海洋安全保障情報旬報 2012年6月11日〜6月20日
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6月 11日「民間武装警備員添乗させず—オランダ籍船」 (Dutch News.nl, June 13, 2012)
オランダ国防相は 11日に議会で、東西アフリカの海賊多発海域を航行するオランダ籍船には、民間武装警備員を添乗させない、と語った。これは、もし民間武装警備員を添乗させることができないなら、それができる国に船籍を移すと主張する、海事保険業界や船主の声に応えたもの。もし船主が船籍国に税金を支払うようになれば、政府にとって損失となろう。オランダ政府は、船主が民間武装警備員を添乗させることを認めていないが、護衛のために海兵隊を派遣している。しかしながら、船主側と海事保険業界は、それだけでは十分でないと主張している。
記事参照:No armed guards on ships, says minister
http://www.dutchnews.nl/news/archives/2012/06/no_armed_guards_on_ships_says.php
6月 12日「イラン、原子力潜水艦を開発中—イラン海軍高官」 (The Jerusalem Post, June 12, 2012)
イラン海軍は国内で原子力潜水艦の開発を行っており、現在その初期段階にあるとイラン海軍高官が発言した。原子力潜水艦は原子力の平和利用に該当するため、その開発に関してはすべての国家に平等に与えられた権限の範囲内での活動であると主張する。近年のイラン海軍と革命防衛隊は、アメリカやその同盟国たちとの対峙を念頭に、小型船の能力や艦隊の強化を精力的に行ってきた。
記事参照:Iranian officer: Tehran developing nuclear sub.
http://www.jpost.com/IranianThreat/News/Article.aspx?id=273572
6月 12日「インドネシア、民間武装警備員の添乗に反対」 (The Jakarta Post, June 13, 2012)
インドネシアの運輸相は 12日、インドネシアは海賊対策として民間武装警備員を船舶に添乗させることに反対である、と語った。運輸相は、 12日にジャカルタで開催された、国際運輸労連アジア太平洋地域会議で、「インドネシア政府は、国内的、国際的法規制の不備を理由に、民間武装警備員の添乗に引き続き反対していく」と語った。更に運輸相は、インドネシアは、海賊対処のために 2国間、地域間及び国際的協力を促進しているとし、その例として、マラッカ海峡と南シナ海におけるインドネシア、マレーシア及びシンガポールとの合同哨戒活動を挙げた。インドネシア政府は、マラッカ海峡の海洋安全強化のために海洋電子ハイウェー (The Marine Electronic Highway) プロジェクトに対する支援継続を発表するとともに、海洋における安全強化と環境保護に向けての重要な施策として、国家データ・センターを設置した。
記事参照:RI says no to private armed guards aboard vessels
http://www.thejakartapost.com/news/2012/06/13/ri-says-no-private-armed-guards-aboard-vessels.html
6月 13日「インド軍艦、中国とセイシェルを訪問」 (Defense News, June 15, 2012)
南アジアにおけるインドの影響力が拡大する中、インド海軍東部艦隊の Rajput級誘導ミサイル駆逐艦、INS Rana、ステルスフリゲート、INS Shivalik、Kora級コルベット、INS Karmuk、及び艦隊給油艦、INS Shaktiの4隻が中国上海を4日間の日程で訪問し、インド洋のセイシェルの首都ヴィクトリア港にも戦闘艦、INS Savitriが訪問した。またインド海軍の軍艦は去年においてもベトナム南部の Nha Trang港を訪問し、現在でもシンガポールやマレーシア、フィリピン、インドネシアやアデン湾に展開されている。このようなインド海軍のプレゼンス多角化の目的は EEZの監視、海賊対策など多様であるが、今後もアフリカの角や紅海、西地中海方面などに4隻の軍艦を展開させる予定である。
記事参照:Indian Navy Ships visit China, Seychelles
http://www.defensenews.com/article/20120613/DEFREG03/306130004/Indian-Navy-Ships-Visit-C hina-Seychelles?odyssey=tab|topnews|text|FRONTPAGE
6月 14日「 ASEAN諸国の多様な対中認識—イアン・ストーレイ」 (The Wall Street Journal, June 14, 2012)
シンガポールの東南アジア研究所主任研究員、イアン・ストーレイ (Ian Storey) は、14日付の米紙、The Wall Street Journalに、“Asean Is a House Divided ” と題する論説を寄稿している。ストーレイは、 ASEAN諸国の対中認識は多様で、南シナ海問題に関して一致して中国に対抗することが難しく、このままでは北京に各国との個別対応を許すことになろうとし、要旨以下のように述べている。
(1) 4月 10日以来のスカボロー礁を巡る中比対峙の中で、マニラにとって ASEANからの支援がなかったことが打撃であった。ASEANの沈黙は驚くに当たらない。ASEANの断層線は、南シナ海で大きな経済的、戦略的利害を持つ国とそうでない国との間にある。大きな利害を持つ国は、南シナ海の沿岸諸国で、南シナ海において領有権を主張する、ブルネイ、マレーシア、フィリピン及びベトナムの 4カ国であり、また、インドネシアやシンガポールも沿岸諸国に入る。
(2) このグループの中でも、意見は分かれている。ベトナムやフィリピンにとって、南沙諸島やその他の島嶼を巡る中国との領有権紛争は、重大な国家安全保障上の懸案事項となっており、こうした懸念が最近の両国における軍事力近代化の原動力となっていた。他方、マレーシアやブルネイは、中国とは地理的に距離があり、領有権紛争を荒立てない傾向がある。更に、ベトナム、フィリピン、マレーシア及びブルネイの領有権主張は相互の重複しているところがあり、このことがまた、これら 4カ国による対中統一戦線の形成を阻んでいる。インドネシアやシンガポールは、南シナ海に領有権紛争を抱えていないが、北京の拡張主義的な領有権主張に警戒感を持っている。インドネシアは、国連で公式に中国の領有権主張に異議を申し立てた。シンガポールは、中国に対して、領有権主張の論拠を明確にすることを求めている。
(3) 第 2二グループは、カンボジア、ラオス、ビルマ及びタイの非沿岸諸国である。これらの諸国は、南シナ海問題について全く沈黙している。これら 4カ国は、自国が領有権紛争に直接的利害を有するとは考えておらず、南沙諸島問題を切迫した安全保障上の権年事項とは見ていない。加えて、中国は過去 20年間、これら 4カ国との間に緊密な政治的、経済的関係、そして安全保障関係を構築してきており、これら諸国は、北京に逆らうスタンスをとることで、対中関係を損なう危険を冒したくないと考えている。
(4) ハノイとマニラは、ASEANからの支援がないため、ワシントンとより緊密な防衛関係の構築など、新たな戦略的対応を追求してきた。米国が南シナ海の領有権紛争で果たすべき役割を巡る論議は、ASEAN内部の亀裂を一層深刻なものにしている。一部の ASEAN諸国は、ワシントンがより積極的な役割を果たせば、中国の反感を煽り、紛争解決への道を困難にするだけであろう、と懸念している。
(5) 南シナ海問題は、ASEANの安全保障問題の最優先課題となってきた。関係当事国がその領有権主張を強めれば、交渉による解決に必要な妥協の可能性が遠のく。緊張が高まるにつれ、ASEANが紛争解決により積極的な役割を果たし、紛争の解決策を構築していくことへの期待は、ますます大きくなろう。残念ながら、最近の出来事は、 ASEANはこうした期待に応えることができず、このままでは北京に各国との個別対応を許すことになろう
記事参照:Asean Is a House Divided
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702303734204577465861459787498.html
6月 17日「フィリピン、米国から海洋監視装備購入へ」 (Gulfnews.com, June 17, 2012)
米比両国は、南シナ海に対する広範な監視システムを構築する計画に着手した。フィリピン国軍広報官が 17日に明らかにしたところによれば、フィリピン政府は、米国から多用途揚陸艇 (LCU) 1隻、沿岸監視システム 2セット、出力 20ワットの車載ラジオ 105台、夜間戦闘システム 3セット及び空中監視カメラを購入することを決定した。同報道官によれば、政府はまた、レーダーなどのその他の装備も購入する計画である。監視システムは、フィリピンの領海と EEZにおける外国艦船を監視するために使用される。
記事参照:Philippines, US erect National Coast Watch Centre
http://gulfnews.com/news/world/philippines/philippines-us-erect-national-coast-watch-centre-1.103 6579
6月 18日「ロシア、シリアのタルトゥース港に軍艦 2隻を派遣へ」 (Interfax, June 18, 2012)
インターファクス通信によれば、ロシアは 18日、水陸両用艦、Nikolai Filchenkovと Tsezar kunikovをロシア海軍の戦略的基地があるシリアのタルトゥース港に派遣する予定であることを発表した。Tsezar kunikovは戦車など多くの兵器や 150人の上陸部隊を運ぶことが可能で、Nikolai Filchenkovも貨物や装備など計 1,500トンを運ぶことが出来るとされている。それだけ大きな軍艦であることから、緊急の場合には、両艦に乗船している乗組員やレスキュー隊員、海兵隊員がロシア人の安全を確保し、場合により乗船させそこから避難することも可能である。シリア情勢においてロシアは国益上の観点から、欧米とは一線を置いた独自外交を展開しているが、この派遣もロシアの国益のための戦略の一環であると考えられる。
記事参照:Report: Russia Sending 2 Warships to Syrian Coast
http://www.defensenews.com/article/20120618/DEFREG01/306180005/Report-Russia-Sending-2-Warships-Syrian-Coast?odyssey=mod|newswell|text|FRONTPAGE|s
6月 19日「米・ニュージーランド、さらなる防衛協力の促進で合意」 (Defense News, June 19, 2012)
米・ニュージーランド両政府は 19日、両国間の防衛協力をさらに促進させることで合意に達した。しかし、一貫して米国の原子力軍艦の入港を認めないとするスタンスを採るニュージーランドの原則は維持される形である。この合意は、中国の台頭を念頭に置いた米国のアジア太平洋戦略重視の一環で、2国間の安全保障対話や両軍合同の軍事演習、その他必要な協力が行われる予定である。より具体的には海上安全保障、人道支援、災害支援や平和維持活動における両国の協力が行われ、海上治安などにおける両国の情報共有をさらに促進させる事が求められている。米国もニュージーランドとの既存の原則を維持する中で、最大限の協力を強化することを望んでいる。
記事参照:U.S., New Zealand Sign Defense Cooperation Accord
http://www.defensenews.com/article/20120619/DEFREG02/306190010/U-S-New-Zealand-Sign-D efense-Cooperation-Accord?odyssey=tab|topnews|text|FRONTPAGE
6月 20日「米沿岸警備隊、バイオ燃料テスト」 (Navy Times, AP, June 21, 2012)
米ワシントン州エバレットを母港とする沿岸警備隊設標船、 USCG Henry Blake は 20日、藻類とディーゼル油を 50対 50の割合で混合したバイオ燃料を全ての燃料タンクに満載し、最初のバイオ燃料による航行試験を実施し、 21日にピュージェットサウンドに入港した。沿岸警備隊は、海軍が 6月 29日からハワイ周辺海域で開始する RIMPAC演習期間中に実施する、空母、 USS Nimitz攻撃群による ”Great Green Fleet”計画の調査に協力している。沿岸警備隊による試験は 2012年夏を通じて実施され、評価される。バイオ燃料は海軍が提供した。8月 3日まで実施される RIMPAC演習では、USS Nimitz攻撃群は、バイオ燃料実験を行う。空母自体はバイオ燃料を使用しないが、搭載機は、航空燃料とカメリナ油との混合燃料を使用する。随伴戦闘艦の内、 3隻、誘導ミサイル巡洋艦、 USS Princeton、駆逐艦 2隻、USS Chung-Hoon、USS Chaffeeは、ディーゼル油と藻類の混合燃料を使用する。
記事参照:First Coast Guard ship testing biofuel
http://www.navytimes.com/news/2012/06/ap-first-coast-guard-ship-testing-biofuel-062112/?utm
トピック 国連海洋法条約加入を巡る米上院公聴会
米上院外交委員会は 6月 14日、米国の国連海洋法条約( UNCLOS)加入を巡る 2回目の公聴会を開催した。以下は、グリナート海軍作戦部長とパップ沿岸警備隊司令官の証言要旨である。
1.グリナート海軍作戦部長
(1) 米国は世界最強の海洋国家として、UNCLOS加入は、海軍の活動に恩恵を及ぼす。侵略を抑止し、紛争を防止し、あるいは戦争に勝利するための米海軍の能力は、世界の海洋を自由に航行できる能力にかかっている。UNCLOSに定められたルールは、軍用及び商用の船舶及び航空機に対して世界の海洋へのアクセスを認めており、インドネシアのような群島水域においても、氷海が後退して新たな航路が開かれつつある北極海においても、他国の許可を必要としない。この条約は、米海軍の潜水艦が潜航状態で、艦船が航空機の運用を行いながら国際海峡を通過する権利を与える。また、他国の EEZや公海において米海軍の艦船や航空機に広範な航行の権利と自由を与え、米海軍艦船・航空機の主権的地位を保証する。この条約は、船舶の積み荷や推進動力の如何を問わず、航行の自由を認めており、これは、原子力推進を広範に利用する米軍にとって極めて重要な権利である。
(2) UNCLOSは、海洋紛争の平和的解決のための公式かつ一貫した法的枠組みを提供するものである。この条約は、国家が海洋において法的に主張できる管轄範囲を規定している。UNCLOSに加入すれば、米国は、その解釈と運用に発揮し得る影響力を増大することができる。最近の西太平洋における米海軍の活動に対する妨害、あるいはイランによるホルムズ海峡封鎖の威嚇は、国際海域へのアクセスを規制しようとするもので、国際法規に対する違反であり、これらに対処するためにも、この条約を適用する必要がある。米国が加入すれば、我々は、法に基づくルールを強要し、これらの海域における軍事活動を遂行する自由を確保する上で、自らの立場を強化できるであろう。
(3) 米国の主要同盟国は全て UNCLOS加盟国であり、他の国連安保理常任理事国も、また北極海沿岸国もそうである。米国が加入しなければ、条約規定を選択的に適用する口実を他国に与え、それによって今日我々が享受している航行の自由が脅かされる恐れがある。米国の加入は、我々のパートナー諸国との多国間活動を強化し、海洋における法の支配に対する明確なコミットメントを示すことができる。
(4) UNCLOSは、米国の軍事活動を制限するものではない。もし軍事活動を制約するものであれば、私は、 UNCLOSを支持しない。海軍の海洋、特に戦略的に重要な海域へのアクセスは、UNCLOS加入によって強化されるであろう。米国は世界最強の海洋国家として、 UNCLOSによる法的確実性とグローバルな海洋秩序から大きな利益を得ることができる。海洋における諸活動の法的根拠として、もはや慣習や伝統に頼るべきでなく、 UNCLOSに依拠すべきである。UNCLOSは、米国の国家の安全保障と繁栄を護る重要な手段である。
記事参照:Statement of Admiral JONATHAN GREENERT, Chief of Naval Operations Before The Senate Committee on Foreign Relations on Law of The Sea Conventuion
http://www.foreign.senate.gov/imo/media/doc/Admiral_Jonathan_Greenert_Testimony.pdf
2.パップ沿岸警備隊司令官
(1) UNCLOSによる法的確実性と安定性は、第 1に米国の海洋における主務者として卓越した任務遂行能力を維持し、第 2に米国の繁栄を確保し、第 3に米国の北極海域における将来を保証する上で、沿岸警備隊の活動を強化するものであると確信している。米国は、海洋国家であり、また北極海沿岸国でもある。我々は、 9万 5,000カイリ以上に及ぶ世界最長の海岸線を有する国であり、毎年 1,220億ドル以上の収入をもたらす世界最大の EEZを有している。米国の海上輸送システムは、海外貿易の 95%を担う 361の港湾と数千マイルに及ぶ海上交通路から構成されている。米国の貿易の大部分は、米国の港湾に年間 6万回以上寄港する延べ 7,500隻以上の船舶で輸送されている。海洋資源を含む我々の海洋権益を保護することは極めて重要である。要するに、沿岸警備隊は、海洋において米国人を保護し、海洋を経由する脅威から米国を護り、そして海洋自体を保護するために、海洋での永続的なプレゼンスを維持しなければならない。
(2) 米国の海洋における主務者としての卓越した任務遂行能力の維持
国際海峡を自由に航行し、無害通航を実施し、そして公海の自由を享受することは、 UNCLOSが成文化している国際法上の重要な権利である。この権利に基づいて、我々の巡視船や航空機は、当該沿岸国の許可や事前通報の必要がなく、航行することが認められることになる。我々は現在、航行の権利と自由を慣習国際法に依拠している。しかし、慣習国際法は、時間の経過とともに進化する。米国が UNCLOSに加入することで、沿岸警備隊は、その活動を維持するための権利の行使に当たって、最強の法的基盤と優位な地位を得る。UNCLOSの最も重要な条項の 1つは、12カイリの領海主張の法制化である。領海 12カイリにより、沿岸警備隊は、領海外の海域において臨検の権利を持ち、同様に船舶の国籍を調べるための近接と立ち入り検査の権利をも持つことになる。UNCLOSに関連する沿岸警備隊の法執行活動は、特に麻薬密売、違法移民及びテロ対策に関するものであり、国際的なパートナーシップの下で活動している。これらのパートナーの大部分が UNCLOS加盟国であり、未加入はこれら諸国の強力を得る上で障害となる。
(3) 米国の繁栄の確保
UNCLOSに加入すれば、商船も航行の自由を享受することが保証される。米国は、海上貿易の安定を確保し、経済的信頼を向上させ、深海における海底資源の開発に門戸を開くため、この条約を必要とする。
a.活気があり安全な港湾は、健全で繁栄する経済に不可欠である。米国の港湾に寄港する船舶は、米国のポート・ステート・コントロール(外国船舶監督)を受ける。沿岸警備隊は、船舶の検査、海員の技量保証並びに最高基準の海洋安全、安全保障及び環境保護ととともに、港湾活動の監視を含む包括的なポート・ステート・コントロール・プログラムを維持している。国際海事機構( IMO)に採択された国際統一基準は、このプログラムの基盤であり、速度に依存する輸送システムの要である。今日米国は、実質的な IMO基準の当事者でありながら、UNCLOSの法的枠組みの下にはないという異常な状況にあり、その能力が限られている。この条約に加入すれば、 IMOにおける沿岸警備隊の取り組みが強化され、重要な国際規格の継続的な開発をリードすることができる。
b.UNCLOSは、米国の延伸大陸棚に存在するエネルギー資源、鉱物資源及びその他の資源とともに、世界で最も広い EEZの中の海洋資源に対する米国の主権的権利を法的に確実なものとする。この条約は、国際的な漁業規制とその執行の法的枠組として広く受け入れられている。沿岸警備隊は、不法操業、不法侵入あるいは違法な開発から我々の貴重な海洋資源を保護することで、米国の主権を護っている。この条約に加入することで、これらの主権的権利をより強固な法的基盤の上に置き、沿岸警備隊の能力を強化する。
c.UNCLOSは、海洋汚染の問題に国際レベルで取り組むため、沿岸国としての法的枠組を提供している。沿岸警備隊は、海への油流失に対する国の第一義的な対応者であり、海洋における如何なる危機にも対処するため、特に越境汚染の場合など、可能な限り最強の法的基盤が必要である。我が国の沿岸領域でもある隣国沖合でのエネルギー生産や探査活動が増加しているので、沿岸警備隊は、事故を未然に防止し、また発生した事故にも対処するため、それらの国々と協調して活動する事が不可欠である。この条約は、協力の基盤となるものであるが、我々は全ての近隣諸国と異なり、加盟国ではない。この条約への加入は、米国の領海と海岸に達する外国からの、あるいは外国船舶からの海洋汚染のリスクを軽減する上で、沿岸警備隊に多くの必要な手段を与えることになる。
(4) 米国の北極海域における将来の保証
北極海の海氷が後退するにつれて、この海域における米国の経済的利益も大幅に増え、この海域がより活用されるようになろう。また、航行の権利や沖合の資源探査及び採掘あるいは環境保全などの重要な問題が生じる。沿岸警備隊は、北極海域における米国の利益を保護する強力な法的権限を持っている。沿岸警備隊は、アラスカが米領になって以来、北極海で活動しており、我々の責任は、米国の利益に伴い拡大していくであろう。米国は、この条約加入していない唯一の北極海沿岸国である。海氷が後退した北極海は、多くの課題があるが、素晴らしい好機ともなる。 UNCLOSは、我々がこの好機を活用するために必要な鍵となる法的枠組を提供する。沿岸警備隊は、米国の北極海域の将来を保証するために、この条約を必要としている。
(5) 何故、今加入か?
UNCLOSとその後の第 11部(深海底)の履行に関する 1994年協定は、米国の外交的勝利であった。これらのドキュメントは、沿岸国であり最強の海洋国家である米国に非常に有利な国際法の成文化であり、米国の利益を維持し、保護するものである。沿岸警備隊が効果的にこの条約の規定を適用するには、米国が加入しなければならない。
米国は数十年間、運用に参加もできなければ、加入によって生じる付加的な利点も享受することもなく、UNCLOSに準拠して行動してきた。米国は、UNCLOSに加入することで、海洋を管轄する国際的なルールの更なる発展に影響を与え、主導権を発揮すべきである。米国は、国家経済と安全保障上の利益を保護するため、本質的に変化しやすい性格の慣習国際法にあまりにも多くを依存するリスクを冒している。
沿岸警備隊は、世界の海洋とその上空と海中、海底での活動に取り組み、その法定任務を促進するため、包括的な法的枠組を必要としている。 UNCLOSには、現在 162カ国が加入している。米国が UNCLOSに加入することで、沿岸警備隊にマイナスになるようなことは見当たらない。逆に、 UNCLOSに加入することは、沿岸警備隊の能力を大いに強化することになろう。
記事参照: Testimony of Admiral ROBERT PAPP, Commandant, U.S. COAST GUARD on Accession to The 1982 Law of the Sea Convention Before The Senate Committee on Foreign Relations
http://www.foreign.senate.gov/imo/media/doc/Admiral_Robert_Papp_Testimony.pdf
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