海洋安全保障情報旬報 2012年4月1日〜4月10日

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4月 4日「米海兵隊第 1陣、オーストラリア到着」 (The New York Times, April 4, 2012)

オーストラリアのスミス国防相は 4日、同国北部のダーウィンで、同地に展開する米海兵隊の第 1陣、約 180人の歓迎式典に臨んだ。米海兵隊は、2011年 11月の米豪両国首脳の合意に基づいて、6カ月間のローテーションで同地に展開し、オーストラリア軍との合同演習を実施する。オーストラリアへの米海兵隊のローテーション展開は、オバマ政権のアジア太平洋地域への軍事シフトとの一環である。米国の長年の同盟国であるオーストラリアとの関係強化は、南シナ海に近い地域に米国のプレゼンスが確立されることを意味する。スミス国防相は歓迎式典で、「米海兵隊の展開は、世界の重心がアジア太平洋地域とインド洋にシフトしつつあることへの対応である。世界は、中国の台頭、インドの台頭そしてこの地域における戦略的、経済的影響力の増大に対応していく必要がある」と強調した。オーストラリア国防省の報道官は地元紙に、2011年 11月の米豪合意の 3つの優先課題の第 1は米海兵隊展開 5カ年計画であり、次に米軍機によるオーストラリア空軍基地の利用拡大であり、そして将来的には西岸のバース近郊の海軍基地を活用するインド洋への艦艇、潜水艦の展開強化である、と語っている。

4月 4日「ロシアからリースの原潜、就役—インド海軍」 (The Times of India, April 4, 2012)

インド海軍がロシアからリースした原潜、INS Chakraは 4日、就役した。アントニー国防相は、原潜の就役によってインドの防衛力が大きく強化されるが、如何なる国をも対象としたものではない、と強調した。インド海軍は、1988年からロシア海軍の Charlie級原潜をリースし、乗組員訓練用に運用した。以来、 20年の空白期間を経て、ロシア海軍の原潜、Nerpaを 10年間リースし、再び原潜運用国となった。INS Chakraと共に、国産原潜、 INS Arihantも間もなく運用開始になると見られ、インドは 2隻の原潜を運用することになる。インド海軍の潜水艦要員は既に、ロシアで訓練を受けてきた。INS Chakraの要員は、士官約 30人を含む、70人強である。同艦の排水量は約 8,140トン、最大速度 30ノット、最大潜航深度 600メートル、73人の要員を乗せて 100日間の潜航が可能である。同艦の兵装は、533ミリ魚雷発射管 4基、650ミリ魚雷発射管 4基である。インド海軍は、国産原潜、 INS Arihant搭載用に、ベンガル湾で K-15 (Sagarika) ミサイルの発射実験を少なくとも 10回以上実施している。このミサイルは、核弾頭を装着する、射程 700キロを超える弾道ミサイルで、近い将来更なる射程の延伸が計画されている。

4月 6日「ソマリアの海賊、中国船をハイジャック」 (China Daily, April 6, 2012)

パナマ籍船で中国の南京遠洋運輸 (NASCO) 運航の貨物船、 MV Xianghuamen (18,160DWT)は 6日、イラン南部のチャーバハール港沖のオマーン湾で、9人のソマリアの海賊に梯子を使って乗り込まれ、船体を銃撃され、ハイジャックされた。中国人乗組員 28人は人質となった。該船は、上海を出航し、シンガポールに寄港して、ハイジャックされた時はイラン南西部のイマム・ホメイニ港に向かっていた。

【関連記事 1】「イラン海軍特殊部隊、中国船解放」 (Somalia Report, April 6, 2012)

イラン海軍特殊部隊は 6日、中国の南京遠洋運輸 (NASCO)運航の貨物船、 MV Xianghuamenがイラン沿岸から 14カイリの海域でハイジャックされた数時間後、該船を急襲し、中国人乗組員 28人を救出するとともに、9人の海賊を拘束した。中国側の報道によれば、在テヘラン中国大使館がイランに武力解放を要請した。2隻のイラン海軍戦闘艦が救出作戦に参加した。戦闘艦が該船に接近し、海賊に降伏を命じると、武器類を海中に投棄した後、降伏した。

【関連記事 2】「イラン海軍特殊部隊、自国関係船を武力解放」 (gCaptain, April 3 and The Tehran Times,April 4, 2012)

3月 26日にソマリアの海賊によってモルディブの首都、マーレ北西 305カイリの海域でハイジャックされた、ボリビア籍船でイランの船社所有のばら積み船、 MV Eglantine (63,400DWT)は、イラン海軍特殊部隊によって武力解放された。イラン海軍のサヤリ (RAM Habibollah Sayyari) 司令官が 3日、明らかにしたところによれば、イラン海軍特殊部隊は、3月 30日から 31日にかけて 36時間にわたる解放作戦で、該船を急襲し、 12人の海賊を拘束した。該船の乗組員は 23人である。サヤリ司令官によれば、イラン海軍は現在、海賊対処活動のために、インド洋に艦艇 19隻、1万 1,000余の兵員を展開させているという。

4月 6日「シンガポール、米海軍沿岸戦闘艦最大 4隻まで受入検討」 (US News & World Report, April 6, 2012)

6日付米誌、US News & World Reportによれば、シンガポールは、米沿岸戦闘艦を最大 4隻まで受入を検討している。米海軍は 2011年、シンガポールに 2隻の沿岸戦闘艦 (LCS) を配備する計画を発表している。米誌によれば、シンガポール海軍高官は、シンガポールは最大 4隻までの LCSの受入れを検討していると米国防省に伝えている、と語った。LCSのシンガポール配備は、オバマ政権のアジア重視政策一環である。

4月 7日「米印合同海軍演習、開始」 (The Hindu, April 9, 2012)

米印年次海軍演習、‘Malabar 2012’は 7日、ベンガル湾に面した、チェンナイで始まった。1992年以来、16回目の今回の演習は、16日まで 10日間にわたって実施される。インド東部艦隊広報官によれば、7日から 9日までチェンナイでセミナーが実施され、海上演習は、チェンナイからアンダマン諸島に移動し、海軍戦時戦闘任務から非対称戦闘にいたる、広範な実働演習が実施される。演習では、臨検、防空、ヘリの両国戦闘艦への相互発着艦、対潜戦闘などが重点的に演練される。米海軍から、第 7艦隊の空母、USS Carl Vinson、誘導ミサイル駆逐艦、USS Bunkerhill、USS Halsey、兵站補給船、USNS Bridge、更には攻撃型原潜 USS Louisville及び P3C Orion 哨戒機 1機が参加する。一方、インド海軍からは、国産誘導ミサイル駆逐艦、INS Satpura、INS Ranvijay、INS Ranvir、ミサイルコルベット、 INS Kulish、および艦隊給油艦、INS Shaktiが参加する。更に、TU 142M哨戒機とヘリが参加する。

4月 7日「フランス海軍戦闘艦、海賊グループ阻止」 (EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, April 8, 2012)

EU艦隊所属のフランス海軍フリゲート、 FS Aconitは 7日朝、「アフリカの角」北方海域を航行中、小型ボート (skiff) を曳航する大型ボート (whaler) を発見した。発見海域がソマリア沿岸から 600キロ近い海域で、漁具も積んでいないことから、同艦は、大型ボートを臨検するために、警告射撃の後、臨検チームを派遣した。臨検の結果、8人の海賊容疑者を拘束するとともに、一部は既に海中に投棄されていたが、残った海賊の装備類を押収した。8人の海賊容疑者は同艦に移された。whalerと装備類は破壊され、skiffは同艦に押収された。同艦がソマリア沿岸まで近づいた 8日朝、8人の海賊容疑者は釈放された。以下は、その時の様子である。

4月 9日「2隻目の米空母、ペルシャ湾に展開」 (The Globe and Mail, AP, April. 9, 2012)

米海軍は 9日、2隻目の空母、USS Enterpriseがペルシャ湾に展開したことを明らかにした。ペルシャ湾には既に、USS Abraham Lincoln が展開している。 USS Enterpriseの展開について米第 5艦隊広報官によれば、「通常の展開で、特定の脅威に対応したものではない」としている。ペルシャ湾における米空母の 2隻態勢は 2010年 7月以来で、それ以前はイラク侵攻時の 2003年 3月、イラク・アフガン戦争支援時の 2007年 2月であった。USS Enterpriseは今回が最後の任務で、2012年秋には退役予定である。

トピック「中国の軍事的台頭−ドラゴンの新しい歯−」〜 英誌、The Economist論評 〜

4月 7日の英誌、The Economistは、“China’s military rise: The dragon’s new teeth” と題する論評を掲載している。同誌は、「2011年の東南アジア諸国の会議にて、中国の楊潔.外相は、この地域における中国の振る舞いに対する苦情の嵐に直面し、礼儀正しい指導者が普段言わないようなことをうっかり口走ってしまった。『中国は大国であり、その他の国々は小国である、これが事実だ。』確かに中国は、領土や人口の面だけでなく、軍事力としても大国である。そして、その他の世界は、中国と折り合いを付けざるを得ないということも事実である」と述べている。以下に要点を紹介する。

(1) 中国の軍事力増強は、アジアに警鐘を鳴らし、米国の国防政策におけるアジア回帰をもたらしている。米国が 1月に発表した新たな「戦略指針」は、アジア優先へのシフトの遅れを認め、「米軍は、世界規模の安全保障に貢献し続ける一方、アジア太平洋地域に向けた力の再均衡を要する」としている。米国は、今後 10年間に約 5000億ドルの防衛費削減を計画している。しかしながらこの文書によれば、「潜在的な敵を抑止する信憑性と、敵の目的達成を阻止するため、米国は、アクセスと活動の自由に障害のあるこの地域に兵力を投入する能力を維持しなければならない」としている。

(2) 中国は、その軍事力増強の規模だけでなく、その新たな軍事力が実際には誰が責任を持っていてどの様に使われるのかについての情報が欠けているため、世界の国々を心配させている。米国の戦略指針は、「中国の軍事力増強は、この地域において摩擦を引き起こすことを回避するため、その戦略的意図が一層明確にされなければならない」と指摘している。より憂慮すべきは、実際には誰が銃砲や艦船をコントロールしているのかということの透明性の欠如である。PLAは、公式的には国家の一部ではないという点で、中国は大国の中では特異である。PLAは、共産党に責任があり、国防部ではなく党中央軍事委員会によって運営されている。中国では党と政府は明らかに極めて近いが、党の方は一層不透明であり、PLAの忠誠心と優先順位が何処にあるのかについて、部外者の理解を難しくしている。

(3) 台湾は、中国軍近代化の主な動機である。もし台湾政策が中国の軍事計画の焦点なら、この国が取得しつつある驚くほど大きな能力は、他の選択肢、そして誘惑を与える。 2004年に中国の胡錦濤国家主席は、PLAは、「新たな歴史的使命」を請け負えるようにすべきだと述べている。その中には国連平和維持活動も含まれている。近年、中国は、安全保障理事会の 5つの常任理事国の中で、平和維持部隊として最大の貢献をしてきた。しかし、これら新たな使命のほとんどの責務は海軍に課せられてきた。敵に対してシーレーンへのアクセスを拒否するという、中国海軍の主要任務に加え、近隣及び遥か遠方への兵力投射が益々求められている。

(4) 中国海軍は、中国の拡大し続ける経済的利益の守護者としての体を見せ始めている。これらの範囲は、国家主権の主張(例えば、排他的経済水域として南シナ海の殆どで散見される例証)から、厖大な中国海運の保護、エネルギー及び原材料を供給するため国家としてのアクセスの維持並びに海外で働く急増中の中国市民の保護(現在 500万人、ただし 2020年までに 1億人に上昇すると予想される)まである。強力な駆逐艦、ステルス化したフリゲート艦及び誘導ミサイルを搭載した双胴艦艇からなる成長中の海軍の艦隊は、拡張された「グリーン・ウォーター」作戦(即ち、沿岸だけでなく地域での任務対応)を行うことができる。それはまた、長距離の「ブルー・ウォーター」作戦能力に発展しつつある。 2009年初頭、中国海軍は、3隻の艦艇を以てアデン湾沖における海賊対処のための哨戒を開始した。昨年、それらの艦艇の中の 1隻が、3万 5、000人の中国人労働者をリビアから避難させるため、地中海に送り込まれ、中国の空軍と共に印象的な後方活動が行われた。

(5) 中国の近隣諸国と西側諸国が、中国の発展について懸念するのは、驚くに値しない。台湾に対して配備された兵力の射程と、他国の軍事力を水平線の彼方に押しやるための中国の A2/AD潜在能力は、アジアにおける同盟国の米国に対する信頼を既に低下させている。オバマ大統領のアジアに向けた力の再均衡は、これらの疑念を多少なりとも緩和するかもしれない。米国の同盟国もまた、自分自身の A2/AD能力の開発を含め、やるべきことを推進しつつある。しかし、防衛支出の面で長期的な傾向としては、中国に有利である。米国は、世界的な責任を持ち続ける一方で、中国は、完全にアジアに集中することができる。ドラゴン(中国)に対するアジアの懸念は払拭できないであろう。

(6) 他方で、中国の脅威は、3つの制約要因から誇張されるべきではないともいう。

(a) 第 1に、中国は、旧ソ連と異なり世界的経済システムの安定の中に重要な国益を有している。軍事支出の増加は、国民所得の分配拡大ではなく、経済成長を反映したものだ。軍事支出を一定に保とうとする中国の試練は、中国の経済成長が減速し始めた時にやってくる。他の大国と同様に、中国もまた銃か、杖かとの選択に直面している。

(b) 第 2に、一部の米国の現実的な政策立案者達が認めるように、中国の重要性と歴史は、世界の中心に位置するという意識をもたらし、またそれを反映するような武力を持ちたいと思うことは、驚くような問題ではない。確かに、西側諸国は、中国の軍事力について、それを心配したり或いは世界秩序のためにより大きな責任を受け入れるよう求めたり、時折矛盾している。軍事科学アカデミーの姚云竹将軍は、「我々は、やり過ぎても、やらなさ過ぎても批判される。西側諸国は、一体何を望んでいるのかはっきりすべきだ。国際的な軍事秩序は、米国主導の NATOとアジアでの 2国間同盟があるが、中国が入るための WTO(ワルシャワ条約機構)の様なものが何もない」と言う。

(c) 第 3に、PLAは、数字に表れたほど手強いものではない。中国の軍事技術は、1989年の天安門事件の後に課せられた西側諸国の武器禁輸措置に苦しんできた。また PLAは最近、戦闘経験をほとんど持っていない。最後の実戦体験は 1979年のベトナムとの戦争であり、この時中国は袋叩きにされている。対照的に、 10年間のベトナム戦争は、米軍のプロフェッショナリズムに新たな磨きをかけた。従って、益々その実行が求められつつある複雑な統合作戦の遂行に PLAを投入することができるかどうか、疑問がある。