海洋安全保障情報旬報 2012年4月21日〜4月30日

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4月 23日「ソマリアの海賊、イタリアのタンカー解放」 (Somalia Report, April 23, 2012)

ソマリアの海賊は 23日、イタリア籍船で同国船社所有のタンカー、 MT Enrico Ievoli (16,631DWT)を解放した。 900万米ドルの身代金が支払われたと見られる。一部の海賊は 1,400万米ドルを受け取ったと主張しているが、彼らはしばしば、金額を誇大に吹聴するので信じ難い。該船は 2011年 12月 27日、1万 5,750トンの苛性ソーダを積んでイランからトルコに向けて航行中、オマーン沿岸沖でハイジャックされた。該船の乗組員は 18人である。

4月 23日「キプロス、海賊対処法案閣議決定」 (The Maritime Executive, April 23, 2012)

キプロス海運会議所 (Cyprus Shipping Chamber) は 23日、キプロス政府がキプロス籍船の海賊対処に関する法案を閣議決定したことに、歓迎の意を表明した。この法案は、キプロス海運会議所が海運業界代表として、キプロス海運局および海運省と共同で1年以上かけて準備したものである。この法案は、特に訓練された有資格者の民間武装警備員を合法的に雇用するための法的根拠となる。キプロス海運会議所は、この法案が間もなく下院で可決されれば、キプロスは欧州ではもちろん、恐らく世界でも初めて、詳細な海賊対策のための民間武装警備員に関する法律を制定した国となる、と期待している。

4月 24日「米越両国海軍、海軍交流活動開始」 (U.S. 7th Fleet Public Affairs, April 24, 2012)

米海軍は 24日、ベトナム海軍との海軍交流活動を開始した。今回の交流では、 5日間にわたって、潜水医療、航行そして実弾射撃などの分野における技能交流や友好行事が中心となる。米海軍からは、第 7艦隊所属の旗艦、USS Blue Ridge (LCC 19)、誘導ミサイル駆逐艦、USS Chafee (DDG 90)、捜索救難艦、 USNS Safeguard (T-ARS-50)、及び Task Force 73の将兵と Mobile Diving and Salvage Detachmentが参加する。

4月 27日「中国、南太平洋地域に影響力拡大」 (The Wall Street Journal, April 27, 2012)

27日付の米紙、The Wall Street Journalは、中国が南太平洋地域に影響力を拡大し、米国にとって戦略的に重要な地域を浸食しつつあるとして、要旨以下のように指摘している。

(1)中国は、南太平洋に点在する島嶼国に対する影響力を拡大しており、米国にとって戦略的に重要な地域が浸食されつつある。こうした中国の動向は、豊富な漁業資源と海底資源を有するこの地域における自国の国益を護ろうとする米国にとって、厄介な問題となっている。

(2)その典型的な事例がトンガ王国である。同国は現在、その脆弱な経済を支えるとともに、新たなインフラを建設するための資金を、中国からの財政支援に頼っている。同国の対外債務の約 62%が中国からのもので、2011年 12月 31日現在の公式数字によれば、中国輸出入銀行と中国銀行から総額 1億 1,360万米ドルの債務を負っている。これは、同国経済の 4分の 1に当たる。

(3)中国は、ローンと援助を通じて、太平洋地域に強力な足場を築きつつある。クリントン米国務長官は、2011年には下院の委員会でこの地域の中国の影響力増大を警告したが、現在では、「我々は、この地域を、米中抗争の場と見なしていない」と語っている。米国のこの地域に対する財政支援は、5年前の 2億ドル前後から 2010年には 3分の 1になっておいる。一方、オーストラリアのシンクタンク、The Lowy Institute によれば、 2005年から 2009年までの中国の太平洋島嶼国家に対する贈与とローンは、2,320万ドルから 6,000万ドルに増えている。

4月 27日「米、インドネシアの港湾保安強化を支援」 (The Jakarta Post, April 27, 2012 )

27日付のインドネシア紙、The Jakarta Postの報道によれば、米国は、インドネシア運輸省との間で、港湾の保安態勢強化について協力しており、装備購入と訓練のために 2012年中に 102万米ドルを贈与する。27日には、在ジャカルタ米大使館代理大使からインドネシア運輸省海運局長に対して、74人分の放射能防護服、4器の放射能探知器が引き渡された。

4月 27日「ロシア製新型フリゲート、就役—インド海軍」 (RIA Novosti, April 27, 2012)

インド海軍は 27日、ロシアのカリーニングラードの造船所で、ロシア製の新型の引き渡しを受け、同艦を正式に就役させた。このフリゲート、INS Tegは、Krivak III改級誘導ミサイルフリゲート 3隻の内の 1隻で、2006年以来、総経費 16億米ドルで建造されていた。他の 2隻も、1〜2年の内に就役する計画である。同艦は、排水量 3,970トンで、BrahMos超音速対艦巡航ミサイルを搭載する他、3次元戦闘用センサーを装備する。インド海軍は既に、ロシア製 Krivak III級 (Talwar級)フリゲート 3隻を配備している。

4月 30日「インド、ラクシャドウィープ諸島に海軍基地開設」 (IBN Live, May 1, 2012)

インドは 30日、アラビア海におけるプレゼンスを強化するとともに、戦略的に重要なインド洋地域への展開能力を拡大するために、ラクシャドウィープ諸島に海軍基地、 INS Dweeprakshakを開設した。ラクシャドウィープ諸島は 36の島嶼と 12の環礁からなり、基地はカバラッチ (Kavaratti) 島に開設された。同諸島周辺海域は、世界で最も通航船舶の多いシーレーンの 1つであり、新たな基地は、シーレーン防衛と情報収集に利用される。

4月 23日「南シナ海を掻き回す中国の『 9つの龍』—シンクタンク報告書」 (Crisis Group, April 23, 2012)

ベルギーのブリュッセルに本拠を置くシンクタンク、The International Crisis Group (Crisis Group) は 23日、“Stirring up the South China Sea (I)” と題する 50頁の報告書を公表した。同報告書は、中国の政府機関同士の調整を欠いた権限争いが南シナ海を掻き回しているとして、その内情を報告している。以下は、同報告書の EXECUTIVE SUMMARYの要旨である。

(1)中国政府機関同士の権限拡大と予算増を狙った調整を欠く抗争が、南シナ海における緊張を煽ってきた。権限を集中した中央機関の創設が繰り返し提案されてきたが、日の目を見なかった。最大の問題は、海洋法令執行機関と準軍隊機関の所属船舶が増え、それらが明確な法的規定もなく紛争海域で活動を強化していることである。南シナ海問題の解決には、これらの活動を集約した中国の一貫した政策が求められる。

(2)中国の海洋政策関係部門では、南シナ海問題に関わる各政府機関の間に調整を欠いていることを評して、「海を掻き回す 9つの龍 (“Nine dragons stirring up the sea”)」という。これら機関の多くは伝統的に、対外問題での経験をほとんど持たない、国内政策機関である。一部の機関は予算配分を巡って相互に激しく抗争しているが、他の機関(主として地方政府機関)は、経済成長のみが頭にあって、紛争海域での経済活動の拡大を狙っている。彼らの動機が国内的性格のものであっても、その活動の影響は益々国際化している。

(3)中国は国内的には、領有権紛争に対するナショナリズムの沈静化と地方政府機関の強引な活動を抑える方策を採ってきた。しかしながら、中国の現在のアプローチは依然、多くの閣僚レベルのアクターと各海洋法令執行機関が、効果的な調整権限のないまま、そして最高レベルの長期政策がないまま、バラバラに動いているのが実態である。海洋問題を統括する中央集権機関の創設が繰り返し提案され、その都度失敗してきたのは、この問題に対処する政治的意志の欠如を示している。北京はこうした状況に利益を見出しているのかもしれないが、こうした状況が続く限り、北京が南シナ海問題に融和的なアプローチを打ち出しても、長続きしないであろう。

Full Report is available at following URL; http://www.crisisgroup.org/~/media/Files/asia/north-east-asia/223-stirring-up-the-south-china-sea-i.pdf

南シナ海に関係する中国の海洋法令執行機関の任務、現勢等

Source; Stirring up the South China Sea (I), Appendix D, p.41より作成

【補遺】4月 20日「台湾、南シナ海の台湾領有島周辺海域へのベトナムの領侵を確認」 (The China Post, April 21, 2012)

台湾海岸巡防署は 20日、ベトナムの哨戒艇が 3月に 2度にわたって南シナ海の台湾領有島周辺領海に侵入したが、巡視船によって退去させたことを確認した。それによれば、ベトナムの哨戒艇は 3月 22日と 26日の 2回、南沙諸島で最大の島で台湾が領有する大平島の領海内にいるのが発見された。22日には、2隻の M8型高速巡視船が派遣された。大平島周辺海域にいた、ベトナムの 2隻の哨戒艇は、巡視船到着後退去した。26日に事案では、ベトナムの 2隻の哨戒艇が大平島周辺海域に侵入したが、海岸巡防署の監視レーダーに発見され、すぐに退去した。両事案とも、双方からの発砲はなかった。海岸巡防署の発表は、メディアの憶測報道に応えたものである。総統府でのトップレベルの秘密会合の後、海岸巡防署と国防部は、南シナ海の紛争海域でのベトナム艦艇の動向を注意深くモニターすることを命じられた。また、外交部は 20日、3月 22日の事案について直ちにベトナムに抗議したことを確認した。

大平島は、台湾の高雄南東 1,384キロに位置し、周囲 0.49平方キロのシナで、1999年に海兵隊部隊が撤退した後、現在、100人前後の海岸巡防署要員が駐留している。