海洋安全保障情報旬報 2012年6月1日〜6月10日

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6月 2日「シンガポール、米沿岸戦闘艦 4隻受入」 (Navy Times, Jun 2, 2012)

シンガポール軍は 2日、米海軍の沿岸戦闘艦 (LCS) 4隻をローテーション配備方式で受け入れることに原則合意した。これは、シンガポールのウン・エンヘン国防相とパネッタ米国防長官の会談後に発表された、共同声明で明らかにされた。 LCSは、シンガポールを母港とはせず、乗員は艦上に居住する。共同声明によれば、パネッタ長官は、「LCSの展開は、域内各国への寄港や各国海軍との演習や交流を通じて、この地域における米国の関与を強化するものとなろう」と強調した。

記事参照:Singapore will now host 4 littoral combat ships
http://www.navytimes.com/news/2012/06/navy-singapore-host-4-littoral-combat-ships-060212d/?ut m

6月 3日「パネッタ米国防長官、カムラン湾訪問」 (The Washington Post, June 3 and 4, 2012)

パネッタ米国防長官は 3日、ベトナムのカムラン湾を訪問した。ベトナム戦争中、米海軍基地として使用されていたカムラン湾への訪問は、ベトナム戦後、国防長官としては初めてである。パネッタ長官は停泊中の米海軍輸送艦、 USNS Richard E. Byrdの飛行甲板で、「米越両国の防衛関係に関しては、ここまで来るのに長い道のりを要した。米国は、こうした港湾が利用できるベトナムなどのパートナーと共同していく」と語った。2003年以来、 20隻の米海軍艦船がベトナムに寄港しているが、戦闘艦艇は現在まで寄港しておらず、 USNS Richard E. Byrdのような非戦闘艦船が寄港している。同艦は、Military Sealift Command所属の輸送艦で、乗員のほとんどが文官要員である。パネッタ長官は、今後、米艦船のカムラン湾寄港を増やしていく意向を表明した。

記事参照:From Vietnam, Pentagon chief sends China message that Washington will aid Asia-Pacific allies
http://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/panetta-becomes-most-senior-us-official-to-visit-vietnams-cam-ranh-bay-since-the-war-ended/2012/06/02/gJQAQscHAV_story.html

Defense Secretary Leon Panetta highlights U.S. ties to Vietnam during visit
http://www.washingtonpost.com/world/asia_pacific/defense-secretary-leon-panetta-highlights-us-ti es-to-vietnam-during-visit/2012/06/03/gJQAOWcLBV_story.html

6月 4日「中国の成長中の漁業と地域的な海洋安全」 (RSIS Commentaries, No. 091, June 4, 2012)

シンガポールのナンヤン工科大学ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)は、6月 4日付けの RSIS Commentaries, No 091で、RSISの上級研究員張宏洲(Zhang Hongzhou)による、 “China’s Growing Fishing Industry and Regional Maritime Security” と題する論説を掲載した。筆者は、中国の沿岸漁業から沖合漁業への転換には、地域的な海洋安全保障上、漁業紛争を引き起こす可能性がある反面、こうした紛争が地域的協力を促す好機ともなり得るとして、要旨以下のとおり述べている。

(1) 中国の水産物の需要と供給の不均衡
中国の急速な経済発展は、国民の収入を大幅に増加させ、水産物の需要に拍車をかけている。中国の水産物の1人当たりの消費量は、 1970年の 5キロから 2010年には 25キロまで増加した。中国の総人口の拡大は水産物の更なる需要をもたらしている。中国沿岸海域における漁獲量は、全漁獲量の半分以上を占めているが、依然として乱獲と深刻な海洋汚染をもたらし、沿岸海域での中国の漁業資源の急速な枯渇を招いている。また、中国と近隣諸国の間の漁業協定によって、中国漁民が漁獲可能な海洋水産資源は更に減少した。その結果、数百万人の中国漁民が魚のいない沿岸海域に閉じ込められている。

(2) 不均衡に対処するための政府の取り組み
中国政府はこの不均衡に対処するため、内水魚及び海洋魚の養殖を優先的に促進し、養殖による水産量は、現在中国における水産物総生産の 70%以上を占めるに至っている。海洋漁業に関しては、乱獲を制限し水産資源を維持するため、中央及び地方での漁船団の縮小と漁師の転職が奨励されてきた。しかしながら、海洋漁獲量は安定したものの、漁船の数だけでなく、漁業労働者が逆に増え続けている。中国政府の漁船団と漁業労働力縮小への試みが、限られた成功しか達成できていないのは、いくつかの理由がある。第 1に、漁業部門に割り当てられた予算があまりに少なく、目標達成が不十分である。第 2に、中央と地方政府の利害の対立が、努力の効果を損ねている。第 3に、漁師の転職は、教育訓練の欠如に加え、海に慣れ親しんできた漁師には困難である。第 4に、内陸部からの貧民農民の流入が海洋漁業の労働力に過剰を来している。

(3) 地域海洋安全保障への含意
中国の沿岸漁業から沖合漁業への転換は、近隣諸国の EEZに属し、また係争海域でもある海域へ、操業拡大をもたらしている。その結果、中国漁民が絡む漁業紛争が近隣諸国の海洋法令執行機関による厳しい取締りによって政治問題化すれば、地域的な外交及び安全保障上の緊張のトリガーとなる恐れがある。一方で、こうした紛争は、地域的協力を促す好機ともなり得る。この地域の漁業には、違法操業、乱獲、海賊及び海洋環境の劣化など共通する課題がある。こうした課題に取り組むには、1国だけでは成し得ず 2国間及び多国間の協力が必要である。こうした漁業協力は、地域諸国にとって相互の信頼と理解を促進する上で極めて有用であり、地域的な海洋における安全保障としても重要である。

(4)展望
中国の沿岸海域における漁業資源の枯渇と過剰な漁業労働力を抱えた沿岸漁業から沖合漁業への変換は、今後数年間続くであろう。このことから、中国と地域諸国との漁業紛争が絶えず、増加することすら懸念される。漁業紛争を管理し、外交・安全保障上の紛争への拡大を防ぐため、国家的、地域的取り組みが必要である。中国は、需要と供給の不均衡を是正するとともに、地域的な協力と調整を進めていく必要がある。もし、中国がこれらを旨く処理できるとすれば、漁業協力が地域の海事協力の出発点となり、他の領域の協力にも「波及効果」を与えるだろう。

記事参照:China’s Growing Fishing Industry and Regional Maritime Security
http://www.rsis.edu.sg/publications/Perspective/RSIS0912012.pdf

6月 5日「中比両国艦船、スカボロー礁から撤退」 (Inquirer.net, AFP, June 5, 2012)

フィリピン外務省が 5日に明らかにしたところによれば、フィリピンと中国の政府公船は係争中のスカボロー礁から引き上げた。フィリピン外務省報道官は、中国は 2隻の政府公船をスカボロー礁内のラグーンから撤退させ、同時にフィリピンの漁業・海洋資源局の調査船も引き上げたが、30隻の中国漁船がラグーン内に居座っている、と語った。同報道官によれば、2隻の中国政府公船はラグーン外側の 6隻の政府公船と合流した。一方、フィリピンの調査船は外側の海域にいる別の公船と合流した。同報道官は、こうした措置により、最終的にはスカボロー礁を巡る両国の緊張が緩和されていくであろう、と語った。

記事参照:Chinese, PH vessels pull out of Scarborough Shoal − DFA
http://globalnation.inquirer.net/38907/chinese-ph-vessels-stay-away-from-panatag-shoal-dfa

【関連記事】「フィリピン、スカボロー礁で中国漁船を確認」 (Inquirer.net, June 26, 2012)

フィリピン外務省は 26日、スカボロー礁のラグーン内に中国漁船が帰ってきていることを確認した。外務省報道官は、「2日前には、ラグーン内に 1隻の漁船もいなかったことを海軍が確認していた」と語った。しかし、26日になって、海軍司令官は、25日午後現在、約 28隻の中国漁船と政府公船が確認され、その内、23隻がラグーン内にいることが確認された、と語った。海軍の航空機、Islanderがスカボロー礁上空に派遣された。中国は、5月 16日から 8月 1日まで、西フィリピン海(南シナ海)の一部に漁業禁止海域を設定しているが、中国漁船は、スカボロー礁周辺海域での操業を認められている。フィリピンも同期間、漁業禁止を決めているが、スカボロー礁周辺海域では中国の監視船にラグーン内での操業を阻まれている。

記事参照:Chinese fishing boats back in shoal − DFA
http://globalnation.inquirer.net/41507/chinese-fishing-boats-back-in-shoal-dfa

6月 5日「ソマリアの海賊、ギリシャ船を解放」 (Somalia Report, June 8, 2012)

ソマリアの海賊は 5日、マーシャル諸島籍船で、ギリシャの船社所有のケミカルタンカー、MT Liquid Velvet (5,998GT) を解放した。該船は、 2011年 10月 31日、アデン湾でハイジャックされた。該船の乗組員は、フィリピン人 21人である。該船を解放した海賊は、身代金として 400万米ドルを受け取ったと語った。

記事参照:MT Liquid Velvet Released
http://www.somaliareport.com/index.php/post/3429/MT_Liquid_Velvet_Released

6月 6日「米中両国、インドに秋波」 (The Times of India, June 7, 2012)

アジア太平洋地域が米中角逐の場となってきている中で、インドは 6日、米中両国から秋波を送られた。訪印したパネッタ米国防長官は、アジア太平洋地域における戦力強化を目指す米国の新防衛戦略の中で、インドは「要」(“a linchpin”) となろう、と語った。パネッタ国防長官は、「米国は転換点にある。10年に及ぶ対テロ戦争後、我々は、新たな防衛戦略を開発しつつある。特に、我々は、西太平洋・東アジアから、インド洋地域と南アジアに伸びるアークに沿って、域内各国との軍事関係を強化するとともに、プレゼンスを強化していく。インドとの防衛関係は、この戦略における『要』である」と強調した。

一方、インドのクリシュナ外相と北京で会談した、中国の李克強副首相は、中印関係は 21世紀における最も重要な関係になろう、と述べた。中国は、射程 5,000キロを超える Agni-Vミサイル実験をインドの超大国への野心の表れと見て、対インド論調を融和的トーンに転じ、俄かにインドの戦略的自立を持ち上げ始めた。例えば、人民日報では、独自の外交政策を持つインドは他国の走狗となり得ないとの論調が見られるようになった。

米中の角逐はインドにとっても問題である。インドは、中国を封じ込める米国の大戦略の一環と見られたくないところがある。インドは、米国との防衛関係の強化を望んでいるが、米国のインド洋海域への海軍力の増強を望んでいない。

記事参照:US, China woo India for control over Asia-Pacific
http://articles.timesofindia.indiatimes.com/2012-06-07/india/32100282_1_asia-pacific-defence-cooperation-defence-secretary

6月 8日「インド空母、ロシアで公試開始」 (RIA Novosti, June 8, 2012)

ロシアで改修中のインド 海軍空母、INS Vikramaditya (formerly Admiral Gorshkov) は 7日朝、ロシアの白海で当初予定から4年遅れで海上公試を開始した。同艦は、ロシアの Sevmash造船所で改修されていた。同艦には、ロシアとインドの乗組員が同乗し、インド側の乗組員は操艦訓練を受ける。同艦は白海での最初の公試を終 えた後、バルト海に移動し、艦載機とともに訓練する。インドはロシアとの間で、2005年に 9億 4,700万米ドルで同艦の購入契約を結んだが、2度にわたって改修計画が変更され、最終的な経費は 23億米ドルとなった。

同艦は、 1978年にウクライナの Nikolayev South造船所で起工され、1982年に進水し、 1987年に旧ソ連海軍で就役した。ソ連崩壊後、1994年に艦名を Admiral Gorshkovに改め、 1995年に短期間現役復帰したが、1996年にインドに売却された。同艦の排水量は 4万 5,000トン、最大速度 32ノット、巡航速度 18ノットで航続距離 2万 5,000キロである。

インドは既に、艦載機、 MiG-29Kの配備を始めている。同機は、短距離で離陸しアレスティング・ギアで着艦する、STOAR機である。

記事参照:India’s Russian-built Aircraft Carrier Starts Sea Trials
http://en.rian.ru/mlitary_news/20120608/173912191.html

トピック パネッタ米国防長官とアンソニー・インド国防相の講演〜 アジア安全保障会議 〜

1.パネッタ米国防長官講演
パネッタ米国防長官は 2日、シンガポールで開催された英国戦略国際問題研究所 (IISS)主催の第 11回 IISS安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で講演し、今後 5年から 10年の間にアジア太平洋地域における米軍の軍事展開能力を拡大することを表明した。以下は、同長官の講演要旨である。

(1) オバマ大統領は、米国は、来るべき数十年、アジア太平洋地域においてより大きな役割を果たすと言明してきた。我々は、この役割を、遠方の大国 (a distant power) としてではなく、太平洋国家群の一員として担っていく。我々の目標は、共通の課題に対処し、アジア太平洋地域のすべての国の平和と繁栄及び安全保障を促進するために、この地域の国々のすべてと密接に連携することである。

(2) 我々は、この地域を優先することを選択した。アジア太平洋地域における長期目標を達成するための我々のアプローチは、以下のような一連の共有原則を堅持していくことである。

a.第 1に、我々は国際的なルールと秩序を遵守する。これは新しい原則ではなく、これらを遵守することが、平和と繁栄を支えていくために必要である。これらのルールには、オープンで自由な商取引の原則、全ての国の権利と責任を重視する正当な国際秩序、法の支配への忠誠、コモンズとしての海、空、宇宙及びサイバー空間へのオープンなアクセス、武力による威嚇や行使を伴わない紛争の解決などが含まれる。こうしたルールを支えていくことは、60年以上にわたってアジア太平洋地域における米軍の基本的な使命であったし、将来において一層重要な使命となろう。この点で、私は、米国が 2012年中に国連海洋法条約に加入することで他の 160カ国以上の加盟国と協調していくことを望んでいる。

b.第 2の原則は、米国がこの地域で同盟関係及びパートナーシップを近代化し、強化することである。米国は、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン及びタイと重要な条約上の同盟関係にあり、インド、シンガポール、インドネシアなどは重要なパートナーである。そして、米国は、中国との強い関係を構築し発展させるために鋭意努力している。日米同盟は、 21世紀におけるこの地域の安全保障と繁栄の要石の 1つ (one of the cornerstones) として維持、強化される。そのため、両国は共に、訓練、運用能力を強化するとともに、海上安全保障、情報収集・監視・偵察などの分野で密接に協力していく。両国はまた、次世代のミサイル防衛・迎撃システムを含むハイテク能力を共同開発するとともに、宇宙とサイバー空間における協力の新たな分野を模索している。

c.第 3の共有すべき原則は、プレゼンスである。我々は、北東アジアにおける同盟関係を強化し、プレゼンスを維持する一方で、力の再均衡への取り組みの一環として東南アジアとインド洋地域でのプレゼンスを強化している。その重要な施策の 1つが海兵隊のオーストラリア北部へのローテーション配備と航空機の展開に関する、2011年 11月の合意である。海兵隊の第 1陣が展開開始した 4月以降、この海兵空海任務部隊はアジア太平洋

地域全域に迅速に展開することが可能となり、東南アジアとインド洋地域のパートナー諸国との協力態勢を強化し、自然災害や海上安全保障といった共通の課題に取り組むことができるようになった。米国は、フィリピンとの同盟関係を活性化しつつある。 5月にワシントンで、私はクリントン国務長官と共に、フィリピンのカウンターパートとの初の2プラス2会合に参加した。米国の力の再均衡への取り組みとして、シンガポールとの防衛関係も強化している。シンガポール軍やこの地域の他の国の軍と共同する我々の作戦能力は、今後数年間でシンガポールへの沿岸戦闘艦( LCS)の前方展開に伴って飛躍的に強化されるであろう。

既存の同盟関係やパートナーシップに加えて、この力の再均衡施策は、インドネシア、マレーシア、インド、ベトナム及びニュージーランドとのパートナーシップの強化も重視している。私はこの後、ベトナムとインドを訪問するが、ベトナムとの関係は、 2011年に署名された包括的な MOU(覚書)に基づいて、 2国間の防衛協力を進めている。インドは、 21世紀の安全保障と繁栄の形成に決定的な役割を果たすと見られる国であり、強力な安全保障関係を構築することに対する米国の関心を伝えつもりである。

米国は、これらの地域のパートナーシップを強化するとともに、中国との非常に重要な関係も強化していく。我々は、 21世紀のアジア太平洋地域を平和で繁栄し安全な地域として発展させる上で、中国が鍵になると考えている。米中両国は、両国関係が世界で最も重要な 2国間関係の 1つであると認識している。特に米中の堅固な軍事関係の構築に努力しているところであり、当面、人道支援、薬物対策及び拡散防止においてパートナーシップを深めていく。また、サイバー空間と宇宙空間の問題にも取り組む必要性があることにも合意しており、今後、これらの重要な領域における責任ある行動について合意された原則を確立し強化する必要がある。この地域と世界の多くが米中関係に注目しており、一部には、米国のアジア太平洋地域への重視傾向を中国に対するある種の挑戦と見なす向きもあるが、その見解は誤りである。米国のアジアへの関与を刷新し強化する努力は、中国の発展と成長と矛盾するものではない。実際、この地域における米国の関与の強化は、将来にわたって共有する安全保障と繁栄を促進するものであり、中国にとっても裨益するものである。この文脈において、米国は、近年の中台関係の改善努力を強く支持する。米国は、台湾海峡の平和と安定に永続的な関心を持っている。米国は、3つの米中共同コミュニケと台湾関係法に基づき、1つの中国政策を堅持する。中国もまた、60年間に亘りこの地域に維持されてきた規範に基づく秩序を尊重し、安全と繁栄を推進する上で果たすべき重要な役割を持っている。

この規範に基づく秩序を一層発展させていくためのもう 1つの施策は、アジアの地域的安全保障機構の強化である。米国は、海洋への自由でオープンなアクセスという全ての国の権利を護るための相互に合意されたルールを発展させることが、地域機構にとって死活的に重要であると考えている。我々は、紛争の防止と対処を含む、南シナ海における当事国の行為を規制する法的規範となる、拘束力のある行動規範を検討する、 ASEAN諸国と中国の努力を支持する。この点で、米国は、南シナ海のスカボロー礁における状況に細心の注意を払っている。米国の立場は明確で一貫性がある。即ち、我々は、双方に自制と外交的解決を要求し、挑発に反対し、武力による威嚇と武力の行使に反対している。米国は、領有権問題について、何れか一方に与することはないが、この紛争は平和的かつ国際法規に則って解決されることを望む。

d.第 4の原則は、兵力投射能力である。 2012年度の国防予算は、アジア太平洋地域における米軍事力を強化するための投資と戦略的意思決定の持続的な努力の最初のものである。2020年までに、太平洋と大西洋の海軍の戦力配分を、現在の凡そ 50%対 50%から 60%対 40%に再配分する。これによって、この地域に 6隻の空母と過半数の巡洋艦、駆逐艦、沿岸戦闘艦及び潜水艦が配備されることになる。米国の前方展開兵力はこの地域へのコミットメントの中核であり、我々は、その戦力を技術的に最先端のものにしていく。これらの戦力は、我々の安全保障上のコミットメントを満たすために、必要に応じて迅速に軍事力を投入する能力によってバックアップされる。そのため、米国は、この種の能力−高度な第 5世代戦闘機、最新のバージニア級原潜、新しい電子戦・通信能力、更には改良された精密兵器−に多大の投資を行っており、これによって、我々のアクセスと行動の自由が脅かされるかもしれない領域における作戦行動の自由を確保することになろう。我々は、太平洋の広大な距離を超える作戦上の課題を認識している。我々が新たな空中給油機、新しい爆撃機、高性能の洋上哨戒機及び対潜機に投資している所以である。

これらの軍事的能力への投資と併せて、我々は、アジア太平洋地域における作戦上の特有の課題を満たし、これらのプラットフォームの独特の強みをより良く活用することが可能になる、新しい作戦の概念を開発している。2012年1月に、国防省は、エアー・シー・バトル構想に加えて、ジョイント・オペレーショナル・アクセス・コンセプト( JOAC)を発表した。これは、我が軍の主要な海路及び通商航路へのアクセスを拒否することができる新しい破壊的な技術や武器による挑戦に対する国防省の要求を満たすものである。これらのコンセプトの実現には何年もかかり、多くの投資を要するが、我々は、それらが完全に実現されるよう順序に従って投資を行っている。着実で、計画的で、かつ持続可能な方法で米国の軍事力は再均衡が図られつつあり、この極めて重要な地域のために強化された能力へ発展しつつある。

記事参照: The US Rebalance Towards the Asia-Pacific, delivered by Leon Panetta, Secretary of Defense, United States
http://www.iiss.org/conferences/the-shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2012/speeches/first-ple nary-session/leon-panetta/

2.アンソニー・インド国防相
アンソニー国防相は講演で、南シナ海も念頭に置いて、海洋は特定の国だけにあるものではなく、国際法に基づいて海洋の自由を守っていこうと呼びかけ、そのために海賊対策等を通じた国家間の協力関係を進め、紛争をなくす努力を進めていくインドの立場を表明した。以下は、同国防相の講演要旨である。

(1) まず、今日、最重要になっている海洋の自由の歴史的な経緯に触れておきたい。海洋の自由という、この領海と公海を分ける考え方は、海上貿易の発展とそれをコントロールしようという強国の登場によって生まれてきた考えである。そして、今日、海を一つの国やグループが独占することはできない時代に入っている。そのため、我々は海洋の分野において国家の権利と世界の共同体としての自由のバランスをとらなければならない。海洋の自由は、個人の権利のように、大小にかかわらず全ての国が法と原則について合意して初めて成り立つものである。

(2) 21世紀における海洋の自由のあり方について再強調しておくべき重要なことは、国連海洋法条約等の国際法の原則に基づいて、全ての国が海洋の安全を確保し、航行の自由を保障することである。これは、グローバル化と相互依存が進む時代における、海洋の自由の根幹的部分と言える。そしてこの自由を、皆で様々な脅威から護っていくことが必要である。

(3) 今日、海洋の自由の脅威には、海賊、テロ、組織犯罪、そして国家間の紛争があり、グローバルな貿易のかなりの割合、量的にはほぼ 90%、価値としては 77%が海を経由している。インドの場合、 600以上の島々、7,500キロ超える海岸線を有し、EEZは 250万平方キロ以上、国連海洋法条約の下で採掘が認められている海域はインド南端から約 2,000キロに及ぶ。インドの戦略的位置から、海上テロ、海賊、麻薬密輸といった非対称脅威が戦略上の優先課題になってきており、特にムンバイ同時多発テロ以降、沿岸や海洋防衛能力を向上させる多くの処置を講じてきた。

(4)しかしながら、国家がこのような問題への対処能力を向上させているときは、共通認識を向上させ国家間の紛争を避ける必要性も高まる。この点で、インドは、南シナ海の問題について、関係国の努力と中国と ASEAN間で 2011年 11月に合意された、「2002年の中国・ASEAN の南シナ海における関係国行動宣言の実施のための指針」を歓迎する。我々は、対話と交渉によって問題が解決することを希望している。

(5)現在、増大する海賊の脅威に対処するには、強力な海賊対策とより迅速な海賊行為への処罰が必要である。マラッカ海峡やアデン湾で見られるように、各国の協力関係に基づく海賊対策の進展は大いに勇気づけられるものである。このような協力の精神を、国家間の紛争を防ぐ方向へ発展させていく必要がある。これは、国際法の原則の枠組みの下での対話と共通認識の増進によってのみ可能となるものである。そこでは、小さな国の権利も平等に扱われなくてはならない。インドは、多くの国、特に ASEAN諸国やその他の多くの海洋沿岸国と共に、海洋安全保障問題に関する建設的な対話プロセスに積極的に関わっていく。ARF、ADMMプラス、IOR-ARCや IONSといった会議を支援し、強化するよう取り組む。インドは、海上領域に死活的に重要な国益を有しており、我々は責任ある国際社会のメンバーとして、開かれた、透明性のある、海洋の自由を維持し、保護する海上安全保障の枠組構築に貢献していくつもりである。

記事参照:Protecting Maritime Freedoms, delivered by A K Antony, Minister of Defence, India
http://www.iiss.org/conferences/the-shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2012/speeches/second-plenary-session/a-k-antony/