海洋安全保障情報週報 2012年3月8日〜3月14日

Contents

3月 8日「米海軍、藻類ブレンド燃料による実働艦の航行テストに成功」 (The Naval Sea Systems Command, U.S. Navy, March 8, and UPI, March 14, 2012)

米海軍の The Naval Sea Systems Commandが 8日に明らかにしたところによれば、誘導ミサイルフリゲート、USS Ford (FFG 54) は 2日、母港のワシントン州エバレットからサンディエゴまで、藻類と海軍艦艇の標準石油燃料 F-76とを 50対 50でブレンドした燃料 2万 5,000ガロンを同艦のガスタービン・エンジンに使用して、航行テストを行った。藻類ブレンド燃料による USS Ford(基準排水量 4,100トン)の航行テストは、現役の実働艦によるテストとしては初めてである。ブレンド燃料使用に当たっては、同艦のインフラや燃料注入口に何ら改修を施さなかった。また、ブレンド燃料によるガスタービン・エンジンの運用性能は、標準石油燃料 F-76によるものに匹敵できるものであった。藻類による燃料は、豊富な海洋資源からの再生可能エネルギーの生産に関心を高め、一方で近年の食料として栽培された穀物からのバイオ燃料離れを促す方向への期待を高めた。

3月 8日「中国空母『ワリヤーグ』、2012年に就役—海軍副司令員」 (Taipei Times, March 13, 2012)

12日付けの人民日報が報じるところによれば、中国海軍の徐洪猛・副司令員は全人代開催中の 8日、解放軍は空母「ワリヤーグ」を 2012年中に就役させる計画である、と語った。解放軍高官が空母の就役時期について具体的に語ったのは、これが初めてである。防衛問題の専門家は、空母の就役を解放軍創設記念日に合わせた 8月 1日と見ている。空母は、 J-15戦闘機と Z-8輸送ヘリを搭載して、海南島に配備され、東シナ海、南シナ海をカバーすると見られる。

3月 9日「ハイブリッド自動車船、進水—商船三井」(商船三井プレスリリース、 2012年 3月 9日)

商船三井の 9日付プレスリリースによれば、 2009年に国土交通省の「船舶からの CO2削減技術開発支援事業」に採択された同社の「停泊中ゼロエミッションを目指したハイブリッド自動車船」は 9日、Emerald Aceと命名され、三菱重工神戸造船所において進水した。該船は今後、開発したハイブリッドシステムを使った試運転を経て、 2012年 6月には世界初の新造ハイブリッド自動車船として竣工することになっている。該船のハイブリッドシステムは、同社が 2009年 9月に発表した次世代船シリーズ「ISHIN-I」自動車船の未来像の実現に向けたステップの1つである。該船には、同社が三菱重工、パナソニックグループ・エナジー社と共同で開発した、約 160kWの太陽光発電システムと、実力値で約 2.2MWhの電力量のリチウムイオン電池を組み合わせた、ハイブリッド給電システムが搭載される。従来の発電システムでは、停泊中の船内の電力供給にディーゼル発電機が使用されたが、該船では航海中に太陽光発電システムで発電した電力をリチウムイオン電池に蓄え、その電力を使用することで、停泊中にディーゼル発電機を完全停止して「停泊中ゼロエミッション」を実現する。該船の載貨台数は 6,400台(基準小型車換算)である。

3月 13日「韓国、中国漁民の不法操業対処拠点を黄海の島に建設」 (The Chosun Ilbo, March 14, 2012)

韓国の国土海洋部当局者は 13日、「我々は、中国漁民の不法操業に海洋警察が迅速に対処できるようにするため、前進拠点を建設することに決定した」と語った。それによれば、建設される西海(黄海)の前進拠点は、仁川沖合 180キロにある白.島と南西の木浦沖合 90キロの黒山島の 2カ所に建設される。これらの拠点は、海洋警察の施設となり、要員が配備される。国土海洋部当局者は、「現在、中国漁民の不法操業の通報を受けて海洋警察が本土から現場海域に出動するまで最大 8時間程度を要し、取り逃がすことが多い。2つの島に前進拠点を設けることで、対処所要時間を半分に短縮できる」と語っている。これらの拠点には、燃料補給所とともに、海洋調査関連装備も置かれ、科学者も常駐する。また、農林水産食品部の船艇も配備される。2012年中に、建設場所が決められ、 2014年に建設開始、2018年の完成が見込まれている。

【関連記事】「韓国、中国漁民の不法操業監視にハイテク巡視船配備」 (The Korea Herald, March 7,2012)

韓国の農林水産食品部は 7日、韓国の領海および EEZ内における中国漁民の不法操業を効果的に監視できるハイテク巡視船の就役式典を、釜山港で行った。この巡視船は、国花の名を冠した 1,258トンのハイテク装備の「無窮花 I」(Mugunghwa I) で、2010年 8月に 15億ウォンで建造された。この巡視船は、現有巡視船の多くが装備していない、電子海図表示装置、自動操縦装置、暗視カメラを備え、最高時速 17ノットだが、搭載している救命ボートは最高時速 30ノットで航行できる。農林水産食品部は、更に 4隻の次世代巡視船を 2015年までに配備し、領海および EEZ内における不法操業の取り締まりに当てる。韓国は現在、主に中国と日本の漁業取り締まり用の巡視船を 34隻保有している。

3月 13日「中国、ミャンマーにフリゲート 2隻供与」 (Maritime Propulsion, March 13, 2012)

中国海軍はこのほど、旧式フリゲート、Type 053H1級(江滬-I級)2隻をミャンマー海軍に供与した。Type 053H1級(基準排水量 1,702トン)は、1981年から 1988年にかけて上海の滬東造船で建造された。ミャンマー海軍では、UMS Mahar Bandoola (F-21)、UMS Mahar Thiha Thura (F-23).と命名されている。Type 053H1級は、1984年から 85年にかけてエジプト海軍に 2隻、1989年にバングラデシュ海軍に 1隻が供与されている。後継の Type 053H2は、1991年から 92年にかけてタイ海軍に 4隻供与されている。更に改良型の Type 053H3はパキスタン海軍に 4隻供与され、その内 3隻が中国で建造され、残りの 1隻が現在パキスタンで建造中である。

3月 14日「中韓両国の海洋境界争い—東シナ海の暗礁」 (The Wall Street Journal, March 14, 2012)

14日付けの米紙、The Wall Street Journalは、東シナ海の暗礁を巡る中国と韓国の海洋境界争いを報じている。争点となっている東シナ海の暗礁は、韓国名、離於島、中国名を蘇岩礁と言い、海面下 4〜5メートルにある。それによれば、事の発端は、中国の劉賜貴・国家海洋局長による 3月初めの新華社とのインタビューでの発言である。劉局長は、現在中国が海洋監視船と航空機で常時哨戒している海域は「全て中国の管轄海域である」と述べた上で、常時哨戒海域を、北は鴨緑江河口から、東は沖縄トラフ、そして南はジェームス環礁(南シナ海で中国が領有権を主張する最南端の環礁、台湾とマレーシアも領有権を主張)までを含む海域と定義した。これに対して、韓国の李明博大統領は 12日、離於島は「韓国の自然な管轄海域にある」とし、この問題は離於島が海面下 4〜5メートルにあることから領土紛争ではないが、韓国の EEZ内にある、と言明した。また、韓国外交通商部も同日、韓国駐在中国大使に抗議した。国連海洋法条約では、 EEZの境界確定は関係当事国の交渉に委ねられている。中韓両国の EEZは重複しており、両国は離於島/蘇岩礁を自国の EEZ内にあると主張してきた。離於島/蘇岩礁は、韓国本土から最短で約 90カイリ、中国本土から最短で約 155カイリの位置にある。韓国は、ここに海洋調査基地を建設している。両国はこれまで 16回の海洋境界画定交渉を行ってきたが、合意には至っていない。一方、中国外務省報道官は 12日、蘇巌礁/離於島は領有権紛争の対象ではないが、中韓両国間の交渉によって解決すべき管轄権を巡る問題であり、解決に至るまでいずれの側もこの海域で一方的行動をとるべきではない、と述べた。

記事参照:China, South Korea in Row Over Submerged Rock
http://blogs.wsj.com/korearealtime/2012/03/14/china-south-korea-in-row-over-submerged-rock/

3月 14日「国際海洋法裁判所、バングラデシュ・ミャンマー間海洋境界画定紛争に判決」(RSIS Commentaries, No. 048, March 20, 2012)

シンガポールのシンクタンク、The S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS) の顧問、サム・ベートマン (Sam Bateman) は、20日付けの RSIS Commentariesに“Solving Maritime Disputes: The Bangladesh-Myanmar Way”と題する論説を寄稿した。国際海洋法裁判所 (The International Tribunal for the Law of the Sea: ITLOS) は 14日、ベンガル湾のバングラデシュ・ミャンマー間海洋境界画定紛争に関して判決を下した。この海洋境界画定紛争に関する初めての ITLOSの判決について、ベートマンは、両国間の紛争が平和的に解決されたが、この判決は必ずしも他の紛争解決の先例とはならないとして、要旨以下の諸点を指摘している。

(1) ITLOSは、両国間の海洋境界として、調整された等距離線を決定した。この線は、等距離線あるいは中間線よりも、むしろバングラデシュに有利なものとなった。それでもまだ、この線は、「争点となった海域」の半分以上を、バングラデシュによりミャンマーに帰属させることになった。海洋境界画定紛争ではよくあることだが、 ITLOSの判決には、明白な「勝者」も「敗者」もいない。バングラデシュのモニ外相は、自国の勝利と主張した。しかし、逆に言えば、ミャンマーにとっても「勝利」を主張できるかもしれない。何故なら、判決では、セントマーティン島が EEZと大陸棚の境界画定に何ら影響を及ぼさないとされ、「争点となった海域」をより多く確保したからである。

(2) バングラデシュとミャンマーの紛争は、ITLOSに付託された最初の海洋境界画定紛争であった。ITLOSがこの判決に至った多くの技術的な議論があった。海洋境界線の画定の原則は、より複雑になってきている。地理的要素や等距離概念に加えて、経済的、物理的あるいは社会的な、いわゆる「衡平原則」も考慮される。しかし、「衡平原則」とは何かについて、受け入れられた定義はない。

(3) ITLOS判決の興味深い点は、中国の高之国判事の異見である。高判事は判決に反対票を投じているわけではないが、高判事の異見はおおよそ、東シナ海と南シナ海における海洋紛争における中国の立場と軌を一にしているからである。第 1に、高判事は、等距離・関連事情原則 (the equidistance/relevant circumstances method) が、ベンガル湾の凹面状の地形を考慮に入れておらず、その結果、若干の不衡平が生じたことから、海峡境界画定方法としては適切でない、と述べた。この見解は、東シナ海における海洋境界を画定するに当たっての中国と日本の主張の対立に関連している。第 2に、高判事は、セントマーティン島の取り扱いを間違いとしている。高判事は、この島が国連海洋法条約 (UNCLOS) に規定する「島」の性格を満たしており、従って、 EEZを有する、と主張している。ここでも、高判事は、中国が南シナ海で領有権を主張するいくつかの島が UNCLOSの規定する完全な「島」であるとする中国の立場を擁護しているようである。しかし、他の領有権主張国はこうした見解を共有していない。そして第 3に、高判事は、判決が大陸棚の限界と海洋境界を決定するに当たって、沿岸国の領土の自然延長論をとっていないことに疑問を呈している。高判事の意見は、東シナ海における日本との海洋境界紛争に対する中国の立場を反映している。

(4) ITLOSの判決は、ベンガル湾における主要な紛争要因を解決するもので、海洋境界を巡る紛争が政治的意志によって平和裏に解決し得ることを示した。しかしながら、この判決は、海洋境界紛争を争って ITLOSに持ち込もうとする動きをもたらすことにはならないであろう。他の地域、特に南シナ海における海洋境界画定を巡る紛争は、国際的な仲裁に委ねることが不利に作用する可能性があるからである。紛争当事国は、判決結果が自国の意に反するかもしれないという理由だけで、国際的な仲裁に委ねること躊躇するであろう。従って、ITLOSの判決は、必ずしも、他の海洋境界画定紛争の先例になるわけではない。結局、海洋境界画定紛争解決は本質的に政治的ものであり、その解決が第 3国に如何なる影響も及ぼさなければ、どんな境界線でも 2国間で合意できるものである。