海洋安全保障情報週報 2012年1月22日~1月31日

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1月 23日「インド、世界で 6番目の原潜運用国に」 (The Times of India, January 24, 2012)

インド海軍は 23日、ロシアから 10年間のリースで取得した、攻撃型原潜、INS Chakra(ロシア海軍 Akula-II級原潜、`K-152 Nerpa‘)の就役式典をロシアで行った。 INS Chakraの就役で、インドは、米国、ロシア、フランス、英国及び中国に次いで、世界で 6番目の原潜運用国になった。しかし、この排水量 8,140トンの原潜には、ロシアの SS-N-21巡航ミサイルのような、長射程核弾頭ミサイルは搭載していない。インドの水中発射核ミサイル戦力が完成するのは、国産原潜、排水量 6,000トン強の INS Arihantが 2013年に実戦配備されてからになる。同艦は、12基の K-15弾道ミサイル(射程 750キロ)か、あるいは 4基の K-4弾道ミサイル(射程 3,500キロ)を搭載することになっている。

INS Chakraは間もなく、インドに回航され、東岸のビシャカパトナムに配備される。同艦は、射程 300キロの Klub-S対地巡航ミサイルを装備し、対潜戦、対水上艦戦、更には艦隊護衛に活用されることになっているが、原潜の複雑な運用技能を習得するための訓練艦の機能を果たすことになっている。

1月 24日「米海軍特殊部隊、ソマリアから人質救出」 (The Washington Post, January 25, 2012)

米海軍特殊部隊 (SEAL) は 24日、ソマリアで人質になっていた援助団体メンバーの米国人1人とデンマーク人1人を救出した。2人は 2011年 10月に武装グループによって中部ソマリアの北部、 Galkayo近郊で拉致され、拘束されていた。救出作戦に当たったのは、 2011年 5月にアルカーイダの指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者を殺害した部隊、海軍 SEALチーム 6部隊のメンバーからなる 20人余のチームで、空軍特殊作戦部隊の航空機で拘束場所から 2マイル離れた地点に降下した。SEAL部隊は、暗夜を徒歩で拘束場所に向かい、武装グループを急襲した。2人の人質にも SEAL部隊にも負傷者はいなかったが、少なくとも 9人の武装グループが殺された。救出された 2人の人質は、ヘリでジブチの米空軍基地に運ばれた。

1月 25日「ソマリアの海賊、イラン漁船をハイジャック」 (Somalia Report, January 25, 2012)

ソマリアの海賊は 25日、プントランド自治区沖で、操業中のイラン漁船(ダウ船)、FV al-Khliilをハイジャックした。乗組員はイラン人 19人で、漁船は、プントランド自治区の操業許可書を持っていた。また、この漁船には、同自治区の 4人の武装警備員が添乗していたが、ハイジャックされた時、彼らは就寝中であった。

1月 26日「米比両国、軍事協力の強化を模索」 (The New York Times, January 26, 2012)

米比両国の外交・国防当局者が 26日に明らかにしたところによれば、両国は、合同軍事訓練やその他の軍事協力の強化を模索している。但し、軍事協力には、フィリピンにおける大規模な米軍の配備や恒久的基地施設の建設は含まれないであろう。現在、フィリピンには約 600人の米軍がいるが、その大部分は南部における対テロ作戦の訓練要員である。フィリピンにおける米軍の存在は国民感情を刺激しやすく、両国とも慎重に事を進めている。ガルベズ参謀総長代理は、「我々は、同盟国との関係強化を何時でも歓迎するが、軍事協力の強化は微妙な問題である。フィリピンにおける米軍基地などは論外である」と述べている。他方、米国防省報道官は、フィリピンとの間で、合同軍事訓練の強化とより頻繁な米海軍艦艇のフィリピン訪問について話し合っているが、フィリピンにおける米軍基地については考えていない、と述べている。かつて米軍のアジアにおけるハブ基地であった、スービック・ベイは現在、経済特区になっており、米海軍艦艇は訪問できるが、軍事拠点として使えるかどうかは不明である。ガルベズ参謀総長代理によれば、この問題は、両国の話し合いの対象となっている。米軍撤退後、スービック・ベイの行政官を務めた、ゴードン現上院議員は、最近のインタビューで、米国の軍事関与の拡大がフィリピンにとっても、米国にとっても重要になってきたとし、「我々は近くに消防士を持つことが必要である」と語っている。

【関連記事】「アジア太平洋地域に基地新設なし—ウィラード米太平洋軍司令官」 (American Forces Press Service, January 27, 2012)

米太平洋軍のウィラード司令官は 27日、ワシントンでの講演で、米国はアジア太平洋地域に基地を新設することに関心はないが、部隊のローテーション配備の機会があれば歓迎する、またフィリピンがローテーション配備を要請すれば、検討する、と語った。

記事要旨:米太平洋軍のウィラード司令官は 27日、ワシントンでの講演で、米国はアジア太平洋地域に基地を新設することに関心はないが、部隊のローテーション配備の機会があれば歓迎する、またフィリピンがローテーション配備を要請すれば、検討する、と語った。同司令官は、フィリピンでは、陸軍中心の対反乱、対テロ戦闘能力が重要だが、海洋における安全と安定維持能力も重要であり、支援できる分野は支援する、と述べた。スービック・ベイにおける恒久的基地の再建についての質問に対して、同司令官は、あり得ないとした上で、「米国は、アジア太平洋地域の何処にも基地新設を望んでいない」と強調した。一方で、同司令官は、オーストラリアとシンガポールからのローテーション部隊受入の申し出は非常に魅力的で、これによって太平洋軍は域内の潜在的紛争地点の近くにプレゼンスを維持できる、と述べた。

記事参照:Willard: U.S. Welcomes Rotations, Not Bases, in Asia-Pacific

1月 27日「オフショア・バランス論、ほぼ勝利—クリストファー・レイン論評」 (The National Interest, January 27, 2012)

オバマ米大統領は 5日、国防省で国防費削減に伴って進めてきた包括的な国防戦略見直しの結果を纏めた報告書、 Sustaining U.S. Global Leadership: Priorities For 21st Century Defense を発表した(備考 1参照)。この報告書に対しては多くの論評が見られるが、ここでは、オフショア・バランス論を主張する、テキサス A&M大学のクリストファー・レイン教授の論評を紹介する。同教授は、 27日付の米誌、The National Interestに、“The (Almost) Triumph of Offshore Balancing”と題する論説を寄稿している。レインは、オバマ政権の新国防戦略指針 (new Defense Strategic Guidance: DSG) が戦後 60年間続いた「パックス・アメリカーナの終焉」(the end of the Pax Americana) に備えた米国の最初の対応であるとして、要旨以下のように論じている。

(1) DSGも認めているように、米国は、「曲がり角」に立っている。要するに、国際政治において重大なパワーシフトが生じつつあり、このことが米国にその世界的役割についての再考を強いているのである。オバマ政権の DSGは、2つのドライバーに対する対応である。第 1に、米国は、経済的に衰退しつつあり、 2010年代末には深刻な財政危機に直面するであろう。オバマ大統領が述べているように、DSGは、「米国の財政を立て直し、長期的な経済力を回復させる」必要性を反映したものである。米国の衰退を示す最良の指標は GDPで、ほぼ全ての有力な経済予測専門家は、市場為替レートで見れば、中国の GDPは 2010年代末までに米国のそれを凌駕するであろうと推測している。また、一部の有力エコノミストは、購買力平価で評価すれば、中国は既に世界一の経済大国になっていると見ている。中国が米国を経済的に追い越そうとしているのは明らかである。

(2) 第 2のドライバーは、世界の富とパワーが欧米からアジアに移りつつあることである。中国やインドのような新たな大国の出現に加えて、ロシア、日本、トルコ、韓国、南アフリカ及びブラジルなどの、重要な地域大国が国際政治でより大きな役割を担うようになるであろう。かくして、米国が「現存する唯一の超大国」 (the “sole remaining superpower”)として世界に君臨した、ポスト冷戦の「1極時代」(the post-Cold War “unipolar moment”) は、多極的な国際システムに取って代わられることになろう。英誌、 The Economistは最近、中国の国防支出が 2025年までに米国のそれと等しくなる、と予測している。2010年代半ばあるいは末までに、中国は、自分の好む規範に基づく新たな国際秩序を形成し、そして恐らく新たな準備通貨を国際経済に持ち込む国になりかねない。

(3) DSGにない 2つの用語は、“decline” と “imperial overstretch” である。オバマ大統領もパネッタ国防長官も認めたがらないかもしれないが、DSGは、今後 20年にわたって予想される米国の劇的な戦略的縮小 (a dramatic strategic retrenchment) の最初の動きであると言えよう。この縮小によって、米国の新しい大戦略—オフショア・バランス論 (offshore balancing) が前面に出てくることになる。筆者は、 1997年に米誌、International Securityに寄稿した論考で、新たな大国の出現と米国の経済的優位の低下という状況下で、米国が首座 (primacy)を維持するのは難しくなっていくことから、首座を維持する米国の戦略はオフショア・バランス戦略に代わって行くであろう、と主張した(この論文については備考 2参照)。1997年当時でさえ、米国の優位性が侵食されるにつれ、米国が、経済基盤の縮小に見合ったコミットメントに縮小すべきだとの、強い圧力に晒されるであろうことは十分予見できた。このためには、米軍の海外プレゼンスの縮小、明確な戦略的優先課題の設定、欧州と東アジアにおける安全保障維持の主たる責任を地域諸国に委譲すること、そして米軍の大幅な規模縮小が必要になろう。この論考を発表して以降、オフショア・バランス論は、John Mearsheimer、Stephen Walt、Barry Posen、Christopher Preble及び Robert Papeなどの米国の他の有力な専門家にも受け入れられるようになった。

(4) オフショア・バランス論の提唱者はその詳細においてそれぞれ考えを異にしているが、オフショア・バランス論は以下のような中核となる一連の共通の戦略的基本原則に基づいている、という点では全員の意見が一致している。

a.財政的、経済的制約は、米国に戦略的優先課題の設定を求めている。従って、米国は、欧州と中東の米軍を撤退させるか、縮小し、一方で米国の軍事力を東アジアに集中させるべきである。

b.米国の相対的な戦略的優位は、ユーラシア大陸における地上戦闘に地上軍を投入することではなく、海軍力と空軍力にかかっている。従って、米国は、地上軍の優位を唱えた、マッキンダー (Sir Halford Mackinder) ではなく、空軍力と海軍力の優位を唱えた、マハン (Alfred Thayer Mahan) の戦略的教えに従うべきである。

c.オフショア・バランス論は、負担の分担ではなく、負担を移譲する戦略である。この戦略は、米国が少ない負担で済むように、他の諸国に自らの安全保障の負担をより多く担ってもらうことを基本としている。

d.中東における米国の地政学的、軍事的プレゼンスを削減することによって、米国は、イスラム原理主義勢力による対米テロを減らすことができる。イスラムのテロは中東における米国の優位と政策を押しのけようとするのが狙いであり、この地域に配備された米軍を目標としている。この地域における米国の唯一の死活的に重要な利益、即ち、ペルシャ湾岸地域の石油の自由な流れを維持することは、海軍力と空軍力によってほぼ達成できる。

e.米国は今後、イラクやアフガニスタンで行なったような大規模な国家建設から手を引き、そして体制変換を実現するための戦争を回避していかなければならない。

(5) DSGは、オフショア・バランス論が、アカデミックの世界から、ワシントンの実際に政策が立案される現実の世界に飛び出してきたことを反映している。この数年、米海軍、統参本部そして国家情報会議は、米国の優位戦略に代わる選択肢として、オフショア・バランス論に関心を示してきた。2011年 2月、当時のゲーツ国防長官は、陸軍士官学校で講演し、マッキンダーよりマハンの方が戦略的に好ましいとして、以下の 2点を挙げた。第 1に、米軍にとって最も蓋然性の高いシナリオは、アジアであろうが、ペルシャ湾であろうが、あるいは世界の何処であろうが、海軍力と空軍力による介入が主体になる。第 2に、リビアへの介入を巡る論議を見れば、将来の国防長官がアジアや中東やアフリカに再び大規模な米地上軍を派遣することを大統領に進言するようなことがあれば、彼の頭の中身を疑ってみるべきだ。要するに、ゲーツの主張を平たく言えば、もはやユーラシア大陸では地上戦闘を戦わないと言うことである。DSGには依然、経済的制約が益々米国の戦略態勢を脅かすことになろうとの認識と、米国のグローバルな利益と軍事的役割を縮小することなく維持すべきであるとの主張との、容易ならざる緊張関係が見て取れる。

(6) 外交政策関係者の中には、米国の衰退という現実を素直に受け入れたくない者もいる。しかし、米国も大国の衰亡という歴史のパターンから逃れることはできない。米国は、中国が世界一の経済大国となり、その国防費が他のどの国よりも大きくなると推測される、 2025年の世界に適応していく必要がある。効果的な戦略的縮小は、単に国防費を削減すること以上に、米国の利益と対外的野心を見直すことをも意味する。覇権国の衰退は常に痛みを伴う。2010年代が始まり、歴史の前例と多極化世界が蘇りつつある。今後 20年間における米国の最大の戦略的関心事は、自らの衰退と中国の台頭ということになろう。

備考1:Sustaining U.S. Global Leadership: Priorities For 21st Century Defense

備考 2:Christopher Layne, “From Preponderance to Offshore Balancing: America’s Future Grand Strategy,” International Security, Vol. 22, No. 1, Summer, 1997, pp.86-124.

また、同じ筆者の以下も参照;
“Less is more: Minimal Realism in East Asia,” The National Interest, March 1, 1996.

1月 30日「フィリピン、自国籍船に武装警備員の添乗認可」 (Daily Inquirer, January 31, 2012)

フィリピン外務省は 30日、アデン湾とインド洋におけるソマリアの海賊から自国船員を護るため、同海域を航行する自国籍船に武装警備員の添乗を認可した。添乗に当たっては、フィリピン海運業界に対して海事産業局 (The Maritime Industry Authority) と IMOによるガイドラインを厳格に遵守するよう求めている。現在、フィリピン人船員は、ハイジャックされた 3隻の外国籍船に 26人が人質となっている。2006年から 2011年までの間、769人のフィリピン人船員がソマリアの海賊の人質となった。

1月 30日「日産自動車、国内輸送用自動車運搬船公開」 (Nissan Motor HP, January 30, 2012)

日産自動車の HPによれば、同社は 30日、新たに導入する完成車や部品の海上輸送用の省エネ型自動車運搬船「日王丸」をマスコミに公開した。この船は、新来島どっくで建造された船で、内航船舶では初めてとなる太陽光発電パネル、電子制御ディーゼル船舶エンジン、全艙内及び居住区の LED照明、及び最新の低摩擦抵抗塗料や省エネ装置が採用されている。これにより、従来の同型船と比較すると、年間最大約 1,400トンの燃料節減に相当する、約 4,200トンの CO2排出量の削減を達成できるという。この船は、日産車の国内海上輸送の主力会社である日藤海運によって運航される。