaFoxは、掃海艦艇やその他の艦船からだけでなく、ヘリコプターや小型ボートなどからも運用することができる。

記事参照:
U.S. deploys sea drones to Persian Gulf to clear Iranian mines
Navy sends tiny submersibles to Persian Gulf

7月3日「米の『リバランシング』戦略と ASEANの選択—マレーシアの専門家の見解」(New Straits Times, July 3, 2012)

3日付のマレーシア紙、 New Straits Timesは、同国の The Institute of Strategic and International Studies (ISIS)のタン (Dr Tang Siew Mun) 外交政策・安全保障研究部長の、“A difficult ‘rebalancing’ act ” と題する論説を掲載している。タンは、ASEAN諸国にとって、米国の「リバランシング」戦略は米国との友好的、協力的関係を確認する以上のものであり、また ASEAN諸国の中国と米国との関係における重要な道標ともなるものであるとして、ASEAN諸国の対応の在り方について、要旨以下のように述べている。

(1) 米国のリバランシング戦略の核心は、この地域への米軍戦力の再配備にあるのではない。そのこと自体は重要だが、米軍は既に 1945年以来、この地域の戦略的バランスにとって不可欠の要素となっている。むしろ、ここで問われるべき問題は、米軍戦力がどこに 配備され、そしてこのリバランシング戦略が域内の安全保障にどのような影響を及ぼすか、ということである。ワシントンは、域内の基地ネットワークの再構築に対する懸念に先手を打って、「基地ではなく配備地」(the “places not bases” doctrine)という理屈で、この問題を沈静化してしまった。

(2) しかし、米国は実際には、域内の関係国とのパートナーシップや協力関係の拡大を通じて、この地域における軍事プレゼンスを拡大しつつある。例えば、シンガポールは最近、米国の4隻の沿岸戦闘艦の配備を受け入れ、また、オーストラリアも2011年秋に米海兵隊2,500人のローテーション配備に合意した。両国に加えて、フィリピンとタイも米国の軍事作戦を恒久的あるいは一時的な形で支援するようになれば、米国は、インド洋東部海域から南シナ海に至る戦略的なシーレーンに対して比類なきアクセスを確保するようになろう。これに日本と韓国における米軍基地が加われば、米国は、インド洋から太平洋に跨って連なる作戦行動のためのプラットフォームを持つことになろう。

(3) こうした動きに対する域内の反応はこれまでのところ、外交的で肯定的なものである。しかしながら、ASEAN諸国は、東南アジアにおける米国の軍事的プレゼンス拡大に対する賛否を慎重かつ注意深く判断する必要がある。軍事アセットは、戦略的目標を達成するための道具である。人道支援、災害救援あるいはその他の非伝統的な安全保障上の懸念への対応という文脈だけで、軍事プレゼンスの拡大を正当化するのは安易に過ぎる。リバランシング戦略の戦略的含意を十分理解する必要がある。この戦略は、域内諸国と中国との関係に影響を及ぼすことになろう。ASEAN諸国が米国の軍事的プレゼンスの拡大を容認するのは、中国に対するヘッジ戦略の一環としてなのか。あるいは、この戦略は中国とバランスを取る方向への政策転換の始まりと見るべきか。

(4) ASEAN諸国は、米中何れかを袖にすることを恐れて、これらの問いに正面から立ち向かうことをためらってきた。ASEAN諸国の昔からお題目は「選択しないで済ます」(“not having to choose”)であり、ASEAN諸国は今後も、米中双方との緊密な関係を維持することに努めるであろう。しかし、もし中国が脅威でないのであれば、リバランシング戦略がもたらしているように思われる軍事力増強よりは、むしろ戦力縮小を目の当たりにしているはずだ。ASEAN諸国が戦略的競争に向けて準備を進めながら、同時に協力を提唱するのは、根本的に何かが間違っている。リバランシング戦略は、米国との友好的、協力的関係を確認する以上のものであり、またASEAN諸国の中国と米国との関係における重要な道標ともなるものである。ヘッジ戦略のコストは高くなってきており、ASEAN諸国が困難な選択をしなければならない日は次第に迫ってきている。「平和、自由、中立地帯」(The zone of peace, freedom and neutrality)という、ASEANのスローガンに解決策が見出せるか。

記事参照:
A difficult ‘rebalancing’ act

7月3日「セントルシア、PSI支持表明」(U.S. Department of State, June 5, 2012)

米国務省によれば、セントルシアは3日が「拡散阻止構想」(The Proliferation Security Initiative: PSI)への支持を表明し、PSI支持国は計100カ国となった。セントルシアは今後、米国を始めとする PSI支持国と連携をとり、国際的な不拡散政策の推進に努める。PSIは2013年5月に10周年を迎える。PSI参加国は大量破壊兵器やその関連物質、あるいはミサ イル関連物質の不法移転を阻止するとともに、情報を共有し、阻止行動を支える法的権限 の強化を目指している。

記事参照:
St. Lucia Becomes 100th State to Endorse the Proliferation Security Initiative (PSI).

7月6日「ベトナム、米国製兵器に期待— C.セイヤー」(World Politics Review, July 6, 2012)

ベトナムは6月、軍事力強化を促進するため、米国に対して致死性兵器の禁輸解除を求めた。オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ大学のセイヤー (Carlyle A. Thayer) 名誉教授は、6日付けの Web誌、World Politics Review (WPR) の電子メール・インタビューで、ベトナムの軍事近代化について、要旨以下のように述べている。

WPR:現在のベトナムの軍事力をどう評価するか。ベトナムが埋めようとしている主たる軍事的ギャップは何か。
セイヤー:ベトナム人民軍(VPA)の総兵力は48万2,000人で、内訳は陸軍41万2,000人、海軍 4万人、及び防空空軍3万人である。他に武装勢力としては、4万人の強力な準軍隊組織である国境警備隊、更に推定 500万人の予備役兵力がある。VPAは、4段階(不可、可、良、優良)評価で見れば、領土防衛能力が「良」、領域占拠能力では「可」、そして警備任務遂行能力では「可」に評価される、基本的には陸上戦力である。現在のVPAの近代化努力を以てしても、2015年までにこれらの評価が変わることはないであろう。VPAの戦略的攻撃能力については現在のところ「不可」だが、現在進行中の近代化によって、この評価が2015年までに「可」に上がると見られる。ベトナムは現在、海軍と空軍の近代化を進めるとともに、自国の管轄海域における統合作戦遂行能力を開発しようとしている。

WPR:ベトナムの主要な防衛パートナーと武器供給国はどこか。
セイヤー:ロシアが、ベトナムの主な武器の供給国である。ベトナムは近年、ロシアから2個砲兵中隊分のS-300PMU-1防空ミサイル・システム、2個砲兵中隊分の海岸要塞防衛ミサイル、Su-30MK2多目的戦闘機20機、Svetlyak級哨戒艇6隻、Gepard級誘導ミサイルフリゲート2隻、及び各種の対艦ミサイルを取得してきた。ベトナムは 2014年から、6隻のKilo級通常型潜水艦を取得することになっている。ウクライナ、インド、イスラエル及びチェコ共和国が、ロシアに次ぐ主要な武器供給国である。また、ベトナムは新しく、オランダからも4隻のSigma級コルベットを取得しつつある。

WPR:米国がベトナムに対する致死性兵器の禁輸を解除する見込みはどの程度か。解除された場合、ベトナムは何を求めるか。
セイヤー:米国のブッシュ政権は 2007年、ケース・バイ・ケースでベトナムに対する非致死性兵器の売却を認めるために、「武器国際取引に関する規則」(ITAR)を改正した。しかし、群衆コントロールのために地上部隊が使用する可能性のある武器や装備は、引き続き規制された。また、全ての致死性兵器と多くの軍用品についても禁輸措置が継続された。オバマ政権は、劣悪な人権状況が禁輸解除の主要な障害となっていることを、ベトナムに明示してきた。マケインとリーベルマン両上院議員がハノイを訪問した2012年1月、ベトナムから軍事装備品の「要望リスト」が両議員に伝えられた。両議員は記者会見で、ベトナムがその人権状況を改善するまで、禁輸解除に反対することを明らかにした。パネッタ国防長官が 6月にハノイを訪問した際、ベトナムのフン・クアン・タン国防相は、米国がITARの制限を全面解除することを要請した。パネッタ長官も、両上院議員と同じメッセージを伝えた。もし禁輸解除された場合、ベトナムは、米国から、ベトナム戦争で捕獲した在庫の米国製装備の部品に加えて、沿岸哨戒レーダー、防空ミサイル及び海上哨戒機を取得しようとする可能性が最も高い。

記事参照:
Global Insider: Vietnam Seeks U.S. Equipment to Close Military Gaps

7月6日「中国の外洋海軍への野心—インドの見方」 (The National Interest, July 6, 2012)

6日付の米誌、The national Interestは、“China’s Blue-Water Ambitions”と題する論説を掲載している。筆者は、インドの The Delhi Policy Groupのプラサド (Kailash K. Prasad) 研究員である。プラサドは、中国の外洋海軍への野心は近い将来、満たされることはないであろうと見、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) アフリカや中東において中国の広範な経済的、戦略的利益が増大するにつれ、インド洋と太平洋の大部分の海域における航行の自由は、北京にとって大きな懸念となろう。しかし、当然ながら、中国本土近海における海上安全保障の確保の方が不安である。近海における、特に日本と米国との相対的な哨戒能力を考慮すれば、中国は、危機の際に、重要な海上交通路へのアクセスが阻止される事態を恐れている。また悪くすれば、北京は、長年にわたって展開してきた国際法の許容範囲をはるかに超えた領有権主張に関して、妥協を強いられることになるかもしれない。

(2) 海洋支配の前に、中国は、やらなければならないことが多い。世界の上位 21カ国の海軍力の総トン数は、675万トンである。米海軍を除くと、残りの総トン数は46%減少し、約363万トンになる。総トン数は海軍力評価の最も正確な尺度ではないが、米国を加えた総トン数を一瞥すれば、中国は現状維持国が懸念すべき台頭するパワーとは言えない。不幸にも、中国がこの 30年間の海軍力近代化で得てきたものといえば、世界の有力海軍より遅れたわずかばかりの攻撃型原潜と弾道ミサイル原潜、使用方法を学び始めたばかりの1隻の空母、そして対艦弾道ミサイル (ASBM) である。ASBMは、北京にとって唯一真に競争上の優位を与える兵器である。米国防省の報告書は、この高い機動性を有するミサイルが1,000マイルの射程を持つと見ている。

(3) 中国の外洋海軍への野心は近い将来、満たされることはないであろう。空母、ASBMそして数隻のステルス化されていない原子力潜水艦では、例え中国の水兵達がこれら兵器の運用に習熟できたとしても、中国海軍は、沿岸から遠く離れた海域で複雑な作戦を遂行することはできないであろう。中国海軍が現在配備している多くの兵器を見れば、その行動範囲は本土近海の可能性が高い。しかし、近隣諸国にすれば、宋級、明級及びRomeo級のディーゼル電気推進潜水艦、双胴型ミサイル艇、ドック型揚陸艦、更には沿岸基地の短射程兵器からなる大部隊を前に、より密接に協調すべきは中国か米国か、日々その選択に迷わされることであろう。

(4) 中国は、海軍近代化努力を海洋で接する隣国に受け入れてもらいたいと熱望している。しかし、中国がスカボロー礁での対峙に見られるような一種の瀬戸際外交を続けるなら、ほとんどの国は、中国海軍の野望に好意を抱くことはあるまい。中国から遠いインド やオーストラリアでも、より強力な中国海軍を前にすれば、北京からの友好的な言辞は何 の安心感ももたらさないであろう。日本と韓国も、中国の急速に拡大する能力に対して均衡をとろうとするであろう。オーストラリアは既に、400億豪ドルの潜水艦部隊増強計画に着手した。インドは最近、ロシアのAkula級攻撃型原潜の引渡しを受けるとともに、国産の原潜と空母を建造している。日本はこの36年間で初めて、潜水艦部隊を増強している。韓国もまた、海軍と両用戦力を近代化している。このような環境が中国に有利に働くとは思えない。太平洋とインド洋での覇権は考えにくい。反対に、北京は、強力で不信に満ちた周辺環境の中で、益々孤立し、脆弱になっていくであろう。

記事参照:
China’s Blue-Water Ambitions

7月7日「中越関係、南シナ海で緊張高まる」 (The Economist, July 7, 2012)

7日付の英誌、The Economistは、スカボロー礁を巡る中比関係の緊張が緩和の兆しを見せ始めた矢先、中越関係の緊張が高まってきているとして、要旨以下のように報じている。

(1) 中越関係は、最近の一連の出来事によって緊張が高まってきた。6月 21日、ベトナム国会は、南沙諸島と西沙諸島に対する主権を再確認する、海洋法を成立させた。これに対して、中国は同日、自国の主権に対する重大な侵害であると批判するとともに、南沙、西沙及び中沙各諸島を管轄する「三沙市」を制定すると発表した。更に、 6月 23日、中国の国営石油大手、「中国海洋石油総公司」 (CNOOC)は、ベトナム近海で 9カ所の開発鉱区を設定し、外資に開発を呼びかけた。ベトナムの国営石油会社、PetroVietnamによれば、CNOOCの鉱区はベトナム沖から 37カイリ以内にある。

(2) 両国とも、武力によっても領有権を護ると強固な姿勢を示しているが、武力紛争にエスカレートすることは望んでいない。厄介なのは、一般大衆のナショナリズムである。 7月1日、ハノイとホーチミン市で数百人単位の反中デモがあった。ベトナムも、中国と同様に、デモは通常認められていないが、警察は手を出さなかった。一方、中国の環球時報 (Global Times) は 4日の社説で、フィリピンとベトナムを批判し、あまりに挑発的な言動は軍事攻撃を招きかねない、と警告した。中国指導部はナショナリズムの感情的暴発を望んでいないが、今秋の指導部交代を前に、権力闘争の当事者にとって弱みを見せたくないであろう。環球時報は、「もし領有権紛争が帝国主義の時代に起こっていたら、極めて容易に解決されたであろう」と語気を強めている。

記事参照:
Roiling the waters: Tensions rise between China and Vietnam in the South China Sea

7月8日「ASEAN加盟国海軍、情報共有演習開始」(Asia One, July 9, 2012)

シンガポールとインドネシアの共同統裁による、ASEAN10カ国海軍から約60人の要員が参加する、初めてのThe ASEAN Maritime Security Information-Sharing Exercise(AMSISX) が8日から10日まで、シンガポールのチャンギ基地の指揮統制センターで始まった。この演習は、The ASEAN Information-Sharing Portal(AIP)を経由して各国海軍司令部とシンガポールをオンラインで結び、グループ・チャット機能を通じてリアル・タイムで情報を共有する。AIPの開発はシンガポールとインドネシア海軍の主導によるもので、シンガポール国防省は、ASEAN各国海軍の演習への参加は海洋における多国間協力による域内の海洋安全保障強化に対する各国の強いコミットメントを示すもの、と強調している。

記事参照:
ASEAN navies strengthen maritime information sharing

7月8日「インド、空母用基地の拡張計画」(The Times of India, July 8, 2012)

8日付のインド紙、The Times of Indiaによれば、インドは、空母INS Vikramaditya (formerly Admiral Gorshkov)を繋留させるとともに、航空作戦基地として、カルナータカ州カルワル(Karwar)の海軍基地を大々的に拡張する計画である。海軍は、基地拡張計画が完了すれば、海軍は、空母、Scorpene級潜水艦及び多数の水上戦闘艦を配備する計画である。基地拡張計画、Project Seabird Phase IIAは近く、シン首相が議長を務める安全保障閣僚会議に諮られる。海軍当局者によれば、総額 1,000億ルピーを超えるPhase IIAでは、多くの新たな施設建設と一部既存施設の補強が実施される。2017年から2018年までにPhase IIAが完了すれば、カルワル基地には、30隻を超える主要戦闘艦が繋留されることになる。また、カルワル基地には、海軍航空ステーションが建設される計画で、固定翼機と回転翼機が配備される。Project Seabirdは、1985年に承認されて以来、大幅に遅れているが、2005年から2006年に完了したPhase Iでは、海軍は、カルワル基地に15隻以上の戦闘艦を繋留できるようになった。

記事参照:
Navy plans Rs 10,000 crore worth expansion of Karwar base

7月9日「シンガポール・インドネシア、潜水艦救難協定調印」(The Jakarta Globe, July 10, 2012)

シンガポールとインドネシアは9日、潜水艦救難協力協定に調印した。ASEAN諸国間では、この種の協定は初めてである。協定によって、インドネシア海軍は、シンガポール海軍の潜水艦救難システムが利用できることになる。潜水艦救難システムは、潜水艦、潜水艦救難艦、MV Swift Rescue、及び救難潜水艇、The Deep Search and Rescue Sixで編成されている。両国海軍は、救難作戦を合同で遂行するために、共通の作戦手順を開発する。

記事参照:
Singapore, Indonesia Ink Submarine Rescue Pact

7月10日「インド、グレート・ニコバル島に海軍航空基地開設」(Defense News, July 10,2012)

10日付けのWebニュース、Defense Newsによれば、インドはこのほど、マラッカ海峡に対する監視強化の一環として、アンダマン・ニコバル諸島のグレート・ニコバル島に建設していた海軍航空ステーションの工事を完了した。グレート・ニコバル島のキャンベル湾(Campbell Bay)に開設されたINS Baaz海軍航空ステーションには、インド空軍のC-130J輸送機ややや小型のロシア製輸送機が離発着できる長さの滑走路が建設された。アンダマン・ニコバル諸島は、マラッカ海峡の出入り口を扼する位置にあり、インド軍の統合コマンドがアンダマン島のポート・ブレア(Port Blair)に置かれ、この海域の中国艦艇の動向を監視している。

記事参照:
India Develops Malacca Strait Monitoring Base

【関連記事】「グレート・ニコバル島の海軍航空基地、7月末に運用開始」(Defence News, July 30, 2012)

グレート・ニコバル島のインド海軍航空ステーション、INS Baazは 31日に、公式に運用が開始される。グレート・ニコバル島は、インド最南端の島で、本国よりもインドネシアに近い。インド海軍は既に、アンダマン・ニコバル諸島では、ポート・ブレアとカー・ニコバル島(Car Nicobar)に基地を開設しており、INS Baazは、カー・ニコバル島南方 300カイリの位置にある。

記事参照:
India Now Commands The Strait Of Malacca With Naval Base ‘INS Baaz’