海洋安全保障情報旬報 2012年7月21日〜7月31日

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7月23日「ノルウェーの新型フェリー、LNG燃料のみで航行」(Marine Log, July 24, 2012)

ノルウェーのクルーズ会社、Fjord Lineは23日、建造中の新型フェリー2隻はLNG燃料のみで航行すると発表した。Fjord Lineによれば、ノルウェーのBergen Group Fosen造船所で建造中の2隻の新型フェリーは当初、通常燃料と両用のエンジンを搭載する予定であったが、Rolls-Royce製のLNG燃料エンジンのみを搭載する。LNG燃料エンジンは、酸化窒素の排出を約90%減らすとともに、硫黄酸化物や微粒子の排出がほとんどない。Rolls-Royce製のLNG燃料エンジンは既に、2013年に発効予定のIMO Tier IIIの環境基準を満たしている。新型フェリーは、4,000DWT、長さ170メートル、乗客1,500人、車両600台を積載できる。新型フェリーは、2013年夏からノルウェー西岸からデンマーク間の定期航路に就役予定。

記事参照:
Fjord Line orders Rolls-Royce LNG engines for newbuilds

7月23日「南沙・中沙諸島は中国領に含まれず—1904年の中国語地図」(Tuoi Tre News, July 23, 2012)

23日付のベトナムのTuoi Tre Newsが報じるところによれば、1904年に発行された中国語の中国全省地図には、南沙・中沙諸島は中国領に含まれていない。この地図を30年間にわたって所持していたのは、The Library of the Institute for the Study of Chinese and Demotic Scripts and Culturesの前館長、マイ・ホン(Mai Hong)博士で、歴史的証拠として、公表することにしたと語った。ホン博士は、インタビューで、「私の意見では、この地図は、南沙・中沙諸島の領有権紛争の解決に向けて、ベトナムがより積極的な行動を取る上で、ある程度有益な論拠となろう。この地図はまた、領有権問題を研究する研究者にとっても有益なデータとなる」と語っている。この地図は24日に、ハノイのThe National Museum of Vietnamese Historyに寄贈され、展示されることになっている。

記事参照:
Spratlys, Paracels not on 1904 Chinese map

7月24日「台湾、南シナ海の大平島に火砲配備」(The China Post, July 25, 2012)

台湾国防部当局者が24日に明らかにしたところによれば、南シナ海で台湾が占有する大平島における軍事力を強化するために、40ミリ自走榴弾砲8門と120ミリ迫撃砲数門を8月末までに同島に配備する計画である。これらの.新火砲は、現在、海岸巡防署が運用している、106ミ無反動砲と81ミリ迫撃砲を代替する。海岸巡防署は1999年以来、他の了見首長国との緊張を高めないために、海兵隊に代わって、同島の防衛を担任している。国防部と海岸巡防署は8月、定期的な合同実弾射撃演習を実施する計画である。

記事参照:
Cannons and mortars to be deployed on Taiping in South China Sea: MND

7月25日「米、南シナ海紛争で米比同盟条約を発動するか」(ABS-CBN News, July 25, 2012)

25日のフィリピンのABS-CBN Newsは、24日に公表された、ベルギーのシンクタンク、The International Crisis Group (ICG)による、STIRRING UP THE SOUTH CHINA SEA (II):REGIONAL RESPONSESと題する報告書などを取り上げ、米比同盟条約が南シナ海紛争にも適用されるかどうかについて、要旨以下のように報じた。

(1) ICGの報告書は、もし中国が南沙諸島やスカボロー礁を巡る紛争で武力を行使した場合、米国はフィリピン支援に乗り出さないもしれない、と警告した。ICGの報告書によれば、1951年の米比相互防衛条約(MDT)は両国の何れかが第三国に攻撃された場合、相互支援を規定しているが、米国はこれまで、南沙諸島やスカボロー礁を巡る紛争では全面的支援をコミットしてこなかった。報告書は、「マニラはこの間、米比条約を支持するというワシントンの『曖昧な保証』を得てきただけで、ワシントンは条約の適用範囲が南シナ海のフィリピン領に及ぶかどうかも明確にしていない」と指摘している。

(2) クリントン米国務長官は3月5日、米国は中比領有権紛争のいずれにも与しないとする一方で、西フィリピン海における航行の自由と通商の自由の確保を強調している。4月5日付けの米議会調査局の、The Republic of the Philippines and U.S. Interestsと題する報告書で、筆者のアジア問題専門家、ラム(Thomas Lum)は、米国はMDTを西フィリピン海の島嶼にまで適用範囲を拡大することは考えていない、と指摘している。ラムは、「オバマ政権は、どのような状況下で米軍がフィリピンに出動するかについて、明確にしてこなかった。2011年11月16比のマニラでのクリントン演説でも、米国がどのような状況下で南シナ海におけるフィリピンの領有権を護るかを明確にしていない」と述べている。

(3) 一方で、フィリピンのデルロサリオ外相は、5月9日付の米比条約に関する声明で、オバマ政権がクリントン長官を通じて、中国が南沙諸島のフィリピン軍を攻撃した場合、「フィリピン防衛に対する米国のコミットメント」を再確認したことを明らかにした。更に、外相は声明で、4月にワシントンで開催された、両国の国務・国防両長官と外務・国防両相による2プラス2会議で、「米国は相互防衛条約に基づく米国のコミットメントと義務を再確認する」とクリントン長官が述べたことも明らかにしている。また、6月にワシントンで行われた、フィリピンのアキノ三世大統領とオバマ大統領との会談でも、MDTにおける相互のコミットメントが再確認された。

(4) シンガポールのThe Institute of Southeast Asian Studiesのストーレイ(Ian Storey)研究員は、「米国はフィリピンとの同盟関係について強い言葉で支援してきているが、南シナ海で武力紛争が生起した場合、米軍がフィリピン軍を支援するかどうかは状況次第であろう」と指摘している。また、米シンクタンク、The Heritage Foundationのローマン (Walter Lohman)アジア研究センター長は5月に発表した、”Scarborough Shoal and Safeguarding American Interests” と題する論評で、ワシントンは中比領有権紛争に対してMDTに関する立場を明確にしなければならないとして主張している。ローマンによれば、1979年に当時のバンス国務長官は比外相宛の書簡で、「例えフィリピン本土やその管轄下にある島嶼に対する武力攻撃がなくとも、MDTは、フィリピン軍、政府公船あるいは航空機に対する攻撃にも適用される」ことを確認している。ローマンは、「中国軍によるフィリピン政府公船に対する攻撃があれば、米国は、かかる攻撃が『米国の平和と安全にとって危険である』と宣言して条約上のコミットメントを発動しなければならず、採るべき適切な措置を決めるためにフィリピンと直ちに協議を始めるということを、米国は中国当局に内々に通告しておかなければならない」と主張している。

記事参照:
Will the US defend Philippines if China attacks?

備考:
The International Crisis Group (ICG), STIRRING UP THE SOUTH CHINA SEA (II): REGIONAL RESPONSES;
Thomas Lum, The Republic of the Philippines and U.S. Interests, Congressional Research Service, April 5, 2012
Statement of Secretary del Rosario regarding the Philippines-U.S. Mutual Defense Treaty, May 9, 2012
Walter Lohman, “Scarborough Shoal and Safeguarding American Interests,” Heritage Foundation, Issue Brief, May 14, 2012

7月27日「ベトナム国家主席、カムラン湾にロシア艦受け入れ用意」(RIA Novosti, July 27, 2012)

訪ロ中のベトナムのチュオン・タン・サン国家主席は27日、カムラン湾にロシア艦の受け入れを認めることを明らかにした。サン主席は、カムラン湾の艦艇補修施設をロシアの軍事基地にはしないが、両国間の軍事関係を強化するために活用されることになろう、と語った。同主席はまた、ベトナムはカムラン湾に入港するどの外国艦船にも補修サービスを提供する能力を開発する計画である、と述べた。

記事参照:
Vietnam Ready to Host Russian Maritime Base

【関連記事】「ロシア国防省、在外海軍施設建設計画を否定」(BBC News, July 27, 2012)

ロシア国防省は27日、モスクワが1991年のソ連崩壊後初めて在外海軍基地の設置を計画しているとの報道を否定した。これは、ロシア海軍司令官がキューバ、ベトナム及びセイシェルとの間で海軍施設建設について話し合っていると報じられたことに対して、国防省の公式な否定声明である。旧ソ連は、ベトナムのカムラン湾とシリアのタルトゥースに在外海軍基地を保有していたが、2002年にベトナムから撤退し、現在では、1971年に艦隊補給センターとして建設されたタルトゥースにある基地がロシアの唯一の在外軍事施設となっている。この施設は地中海におけるモスクワの主たる戦略アセットであるが、常時数十人の軍要員が駐留するのみで、海軍艦艇も一時的な寄港ができるだけの規模である。プーチンの第1期大統領時代に、キューバにあった傍受施設も閉鎖された。当時、この閉鎖は、米ロ関係改善に向けた措置といわれた。米国防省の報道官は、ワシントンは在外施設の再設置を目指すロシアの動きには関心がないとし、米国はベトナムとの緊密な関係を目指しており、ベトナムはカムラン湾を含む領海内への米海軍補給艦の立入を認めてきた、と述べている。

記事参照:
Russia Denies It’s Pursuing Naval Base Abroad

7月28日「中国、最大・最新の巡視船進水」(The Maritime Executive, July 30, 2012)

中国は28日、最新、最大の巡視船「海巡01」が湖北省武漢の武昌造船廠で進水した。2012年末までに就役する見通しである。「海巡01」は、海洋監視と救難任務を遂行できる最新の司令船で、就役後は上海海事局の管理下に置かれる。「海巡01」の排水量5,418トン、長さ128.6メートル、最大巡航速度37ノット、燃料補給内の最大航続距離1万8,520キロで、捜索救難などにヘリコプターも運用可能で、また緊急の医療手術施設も備え、200人までの人員を収容できる。中国は現在、排水量3,000トン超級の巡視船を2隻、「海巡11」と「海巡31」を保有している。この最新巡視船は、自国の領海や管轄海域の哨戒を強化していくとの中国の新たな決意表明であると見られる。

記事参照:
China Launches the Country’s Largest and Most Advanced Patrol Vessel