海洋安全保障情報週報 2012年2月15日〜2月21日、2012年2月22日〜2月29日合併号

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2月 15日「イタリア籍船タンカー添乗の海軍武装警備員、インド人漁民を誤射」 (Neptune Maritime Security, February 16, 2012)

イタリア籍船で同国船社所有のタンカー、MT Enrica Lexie (104,769DWT) 添乗の武装警備員は 15日夜、南インドのケララ州沖でインド漁船を海賊船と間違えて発砲し、インド人漁民 2人を死亡させた。インド外務省が 16日に明らかにしたところによれば、イタリア船に近づいた漁船には 11人の漁民が乗っており、内 9人が就寝中で、2人が起きていた。115日夜、武装警備員の発砲によって 2人が死亡した。インド海運総局長は、「報告によれば、イタリア船の乗組員はインド人 19人を含む 34人で、14ノットでシンガポールからエジプトに向け航行中、15日 1700頃に漁船に発砲した。該船には 6人のイタリア人武装警備員が乗っていた。インド沿岸警備隊は、該船を調査のためコーチに向かわせ、15日 2300頃にコーチに錨泊した。現在、事件の詳細を調査中である」と語った。

一方、駐インド・イタリア大使館は 16日の声明で、「イタリア船は 15日、インド西岸沖約 30カイリの公海で攻撃された。該船に乗っていたイタリア海軍武装警備員は、国際法規に従って、繰り返し警告した後、海賊が武装しているのを双眼鏡で確認した後、警告射撃を行った。海賊は逃亡した。その後、該船の船長はインド沿岸警備隊の接触を受け、コーチ港に向かうよう要求された。該船は現在、調査のため同港にいる」と述べた。

ケララ州警察は、「漁民は発砲しておらず、海賊船に間違われた可能性がある。漁船はイタリア船から 100メートル離れており、該船が通り過ぎるのを待っていた」と語っている。

【関連記事 1】「インド当局、イタリア海軍武装警備員 2人を拘束」 (Marine Log, February 20, and gCaptain, February 21 and 22, 2012)

インドとイタリア両国による外交折衝の後、インドの警察当局 19日は、イタリア海軍武装警備員 2人を逮捕、拘束した。この事案は、商船に添乗した武装警備員による初めての一般市民の死亡事案である。2人は、殺人罪で起訴される可能性がある。

イタリア政府は 20日の声明で、「イタリア政府は、公海を航行中のイタリア籍船内での事案であり、裁判権はイタリア側にあると考える。政府はまた、イタリア籍船における軍人の添乗は国連海賊対処決議の所要に対応したイタリアの特別法によって規制されていることを強調しておきたい。従って、軍はイタリア共和国の機関であり、外国政府の起訴から免除されることも指摘しておきたい」と述べている。イタリア当局は、MT Enrica Lexie添乗の武装警備員は空中と前方海面に警告射撃をしたとし、漁船の船体を狙っていないと主張している。

イタリアは 2011年 8月、法律を改正し、イタリア海軍海兵要員の 6人のチームによる商船への添乗を認めた。現在、60人がこの任務に指名されている。

【関連記事 2】「イタリア海軍武装警備員はインドの法律で裁く—インド国防相」 (DNA India, February 26, 2012)

インドのアントニー国防相は 26日、2人のイタリア海軍武装警備員はインドの法律で裁かれることになろう、と語った。国防相は、「ケララ州政府がそうした方向で、この事件の捜査を精力的に進めており、中央政府は州政府を全面的に支援している」ことを明らかにした。2人は、インド刑法第 302条の殺人罪で起訴されている。

【関連記事 3】「武装警備員と交戦規則—海事コンサルタント論説」 (gCaptain, February 17, 2012)

海事コンサルタントのマッデン米海軍退役大佐 (Captain Richard Madden) は、“Shipboard Security Teams and the Rules of Engagement” と題する論説で、今回の事案に関連して、商船に添乗する武装警備員と交戦規則 (the rules of engagement: ROE) の在り方について、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) 商船に武装警備員を添乗させる場合の最大の懸念の 1つは、武器の取り扱いを巡る責任—致死的行動を取る場合の責任、そして死亡させたり、負傷させたりした場合の責任の所在である。

(2)イタリア船の武装警備員は、海軍の要員で、民間人ではなかった。両者の最大の違いは、指揮系統である。軍の武装警備員を商船に添乗させることは目新しいことではない。例えば、インド洋で操業するポルトガルとフランスの漁船には、数年前から軍の武装警備員が添乗している。また、米海軍軍事輸送コマンド (MSC) の船(民間船社の要員によって運航)には、作戦海域にもよるが、米海軍武装警備チームが添乗する。 MSCの船舶の場合、武装警備チームは該船船長の指揮下になく、米軍の ROEに従って行動する。

(3)武力行使をエスカレートさせる措置も問題である。イタリア船の事案の詳細は不明だが、武装警備員が最初から致死性兵器を使用している。通常、武力行使のエスカレーションは最も低いレベルからスタートし、脅威が排除されるまで、徐々に圧力を強めていく。実際、武装警備員の添乗自体が海賊や船舶に対する武装強盗に対する抑止力になり得る。そうでなければ、次に取り得る措置は非致死的措置、例えば長距離音響装置 (The Long Range Acoustical Device: LRAD) など、多くの手段がある。いずれにしても、今回の事案の徹底的な調査が望まれる。

2月 16日「ソマリアの海賊、パナマ籍船をハイジャック」 (Somalia Report, February 19, 2012)

ソマリアの海賊は 16日、パナマ籍船でアラブ首長国連邦の船社所有の Ro/Ro貨物船、MV Leilaをハイジャックした。該船の最後の所在確認海域はアデン湾の東の入口であった。該船の乗組員は 24人というが、15人とする情報もある。Ro/Ro貨物船は乾舷が高いので、乗り込みが困難で、ハイジャックは極めてまれである。

2月 22日「英海軍、艦隊給油艦を韓国で建造」 (BBC News, February 22, 2012)

英国海軍は 22日、4隻の新型艦隊給油艦の建造先として、韓国の大宇造船海洋を選んだ。排水量 3万 7,000トンの Military Afloat Reach and Sustainability (MARS) 給油艦は、英海軍の洋上給油艦である。建造総額は 4億 5,200万ポンドで、その内、 1億 5,000万ポンドが英国内での関連装備の調達に当てられる。設計は英国の BMT Defence Servicesが担当する。4隻の就役は 2016年に予定されており、現有の 1970年代の給油艦を代わる。韓国を建造先に選んだことについては、英国内の一部に不満がある。

2月 23日「フィリピン沿岸警備隊・海軍、西フィリピン海で合同哨戒へ」 (Manila Bulletin, February 23, 2012)

23日付の Manila Bulletinの報道によれば、フィリピン沿岸警備隊と海軍は、西フィリピン海(南シナ海)で合同哨戒を実施する。これは、アキノ三世大統領が 2011年 9月に署名し、公布した、大統領行政命令第 57号によって新たに創設された、National Coast Watch System (NCWS) に基づく任務である。沿岸警備隊司令官によれば、沿岸警備隊は、西フィリピン海における海洋法令執行任務、特に税関、移民および検疫に関連する任務の主担当となっている。

2月 26日「米海軍、統合高速輸送船 2隻を追加建造」 (Austal News, February 27, 2012)

Austal社は 26日、米海軍が統合高速輸送艦 (Joint High Speed Vessel: JHSV) 2隻を Austal USA社で建造するオプション契約を実行した、と発表した。 Austal社は 2008年 11月、米海軍との間で最初の JHSVを建造する契約を締結したが、この契約には 2009年度から 2013年度までに更に 9隻建造するオプション契約が付随していた。今回実行されたオプション契約は、8番艦と 9番艦の建造である。1番艦、USNS Spearhead (JHSV 1) は、2009年 12月に建造が開始され、3月初めには Austal USA社による海上公試が開始される。2番艦、 USNS Choctaw County (JHSV 2) は最終建造段階にあり、3番艦は 4月 12日に起工される。 10番艦の契約は 1年以内に実行される予定である。JHSVは、長さ 100メートルのアルミ船体の双胴船で、300人以上の兵員と車両を輸送できる。最高速度は時速 40ノット以上で、航続距離は 1,500キロである。

2月 27日「デンマーク海軍戦闘艦、海賊母船を武力解放、人質 2人死亡」 (The Star, AP, February 28, 2012)

NATO艦隊所属のデンマーク海軍多目的支援艦、HDMS Absalonは 27日、ソマリア沿岸を出航しようとしていた海賊母船を停止させ、人質 18人の内、16人を解放したが、2人が死亡した。海賊 17人を拘束した。デンマーク海軍報道官によれば、同艦はこの数日間、ハイジャックされ海賊母船として使用されていた貨物船を監視しており、27日に該船が出航しようとしているところ停船させるため警告射撃を行った。該船が停止しなかったため、 HDMS Absalonは NATO艦隊指揮官の許可を得て、該船を射撃した。該船は降伏したので、拿捕した。人質の内、2人が重傷を負っており、同艦医官の手当を受けたが死亡した。人質が負傷した状況は不明で、デンマーク海軍法務官が調査中である。海軍報道官は、人質の国籍については言及を避けた。

2月 27日「中国海軍第 11次ソマリア派遣艦隊、出航」 (China Daily, February 28, 2012)

中国海軍第 11次ソマリア派遣艦隊 27日、青島を出航し、護衛任務のためにアテン湾・ソマリア海域に向かった。第 11次艦隊は、駆逐艦「青島」、フリゲート「煙台」、および総合補給艦「微山湖」から構成されている。特殊部隊要員も参加している。 2008年に中国海軍が護衛任務を開始して以来、北海艦隊の戦闘艦が護衛任務に派遣されるのは今回が初めてとなる。

2月 28日「船舶解撤現場の過酷な実態—バングラデシュ」 (gCaptain, February 28, 2012)

28日付けの米ウエブ版海運ニュース、gCaptainは、バングラデシュの船舶解撤作業現場の過酷な実態について、要旨以下のように報じている。

(1) バングラデシュにおける船舶解撤産業は、次の 2つの海難事故を以て嚆矢とされる。 1つは、1960年のサイクロンでチッタゴン近郊の海岸に打ち上げられ、船主が放棄した大型貨物船を地元の金属業者が解体してスクラップを手に入れたこと。もう 1つは、1974年にバングラデシュ独立戦争で沈んだパキスタン海軍の艦艇を引き上げ、解体したことである。以来、同国の船舶解撤産業は、徐々に発展し、 1980年代半ばまでには世界の主要船舶解撤国の 1つとなった。

(2) バングラデシュの船舶解撤産業は、年間約 15億米ドルの稼ぎがあると推定されている。世界中で年間約 700隻の外航船が解撤されるが、その内 100隻以上はバングラデシュで解撤されている。解撤船舶の一部は長さ 300メートル、1万〜1万 5,000LDT(注)にもなる。2000年〜2010年までにバングラデシュで解撤された船舶は、LDTで見れば全世界の約 30%を占める。それ以降、世界的な景気の低迷もあって船舶解撤産業はやや低迷したが、今や再び上昇に転じている。船舶解撤産業は多くの雇用を生み出しており、直接雇用人数は約 3万〜5万人、間接的には更に約 10万人が関わっていると見られる。労働者の大部分は解撤船毎に解撤業者と契約しており、労賃は職種によって異なるが、1日当たり 1〜3米ドルである。1隻当たり約 300〜500人が雇用され、更に多くの労働者が各種リサイクル金属資材の最終処分に雇用されている。リサイクル金属資材は一部が輸出され、残りはバングラデシュ国内で再利用される。国内で使用される鋼材の約 70〜80%が解撤船舶からの再利用と見られる。解撤船舶の最も高価な部品はスクリューで、しばしば 5万〜10万米ドルで取引される。スクリューやその他の高価格部品は輸出されている。チッタゴン北部の海岸には、100カ所前後の解撤作業場があり、毎年新しく作業場が建設されている。これらの作業場は政治家か実業家が所有している。(注:Light Displacement Tonne: LDT=軽荷排水トン数。船体重量と機関重量を合わせた重量で、解撤船売買価格決定の際、試算の標準となる。)

(3)バングラデシュでの船舶解撤のやり方は、現在では危険性と環境への配慮からほとんどの国で厳禁されている。ここでのやり方はビーチング・メソッドといわれるもので、解撤船舶が満潮時に最高速でビーチに突っ込み、干潮時に多くの労働者によって解体される。これは解撤船舶の船長にとっても技量を要する方法で、船を海岸に深く乗り上げれば乗り上げるほど、業者にとって儲けが出るといわれる。大型船の場合、溶接機で分解され、大きな鋼板はウインチで陸上に運ばれる。他の多くの作業は人力作業である。解撤業者は、解撤船舶を、大きさや船種にもよるが、1隻当たり 400万〜1,000万米ドル前後で買い取る。解体後のスクラップは国外および国内業者に売却される。

(4) 作業現場は極めて危険で、健康に良くない環境である。作業員はしばしば古い船舶に残るアスベスト、あるいは塗料に含まれる鉛、カドミウム、ヒ素などの有毒物資に曝される。また、ガスの吸引や爆発、火災などで命を落とすことも珍しくない。古い船舶は、有毒物資を事前に撤去しないまま、引き取られている。各船舶には、平均して 7,000〜8,000キロのアスベストや 10〜100トンの鉛が残っている。作業員は、ゴーグルなしで酸素アセチレンガス・カッターを使用するなど、適切な防護装備や衣服を纏っていない。バングラデシュのある機関の推定では、この 30年間で、約 1,000〜2,000人が死亡し、更に多くの作業員が重傷を負ったと見られる。チッタゴン地区における不具者の割合は、全国平均より高いことが統計数値に表れている。作業員の半分は 22歳以下で、その半数近くが無学である。全作業員の 20%前後が子供と見られる。負傷したり、死亡したりしても、わずかな補償しか支払われない。バングラデシュ政府は最近、船舶解撤作業現場の環境と作業員の健康基準に関して、新たな政策や既成を導入したが、それが徹底されるまでには長い時間を要しよう。船舶解撤作業現場の作業員が直面する 2つの実態は、彼らが早死にするであろうこと、そして過去 30年間、作業員の権利、健康そして安全面で全く改善がなかったことである。

2月 29日「インド海軍、新たに 2隻の国産 SSN建造」(Indian Defence, February 29, 2012)

29日付の Indian Defenceによれば、インド海軍は、新たに 2隻の国産 SSNの建造を決定した。それによれば、現在、国産 SSNの 1番艦、INS Arihantの建造がほぼ完了しており、インド政府は、新たに 2隻の同型艦の建造を決定した。INS Arihantは、2013年初めに海上公試を開始すると見られる。インド海軍は既に、ロシアから SSN、INS Chakraをリースしている。防衛専門家の中には、インド海軍が新たに 2隻の SSNを運用するに十分な能力を持っているかどうか、訝る向きもある。