海洋安全保障情報週報 2012年1月15日~1月21日

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1月 16日「ジャカルタ・タンジュンプリオク港、 ITシステム装備へ」 (The Jakarta Post, January 17, 2012)

インドネシア国営ポートオペレーター、Pelindo IIの幹部は 16日、同国の主要港湾である、北部ジャカルタのタンジュンプリオク港に、 2012年半ばまでに、船舶航行をオンラインでモニターするための ITシステムを装備する、ことを明らかにした。同幹部は、このシステムによって、船舶航行の混雑を緩和し、衝突の危険性を軽減でき、タンジュンプリオク港における港湾業務をより効率化することができる、と語っている。 Pelindo IIは、ITシステムに 1,050億ルピア( 1,155万米ドル)の費用を計上している。同港は、 2011年末までに、コンテナ取扱量が 547万 TEUとなり、同港の最大処理能力、500万 TEUを超えた。 Pelindo IIによれば、2013年までに、パレンバン(スマトラ島)、ポンティアナ(カリマンタン島)及びジャンビ(スマトラ島)にも船舶航行情報システムを設置することになっている。

1月 17日「ロシア、 2012年 12月にインドへ空母引き渡し」 (The Hindu, January 18, 2012)

ロシアの Sevmash造船所のノボシオロフ副 CEOが 17日に明らかにしたところによれば、ロシアで改修中の空母、Admiral Gorshkovのインドへの引き渡しは 2012年 12月 4日になるという。空母は現在、停泊した状態での試験中で、5月末から海上公試が実施されることになっている。2004年に結ばれた契約では、2008年にインドに引き渡されることになっていた。両国は、当初の契約額、 9億 7,400万米ドルから、23億 3,300万米ドルで最終的に合意している。この価格には、インド海軍が国内の造船所で補修するために必要なブループリントの完全なセットの代金、8,500万米ドルが含まれている。この空母は、インド海軍では INS Vikramadityaと命名され、30年間就役することになっている。この空母はほぼ 90%リニューアルされ、当初垂直離着陸機用のみのであったが、全通滑走路とスキージャンプが併設され、新しいエンジン、ディーゼル・ボイラー、発電機、電子機器、通信システム及び海水蒸留プラントが取り付けられた。空母は、短距離離着陸戦闘機、 MiG-29K Fulcrumと Kamov対潜ヘリを搭載する。空母、 INS Vikramadityaの就役によって、インドは、米国、ロシア及び英国に次いで、排水量 4万トンを超える空母を運用する、世界で 4番目の国となる。また、ロシアがインド海軍用に建造中の 3隻の Talwar級ステルスフリゲートの 1番艦、INS Tegは 17日、引き渡しのための最終海上公試をバルト海で実施するために、カリーニングラードの Yantar造船所を出航した。インド海軍は、4月に同艦を受領することになっているが、同艦も当初計画から 2年遅れた。

1月 17日「米中ニュー・グレートゲームにおける ASEANの役割—シンガポールの専門家の論説」( RSIS, Commentary, No. 014/2012, January 17, 2012)

シンガポールのシンクタンク、The S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS), Nanyang Technological Universityの上級フェロー、Yang Razali Kassimは 17日付けの RSIS Commentaryに、“The new Great Game: ASEAN’s Balancing Act?” と題する論説を寄稿している。筆者は、東アジアにおいて顕在化しつつある、米中間のニュー・グレートゲームにおける ASEANの役割について、要旨以下のように論じている。

(1) オールド・グレートゲームにおける主役は米国とソ連であった。ニュー・グレートゲームにおける主役は、一方が既成の大国、米国であり、他方が台頭する大国、中国である。2つのグレートゲームにおける相違点は、ASEANが、米中 2つの大国の間にあって、ヘッジ戦略をとったり、またバランス戦略をとったりする、重要な緩衝勢力 (a significant facilitator – hedging and balancing between the two powers) として、その存在感を増していることである。東アジアサミット(2011年 11月、バリ島)を通じて表明された米国のアジア回帰は、東アジアにおける中心的プレイヤーとしての ASEANの重要性を高めた。実際、東アジアサミットの創設は、域内の戦略構造の形成者、建設者としての ASEANの役割を誇示する成果である。そうすることで、 ASEANは、個々の国が発揮できる範囲を遙かに超えた影響力を持つようになってきた。

(2) しかし、これは、リスクを伴うデリケートなゲームである。ヘッジ戦略とバランス戦略における最大のリスクは、バランスを失って、象が芝生を踏みつけるように、足元を踏みつけられることである。 ASEANのヘッジ戦略に中国がどう対応するかは、米国のアジア回帰というより大きな文脈の中で、北京が ASEANをどう位置付けるかによる。 ASEANを、中国を封じ込めるための米国の長い手と見るか。 ASEANは、台頭する中国によってどのように見られているかに、極めて敏感である。 ASEANは、米国の側に立った中国の対抗勢力として取り込まれることを望んでいない。

(3) 将来の ASEANが直面する中国は、どのような中国か。シンガポール国立大学の Tommy Koh教授は、中国の歴代王朝の例を挙げ、明王朝か、唐王朝か、清王朝かと問い、唐王朝は寛容な王朝であったが、対照的に明王朝は帝国主義的王朝であり、また清王朝は明王朝とあまり変わらないであろう、と述べている。 Koh教授は、2011年 12月の RSIS共催の会議で、歴史的先例に言及した上で、今日、東南アジアには、中国についてある種の潜在的不安感がある、と指摘している。中国は、明王朝のように、域内の他の国を従属させようとすると思われる大国になるであろうか。我々は、明王朝とは異なり、他国を尊重する開かれた唐王朝のような中国を望んでいる。我々は、将来の中国が唐王朝のような中国ではなく、明王朝か、清王朝のような中国になる場合に備えて、ヘッジ戦略を必要としている。我々の期待は、寛容な中国である。Koh教授は、ASEANが中国を脅威としてよりはより寛容な国と見ているのと同じように、中国も、米国のアジア回帰を中国封じ込めの試みと見るべきではない、と述べている。 ASEANの基本的な望みは、米中両国と友好国になることであり、敵対国になることではない。これは、ヘッジ戦略とバランス戦略におけるエッセンスである。しかしながら、 ASEANが積み木細工のようにして構築しつつある地域的戦略構造は依然、脆弱である。

1月 18日「武装警備員乗船船舶、領海内航行禁止 —イエメン」(Shiptalk, January 18, 2011)

18日付け Shiptalkによれば、イエメンはこのほど、 2011年 12月の Marine Affairs memo No. wnl27/1617/2011に基づき、外国の武装警備員を乗船させた船舶のイエメン国内港湾への入港を禁止した。多くの船舶が外国の武装警備員、武器及び弾薬を載せたままイエメン国内の港湾に入港する事例が増えてきたことから、これを国内法違反と見なすことになった。船舶検査官は違反を取り締まり、違反を見つけた場合は必要な法的手続きをとるよう指示されている。

1月 19日「ソマリアの海賊、ハイジャック船を母船に利用」 (gCaptain, January 19, 2012)

米海軍情報部 (ONI) が 19日に発した警報によれば、ソマリアの海賊が 2011年 12月 27日にオマーン沿岸沖でハイジャックした、イタリア籍船のケミカルタンカー、 MT Enrico Ievoli (16,631DWT) は、ソマリア沿岸を離れ、恐らく母船として利用するためにアデン湾に向かっている。該船の乗組員は、イタリア人 6人、ウクライナ人 5人及びインド人 7人の計 18人である。ONIは、該船には、武器と襲撃用の小型高速ボートが積載されていると見ている。

【関連記事】「ドイツ海軍戦闘艦、インド籍ダウ船解放」 (EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, January 20, 2012)

EU艦隊所属のドイツ海軍フリゲート、FGS Luebeckは 19日、3日間にわたる威圧行動の末、海賊の母船となっていたインド籍ダウ船を解放し、インド人乗組員 15人を解放した。 EU艦隊の発表によれば、ソコトラ島北東海域で 17日早朝、オランダ籍船、MV Flintstoneが母船から発進した小型高速ボートに乗った海賊に襲撃された。該船に添乗していた、オランダ軍船舶護衛分遣隊 (The Vessel Protection Detachment: VPD)が銃撃戦の末、撃退し、ボートは負傷した海賊容疑者を乗せて母船(インド籍ダウ船)に逃げ帰った。その後、同じ 17日に、FGS Luebeckはこのインド籍ダウ船と見られるダウ船を発見し、無線で呼びかけた。ダウ船は応答せず、同艦は、ダウ船の船首前方に警告射撃をするとともに、艦載ヘリが小型ボートを上甲板に積載していたダウ船を上空から監視した。この間、特にダウ船の海賊容疑者がインド人乗組員を殺害する、またダウ船に乗り込んで来る者に発砲すると脅迫したために、FGS Luebeckは、人質の安全を最優先に行動した。 2日後の 19日夜、FGS Luebeckは、18人の乗組員が人質となっているイタリア籍船タンカー、MV Enrico Ievoliがダウ船に接近し、会同するのを見た。会同後、海賊容疑者は再び、負傷した彼らがタンカーに乗り移るのを阻止するために軍事行動をとれば、MV Enrico Ievoliの 18人を含む、全ての人質に危害を加えると脅迫してきた。FGS Luebeckは、上空から監視し、彼らが乗り移った後、臨検チームがダウ船に乗り込み、 15人のインド人乗組員を保護した。全員無事であった。MV Enrico Ievoliは、負傷した海賊容疑者を乗せて、ソマリア沿岸に向かった。

備考:オランダの 17日付け Expatica.comが伝える同日付オランダ国防省の声明によれば、小型高速ボートで MV Flintstoneを襲撃した海賊容疑者は 6人で、VPDのオランダ軍海兵隊チームは、最初警告射撃をしたが、彼らがロケット推進擲弾筒で該船を攻撃した後、ボートを銃撃した。負傷者が出た可能性は排除できないという。ボートは大型の漁船に逃げ戻った。オランダ国防省によれば、海兵隊チームの VPDは、船主側の要請があれば、添乗する。2011年は 11隻の船舶に重武装の VPDチームが添乗した。

1月 21日「米国防長官、 11隻空母態勢維持を明言」 (CBS News, January 21, 2012)

パネッタ米国防長官は 21日、ペルシャ湾に向け航行中の現役最古の空母、USS Enterprise艦上で、1,700人の将兵を前に演説し、米国は国防予算の削減圧力の中でも 11隻の空母態勢を維持することを確約する、と言明した。国防予算の削減圧力の中で、国防省は空母隻数の削減を余儀なくされ、恐らく 10隻態勢になる、と憶測されていた。しかし、議会は、現有空母態勢の維持を強く支持し、国防省に 11隻態勢の維持を求める法案を通過させた。パネッタ長官は演説後、同行記者団に対して、「空母は、そのプレゼンスとパワー故に、太平洋と中東における戦力投影能力を維持するための不可欠の戦力である。11隻態勢の維持は、大統領も望んでいる長期のコミットメントである」と語った。

USS Enterpriseは、50年前に建造された米海軍最初の原子力空母で、今回の任務は 22回目、そして最後の出動となる。その後、退役することになっている。後継は USS Gerald R. Fordで、同艦は、技術的に全く新しい空母である。USS Enterpriseの退役から同艦の就役まで、33カ月間のギャップが生じるが、議会は、この間、 10隻態勢になることを海軍に容認している。