海洋安全保障情報旬報 2012年6月21日〜6月30日

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6月 21日「中国、ベトナムの領有権主張を『無効』と批判」 (Reuters, June 21, 2012)

中国は 21日、南シナ海の島嶼の領有権を主張するベトナムの海洋法に「全面的に反対する」と非難した。中国の外務次官は、在北京のベトナム大使に対して、南沙諸島と西沙諸島の領有権を主張するベトナムの新法が「重大な主権侵害」であり、「直ちに是正する」ことを求めた。中国外務省の声明は、「南沙諸島と西沙諸島に対して主権と管轄権を主張するベトナムの海洋法は、中国の領土主権の重大な侵害である。中国は、断固かつ全面的に反対する」と述べている。ベトナム国会は 21日、海洋法を承認した。同法は、ベトナム領海を通航する全ての外国船舶に対して、当局への通報を義務づけている。

記事参照:China says Vietnam claim to islands “null and void”
http://www.reuters.com/article/2012/06/21/us-china-vietnam-sea-idUSBRE85K0EM20120621

【関連記事】「中国、南シナ海に「三沙市」制定」 (The Global Times, June 25, 2012)

中国民政省は 21日、南シナ海の南沙、西沙及び中沙の各諸島を管轄する「三沙市」を制定すると発表した。「三沙市」の制定構想は 2007年からあったが、ベトナムの抗議によって棚上げにされていた。今や、中国は強固な措置を取るに至った。市の制定は、管轄権の行使という面で、ベトナムの海洋法より強力であり、南シナ海における中国のプレゼンスを一層明確なものとする。新市は一定の外交活動の自由を認められる。日本や韓国の地方自治体が積極的な外交的活動を展開しているが、中国もこうした事例から学ぶことができる。南シナ海における最悪のシナリオは必ずしも戦争ではない。より悪い状況は、米国に後押しされたベトナムやフィリピンが、中国に対してより挑発的になることである。「三沙市」の制定は、南シナ海における中国の対応の新たな展開である。

記事参照:Sansha new step in managing S.China Sea
http://www.globaltimes.cn/content/716822.shtml

6月 21日「中国、いずれ南シナ海の深海底資源掘削へ—エネルギー専門家の予測」 (Reuters, July 21, 2012)

21日付の Reuters は、中国の国営石油大手、「中国海洋石油総公司」(CNOOC) の国産深海掘削リグ、「海洋石油 981」が現在、香港南方沖合 320キロで掘削作業を行っているが、エネルギー専門家の予測では最終的には南シナ海の深海底掘削に向かうとして、要旨以下のように述べている。

(1) 中国のエネルギー専門家は、北京は最終的には、「海洋石油 981」を、南シナ海の南方の石油資源が豊富なより深い海域に移動させるであろう、と見ている。この海域は、中国、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシア及びブルネイの領有権主張が重複している海域である。中国の南シナ海研究所 (The National Institute for South China Sea Studies)の劉鳳上級研究員は、「中国の海洋掘削技術が向上しているので、南シナ海の中央部、南部海域での掘削に『海洋石油 981』を投入するのは時間の問題であろう」と述べている。また、厦門大学エネルギー経済研究所中国センター (The China Center for Energy Economics Research at Xiamen University) の林伯強所長は、CNOOCが係争海域にリグを移動させるかどうかについて、「そうすると見ている。 CNOOCがしなければ、他の国がやるだろう。 CNOOCがしないはずがない」と述べた。

(2) 南シナ海の深海域は手付かずのままだが、その主な理由は、石油業界が領有権主張国間の緊張関係の中で自国の沿岸域から遠く離れた係争海域で開発することをためらってきたためである。CNOOCは、5月に香港南方沖合で掘削作業を始めた時、「海洋石油 981」を「動く国土」と称したが、今後係争海域に移動させるかどうかについては言及を避けた。しかし、「海洋石油 981」による掘削開始によって、経済を賄うための中国の石油・天然ガス開発はいずれ南シナ海の係争海域に及び、他の領有権主張国との対決を引き起こしかねないとの懸念を高めた。CNOOCの王宜林・董事長は、「この大型深海掘削リグは、中国の沖合石油産業の発展を促進するための、我々の動く国土であり、戦略的兵器である」と強調している。これに対して、ベトナムは、彼らが「東海」と呼ぶ南シナ海における資源開発に当たっては、国際法規の相互尊重を求めてきた。ベトナムの外務省報道官は、「各国による東海での活動は、国際法規に従わなければならず、他国の主権、主権的権利及び管轄権を侵害すべきではない」と主張した。

(3) 南シナ海の中央部、南部海域には豊富な炭化水素資源があると推測されている。そして、これらの海域は係争海域である。2008年 3月の米エネルギー情報局の報告書では、南シナ海全域で 80億バレルから最大で 213億バレルほどの石油埋蔵量が見込まれている。最も楽観的な見積は現在の中国の需要の 60年以上に相当し、BP Statistical Reviewによれば、これはサウジアラビアとベネズエラを除く、他のあらゆる国の石油埋蔵量を上回る。中国の国営メディアが、南シナ海を「第 2のペルシャ湾」と呼んできた所以である。新華社通信は 5月に、南シナ海における石油・天然ガス資源の約 70%が深海域に存在すると見られると報じている。地質学者は、南シナ海の石油と天然ガス資源は、一部は最大深度 4,700メートルの深海底にあるが、大部分は水深数百から 3,000メートルの間の海底にある、と主張してきた。

(4) 中国は、「海洋石油 981」を使用すれば、初めて水深 3,000メートルまでの海域で掘削できる。「海洋石油 981」は現在、水深 1,500メートルで掘削している。中国は、世界的な石油開発ブームの中で、民間企業のリグをレンタルできなかったため、自前の深海掘削リグの完成を待たなければならなかった。半潜没式掘削リグと掘削船を含む世界の深海掘削リグの稼働率は、90%から 100%の範囲である。掘削機器の不足はまた、開発海域が係争海域であることと相俟って、外資系企業の参画を遠ざけてきた。係争海域に進出する決定権は CNOOCにはなく、北京の政策決定者にある。シンガポールのナンヤン工科大の李明江准教授は、「中国メディアは、このリグの技術に興奮しているようである。ナショナリズムが煽られれば、CNOOCは、中央からのより多くの支援と投資が期待できるかもしれない」と見ている。しかし、CNOOCにとって大きなリスクは、炭化水素鉱床がどのように海底に分布しているかが分からないことである。近年、東南アジア諸国の沿岸域で発見されるのはほとんどが天然ガスであることから、地質学者や開発業者の間では、南シナ海では石油よりも天然ガスが多く存在するとの見方が強まっている。天然ガスは、生産、貯蔵及び輸送にかかるコストが石油よりはるかに高くつく。香港の証券ブローカー、CLSAのパウエル Asian Oil and Gas Research部長は、「地質学的リスクは別にして、最大の問題は、『海洋石油 981』が何かを発見するとすれば、それは石油より天然ガスである可能性が高く、もしそれが 1,000や 2,000メートルの海底なら、採掘するのに非常に高くつくということである。言い換えれば、それは不経済ということになる」と指摘している。

記事参照:China tests troubled waters with $1 billion rig for South China Sea
http://www.reuters.com/article/2012/06/21/us-china-southchinasea-idUSBRE85K03Y20120621

【関連記事】「中国海洋石油、ベトナム近海で開発鉱区設定」 (The Wall Street Journal, June 27, Diplomat, June 27, and Bloomberg Business Week, June 28, 2012)

中国の国営石油大手、「中国海洋石油総公司」(CNOOC) は 23日、ベトナム近海で 9カ所の開発鉱区を設定し、外資に開発を呼びかけた。これに対してベトナムの国営石油会社、PetroVietnamは 27日、中国に対して、開発計画の撤回を求めた。PetroVietnamによれば、 CNOOCの鉱区はベトナムの EEZ内にあり、その内 2カ所は PetroVietnamが外資の Exxon, Gazprom (OGZD)、India’s Oil & Natural Gas Corp、更に Talisman Energy Inc. (TLM)に認めた開発鉱区と重複している。

CNOOCの開発鉱区は、約 16万平方キロに及び、水深 300〜4,000メートルである。香港の専門家は、ベトナムの抗議もあり、こうした紛争海域での開発に乗り出す外資はほとんどいないと見ている。また、この専門家は、中国の南シナ海における領有権主張を強化したい中央政府の思惑に、CNOOCが利用された、と指摘している。

米国のマサチューセッツ工科大 (MIT) のフラベル (M. Taylor Fravel) 准教授は、27日付の Web誌、The Diplomat に寄稿した論評で、以下の諸点を指摘している。

(1) CNOOCの鉱区は、完全に南シナ海の紛争海域にある。地図が示すように、鉱区は、中部ベトナム沖にあり、約 16万平方メートルに及ぶ。幾つかの鉱区の西端はベトナム沿岸から 80カイリも離れておらず、ベトナムの EEZ内に含まれる。また、ベトナムが外資に認めた開発鉱区とも一部が重複している。恐らく、外資は、紛争海域における開発で CNOOCに協力することはないと見られる。

(2) それでも、CNOOCの発表は、幾つかの点で重要である。まず、こうした開発鉱区の発表は、「三沙市」の制定とともに、これらの海域に対する中国の管轄権強化政策の一環である。また、CNOOCの発表は、2011年夏以来の南シナ海問題に対する中国の穏健なアプローチの信頼性を損なう。更に、開発鉱区の位置は、中国が「9断線」地図を南シナ海における中国の「歴史的権原」と解釈していることを示している。これは、海洋に対する権利は領土からのみ主張できるとする、国連海洋法条約 (UNCLOS) とは矛盾している。

6月 21日「米空母、初の漁業監視任務」 (Navy Times, June 21, 2012 )

21日付の Navy Timesの報道によれば、空母、 USS Carl Vinson攻撃群は、5月に任務を終えて母港に帰投する途上、南太平洋海域の漁場で初めての漁業監視任務を実施した。この種の任務は通常、沿岸警備隊が実施しているが、 USS Carl Vinsonは初めて、オーストラリア北西の広大なオセアニア海域で不法操業監視などの任務を遂行した。これは、太平洋海域で海軍への期待が高まる新たな任務の事例である。海軍当局者によれば、オセアニア海域は米国経済にとっても、また財政を地元漁業に依存する太平洋の 22の島嶼国家にとっても重要な海域である。この海域には赤道に沿って「ツナ・ベルト」があり、世界のマグロ漁獲量の 57%を占める。ホノルルにある、米沿岸警備隊第 14管区のモーリン司令官によれば、この海域では不法操業がはびこっており、年間約 17億ドルが不法操業によって失われている。沿岸警備隊の限られた戦力では、オセアニア海域での海空両面からの海洋法令執行活動が困難になってきている。海軍は 2009年に初めて、沿岸警備隊の The Oceania Maritime Security Initiative (OMSI) に対する支援を始め、ハワイからフリゲート、 USS Crommelinを沿岸警備隊による漁業監視に同行させた。以来、海軍は十数回、この種の任務を遂行している。USS Carl Vinsonは、5月 7日から 15日の間、随伴の誘導ミサイル巡洋艦、USS Bunker Hill、誘導ミサイル駆逐艦、USS Halseyと共に、OMSIに参加した。これは、これまでで海軍による最大の OMSI支援となった。空母のヘリを含む各種艦載機は、 50回以上の哨戒飛行を実施した。空母部隊の幹部は、「我々の任務は、海洋法令執行活動を支援することで、海域情勢識別能力 (maritime domain awareness) を強化することである。この種の任務は、第 7艦隊と第 3艦隊にとって持続的な任務になると思われる」と語っている。オセアニア海域は、米国の EEZの 43%を占め、130万平方カイリに及び、アラスカ州の 2倍以上の広大な海域である。沿岸警備隊は、早ければ 2012年 11月にも、海軍の駆逐艦か巡洋艦に、沿岸警備隊の海洋法令執行チームを派遣することを計画している。

記事参照:New carrier role in Pacific: fight illegal fishing
http://www.navytimes.com/news/2012/06/navy-illegal-fishing-carl-vinson-pacific-062112/

6月 23日「中国潜水艇、 7,000メートル潜水記録達成」 (Channel News Asia, June 24, 2012)

中国の新華社通信によれば、中国の潜水艇、「蛟龍号」は 23日、西太平洋沖のマリアナ海溝で 4回目の潜水で、7,015メートルに達し、世界記録を達成した。「蛟龍号」は 3人乗りで、設計上の潜水限界深度は 7,000メートルとされる。専門家によれば、中国は、「蛟龍号」を海洋科学調査と将来の深海底資源開発に活用する意向という。

記事参照:China’s submersible breaks 7,000-metre mark
http://www.channelnewsasia.com/stories/afp_asiapacific/view/1209543/1/.html

6月 23日「米海軍機雷対策艦、アラビア湾に到着」 (Reuters, June 25, 2012)

米海軍の 4隻の機雷対策艦は 23日、アラビア湾に到着した。これは、イランがホルムズ海峡封鎖を仄めかしていることに対抗して、第 5艦隊を増強するとともに、シーレーンの安全強化を図るためである。4隻は、7カ月間の展開期間中、アラビア湾、オマーン湾、紅海及びインド洋の一部で多 国籍軍と共に作戦活動を実施する。

記事参照:Four U.S. Navy minesweepers arrive in the Gulf
http://www.reuters.com/article/2012/06/25/us-gulf-navy-mines-idUSBRE85O0C920120625

6月 25日「インド、間もなく核の 3本柱完成へ」 (The Economic Times, June 25, 2012)

インド海軍のバーマ司令官は 25日、訪問中のロンドンで、インドは、海軍が核報復能力を取得することで、間もなく「信頼できかつ非脆弱な」3本柱の核報復能力を持つことになる、と語った。同司令官は、核 3本柱はインドの「核先行不使用」 (‘no first-use’) 政策に基づいて整備される、と強調した。インドは、陸、空、海の核システムによる報復能力を開発しているが、既に陸、空はこうした能力を完成していると見られる。海軍は、近く海上公試を始める国産原潜、INS Arihant に核ミサイルを搭載することで、報復能力を取得する。

記事参照:Indian Navy set to complete nuclear triad: Admiral Verma
http://articles.economictimes.indiatimes.com/2012-06-25/news/32409195_1_nirmal-verma-indigen ous-aircraft-carrier-nuclear-triad

6月 26日「インド海軍、活動範囲を世界へ拡大」 (Press Information Bureau, Government of India, 13 June 2012)

インド海軍は、活動範囲を世界に拡大している。それによれば、1つは、インド海軍は東部艦隊から 4隻を南シナ海から北西太平洋に派遣し、日本との間で初の共同演習 JIMEX 12を実施したこと(シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム、中国に寄港し、韓国とも演習を実施した)。2つ目は、同時期に、インド海軍はセイシェル、モーリシャス、モルディブ等のインド洋周辺各国へも 1隻艦船と 1機の哨戒機を派遣し排他的経済水域の監視活動等に従事、海賊対策にも 1隻を派遣していること。3つ目は西部艦隊から 4隻をヨーロッパへ派遣することである。これらの活動は遠洋海軍としての能力を示す上で最適なものとしている。

記事参照:Indian Navy’s Pan ‘IOR’ Operations Demonstrate Reach of India’s Maritime Diplomacy
http://pib.nic.in/newsite/erelease.aspx?relid=84863

6月 26日「中国、南シナ海に監視船派遣」 (Xinhua, June 26, 2012)

中国国家海洋局の監視船、「海監」4隻は 26日、海南島三亜から南シナ海の哨戒に出港した。海洋局の匿名の幹部によれば、今回の哨戒活動は航海距離にして 2,400カイリを超え、また「状況が許せば」、艦隊演習も実施する。

記事参照:China sends patrol ships to South China Sea
http://news.xinhuanet.com/english/china/2012-06/26/c_131677621.htm