海洋安全保障情報旬報 2012年8月11日〜8月20日

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8月11日「南シナ海問題における中国の最近の強硬姿勢の背景—呉・中国南海院院長」(The New York Times, August 11, 2012)

過去数週間、中国は、大型の巡視船を派遣するとともに、官営メディアを通じて中国に対抗するアジアの同盟国を支援しないようにワシントンに繰り返し警告するなど、南シナ海問題に対するその主張を徐々に強めてきた。北京の指導部は、中国が今や長年自国の正当な領土と考えてきた領域内で自由に行動できる地域大国であることを、国内向けに誇示する手段として、南シナ海に対する主張を強めてきたようである。

中国海南研究院の呉士存院長は、中国は南シナ海全域の支配を望んでいるわけではなく、わずか80%の支配を求めているだけである、と語った。中国は最近、海南島から200カイリ足らずの位置にある、永興島に軍警備区を設定し、市議会を選出したが、この狙いについて、呉院長は、「南シナ海にある全ての島嶼—その内、40以上がベトナム、フィリピン及びマレーシアに不法占拠されているが—に対して北京が主権を行使できるようにするためである」と語った。永興島における軍事プレゼンスに対しては、自国領有の島嶼に近いことから、フィリピンが特に神経を尖らせている。永興島での市議会開会と警備区設定を祝う式典に参加した、呉院長は、永興島の約620人の住民は飲料水、電気そしてエアコン設備を享受しており、45人の新議員は海洋に関する条例の制定を目指している、と語った。

中国の「9段線」地図は、政府文書はもちろん、Air Chinaの機内誌にも掲載しれているが、南シナ海における領有権紛争の核心である。「9段線」地図については、どの国も認めていない。呉院長は、中国が主権を主張する島嶼を取り戻すには何年かかるか分からないとして、他の主張国も強固な立場を維持していることに加えて、米国のアジア回帰を「我々が南シナ海問題を中国と関係当事国間で解決する上で障害になると見ている」と指摘した。

記事参照:
China Asserts Sea Claim With Politics and Ships

8月13日「オランダ海軍戦闘艦、ダウ船解放、海賊容疑者6人拘束」(NATO, Press Release, August 13, 2012)

NATO海賊対処作戦、Operation Ocean Shieldの旗艦、オランダ海軍ドック型揚陸艦、HNLMS Rotterdamの武装臨検チームは13日、アデン湾で海賊にハイジャックされたダウ船を解放するとともに、6人の海賊容疑者を拘束した。これは、EU艦隊とNATO艦隊の戦闘艦と哨戒機による緊密な連係プレーの成果である。以下は、その時の様子である。

記事参照:
NATO vessel Rotterdam frees hijacked dhow

8月13日「新海賊対処センター起工式—セイシェル」(Seychelles Nation, August 14, 2012)

セイシェルで13日、新海賊対処センターの起工式が実施された。このセンターは、The Regional Anti-Piracy Prosecution and Intelligence Coordination Centre(Rappicc)で、以前の沿岸警備隊基地、Bois de Roseに建設される。この建設計画は2012年2月、ミッチェル大統領がソマリアに関するロンドン会議に出席した時、キャメロン英首相との間で議論され、了解覚書の調印に至った。このセンターは、資金や武器の提供、海賊行為の実行など、海賊活動に関わる人間に関する調査、処罰、情報収集を行う。Rappiccのクローン所長は、このセンターは海運業界、法令執行機関、警察、情報部門そして軍がパートナーとして海賊問題に取り組む初めての施設である、と述べている。このセンターは、2013年1月末に完成予定であり、2月から運用が開始されると見込まれている。

記事参照:
Work Starts On New Anti-Piracy Centre in Seychelles

8月14日「米中紛争—如何に回避するか」(The Diplomat, August 14,2012)

米国ランド研究所のドビンズ(James Dobbins)研究員は、14日付のWeb誌、The Diplomatに、”Conflict with China: What It Would Like, How to Avoid It”と題する論説を寄稿している。ドビンズは、ランドが2011年10月に発表した報告書、“Conflict with China: Prospects, Consequences and Strategies for Deterrence”の共著者の1人である。ドビンズの論点は以下の通り。(同報告書については、OPRF海洋安全保障情報月報2011年11月号情報分析参照)

(1) 今後20年間で中国のGDPと防衛予算は米国を凌駕すると見られるが、それでも中国の安全保障上の関心や軍事能力の重点は周辺地域に限定されるであろう。米中間の軍事紛争の可能性は考えられないが、この判断は、米国がこのような紛争を引き起こしかねない行動を抑止する能力を維持し続けていくとの評価に基づいている。

(2) 中国の全体的な軍事能力が短期的に米国と同等レベルになることはないが、まず台湾周辺地域で、そしてやや離れた地域で局地的な軍事的優位を近いうちに達成しそうである。そして結果として、これら地域における防衛対象を直接防衛することは今後より難しくなり、最終的には接近することさえ困難になろう。従って、米国は、防衛のためのエスカレーション戦略に、そして抑止のための報復能力に益々依存するようになろう。この点では、米国の核戦力における優位は、余り助けにはならないであろう。何故なら、中国も第2撃能力を保持することになるであろうし、また最も危機的な状況において防衛すべき対象が米国の死活的な利益ではないからである。中国本土の軍事目標に対する通常軍事力による攻撃は、ベストなエスカレーション戦略かもしれないが、両国間の紛争が通常力にのみ限定されると信ずべき理由はほとんどない。

(3) 米国にとって、直接防衛の可能性を高め、エスカレーションの危機を軽減する1つの手段は、中国の周辺国家の能力を強化し、防衛意志を支えることである。こうした戦略は、米国が中国を包囲し、あるいは域内諸国を反中国に糾合しようとしていると受け取られてはならない。そうなれば、かえって中国の敵意を高めるであろう。従って、実際には、反中国連合の出現を回避するためばかりでなく、世界第2の大国からより大きな国際安全保障への貢献を引き出すためにも、中国を協調的な安全保障努力に引き込むための並行的努力が不可欠であろう。

記事参照:
Conflict with China: What It Would Like, How to Avoid It

8月16日「米アラスカ州選出議員、UNCLOS加入承認を期待」(Navy Times, AP, August 16, 2012)

米アラスカ州選出のムルコースキー(Lisa Murkowski)上院議員(共和党)は、上院が11月の選挙後のレームダック期間に国連海洋法条約(UNCLOS)への加入を承認することを期待している。同議員は、北極海における海氷の融解によってビジネスチャンスが生まれているが、米国はUNCLOSに加入しなければ、チャンスを失うことを懸念している。憲法の規定では、上院での加入承認には、3分の2、67人の賛成が必要である。同議員によれば、6月に2人の共和党上院議員はUNCLOSへの加入が米国の利益にならないと懸念を表明したが、このことは、一部の議員が態度を変えない限り、加入反対派が必要な人数を確保していることを意味した。同議員は、今後数カ月間、海運業界、海底通信業界、石油業界さらには観光業界などの代表が加入承認を働きかけていく、と語っている。

記事参照:
Alaska senator hopeful on passing sea treaty

8月17日「ロシアKilo改級潜水艦、国内外の通常型潜水艦需要を満たす」(Defense Update, August 17, 2012)

ロシア海軍のKilo改級潜水艦、Varshavyanka級Project636.3ディーゼル電気推進潜水艦は当初6隻が発注され、現在3隻が建造中である。3番艦のStary Oskolは17日にサンクトペテルブルグのThe Admiralty Shipyardで建造が開始された。同艦は2016年までに黒海艦隊に配備されることになっている。1番艦、Novorossiisk、2番艦、Rostov-on-Donは現在建造中で、Rostov-on-Donは2014年までに黒海艦隊に配備されることになっている。ロシア海軍は、2020年までに8隻から10隻のVarshavyanka級を建造する計画である。発注済みの6隻は、主として比較的浅い海域での対艦、対潜任務遂行を企図している。

ロシア海軍は当初、Project677 Lada級潜水艦の建造を1997年に開始したが、8年間の海上公試の後、建造中止を決め、既に性能が実証済みのProject636 Kilo級の近代化を選択した。Lada級の輸出型がAmur-1650で、現在インドに提供されている。

Varshavyanka級Project636.3潜水艦は、非大気依存推進(an Air Independent propulsion:AIP)を装備していないが、先進的な静粛性を備えている。この潜水艦は、アクティブ・ソナーが出す音波を吸収する吸音タイルで覆われており、敵の水上戦闘艦、対潜哨戒機あるいは潜水艦によって探知されるリスクを軽減している。このタイルは、潜水艦内部からの探信音の反響軽減と、船体内部からの騒音遮蔽に効果があり、パッシブ・ソナーによる被探知距離を小さくする。

Varshavyanka級Project636.3潜水艦は、乗員52人、水中速度20ノット、航続日数45日間、航続距離400カイリ(電気推進)である。533ミリ魚雷菅6門(魚雷18本または機雷24基積載可能)を装備し、SS-N-27 Club-S対地攻撃巡航ミサイルも発射可能である。自艦防衛用に、Strela-3MまたはIgla-1個人携行対空ミサイルも装備している。

Kilo級潜水艦シリーズはロシアの国内及び海外市場で成功した潜水艦で、1982年以来、4種の派生型が建造されてきた。現在、ロシア海軍では17隻、中国海軍では12隻、そしてインド海軍では10隻が運用されている。その他の運用国は、アルジェリア(4隻)、イラン(3隻)、ルーマニア(1隻)、及びポーランド(1隻)である。現在、The Admiralty Shipyardでは、ベトナム向けに6隻のProject636M Kilo級潜水艦が建造されている。

記事参照:
Improved Kilo Class Submarines Fulfill Russian Domestic, International Demand for Conventional Subs

8月20日「東アジアの海洋問題、米は強固な対応を—米民主党ウェッブ上院議員」(The Wall Street Journal, August 20, 2012)

米上院外交委員会東アジア太平洋問題小委員会のウェブ(James Webb)委員長(民主党)は、20日付けの米紙、The Wall Street Journalに、“The South China Sea’s Gathering Storm”と題する論説を寄稿し、東アジアの海洋問題に対して米国はもっと強固な対応を取るべしとして、要旨以下のように述べている。

(1) 第2次世界大戦以降、朝鮮とベトナムでの戦争で犠牲を払ったが、米国は、アジア太平洋地域の安定にとって不可欠の保証者であることを示してきた。しかし、この地域が繁栄するに伴って、主権を巡る抗争が激しさを増してきている。この2年間、日本と中国は、日本の管轄下にあると国際的に認められている尖閣諸島をめぐって公然と衝突してきた。中国とベトナムは西沙諸島に対する領有権を巡って、また中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ及びマレーシアは南沙諸島に対する領有権を巡って抗争している。中でも、南シナ海の領有権を巡る抗争は最も緊張を孕んでいる。中国は7月21日、西沙諸島の永興島に三沙市を制定した。更に、7月22日には同島に警備区を置き、7月31日には、南シナ海において「戦闘即応態勢による定期的な哨戒活動」を実施すると発表した。中国は、様々な実際的理由から、東アジア大陸から東方にフィリピンまで、そして南方にほぼマラッカ海峡にまで至る広大な海域を取り込もうと一方的に決断した。

(2) こうした中国の動きに対して、米国の反応は抑制されたものだった。国務省は8月3日になって、三沙市の制定や警備区の設置に憂慮を表明した。この声明は米国のこれまでの立場からはみ出るものではなかったが、中国は直ちにこれを非難した。実際のところ、米国の長年にわたる煮え切らない姿勢が中国を増長させてきた。アジア太平洋海域の主権問題に関する米国の政策は、米国はどちらにも与せず、こうした問題は関係当事国間で平和的に解決されねばならないというものである。しかし、弱小な周辺諸国はより強力な国際的介入を繰り返し求めてきた。

(3) 一方、中国は、こうした問題は全て当事国同士の2国間で解決されることを強く主張してきた。結局、このことは、問題は解決されないか、あるいは中国側の条件でのみ解決されることを意味する。中国の域内における増大するパワーを前に、ワシントンは、いずれの側にも与しない立場を取ることで、事実上、中国のかつてない攻勢的な行動を可能にする結果を招いた。

(4) 米国、中国そして東アジア全ての国は今や、避けて通れない正念場を迎えている。関係当事国が平和的解決を求めている領有権を巡る抗争と、目に余る好戦的行動とは全く別である。この問題にどう対応するかは、南シナ海のみならず、東アジアの安定そして米中関係の将来にも、大きく影響するであろう。歴史は、一方的な侵略的行動に何の対応もしなければ、事態は決して好転しないことを教えている。米国では大統領選に関心が集まっているが、東アジアの全ての国は、南シナ海における中国の行動に対して米国がどう出るかを注視している。これら諸国は、これを米国にとっての試金石と見、米国が東アジアの安定の保証者として気が進まないが必要な役割を果たすのか、それともこの地域が再び好戦的行動と威嚇に支配されることになるのか、見極めようとしている。

(5) 1931年の中国は、日本が満州に侵攻し、国際社会がそれに対応しなかった事態を理解している。問題は、2012年の中国が受け入れ可能な国際的基準によってこの問題の解決を図ることを真に望んでいるのか、そして一方、2012年の米国が、安定への唯一の道と強く主張するだけの意志と能力を持っているかどうかということである。

記事参照:
The South China Sea’s Gathering Storm