海洋安全保障情報週報 2012年3月1日〜3月7日

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3月 1日「ベトナム海軍、 3隻の新型哨戒艦就役」 (Vietnam Net, March 2, 2012)

ベトナム海軍は 1日、3隻の新型哨戒艦を就役させた。南部のタイ湾を管轄する第 5管区司令部には 2隻、HQ-264、HQ-265が配属された。両艦は、ロシア製 Svetlyak級の砲艦で、領侵阻止のための哨戒任務から、敵の海上からの僚艦や陸上施設に対する攻撃対処まで、多様な任務を遂行する。南部沿岸の大陸棚を管轄する第 2管区には、.新の国産艦、 HQ-272が配属された。

3月 2日「英海軍.新鋭艦、アデン湾周辺海域での哨戒任務に参加」 (Defence Web, March 2, 2012)

英国防省が 2日に明らかにしたところによれば、英海軍の.新鋭艦、HMS Daringが、スエズ以東の海域で初めての実働任務に参加する。同艦は、多国籍海軍部隊、CTF-150に所属して、紅海、アデン湾及びイエメン沿岸沖で海賊、密輸あるいは不法移民などの違法活動に対処する、オーストラリア、パキスタン、ニュージーランド及びイエメンによる哨戒任務、Operation SCIMITAR ANZACに参加する。HMS Daringは、1970年代に就役した Type 42に替わる Type 45の 1番艦である。Type 45は当初計画では 12隻建造される計画であったが、2008年に財政難から 6隻に半減された。現在 3隻の建造が完了しているが、他の 2隻は実戦配備されていない。同艦は、高性能の Sea Viper対空ミサイルを搭載し、兵員 50人を乗せることができる。ヘリの発着艦が可能な広い飛行甲板を備え、災害救助任務の場合、700人を収容できる。同艦は、基本排水量 8,000トン、.高速度 27ノット以上、航続距離 7,000カイリ以上である。

3月 3日「老朽艦撃沈処理の課題—米海軍」 (AP, March 3, 2012)

3日付 APは、米海軍の老朽艦撃沈処理における環境への影響について、要旨以下の諸点を指摘している。
(1) 空母、USS Americaは 2005年、バージニア州ノーホーク沖南東約 300カイリの海底にミサイルと爆弾で撃沈処理された。海軍の文書では、同艦には、 1979年に米国で禁止された化学剤、ポリ塩化ビフェニール (PCB) が 500ポンド以上も残っていた。海軍はこの 12年間、109隻の老朽艦を、カリホルニア、ハワイ、フロリダなどの各州沖合で、ミサイル、魚雷あるいは爆弾で撃沈処理してきた。この間、他の 64隻の老朽艦が米国内 6カ所の公認解撤施設でリサイクルされた。海軍は、撃沈処理を “Sinkex”計画として、実弾射撃演習と兵器の攻撃効果を実見する、重要な国家安全保障上の任務と位置づけてきた。

(2) しかし、海軍は一方で、軍事訓練の要請と海洋環境への配慮との間で苦慮してきた。環境保護庁 (EPA) と海軍の合意文書では、海軍は、撃沈処理艦の有害物資をどの程度除去し、どの程度残留していたかについて、文書で報告することになっている。APの調査では、2000年以来の海軍の報告文書では、PCBとその他の有害物資についての見積は不完全で、矛盾したものである。例えば、海軍は 2008年、ペルシャ湾にも派遣された、排水量約 7,000トンの駆逐艦、USS David R. Rayについて、PCBは残留していない、と報告している。しかし、その前年、同程度の大きさの誘導ミサイル巡洋艦、USS Jouettについては、PCBを含む 100ポンド以上の有害物資が残っている、と報告している。

(3) 海軍は、撃沈処理艦から事前に有害物資を除去するためには、 50万〜60万ドルの費用がかかり、除去作業の総経費はこれよりはるかに多くなる、解撤業者によれば、海軍の大型艦のリサイクル経費は通常、数千万ドルになるという。海軍の定義では、除去作業は、全ての液体 PCB、燃料、水銀及びその他の汚染物資を取り除くことをいう。

(4) 海軍は 1990年代に、PCBの廃棄を禁止する連邦法に抵触するとの懸念から、2年間にわたって”Sinkex”計画の中断を余儀なくされたことがある。この時には、多くの老朽艦がバングラデシュや東南アジア諸国の解撤施設に送られた。これらの施設では、米国内の施設よりはるかに安い経費で解撤された。しかし、米政府は 1998年、海外での解撤を禁止した。EPAは 1999年、”Sinkex”計画を連邦汚染防止法の適用外とした。海軍は、沿岸から少なくとも 50カイリ離れた、推進 6,000フィート以上の海域で”Sinkex”計画を再開した。

(5) “Sinkex” 計画は、海洋汚染の懸念を生んでいる。2006年にフロリダ州ペンサコラ沖合に人工漁礁として沈められた空母、USS Oriskanyの近くで捕れた魚から、PCBが検出されたことから、懸念を高めた。フロリダ州の年次モニタリング調査では、.初の 2年間は州の安全基準、50ppb、EPAの基準 20ppbのいずれよりも多かった。その後、汚染レベルは全体的に低下しているが、一部では依然、州、 EPAの基準を超えている。米国内の解撤業者は、雇用促進と環境汚染の両面からより多くの艦艇を “Sinkex”計画からリサイクルに回すべきと、主張している。

3月 4日「ソマリアの海賊、パナマ籍船タンカーをハイジャック」 (gCaptain, March 5, 2012)

ソマリアの海賊は 4日、オマーン沖で、パナマ籍船でドバイの船社所有のケミカルタンカー、MT Royal Grace (6,813DWT) をハイジャックした。該船の乗組員は、インド人、パキスタン人およびナイジェリア人の 22人である。

3月 3日「インド国防省、潜水艦建造計画から民間部門締め出し」 (Business Standard, March 3, 2012)

3日付けのインド紙、Business Standardの報道によれば、インド国防省はこのほど、海軍が求めているハイテク通常型潜水艦を建造するのに必要なインフラと能力を保有していないとして、国内の民間造船所を、予定より大幅に遅れている Project 75I潜水艦計画から閉め出した。Project 75I潜水艦は 6隻建造されることになっているが、海外の造船所と国内の海軍工廠とで建造されることになる。国防省によれば、Project 75I潜水艦の.初の 2隻は海外で建造され、残りの 4隻が潜水艦建造能力を持つ、2カ所の海軍工廠、ムンバイの Mazagon Dock Limited (MDL)、ビシャカパトナムの Hindustan Shipyard Ltdで建造される。この決定は、国防省防衛取得会議 (The Defence Acquisition Council: DAC) が 1月に行った。一方、1999年には、安全保障閣僚会議 (The Cabinet Committee on Security: CCS) が、24隻の通常型潜水艦を全て国内で建造するという、潜水艦建造 30年計画を承認している。2隻を海外で建造するという国防省の決定はこれに違反するが、海軍は Project 75I潜水艦計画の.初の 2隻を海外で建造することを強く主張したようである。海軍は、現在進行中の Project 75潜水艦計画を台無しにするような計画の遅れを未然に回避したいと望んでいる。 Project 75潜水艦計画では、フランスとスペインの共同企業体、 Armarisと提携して、MDLが 6隻の Scorpion級潜水艦を建造するが、1番艦は 2012年に引き渡し予定であったが、2015年に完成するとみられる。

3月 4日「中国の 2012年度軍事支出、前年比 11.2%増」(The Washington Post, March 4, 2012)

中国の全国人民代表大会の李肇星報道官は 4日の記者会見で、中国の 2012年度軍事支出が前年比 11.2%増になることを明らかにした。それによれば、2012年度の軍事支出は 6,700億元(1,060億米ドル)となっている。米ドル換算で、1,000億ドルを超えるのは初めてである。2011年度は 915億米ドルで、2010年度に比して 12.7%増であった。李肇星報道官は、軍事支出の増額は中国経済の成長に合わせたものだが、GDPに占める割合で見れば、1.28%で、他の諸国、特に 2%を超える米英と比較すると低い、と述べた。しかしながら、ストックホルムのシンクタンク、SIPRIは、中国の実際の軍事支出は GDP比 2%を超えると見積もっている。一部の専門家は、中国の軍事支出は 2015年までに、アジア太平洋地域の 12カ国の軍事支出の合計よりも多くなるであろう、と推測している。

【関連記事】「2012年のアジア諸国の軍事支出、欧州を上回る見込み— IISS」(The Guardian, March 7, 2012)

英国の国際戦略研究所 (IISS) は 7日、2012年版の「ミリタリー・バランス」を公表した。ジョン・チップマン (John Chipman) 所長は、記者会見で、中国が引っ張る 2012年のアジア諸国の軍事支出は急増しており、初めて欧州のそれを上回る見込みである、と語った。同所長によれば、西側諸国が大幅に国防予算を削減しているのに対して、アジアでは経済成長と戦略環境の不安定化を背景に軍事競争が益々激しくなっている。IISSの見積もりでは、2011年のアジア諸国の国防予算の実質伸び率は 3%を超え、特に中国の軍事支出が域内全体のそれに占める割合は 30%を超えている。アジアでは、オーストラリア、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイおよびベトナムは、海空軍力の強化に努めている。一方、欧州では、国防予算は財政的制約下にあり、装備計画に対する削減が続いている。2008年から 2010年の間、NATO欧州諸国の内、少なくとも 16カ国で国防予算が削減され、最大削減幅は実質 10%を超えた。

3月 5日「ギリシャ、 EU海賊対処艦隊から撤退」 (Reuters, March 5, 2012)

ギリシャは 5日、財政危機対処の一貫として、経費節減のために EU海賊対処艦隊から自国戦闘艦を撤退させることになった。ギリシャは、戦後.悪の財政危機のため、 2012年度国防予算を 4億ユーロ削減する。国防省によれば、ギリシャが EU艦隊に派遣しているフリゲートは、当初予定の 4月 4日から 3月 8日に帰国し、その後 2012年下半期は海賊対処活動に参加しない。ギリシャのフリゲート 1隻の派遣費用は、1カ月当たり 250万ユーロである。ギリシャは、 2008年から始まった EU艦隊による “Operation Atalanta” に、フランス、イタリア、ドイツ及び英国と共に最初からの参加国であった。

3月 5日「中国海洋省の早期創設を—政協常務委員」 (Xinhua, March 5, 2012)

5日付け新華社の報道によれば、陳明義・中国人民政治協商会議常務委員(前福建省党書記)はこのほど、中国の海洋法令執行能力を強化し、海洋資源開発を活発化するために、「海洋部(省)」の早期創設を、政府に提案した。陳明義・常務委員は、現代の全ての大国は海洋においても十分強力であり、従って、中国も最大 300万平方キロに及ぶ EEZにおける海洋利権を護り、開発を促進するために、強力な海洋国家になる必要がある、と述べている。その上で、陳・常務委員は、経済、軍事、外交、科学技術および海洋法令執行の各部門からなる、中央機関の創設を提案している。

【関連記事】「中国、国家沿岸警備隊創設を—羅援少将」 (The Wall Street Journal, March 7, 2012)

中国軍事科学院の羅援少将は、南シナ海における領有権主張を裏付けるために、国家沿岸警備隊の創設、島嶼への駐留部隊の増強、更には漁業会社や石油開発会社に対して周辺海域における商業活動の活発化を提案した。羅援少将はまた、南シナ海の大部分をカバーする新たな管轄ゾーンの設定も求めている。羅援少将は、軍の公式スポークスマンではないが、長年にわたって政府の公式立場より強固な主張をメディアに公表してきた。この提案は、全国政治協商会議での発言である。羅援少将のタカ派的な見解は他の将官や愛国的な世論の支持を得ていると見られ、しかも 7日付けの解放軍報電子版に掲載されたことで重みを増した。専門家は、軍やネット世論の抵抗で、中国政府が領土紛争で妥協することが次第に困難になってきている、と見ている。中国は現在、沿岸警備隊を持っておらず、海洋問題を少なくとも 6つの機関が担当している。しかしながら、この 2年間、国土資源部国家海洋局の中国海監総隊(海監)が急速に拡充されている。

3月 7日「米、海賊容疑者をセイシェルに引き渡し」 (Reuters, March 7, 2012

米国は 7日、15人の海賊容疑者を裁判のためセイシェルに引き渡した。海賊容疑者を起訴するために引受先を捜すのが困難で、容疑者は拘束されてもしばしば解放されている。セイシェルは 2011年に法律を改正し、領海外で拘束した海賊容疑者でも起訴できるようになった。米国務省によれば、この 15人は、米海軍戦闘艦が 2012年 1月にアラビア海で海賊の人質になっていたイラン人漁民 13人を救出したときに拘束された。(本件事案については、OPRF海洋安全保障情報月報 2012年 1月号 1.1海洋治安参照。)セイシェル当局によれば、同国では現在、66人が有罪判決を受けて収監されており、他に 37人が勾留されている。