海洋安全保障情報週報 2012年2月1日〜2月7日、2012年2月8日〜2月14日合併号
Contents
2月 2日「セイシェル、インドとの海賊対処協力強化」 (Neptune Maritime Security, Febuary 2, 2012)
インドのシン首相は 2日、訪印中のミッチェル・セイシェル大統領と会談した。両首脳は、安全保障問題、海賊対処、および両国間の開発協力の拡大について話し合った。セイシェルは、インドが依然として同国の主たる開発パートナーであり、また両国間の海賊対処協力を強化していくことを、インドに確約した。両国間の防衛協力は強化されてきており、インド海軍は 2011年、海洋哨戒機1機をインド洋海域における海賊対処のために同国の首都ビクトリアに派遣している。
2月 3日「ロシア、 SSBNの定期展開を再開」 (UPI, February 4, 2012)
ロシア海軍は、戦略核原潜 (SSBN) の定期的展開を 6月から再開する。ロシア海軍のヴィソツキィ総司令官は 3日、「6月 1日かその数日後、我々は、SSBNによる世界の海洋への定期的な展開を再開する」と語った。ロシア海軍による SSBNの年間の定期的展開日数は、1984年の 230日以上から現在では 10日間以下に激減している。ロシア海軍は、 8隻の新型 Borey級 SSBNが建造される 2020年までに、現有 12隻の SSBNを廃棄する計画を中止した。
2月 6日「比海軍戦闘艦、初の哨戒任務完了」 (Inquirer.net, February 7, 2012)
フィリピン海軍が米国から取得した最新の戦闘艦、BRP Gregorio del Pilarはこのほど、西フィリピン海(南シナ海)での初めての哨戒任務を完了した。海軍西部コマンド司令官が 6日に記者会見で明らかにしたところによれば、同艦は、 12日間にわたる西フィリピン海での主権誇示任務を完了した。同司令官によれば、同艦の哨戒海域には、フィリピンが唯一操業している Camago-Malampayaガス田(パラワン島北部西方沖)、そしてマレーシア・サバ州と海洋境界を接するバラバク海峡周辺海域が含まれていた。しかし、中国やその他の国が領有権を主張する島嶼には近寄らなかったという。また、同司令官によれば、 BRP Gregorio del Pilarは今後、ミサイルシステムを装備することで、自艦防衛能力を強化することになっている。
【関連記事】「米、フィリピンに 2隻目の巡視船を供与」 (Defense News, February. 7, 2012)
米国は近く、2隻目の沿岸警備隊巡視船をフィリピンに供与する。米下院外交委員会のロイス小委員長(共和党)は 7日の公聴会で、フィリピンへ 2隻目の Hamilton級巡視船、 Dallasの引渡しに関する議会の審査手続きが間もなく完了する、と発表した。ロイス小委員長は、「Dallasは間もなく、マニラに向けて出航する。米国とフィリピンは、世界の経済にとって死活的に重要な南シナ海における平和と安定を望んでいる」と強調した。米国は 2011年に、沿岸警備隊巡視船、Hamiltonをフィリピンに供与している。
2月 6日「インドネシア海軍潜水艦、韓国でのオーバーホール完了」 (The Jakarta Post, February 6, 2012)
インドネシア海軍潜水艦、KRI Nanggala 401は 6日、韓国釜山の大宇造船海洋 (DSME) での 2年間にわたるオーバーホールを終え、インドネシアに回航された。同艦は、 1981年にドイツの HDWで建造された Type 209/1300型潜水艦で、2006年の KRI Cakra 401に次いで、 DSMEでオーバーホールされた 2隻目の潜水艦となった。ソエパルノ海軍司令官は、スラバヤの東部艦隊コマンドで行われた式典で、「オーバーホールの完了で、インドネシア海軍潜水艦の能力は、近隣諸国が配備している潜水艦に並ぶ水準になった」と語った。同艦は、オーバーホールで、艦首から艦尾までの上部構造の刷新、推進システムの改造、ソナー、レーダー、兵装システムおよび戦闘管理システム (CMS) の更新を行った。同艦は、最大潜航深度 257メートルまで潜航でき、最高速度も 21.5ノットから 25ノットに強化された。同艦は、最新の CMSによって、4個の異なった目標に 4基の有線誘導魚雷を同時に発射できる。インドネシアは、 DSMEとの間で、新たに 3隻の潜水艦を総額約 11億米ドルで購入することになっている。この契約では、最初の 2隻が DSMEで建造されるが、3隻目は技術移転によってスラバヤの PT PAL造船所で建造されることになっている。
2月 7日「タンザニア、南アフリカ、モザンビーク、海洋安全保障協力覚書に調印」 (All Africa, February 8, 2012)
タンザニア、南アフリカおよびモザンビークは 7日、タンザニアのダルエスサラームにおいて、海賊、薬物密輸およびその他の海洋犯罪対処のための協力強化を目的とした、海洋安全保障協力覚書に調印した。タンザニアのキクウェテ大統領は、海賊の活動が同国の貿易、経済に深刻な影響を及ぼしているとして、この覚書はインド洋における 3国の海賊対処における協同を促進する、と述べた。この覚書には、3国の海軍による情報交換、合同監視活動、合同演習および共同作戦を含む、海洋安全保障のあらゆる次元における協力が規定されている。
2月 7日「ソマリアの海賊、ギリシャ船をハイジャック」 (gCaptain, February 9, 2012)
リベリア籍船でギリシャの船社所有のばら積船、MV Free Goddess (22,051DWT) は 7日、ソコトラ島北東 520カイリの海域で、重武装のソマリアの海賊にハイジャックされた。該船の乗組員はフィリピン人 21人で、1万 9,475トンの鋼線を積載しエジプトからシンガポールに向け航行中であった。
2月 7日「ソマリアの海賊、イラン漁船解放」 (Somalia Report, February 7, 2012)
ソマリアの海賊は 7日、イラン漁船(ダウ船)、FV al-Khaliilと 19人のイラン人乗組組員と共に、身代金なしで解放した。該船は、 1月 25日にプントランド自治区沖でハイジャックされた。該船にはプントランド自治区の警備チームが乗っていたが、就寝中であった。海賊は、警備チームを下船させ、過去 9日間、海賊の母船として使用されていた。
2月 7日「米海軍戦闘艦艇隻数、今後 5年間据え置き—海軍作戦部長」 (AOL Defense, February 7, 2012)
グリナート米海軍作戦部長は 7日、両用強襲艦、 USS Wasp艦上で将兵を前に講話し、今後 5年間は米海軍戦闘艦艇の隻数が据え置かれることになるとして、要旨以下のように述べた。
(1) 2017年における米海軍の戦闘艦艇隻数は現有隻数とほぼ同じ 285隻となるが、これは我々が望むレベルではない。海軍は数年来、戦闘実動艦隊として少なくとも 313隻の艦艇隻数を計画し、この隻数を達成すべく沿岸戦闘艦( LCS)を急速に調達するとともに、 Arleigh Burke級駆逐艦と Virginia級攻撃型原潜を継続的に建造してきた。しかし、2013年度の国防予算査定で、パネッタ国防長官は、海軍は 7隻の Ticonderoga級巡洋艦と 2隻の両用艦船を計画より早期に退役させ、2隻の LCSと 8隻の統合高速輸送艦の建造を 5年間国防予算計画から削除するとともに、その他の艦艇の建造着手を遅らせる、と指示した。
(2) このような指示を受けて、現有の 285隻艦隊態勢を如何にして維持するのかとの記者団の質問に対して、グリナート作戦部長は、艦艇の早期退役が明らかに減勢につながることを認めたが、今後の建造計画から削除された艦艇については、直ちに現態勢の減勢とはならない、と強調した。艦艇の建造計画によって多くの艦艇が建造されるが、これらは時間を掛けて配備されるものであり、従って、艦隊態勢は 2017年においても現在の隻数とほぼ同じになる、とグリナート作戦部長は述べた。しかしながら、国防長官指示より前に発表されていた海軍の最新の 30年間建造計画では、2017年までに戦闘艦艇の隻数は 301隻となるとされていた。
(3) グリナート作戦部長は、ノース・カロライナ州沖で行われた両用戦演習、 Bold Alligator視察の合間に USS Waspを訪れた。グリナート作戦部長は、両用戦艦隊として最小限の要求とされている 33隻を下回る削減となった場合、海軍と海兵隊は両用戦能力が改めて重視される状況に如何に対応するのか、と記者団から問われた。同部長は、アモス海兵隊司令官と共に、「海兵隊の兵力展開に革新的な方法を模索している」として、 LCS、新しい機動揚陸プラットフォーム、およびその他の艦艇の活用に言及した。海兵隊は、小規模なミッションのための小規模部隊を支援する、 LCSミッション・パッケージを要求してきたが、海軍は、開発中に度々延期されてきた対機雷戦、対潜戦および水上戦用 LCSミッション・パッケージの現有計画に優先させることについては消極的であった。
2月 8日「ソマリアの海賊による世界経済へのインパクト— 2011年は 70億米ドル弱に」 (Oceans Beyond Piracy, February 8, 2012)
米国コロラド州の The One Earth Future Foundationによるプロジェクト、Oceans Beyond Piracyは 8日、報告書、 The Economic Cost of Somali Piracy 2011を公表した。それによると、ソマリアの海賊が世界経済に与えるインパクトの 80%が海運業界の負担になっており、残りの 20%が各国政府の海賊対処費用となっている。報告書の見積もりでは、その総額は 66億〜69億米ドルに達すると見られる。報告書は、以下の 9つのコスト要因を見積もっている。
(1) Increased speeds: 27億 1,000万ドル
多くの船舶は、海賊多発海域を航行する時増速する。 18ノットあるいはそれ以上の速度で航行する船舶は、これまでハイジャックされていない。しかし、増速は燃料消費を高め、特にコンテナ船にとって経費負担が大きい。
(2) Military Operation: 12億 7,000万ドル
2011年には、30カ国以上の国が海軍艦艇や哨戒機、その他を派遣した。この費用は、 EU艦隊、NATO艦隊、CTF-151および個別に活動する各国の運用経費の推計である。
(3) Security: 10億 6,000万〜11億 6,000万ドル
2011年には民間武装警備員の雇用が急速に増大し、航行船舶の 25%が民間武装警備員を雇用したと見ている。船主が支払った雇用経費は約 5億 3,000万ドルと見られる。また、船主は船舶の海賊防護対策装備にも投資しており、このための 2011年の経費は 5億 3,400 万〜6億 2,900万ドルになる。
(4) Re-routing: 4億 8,600万ドル〜6億 8,000万ドル
航行船舶は、海賊の襲撃を避けるために、インド西岸沿いや海賊多発海域の東側に迂回した。報告書は、迂回航路による追加経費を見積もった。
(5) Insurance: 6億 3,500万ドル
戦争リスクと拉致・身代金が追加保険の主要項目である。 2111年には、戦争リスク海域がインド洋の相当部分に拡大された。一方で、民間武装警備員の雇用によって、多くの船舶が追加保険料を減額された。
(6) Labor: 1億 9,500万ドル
一部の船員は、海賊多発海域の航行あるいは海賊に人質となった場合に備えて、給与保証が倍増された。
(7) Ransoms: 1億 6,000万ドル
2011年には、31隻の解放に当たって、身代金が支払われた。平均金額は 500万ドルで、 2010年の 400万ドルより増大した。2011年はハイジャック成功率が低下したが、海賊は減少したハイジャック船の解放によって収入増を図るため、身代金そのものは増額となった。
(8) Counter-piracy organizations: 2,130万ドル
2,011年には、11以上の組織が海賊対処活動を行った。
(9) Prosecutions and imprisonment: 1,640万ドル
近数年間で、20カ国が海賊容疑者を逮捕、拘束あるいは起訴した。この経費は、各国での裁判、収監費用の見積もりである。
2月 8日「関水 IMO事務局長、マニラ訪問」 (The Maritime Executive, February 9, 2012)
国際海事機関 (IMO)の関水事務局長は、1月 1日の就任以来、初めての加盟国公式訪問として、7日から 8日までマニラを訪問した。関水事務局長は滞在中、アキノ大統領、外務省、運輸通信省及び労働雇用省の各大臣と会談し、世界の海運業界に優秀な船員を送り出すためのフィリピン政府による継続的な努力に感謝の意を表明した。関水事務局長はまた、IMOが STCW条約(「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」< The International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers>)に基づく船員免許、教育および訓練を含む、フィリピンの海事分野における発展を全面的に支援していくことを約束した。このことは、フィリピン人船員がフィリピンと同国の海事産業において主たる役割を果たしていることを認識し、関水事務局長が船員関係問題を自らの優先的課題としていることを明確にしたと見られる。
2月 10日「インドネシア群島水域、マ・シ海峡の代替ルートたり得るか」 (RSIS Commentaries, No. 024, February 10, 2012)
マレーシアの大学講師、Dr. Mohd Hazmi bin Mohd Rusliは、10日付の RSIS Commentariesに、Maritime Highways of Southeast Asia: Alternative Straits?と題する論考を寄稿し、マラッカ・シンガポール海峡の通航量が増大し、代替ルートが模索される状況下で、インドネシア群島水域が代替ルートとして有効かどうかについて、要旨以下のように述べている。
(1) マラッカ・シンガポール海峡の通航量が今後 10年間で増大か予想され、その過密化が懸念されるようになった。インドネシア群島水域には、特に 3つの海峡—スンダ海峡、ロンボク・マカッサル海峡、そして東チモール北方のオンバイ・ウェタル海峡があるが(下図参照)、これらは代替ルートとなり得るか。これらのルートはインドネシアによって群島航路帯に指定されており、全ての船舶が群島航路帯通航権を有する(国連海洋法条約第 53条)。
(2)スンダ海峡:スンダ海峡は、喜望峰経由で東アジアに向かう船舶、そしてオーストラリアから東南アジア、東アジアに向かう船舶の重要なルートとなっている。この海峡は入口の水深は深いが、東に向かって浅くなり、また海底地形も複雑である。しかしマ・シ海峡の最狭部が約 1.3カイリなのに対して、スンダ海峡の最狭部は約 13カイリある。一方、スンダ海峡は、強い潮流、砂州、活火山、更にはスコールによる視界不良などの航行に当たっての障害が多く、加えて多くの石油掘削リグや小さな島嶼が多く、安全航行の妨げとなっている。年間約 2,280隻の船舶がスンダ海峡を通航しており、通航貨物約 1億トン、価格にして約 50億米ドル相当になる。スマトラ島とジャワ島を結ぶ架橋計画が検討されており、ある建設会社の調査では、長さ 29キロの橋を建設するのに約 108億米ドル相当の費用を要するという。もし橋が建設されるようになれば、既に多くの船舶航行上の障害が存在するスンダ海峡の海上交通に、直接、間接に影響を及ぼすことになろう。
(2) ロンボク・マカッサル海峡:ロンボク海峡はマ・シ海峡より広くて(最狭部 11.5カイリ)、水深が 150メートルも深い。従って、10万 DWTを超える大型船舶の通峡が可能で、また 23万 DWTを超える VLCCは水深が深いこの海峡を通峡しなければならない。ロンボク海峡は、インド洋とマカッサル海峡(長さ約 400カイリ)を結び、スラウェッシ海を経て東アジアに至る。この海峡を通峡する東西航行量は多くないが、オーストラリアの南北海運ルートとして重要である。年間 420隻の船舶がロンボク・マカッサル海峡を通航しており、通航貨物約 3,600万トン、価格にして約 400億米ドル相当になる。この海峡は広くて深く、また重大な航行障害もなく比較的安全だが、航行ルートとしてはマ・シ海峡ほどの利便性がない。ペルシャ湾のラスタヌーラから横浜まではマ・シ海峡経由で約 6,600カイリだが、このルートは、更に 7,500カイリ長くなる。追加運航コストは年間、 840億米ドルから 2,500億米ドルになる。その結果、スンダ海峡もロンボク・マカッサル海峡も、国際海運ルートとしては、マ・シ海峡とは比較にならない。
(3) オンバイ・ウェタル海峡:この海峡は、オーストラリアとジャワ海を結ぶローカル・ルートである。この海峡は、東西航行には距離が長過ぎて、マ・シ海峡の代替ルートにはなり得ない。しかし一方で、この海峡は水深が極めて深いことから、潜水艦にとって探知されることなく太平洋とインド洋にアクセスできるルートとなっている。従って、米国の安全保障上の利益から重要な海峡である。
(4)インドネシア群島水域を通峡するルートは地理的には不便で、国際航路としては重要だが、マ・シ海峡の代替ルートというよりは、補完的な位置づけ以上ではない。それでも、インドネシア群島水域の安全航行が阻害されるようなことになれば、世界経済、特にアジア太平洋地域の経済に大きな影響が及ぶことになろう。
関連記事