海洋安全保障情報旬報 2017年9月1日-9月30日

Contents

はじめに

 今回の海洋安全保障情報旬報も、その主役は中国である。その中でも注目されるのは、中国が新たに打ち出した「『四沙』戦術」に関する論考である。

 周知のとおり、中国はこれまで、南シナ海における自国権益の主張の根拠として九段線の考え方を持ち出している。9本の段線に囲まれた海域を「中国の歴史的な海」と定義するこの九段線主張は、中国も批准する国連海洋法条約(UNCLOS)に規定する権利とは必ずしも一致しない。ここに、中国の海洋戦略における一つの矛盾が露呈する。

 しかし、今般、馬新民・中国外交部条約法規司副司長が先月行われた米国務省担当者との非公開協議において、南シナ海の領有権主張に関し、新たに「四沙」という考え方を明らかにした。中国は以前から、西沙(パラセル)諸島、南沙(スプラトリー)諸島及び中沙(マックルズフィールド)諸島に対する領有権を主張してきたが、最近になって南シナ海北方の香港近海に位置する東沙(プラタス)諸島を4つ目の領有権主張海域に加えたのである。「一帯一路」を掲げ、関係国とのwin-win協力体制の構築を標榜する中国であるが、南シナ海の領有権主張に関しては、従来どおりの方針で進めていくことが明らかになったと言えよう。この「『四沙』戦術」に早速反応した米国退役軍人や法学者らの論考は、中国の主張を冷静に断じたものであり、今後の中国側の反応に注目したい。

91日「南シナ海を巡る最近の動向:アメリカは影響力を失ったか―米専門家論評(その1)」(The Diplomat.com, September 1, 2017

 アジア太平洋問題の専門家で、ベトナム系米人で米海軍退役少佐Tuan N. Phamは、91日付のWeb誌、The Diplomatに、"The United States Has Not Lost the South China Sea" と題する長文の論説を寄稿し、幾つかの後退にもかかわらず、アメリカは南シナ海における影響力を失ったわけではないとして、要旨以下のように述べている。(この論説は2部構成である。【関連記事】はその第2部である。)

1)南シナ海仲裁裁判所の裁定から1年後、中国は、裁定による法的、外交的衝撃から立ち直り、南シナ海の他の領有権主張国に対して高圧的な外交を再開し始めた。こうした動向は、この地域とアメリカにとって何を意味するのか。この2部構成の論説の第1部では、最近の動向に対する認識とその含意について論じる。

2)アメリカや他の国の専門家が最近の動向を分析し、その戦略的含意を評価しているが、彼らの評価は、この地域のおけるアメリカの影響力の減退から、アメリカによる南シナ海の喪失まで、様々である。例えば、

a.中国南海研究院の研究者は、最近のASEANの会合が減退しつつあるアメリカの地域的影響力を象徴するものであり、しかもその減退は絶対的にも、また中国のそれに比して相対的にもそうである、と指摘している。この研究者は、「東南アジアにおけるアメリカのソフトパワーによる結びつきは、アメリカが考えているよりも皮相的で、儚いものである」ことをアメリカは理解しつつある、と述べている。

b.また、英王立国際問題研究所連携研究員は、ベトナムが北京の脅しに屈して石油開発を中止したのは、中国の隣国が最早アメリカを後ろ盾として期待していないことを示している、と述べている。もしハノイがワシントンを後ろ盾と考えていたとしたら、北京を抑止でき、この地域におけるアメリカの信頼を強化できたであろう。反対に、ワシントンは、この地域が北京に靡くままに放置してきた。

3)実際、アメリカは近年、特に一部の同盟国やパートナー諸国、そして地域機構に対する影響力を低下させてきた。その理由は様々だが、そのほとんどは、南シナ海を顕著な事例とする、地域覇権を巡る米中間の地政戦略的抗争に関連している。ワシントンは、南シナ海における中国の高圧的な行動に対して、北京に配慮しながら、同時にバランスをとるという、曖昧な抑制的政策で対応してきた。前者は、中国を安心させるとともに、地域の現状を維持し、北京もそこから大きな利益を得てきた国際システムを受容する、協調的関係を北京に慫慂するものである。一方、後者は、ソフトパワーとハードパワーの統合による抑止力を通じて、地域秩序を作り替えないよう北京に思い止まらせることを狙いとするものである。当初、アメリカの政策は、協調的なものであったが、北京の行動がますます執拗になってきたことから、バランスを重視する抗争的なものになってきた。更に、中国が提唱する「新型の大国関係」に対するアメリカの対応は、多様で、時に混乱している。北京とワシントンの間には、「新型の大国関係」に対する認識と理解に相違がある。アメリカは、この関係を、抗争を管理し(不安定化を阻止し)、協調を強化する(安定化を促進する)方策として見ている。一方、中国は、これを、中国の新しい世界的な地位を認知し、核心的利益―領土保全と、その延長として南シナ海における海洋主権の主張―を尊重させるための枠組みと見なしている。

4)ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイ及びシンガポールといった東南アジア諸国は、米中間の戦略的抗争による不確実性や不安定性の増大に対するヘッジを求める安全保障戦略を追求することによって、中国の侵略的行動に対応してきた。これら諸国は、①アメリカとのより強固な関係を追求し、②中国との良好な結びつきを維持し、③自国の軍事能力を強化し、④これら諸国間の安全保障協力を促進し、そして⑤紛争を管理し、米中抗争を緩和するために地域機構(ASEAN)や国際法(UNCLOS)に期待することで、彼らの安全保障上の懸念に対処している。これら政策の多くは、①アメリカのコミットメントと政策の継続性の不確実さ、②中国の近傍という地理的現実、そして③北京とワシントンの双方との良好な関係から得られる経済的利益によって、動機づけられている。結局、このことは、域内の多くの国がアメリカか中国かという選択を望まず、同時に北京に対抗する同盟形成と受け止められかねない、如何なる構想にも抵抗するという、地政学的状況を反映している。要するに、東南アジア諸国の指導者は、最近のアメリカの消極的で妥協的な姿勢に対応して、それぞれの対外政策を調整してきているのであり、ワシントンと北京による地域覇権を巡る抗争が続く限り、そうした姿勢を続けるであろう。

5)アメリカの影響力がある程度低下したとはいえ、南シナ海を喪失したわけではない。南シナ海は、如何なる再調整も一時的なものとする、流動的な状況にある。中国に有利な戦略的変化―①フィリピンの対外政策の変化、②マニラとワシントンが仲裁裁判所の裁定を活用できなかったこと、③マニラが議長を務めた一連のASEAN会合の結果、④北京とバンコックの関係強化、⑤中国とラオス、カンボジアの緊密な紐帯、⑥アメリカのTPPからの撤退、⑦IMFの特別引出権バスケットへの人民元の追加、そして⑧中国経済の世界第2位への台頭―は、恒久不変のものではない。域内の雰囲気は、①マニラと北京の希薄な関係、②ハノイと北京との摩擦の拡大、③最近のAFRにおけるハノイのアメリカ寄りの姿勢、④ハノイによる2018年の米空母寄港の受け入れ合意、⑤ジャカルタがナトゥナ諸島周辺海域を「北ナトゥナ海」と命名したこと、⑥日米豪3カ国連携の強化、⑦東京による東南アジア諸国への継続的な関与、⑧アクト・イースト政策によるニューデリーの東南アジアへの急速な接近、そして⑨中国経済の減速と国内問題に対する根強い懸念に見られるように、地政学的、経済的潮流によって常に変化するものである。従って、アメリカが南シナ海における戦略的イニシアチブを取り戻し、低下しつつある影響力を回復する機会は残っている。

6)以上が、南シナ海における最近の動向とその戦略的含意に対する筆者(Tuan N. Pham)の結論である。第2部では、アメリカが潮流を変え、南シナ海における戦略的イニシアチブを取り戻し、影響力を回復し、南シナ海の喪失を回避するための方法と手段を検討する。

記事参照:The United States Has Not Lost the South China Sea

【関連記事】

「南シナ海を巡る最近の動向:アメリカが影響力を回復するための方策―米専門家論評(その2)」(The Diplomat.com, September 4, 2017

 アジア太平洋問題の専門家で、ベトナム系米人で米海軍退役少佐Tuan N. Phamは、91日付のWeb誌、The Diplomatに、"The United States Has Not Lost the South China Sea" と題する長文の論説を寄稿し、前掲の第1部の論説を踏まえて、アメリカが潮流を変え、南シナ海における戦略的イニシアチブを取り戻し、影響力を回復し、南シナ海の喪失を回避するための方法と手段について、要旨以下のように述べている。

1)アメリカは、如何にして南シナ海における潮流を逆転できるか。ワシントンは、「実体的な」戦略的代償を北京に強いることができなければ(そしてアメリカ自身もそうすることによる戦略的対価を受容しなければ)、現在の潮流を長引かせる危険がある。以下は、そのための幾つかの方策と手段である。

2)戦略的抗争に対する積極的な取り組み

a.2つの大国―支配的地位にある大国(アメリカ)と台頭する大国(中国)による地域戦略が競合し、相手の安全保障領域や経済領域に及ぶ時、その地政学的景観は摩擦度の高いものとなる。この抗争を恐れることなく、積極的に取り組むべきである。

b.まず、アメリカは、南シナ海を自国に直接に関わる戦略的問題として常に位置づけていくことで、中国に対してこれに従って行動するよう強要していくことである。南シナ海はアメリカの国益であることを北京に明確に伝えるとともに、南シナ海を米中間の「2国間」問題とすることによって、北京に対して、その戦略を再考し、再調整させることができるかもしれない。単純化して言えば、北京に対して、自らの国益に照らして南シナ海かワシントンとの戦略的関係かの、いずれがより重要であるかの選択を迫るのである。従って、アメリカは、①更なる人工島の造成と軍事化反対、②南シナ海の現状変更のための武力の行使やそれによる威嚇に反対、③法的拘束力を持つ行動規範の実現、そして④国連海洋法条約(UNCLOS)に基づくEEZ内での軍事行動の許容などについて、断固として、かつ首尾一貫して発言していかなければならない。

3)アメリカが維持すべき関心と重点

a.今後何年間かを通じて、南シナ海における中国の威嚇的な行動に対する「最も効果的な対抗策、あるいは抑制策」は、①同盟国とパートナー諸国に対して再保証し、②決意とコミットメントを誇示し、③軍事態勢、能力及び即応力を強化し、④多国間及び2国間の貿易協定による経済的結びつきを維持し、そして⑤戦略的説話能力(輿論戦)で優位に立つために、ソフトとハードの抑止力(多国間外交、情報の支配、軍事力の展開や経済統合)を統合し、調整することに、アメリカの関心と重点を指向し続けることである。こうした一連の努力は、北京に最大の戦略的代償を強いることになろう。

b.この地域において、アメリカが安全保障パートナーとして引き続き好まれるであろうが、他方で、中国も、経済的パートナーとして選ばれつづけるであろう。米中間の摩擦が増大し、先鋭化するにつれ、何れの側を選択するかという大きな圧力を感じている域内諸国にとって、この複雑でダイナミックな関係におけるバランスの維持は、益々困難な課題となるであろう。従って、ワシントンは、現在の同盟国やパートナー諸国との関係を強化するとともに、ハノイやニューデリーとの新しい関係を構築する機会を視野に入れて、根気よくかつ優先的に、この地域とのより強い安全保障上の結びつきを追求するとともに、(政策の一貫性、決意そしてコミットメントにおいて)より頼りがいのあるパートナーであるように努めなければならない。

c.中国は、UNCLOSの加盟国であるが、しばしばその条項に違反してきた。対して、アメリカは、未加盟国だが、公海の自由、グローバルな通商活動そして国際的法の支配に関して、最も優れた優等生であった。今こそ、ワシントンはUNCLOS加盟を真剣に検討すべきである。未加盟のままでは、北京は国際的規範に対するワシントンの誠実さに疑念を高めるだけである。

d.北京と張り合っていくためには、ワシントンは、中国が優位に立つ言論の場(輿論戦)に対する方針を変えなければならない。これまでのワシントンの声明は、しばしば北京の戦略的メッセージに単に反応するだけの防御的なものであった(時には、全く何もしなかった)。従って、アメリカは、先を見越してメッセージを発する主導権を握らなければならない。そして6月のシンガポールのシャングリラ対話におけるマチス国防長官のスピーチのように、攻勢に転じなければならない。

e.アメリカは、南シナ海に対する中国の行き過ぎた海洋権利主張に挑戦するため、プレゼンスの展開や「航行の自由」作戦を継続しなければならない。もしそうでなければ、北京を一層大胆にすることになる。

f.中国の海洋戦略に対する最も効果的で持続的な対抗策は経済統合である。アメリカは、2国間合意に向け前進し、TTP-11を支援するか、あるいはアメリカがTTP自体に復帰することを再考すべきである。

4)南シナ海仲裁裁判所の裁定の正統性に対する言動を伴った支持

a.ワシントンは、北京に対して、国際システムに積極的に寄与する責任ある国際的なステークホルダーとして行動するよう慫慂すべきである。そのためには、以下のアメリカの立場を繰り返し表明することである。即ち、①アメリカは、国家間の紛争は武力による威嚇やの行使によらず、かつ国際法に合致する方法で平和的に解決すべきであるとの原則を支持する。②アメリカは、海洋の自由の原則を支持する。③アメリカは、東シナ海と南シナ海における領有権紛争に対しては何れの側にも与しないが、紛争は平和的に解決されるべきである。⑤領海とEEZに対する主張は、海洋に関する国際慣習法に依拠すべきであり、従ってその基点は陸上由来でなければならない。南シナ海における主張は陸上由来ではなく、基本的に不備がある。⑥関係各国は、現状を変更し、平和と安全を危うくする挑発的あるいは一方的な行動を採ってはならない。アメリカは、大規模な人工島の造成と軍事化が平和と安全を求める域内の希望に沿うものとは見なさない。⑦アメリカは他の多く諸国と同様に、沿岸国がUNCLOSに基づいて自国のEEZ内での経済活動を管轄する権利を有すると見なすが、EEZ内における他国の軍事的活動を規制する権利については、これを有しないと考える。⑧他国のEEZ上空の国際空域におけるアメリカの軍事的監視飛行は、国際法の下で合法であり、今後も継続していく。

5)ワシントン(とその同盟諸国)は、南シナ海における北京の過剰な海洋権利主張に挑戦し続けていかなければならない。ワシントンにとって、戦略的主導権を奪回し、この地域における影響力を回復し、そして南シナ海の喪失を回避する機会の窓は、間もなく閉じられるかもしれない。北京にとって、アメリカの引き続く消極的かつ妥協的姿勢は、自らの戦略的野望と戦略を妨害されず、また挑戦されることなく遂行することに対する、アメリカの暗黙の了解と同意を意味しよう。何故なら、アメリカのそうした姿勢は意図した選択であって、押しつけられた現実ではないからである。

記事参照:How America Can Keep From Losing in the South China Sea

93日「中印国境紛争の解決メカニズムから学ぶべき教訓―米専門家論評」(South China Morning Post.com, September 3, 2017

 米シンクタンクThe Institute for China-America Studies上席研究員で、インド系のSourabh Guptaは、93日付の香港紙South China Morning Post(電子版)に、"What South China Sea rivals can learn from the Doklam border dispute" と題する論説を寄稿し、インドと中国の国境紛争の解決は、両国が長年積み重ねてきた国境管理慣習メカニズムの強靱性の証左であり、注意すべき教訓であるとして、要旨以下のように述べている。

1)中国とインドが6月中旬、中国・ブータン・インド三角地帯付近の狭い高原において何時の間にか膠着状態に陥ったのと全く同じように、この膠着状態は、中印両国の手際よい外交によって、何時の間にか沈静化してしまった。対立の舞台となった、ドクラム地帯のドラム高原は、中国の実効支配下にあって、インドにとっても重要な安全保障上の利害を有する、中国とブータンの間の領有権紛争地帯という以前の状態に再び戻った。中印両国の動機と選択した行動方針については多くの疑問があるが、以下の点については疑問の余地がない。即ち、危機管理メカニズムとして機能するとともに、国境地帯に平和と平穏をもたらすことを意図した、一連の中印国境管理の慣習が、膠着期間を通じて見事に堅持されたことである。特に以下の2つの慣習―①国境の両サイドの兵員は軽武装とし、国境地帯で予期しない遭遇事案が出来した場合には、最大の自制的行動をとること、そして②指定地域内における武装要員の配備数の規制、そしてその後方への戦車、大口径砲及び地対地ミサイル配備の上限規制―が、重要な役割を果たした。

2)ドラム高原における中印国境管理慣習の適用が成功したことは、南シナ海と東シナ海、そして広く西太平洋にとっても大きな意味がある。

a.何よりもまず、中国との国境管理あるいは危機管理措置は信頼醸成措置である。中国とインドが署名した5つの協定はいずれも1988年以降の関係修復期に実現したものだが、それぞれの協定は、相手の意図に対する信頼を醸成し、大規模な国境紛争の解決に関する相互の議論を活性化させた。南シナ海の行動規範や、東シナ海における海洋通信メカニズムを実現するためには、まず、政治的に平穏で相互信頼の関係が、北京とASEANや日本との間でそれぞれ醸成されなければならない。現在の日中関係は、こうした段階にはない。

b.第2に、中国との国境管理や危機管理メカニズムを構築するには、忍耐と不屈の努力が必要である。中印間には1つの権威ある文書が存在するわけではなく、20年間にわたって確立されてきた慣習をとりまとめた一連の文書が存在する。

c.第3に、中国との国境管理や危機管理メカニズムは現在も進展中である。インドが中国との間で署名した5つ―1993年、1996年、2005年、2012年そして2013年の合意文書は、それぞれ以前の合意の上に重ねられたものであり、最近の3つの文書はその後に発生した間隙を埋めるものであった。2013年の合意文書では、一方の側による哨戒活動に対する他方の攻撃的な追尾によって生起しかねない対決状態を阻止するために、「追尾せず」との条項が追加された。この条項に倣って、中国とインドは、両国が了解する実効支配線(Line of Actual Control: LAC)に近接した地帯における、建設関連の活動を禁止する追加文書を作成すべきである。北京とニューデリーはまた、双方の国境部隊の地理的に一層離れた引き離しを実現すべきである。

d.最後に、中印間の国境管理と危機管理の取り決めは自発的なものであり、双方の誠実さに全面的に依拠している。条項は規範的だが、拘束力のある検証メカニズムは含まれていない。双方とも、自国の利益に適さない条項を無視する自由を保持しているが、これらの合意文書を最大限の敬意を払う「紳士協定」と見なしている。従って、南シナ海における領有権主張国とASEANも、個々の合意を全て1つの高度に法的な最終文書の中に積み重ねるのではなく、むしろ2国間の協議メカニズムや行動規範の条項の中に柔軟に取り込むことによって成果が得られるであろう。そうすることが、海洋危機管理における相互作用に安定性と強靱性を付与するであろう。

(3)中国とインドは、相互不信の関係から、国境地帯において、そしてそれを超えた地域において、容易ならざる多くの挑戦に直面している。一方、国境管理慣習の成功は、相互の結びつきの深さと強靱性の面で正しく評価されていない。ドクラム危機における成功は、国境管理慣習の強靱性の証左である。アジアの海において北京に対抗する領有権主張国と、西太平洋地域における北京の戦略的抗争相手は、これらの危機管理メカニズムの教訓に注意を払うことが賢明であろう。

記事参照:What South China Sea rivals can learn from the Doklam border dispute

96日「中国砕氷船『雪龍』、北西航路通航」(The Globe and Mail.com, September 10, 2017

 中国の新華社通信によれば、中国の砕氷船「雪龍」は96日、初めて北西航路を通航し、「将来の北西航路の商業通航に向けて、多くの経験を得た。」新華社通信によれば、パナマ運河を経由するニューヨークから上海までの1500カイリの従来のルートに比して、北西航路経由ルートは8,600カイリで、7日間の航行日数の短縮となる。また、新華社通信によれば、2017年の夏期、中国の6隻の商船がロシア北方航路を通航した。カナダは、北西航路に対して、歴史的権原に基づく主権を主張している。アメリカはこの主張に対して長年にわたって異議を唱えてきたが、中国が北西航路の通航に先立って、カナダに事前許可を求めてきたことは、カナダにとって重要な意味を持つことになろう。

記事参照:China used research mission to test trade route through Canada's Northwest Passage

【関連記事】

「中国初の国産砕氷船、『雪龍2』と命名」(China Daily.com, September 27, 2017

 926日付けの中国紙、科学技術日報の報道によれば、中国初の国産砕氷船は、「雪龍2」と命名された。同船は、中国国営造船とフィンランドのAker Arctic Technologyとの合同設計で、上海の江南造船集団公司で建造され、201612月に進水した。中国極地研究所によれば、同船は、全長122.3メートル、厚さ最大1.5メートルの海氷面を3ノットの速度で航行できる。「雪龍2」は、2019年に完成予定である。中国が現在保有する砕氷船、「雪龍」はウクライナで建造され、1994年に就役した。

記事参照:China's first home-built icebreaker named Snow Dragon 2

Photo: An artist's impression of Xuelong 2. [Photo/Polar Research Institute of China]

910日「インドネシア、中国の領有権主張に対抗―米紙報道」(The New York Times.com, September 10, 2017

 910日付の米紙The New York Times(電子版)は、インドネシアが最近、中国の領有権主張に対して強気の姿勢を見せているとして、要旨以下のように報じている。

1)他の領有権主張国が南シナ海における中国の広範な領土的主張に対して手を拱いている中で、インドネシアは、ナトゥナ諸島の軍事力増強や海軍艦艇の配備を計画するなど、次第に強気な姿勢を見せ始めている。シンガポールの東南アジア研究所上席研究員Ian J. Storeyは、インドネシアは「既に南シナ海を巡る紛争当事国となっており、この現実を早く認識すべきである」と述べている。中国との係争海域はインドネシアの南シナ海北方の資源豊富な海域であるナトゥナ諸島海域に集中しており、同海域はベトナムのEEZにも近接している。係争海域の一部を「北ナトゥナ海」と命名するに先立って、インドネシアは、2016年からナトゥナ諸島における軍事力を増強し始めた。これには、大ナトゥナ島における大型艦艇の収容可能な軍港の拡張や、大型軍用機の発着陸可能な空軍基地の滑走路延長などが含まれる。

2)ブルネイ、マレーシア、フィリピンそしてベトナムといった近隣諸国とは違って、この数十年のインドネシアの公式政策は、インドネシアは南シナ海を巡る中国との紛争当事国ではないというものであった。しかしながら、インドネシアと中国は、ナトゥナ諸島を起点としたインドネシアのEEZ内で、2016年に3度にわたり小競り合いを演じている。中国外交部は、3回目の小競り合いから間もない20166月に声明を出し、中国の「9段線」内にはインドネシアのEEZ内の「伝統的漁場」が含まれる、と初めて明言した。一方、インドネシアのウィドド大統領は、201410月就任以来、自国を海洋国家と位置づけ、インドネシア水域における外国漁船の不法操業を一掃するよう関係当局に命じてきた。大統領は2015年の訪日中時の会見で、中国の「9段線」には国際法上の根拠がないと述べた。大統領はまた、3回目の小競り合いからわずか数日後に、ナトゥナ諸島沖合の軍艦で閣議を開催した。専門家は、この行動を中国に対するウィドド大統領の決意の表明と見ている。

3)インドネシア海洋問題省海洋主権担当次官は714日、大々的に記者会見を開き、「北ナトゥナ海」という新名称の発表や、2005年以降初めてとなる国土地図を公開し、ナトゥナ諸島由来のEEZ北限の境界を新たな公式地図で指定した。同次官は会見で、新地図が「天然資源の探査区域を明確に」示していると指摘した。同日、インドネシア国軍とエネルギー鉱物資源省は、ナトゥナ諸島のEEZ内における豊かな漁場や海洋石油、天然ガスの生産・探査活動の安全を確保するために軍艦を派遣するとの了解覚書に署名した。その際、国軍最高司令官は、海洋エネルギー探査及びその生産活動が「外国籍船舶によってしばしば妨害されてきた」と述べた。一部の専門家は、外国籍船舶とは中国船を意味すると見ている。インドネシア国防大学の専門家は、「北ナトゥナ海」と公式に命名したことによって、「インドネシアが間接的に領有権紛争の当事国になった」ことを意味する、と指摘している。2016年の最初の小競り合いは中国海警局とインドネシア海洋省の巡視船だけが関係したものであったが、インドネシアは海軍力では中国海軍に太刀打ちできない。従って、専門家は、両国海軍によるインドネシアのEEZ内での衝突は起こり得そうにもない、と見ている。

4)一部の専門家は、中国がインドネシア国内における最大の投資国であり、かつ貿易パートナーでもあることを考えれば、ジャカルタが少なくとも公式に中国の領有権主張に挑戦するには限界がある、と見ている。とはいえ、ナトゥナ諸島を巡るインドネシアの強気の軍事的態勢やその他の動きが中国に対する警告メッセージであることは明白である。他方、オーストラリアのThe Lowy Institute for International Policy研究員Aaron Connellyは、「こうした政策は、インドネシアを領有権主張国とするものではない」として、「インドネシアは、『9段線』の法的正当性を認めておらず、従って、自国のEEZと中国の『9段線』覆域海域とは重複していないと主張している」と指摘している。また、彼は、「中国は『伝統的漁業権』を有すると主張しているが、これに対して、インドネシアは現在、法的に正当な手段で対処している。これは、中国に対抗するにはずっと効果的な方法だ」と評価している。インドネシアのThe Center for Strategic and International Studies上席研究員Evan A. Laksmanaは、「北ナトゥナ海」の命名が中国との紛争の引き金を引くことを意図したわけではないとの見方に同意しながらも、「インドネシアの新地図を裏付ける国際法上の根拠は明確であり、我が国はナトゥナ海域における中国の主張を認めない。また、自国の地図について、北京と交渉したり、同意を得たりしようとも思わない」と語った。

記事参照:Indonesia, Long on Sidelines, Starts to Confront China's Territorial Claims

911日「『一帯一路構想』に対する南アジア諸国の温度差中国専門家論評」(China US Focus.com, September 11, 2017

 中国社会科学院世界経済・政治研究所国際戦略室主任、薛力は、Web誌、China US Focus911日付で、"The Belt and Road Is Coming to South Asia, But Not Everyone Is Enthusiastic" と題する論説を寄稿し、南アジア諸国は「一帯一路構想」(BRI)において大きな役割を期待されているが、BRIに対するこれら諸国の関心には温度差があるとして、要旨以下のように述べている。

1)「一帯一路構想」(BRI)に対して最も熱心な国はパキスタンであり、次いでバングラデシュとスリランカ、その次にアフガニスタン、ネパール及びモルディブが続くが、ブータンとインドはあまり熱心ではない。

a.パキスタンの中国との緊密な関係は長年にわたるものであり、時の政権や指導者に左右されるようなものではない。中国とパキスタンは、BRIの旗艦プロジェクトとして「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)を推進しており、両国ともCPECから大きな利益を得よう。

b.バングラデシュは、パキスタンと同じほどBRIに熱意を示している。中国は、バングラデシュの地理的位置を理解し、大きな人口を抱え、工業化推進への強い決意を持ち、その政治、安全保障環境が安定していることを認識している。それ故、中国のバングラデシュに対する投資は年々増大しており、同国は、BRIを推進する上で、中国にとってパキスタンに次ぐ安定したパートナーになると見られる。

c.スリランカは、2015年までの10年間に及ぶラジャパクサ前政権下で、中国と友好関係を築き、南アジアにおける主要なパートナーとなった。2016年の同国の政権交代によって、対中関係は後退している。ラジャパクサは在任中、ハンバントータ港建設プロジェクトを推進したが、退任後は建設反対に回った。

d.アフガニスタンは、政治的安定と安全保障が現在の重要課題であり、現在のところ中国企業に対して安全を保障できないと見なされている。従って、同国は、南アジアにおけるBRIの重要国とはいえない。ネパール、モルディブ及びブータンの外交政策は、インドによって制約されている。

e.インドは、明らかに領土主権の観点からCPECに反対している。また、インドは、国防上の理由から、バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊を拒否しており、中国・ネパール・インド経済回廊にも反対している。インドは、BRIに対抗して、インド洋沿岸諸国を結ぶ、Spice Route initiativeProject Mausamを打ち出している。インドは、BRIへの参加を拒否しているばかりでなく、南アジア諸国に対しても参加しないよう圧力をかけている。

2)こうした環境下で、中国は南アジアで如何なる戦略を推進すべきか。困難が予想されるが、中国は、インドを無視したり、対立したりすべきではない。特定の経済プロジェクトに関する協力を推進すべきだし、CPECをインドに延長する可能性も検討すべきである。中国・ネパール・インド文化回廊は、チベット、ネパールそしてインド北部の仏教徒の聖地を結ぶ、古代アジア文明の共存共栄の新たなパラダイムとなる可能性がある。BRIは長期的な戦略構想であり、従って、短期的な利益より、持続性が重要である。故に、BRIの推進に当たっては、協力プロジェクトのスピードや量的規模ではなく、質を重視すべきである。

記事参照:The Belt and Road Is Coming to South Asia, But Not Everyone Is Enthusiastic

911日「中国の武器輸出戦略の狙い―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, September 11, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際学院(RSIS)准教授Michael Raskaは、911日付のRSIS Commentaryに、"Strategic Contours of China's Arms Exports"と題する論説を寄稿し、増大する中国の武器輸出の戦略的狙いについて、要旨以下のように述べている。

1)過去10年の間に、中国は、地政学的な付帯条件なしで、安いコストに加えて、妥当なサービスとアップグレード込みの一括輸出契約によって、大口の武器輸入国から主要な武器輸出国への転換を加速してきており、今や世界の主導的な武器輸出国の1つになりつつある。SIPRIの最新のデータによれば、中国の主要武器の輸出は2012年から2016年にかけて74%増加し、世界武器輸出の占めるその割合は3.8%から6.2%に増加し、アメリカとロシアに次ぐ世界で3番目の輸出国となっている。中国の武器輸出の地理的な拡がりと受領国も増加しており、中国は2012年から2016年にかけて44カ国に武器を輸出し、その内60%以上がパキスタン、バングラデシュ及びミャンマー向けで、22%がアフリカ諸国向けであった。一方で、中国の武器輸入依存度は低下してきており、2012年から2016年の間に11%減少し、2000年代初頭には群を抜いて世界最大の武器輸入国であったが、この間に4位にまで下がった。しかしながら、中国は、J-10戦闘機やFC-1戦闘機に搭載のロシア製Al-31FNRD-33エンジンなど、航空宇宙エンジンを含む重要な武器システムや先進的な部品は依然、輸入に依存している。例えば、中国の武器輸入の30%が航空機エンジンで、ロシア(57%)、ウクライナ(16%)及びフランス(15%)から輸入した。

2)世界的な武器市場における中国の増大するプレゼンスは、新しく比較的先進的な武器や軍事技術を製造する、中国の防衛、科学、技術、イノベーション及び産業基盤の相対的進歩を反映している。中国は、イノベーションに対する牢固な障壁を克服するために軍民統合を活用しながら、技術移転と武器輸入に対する外国依存を軽減するために国産イノベーションを育成することによって、グローバルな軍事技術の最先端基盤に追いつくことを目指してきた。その結果、輸出向けの中国製武器のカタログは、1990年代後半の古典的な品目と比べて、特に航空宇宙などの分野で大幅な進歩を示している。中国の第4世代の2種の航空機、FC-1/JF-17(パキスタンとの共同開発)及びJ-10は量産段階に入った。新型の戦闘練習機、第5世代戦闘機(J-31)、ミサイルシステム(対艦、対戦車、携帯式)、SAMHQ-9)、レーダー、輸送機(MA60Y-20)、ヘリコプター、無人航空機、新型バージョンのType 90戦車(VT-3VT-4VT-5)、新世代の軽装甲車(VN-4)、自走式及び牽引式迫撃砲、多連装ロケット砲、トラック、艦艇(Type 053054A056)、及び潜水艦(S26T /Type 039A)など、国際航空宇宙、防衛市場での中国のプレゼンスも高まってきている。

3)中国は、ロシアや西側の武器輸出国との技術的なギャップを縮小し、新世代の軍事技術を以て、サウジアラビア、モロッコ、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、メキシコ、ナイジェリア、ケニア、タイ、インドネシア及びカザフスタンを含む、新しい市場に参入することができた。そうすることで、中国の現在の武器輸出戦略は、多方面で先行国と「競争する」方向を指向している。ラテンアメリカ、アフリカ及び中央アジアの発展途上諸国において、中国は、西欧諸国の影響力を相殺しつつ、ロシアに替わる武器輸出国として自国を位置づけようとしている。中国の武器輸出業者は、武器輸出契約の金銭的条件を交渉する際に柔軟な対応をすることで、価格面で他国と競争する。しかしながら、同時に中国は、例えば東南アジアなど、中国の国益にとって不可欠な地域では、戦略的依存関係を構築するためのパワーと影響力を行使する外交政策の手段として、武器輸出を活用している。

4)東アジアでは、「軍備競争」が加速している。中国の防衛産業能力は、人民解放軍を、完全に「情報化された」戦闘部隊―即ち、持続的な統合作戦、戦争以外の軍事作戦、国境を越えた核心的な国家安全保障利益を護るための中国の戦略的抑止力に関連した任務を遂行できる戦闘部隊―への転換を加速させることが可能である。同時に、中国は、軍事技術の発展と武器輸出先の拡大を通じてだけでなく、より重要なのは、地理的に異なる地域での戦略的提携と勢力均衡の輪郭に影響を及ぼす戦略的選択を通じて、軍備競争の方向性とその性格を形成する能力を高めている。その結果、この地域の2つの大国(中国と日本)による優位を目指す現在進行中の抗争、朝鮮半島の将来、東シナ海と南シナ海における領有権紛争に見る域内抗争、そして恐らく最も重要な、長期的な域内における戦略的抗争の輪郭と米中間の抗争は、北京の地政学的、経済的野心との結び付き強めた、中国の防衛産業戦略と武器輸出戦略がもたらす結果によって、左右されることになろう。

記事参照:Strategic Contours of China's Arms Exports

913日「南シナ海における中国のグレーゾーン戦術に対抗する方法―RSIS専門家論評」(The National Interest, September 13, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際学院(RSIS)研究員Koh Swee Lean Collinは、913日付の米誌、The National Interest(電子版)に、"Is There Any Way to Counter China's Gray Zone Tactics in the South China Sea?"と題する長文の論説を寄稿し、より小さく弱い国が中国の南シナ海におけるグレーゾーン戦術に如何に対抗するかについて、要旨以下のように述べている。

1)ドクラム高地の対立を巡る中印両国の緊張緩和の動きが、北京の高圧的な戦略に如何に対抗するかということについて教訓をもたらしたのは事実だが、跛行的とはいえ両国は核保有国である。北京との明白なパワーの非対称性という状況下にある、南シナ海における紛争当事国にとってはどうか。この地域は、インドのようなパワー・ツールやその他の戦略的影響力を持たない、より小さく弱い国家で構成されている。これらの東南アジア諸国は、北京にとって、高圧的な戦略を首尾よく押し通す、与し易い目標と結論付ける気にさせるかもしれない。

2)実際、南シナ海におけるフィリピンのドゥテルテ政権の対応は、ドクラム高地の現状変更を意図したと見られる中国の行動に対するニューデリーの迅速かつ断固とした対抗措置とは異なる。親北京のドゥテルテ政権にとって、南シナ海での北京との対立激化は彼の政権の利益にはならない。従って、ドゥテルテ政権は、強大な北の隣国に対して圧倒的な法的勝利をもたらした、南シナ海仲裁裁判所の裁定を棚上げしただけではなく、場合によっては、紛争海域で相手を根負けさせるための北京の常套手段、Robert Haddickが言う「サラミ・スライシング」というグレーゾーン戦術による漸進的な侵出に苦しめられることで、中国に屈服させられることが避けられないように思われる。ドゥテルテ政権だけではない。マレーシアのナジブ・ラザク首相も、中国の援助と投資を期待して、北京のご機嫌取りに懸命である。ラザク首相は、マレーシアの管轄海域にある海洋自然地勢周辺海域に対する中国海警局巡視船の頻繁な侵入についても、マレーシアの主権を売り渡すことを懸念する国内の批判を抑え込んでいる。

3)中国のグレーゾーン戦術に黙従することが、フィリピンやマレーシアのような、小さく弱い国家にとって必然的な運命なのか。アメリカの国際安全保障諮問委員会は、20171月の国務省への報告書で、グレーゾーン・アプローチを、「一般に認められている正規軍部隊を直接投入するのではなく、態様においてしばしば非対称的で曖昧なパワー・ツールを用いることによって、国家の目標を達成し、相手国を苛立たせるための手法」と定義している。中国による南シナ海での人工島造成計画は、漁民を装った海上民兵の使用も含め、このような手法の1例である。マニラとクアラルンプールは、北京にとって非常に望ましい従順な相手といえる。しかしながら、マレーシアとフィリピンの中国に対する対応が東南アジアにおける規範となると速断する前に、我々は、一方において自国の主権と権利を護ることと、他方において経済的結び付きを推進することとは、不可避的に融合するのかどうかについて検討しなければならない。インドネシアとベトナムは、南シナ海における重要な利害関係国だが、このような誤った二分法が存在しないことを実証してきた。

4)一見すれば、この両国は、北京のグレーゾーン戦術にとって容易い目標であると見られるかもしれないが、実際はそうではない。現実には、中国とインドネシアの結び付きは、この10年以上の間、強化されてきた。ジャカルタは、北京からの投資を求めるだけでなく、中国の武器をも購入してきた。しかしながら、20163月に漁船衝突事案が発生した時には、弱腰ではなかった。この年、中国海警局巡視船は、ナトゥナ諸島周辺のジャカルタの管轄海域にいたインドネシア漁船に衝突し、インドネシアの漁業法令執行活動に力ずくで介入した。ウィドド大統領はこの出来事を軽視せず、軍艦に乗ってナトゥナ諸島を訪れ、インドネシア海軍は、周辺海域におけるプレゼンスを強化した。20166月には、ナトゥナ諸島周辺海域で不法操業している中国漁船に対して、海軍は威嚇射撃を行い、漁師を負傷させたといわれる。北京は抗議したが、ジャカルタは臆しなかった。事件後、インドネシア海軍広報官は、「我々は、外国船舶に対して、その国旗、国籍を問わず、インドネシアの管轄海域で不法操業を行えば、断固たる措置をとることを躊躇しない」と言明した。それ以降、中国の不法操業事案は報告されておらず、深刻な副次的影響もなかった。実際、インドネシアにおける中国の投資は影響を受けず、20161月から9月の間、291%も増加し、20171月までに総額16億ドルに達した。しかし、ジャカルタは、彼らを侮るべきではないということを北京に伝えることを望んで、20171月には、日本との間で海洋安全保障協力を強化することに合意した。北京はインドネシアに対するグレーゾーン戦術が自らに不利に作用するという大きな計算違いをし、結果としてインドネシアを北京のライバル国に近づけさせることになった。その後、中国との関係は徐々に回復してきたが、同時に、インドネシアは、南シナ海における自国の利益に対して緊張感を失いことなく、ナトゥナ諸島周辺海域の一部を北ナトゥナ海と改称した。これに対して、北京は、単なる批判以上の報復措置を控えた。

5)では、ベトナムはどうか。中国が20145月にベトナム沖の係争海域に石油掘削リグを設置した際、ハノイは、少なくとも北京のグレーゾーン戦術に適った、断固とした対応をとった。ベトナムは、中国と対決するために軍隊を派遣することを慎重に避け、沿岸警備隊や漁業法令執行船、そして海上民兵を派遣した。この対峙は7月末まで続いたが、対峙が長引けば、物理的に劣勢のベトナムが先に手を挙げたかもしれない。しかし、ハノイの賭けは実を結んだ。北京は、この古の抗争相手を改めて見直すことになった。ベトナムは、対立の余波に苦しむことはなかった。中国との経済的な結び付きは、ベトナムが強力な北の隣国を試す妨げとはならなかった。20149月と10月には、ベトナムとインドの首脳が相互訪問し、より密接な防衛・海洋安全保障協力を含む、数多くの協定を締結した。その後数年間、ベトナムは、インドや日本のような中国のライバル国との協力を強化してきた。それでも、中国の妨害に苦しむことはなかった。実際、両国間の国境貿易は盛んに行われてきた。最近、ハノイが北京の脅しに屈して係争中の海域における石油掘削を中止したと報じられたが、マニラでの最近のASEAN会議で見られたように、ベトナムは依然、南シナ海問題については中国に強固である。

6)インドネシアとベトナムは、南シナ海における自国の主権と権利を断固として護ることと、北京との経済関係を強化することの間に、一線を画することが可能であることを実証している。より小さく弱い国が、紛争の可能性を高めることによって、グレーゾーン戦術を画策する国に、意図的にエスカレーションの責任を負わせることは可能である。これは、戦争そのものへの敷居を下げる措置をとることによって、戦争のリスクを減らすことができるという政治的計算を前提としているので、これは難しい手法である。しかし、このことは、世界政治において平和が自然な状態であると考えることが誤りであることを強調するものである。マニラとクアラルンプールは、彼らの近隣諸国から、断固たる明確な示威行動を通じて北京のグレーゾーン戦術に立ち向かう方法について学ぶべき秋である。

記事参照:Is There Any Way to Counter China's Gray Zone Tactics in the South China Sea?

919日「日印パートナーシップの戦略的狙い―アジア問題専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, September 19, 2017

 アジアの地政戦略問題専門家Prateek Joshiは、919日付のPacific ForumWeb PacNetに、"Abe's India visit: cementing bilateral ties and defining the Indo-Pacific order"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

1)中印両国がドクラム地方における兵力引き離しに合意してからわずか3週間後、安倍首相は、12回目の日印首脳会談のためインドを訪問した。インドと日本の連携は、今や単なる2国間関係を超えて、インド太平洋地域に影響を及ぼす、グローバル秩序における存在を確立しつつあるようである。インドが北京における5月の「一帯一路」フォーラムに参加しなかったのは、インドが自国領と主張する地域を通過する「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)に対する反対だけが理由ではない。ニューデリーは、アジアにおける中国の増大する経済的地歩を、アジア全域にパトロン・クライアント関係を構築しようとする露骨な試みと見、他方で、日本を、中国の「一帯一路構想」(BRI)に対抗する戦略を計画するナチュラルパートナーと見なしているからである。このことは、201611月のモディ首相の訪日時に、安倍首相との共同声明で発表された、「アジア・アフリカ成長回廊」(The Asia Africa Growth Corridor: AAGC)など、日印間の戦略的絆の強化となって具体化してきている。

2)また、インド経済における日本の増大する役割も、インドを、多正面から中国の対抗し得る、アジアの地政経済的秩序の要とする狙いがある。

a.第1に、インドと日本の資金力は、アジア、アフリカにおける中国資金のプロジェクトに対抗し得るものである。どの国も単独では3兆ドル超の中国の外貨準備には対抗できないが、インドと日本(そしてASEAN)がパートナーとなった場合には、可能になる。

b.第2に、中国のプロジェクトは、高利息で、もし受け入れ国が返済不能になれば、負債と等価の代償を要求される可能性がある負債の罠のために、物議を醸してきた。AAGCが公表された時、インドの高官は、中国モデルの持続可能性に疑問を呈するとともに、AAGCを、大規模投資を求める発展途上国にとって条件なしの開発モデルであることを繰り返し強調した所以である。スリランカのハンバントータ港のケースは、中国企業が70%の株式を取得し、中国の帝国主義的動機がインフラ投資計画に包み隠されているとの疑念を高めた。これに対して、インドにおけるムンバイ・アーメダバード間高速鉄道計画に対する日本の支援は対照的な事例と見なされるべきである。総額170億ドルの内、日本は85%を負担するが、その利息はわずか0.1%で、返済期限50年間のソフトローンである。このことは、日本とインドの共同事業が持続的で、発展途上国の所要に適したものであることを物語っており、他の諸国も、質的にも、費用対効果の面でも、中国に勝るものであることを認識すべきである。

c.第3に、そして最も重要なことは、アメリカの支援を受けた、インドと日本によるインド太平洋秩序に対するコミットメントである。安倍首相はインドで、「インドと日本は普遍的な価値と戦略的利益を共有している。両国はアジアの民主主義大国であり、またグローバルパワーである。私は、日本はインドと共にインド太平洋地域と世界の平和と繁栄をリードすることを決心した」と述べた。「普遍的な価値」とは、南シナ海における中国の侵略的行動を視野に入れたものである。中国の台頭には敬意を表しつつも、その侵略的振る舞いは非難され続けるであろう。

3)いずれにしても、今回の安倍首相のインド訪問は、両国の新たな地政経済的秩序に向けての積極的な取組みの舞台を作ったことにおいて極めて意義あるものであった。

記事参照:Abe's India visit: cementing bilateral ties and defining the Indo-Pacific order

921日「北京の南シナ海における新たな法律戦、『四沙』戦術―米Web紙報道」(The Washington Free Beacon.com, September 21, 2017

 米Web紙、The Washington Free Beaconの編集主幹Bill Gertzは、921日の同紙に、 "Beijing Adopts New Tactic for S. China Sea Claims"と題する記事を掲載し、中国の南シナ海における新たな法律戦、『四沙』戦術について、要旨以下のように報じている。

1)中国政府は最近、南シナ海の大部分に対する領有主張を強固にするための新たな法的戦術を明らかにした。この新たな「法律戦」における主張はいわゆる「9段線」主張を変更するもので、「法律戦」における新たな主張は、「四沙」(中国語で砂の意)と呼称される。これは、馬新民・中国外交部条約法規司副司長が先月行われた米国務省担当者との非公開協議において明らかにしたものである。中国は以前から、西沙(パラセル)諸島、南沙(スプラトリー)諸島及び中沙(マックルズフィールド)諸島に対する領有権を主張してきたが、最近になって南シナ海北方の香港近海に位置する東沙(プラタス)諸島を4つ目の領有権主張区域に加えた。馬新民副司長は828日、29日にボストンで行われた協議において、中国が幾つかの法的根拠に基づき「四沙」に対して主権を主張すると宣言した。馬新民は、これらの地域が中国の歴史的領海であると同時に、隣接した区域に主権的管轄権を主張する中国の200カイリEEZの一部を構成すると述べた。北京はまた、「四沙」が中国の大陸棚の延長上にあると主張し、その主権的管轄権を主張している。

2)当該協議に出席した米当局者は、南シナ海の支配を目的とした中国の新たな戦術が唐突に表明されたことに驚きを表明した。米国務省報道官は、外交交渉にはコメントしないと述べた上で、南シナ海の海洋自然地勢を巡る主権問題では何れの側にも与しない、「南シナ海及び世界中のあらゆる国家の海洋権利は、1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)に示された海洋を巡る国際法規に従って、主張されるものでなければならない。これは、アメリカが一貫して主張してきた明確な原則的立場である」と強調した。アメリカは、南シナ海の海洋自然地勢とその周辺海域に対する中国の支配を認めていない。国務、国防両省は、南シナ海を国際水域と主張し、米艦船と航空機が中国の主権主張に妨害されることなく航行し、飛行するとしている。

3)中国の「四沙」を巡る法的工作は、「9段線」内の全ての海域と海洋自然地勢に対して歴史的な領有権を有するとする中国の主張を法的に無効とした、20167月の南シナ海仲裁裁判所の裁定を受けてのものである。裁定は、「中国がこれらの水域あるいはそこにおける資源に対して 歴史的に排他的権利を行使してきたとする、如何なる証拠もない」と断定した。中国は、法的拘束力を持つこの裁定の受け容れを拒絶した。Michael Pillsburyハドソン研究所中国戦略センター長は、中国が最近の海洋工作に情報戦の3つの形態の1つである法律戦を駆使している、と見ている。因みに、他の2つは輿論戦と心理戦である。Pillsburyは、アメリカ政府は法律戦能力のみならず、対法律戦能力にも欠けていると指摘し、「中国政府は、処罰を受けない形で国際法規に逆らうスマートな法的戦術を立案し、実行するという点でずっと組織化されているように思われる」と述べている。その上で、彼は、「中国の法律戦に対抗する効果的な能力を構築するためには、最終的には議会の立法によって行政府に権限を付与する必要があるかもしれない」とし、「米政府がこうした権限を付与された部署を持つことになり、そして特に国連が味方につけば、中国に対抗し易くなるであろう」と指摘している。

4)元米海軍太平洋艦隊情報部長Jim Fanell退役海軍大佐は、「四沙」戦術が事実であれば、それは「南シナ海に対する中国の領有権主張における、『サラミスライス』戦術の次なる一手であろう」と述べ、「『9段線』内の全域に対する中国の領有権主張が地域全体に警鐘を鳴らしたことを考えれば、最終的に南シナ海全域を手中に収めるべく、『四沙』戦術のような漸進的措置を推し進めることは、中国外交部にとって道理に適うものであろう」と指摘する。その上で、Fanellは、トランプ政権が、まず北京に対して、そして世界に対して、中国の南シナ海における主権主張が違法かつ不法だとした、2016年の南シナ海裁裁判所の裁定を思い出させるべきだとし、「アメリカは、恒久的に南シナ海に空母や遠征打撃群を展開させ、北京にアメリカの言葉がそれ以上のものに裏打ちされていることを理解させるべきである」と主張している。

5828日、29日にボストンで行われた協議は「米中海洋及び極地問題年次対話」(an annual U.S.-China Dialogue on the Law of the Sea and Polar Issues an annual U.S.-China Dialogue on the Law of the Sea and Polar Issues)だが、協議の最後に出された国務省声明には、中国の新たな法律戦に関する言及はなかった。同声明には、米中の外交当局と海洋当局が「海洋、海洋法、極地に関連する幅広い問題について意見交換を行った」と記載されているに過ぎない。アメリカ代表の国務省海洋国際環境科学局海洋極地部長Evan Bloomは、協議の内容に関するコメントを拒否した。

記事参照:Beijing Adopts New Tactic for S. China Sea Claims

【関連記事】

「『四沙』戦術、法的に妥当か―米専門家論評」(Lawfare Blog.com, September 25, 2017

 米ホフストラ大学ロースクール特別教授Julian Kuとハーバード大学ロースクール修士候補Christopher Mirasolaは、925日付のWeb誌、Lawfare Blogに、"The South China and China's "Four Sha" Claim: New Legal Theory, Same Bad Argument"と題する論説を寄稿し、前掲のThe Washington Free Beaconの記事が報じた「四沙」戦術に対して、その法的妥当性について、要旨以下のように述べている。

1)中国が「9段線」主張を取り下げ、あるいはそれを後景に押しやって「四沙」を前面に打ち出してきたことは重要な外交的、政治的意義を有するが、こうした変更の法的重要性を評価することは難しい。「四沙」に関する中国の主張は、長年にわたって中国の国内法と公式声明で明確にされてきた。現在知り得る限りの情報に基づいても、この新しい中国の法的主張は「9段線」主張以上に法的根拠を有するものではない。

2)「四沙」に関する中国の主張は、中国の国内法とその執行に由来している。例えば、1992年に制定された中国の「領海及び接続水域法」は、中国の領土には「東沙諸島、西沙諸島、中沙諸島、及び南沙諸島」が含まれると明記している。南シナ海仲裁裁判の過程で中国が2016年に公表した白書でも、「中国の南海諸島(南シナ海の島嶼群)は、東沙群島(東沙諸島)、西沙群島(西沙諸島)、中沙群島(中沙諸島)、及び南沙群島(南沙諸島)から成る。これらの群島には、特に多種多様な島嶼や礁、砂州、岩礁などが含まれる」と、同じような主張が展開されている。要するに、これらは、「四沙」主張が中国の南シナ海に対する主張として別に目新しいものではないことを示している。主たる問題は、これまで法的に説明されたことはないが、中国がこれら諸島群にどのような法的意味を付与しようとしているかである。北京は、2016年の白書で、「中国は、南海諸島(四沙)を基点とした内水、領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚を有する」と主張している。しかし、白書も前掲記事も、中国が「四沙」から如何なる根拠でこれらの海洋権限を主張できるのかについては、説明していない。中国も認めているように、これら島嶼群には多様な海洋自然地勢が含まれており、その多くは独自の海洋権限を生成しない。例えば、2016年の仲裁裁定では、南沙諸島における如何なる海洋自然地勢も、12カイリの領海以上の海洋権限を生成するだけの十分な地積がないと裁定された。従って、この裁定によって、中国の南沙諸島に対する主張は、点在する海洋自然地勢が有する12カイリの領海を超えた海洋権限を生成しないことを意味することになる。中国は1996年に、西沙諸島を単一の地理的単位(北京の海洋権益を最大化する手段であると思われる)と見なし、その周囲に直線基線を宣言した。それから1年程の間、中国が南沙諸島周辺に同じような直線基線を設定するのではないかとの噂が飛び交った。実際、前掲記事は、中国が4つの「沙」全ての周辺に直線基線を設定しようとしているとも読み取れる。こうした主張は「9段線」のように広範囲を包摂するものではないが、それでも、これによって中国が南シナ海のほとんどの海域に法的権限を主張することになろう。

3)中国は(インドネシアやフィリピンのように)「国土が1つ、あるいはそれ以上の群島群の集合体」ではないために、アメリカや他の多くの国は、南沙諸島周辺への直線基線の設定を、国連海洋法条約(UNCLOS)違反であると見なすであろう。実際のところ、UNCLOS47条の規定によれば、西沙諸島周辺などに直線の群島基線を設定できるのは、それらが当該国家の「主要な島々と群島基線の内側の水域の面積と陸地(環礁を含む)の面積との比率が11から91までの間のものとなる」場合である。中国は、明らかにこの定義の条件を満たしていない。しかも、中国の全陸地面積は、その主張する海洋権限に対して著しく不均衡であり、UNCLOSが定める91の比率を満たしていない。こうした理由から、中国の新たな法的戦略は、明らかなUNCLOS違反(例えば、第46条と第47条)であり、従って「9段線」よりも根拠薄弱なものといえる。「9段線」を弁護する中国の専門家の多くは、「9段線」主張が中国のUNCLOS加盟前からのものであり、従って、UNCLOSの規定に左右されない、と主張している。中国の新たな法的戦略は法的な弱点を抱えているが、それでも中国は、「9段線」主張を「四沙」主張に置き換えることによって、幾つかの利点を得られよう。

a.第1に、中国指導部は、「9段線」主張が過剰な外交的負債になってきたと認識するようになってきたのかもしれない。「9段線」主張は全く独善的なものであり、他の如何なる国もこのような歴史的な海洋権利を主張していない。このため、「9段線」主張は、他国の中国批難の格好のターゲットになった。群島周辺への直線基線の設定ならば、ここまでの批難を浴びなかったであろう。

b.第2に、中国は、UNCLOSの規定に似た用語を使用することで、批難を抑えるとともに、域内における潜在的パートナーを獲得できると見込んでいるのかもしれない。フィリピンのドゥテルテ大統領が、領有権主張を巡って対立しているにも関わらず、引き続き北京と歩調を合わせていることが、そうした見方を裏付けている。

c.第3に、そして最も興味深いことに、中国は、UNCLOSの用語を使用することで、海洋法を上手く活用できる(あるいは見方によっては、貶めることができる)と結論付けたのかもしれない。中国は、台頭する修正主義勢力として、既存ルールを自国の国益に適うよう再解釈することに関心を持っている。直線基線に関して世界の法律家や各国政府の支持を得ることは、「9段線」に対する支持を得るよりも容易いかもしれない。中国は、国際社会においてこの新しいアプローチに対する支持を確立するために、増加する自国の国際法専門家や学者を当てにすることができるかもしれない。一部識者は、こうした戦略を、もう1つの「法律戦」と呼んできた。

4)「9段線」が(法の)歴史のごみ箱に投げ入れられる様を目撃するのは歓迎すべきことかもしれないが、「四沙」が南シナ海における中国のより穏当な役割を示す予兆なのかどうかという点については、我々は懐疑的でなければならない。中国の「四沙」に対する法的正当性は、「9段線」主張より弱くはないとしても、それと同程度に弱い。しかしながら、何故、「四沙」が根拠薄弱で不法なのかを説明するには、効果的な公報メッセージと相まった、洗練された法的分析がなされる必要があろう。アメリカ政府が自らの南シナ海政策を前進させるために、こうした法的ツールを使いこなせるかどうかは、未だ判然としない。

記事参照:The South China Sea and China's "Four Sha" Claim: New Legal Theory, Same Bad Argument

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. What Are the Trends in Armed Conflicts, and What Do They Mean for U.S. Defense Policy?

https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR1900/RR1904/RAND_RR1904.pdf

RAND Cooperation, September, 2017

By Thomas S. Szayna, Stephen Watts, Angela O'Mahony, Bryan Frederick, Jennifer Kavanagh

2. A More Peaceful World?

Regional Conflict Trends and U.S. Defense Planning

https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR1177.html

https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR1100/RR1177/RAND_RR1177.pdf

RAND Cooperation, September, 2017

By Stephen Watts, Bryan Frederick, Jennifer Kavanagh, Angela O'Mahony, Thomas S. Szayna, Matthew Lane, Alexander Stephenson, Colin P. Clarke

3. Chinese Domination of the South China Sea: An American Response

http://www.cpg-online.de/2017/09/01/chinese-domination-of-the-china-sea-an-american-response/

CPG, Online Magazine (COM), 05/2017, September 1, 2017

Grant Newsham, a senior research fellow at the Japan Forum for Strategic Studies and a retired US Marine Officer.

4. Korea Nuclear Test Furthers EMP Bomb

http://freebeacon.com/national-security/korea-nuclear-test-furthers-emp-bomb/?utm_source=Freedom+Mail&utm_campaign=a2252e35eb-EMAIL_CAMPAIGN_2017_09_09&utm_medium=email&utm_term=0_b5e6e0e9ea-a2252e35eb-46193749

The Washington Free Beacon.com, September 6, 2017

Bill Gertz, the senior editor of the Washington Free Beacon

5. Understanding China's Third Sea Force: The Maritime Militia

https://medium.com/fairbank-center/understanding-chinas-third-sea-force-the-maritime-militia-228a2bfbbedd

Fairbank Center, September 8, 2017

Andrew S. Erickson, professor at the U.S. Naval War College's China Maritime Studies Institute (CMSI) and Fairbank Center Associate in Research, outlines China's evolving maritime security forces.

6. A Blueprint for Fisheries Management and Environmental Cooperation in the South China Sea

https://amti.csis.org/coc-blueprint-fisheries-environment/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, September 13, 2017

By South China Sea Expert Working Group

7. Maritime Territorial and Exclusive Economic Zone (EEZ) Disputes Involving China: Issues for Congress

https://fas.org/sgp/crs/row/R42784.pdf

Congressional Research Service, September 15, 2017

Ronald O'Rourke Specialist in Naval Affairs

8. China Naval Modernization: Implications for U.S. Navy Capabilities--Background and Issues for Congress

https://fas.org/sgp/crs/row/RL33153.pdf

Congressional Research Service, September 18, 2017

Ronald O'Rourke Specialist in Naval Affairs

9. Littoral Operations in a Contested Environment

https://marinecorpsconceptsandprograms.com/sites/default/files/concepts/pdf-uploads/LOCE%20full%20size%20edition.pdf

U.S. Marine Corps, September 25, 2017

10. A Busy Summer for Beijing's East China Sea Rigs

https://amti.csis.org/busy-summer-beijings-rigs/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, September 28, 2017