海洋安全保障情報旬報 2012年4月11日〜4月20日

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4月 12日「インド、南部に 3個目の無人機飛行隊配備」 (SUAS News.com, April 12, 2012)

12日付の小型無人システム (SUAS)専門サイト、SUAS News.comによれば、インド海軍は 13日、南部のタミルナドゥ州に、(スリランカとの間の)マンナール湾、ポーク海峡及びポーク湾の監視偵察能力を強化するために、3個目の無人機 (UAV) 飛行隊を配備する。新 UAV飛行隊、INAS 344 は、同州ウチプリにある海軍エアーステーション、 INS Parunduから運用される。INAS 344 は、2機のイスラエル製 UAV、Searcher と Heronからなる 4個部隊で構成される。インド海軍は、演習や実任務で UAVを監視、偵察、目標探知及び被害評価に活用している。他の 2個飛行隊ついては、1つは 2011年 1月に、グラジャート州ポルバンダルに 2機のイスラエル製 UAV、Searcher と Heronからなる 4個部隊で構成される飛行隊が配備され、同州のアラビア海沿岸域を監視している。もう 1つは 2009年に、ケララ州コーチの海軍基地に配備されている。

4月 14日「民間武装警備員、法的規制を巡る各国の動向」 (The Economist, April 14, 2012)

14日付の英誌、The Economistは、海賊対処のための民間武装警備員に対する法的規制を巡る各国の動向について、要旨以下のように述べている。

(1)民間武装警備員は、ペルシャ湾から南はセイシェル、東はモルディブにまで広がる海賊危険海域を航行する船舶の約 40%に雇用されている。海賊に襲撃されたら、これら武装警備員は、信号弾や警告射撃で対応する。失敗すれば、彼らはまず、襲撃ボートのエンジンに発砲する。武装警備員を提供する会社の多くは、英国にある。4人編成の警備チームは、1航海当たり 4万 5,000ドルで雇用でき、船主側の負担は保険で 1部軽減できる。

(2)民間武装警備員の法的枠組は存在しない。国連海洋法条約の下では、警備員を含む船舶の乗組員は、当該船舶の旗国の国内法で規制される。しかし、 2009年以来、民間武装警備員に関する一連のガイドラインが導入されたが、いずれも法的拘束力を持たない。IMOの要請によって、各国政府は、洋上における民間武装警備員に関する法的規制の検討を始めている。

(3) 英国政府は、2012年末までに一連の任意規定を制定する意向で、承認する武器のタイプと訓練基準とともに、海賊に対する「比例した」対応を規定するものになると見られる。しかし、その遵守は警備会社の任意となろう。米国は現在、厳格な交戦規則の枠内で米国籍船の自衛措置を容認している。インドは、民間武装警備員の乗船を認めている。ギリシャも同様の措置を検討中である。日本は、民間武装警備員の乗船を禁止した、厳格の法規制の改正を検討中である。アラブ首長国連邦は 2012年中に、自国港湾への外国の民間武装警備員の入港を認める方針である。

(4) 現在、多くの民間武装警備チームは、護衛任務の間の武器の委託保管国として、スリランカ、オマーンあるいはジブチを利用している。一方、イエメン及びその他の国では、彼らがこれらの国の領海内で武器を携行していれば、逮捕起訴される可能性がある。米フロリダ州の警備会社、Maritime Protective Servicesの幹部によれば、一部の警備会社は、入港前に携行武器を海中投棄することで、安全確保を図っているという。

4月 17日「ソマリアの海賊、イエメン漁船ハイジャック」 (Somalia Report, April 23, 2012)

ロケット推進擲弾筒と AK47強襲ライフルで武装したソマリアの海賊は 17日、イエメンの Ras Fatark南方 17カイリのアラビア海で、イエメン漁船、FV Al Abassをハイジャックした。この襲撃で、海賊は別の漁船を「母船」として利用した。海賊は、該船の 24人の乗組員の内、4人のみを該船に拘束し、残りの 20人を小型ボート (skiff) に乗せてソマリア沿岸に送った。このことは、海賊が該船を「母船」として利用することを示唆している。海賊は、多くの人質を乗せたまま、行動する気はないようである。ソマリアの海賊は現在、 12隻のハイジャックした漁船(ダウ船)を「母船」として利用している。

4月 18日「ボリビア、イラン船の船籍登録国に」 (Chicago Tribune, Reuters, April 18, 2012)

18日付けの Reutersの報道によれば、イラン国営船社 (Islamic Republic of Iran Shipping Lines: IRISL) は、自社船の船籍登録国を、マルタとキプロスから、内陸国のボリビアに移す動きが見られる。EUによれば、201年の国連のイラン制裁決議に関わらず、IRISLは現有の 144隻の内、48隻がマルタ船籍、12隻がキプロス船籍を未だ保持している。マルタとキプロスによる IRISLへの圧力が強まるに従い、この数ヶ月間、内陸国であるボリビアに船籍を移す動きが見られる。ボリビア国際船舶登録当局によれば、この数週間に登録された船舶の中にイランの関与を疑われる船舶はないが、もし制裁違反を示す証拠が明らかになれば、ボリビアは、登録を取り消すとしている。IRISLは、登録船主、旗国及び船名を頻繁に変更して、イランの核計画に関連する供給ネットワークとの関係を隠蔽しようとしている。ボリビアには、8隻の元キプロス船籍船と 6隻の元マルタ船籍船が、明らかに IRISLのダミー会社と見られる、Andulena Corporationと Auris Marine Companyという社名の会社により船籍登録されている。Reutersがこれら船舶の IMOナンバーの照合を行ったところ、これら船舶の全てが米国によって IRISL関連船舶と認められ、米国による大量破壊兵器拡散に関するブラックリストに掲載されている船舶であることが確認された。

特集:スカボロー礁を巡るフィリピンと中国の対峙

フィリピンと中国は、4月 8日以来、南シナ海のスカボロー礁を巡って、対峙を続けている。以下は、各種の資料から、その全容を取り纏めたものである。

1.スカボロー礁とは
(1) スカボロー礁 (Scarborough Shoal) と呼称される、無人の岩礁群はフィリピンのルソン島の西方約 124カイリの南シナ海(西フィリピン海)に位置する。スカボロー礁は、3角形の形をした岩礁群で、周囲 34カイリ、面積 58平方カイリである。その内、 50平方カイリがラグーン(潟)となっている。岩礁群の大部分は、満潮時には海面下となる低潮高地である。低潮時の高さは、1.5〜9フィートである。(Zamboanga Today, April 28, 2012)

(2) フィリピンでは、スカボロー礁とは呼ばず、 Panatag Shoalという(皮肉なことに、英語では calmを意味する)。フィリピンの領海基線法では、 Bajo de Masinlocと表記されている。一方、中国では、黄岩島 (Huangyan Island)と称する。(Rappler.com, April 18, 2012)

2.対峙の主な経緯
(1) 4月 8日、フィリピン海軍は、 8隻の中国漁船がスカボロー礁のラグーン内で錨泊しているのを発見した。フィリピン海軍の最新艦、 BRP Gregorio del Pilar (PF-15) が同日、この海域に派遣された。2日後、同艦の臨検チームが漁船を臨検した。中国漁船は、サンゴ、オオシャコ貝や鮫などを不法に捕獲していた。しかし、漁民を逮捕する前に、2隻の中国の監視船が、漁船と BRP Gregorio del Pilarの間に割って入った。以来、対峙が続いている。 (Zamboanga Today, April 28, 2012)
以下は、フィリピン外務省が 4月 11日に公表した、臨検の様子である。

(2) フィリピン外務省が 11日に発表した声明によれば、中国の 2隻の監視船は、中国海監 75と同 84で、PF-15と 8隻の中国漁船との間に位置し、中国漁民の逮捕を阻止している。フィリピン政府は、外交的解決を求めており、在マニラ中国大使館に 10日、Panatag Shoalはフィリピンの不可分の領土であり、フィリピンの法律が適用される、と通告した。 (The Department of Foreign Affairs (DFA), Philippine, April 11, 2012) PF-15は、「作戦上の理由」から 12日に同海域から撤退し、沿岸警備隊の小型巡視船に交代した。(GMA News, April 12, 2012)一方、13日には、中国漁船の内、 3隻が現場海域から離れ、また、監視船 1隻も撤退した。(Asia Security Watch, April 13, 2012)

(3) フィリピンのアキノ三世大統領は 16日の会見で、中国の「 9断線」は UNCLOSに違反するものであり、現在両国が Panatag Shoalを巡って対峙を続けている理由である、指摘した。(GMA News, April 16, 2012)

(4)フィリピンのデルロサリオ外相は 18日、フィリピンは国際海洋法裁判所 (The International Tribunal on the Law of the Sea: ITLOS) に、この問題を持ち込むことを決定した、と語った。外相は、この問題を平和的に解決するために、中国も ITLOSに参加するよう求めた。現在、フィリピン側と在マニラ中国大使館との間で、話し合いが続けられているが、中国側は、フィリピン巡視船の速やかな退去を求めている。(Sun Star, April 18, 2012)

(5) 中国は 20日、フィリピンが巡視船の引き上げを拒否した後、現場海域に 3隻目の監視船、漁政 310を派遣した。フィリピンは、紛争をエスカレートさせるとして、中国を非難した。中国外務省報道官は、フィリピンが中国の主権を侵害し、中国漁民の操業を妨害したため、3隻目の巡視船を派遣した、と主張した。(Fox News, AP, April 20, 2012)

(6) フィリピンのデルロサリオ外相は 20日、ASEANに支援を求めた。外相は、「西フィリピン海における航行の自由と妨害なき通商は、全ての国にとって重要である。従って、全ての国は、中国が根拠なき歴史的記録を基にした『9断線』を根拠に、西フィリピン海全域に全面的な主権を行使するために、スカボロー礁でどのような行動をしているか、考えるべきである」と強調した。(Philippine Daily Inquirer, April 22, 2012)

(7) フィリピンのアキノ三世大統領は 29日、北京が紛争解決のために軍事行動に訴える可能性がないと見られるとして、中国との緊張を緩和していく意向を示した。 (The Straits Times, April 29, 2012)

3.フィリピンの領有権主張の根拠
(1) フィリピンは現在、Panatag Shoalを実効支配している。フィリピンは、南沙諸島(フィリピン名、the Kalayaan Island Group: KIG)では、8つの島嶼を実効支配している。

(2) Bajo de Masinlocという名は、1734年に当時のスペイン総督の命名になるもので、1808年にマドリッドで発行された地図には、Bajo de Masinlocをフィリピン領土と明記している。 (The Manila Times.net, April 17, 2012)

(3) フィリピンは 2009年 3月、領海基線法 (Republic Act 9522 or the 2009 Philippine Baselines law)を公布した。同法は第 2項で、以下の示すように、 Panatag Shoalと Kalayaan Island Groupを、国連海洋法条約 (UNCLOS) 第 121条に基づいて、“regime of islands under the Republic of the Philippines”と規定している。

Republic Act 9522 or the 2009 Philippine Baselines law Section2. The baseline in the following areas over which the Philippines likewise exercises sovereignty and jurisdiction shall be determined as “Regime of Islands” under the Republic of the Philippines consistent with Article 121 of the United Nations Convention on the Law of the Sea (UNCLOS):
a) The Kalayaan Island Group as constituted under Presidential Decree No. 1596; and
b) Bajo de Masinloc, also known as Scarborough Shoal.

(Source: Philippine Low and Jurisprudence Data Bunk;
http://www.lawphil.net/statutes/repacts/ra2009/ra_9522_2009.html)

(4) フィリピン外務省は 18日、HPで、フィリピンは、Bajo de Masinlocに対して全面的な主権と管轄権を、その周辺海域と大陸棚に対して主権的権利を行使しているとして、その論拠を詳述している。

(BACKGROUND ON THE BAJO DE MASINLOC (PANATAG) INCIDENT, The Official Website of the Department of Foreign Affairs – Republic of the Philippines, April 18, 2012.
http://dfa.gov.ph/main/index.php/newsroom/dfa-releases/5216-philippine-position-on-bajo-de-masinloc-and-the-waters-within-its-vicinity# )

4.中国の対応
(1) 16日付の人民日報は、要旨以下のように述べている。

(a)フィリピンは最近、中国の領海内にある黄岩島で、「海洋法令執行」を試みている。これは、中国の主権を著しく侵害するもので、南シナ海の平和と安定を損なう行為である。

(b) 中国は、黄岩島海域でフィリピンとの対決を望んでいない。中国は、「行動宣言」(DOC)の基本原則を遵守してきた。海洋監視船の派遣は、中国が強引な行動を容認しないことを示す明確なシグナルである。DOCへの回帰が唯一の正しい選択である。法的拘束力を持つ「行動規範」(COC) に関する交渉は始まったばかりで、中国は ASEAN諸国と協議するために専門家会議の設置を提案している。中国は一方で、協調的かつ平和的な協議を進めながら、他方で中国の主権の不可侵性を強化していく。両者は、中国の平和発展の基本的枠組をなす、相互補完的で、不可分のものである。

(c) 中国の海洋監視船の活動は強化されるべきである。 (People’s Daily Online, April 16, 2012)

(2) 中国は 21日、16日に始まった米比軍事演習、Balikatanを、南シナ海における軍事衝突の可能性を高めるものとして非難した。解放軍報は、米国の行動は南シナ海情勢を混乱させるものであり、域内の平和と安定に大きな影響を及ぼすことが避けられない、と強調した。(Reuters, April 21, 2012)

5.台湾の対応
5月 2日付の Rappler.comが報じるところによれば、台湾外交部は黄岩島の領有権問題めぐる中国とフィリピンの行き詰まり状態を尻目に台湾の領有権を改めて主張した。立法院・外交国防委員会に提出された外交部の説明資料によると、台湾は南シナ海の資源調査を他の国々と行う意欲を見せているという。また、フィリピンが主張する黄岩島の領有権は違法であるとの主張も見られた。台湾國防部は引き続き官公吏による定期的な南シナ海訪問を敢行し、海岸巡防署による太平島の監視体制を確認するという。 4月 30日には立法院議員たちが南沙諸島に赴き、台湾の領有権を主張した。 4月 20日に発表された政策方針書においては、黄岩島の領有権が主張されたとともに、南沙諸島、西沙諸島、南沙諸島、東沙諸島に対する領有権も併せて主張された。また、中国やフィリピンなどの領有権主張者に対して国連憲章と UNCLOSの遵守を促した。 (Rappler.com, May 2, 2012)

6.米国の対応
(1) 米比両国は 4月 33日、初の外務、防衛担当閣僚会合をワシントンで開催した。共同声明は、「米比両国の同盟関係がかつてないほど強まっている」とし、「両国は、米比相互防衛条約の下での共通の義務を再確認した」と述べている。(Joint Statement of the United States-Philippines Ministerial Dialogue, U.S. Department of State, Office of the Spokesperson, April 30, 2012)

(2) 5月 1日付けの The New York Timesによれば、フィリピンのデルロサリ外相は会見で、スカボロー礁で攻撃されたら、米国が援助してくれるかどうかと問われ、「米国は、我々は相互防衛条約の義務を遵守すると表明した」と語った。しかし、この義務がスカボロー礁に適用されるかどうかは明確ではない。(The New York Times, May 1, 2012)

(3) 米比両国は 16日、合同軍事演習、 Balikatanを開始した。米軍の参加兵力は、過去最大の 4,500人で、フィリピン軍も 2,300人の兵力が参加した。演習場所は、パラワン諸島近辺である。フィリピン国軍のデロッサ参謀総長は、米国とのパートナーシップはフィリピンにとって外部の脅威に対処する上で大いなる助けになるとしながらも、中国との領有権紛争など、フィリピンの国際問題対応能力は依然脆弱であるとし、「現在我々が直面する状況に鑑み、この演習はタイムリーで、米比両国にとって有益である」と強調した。(VOA News, April 16, 2012)

7.米国専門家の論評
米海軍大学の James Holmesと Toshi Yoshiharaは、4月 23日付の米誌、National Interest(電子版)に、 ”Small-Stick Diplomacy in the South China Sea” と題する論説を寄稿し、スカボロー礁を巡るフィリピンとの対峙で、海軍戦闘艦ではなく、海監や漁政といった海洋監視船を使った、「小さな警棒」外交について、要旨以下のように論じている。

(1) 中国にとって南シナ海の領海権を主張するのに、軽武装の非戦闘艦艇を派遣するのは、大きな意味がある。今回の事態には、中国海軍の軍艦は全く関わっていない。北京の抑制されたアプローチは、反抗的な東南アジア諸国を抑止あるいは威圧するための圧倒的な軍事力を背景に、状況に合わせて力の行使の在り方を変える、という北京の対応に合致したものである。中国は、その不器用な戦術によって弱い周辺諸国を脅えさせ、これら諸国間や米国との間を共通利害で結びつけてしまった、2010年以来の失策から十分な教訓を得たことを示した。

(2) 北京は、海軍力の増強より速いペースで、海洋警察力、いわゆるファイブ・ドラゴンを強化している。この分野の増強は、北京が自国の海洋を管理するためにバランスのとれたアプローチを取っていることを示している。領有権紛争に対して軍艦ではなく、海洋監視船を派遣することは、中国がアジアの海で領有権を主張し、それを確保するための洗練された組織的な戦略を持っていることを示している。

(a) 第 1に、沿岸警備隊のような組織を使うことで、中国の外交的メッセージは強化される。軍艦を派遣すれば、このことは、中国が他国と領有権紛争を争っていると認識していることを示唆することになろう。反対に、海洋監視船を使うことで、中国は自国の主権が及ぶ海域で警察権を行使していることを示すことができる。しかも、そうすることで、中国は、砲艦外交を行なっているという非難に対して予防線を張ることもできる。中国は、「これは外交問題ではない、通常の警察力の行使に過ぎない」と強弁できるからである。

(b) 第 2に、中国と ASEAN諸国とではあまりにも力の差があり、ソフトな対応が可能である。フィリピンの海軍力は辛うじて沿岸警備隊レベルなので、海軍戦闘艦ではなく、海洋警察力を使えば、中国はその利益を失うことなく、「弱い者いじめ」と域内諸国に見られるような、外交的失策を犯す可能性を抑えられる。

(c) 第 3に、非軍事的手段を用いることで、紛争の拡大を抑え、ローカルな問題に留めておくことができる。海軍力を使えば、小さな事件も国際化してしまう。それは、北京が最も恐れる事態である。

(d) 第 4に、海洋監視船によって、北京は、南シナ海の島嶼や海域の領有権を主張する他の国に対し、軽度ではあるが、絶え間ない圧力をかけることができる。常続的なパトロールは、沿岸国の政治的決意を試しながら、これら諸国の海洋監視能力の脆弱性を際立たせることができる。

(3) そして、これらが全て失敗に終われば、中国は、海洋警察力に代えて背後に控えていた海軍力を動員できる。つまり、フィリピンなどと違って、中国は、スカボロー礁や南沙諸島を巡って、事態をどの程度までエスカレートさせるかの選択肢を持っているわけである。こうした非軍事的な海洋警察力が持つ戦略的効用を考えれば、中国の海洋警察力は今後も拡充されて行くであろう。米国や東南アジアの同盟国は、新聞の大見出しとなる中国の空母などの「大きな棍棒」に払うのと同じ注意を、中国の「小さな棍棒」にも払うべきである。スカボロー礁は先駆けとなる事案である。こうした海洋監視船が持つ政治的価値を見逃すべきではない。