海洋安全保障情報旬報 2017年8月1日-8月31日

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はじめに

 今回の旬報では、従前どおり、東アジア海域に関する論考を中心に取り上げたが、その中でも特に、結果として中国に関する論考などを多く取り上げることとなった。

 Web誌、The Cipher Briefに掲載されたRAND専門家のインタビュー記事は、中国の東アジア海域に対する兵力投射能力の向上を取り上げている。地政学的にも、周辺海域への兵力投射能力の問題は、周辺国が有するシーパワーとの摩擦係数を増大させうる動きとして捉えることが可能であり、近年中国が力を入れる同能力向上策の背景を的確に分析したものといえる。

 また、Web誌、The Diplomat上で展開された2名の研究者による、中国の自国EEZ内における外国軍艦の行動に関する許容度を「中国のダブル・スタンダード」と位置づけし得るか否かのやり取りは、海洋の憲法とも称されるUNCLOSの解釈と国内法の存在・位置づけを焦点とする非常に濃厚なものである。こうした多義性を根幹に持つことも珍しくはない、海洋に関する問題を理解する上で、両論考を併読することの意義は大きいと思われる。

 その他、米印合同演習に日本が加わる形となった「マラバール2017」に対する評価、米トランプ政権の対南シナ海戦略の骨子など、今回も読み応えのある論考が揃っている。ややもすればステレオ思考に陥りがちな東アジア海域における諸問題を冷静に分析する上でも、今回の旬報が果たす役割は大きいと思われる。

81日「印米日3カ国海軍合同演習『マラバール2017』、その意義―インド専門家論評」(Delhi Policy Group, August 1, 2017

 インドのシンクタンクDelhi Policy GroupDPG )上席研究員Lalit Kapurは、81日付のDPG Briefに、"MALABAR 2017" と題する論説を寄稿し、「マラバール」海軍合同演習の意義について、要旨以下のように述べている。

1)インド、アメリカ、日本の海軍が参加した21回目の「マラバール演習2017」は717日に終了した。1週間の合同演習は、港湾での演習(710日~713日)と海洋での演習(714日~717日)の2段階で構成された。海洋段階の演習では、水上戦と対潜戦、防空・砲撃・ミサイル戦闘、機雷戦、通信、捜索救難、そして船舶臨検の演習が実施され、これらの演習項目は海洋コントロールと、敵の海洋の利用を拒否する上で重要である。

2)最高レベルの海軍演習は、作戦能力を改善する上で参加海軍にとって有益である。また、この演習は、相互運用性、そして海洋コモンズへの安全保障の提供のための負担を他者と共有することを可能にする。海洋領域は広大で自由であり、それをコントロールする能力や権利を独占する国は1つもない。各国の艦船には、使用される燃料の性質や食習慣(これらは兵站や海洋での持続能力を複雑にする)から、さまざまな手順や異なるサイズのコネクターに至るまでの多種多様な違いがあり、これらのすべてが相互運用性を複雑にする。継続した安全保障を確保するために志を同じくする国々と協力することは、存在する無数の違いを特定し克服し、強みを最大化し、弱点を克服し、そして相乗効果を発揮するための合同演習が常に必要である

3)しかしながら、今回の演習に参加した各国海軍間の切れ目のない円滑なコミュニケーションを可能にする重要な手段の1つ、The Communications Compatibility and Security AgreementCOMCASA*が実施されなかった。COMCASA10年以上前からアメリカが提唱している協定で、これは「ネットーク中心の戦い」(net-centric warfare)を可能にする、インドとアメリカの保有装備間の切れ目のない円滑な「遣り取り」を確実にするものである。日本は、アメリカの同盟国として既にこの協定に署名している。インドは、アメリカの同盟国としてではなく、戦略的パートナーとして、この協定に署名する必要がある。署名することによって得られるものは、予想されるコストをはるかに上回る。あらゆる兆候から見て、もはやインド海軍には協定署名を阻む要因はないが、インドの官僚的、政治的怠慢がそれを妨げてきた。この協定に調印することで、より効果的な相互運用性が可能になろう。インド国防省は、署名に向けて積極的に努力する必要がある。

4)戦略的なレベルでは、この演習は複数の目的に資する。外交ゲームは、英国のパーマーストン卿が「我々は永遠なる同盟国も、永久の敵対国も持たない」と喝破したように、対話者間の戦略的信用と信頼性が常に疑問視される、非常に複雑なゲームである。軍事能力は、国際関係を構築する上で主要なバックボーンの1つである。今回の演習参加国にとって、この演習は自信と信用を築くのに役立つ。軍事演習は、潜在的な敵対国にとって相手側の手の内を知る機会となることから、潜在的な敵対国から者から常に注目される。敵対国の演習観察は、相手側の能力評価を狙いとしている。更に、「中立的な」国家にとっては、軍事演習は、しばしばパワーがどちらの方向に靡いているかを判断する手がかりになり得るもので、従って最終的にどちらの側に与するかを判断するのに役立つ。

5)「マラバール」演習のような多国間海軍合同演習は珍しくない。インド海軍も、タイ、インドネシア及びミャンマーとの合同哨戒活動を別にして、各国海軍との間で2国間あるいは多国間合同海軍演習を行っているが、「マラバール」演習は、インド海軍が参加する他の多国間合同演習よりも明確に一段上の位置づけである。この演習の内容は次第に複雑さを増しており、中国はこれからも注意深く監視して行くであろう。中国海軍のインド洋におけるプレゼンスの拡大は不可避であり、ジブチにおける中国の根拠地への軍要員の派遣はその間違えようのない兆候の1つである。

記事参照:MALABAR 2017

備考*COMCASAに対するインド海軍の見方については、例えば以下を参照。

COMCASA - Should India Sign?

81日「中国の戦力投射能力の拡大とその影響―RAND専門家インタビュー」(The Cipher Brief.com, August 1, 2017

 Web誌、The Cipher Briefは、81日付で、"Enhancing China's Status as a Great Power" と題するインタビュー記事を掲載し、同誌による、中国の戦力投射能力の拡大とその米国への影響についての質問に対して、米ランド研究所東アジア上級アナリストのJeffrey EngstromMichal Chaseは、要旨以下のように述べている。

Q:中国は国外への戦力投射能力の強化を目指して集中投資しているが、その狙いは何か。

A:中国軍は、耳目を集める空母や大型揚陸艦の建造以外にも、地域やグローバルな戦力投射に不可欠なプラットフォームの取得も進めている。具体的には、戦闘艦艇の長期継戦能力に資する洋上補給艦の隻数を増やしており、また最近開発されたY-20大型輸送機は部隊や装備の迅速かつグローバルな展開を可能にする。中国軍が十分な戦力投射能力を獲得するには、こうしたプラットフォームを更に多く取得する必要があるし、高性能で大規模な空中給油能力も増強する必要がある。

Q:中国は何をしようとしているのか。

A:中国は、こうした戦力投射能力の増強を通じて、中国の大国としての地位を高めるとともに、世界における中国の権益や国民、そして投資を護ることを目的とした任務を次第に遂行するようになるであろう。前者について言えば、中国は、これまで平和維持活動や人道支援、災害援助といった国際公共財を提供する役割を果たしてきたし、今後も一層期待されるであろう。後者に関して言えば、中国は、自国の船舶が海賊の脅威から安全であることや、多くの華僑が不安定な現地情勢から安全であること、そして自国の権益がテロリズムや破綻国家などの様々な脅威から安全であることを確実にするためには、他国の努力にただ乗りできないことを認識している。そのため、戦力投射能力は、中国が利害を有する国際危機に上手く対処していく上で、不可欠なものである。

Q:ジブチの新しい中国軍基地は、こうした計画にどう関係しているか。また、中国は更なる海外基地の建設計画を有しているか。

A:ジブチの新しい中国軍基地は、アデン湾における海賊対策任務を遂行するための恒久的な拠点となり、当該地域における整備能力を向上させ、必要な場合に海軍力の増強を可能にするであろう。中国は、この9年間、自国の商船を海賊から護るべく、現在アデン湾に第26次の海賊対処部隊を派遣している。これまで、派遣部隊は、食料や燃料を補給し、兵員に上陸休養を与えるに際して、周辺諸国の近隣港へのアドホックなアクセスに依存していた。従って、これまで海外に基地を持ったことがない中国にとって大きな一歩となるものである。新基地は、海賊対処任務の強化に資することに加え、中国が将来的に非戦闘員避難任務や、アフリカ、中東に対して定常的な人道支援、災害援助を行う際の前進拠点となろう。また、中国軍は、近隣諸国の軍隊との交流や協力を拡大していくことになるであろう。ここ何年も中国軍が海外基地の候補地として、セーシェルやパキスタンのグワダル港に関心を寄せているとの噂があるが、そうした噂はいずれも未確認である。

Q:中国軍の軍種間の統合作戦の実績はどうか。また、中国軍は、統合作戦能力を改善するために、どのような取り組みを行っているのか。

A:中国軍はまともな統合作戦の経験をほとんど持っておらず、実際、中国軍自身も、1955年の江山島戦役(抄訳者注:第1次台湾海峡危機における195493日の江山島占拠)が中国軍の最初で唯一の実戦における統合作戦であると指摘しているくらいである。しかしながら、中国の戦略家たちが将来の戦争に勝ち抜く鍵の1つが統合作戦の遂行能力であると見なしていることから、中国軍は、この分野における能力強化に努力している。中国軍は指揮・統制・通信能力の近代化を重要視しているが、この分野は単に情報と通信のみに留まるものではなく、伝統的に陸軍が優位な地位を占めてきた軍組織全体に関わる問題でもある。中国軍は、この点を認識しており、海軍や空軍、ロケット軍の地位向上にも取り組んできた。中国軍は現在、軍種間の統合を進めると同時に、即応性や戦力投射能力を強化することを目的とした前例のない大改革の渦中にある。中国軍最近、海軍提督を戦区の1つの司令に任命しており(抄訳者注:南部戦区の袁誉柏海軍中将)、これは軍の一層の統合化の重要性を強調した大きな一歩といえるであろう。

Q:中国の戦力投射能力の強化は、アメリカの地域目標にどのような影響を与えるか。

A:増大する戦力投射能力によって中国のグローバルな軍事展開が可能になったのは最近の全く新しい現象であり、従って、この質問に対する答えは非常に難しい。アメリカの視点から見れば、アメリカの地域目標にとって、こうした中国の戦力投射能力は互恵的にも、あるいは反対にマイナスにもなり得る。平和維持活動や海賊対処活動のような国際公共財を提供することは国際社会の利益になり、中国軍がこうした負担を分担することは、アメリカの負担を減らし、場合によってはその必要性さえなくするであろう。また、中国は、新たに獲得した能力を用いて、非戦闘員の避難や海外権益保護といった国益の核心となる活動を増加させていくこともできるであろう。こうした中国の活動は、アメリカの地域の戦略目標に対して事実上、特段の影響を与えず、あったとしてもその影響は微々たるものであろう。他方で、中国は既に南シナ海において人工島を基地化し、戦力投射能力を活用して、公海の支配を目指し、他の領有権主張国を脅し、そしてアメリカの航行の自由に挑戦している。これらは全て、この地域におけるアメリカの目標に反するものであるといえる。

記事参照:Enhancing China's Status as a Great Power

81日「マレーシア、ジョホール州沖の岩礁に海洋基地開設」(Channel News Asia.com, August 5, 2017

 マレーシアは81日、ジョホール州沖の岩礁、Middle Rocksに海洋基地を開設した。この基地の名称はAbu Bakar Maritime Baseで、316メートルの桟橋とその両端に建造物、そしてヘリパッドを持つ。この基地は、ジョホール州沖約7.9カイリ、シンガポール領に属するPedra Brancaからは0.6カイリの位置にある。この基地は軍と海洋法令執行官庁、そして漁業関係者が利用でき、ジョホール州によれば、「この基地は、マレーシアの主権下にある領土、領海を護るとともに、周辺海域の海洋科学調査の基地ともなるものである。」(抄訳者注:国際司法裁判所は2008523日の判決で、マラッカ・シンガポール海峡の東の出入り口にあるPedra BrancaMiddle Rocks及びSouth Ledge3つの岩礁群の帰属について、Pedra Brancaをシンガポール領、Middle Rocksをマレーシア領、そしてSouth Ledge(低潮高地)についてはこの岩礁が所在する海域を領海とする国に属するとした。)

記事参照:Malaysia opens new maritime base at Middle Rocks, near Pedra Branca

Photo: Malaysia's Abu Bakar Maritime Base at Middle Rocks, near Pedra Branca

82日「米トランプ政権の南シナ海戦略、必要な5本の柱―RSIS専門家論評」(RSIS Commentaries, August 2, 2017

 シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)教授Joseph Chin Yongは、82日付のRSIS Commentariesに、"US strategy in the South China Sea: Five Pillars for a proposed Trump plan" と題する論説を寄稿し、トランプ政権の南シナ海に対するアプローチには戦略的ビジョンが欠けており、そうした戦略には、①国際法、②抑止力、③報奨、④外交的関与、⑤ASEAN重視―5本柱が必要だとして、要旨以下のように述べている。

1)トランプ大統領の下でアメリカは混乱した大国となった。内政の混乱は政権が世界情勢を戦略的に検討する能力を蝕み、その結果、アメリカの指導的な立場が損なわれてきた。このことは、東南アジアにおけるアメリカの役割を検討するに当たって、南シナ海での「航行の自由」(FON)作戦という目先の一事に論議が集中しがちな様子からも明らかである。確かに、FON作戦はこの地域における増大した米海軍力のプレセンスの重要な機能の1つではあるが、南シナ海のあちこちを米海軍戦闘艦が航行するだけでは戦略とはいえない。では、アメリカの包括的な南シナ海戦略は如何にあるべきか。以下は、アメリカの南シナ海戦略に必要は5本柱に関する若干の考察である。

2)国際法を基盤とすべし:まず、米政権は、国際法で規定されるアプローチを活用すべきである。国際法は、FON作戦の遂行や、南シナ海における領有権主張国がADIZ(防空識別圏)を設定した場合における上空飛行の実施に当たって、法的根拠を提示してくれる。グローバルコモンズに対する妨害のないアクセスの重要性を強調する声明は、繰り返されるべきであり、必要とあれば行動によって裏付けられなければならない。同時に、ワシントンは、自国の国際法を巡る不誠実な歴史にも留意すべきである。アメリカは、未だに国連海洋法条約(UNCLOS)に加盟していない。もちろん、アメリカは、少なくともUNCLOSに関しては、その諸原則を概して忠実に遵守してきた。しかしながら、UNCLOS未加盟という事実は、アメリカの道徳的な指導力や、アメリカが法に基づく国際秩序の神聖さに言及する場合における威光に、影を投げかけるものとなっている。当然ながら、中国は、こうしたアメリカの弱点を見逃すはずがない。

3)抑止力と非軍事的手段:第2に抑止力である。2016712日の南シナ海仲裁裁判所の裁定以降、一部の専門家は、南沙諸島の海洋自然地形の法的地位が明確になったことから、もはやFON作戦の必要性は薄れたとの見方を示唆してきた。こうした見方は全ての関係が仲裁裁判所の裁定を受け入れることが前提だが、事実はそうではない。加えて、この見方は、 FON作戦の抑止効果を軽視するものである。FON作戦は、紛争当事国による軍事的手段の行使を抑止するには不十分だが、必要な政策ツールである。そのために、米海軍は、この地域において強力かつ十分に配慮されたプレゼンスを維持すべきである。しかしながら、抑止力は、FON作戦や軍事的手段のみに限定されるべきではない。非軍事的手段も等しく重要である。従って、海軍力のプレゼンスは、経済的、外交的手段と併せて、アメリカが南シナ海の「軍事化」を批難しているというイメージを与えるようにしなければならない。特に、経済的なツールキットをもっと活用しなければならない。中国を凌駕するアメリカの経済力と技術的優位は、東南アジア諸国に対して重要な経済パートナーとしてのアメリカの信頼性を誇示するばかりでなく、地域の安全保障問題を巡る多国間協議におけるアメリカのもう1つの切り札ともなり得るものである。つまるところ、アメリカは、軍事的抑止力にしろ、あるいは非軍事的抑止力にしろ、南シナ海のどの紛争当事国に対しても、如何なる行動にも、それに伴う代価を強いる決意を明確にしておかなければならない。

4)自制に対する報奨:第3に報奨である。抑止を効果あらしめるためには、南シナ海での冒険主義に対しては代価を強いる必要がある一方で、行動の自制に対しても同様に明確な報奨が必要である。このための有効な手法は、目下進められている米中経済貿易関係の見直しといった取り組みと、例えば南シナ海問題をリンケージさせることである。このリンケージは、戦略的な形、即ち、一部の当事国が懸念するような南シナ海を切り札や交渉材料にすることではなく、むしろアメリカの国益を損ねたり、センシティブな主権問題に触れたりすることなく、南シナ海の現状を維持することに対して中国の報奨を与えるものである。しかしながら、このためには、トランプ大統領が現行の政策を転換して、一層高度で長期的視野に基づいた経済貿易政策を採用する必要があろう。

5)外交的関与:そして第4が外交的関与である。トランプ政権の高官は、東南アジア諸国のカウンターパートとの交流をもっと強化すべきである。外交的関与は、具体的な政策手法に関する重要な議論を通じて不安を払しょくする効果を発揮するであろう。残念ながら、トランプ政権の高官ポストの相当数が空席であることもあって、アメリカと地域諸国とのパートナーとの高官交流は目に見えて停滞している。

6ASEAN重視:最後に、アメリカは、南シナ海に対する如何なるアプローチもASEANの頭越しで進めることがないように留意すべきである。このことは、ワシントンがどのような南シナ海政策を立案するに当たっても、ASEAN諸国との何らかの協議を行わなければならないということである。ワシントンは、こうした協議を東南アジア諸国と行うことによって、域外大国として地域安全保障問題に関心を持ち、関与していくというメッセージを発信していくことになろう。

記事参照:US Strategy in the South China Sea: Five Pillars for a Proposed Trump Plan

82日「韓国の大宇造船海洋、インドネシアに潜水艦引き渡し」(Yonap News, August 2, 2017

 韓国の大宇造船海洋は82日、インドネシアにディーゼル電気推進潜水艦を引き渡した。インドネシアは2011年に総額11億ドルで韓国から3隻の潜水艦購入する契約を結んでおり、今回引き渡された潜水艦はこの契約に基づき1番艦である。2番艦は2017年中に完成予定で、3番艦は大宇造船海洋で船体ブロックが製造され、2018年までにインドネシアで組み立てられることになっている。

 インドネシアに引き渡された排水量1,400トンの潜水艦は、ドイツ製Type 209型潜水艦に基づく韓国海軍の張保皐級潜水艦のインドネシア輸出用で、航続距離は18,520キロである。

記事参照:Daewoo Shipbuilding hands over submarine to Indonesian navy

84日「他国のEEZ内における海洋監視活動に対する米中の見解の相違について―バレンシア論評」(The Diplomat.com, August 4, 2017

 中国南海研究院非常勤上席研究員Mark J. Valenciaは、84日付のWeb誌、The Diplomatに、"The US-China Maritime Surveillance Debate"と題する論説を寄稿し、他国のEEZ内における海洋監視活動については米中間に大きな違いがあるとして、中国側の立場に立って、要旨以下のように述べている。

1)オーストラリア国防省は、中国の情報収集艦(AGI)が7月下旬にオーストラリアのEEZ内に侵入し、米豪合同軍事演習Talisman Sabreを監視したことを確認した。オーストラリアEEZへの初めての中国AGIの侵入に対して、多くの専門家は、中国が米海軍AGIによる中国のEEZ内での情報収集、監視及び偵察(ISR)活動に反対していることを指摘し、他国のEEZに侵入する中国の行為を偽善的と非難した。しかし、中国とアメリカがそれぞれ実施している活動との間には、その規模、技術的能力、方法及び目的において大きな相違がある。

2)実際、アメリカは、ISR機、水上艦艇、潜水艦、人工衛星そして無人機など、大規模な装備を有し、その多くは音響測定艦、Impecableのように特化した機能を持っている。また、アメリカは、世界最大で高能力のSIGINT(通信情報収集)機を保有している。更に、米海軍のTiconderoga級巡洋艦、Arleigh Burke級駆逐艦などの高性能の水上戦闘艦や潜水艦は、SIGINT任務を遂行できる装備を搭載している。一方で、中国軍のアセットは、米軍のそれとは量的にも、質的にも、特に人工衛星や遠距離通信支援システムと一体化した、無人機(UAV)や無人潜水艇(UUV)の行動半径、そして先進的な搭載兵器やセンサー分野において、大きな格差がある。米軍の人工衛星によるISR能力は、中国のそれを遥かに凌駕している。これらアセットの展開に関してみれば、アメリカは中国沿岸域に年間延べ数百機のISR機を飛行させているが、中国のISR機が米本土沿岸域を飛行したという公式の報告はない。更に、中国は、日本のEEZなど他国のEEZ内にISR機を侵入させてはいるが、その任務のほとんどがセンサーによるパッシブな傍受である。これに対して、アメリカは、アクチブな調査や電子妨害を行う。しかし、これらのことは公式に確認されているわけではない。何故なら、アメリカは、中国の軍事力に関する透明性の欠如を批判するが、ことアメリカ自身のISR活動に関する限り、透明性に欠けているからである。米海軍の音響測定艦、ImpeccableBowditchそしてCowpensとともに、EP-3Poseidon P-8AなどのISR機が絡むこれまでの事案から、米軍は、挑発し、その対応を観察することで中国の沿岸防衛能力に対するアクチブな探査、陸上と艦艇や潜水艦との通信妨害、海洋科学調査に関する合意されたレジームに対する違反や乱用、海洋環境の汚染、更には潜在的な目標としての中国の最新潜水艦の追跡などを、集中的に行っている可能性がある。もしそうであれば、こうした活動は、中国を含む全ての国によって普通に実施され、多くの国によって黙認されているような、パッシブな情報収集活動とはいえない。むしろ、軍事力の行使、あるいは中国の海洋科学調査に関する了解範囲や海洋環境保護レジームに違反する、脅威と見なされかねない、侵略的で、挑発的で物議を醸す活動である。

3)しかし、中国を対象とした米軍のISR活動の詳細はその多くが未確認である。Edward Snowdenによって暴露された米海軍と国家安全局の秘密報告書は、2001年に起きたEP-3事案で、EP-3機が中国戦闘機と衝突後、海南島に緊急着陸させられた際、秘密データと装置を全て破壊することができず、中国側の手に渡った秘密の範囲を詳細に記載している。これらの情報には、アメリカは「中国の潜水艦からの発信あるいは潜水艦に対する通信を収集し、当該潜水艦の位置を特定する能力を有している」事実が含まれている。また、EP-3機は「アメリカが中国の潜水艦発射弾道ミサイル計画をどの程度知悉しているか」を示すデータを携行していた。報告書は、ISR任務が目標とする軍に対して対応を誘発し、そのための通信を発生させ、傍受することであることを明らかにしている。従って、ISR活動に関する限り、アメリカは中国に対して圧倒的な優位を持っているようである。マレーシア、タイそしてベトナムなどとは異なり、中国は、自国のEEZ内おける外国の全ての無許可の軍事活動に反対しているわけではない。しかしながら、中国は、航行の自由の権利の乱用、あるいは軍事力行使の脅威と見られるアメリカの活動に対しては、その言動によって反対していることは確かである。要するに、中国は、これらの活動が国連海洋法条約(UNCLOS)の下でのEEZ内の海洋資源に対する権利と海洋環境保護義務に、そしてUNCLOSの海洋の平和的な目的と利用規定に違反していると見なしているのである。特に、中国は、アメリカは沿岸国としての中国の権利と義務に対して「妥当な配慮」を払う義務を遵守していないと主張している。他国のEEZ内におけるこうした妥当な配慮は、UNCLOSが当該沿岸国と利用国双方に求めているものであるが、その言葉自体は明確に定義されてはいない。他国のEEZ内における許容されるISR活動の範囲に関して米中間に見解の相違があることを考えれば、中国の情報収集艦の活動は恐らくUNCLOS違反とはならないし、アメリカはより大規模にISR活動を行っているといえるかもしれない。アメリカは、米中両国ともに同じことをしているという曖昧な主張を再考し、修正することになるかもしれない。

記事参照:The US-China Maritime Surveillance Debate

【関連記事1

「海洋における中国のダブル・スタンダード―米専門家論評」(The Diplomat.com, August 16, 2017

 アジア太平洋問題の専門家で、ベトナム系米人で米海軍退役少佐Tuan N. Phamは、816日付のWeb誌、The Diplomatに、"Chinese Double Standards in the Maritime Domain"と題する論説を寄稿し、要旨以下のように述べている。

1)中国は7月、海軍の情報収集艦(AGI2隻を米アラスカ州沖とオーストラリアのクイーンズランド沖に派遣した。アラスカ州沖への派遣はアメリカ初の終末高高度防衛ミサイルシステム(THAAD)による中距離弾道ミサイル迎撃実験を監視するためと推測され、他方、クイーンズランド沖への派遣は米豪海軍合同演習Talisman Sabre 2017を監視するためと見られる。2隻のAGIは、明らかに数日間、米豪両国のEEZ内において行動していた。こうした行動は、前例がないわけではなく、また国際法を侵犯しているわけでもないが、この地域やアメリカに、そして世界に、中国が国連海洋法条約(UNCLOS)から「解釈される」海洋権限を最大限に利用しようとする台頭する大国であり、海洋大国であることを印象づけるものであった。また、それは、北京がUNCLOSの中で自国にとって都合の良い部分を選び、都合の悪い、あるいは国益と一致しないと思われる部分を無視するという、北京の「ダブル・スタンダード」を示している。

2EEZ内における軍事活動の許容度に関する中国の主張は、UNCLOSの下で沿岸国が自国のEEZ内における経済活動を規制する権利を有するが、外国の軍事活動を規制する権利を有しないとする、アメリカの立場に対抗するものである。北京は、公海と他国のEEZにおける軍事的活動―情報収集、監視及び偵察(ISR)活動、海洋調査活動そして軍事演習など―は、UNCLOSの法的理念と、公海は平和目的に限って利用されるべきとのUNCLOSの規制から、違法であると主張する。UNCLOSは公海について言及しているだけだが、中国の法学者や外交官は、EEZ内においても軍事的活動は違法だと主張する。中国の論理は、もしUNCLOSが加盟国に公海の利用を平和目的のみと規制しているのであれば、EEZ(沿岸国が管轄権を有する特別な海域)内における外国の活動もまた平和的でなければならず、従って、本質的に平和的ではない軍事活動は禁止される、というものである。これに対して、アメリカの法学者や外交官は、公海と他国のEEZ内における軍事活動は国際慣習法の下で、そしてその後UNCLOS58条(EEZにおける他の国の権利及び義務)に反映された規定の下でも認められた合法的活動である、と反論している。要するに、中国は、EEZ内とその他の海洋権限を主張している海域におけるISR飛行や海洋調査活動そして軍事演習は、領域主権に対する受け容れ難い侵犯であり、国際法の下で違法であり、そして国家安全保障上の脅威であると見なして、こうした軍事活動に反対しているのである。

3)中国南海研究院非常勤上席研究員Mark J. Valenciaは、前掲の論説で、ISR能力における米中格差や、活動方法や目的の違いなどを挙げて、中国の立場を擁護している。しかし、Valenciaは、強化されつつある中国のISR能力と規模を過小評価し、アジア太平洋、インド洋そして将来的にはそれ以遠にISR活動の範囲を拡大し、活動の頻度も増していることを見逃している。ISR技術と運用面での米中間のギャップは急速に縮まりつつあり、中国海軍の外洋での行動や展開も拡大されてきている。要するに、Valenciaは、中国の能力は未だアメリカに比肩するところまでに達していないことを理由に、見逃されるべきとの言い触らされた主張を遠回しに訴えている。北京は、経済問題や気候変動問題についても、同じような論理を展開している。しかしながら、中国海軍が遠海域や他国の沿岸域周辺における活動を継続していくにつれ、北京はいずれ、政策と作戦行動の間の矛盾を処理する―即ち、現行の政策を現実的に修正するか、あるいはEEZ内における軍事活動を規制する正当化できない権限を振り回し続けるか―以外に選択の余地がないかもしれない。前者の政策修正の可能性はありそうだが、後者の選択肢は、自らの海洋主権主張の法的正当性、国際的信用そして世界での地位という点で、より大きなリスクを孕んでいる。今や、中国は、自国のEEZ内におけるISR飛行や海洋調査活動、そして軍事演習そのものには、必ずしも反対していないようであり、むしろ、EEZ内におけるこれら活動の範囲、規模そして頻度に反対している。中国はまた、このような活動を国際法の下で本質的には違法とはもはや見なしていないようであるが、これらの活動が地域を不安定化させ、中国の平和と安全を脅かしていると見なしており、従って中止させなければならないと考えている。

4)北京の将来動向を示唆するものは、中国が海洋領域を防衛し、国際水域における中国の活動を正当化する能力を阻害していると見なす、国内法制のギャップを埋めるための国内海洋法の整備である。北京は2017年初め、発展する海洋戦略を支えるために、国内海洋法を改正(あるいは新たに制定)する意向を発表した。こうした整備中の国内海洋法制は、海洋領域における北京の戦略的意図を公に表現したもの、空域、宇宙そしてサイバースペースなどのその他の係争空間のための法制の前触れ、そして歴史的誤りと認識されるものを是正する試みでもある。中国は、UNCLOSが制定された時期には、国家として非力で、その制定過程でほとんど発言できなかったため、西側支配の国際海洋法システムの下で不利益を被っている、と感じている。

5)結局、北京は依然として、国益を維持し、その戦略的メッセージを補足するために、UNCLOSの条文の幾つかを都合良く無視している。これは、見過ごされてはならない。もし北京が世界で主要な大国として尊敬されたいと望むなら、北京は、法の支配を遵守し、支持しなければならない。中国は、一連の独自の規則に基づいて行動したり、国際場裏で中国例外主義を誇示したりすることはできない。北京は、国際法の下での中国のコミットメントが誠実で信用できること、そして成長する経済が依拠する海洋通商の分野において特にそうであると、国際社会に確信させる必要がある。同時に、国際社会も、台頭する中国が法の支配を尊重する、責任ある世界のリーダーであることを必要としている。

 記事参照:Chinese Double Standards in the Maritime Domain

【関連記事2

「中国はダブル・スタンダードか―バレンシア反論」(The diplomat.com, August 22, 2017

 中国南海研究院非常勤上席研究員Mark J. Valenciaは、822日付のWeb誌、The Diplomatに、"Intelligence Gathering in the Maritime Domain: Is China Using Double Standards?" と題する論説を寄稿し、前出のTuan N. Phamの論説に反論し、要旨以下のように述べている。

1)筆者(Valencia)は論説執筆に当たって、中国人とも、その他の誰とも相談したり、議論したりしておらず、論説は全て筆者の考えである。従って、筆者の主張は、Pham少佐が指摘するように中国の主張を代弁するものではない。

2Pham少佐は、「結局、北京は依然として、国益を維持し、その戦略的メッセージを補足するために、UNCLOSの条文の幾つかを都合良く無視している。これは、見過ごされてはならない。もし北京が世界で主要な大国として尊敬されたいと望むなら、北京は、法の支配を遵守し、支持しなければならない。中国は、一連の独自の規則に基づいて行動したり、国際場裏で中国例外主義を誇示したりすることはできない。北京は、国際法の下での中国のコミットメントが誠実で信用できること、そして成長する経済が依拠する海洋通商の分野において特にそうであると、国際社会に確信させる必要がある。同時に、国際社会も、台頭する中国が法の支配を尊重する、責任ある世界のリーダーであることを必要としている。」(前掲論文(5))と述べている。長々と引用したのは、「中国/北京」を容易に「アメリカ」に置き換えできるような印象を与えるからである。実際、Pham少佐は、アメリカが情報収集、監視及び偵察(ISR)活動に当たって、未加盟の国連海洋法条約(UNCLOS)を一方的に解釈し、自国の利益となるような条文を都合良く適用していることを無視している。

3)改めて指摘しておくが、中国は、マレーシア、タイ及びベトナムとは異なり、中国のEEZ内における外国のあらゆる軍事活動を禁止したり、反対したりしているわけではない。また、アメリカのISR活動が「中国の領域主権を侵犯している」と言っているわけでもない。中国が反対しているのは、EP-3 電子偵察機やP8哨戒機のようなISR機や、音響測定艦BowditchImpeccable、イージス駆逐艦 CowpensなどのISR任務を遂行する米海軍艦艇の活動である。筆者の論説で指摘したように、これらの活動は、中国を含む全ての国によって普通に実施され、多くの国によって黙認されているような、パッシブな情報収集活動とはいえず、脅威と見なされかねない、侵略的で、挑発的で物議を醸す活動である。要するに、筆者が指摘したように、中国は、これらの活動がUNCLOSの下でのEEZ内の海洋資源に対する権利と海洋環境保護義務に、そして海洋の平和的な目的と利用規定に違反していると見なしているのである。特に、中国は、アメリカは沿岸国としての中国の権利と義務に対して「妥当な配慮」を払う義務を遵守していないと主張しているのである。

4Pham少佐と筆者の違いを解決する鍵は、米中両国がそれぞれ相手国のEEZ内において何をしているかに関する知識である。筆者は、米中間の活動には、その規模、技術的能力、方法そして目的について大きな開きがあると主張した。皮肉なことに、「規模が違う」という論理は、これまで中国による南シナ海の海洋自然地形の占拠やその「軍事化」を批難する際に用いられてきた。これらの批難者は、中国が他の領有権主張国と違ったことを何もしていないことを不承不承ながらも認めているにもかかわらず、それでも中国の行動が極めて大規模であり、「侵略的」であるから受け入れられないと糾弾してきたのである。そして再び、皮肉なことに、アメリカは、中国の軍近代化に関して透明性の欠如をしばしば批判してきた。しかしながら、ことISR活動に関する限り、中国のEEZ内におけるその活動の規模、能力、方法そして目的について透明性がないのはアメリカの方である。もしPham少佐がISR活動に関して米中両国とも同じことをしていると主張するのであれば、Pham少佐は、アメリカが中国のEEZ内で何をしているのかについて全てを正確に記述しなければならない。そうすることで、公平な分析者は、アメリカがUNCLOSに違反しているかどうかを判断できよう。そうすることが不可能であれば、Pham少佐を含め、我々は、米中両国がそれぞれの相手国のEEZ内におけるISR活動の合法性については、憶測するしかない。

記事参照:Intelligence Gathering in the Maritime Domain: Is China Using Double Standards?

http://thediplomat.com/2017/08/intelligence-gathering-in-the-maritime-domain-is-china-using-double-standards/

87日「2020年の中印海戦、どちらが勝者に―米海大教授論評」(Foreign Policy.com, August 7, 2017

 米海軍大学教授James Holmesは、87日付のForeign Policy(電子版)に、"Who Will Win the Great China-India Naval War of 2020?" と題する長文の論説を寄稿し、2020年にインドと中国の間で海戦が行われた場合、数的に勝る中国海軍がインド海軍を圧倒できることにはならないとして、要旨以下のように述べている。

1)中国とインドは、ヒマラヤ山脈の中印国境沿いの高地である係争領域、ドクラムで対峙しているが、将来の戦争は高地ではなく、公海で生起するかもしれない。歴史は、陸や空における敵意は海にも拡がりやすいことを示している。しかも、海での紛争は、陸上での出来事と無関係に起こる可能性がある。中印両国はいずれも、自国沿岸に拡がる海洋に対して「我らの海」という意識を持っている。中国は、南シナ海に対して、北京がルールを決め、他国がそれを遵守すべき、「疑問の余地がない」主権地帯と見なしている。同様に、インドは、「モンロー・ドクトリン」を外交政策と戦略の手本とし、インド洋を「インドの海」と見なしている。インドも中国も、こうした「我らの海」という意識から、これら海域に対する外部から参入に抵抗し、反発しようとする。インドは、中国の「一帯一路構想」(BRI)や、インド海軍の伝統的な活動海域における「真珠数珠つなぎ」(a "string of pearls")戦略にも不審の念を抱いている。要するに、ニューデリーと北京の間には既に幾つもの紛争の火種がある中で、海洋紛争の火種が次第に大きくなってきているのである。

2)では、中印両国の海戦では、いずれが勝者となるか。両国の海軍は、空母の運用や艦載機についてはほぼ同水準である。空母の隻数は今後数年間変わらないと見られるが、空母艦載機は海軍の打撃力の全てではない。量的比較では、インド海軍は、全体的に大幅な劣勢にある。例えば、2020年には、中国海軍は73隻の攻撃型潜水艦を保有すると見られるが、インド海軍は17隻であり、ニューデリーにとって41の劣勢となろう。2020年までに、中国海軍は、30隻のミサイル駆逐艦(DDG)を保有するであろう。DDGは、空母の護衛戦力として、また水上戦闘艦隊の中核となる戦闘艦である。インド海軍のDDG保有隻数は2020年までにわずか8隻程度であろう。更に、中国海軍は2020年までに、フリゲートとコルベットを総計92隻保有すると見られるが、インド海軍は32隻保有するであろう。

3)しかしながら、隻数が海戦の全てを左右することはめったにない。隻数における優位を弱める幾つかの要素を検討してみよう。第1に、人的要素である。隻数で劣る海軍は、優れた操艦技術、巧妙な戦術などによって、戦史にもしばしば例があるように、量的に優位な敵対相手との戦闘に勝利し得る。その勝利は壊滅を免れることでもあり、敵対相手の目的を阻止することでもある。では、インド海軍の船乗りたちは、人的な強みを発揮できるか。それを判断する歴史はないに等しい。現代インドも、現代中国も、大規模な海戦を戦った経験も持たない。両国が侮り難い外洋海軍を保有したのは、21世紀になってからである。中国海軍とインド海軍が主としてインド洋で、そして時折南シナ海で抗争し始めたのは、つい最近のことである。船乗りは、海に出て演習を繰り返すことで、初めてシーマンシップと戦術を学ぶことができる。インド海軍は、インド洋で定期的にプレゼンスを維持してきた。中国海軍は、近年までその艦艇の多くが港に留まりがちで、海洋に出るのは断続的であった。この傾向は最近では次第に減少している。中国は、この10年近くアデン湾沖に艦隊を派遣し続けてきた。中国海軍の艦艇は、地中海、黒海、そして最近ではバルト海のような遠隔海域にまでその航跡を伸ばしている。中国は、こうした行動を通じて、東・南シナ海や西太平洋を超えて、中国の戦略家が「遠海」と呼ぶ海域にまで、海軍力のプレゼンスを維持する能力を誇示してきた。中国海軍も、インド海軍も、戦闘態勢を整備してきているように思われる。

4)一方で、地理空間戦略は間違いなくインドの味方である。中印両国の海軍が南シナ海や東アジアの何処かの海域で衝突するということは極めて想定し難い。インド海軍は、インド洋において対処すべき出来事が多く、しかもそれらに対処するための必要最小限のアセットしか保有しておらず、域外活動のための余力をほとんど持たない。従って、想定されるどのような海戦も、インド軍が「内線」を享受し、中国の遠征軍が「外線」を強いられる、インドの本拠地である海域において展開するであろう。要するに、インド海軍は予想される戦域に直接的かつ比較的短いルートで到達できるのに対して、中国海軍は戦域に到達するだけでも、長く、広大な、しかも潜在的な係争海域を通って戦力を投射しなければならず、この距離の壁は敵を衰微させ、防御側に有利に働く。地理的に遠隔の海域で戦うためには、遠征軍は、戦域に到達するだけでなく、そこで戦闘するための膨大な兵站補給を余儀なくされ、しかも戦域への途上において敵対者に妨害される機会を与えることにもなる。要するに、中国がインド洋の戦域に到達するだけでも長く複雑なルートに沿って行動しなければならないのに対し、インド海軍は戦闘が想定される海域の近くに居る。遠方の強大な海軍がライバルである海軍力を圧倒することは、例えそれが弱い海軍であったとしても、その海軍の本拠地に近い海域では、簡単な芸当ではない。従って、優位はインド海軍にある。インド亜大陸はインド洋に突き出ており、ベンガル湾とアラビア海という潜在的な戦場に隣接している。この地理的位置は内線の利点を拡大する。更に、マラッカ海峡への西側の出入り口を扼するアンダマン・ニコバル諸島は、インドの主権下にある。この諸島は、ミサイル、航空機及び艦艇によって適切に要塞化されており、東から西への中国海軍の進出に対する障壁を成している。従って、地理的環境は、インド海軍にとって、中国海軍の量的優位に対する大いなる相殺効果を持ち得る。ニューデリーは、戦略的効果を確保するために、地理的特徴を活用した独自の接近阻止/領域拒否(A2 / AD)戦略を計画することができる。結局のところ、インド海軍は、中国との海戦において量的劣勢に重圧を感じることはないであろう。中国海軍の司令官は、隷下の戦闘艦隊全てを遠征軍として派遣することはできないであろう。何故なら、そうすれば、中国の玄関口において強力な日米艦隊に本拠地が危険に晒されるからである。

5)要するに、中国の指導者は、競合するコミットメントを上手く調整し、最も重要な戦域に適切に資源を配分する一方で、重要性において劣る戦域にどう対応するかである。インド洋は中国にとって重要な戦域で、エネルギーの純輸入国として中国の輸入原油の多くはペルシア湾経由である。北京は、この地域を重要な国益と見なしており、それ故に、膨大な投資を伴うBRIを推進しているのである。問題は、これら2つの戦域におけるリスクと資源の配分である。中国軍は、中国海軍がインド海軍と遠隔海域で戦闘しながら、北東アジアで衝突する可能性のある米海軍と日本の自衛隊に対して、実際に決定的な優位を持っているのか。それは疑問である。この場合、戦略的な見通しは非常に曖昧なものである。インド海軍との戦闘は、中国にとって必然的に潜在的な危機に発展する。北京はほぼ確実に、本拠地で警戒態勢を維持しながら、インド洋での戦闘のために中国海軍が割き得るあらゆる戦力を派遣するであろう。中国の指導部は、本拠地でのリスクを最小限に抑えながら慎重に資源を割り当てなければならない。従って、中国海軍全体ではなく、南アジアへと進出する中国海軍の戦力に対処することができるかどうかが、中印海戦におけるインド海軍の戦闘能力の判断基準となる。更に、海戦はもはや海軍戦力だけではないことにも留意しなければならない。中国軍は、戦域に向かう米軍やアジア諸国の軍隊を射程圏内に置く、多くの陸上配備兵器を保有している。一方で、インド軍も、沿岸域の戦術航空機やミサイル兵器の射程範囲内で戦う場合、同じように中国軍を危険に晒すことができる。インド空軍は、インドにとってもう1つのシーパワーとなる。要するに、もしインドが全てのアセットを意のままに有効に投入できれば、インド軍は、中国海軍の遠征戦力を散々な目に遭わせることが可能であろう。

6)以上のことは、中国軍の司令官や政治指導者を躊躇させる要因となろう。海洋遠征作戦は中国の伝統的な軍事戦略から逸脱するものであることに、留意しなければならない。中国が西太平洋で展開する接近阻止戦略は、毛沢東の戦法と合致している。それは、中国の領土を侵略する強い敵との戦闘で、形勢を逆転するために策定された戦略的防衛戦法である。遠洋作戦ではこの立場が逆転する。インド海軍に対処するには、戦略的攻撃を遂行し、戦闘を防御側の領域で進めなければならないのは、中国の方である。攻勢作戦は全く異なる挑戦であり、1979年の悲惨な結果に終わったベトナム侵攻以来実施したことがなく、中国軍が攻撃的軍事行動を遂行するための方法を策定しているかどうかは現在のところ不明である。

7)では、2020年の中印海軍戦争では誰が最終的に勝利するのであろうか。それは接戦(a close-run thing)になると見られる。数的優位は中国側にあるが、インドの味方には、まず地理的優位があり、航空機やミサイルから陸上配備のシーパワーがあり、そして日本やアメリカなどの暗黙のパートナー諸国が含まれる。結局のところ、中国にとって容易な戦いではあるまい。

記事参照:Who Will Win the Great China-India Naval War of 2020?

87日「南シナ海仲裁裁定:南シナ海と北極海における『歴史』の役割と法的権利への含意―米専門家論評」(Maritime Awareness Project, August 7, 2017

 在ハワイThe Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies副学長Justin D. Nakivellは、87日付の Maritime Awareness Projectに、"The Role of History and Law in the South China Sea and Arctic Ocean"と題する長文の興味深い論説を寄稿し、南シナ海仲裁裁定が南シナ海と北極海における「歴史」の役割とその法的権利にどのような意味合いを持つことになるかということについて、要旨以下のように述べている。

1)主要大国は、アジア太平洋地域に影響力を及ぼす大いなる動輪として国連海洋法条約(UNCLOS)を如何に都合良く適用するか、その理由付けに苦慮している。同時に他の多くの国も、UNCLOSの権威について異なった理解を持っており、結果的に外交政策の決定や海洋での法執行において戦略的に異なった結果をもたらしている。戦略文化の違いによって、例えば、アメリカの外交政策は、UNCLOSの中核的諸原則に確固たる基礎を置き、それによって導かれ、そしてそれによって左右されている。他方、南シナ海における中国による国際法規の無視は、中国が国際的な法的義務を有している主要分野を踏みにじるものである。こうした背景には、各国の特殊な歴史的事情があり、それは特に北極海において顕著である。中国が南シナ海を自国の「所有物」と理解しているのと同じように、ロシアとカナダは、北極海を「我が物」と考えている。中国の「歴史的権利」の主張が南シナ海仲裁裁判で否定されたように、ロシアとカナダの主張も、この仲裁裁定を判例に厳密に精査されることになるかもしれない。南シナ海仲裁裁定の結果として、「歴史」に根拠を置く如何なる海洋管轄権の主張も、条約法としてのUNCLOSに照らして評価されることになろう。「歴史」、条約法としてのUNCLOS、そして慣習国際法との変化する関係における、南シナ海仲裁裁定という新たな判例は、南シナ海紛争を、そして北極海における国際法を巡る政治における歴史問題を解明するための先例とすることになるかもしれない。

2)南シナ海仲裁裁定後の「歴史的権利」(Historical Right)と「歴史的権原」(Historical Title

a.20167月の南シナ海仲裁裁定において、「歴史的権利」と「歴史的権原」、そして海洋に対する国家の所有権の拡大解釈は、現代の海洋において主権が如何なる意味を持ち得るかを評価する物差しとなった。国際法において、「歴史的権原」は、内水域に対する主権主張(外国の黙認が必要)と同様に、「歴史的水域」(historic waters)に対する主権を有する国家の特殊な主張とされる。即ち、「歴史的権原」とは、他国によって黙認されてきた特定国家の長年にわたる正当な活動を根拠に、国家が(漁業や海底資源の開発などの)特定の行為を遂行するための、主権ではなく、特定の権利を主張するものである。南シナ海仲裁裁定は、「歴史的権原」という法的レジームがUNCLOSに包摂される条約法に適用されるかどうか、そして歴史的に曖昧な中国の主張がこの範疇の収まるかどうかを検証した。加えて、裁定は、伝統的な沿岸域を越えた海洋に対して「歴史的権原」を援用しようとする国家に対して、明確な障壁を設定した。

b.この裁定によれば、「歴史的水域」とそれに対する権利がUNCLOSに沿って、あるいはそれを補足するものとして行使できると主張する国家は、UNCLOSに明記されている規定以上のより強固な論拠を提示する必要がある。海洋法レジームにおける「歴史」の役割に関する、裁定が示した新しい解釈は、今や南シナ海紛争において、その主張する「歴史的権利」が「9段線」内で依然有効であるかの如く、中国が今後も振る舞えるかどうかという、政策レベルの問題を提起している。しかし、一定の海洋領域に特殊な歴史的関係を主張する国は中国だけではない。

c.北極海を跨ぐ主要なシーレーンに対する主権主張も、間接的に影響される。ロシアとカナダは、「歴史的権原」を根拠に北極海の広大な海域を主権海域と主張している。両国の主張は、諸外国に対する容認の要請を含め、カナダとロシアの主権に属する北極海の海域を「内水」と主張しているに等しい。しかしながら、「歴史」の威力がUNCLOSの正当性に勝るという主張は、明らかに変化してきた。北極海に対する主張が表面化し始めた1970年代から80年代においては、歴史的主張に基づく主権主張は、UNCLOSの論議において政治的に強力な議論であった。事実、海洋資源、漁業そして航行に関する「歴史的権原」の役割は、2000年代初頭に至るまで、海洋法制において中心的なものであった。しかしながら、こうした議論の枠組みは変化しつつある。こうした変化の方向は、北極海に対する「歴史」を根拠とするカナダやロシアの主権主張はUNCLOSと両立しないとする、長年にわたるアメリカとEUの立場に信頼性を与えている。この議論は伝統的に論議の的になってきたが、南シナ海仲裁裁定は、「歴史的権原」の地位とUNCLOSレジームとに関する議論の幅を狭めることになった。例えば、ロシアは将来的に、特にその主張が仲裁裁定によって法的解釈の幅が狭められたことによって影響を受ける可能性があることを考えれば、裁定によって確立された新たな法的パラメーターの枠内における自国の主張を強化するために、その戦略的対応を修正するかもしれない。そして、こうした修正プロセスは、国際海洋法を巡る政治が、大国がその海洋権限主張を外交的に正当化するために、他の問題と取引したり、リンケージさせたりするといった方向に、戦略的にシフトしていく可能性を示唆している。

d.南シナ海仲裁所は、特定の「歴史的権原」に明確に言及することなく、「歴史的権原」とUNCLOSとの関係というより広義の問題を取り上げ、UNCLOSが海洋法レジームの中核的位置づけにあることから、フィリピンの提訴に対して仲裁裁判所が管轄権を有すると主張した。中国が「9段線」を通じて「歴史的権原」(完全な主権)あるいは「歴史的権利」を主張してきたかどうかについて、裁定は、中国は「9段線」という地理的規制範囲内で航行の制限を主張したことがないことから、「9段線」内の海域を自国の内海あるいは領海の一部と見なしていないと判断した。従って、中国は、「9段線」内の海域に「歴史的権原」を主張しているわけではなく、「9段線」は「歴史的権利」を主張しているだけと見なし得る。こうした「歴史的権利」が沿岸国としての権利に取って代わり得るかどうかについては、仲裁裁判所の判断は否定的である。即ち、中国がUNCLOSに加盟した時点で、漁業、海底資源あるいは歴史的な通航権に対して持ち得る全ての「歴史的権利」は、UNCLOSの海洋管轄権に取って代わられるという判断である。一方、仲裁裁判所によって退けられなかった主張が「非排他的伝統的(歴史的)漁業権」(nonexclusive traditional (historic) fishing rights)である。この権利に関して、仲裁裁判所は、こうした漁業権は漁業を生業とする漁師に適用されるとともに、かかる権利は他国の管轄海域においても潜在的に維持し得ると結論付けた。

e.東側での法的経歴を有するものを含め、何人かの国際法学者が仲裁裁判所の判断に異議を唱えた。彼らの主張は様々だが、一部の学者は、①法律用語―特定の法律がより一般的な国際法に優先するという状況―としての「歴史的権利」は特定の法的レジームから派生するものであり、明示された規定がない条約はかかる権利に優先することができない、②「歴史的権利」は一般国際法であり、UNCLOSと共存するものである、などと主張している。では、「歴史的権原」とは何か。仲裁裁判所は、その裁定文書で「歴史的権原」については多くを語っておらず、UNCLOSは条約の幾つかの条項で「歴史的権原」に言及しているが、「歴史的権原」は「歴史的な状況」("historical circumstances")から派生する海洋主権であるとしている。

3)北極海における「歴史的権利」と「歴史的権原」の限界

a.南シナ海仲裁裁定が北極海における主張に及ぼす法的含意について見てみよう。ロシアとカナダは、数十年にわたり「歴史的権原」を根拠に北極海の一定海域に対して主権を有すると主張してきた。カナダは群島水域を、ロシアは北方航路沿いの島嶼周辺海域を、直線基線で囲む主権が及ぶ内水と見なし、両国は、外国船舶に対して「無害通航」を認めておらず、事前通報と同意を要求している。こうした「歴史的権原」主張に対して、アメリカやEUを含む多くの国は、法的に無効と見なしてきた。特に、アメリカは、カナダの直線基線に反対しており、UNCLOSに違反するとともに、歴史的利用によって正当化できないと主張している。アメリカやEU、そして中国、日本、韓国そしてインドを含む、アジア太平洋の主要海運国にとって、北極海は、UNCLOS234条の「氷に覆われた水域」における航行規制や環境保護規定を除いて、公海における航行の自由が適用される海域である。

b.南シナ海仲裁裁定は、UNCLOS以前の協定、規範あるいは権利は、以下の2つの条件―即ち、これら以前の権利が①UNCLOSの規則の適用を害しないで行使できること、②UNCLOSの審議において条約発効後も維持しようとしたもの―を満たす限り、効力を維持し続ける、としている。南シナ海でも北極海でも、「歴史」に基づく権利主張は、UNCLOSに規定する旗国の義務と通航権の行使を不可能にしている。仲裁裁定は、UNCLOSに反しない限り、「歴史的権原」を原則的に容認しているが、「歴史的権原」がどのような状況で容認されるのか、あるいは世界の何処に「歴史的権原」を合法的に主張できる事例があるのかについては、答えていない。

c.カナダとロシアにとっての今後の問題は、「歴史的権原」に関する司法判断が、歴史的主張を通じて確立されてきた沿岸国の諸権利を犠牲にして、航行の自由と強力な旗国の諸権利を支持する方向に傾いているように見られることである。

4)新たな法的判断がもたらす政策課題

a.南シナ海仲裁裁定によって「歴史」の意味が軽減されたが、裁定は、「歴史的権原」主張の有効性の決定要素として、当該国家の「解釈」に注目している。このため、裁定によって、「歴史的権利」を主張する国家は、UNCLOSに対する解釈とそれへの遡及が自らの主張を否認するものではないこと証明することを求められることになった。当該国家にとって、自らの法解釈を明確にする最も効果的で説得力のある方法は、政策と運用の両面で自らの解釈を表現することである。

b.北極海の融氷が進み、航行船舶が増え、資源開発が促進されるにつれ、ロシアは、新たな判例とグローバルな圧力に抗してその主張を維持するためには、理想的には他国の同調を得て、その主張を継続的に誇示し続ける必要があろう。中国は、国際海洋法規における「歴史」の有効性を立証する行動的かつ意欲的なパートナーとして、ロシアにとって明白な好機をもたらすことになろう。一方、中国も、歴史的に定義される水域における航行を規制する沿岸国の権利に関して、その法的立場を強固にするために信頼できるパートナーを必要としている。

c.中ロ両国の海洋法に対する調整された政策は、地理的問題ではなく、原則問題として、航行の自由に対する脅威となるであろう。従って、「歴史」に関わる論議のある国際的な法的主張は、改めて精査の対象になるかもしれない。アメリカは、自国の群島水域における通航を規制するカナダの法的主張に対して常に公式に異議を唱えてきた。EU全体も英国もアメリカに同調するであろう。アメリカもEUも、航行の自由という基本原則に対する最も強い支持者であり、歴史的水域という概念を維持することに全く関心を持っておらず、南シナ海仲裁裁定が今後、国際海洋秩序を方向付ける権利と義務を明確にする、海洋法レジームにおける規範となるであろう、と確信している。

d.もし「歴史的権原」の存在が、原則的にしろ、あるいは特定水域への適用にしろ、国際政治における係争問題になるならば、調整された政策あるいは運用を目指す同調諸国家の利益連合が形成されることになるかもしれない。アメリカ、EU、日本、韓国そしてインドは、「歴史」が法的に影響力を持ち、航行の自由の範囲が制約されることになることを考えれば、これらの利益連合に反対するであろう。この点で、南シナ海仲裁裁定は、海洋法と海洋政策に基づいて、国際関係を再編する可能性を秘めているかもしれないのである。

記事参照:The Role of History and Law in the South China Sea and Arctic Ocean

810日「米海軍、トランプ政権下で3度目の『航行の自由』作戦実施」(Reuters.com, August 10, 2017

 米海軍当局者が匿名を条件に明らかにしたところによれば、米海軍ミサイル駆逐艦、USS John S. McCain DDG-56)は810日、中国が人工島に造成した、ミスチーフ礁(美済礁)の12カイリ以内の海域を航行する、「航行の自由」(FON)作戦を実施した。今回のFON作戦は、トランプ政権下で3回目である。中国国防部によれば、中国海軍の2隻の戦闘艦が追跡し、米艦に退去を勧告した。米国防省は、年次報告書で当該年のFON作戦の実施について報告しているが、特定のFON作戦について言及していない。

記事参照:U.S. destroyer challenges China's claims in South China Sea

811日「トゥキュディデスの無視された教訓、大国間戦争の長期戦化―米専門家論評」(The Diplomat.com, August 11, 2017

 Web誌、The Diplomatの共同編集者、Franz-Stefan Gadyは、811日付のThe Diplomatに、"Thucydides' Ignored Lesson "と題する論説を寄稿し、トゥキュディデスの「戦史」(ペレポネソス戦争史)は、大国間戦争の本質に関する重要な教訓を伝えてくれると指摘し、要旨以下のように述べている。

1)トゥキュディデスのペレポネソス戦争(BC431404)史は、「トゥキュディデスの罠」として知られる戦争原因論以上に、大国間戦争の性格に関する重要な教訓を提示している。トゥキュディデスによって(後にクセノポンも)描かれたアテナイ帝国陣営とスパルタ陣営の戦争は、大国間の戦争がしばしば一度の(あるいは複数の)勝敗では決まらず、むしろ相手方に決定的な損害を強いるという両陣営の当初戦略が失敗した後、延々と続く消耗戦になるということを示している。更に、ペレポネソス戦争の歴史は、このような戦争での勝利が、しばしば勝利者と敗者の差別を曖昧にする程、双方にとって膨大なコストを強いられるものになることも教えている。

2)ペレポネソス戦争の開戦の直接的な要因は、アテナイがスパルタの同盟国であるコリントスを挑発したことである。こうした事態を受けてコリントスは、スパルタにアテナイへと宣戦布告するよう要請した。スパルタは、主要な同盟国の要望に応えなければペロポネソス同盟内の信用を失ってしまうという恐怖感から、最終的にコリントスの要請に同意した。アテナイも、宥和が侵略者を図に乗せるとの古い格言に固執した、指導者ペリクレスによって、スパルタの至極穏当な要求にさえ屈することを拒否し、開戦を議決した。かくして戦争は始まった。両陣営とも、短期戦を想定していた。しかしながら、戦争は、結果的にギリシア史における最も残忍かつ破壊的な戦争の1つとなった。ペレポネソス戦争は、春夏のみならず、1年を通して戦われた初めての戦争であった。戦争は、死負傷者を増やしつつ、勝敗が決しないまま何年も続けられた。紀元前422年のアンフィポリスの戦いの後、両陣営は、6年間続くことになる停戦に合意した。しかしながら、戦闘は再開され、最終的にペルシア帝国の援助を得たスパルタが紀元前405年にアテナイ帝国艦隊を撃滅することに成功し、その翌年に、飢え、疲弊しきったアテナイは降伏を余儀なくされた。

(3)何故、戦争は長期化し、破壊的になったのか。

a.その主な理由の1つは、両陣営が類似した装備と戦術で戦ったことにある。両陸軍の大部分は円形の盾と槍を持った重装歩兵で構成されおり、彼らはファランクスと呼ばれる密集戦闘隊形を取った。ペレポネソス戦争における戦闘は、アテナイが小規模な軍事行動を好み、スパルタが決戦を求めるという異例の形で行われたが、それでも重装歩兵同士が激突すると、戦闘そのものよりも人的損害の点から悲惨な結末が待っていた。紀元前413年のシチリア島におけるシュラクサイ側の戦勝に終わった戦闘では、アテナイ陣営は約4万人の人員を失った。

b.第2に、両陣営は戦争期間を通じて、延々と続く包囲戦を避けるために、防御側を城塞都市の外に誘い出す荒廃戦略を採用した。荒廃戦略とは、収穫期の直前に敵地に侵攻し、農地に最大限の損害を与えるものだった。荒廃戦略で重装歩兵同士の戦闘に持ち込めなければ(開戦後の10年間アテナイがそうだった)、攻撃側には都市を包囲する手もあった。しかしながら、ペレポネソス戦争時のギリシアには効果的な攻城兵器技術と人材が欠けていたため、攻撃側は大抵の場合、兵糧攻めを行わなければならなかった。兵糧攻めは数カ月、場合によっては数年間続き、都市の住民を殺すか奴隷にする結末を迎えた。

c.第3に、スパルタ陣営が強大な重装歩兵部隊を展開し、アテナイが開戦時から常時制海権を握る中、戦争が長引くにつれて、両陣営はやがて相手陣営の技術とイノベーションを自陣に吸収していった。例えば、スパルタは戦争末期頃には強大な海軍を建設し、他方、アテナイも徐々に地上戦闘でスパルタ軍を破る歩兵戦力を整備していった。こうした両陣営の戦闘能力の緩やかな強化も、戦争をさらに長引かせる要因となった。その結果、指揮官が大失敗をしない限り、個々の戦闘結果が決定的になることがほとんどなくなった。その代表例が戦争最後の大規模戦闘であり、最終的にアテナイが降伏する結果となった紀元前405年のアイゴスポタモス海戦で、戦勝の決定的要因は、スパルタの技量が勝っていたからではなく、多くの記録が示すようにスパルタの奇襲にあった。

4)ペレポネソス戦争は、自国の国益を押し通すべく軍事力の使用を検討する政策決定者に明白な教訓を伝えてくれる。

a.歴史を紐解けば、大国間戦争で早期かつ完全な勝利を収めた得た事例(例えば、ドイツ統一戦争)がある一方で、大国間戦争は血みどろの消耗戦になることが多い。特に、敵味方が類似した陸、海軍を保有し、軍事技術も同程度といった、彼我の通常戦力が伯仲する場合には消耗戦となりやすい。

b.古代ギリシアのペロポネソス同盟やデロス同盟といった同盟が存在すれば、消耗戦となる公算が大きくなり、決戦で敵にクラウゼヴィッツ式の大打撃を与えることがさらに困難となる。ペレポネソス戦争が示すように、そうした状況下での戦闘は、人的、物的損耗を加速させるだけであろう。

c.更に、同盟国と轡を並べて戦う果てしない戦争は、勝者と敗者の境界線を曖昧なものにした。第2次世界大戦後に帝国を失った英仏両国と同様に、スパルタも勝利の果実を長い間享受することはできなかった。結局、アテナイは、艦隊と防壁を再建し、ギリシア文化と政治の両面において2世紀近く大きな役割を果たし続けていくことになる。対照的にスパルタの国力は、紀元前371年にテーベから致命的な一撃を受けて以降、完全に回復することはなかった。

5)要するに、ペロポネソス戦争から得られる明白な教訓はナイーブに思えるほど単純である。即ち、21世紀において、かつてアテナイを襲った壊滅的疫病と同程度の政治的難局に耐える覚悟がない限り、同等の軍事技術にアクセスでき、同程度の軍隊を動員でき、強固な同盟体制に組み込まれた、大国同士が戦争を選択することは避けなければならないということである。大量破壊兵器の存在を考えれば、この教訓は現代においてより切実なものとなっているといえる。

記事参照:Thucydides' Ignored Lesson

817日「米中両国が堅持すべき原則、真の国益と望ましい事態の峻別―米専門家論評」(Foreign Policy.com, August 17, 2017

 米シンクタンクThe Atlantic Council's Brent Scowcroft Center on International Security 上席研究員Robert A Manningと、米国防大学Institute for National Strategic Studies上席研究員James J. Przystupは、817日付のForeign Policy電子版に、"Stop the South China Sea Charade" と題する論説を寄稿し、米中両国は今後、アジア太平洋地域において護らなければならない相互の国益と、両国が単に望ましいと思うものとを峻別することを学ぶ必要があるとして、要旨以下のように述べている。

1)アメリカでの外交政策論評では、南シナ海が米東岸沖にあるかの如く、海洋管轄権を巡る紛争に対する中国のあらゆる動向があたかもアメリカのライフラインに対する現実の脅威であるかのように分析されている。しかし、実際には、南シナ海はアメリカの核心的利益ではなく、中国はそれを承知している。確かに、毎年34,000億ドルに上る南シナ海の物流ルートの重要性は看過できないが、米中両国は妨害のない物流という経済的利益を共有しており、従って、このルートが平時において深刻な脅威に晒されることはないであろう。歴史的に見て、南シナ海におけるアメリカの国家安全保障利益は限定的なものであり、アメリカは常に航行の自由を求めてきた。航行の自由は、必要な場合、アメリカが単独で護ることができる、そして護るべき重要な利益である。従って、南シナ海における航行の自由作戦は、アメリカの決意と継続的プレゼンスを誇示するものだが、こうした戦術は究極的には中国自身の行動に及ぼす影響はわずかでしかない。

2)北京の動向を注視しているこの地域の人々は、中国がアメリカによって抑止されつつあるとの幻想を全く抱いていない。彼らは、中国とアメリカの地政学的利益の非対称性の実態を理解してきた。南シナ海における北京の利益は政治的かつ戦略的なものである。人工島の造成は、中国共産党の正当性を誇示するキーワードとなった、「屈辱の世紀」を覆す主権主張を狙いとしている。戦略的には、中国は、その防衛線を押し広げ、この地域における中国の海洋支配を強化しつつある。しかし、アメリカにとって南シナ海は、より大きくかつ複雑な米中関係の一部に過ぎない。オバマ前大統領の対中政策の優先事項は、パリの気候変動協定とイランとの核取引だった。トランプ大統領のそれは北朝鮮と貿易である。

3)中国は、トランプ政権がアジア太平洋地域に対する包括的な戦略を持っていないことを知っている。オバマ政権の「アジアへの軸足移動」政策は、実行面での欠点があったにしろ、包括的な地域戦略における外交的、軍事的及び経済的要素を概念的に統合したものであった。対照的に、トランプ政権が激しい議論を経たTPPを拒否したことは、アメリカの信頼に対する戦略的衝撃であり打撃となった。オバマ前政権による一方的な現状変更に対する警告と、ルールに基づく国際秩序に対する支持にもかかわらず、北京は、アメリカ外交を無視し、南シナ海仲裁裁判所の裁定を激しく非難し、実質的な現状変更を推し進めた。アメリカは、海上交通路が脅かされない限り、未だ加盟していない国連海洋法条約(UNCLOS)を護るだけのために、何の権利を持たない岩礁や環礁を巡って核保有国と戦争のリスクを冒すことはない、と中国は確信している。北京は、南シナ海で達成した新たな現状を確定させる上で、アメリカに数歩先んじている。中国は、ASEANと南シナ海の行動規範について交渉しながら、フィリピンに対する数十億ドルの経済援助や投資計画を発表し、またマニラとのエネルギー資源の共同開発に合意するなど、アメリカの同盟国を実質的に骨抜きにしている。同時に、北京は、マレーシアに対しても300億ドル超の借款と投資計画を発表し、更にマレーシア、タイ両国との軍事関係を強化している。ASEANと中国が新たな南シナ海の現状を肯定する、法的拘束力のない弱い行動規範に合意することになったとしたら、アメリカは、それを認める以外にほとんど選択肢を持たないであろう。

4)中国は、「トゥキュディデスの罠」に関する研究から、「彼らができることをする」という教訓を学んでいるように思われる。かつて2001年のASEAN外相会議で、当時の中国外相が「中国は大国であり、他の諸国は小国である。これは紛れもない事実である」と豪語した。もし大国が国益に適うと判断すれば、ルールは、大国によって破られたり無視されたりする。北京は、他の大国がやるように、ルールに基づく秩序に対して、類似のアプローチを示している。北京の領土回復主義は災いの元である。好むと好まざるとに関わらず、中国は、この地域で非常に大きな役割を果たすようになってきている。アメリカは、現代の最大の戦略的問題―即ち、アジア太平洋地域における北京の役割がどのようなものであれば、アメリカは共存できるかという問題に折り合いをつけていく必要がある。同様に、北京は、アメリカがこの地域から徐々に後退するという期待を捨て、重大な問題―即ち、この地域におけるアメリカの態勢がどのようなものであれば、中国は共存できるかという問題に答える必要がある。米中両国は今後、護らなければならない相互の国益と、両国が単に望ましいと思うものとを、峻別することを学ぶ必要がある。それが、21世紀の米中関係における相互利益と一時的妥協とのバランスを見出すうえでの鍵となる。

記事参照:Stop the South China Sea Charade

824日「中国の超静粛化潜水艦、米は追跡できるか―米海大教授論評」(The National Interest, August 24, 2017

 米海軍大学教授James Holmesは、米誌、The National InterestBlogに、"How China Could Trick (and Sink) the U.S. Navy With Ultraquiet Submarines" と題する論説を寄稿し、中国海軍が潜水艦推進システムで技術的ブレークスルーを達成したといわれるが、このことが米海軍にとって意味するところについて、要旨以下のように述べている。

1)中国海軍の電磁システムの専門家、馬偉明少将は最近、中央電視台テレビで、次期原子力潜水艦に推進軸のないリムドライブ・ポンプジェット(shaftless rim-driven pumpjet)を装備すると述べ、中国の技術者は「同種技術を開発中のアメリカよりもずっと先に進んでいる」と自慢した。もしこの技術が実用化されれば、中国海軍は、創設以来悩まされてきた技術的、戦術的な弱点を克服できよう。米海軍の潜水艦乗りは長い間、ソ連や中国の潜水艦は雑音が大きく、容易に探知できると揶揄してきた。中国海軍の潜水艦は冷戦後も長く後れを取ったままであったが、超静粛型の推進装置は、米海軍の音響上の優越に終わりを告げ、中国海軍の前に新たな作戦上、戦略上の展望を開くものであり、米中間の戦略的抗争を一層厳しいものにしよう。

2)リムドライブ・ポンプジェットは電気的に駆動される「推進装置」で、エンジン装置を簡単にし、静粛化する。従来の技術は駆動系列の各部を繋ぐ歯車が使用され、蒸気が高速タービンの内部機構を回転させるが、タービンの回転は、主推進軸にもプロペラにも高速すぎるため、従来の機関には「主減速歯車」が装備されており、この歯車は雑音源となっている。他方、ポンプジェットの技術は、歯車を不要とし、機関を単純化し、従って静粛化される。ポンプジェットはまた、キャビテーションを削減する。キャビテーションは雑音を発生し、敵のソナーマンが聴知するかもしれない。そして、雑音は敵の対潜部隊に警報を発し、対潜部隊が雑音の発信源を発見し、追尾し、ターゲティングするのを助ける。この新しい技術の魅力はキャビテーションを抑えることにある。リムドライブ・ポンプジェットは中国海軍にとって福音となろう。中国海軍は、この新式の推進システムが実用化されれば、何よりもまず弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)に装備するであろう。中国海軍は既に、相当数の通常型攻撃潜水艦(SS)を運用しており、これらのSSは接近阻止/領域拒否(A2/AD)任務を遂行する。SSは、静粛化した攻撃型原子力潜水艦(SSN)によって次第に代替されることになろう。一方、中国海軍初の実戦的SSBNの配備は目前に迫っている。

3)中国海軍はSSBNをどのように運用するであろうか。かつてのソ連海軍が半閉鎖性の海域をSSBNの防護された聖域としたように、中国海軍は、南シナ海をSSBNの「聖域」と見なしており、そこに展開させることになろう。中国海軍のType 094 SSBNと後継のポンプジェット装備のSSBNは、海南島の潜水艦基地を出港し、南シナ海で潜航し、地上配備のミサイルと航空機の覆域下にある中国の「近海」に侵入する敵海軍に立ち向かう。あるいは、もし中国共産党指導部が核弾頭を搭載するSSBN艦長に近海の外への進出を承認することに不安を感じなければ、ルソン海峡(台湾とフィリピンルソン島との間)は中国のSSBNの西太平洋への便利な進出路となる。ルソン海峡には、水深の深い太平洋への主要航路であるバシー海峡がある。しかも、ルソン島と台湾南部の気象は、しばしば航空機による対潜戦には不利に働く。バシー海峡を潜航移動する潜水艦は、層深直下を航行することでその所在を秘匿することができる。要するに、超静粛化したSSBNは、南シナ海、そしてその外側の西太平洋にも展開できるであろう。

4)中国海軍の指揮官達にとって、超静粛化攻撃型潜水艦も垂涎の的であることは疑いない。彼らは、新しいSSN、恐らく開発中のType 095を米太平洋艦隊に対する接近阻止防衛に投入するであろう。例えば、中国海軍はハワイあるいは米西海岸からの接近路沿いにSS1世代前のType 093 SSNによる哨戒線を構成し、優速で静粛なType 095は哨戒艦の前方で「前衛」として行動するであろう。SSNは、中国艦隊のその他の部隊と地上配備の防衛部隊に対し敵情を伝えるとともに、西に向け航行する米太平洋艦隊の脇腹に小刻みな攻撃をしかける、あるいは更なる攻撃のために米艦隊を哨戒線の方に誘い込むかもしれない。

5)静粛化の進んだSSNの出現によって、中国海軍は、かつて米ソの潜水艦同士の戦いに似た、潜水艦対潜戦を遂行するようになろう。今日まで、米海軍のLos Angeles級やVirginiaSSNと同程度の潜水艦を保有していなかったため、中国海軍は、潜水艦部隊を主として対水上艦艇攻撃戦力として運用してきた。対照的に、米海軍の潜水艦乗りは、最良の対潜兵器は潜水艦であるというであろう。もし中国の潜水艦が十分静粛に行動でき、十分に鋭敏なセンサーを装備するようになれば、潜水艦対潜戦を選択肢とするようになるかもしれないし、あるいはまた対水上艦攻撃任務を重点としつつも、対潜戦を作戦項目に追加することになるかもしれない。いずれであれ、中国海軍の潜水艦運用は極めて攻撃的なものになるであろう。中国海軍の潜水艦部隊は、敵潜水艦を探知し、上手くいけば初めて米海軍にとって容易ならざる手段で中国の接近阻止防衛を深海で展開することになろう。米潜水艦部隊は、アジア海域を気ままに行動することは最早できないであろう。実際、もし米中両国の潜水艦が隠密性において同等であれば、米中潜水艦同士の追いつ追われつされる事態が現出することになろう。これは危険な事態である。潜水艦が近距離においてしか相手を探知、追尾できないとすれば、対応の時間は最小となろう。潜水艦同士が接近することは、衝突やその他の事故、あるいは不注意による交戦の可能性さえも増大させる。両国海軍と政治指導者は、深海における至近距離での潜水艦同士の遭遇をどのように管理するか事前に考えておかなければならない。

6)リムドライブ・ポンプジェット装備のSSNの出現によって、中国海軍は初めて、南シナ海やインド洋の縦深海域における潜水艦の常続的プレゼンスを維持する能力を持つことになろう。最近、中国海軍のSSが「遠海」に進出しているが、SSは燃料補給のため定期的に何処かに寄港しなければならない。これによって、潜水艦の存在が露呈される。一方、SSNは、食料や補給品が尽きるまで、海に、そして海中に留まることができる。SSNの滞洋期間を規制するのは、機関ではなく、乗組員ということになる。インド海軍は、インドの裏庭のインド洋への中国海軍の進出に神経をとがらせており、インド洋を行動する中国のハイテクSSNの含意を十分に承知している。隠れるものと狩り立てるものとの抗争は、ついにインド洋に達することになろう。

7)新しい推進技術は中国が海上優勢を獲得する時代の先触れではないが、米海軍潜水艦は、中国海軍の潜水艦を米潜水艦に捕食される餌食としてではなく、米潜水艦を狩り立てることができる相応の敵と考えるべきである。米潜水艦部隊は、海中での同等の抗争相手と対峙するという、新しい現実に適合していかなければならないであろう。

記事参照:How China Could Trick (and Sink) the U.S. Navy With Ultraquiet Submarines

831日「中国砕氷船、初めて北西航路を航行」(The Globe and Mail, August 31, 2017

 中国の砕氷船「雪龍」はカナダの北西航路を初めて航行している。以下は、カナダ紙の報道である。

1)中国の砕氷船「雪龍」はカナダの北西航路のデーヴィス海峡(カナダ領バフィン島とグリーンランドの間)を初めて航行し、831日頃にカナダ水域のランカスター海峡に入った。「雪龍」の航行を衛星画像で追跡してきた、カナダのカルガリー大学ヒューバート教授は、「これは中国の公船による初めての北西航路の航行であり、中国の新たなプレゼンスである。中国船がカナダ領北極水域に出現するようになったことは注目すべき事態である」と述べた。

2)カナダは、北西航路を自国の内水域と見なし、外国船舶に対して北西航路入域前の事前許可を求めている。カナダ外務省によれば、今回の中国の航行に関して、調査活動を理由に許可していた。外務省幹部は、「カナダは、航行船舶が安全規則と環境保護を遵守する限り、外国船舶の北極水域の航行を歓迎する。今回の中国の場合、『雪龍』がカナダの科学者チームと合同で海洋科学調査を実施するとの申請があり、認可した」と語った。外務省によれば、「雪龍」の航行にカナダの砕氷船も同行した。

3)中国の国営メディアは、北西航路を将来の交易の「ゴールデン・ゲートウェイ」と呼んでいる。中国は、輸出の90%を海運に依存している。中国は、北極沿岸国ではないが、北極圏での役割拡大を追求してきた。前出のヒューバート教授は「『雪龍』の航海は、アジアからロシア沿岸域、スカンディナヴィア半島沖を経由して、デーヴィス海峡からカナダ水域のランカスター海峡に入る、北極圏周回の航海である。これは、単なる科学調査を超えた重要な意味を持つ」と指摘している。中国船舶にとって、北極航路は、スエズ運河やパナマ運河を経由するより、航行距離が短いという利点がある。20177月初め、中国の習近平主席はロシアのメドベージェフ首相との間で、北方航路を「氷海のシルクロード」として共同開発することに合意している。カナダは北西航路を自国の内水域と見なしており、国際航路と主張するアメリカと対立していることから、ヒューバート教授は、北西航路経由の商業航行に対する中国の熱意はカナダの主権を侵害する危険があると警告している。

記事参照:Chinese ship making first voyage through Canada's Northwest Passage

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

1. Vietnam Builds Up Its Remote Outposts

https://amti.csis.org/vietnam-builds-remote-outposts/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, August 4, 2017

2. Assessing the ASEAN-China Framework for the Code of Conduct for the South China Sea

https://www.iseas.edu.sg/images/pdf/ISEAS_Perspective_2017_62.pdf

Perspective, Institute of Southeast Asian Studies, August 7, 2017

Ian Storey is Senior Fellow and editor of Contemporary Southeast Asia at ISEAS - Yusof Ishak Institute.

3. How much trade transits the South China Sea?

https://chinapower.csis.org/much-trade-transits-south-china-sea/?utm

China Power, CSIS, August 7, 2017

4. China's Continuing Reclamation in the Paracels

https://amti.csis.org/paracels-beijings-other-buildup/

Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, August 9, 2017

5. The Chinese Communist Party's Political War on Taiwan: The Assault on Taiwan's Diplomatic Allies

http://blog.project2049.net/2017/08/the-chinese-communist-partys-political.html

The Project 2049, August 14, 2017

Emily David is a Fellow at the Project 2049 Institute where her research focuses on the Chinese Communist Party, cross-Strait relations, and U.S.-Taiwan relations.

6. How the U.S. Navy is Responding to Climate Change

https://hbr.org/ideacast/2017/08/how-the-u-s-navy-is-responding-to-climate-change

Harvard Business Review, August 18, 2017

7. Remarks by President Trump on the Strategy in Afghanistan and South Asia

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/08/21/remarks-president-trump-strategy-afghanistan-and-south-asia

The White House, Office of the Press Secretary, August 21, 2017

8. Can Anyone Stop Trump If He Decides to Start a Nuclear War?

https://foreignpolicy.com/2017/08/24/can-anyone-stop-trump-if-he-decides-to-start-a-nuclear-war/?utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=New%20Campaign&utm_term=Flashpoints

Foreign Policy.com, August 24, 2017

Susan Hennessey is managing editor of Lawfare.

Benjamin Wittes is editor in chief of Lawfare.

9. China's Belt and Road Initiative: The Evolution of Chinese Private Security Companies

http://www.rsis.edu.sg/wp-content/uploads/2017/08/WP306.pdf

RSIS Working Paper, No. 306 dated 29 August 2017

By Alessandro Arduino is the co-director of the Security & Crisis Management program at the Shanghai Academy of Social Science (SASS-UNITO) and external affiliate at the Lau China Institute, King's College London.

10. The South China Sea: Beijing's Challenge to ASEAN and UNCLOS and the Necessity of a New Multi-tiered Approach

http://www.rsis.edu.sg/wp-content/uploads/2017/08/WP307.pdf

RSIS Working Paper, No. 307 dated 29 August 2017

By Christopher Roberts is an Associate Professor at the University of New South Wales within the Australian Defence Force Academy campus.

11. How much trade transits the South China Sea?

https://chinapower.csis.org/much-trade-transits-south-china-sea/

China Power, CSIS, 2017